メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第218回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2012. 8.10


■新聞販売店物語 その9 新聞社指令、紹介読者運動の裏側


紹介読者運動というのがある。

Y新聞社は、毎年5月後半から7月中旬にかけて、最低でも販売部数の0.5%に当たる読者を区域外の新聞販売店に紹介するよう、各専属販売店に厳命しているという。

条件は当年の6月〜11月入りで、契約期間は6ヶ月、もしくは1年のいずれか。

ケンジの勤めているタナカ販売店は公売部数約3500部やから、その0.5%ということは18部を期間内に区域外の系列販売店に紹介しなければならない。 

タナカ販売店では、所長5部、店長3部、5人の専業各2部がノルマということになっていた。

他の販売店では、集金や配達のアルバイトにまでノルマを課しているケースもあるという。

この紹介読者運動の場合、区域外に住む親兄弟、親族、友人、知人を紹介するのが一般的とされている。

ケンジの場合は毎年両親と姉に頼んでいた。

その際、実家の住所や両親、姉の名前と電話番号、購読期間(6ヶ月)を書いてFAXを本部の担当へ送る。 

本部の担当からケンジの実家を区域に持つ販売店にFAXが届き、その店の区域担当者が粗品の挨拶品を持って行って契約するという流れになる。

実家の両親や姉には「また来年頼むから、6ヶ月の契約が切れた後、そのY新聞の販売店とは個別に契約しないでくれ」と釘を刺しておく。

読者の紹介を本社にすると報酬が出る。6ヶ月契約で5000円、1年契約で1万円が紹介した者が新聞社から貰える。
 
逆に販売店は他の系列販売店から紹介が来たら、その額で買い取ることになる。

紹介のあった販売店にしても5000円払えばタダのような粗品で6ヶ月契約の読者が獲得でき、Y新聞の関係者が多いため不良読者になりにくいというメリットがある。

Y新聞社の本社は、販売店だけでなく関連会社や印刷会社、運送会社にも同様のノルマを課しているという。

ちなみに「6月から11月までの入り」というのがポイントになる。

Y新聞の販売店では1年に1度、本社への部数を報告する本定数日というのが11月の3日と決められている。

「6月から11月までの入り」を強調する裏には、その本定数日に合わせるという意味合いがある。

そのため、11月3日の本定数日がY新聞の販売店では毎年部数が一番高くなる。

逆に、6ヶ月契約の切れ始める1月から徐々に部数が減り出し、5月が最も底になる。

タナカ販売店の所長、タナカは、普段は仕事らしい仕事は殆ど何もしない。

たいていは店長に任せて自分は不倫したりゴルフしたりと遊び回ってる。

店の人間は皆知っているが、そこは大人の振る舞いに徹して何も知らんフリをする。

仕事をしない代わり、ケンジたち専業に対しては、普段あまりうるさいことは言わないからである。

その限りにおいては、性格のきつい所長の奥さんから「所長、どこに行ったか知らない?」と詰問されても、「さあ、お客さんの所へ営業に行ったのと違いますか」と、とぼける。

ところが紹介読者運動の時期だけは所長のタナカは懸命に頑張る。

達成できないと新聞社に能力なしという烙印を押されて改廃(強制廃業)の憂き目を見るかも知れんという恐怖心があるためや。

また、所長の唯一の見せ場でもある。

どこでどう工面してくるのか、毎年5部という店で一番のノルマにもかかわらず、例年、何とかクリアして事なきを得ている。

店長や専業たちに不足が出そうな場合は、その分の穴埋めもするという。

その紹介読者運動に去年から変化が起きている。
 
昨年の2011年3月11日。

東日本大震災が起きた2ヶ月後の紹介読者運動のノルマは販売部数の0.5%ではなく0.7%になったと新聞本社から通達があった。

中でも北関東の3県(群馬、栃木、茨城)は近くの東北を助けるためという理由で0.7%は最初の1ヶ月間だけで、翌月はさらに0.3%アップされ、1%になったという。

紹介読者の紹介料自体は変わらないが、6ヶ月、1年契約のいずれからも500円が差し引かれ、その分は「東北に寄付する」ということやった。

加えて、お客からも集金の際、義援金を募るようにと指示された。

寄付者は新聞紙面の「東北大震災義援金寄付者」欄に名前を掲載するとして。

それ自体は悪いとは思わない。

しかし、その紹介読者を増やすことが何で東北を助けることになるのか、ケンジには、もう一つ、良う分からんかった。

東北の被災者のためにするというのなら、読者から義援金を募るだけでええはずや。

紹介読者を増やす目的は、本社の部数増と同時に新聞販売店の部数増にもなるというのが、新聞本社の説明や。

ということは東北の販売店を助けるという意味がなかったらあかんが、そうではないというのはすぐに分かる。

実際には被災地の店舗が津波で流され、多くの販売店関係者は避難所生活を強いられ休業を余儀なくされとるし、何より被災地の営業エリア内の家屋の多くが同じく津波で流されとるわけやから、その地域の紹介読者を増やす術がない。

また仮に増やせたとしても販売店自体が存在しなくなった地域では、どうしようもない。

被災地の販売店関係者にとっては、そんな紹介読者運動など何のプラスにもならんのやないかとケンジは考える。

新聞販売店には宅配制度というのがあり、受け持った区域以外の配達や営業がができん仕組みになっとる。

家々が消滅して人がいなくなった地域では、紹介読者などできるわけがないわな。

もっとも、すぐにそれは被災販売店のためではなく、本社の部数減を補うためと見栄の部分が大半で、そう通達しているのやと知ったがな。
 
Y新聞の試算では、震災で約6万部がなくなり、997万部になったとかで、それを補うために、そうするのやと。

何があろうと1000万部の発行、つまり販売店に売っているという状況だけは維持したいということらしい。

ケンジは、この未曾有の大震災、大津波が起きても尚、「部数至上主義」の姿勢を崩そうとしない新聞社に、この時ばかりは薄ら寒いものを感じたという。

どさくさに紛れてと言えば、言い過ぎかも知れんが、そんな感じに思えた。

ケンジは、新聞社が被災した販売店関係者のために何らかの援助をしているということを耳にしていなかったから尚更やった。

義援金も読者や販売店関係者から集めるのやなく、まず新聞社自身が身を切ることからすべきやないのかと。

Yahoo!Japanを傘下に持つソフトバンクの孫社長が、今回の震災でポンと100億円寄付したという話があったが、新聞社からはそんな話は未だに聞かない。

新聞社は良くネットを批判するが、その一点だけを取っても負けとるわな。

どちらが、より社会に貢献しとるか、貢献しようとしとるかが、それに良く表れている。

一方は失った部数を何とか回復しようとし、他方は社会貢献できる好機と見るや思い切った額の寄付をして衆目を集める。

どちらも企業繁栄目的があるのは確かやが、それにしても後者の方が好感が持たれるわな。

ただ、いくら批判的な目で見ようと、新聞販売店および従業員は、どんな事情、理由であれ新聞社の通達は絶対命令に等しいから、それに異を唱えることは許されず、従うしかないがな。

そういった事情もあり、去年は店全体で35本のノルマが課せられた。

しかし、それに対してタナカ新聞販売店では41本もの紹介読者を確保した。 
所長のタナカはその約半数に当たる20本もの紹介読者を作り、「もうこれ以上は、鼻血も出ない」と言っていたが、反面どこか誇らしげでもあった。

それまでは5本の紹介読者を作るだけでも四苦八苦していたのに、何でそんな離れ業が急にできたのか不思議やったが、その疑問はすぐに解けた。

「ゲンさんに相談した」とタナカが言ったからだ。秘策を授けられたと。

タナカ新聞販売店の所長のタナカは以前から、ワシらのサイトへ良く相談のメールを出していたという。

ケンジも含めタナカ新聞販売店には他にも同じような人が複数いるらしいが、ワシらには、それは分からん。

ワシらに分かるのはメールに記されている名前とアドレスだけで、送信者がどこの新聞販売店に所属しているかということは知らない。

送信者の個人情報を尋ねるようなことはしない。

敢えて確認することがあるとすれば、送信者の大まかな地域と新聞社名くらいや。

それを聞くことで、その内容についてのデータが得られるさかいな。

ワシらに興味があるのはそれくらいで、送信者の個人情報には、あまり関心がない。

せやから、同じ販売店から複数の人がメールを送っていると言われてもワシらには分からんということや。

稀に、「このサイトのQ&Aの相談は、うち店の○○さんに違いありません。その相談内容はデタラメですので訂正、または削除してください」と言われる方がおられるが、ワシらにそれを言われても困る。

ワシらは投稿者の個人情報は他には絶対に洩らさないと決めているから、何と言われようとも第三者からの訂正や削除依頼に応じることはできん。

誰かを特定できる記述でもあるのなら別やが、ワシらは投稿者は疎か、その相談に出てくる個人の特定は避けて掲載はしていないつもりや。

すべてをハンドルネーム、またはアルファベット、偽名表示しとるし、年齢さえも必要でない限りは極力書かんようにしとる。

推測だけで、その訂正や削除依頼に応じてしまえば、結果としてその個人情報を洩らしたのと同じことになってしまうさかいな。

ハカセは、そういった要望をされる方々には、


投稿者からの依頼以外での「非公開」及び削除依頼には応じられません。

その理由を今から申しあげます。

Q&Aの相談の回答は、あくまでも相談者から頂いたメールの内容に沿ってしています。

その真偽を確かめるということは一切しません。相談された内容が正しいものとして回答します。

Q&Aの相談とは、本来そういうものです。そうでなければ、そもそもQ&Aの相談自体が成立しませんので。

ご存知のように、私は相談者の身元や個人情報についてお尋ねすることは、まずありません。

ですから、私どもは指摘されておられる方の素姓を知らなければ、そちらがどこの誰であるかも知りません。

それらは私どもにとっては、どうでもいいことで、要は内容がQ&Aの相談として回答に値するものでありさえすればいいわけです。

また、私どもは相談者の個人情報はどんなことがあっても死守する覚悟ですので、何があろうと他者に洩らすようなことはしません。

ですので、まことに申し訳ありませんが、ご要望に応じることはできません。

第三者からの要望に応じてQ&A相談内容を削除するという自体になった場合、当方は存続できなくなります。

サイト自体を閉じなければならなくなりますので。そのことを、ぜひご理解ください。


といった感じの返信をしとるという。

ただ、その販売店内で、「私はゲンさんに相談しました」とか、「何や実は俺もそうなんや」というのがお互いに分かったと双方から和気藹々としたメールが送られてくる場合もあるがな。

お互いが素姓を証し合ったのなら、それはそれで問題はない。ワシらの関知するところやない。

タナカのケースも、その一つやった。

それで、ワシがタナカに送った内容をケンジが知ったようや。

以前、投稿者の希望で非公開にした回答の中に、電話勧誘に関したものがあった。

俗に『パッケージセールス(試読セールス)のテレマ(テレフォン・マーケティング)』と言われとるもので、そのやり方についてアドバイスしたことがある。

タナカの質問は「身内以外に読者紹介を増やすのに何か良い方法はないですかね」というものやったので、その時に回答した内容が役に立つのやないかと考えて、そのやり方を話した。

その部分の抜粋や。


20数年前、ワシはある大手の建築会社で営業をしていた。

その初期の頃、アポを取りのために電話していたことがある。

建築営業の場合は、事前にターゲットを絞ってから電話するさかい、『日本全国に電話をかけています』というように軒並みするのとは違い、アポが取れる確率は高い。

住宅販売の場合は、住宅展示場に来た客のリスト、住宅見学ツアーで現地まで連れて行った客の名簿を見て電話する。

あるいは高額な家賃のマンションの住人などにアプローチする。

また、高給賃貸マンションの建築会社や賃貸業者と懇意にして、入居名簿を入手し、その中から比較的高収入と目される企業の社員を中心に電話する。

官公庁や地方自治体の公務員の名簿を利用したこともあった。

いずれも家を買いそうな、あるいは住宅ローンの通りそうな人に狙いをつけるわけや。

住宅リフォームの場合は、築10年〜20年程度の多い住宅街、団地に狙いをかけてアポ取りをするといった具合やな。

大手建築会社には、膨大な数の顧客名簿があるのが普通やから、定期的にそれらの顧客に電話していれば良かった。

いずれも住宅を買う、あるいは住宅リフォームする可能性の高い客ばかりということもあり、断られることはあってもアプローチはしやすい。

例え断られた客でも時間をおいて、電話すれば何とかなるケースが多かった。

その時に断った客でも、1年、2年後には、その気になるということが十分期待できるからな。

その点、ワシは新聞での電話勧誘には懐疑的や。

勧誘する地域を限定した場合、ターゲットを絞るのは難しい。現場に行かな分からんことも多いさかいな。

建築営業のように高収入の人を探すというやり方も通用せんしな。

何の情報もない場合は軒並み電話をするしかないと思う。

ワシらの業界用語で、そういう勧誘を「鉄砲を撃つ」という。

「ヘタな鉄砲、数撃ちゃ当たる」、「闇夜の鉄砲、撃てば誰かに当たる」てな調子で偶然の僥倖に頼るしかない。運頼みやな。

それでは当たり前やが確率は悪い。

もっとも、ワシなら同じ鉄砲を撃つのでも拡張員の寄りつきそうもない高級住宅街か、オートロックのマンション、あるいは地方の僻地の村や辺鄙な住宅街に狙いをつけて電話するがな。

そういう所は、その気になって調べれば分かるはずや。

新聞勧誘の多い地域やと、例え「試読サービスですので勧誘とは違います」と説明しても、「そんな上手いこと言って、どうせ後で勧誘員が来るんだろ」と懐疑的な客の方が圧倒的に多いやろうと思う。

なぜか。それは常に勧誘され続けとるからや。当然、その手の勧誘手口も珍しくない。

食傷気味を通り越して、嫌悪している人が多い。

そういう人は「新聞」という言葉を聞くだけで「結構です」と言うてしまいやすい。条件反射やな。

その点、拡張員の寄りつきそうもない地域なら、当然のことながら、新聞勧誘の洗礼を浴びてないから、比較的、聞く耳を持つ人の方が多いと思う。

それには、高級住宅街の場合は、客が出てくるまでに時間がかかり、数多く叩けないということがあり、オートロックのマンションは、入り込むことすら難しいということがあるからや。

地方の僻地の村や辺鄙な住宅街の場合は、行くまでに時間がかかりすぎるということがある。

それらはいずれも効率が悪いということが、勧誘員たちを敬遠させる理由にもなっている。

しかし、電話をする分には、殆どそれらの悪条件は関係がない。留守でもない限り、必ず誰かは電話口に出るさかいな。

全国紙であれば、どんな場所にでも、その地域を管轄する新聞販売店が必ずあるはずやから、そこから試読紙を配達するくらいは、造作ないやろうと思う。

『パッケージセールス(試読セールス)のテレマ(テレフォン・マーケティング)』の仕事は試読紙さえOKして貰えればええわけやからな。

新聞の勧誘は難しい人間にするより、簡単な人間を狙うのが鉄則や。試読紙の依頼も同じやと思う。

参考までに、もしワシが電話勧誘するのなら、上記の客に加えて、比較的郊外で交通の便の悪そうな住宅街も候補として選ぶ。

比較的郊外で交通の便の悪そうな住宅街に居を構えておられる人の多くは、建築の営業マンの執拗な営業に屈したがためにやむなく買ってしまったという可能性が考えられる。

そういう地域の人には、業界で言う「丸い客」が多い。

つまり、根本的な性質として勧誘に弱い人が多く住まれておられるということや。

もちろん、それらの地域を狙うたとしても、入れ食いということはないとは思う。

ただ、そういう事実を知っていれば攻め方も自ずと考えられるやろうから、他より有利に事が運べるのは間違いない。

そのトークの一例として、「新聞は読まなくても役に立つ 」と言うのがある。

勧誘する側が、「そんなバカな」と考えるようではあかん。

人にとって役に立つ事、役に立つ物というのは、人それぞれで違う。同じ物でも利用の仕方、役立てる方法はいろいろある。

「何のこっちゃ」と言われる前に、「新聞は読まないから、いらない」という人に「読まなくても新聞は役に立ちますよ。まして試読はタダですから得ですよ」と言える方法を教える。

別に難しいことやない。

旧メルマガに『第31回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■古新聞の利用法?』(注1.巻末参考ページ参照)というのがある。

ここに、新聞紙そのものの使い道を数多く示しとるので、それを見られたら、ワシの言わんとすることが分かって貰えるはずや。

新聞の無読者に、その説明をして「試読して貰ったからといって必ず新聞を取らないといけないということでもありません。一週間の試読紙程度ですと、それほど邪魔になるような分量でもありませんし、新聞紙特有の使い道がいろいろありますので得ですよ」と言えば、その気になる人もおられる。

ワシは滅多に、試読紙だけを勧めることはないが、本社から「試読紙の割合を増やせ」と言われたら、無読者にはそう言うて勧めるようにしとる。

確実に試読紙の数だけは増やせるさかいな。

但し、それが、そのまま購読につながるかどうかは何とも言えんがな。というより、やはり確率は低い。

しかし、試読紙を増やせれば、それでええのなら、その方法もアリやと思う。

新聞社では、試読紙の7%が成約になるといった試算をしとるようやから、それでええという分には、それでええと割り切ることや。

後は実際に勧誘する者に任せたらええだけやさかいな。

これは、やり方次第ではこのまま正規の勧誘にも役立つ。

最初は「試読サービスです」と言って誘い、相手の反応次第で、「6ヶ月契約をお願いします」と、持っていけばええ。

新聞勧誘に対して悪い印象のない地域なら、やってみる価値はあると思う。


と。

タナカは、このやり方を毎回、紹介読者運動の際に紹介先にしている複数の販売店のエリアで実行してみることにしたという。

タナカは普段、仕事らしいことは殆どしていないから、そのための時間は十分ある。

『毎年5月後半から7月中旬にかけて』の期間内にやればええさかいな。

単純計算で50日で1日10件電話をしても500件にはなる。成約率7%で35件という計算や。

そのとおりに行けば、それで販売店全体のノルマをクリアできる。

そう考えて、まず手始めに、いつも頼んでいる親戚縁者、友人知人たちに協力を求めた。

適当な人がいたら「新聞を一週間タダで配達するから紹介してくれ」と。

試読サービスの一週間というのは公のサービスやから、これを嫌がる販売店はまずない。必ず実行できる。

そして、新聞勧誘の少ない地域では、この勧誘トークでも結構、効果のある場合がある。

それでもダメな場合は、『6ヶ月契約で5000円、1年契約で1万円が紹介した者が新聞社から貰える』というのを利用して、その範囲内のサービスを持ちかける。

タナカにとって、そんな報酬など、あってもなくても関係がない。紹介読者運動のノルマをクリアできさえすればええわけや。

その思いが功を奏したのか、結果としてタナカは、その期間に15本もの紹介読者を確保できた。今までの分の5本と加えて20本。

予想以上の好結果ということもあり、「ゲンさんに相談したおかげ」だと吹聴したということや。

このやり方で思わぬ副産物が得られることになったとも言う。

タナカは、そのやり方で地道に「試読サービストーク」を販売店のエリア内でするようになり、本格的に勧誘を始めた。

そして、ケンジを始めとする他の専業たちも真似て、そこそこの成果を上げるようになったと。

今では誰もタナカを仕事のしない所長とは言わなくなったとのことや。

加えて、部数増の条件が厳しくなる代わりに入り月が緩くなったのは販売店にとっては歓迎できることやったという。

今までは6月〜11月までに入るものしか認められなかったのが、去年は6月から翌年、つまり今年の1月に入る読者までOKということになった。

2ヶ月間伸びただけやが、その意味合いはまったく違ってくる。

おそらくこのままそれが続けば来年の1月もOKということになる。

そうなると、毎年1月〜6月までY新聞、7月〜12月はA新聞という交代読者も、その対象になる。

7月の契約が切れた時点で、「来年の1月から入れてください」と他の店から紹介された場合、その分も紹介カードとして扱われる。

つまり、他地域の販売店同士で結託、いや仲良くさえしていれば、その情報をお互い交換し合うことで、簡単に紹介読者運動をクリアできるということになるわけや。

どの店でも交代読者というのは相当数抱えているさかいな。

ちなみに今年の締め切り日は7月18日までやったから、7月1日〜7月17日までに、その報告をすればええということになる。

所長のタナカは、それ以外の方法でも20本も作っていた。交代読者を使う方法を駆使すれば、来年からは、もっと楽にノルマをクリアできるはずや。

今年は1%の紹介読者運動クリア店ということで新聞社から、お褒めの言葉があったという。

しかし、ケンジはこの事実で、新聞社が1000万部を死守することに限界がきていると今更のように感じたと言う。

交代読者を利用してもええというこなら、販売店同士お互いの数字合わせをしてごまかすことがいくらでもできる。

新聞社は、その報告でも喜ぶ。増えていないものを増えたと錯覚して。

何も見えていない。

まあ、大震災があった時ですら、津波で流された被災者を心配するより、部数増のことしか考えていないにもかかわらず、それでも「東北を助ける」と言えるのやから、推して知るべしではあるがな。

もっとも、一企業が自らの成長戦略を練るのは悪いことでも責められることでもないのかも知れない。

しかし、新聞は一方で「社会の公器」を標榜しとるわけやから、その立場でそうするのはどうかということもある。

新聞が抱えている「押し紙」問題にしろ、勧誘問題にしろ、その根は「部数至上主義」にあるのは明白や。

販売店の強制改廃問題も同じや。

それがあるために、多くの新聞販売店の従業員たちは今以て、過酷な労働条件下に甘んじなければならないという現実がある。

その旗を降ろせば、無理な部数増に走ることもなくなり、新聞社や販売店は分相応の経営ができるはずや。

言うて悪いが、少子高齢化による人口の減少、若者から今や中高年層に拡がりつつある新聞離れ、長引く不況などの諸々の要因で、新聞は確実にその部数を失いつつある。

今後もその傾向に歯止めがかからない状態が続くものと予想される。

それを正しく受け止めて、その事態に沿った経営をする必要があるのやが、如何せん新聞社のトップたちは未だに昔の良かった時代のことしか頭にないのやろうと思う。

事ここに至っても「部数至上主義」の姿勢を貫こうとしているのは、むしろ滑稽としか言いようがない。

とはいえ、ケンジたちにはどうしようもない。

タナカと相談して一時は新聞社へ意見しようと考えたが、おそらく無駄だ。

そんなことをすれば睨まれるだけでロクなことにはならない。

それくらいなら、ワシらにメルマガでその思いを代弁して貰うた方がええ。

そう考え、ケンジは人知れず、これからも新聞社に関する内情をワシらに知らせてくれるという。

ワシらも、どこまでその期待に応えられるかは分からんが、できる限り頑張りたいと思っている。 
  



参考ページ

注1.第31回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■古新聞の利用法?


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2011.4.28
販売開始 販売価格350円
 

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