メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第231回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2012.11. 9


■有料メルマガ『白塚博士の長編小説選集』創刊について


読者の方に、有料メルマガ『白塚博士の長編小説選集』の創刊が決まったことを、ご報告させて頂く。

これは、前々回のメルマガ『第229回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ゲンさんのよろず相談あれこれ Part 7』(注1.巻末参考ページ参照)の中の「事例4 ハカセさんの書かれた小説を読んでみたいのですが」という質問の回答で、ハカセが、


私の小説に関してはメルマガやサイトでの公開はしないつもりですが、当面は書籍以外での公開を模索中ですので、具体的に決まり次第、このメルマガ誌上で報告させて頂きます。


と言うてたことや。

ハカセが昔、小説家になろうとして文章修業に励んでいたことがあるというのは、このメルマガやサイトで度々言うてきたが、実際にハカセの書いた小説を発表したことはない。

たまに読者から寄せて頂いた話を基に物語り風にアレンジすることはあっても基本的にはノンフィクション、ドキュメントやさかい、話の内容そのものを作るようなことまではしていない。

せいぜい、特定を避けるために投稿者の素姓を隠し、設定と時期をぼやかす程度の創作が限度や。

単に文体、書き方が小説に似通っているというだけでしかない。もっともハカセには、小説風の書き方しかできんから、そうなったにすぎんのやけどな。

ただ、そのおかげで人気サイトになれたとは思う。

ハカセがワシに良う言うてることに「小説は面白くなければ小説ではありません」というのがある。

そして、小説でなくても文章を書く以上は面白いと思って貰えなければ意味がないという拘りも強い。

そうでないと読んで貰えない。読んで貰えなければ何も始まらない。そのためには、いろいろな工夫を施さなければいけないと。

その方法として小説を書く上で学んだテクニックが役に立っているという。

サイトを開設した当初、ハカセが小説を書いていた事など知らせていないにもかかわらず、ある読者の方から、『阿佐田哲也や浅田次郎の小説を読んでいるような感覚』と評されたことがある。(注2.巻末参考ページ参照)

この読者の方は小説に憧憬が深く読み慣れておられるということもあって、そう言われたのやが、ハカセはその指摘に少なからず驚いたという。

ネットで文章を書くというのは、ちょっとした事でも簡単に見透かされてしまうのやなと。それを見て「実は……」と、告白したという経緯がある。ヘタに隠すよりはええやろうと。

ハカセも本音を言えば、それまでに書きためてきた小説そのものを発表したかったという。

ワシが読んで面白いとたまにメルマガやサイトで言うさかい、読者の方も釣られて「読んでみたい」と言われることもある。

それでもハカセは、頑なに「メルマガやサイトでは発表できません」と言い続けてきた。

小説はあくまでもフィクションで、メルマガやサイトの内容は真実を基本としているから、そういったところでフィクションである小説を公開すれば、メルマガやサイトの内容まで真実とは受け取って貰えない可能性が生じると。

せやから、公開するのなら、まったく違う媒体でするしかないと。

今回、決まったという媒体が、『まぐまぐの有料メルマガ』(注3.巻末参考ページ参照)というものや。

別にハカセは無料でも発表するつもりやったようやが、それではハカセの書く小説が売れるかどうかの把握ができんので、敢えて有料にしたということや。

それには、ある出版社の編集者の方から、「新聞業界の内幕が描かれていて大変面白いのですが、商業ベースに乗るかどうかが疑問なのです」と言われていたからやという。

早い話が、確実に売れると見込まれる作品でないと現在は出版することすら難しいと。

ハカセも発表する以上は書籍化したいという希望があるさかいな。

そこでハカセは、一度、有料メルマガにチャレンジして結果を見て貰おうという気になったと。

有料にすれば、本当に面白いと思う人だけが登録して読まれるやろうから結果は正直に表れると。

毎週土曜日の配信で1ヶ月の購読料が210円。第1回目は12月1日、土曜日の掲載からで、それ以降は毎週土曜日の連載ということになっている。

予約のような形になるが登録はすでに可能な状態になっているので、読んでみてやろうと思われる方は登録して頂ければと思う。

基本的には登録月の1ヶ月分だけ無料ということになっているが、創刊の場合のみ、今登録しても創刊月の12月は無料で読んで頂ける。

12月は5回の配信を予定しているので、取り敢えず登録されてみて面白くないと判断されたら、登録を解除されたらええのやないかと思う。

ワシがいくら面白いと言うても決めるのは読者やさかい、どういう結論を下されようと、それでええと考えるしな。

登録にはクレジットカードが必要で、受け取るメールアドレスは、このメルマガを見て頂いているPC、携帯、スマートホン、iPad などのものでOKとのことや。

有料にすることでハカセの意気込みが違うてくるのは確かや。金を貰う以上は一切の妥協は許されないからと。どんな批判も甘んじて受けると。

ハカセの意気込みを表したキャッチフーズが、その有料メルマガのページにある。(注3.巻末参考ページ参照)


小説は面白くなくては小説ではありません。

そのことを念頭にHP『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』という新聞販売業界随一とも言える人気サイトを運営することで得られた膨大な情報、資料を基にエンターティーメント性の高い作品を読者にご提供したいと思っています。

一風変わった推理サスペンス小説をお届けします。謎が謎を呼び、推理する楽しみをご提供するのは当然として、事件の中に事件が潜み、謎の中に謎が隠れているといった驚きに満ちています。

通常の推理小説のように事件が起きて謎解きの末、犯人捜しをするといったふうに考えておられると必ず裏切られます。


と。

物語は三人称で書かれ、いつものメルマガの関西弁ではないので、かなり違った雰囲気に感じられるものと思う。

前置きは、このくらいにして、これからその第1回目をメルマガ読者の方に先行してお届けしようと思う。

それで判断して貰うた方が早い。百聞は一見に如かず、やさかいな。


■第1回 白塚博士の長編小説選集 第1集 新聞業界編

http://www.mag2.com/m/0001581165.html より


第1話  新聞販売店残酷物語 恩讐の彼方から
   
第1章 新聞販売店、リストラ殺人未遂事件

その1 生き返った男


 1990年初秋、午後10時。
 
 夕方から降り続いている雨が、男の存在を消していた。

 奈良県北葛城郡上牧町にある、その高級住宅街はすでに深い眠りに落ちていた。暗く閑散としている。外灯らしきものは何もない。点在する家々の門灯の灯りが、僅かな範囲を照らしているだけだった。

 その辺りは普段から人通りが少ない。闇に同化している男の存在など誰も気づくはずはない。男はそう計算していた。雨がさらに、それを助けている格好になっている。

 男は、少し離れた場所から豪邸を凝視していた。黒い傘に身を隠すようにして、主の帰りを待っていた。もうそろそろである。

その豪邸の敷地は悠に300坪ほどもあり、庭の手入れも行き届いている。立派な枝振りの松が幾本も塀越しに顔を覗かせていた。古(いにしえ)の大名屋敷を彷彿とさせる純和風造りの豪邸である。高級住宅街の中にあっても一際、他を圧する存在感を示していた。

 前方にヘッドライトの光芒が見えた。

 ――帰って来たか。

その男、小田島潔(おだじま きよし)は、懐に抱いている新聞紙で包んだ柳刃包丁の柄を強く握り絞めた。

僅かな灯りで大型高級乗用車、黒塗りのベンツだとわかった。ターゲットの豪邸の手前でウインカーを点滅させた。

 ――間違いない。長岡憲一の車だ。

小田島は、その見慣れた黒塗りのベンツが邸内に入った直後、黒い傘を畳んで放り投げ雨の中を走った。

 黒塗りのベンツが車庫の前で止まっていた。自動開閉シャッターがゆっくりと上がっている。

小田島がその黒塗りのベンツに駆け寄り、運転席の窓を叩いた。長岡憲一がそれに気づいた。

「何や、小田島やないか。しつこい奴やな。ええかげんにせんかい!!」

長岡が怒鳴った。これは、どう見ても待ち伏せである。

 ――ふざけた真似をさらしやがって。

 長岡は一見してヤクザと見間違えられることが多い。黒塗りのベンツに乗り、どこに行くのでも五分刈り頭にサングラスをかけ、黒ずくめの衣装を纏ったその姿は、いかにもというふうにしか見えない。

 運動不足による肥満気味の体格でさえ、そう思わせるに十分な貫禄を備えていた。

 この長岡に限らず、昔ながらの新聞販売店経営者の中には、ヤクザな雰囲気を醸し出すことが、同業者や従業員たちに睨みを利かす上で必要不可欠だと勘違いしている者がいる。特にワンマン経営者にそういうのが多い。

 また、長岡は若い頃、柔道三段だったということもあり喧嘩には相当の自信を持っていた。喧嘩で負けたことがないと自慢していた。

 さらに大物ヤクザとも懇意にしているとも吹いていた。半分は事実である。懇意にしているという捉え方には両者の間で多少の食い違いはあるが、付き合いがあるのは確かだった。

 逆らう者などいるはずがないという思いが、長岡にはあった。長岡は日頃から人を小馬鹿にする傾向が強い。特に使用人である従業員に対して、それが言えた。服従して当たり前としか思わない。

 その使用人に、こんな形で待ち伏せされた。それが長岡の自尊心を傷つけた。

 小田島に恨まれる覚えならある。今日の昼、解雇を宣告したからだ。小田島は押しの弱い男だった。配達や集金業務なら、それでもまだ何とかなるが、勧誘営業において強引さが要求される新聞販売店の専業員としては使い物にならない。

そう長岡は判断した。外にも解雇した理由はあったが、それは誰にも言えない。小田島もその事は知らないはずだ。

 単に解雇されたことを根に持って、待ち伏せしたとしか長岡は考えていなかった。

 文句を言うためか、解雇の撤回を懇願するつもりなのかは知らないが、いずれにしても、このやり方は許せない。

「ちょっと、待っとれ!!」

長岡はそう言うと、大型ガレージの中に急いで黒塗りのベンツを押し込み、勢いよくドアを開けて降りた。

その直後、小田島が体当たりしてきた。長岡の腹部に激痛が奔(はし)った。即座に腹部を刺されたとわかった。その部分を押さえた手が血で濡れている。

「な、何で……」

 あのおとなしい小田島が、いくら怒っているとはいえ、ここまでするとは考えもしていなかった。

「圭子が死んだ……」

 小田島が、長岡の耳元で小さくそう呟いた。 

「ま、待て、落ち着け、話を聞いてくれ……」

 小田島は、その言葉に耳を貸そうとはせず、柳刃包丁を長岡の腹部から引き抜き、二度目の攻撃態勢に入った。

 ――この人でなしの外道を殺す。

 小田島は、それだけを考えた。

「や、止めてくれ、ワシが悪かった、謝る。こ、このとおりや。か、堪忍したってくれ、殺さんといてくれ!!」

 今の長岡には日頃の威勢の良さや貫禄は微塵もない。

 恐怖に恐れおののき、必死に命乞いをする、ただの太った四十男にすぎなかった。哀れを誘う要素は何もない。ただ、見苦しいだけだった。

「もう遅い……」

 小田島は二度目の攻撃を再度、腹部に加えた。柳刃包丁が長岡の腹部に深々と突き刺さって取り残された。長岡は断末魔の呻き声を発しながら、その場に崩れ落ちた。

 ――殺った。 

 人を殺めた。それに対して、小田島は何の感慨も興奮も覚えなかった。

 無表情に仰向けに倒れている長岡を見下ろしていた。妻が死んで悪党が一人死んだ。人の生き死には軽い。それだけが実感としてあった。

小田島は、そのまま雨の降りしきる夜の闇に消えた。

 翌日、小田島は奈良県吉野山の山中で首吊り死体となって発見された。自殺と断定された。それが、小田島なりのけじめだったと思われる。

しかし、長岡憲一は生きていた。

 長岡が刺された直後、妻の恵美子がガレージにやってきた。帰っているのはリビングにベンツの光芒が差し込んできていたので知っていた。

 それにもかかわらず、なかなか家の中に入って来ない。恵美子には長岡に、どうしても言っておかなければならないことがあった。

 その思いが、いつもは出迎えるような真似などしない恵美子をガレージに誘(いざな)った。

 恵美子は、ガレージの中で腹部に柳刃包丁が刺さったまま倒れている長岡を発見した。驚いて取り乱しながらも、すぐに119に電話した。長岡に死んでもらっては困る。その思いで必死だった。

 まもなくやって来た救急車で救急病院に搬送された。かなり危険な状態だったが、何とか一命は取り留めた。

警察は、首吊り死体で発見された小田島潔が犯人と断定した。経営者の長岡憲一が、小田島潔とその妻で事務員である小田島圭子に解雇を告げた。その当日の午後、前途を悲観した小田島圭子が自殺し、それを逆恨みに思った小田島潔が長岡を襲った。長岡は重傷を負ったが命に別状はないという。

 そういう筋書きの新聞記事が、「リストラ殺人未遂事件」と題されて小さく報じられていた。

「そんなアホな……」

その新聞記事を見た鏑木源信(かぶらぎ げんしん)は、誰に言うとなくそう洩らした。

 小田島潔のことなら良く知っている。新聞販売店を解雇、リストラされたくらいで人を殺めようとするような人間ではない。妻の圭子は気丈な女性である。解雇を宣告されたくらいで前途を悲観して自殺したなどとは、とても信じられない。

 一体何があったというのか。

 直接、鏑木が小田島を長岡新聞販売店に送り込んだわけではないが、団長の吉武晴雄(よしたけ はるお)に相談された時、小田島にとって良かれと考え賛同してしまったという思いがある。

 それが今となっては悔やまれてならない。

 あの記事にはリストラということになっているが、夫婦共に安く使える人材を長岡がそう簡単に解雇するとは思えない。

 今でこそリストラの意味が人員削減であるというのは広く知られているが、その当時はまだ流行の言葉にすぎなかった。

 人員削減だと、いかにも無慈悲な印象を与える。しかし、リストラという横文字を使えば幾分、和らいだ表現になるからという理由で使われ始めた。経営者の罪悪感を薄めるために。それが流行となった。

 新聞記事には、そういった流行の最先端の表現が多い。

 しかし、小田島夫妻を良く知っている鏑木には、その新聞記事にあるとおりだとは到底納得できなかった。そんな単純な問題ではないはずだ。

 あの気丈な妻の圭子が解雇を宣告されたくらいで前途を悲観して自殺するというのは考えにくい。そんな人なら、新聞拡張団での過酷な生活に耐えきれず、とっくに自殺している。あるいは裕福な実家に逃げ帰っている。

 また、あの実直で正義感の強い小田島が殺人を犯そうとするのは、よほどの事でもない限り、あり得ない。

長岡が圭子に手を出した。おそらくは強引だった。圭子は、そのことを小田島に知られ自殺した。それだったら考えられる。

 小田島と別れ離れになるくらいなら死ぬとまで言った女性だから、その事実を小田島に知られ、生きていられないと思い詰めて自殺したとしても不思議ではない。

 そして、それを知った小田島が恨みに思って犯行に及んだというのなら、鏑木の中では納得できる筋書きになる。

――果たして、そうか。

 鏑木は、そのままでは寝覚めが悪いと考え、その件について調べてみることにした。ただ、調べれば調べるほど、長岡が圭子に手を出したという線が消えていくと思わざるを得なかった。

確かに長岡という男は業界の中では飛び抜けて評判が悪い。特に従業員からのそれは最悪だった。従業員の多くは、あの犯行を行った小田島に同情的で、中には「何で生きてたんや。死んでくれていたら良かったのに」と言う者までいた。

 長岡新聞販売店の専業と呼ばれる従業員の大半が、新聞拡張団、もしくは他の新聞販売店で借金を作っていた。言えば小田島と似た境遇の者たちだった。

 給料は他の新聞販売店に比べて極端に安く、時間も長時間拘束され寝る間もないほど馬車馬のように働かされるという。それでいて借金が減らない仕組みになっていると。まるで生き地獄だと。

 ただし、従業員の妻に手を出すようなことは絶対と言って良いくらい考えられないと異口同音に口を揃える。それは長岡にモラルがあるからという話ではなく、そうしたくてもできないからだと言う。

長岡は婿養子だった。長岡憲一は先代の長岡新聞販売店の店主、長岡正造の一人娘、恵美子と結婚した。それまでの旧姓の吉川から養子となって長岡姓を名乗り長岡正造の跡を継いで、現在の地位に収まった。

長岡は、もともとは、その長岡新聞販売店の従業員だった。先代の長岡正造に見込まれ店長に抜擢され、恵美子に気に入られた。

 その事情を知る古くからの従業員の中には、「吉川のガキは、仕事はできんが、女をたらし込むのだけは一流や」と言う者もいた。

 当時から鏑木は長岡新聞販売店に出入りしていたから、その事は良く知っていた。

先代の長岡正造はヤクザの元組長だった。昔からの新聞販売店経営者の中には、そういった経歴の持ち主も、それほど珍しくはない。

 しかし、時代が進むにつれて、新聞社の考え方が徐々に変わってきた。

 特に1980年代後半から各地で暴力団排除運動が湧き起こったことで、新聞社としても、いつまでも暴力団関係者を業界に関わらせることができないと判断するようになった。

 少なくとも表向きは、一般社会と同じく暴力団追放の旗を振る必要性に迫られたわけである。

 そしてついに、業界の者が暴力団と関わることを公式に禁じるまでになった。

 新聞社と新聞販売店との間で交わされる業務委託契約書の中に、「暴力団関係者との関わり合いがあると認められた場合は、即時、本契約の解除をするものとする」という一文が書き加えられたことが、それを如実に物語っていた。

この業界で、業務委託契約の解除というのは「改廃」といって、強制的に廃業させられることを意味する。契約を解除されると新聞社からの新聞が一切送られて来なくなるために、続けようにも続けようがないわけだ。

関日新聞社は、元ヤクザの経歴を持つ長岡正造に引退を迫った。その当時の新聞販売店では、そういうケースが多かった。

 それに逆らっても無駄だと悟った長岡正造は、店長に据えていた婿養子の憲一に跡を継がすことにした。憲一なら、長岡正造の手足、傀儡(かいらい)になると考えたからだ。

 実際、表向き引退したとはいっても、その後、長期間に渡り実質的に院政を布いて店の差配をしていたのは長岡正造だった。

 長岡憲一が店主でいられるのは娘の婿養子という立場があるからで、浮気でもして嫉妬深い恵美子に知られたら、即座に叩き出され、その地位を失う。

 それだけでは済まず、ヤクザ組織に顔の利く長岡正造から、どんな仕打ちを受けることになるか、わからない。

 その恐怖があるから、発覚しやすい店の女性事務員に手を出すことなどあり得ないというのが、長岡新聞販売店の専業員たちの一致した見解だった。

 鏑木も、それにほぼ間違いないだろうと思う。長岡憲一も表向きは長岡正造を真似て強がってはいるが、芯の強さなどまるでない男だというのはわかっていた。小心な、ただの臆病者だ。そんなことのできる男ではない。

 しかし、そうなると、小田島が事件を引き起こした動機がわからなくなる。

 その3ヶ月後、退院した長岡にそれとなく当たってはみたが、「逆恨みされた」としか言わない。

それ以上、鏑木には調べる手立てがなかった。というより止めてしまった。それには、その真相をあぶり出したところで小田島夫婦が生きて戻るわけでもないという思いがあったからだ。

 どんな理由や事情があれ、小田島が長岡を襲った事実は変わらない。殺人未遂事件を起こしたのも事実である。えん罪なら調べる価値もあるが、今更小田島の動機を明かしたところで何がどうなるわけでもない。

 また、小田島が自殺して自らにけじめをつけたのは、この件には触れてくれるなというメッセージだと受け取ったということもある。

 その鏑木の判断は、後になって過ちだったと気づくのだが……。

残されていた小田島夫婦の二人の子供たちが、圭子の実家の両親に引き取られて行ったことだけが、唯一の救いと言えた。

 聞けば圭子の両親は資産家ということだから、生活の心配はないだろうし、一人娘の孫たちということで大事に育てられるはずだからだ。

 ただ、その子供らの悲しみを想像するだけで鏑木の心は痛む。運命と言うには、幼い子らにはあまりにも過酷な出来事だからだ。それでも負けずに強く生きていって欲しいと願うしかなかった。

その後、長岡新聞販売店とは縁遠くなったこともあり、事件のことはいつしか忘れてしまっていた。

 しかし、何の因果か、それから15年も経った2005年の春になって、団から、その長岡新聞販売店の専拡、つまり専属の拡張員として出向するよう命じられた。

 いくら忘れていたとはいえ、長岡新聞販売店と聞けば嫌でもその過去を思い出す。できれば鏑木も行きたくはなかったが、団の命令とあれば従うしかなかった。

 そして、鏑木は長岡新聞販売店に行ったがために否応なく、事件の裏側に潜む底なし沼とも言える世界に足を踏み入れることになるのである。



第1章 新聞販売店、リストラ殺人未遂事件 その2 出会い へ続く


これが1回分の文書量である。メルマガ読者の方には多少短いと感じられたのやないかと思うが、新聞などの連載小説の1回分に比べれば十分長い。

読み応えという点でも長すぎず、短かすぎず、ほど良い長さやないかと思う。

当然やが、ハカセはこの小説を結末まですべて書き上げている。予定では、この文書量で25回程度になるやろうということや。

一度に、その長さの小説を読み切るというのは苦痛に思われる人がおられるかも知れんが、この程度の長さのものを毎週少しずつ読むのなら続けられるのやないかと思う。

結果として、一般の書籍に換算して400ページほどの長編小説を読破することになる。

ハカセは、その1回ずつに、それぞれ山場を設けて工夫を凝らしているので面白く読んで頂けるはずやと思う。

一言で言えば「飽きさせない物語」ということになる。

メルマガの読者にだけ特別に言うが、一見するだけでは何の関わり合いもなさそうな事件が立て続けに起きる。

しかし、それらはすべてが必然的につながっていると後で分かる。

小説にありがちな「ご都合主義」というものが殆どない。すべての出来事に理由があり意味がある。

身内であるワシが言うのはあまり説得力はないかも知れんが、実に緻密に計算されていると思う。謎解きやトリックも一級品で、どんでん返しも多い。

ハカセのキャッチフレーズにあるとおり、まさしく『一風変わった推理サスペンス小説』であり、『謎が謎を呼び、推理する楽しみ』に加えて『事件の中に事件が潜み、謎の中に謎が隠れているといった驚き』に満ちている。

また業界話についてもメルマガやサイトでは言えないような事もフィクションとして上手く取り入れられている。

メルマガやサイトに情報を送って頂いた方々にも「へえー、こんな使われ方をするのか」と思って頂けるはずや。もちろん。その情報提供者に迷惑が及ぶことはないと約束する。

ある読者の方が、情報を送って頂いた後、『相当やばい話まで行ってしまいましたので、この辺で止めておきます。このお話はくれぐれも「取扱厳重注意」という事でお願いします。冗談では無く、私もゲンさんもこの業界から抹殺されるかも知れませんから』と言うておられたが、確かにメルマガやサイトで記述する分には、その危険が伴うやろうと思う。

そのため、そういった類の情報はメルマガやサイトでは一切公開していない。ワシはともかく、情報提供者の方に迷惑をかけるようなことは絶対にできんさかいな。

しかし、フィクションである小説で扱う分には、どこからも文句は出ないと確信する。作り話と言えば、それまでやさかいな。

まさか作り話にまでクレームをつける者はおらんやろうしな。

もっとも、それをフィクションと受け取るか、事実に基づいた話やと信じるかの判断は読者に任せるしかないがな。小説とは、そうしたもんや。

そういった情報も、できるだけ多く挿入したいとハカセは言うとる。

もちろん、それはストーリーの展開上、必要な事柄であるというのが絶対の条件にはなるがな。

加えて、メルマガやサイトで公開していなかった拡張の手口や勧誘方法についても触れているので、その点での情報も役に立つのやないかと思う。

さらに、今まで非公開を希望されて陽の目を見ずにきた数百にも及ぶ話もフィクションの小説という形で、今後活かしていける可能性が出てきたということも大きい。

今回の話に、それがあるかどうかというのは何とも言えんがな。

ちなみに、今回の第1回作品『第1話 新聞販売店残酷物語 恩讐の彼方から』は、ワシ以外の人間には、まだ誰にも見せてないということや。

もちろん、懇意にしている出版社の編集者も知らないという。

本当は、出版社の編集者から高評価された作品を第1回目に持ってきても良かったのやが、まだ出版企画の俎上にあるということで確実にボツと決まったわけではないので、念のために保留にしたという。

次回以降の有料メルマガの候補作として考えると。

ただ、それやから今回の作品が劣るということではない。それどころか、その作品と比べても見劣りしていないと断言できるくらいや。

ハカセは出版社以上に、一般読者の方に判断して頂きたいという気持ちが強い。金を出してまで読む価値のある小説かどうかということを。

最後に、この物語に出てくる「鏑木源信」という主人公はワシをモデルにしとるということやが、実物のワシは物語の「ゲンさん」ほど頭の切れる男でも強い人間でもないと言うとく。


参考ページ

注1.第229回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ゲンさんのよろず相談あれこれ Part 7

注2.トピックス NO.3  当HPを紹介して頂いているサイト・ブログのコメント集 その9PEGの書捨て御免!

注3.まぐまぐの有料メルマガ 白塚博士の長編小説選集(購読登録ページ)


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