メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第240回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2013. 1.11


■2013年、最新拡張員事情あれこれ


初めてサイトに訪れたと思われる方から「サイトを見たが内容が古くて参考にならない」というメールを頂いた。

ワシらとしては少なくとも週一以上の頻度でサイトの更新を繰り返しているし、このメルマガにしても週に一度、毎週金曜日の午前8時頃の発行を8年半以上に渡り続けていて、ただの一度も欠かしたことはない。

それらで常に新しい情報を掲載しているという自負があったから、いきなりこういったメールを送られてきたのは心外やったとハカセが言う。

しかし、よくよく考えてみれば、そう言われるのも無理のないことやと分かった。

サイトのトップページにある「はじめ」から「拡張員とは」、「拡張員になる者」、「拡張の仕組み」、「拡張の歴史」、「拡張員の1日」、「拡張の手口」までは開設した2004年当時のままやったからや。

一部2005年に更新しているが、1年くらいの間やから大差ない。

最初にサイトを訪れた人は、「はじめ」からそれらのページを順繰りに見る。また、そうするようなサイトの作りになっている。

すると、そのすべてが2004年当時のままであれば古い情報やと考えて当然やと思う。

しかも、初期の頃の内容はワシの回顧録のような感じになっとるさかい余計やわな。

まして、サイトを訪れる人の中には、以前、新聞販売業界に携わっていた方も少なからずおられる。

その人たちからすれば現在はかなり変わっているはずなのにという思いがあるところに、それがないと「サイトを見たが内容が古くて参考にならない」と思われても仕方ない。

心外やと怒る方が悪い。

ハカセも毎年、今年こそはと考え、サイトのリニューアルをしようしとったようやが、何せページ数が半端やないほど多いから、リニューアルをするにしても容易なく、時間もないということで、今までおざなりになっていた。

日々ページだけが、まるで悪性のウイルスのように増殖し続け、現在では1840ページ、3900ファイルにも上る膨大なデータが存在している。それぞれのページからのリンク数になると数える気もしないくらい多い。

リニューアルするにしても、そのすべてまでは、とても手が回らない状態にある。物理的に難しい。

ただ、このままではあかんのは確かなので、トップページの「はじめ」、「拡張員とは」、「拡張員になる者」、「拡張の仕組み」くらいは最新の情報を書き加えて、せめて「古くさい」と言われんようにはしたいと思う。

これから、それらの項目について最新の情報を書き加えたものを順番に話すことにする。尚、これは後日、サイトでも追加更新するつもりや。


HP『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』2013年版

はじめに 


ワシはゲンと呼ばれている。仕事は新聞勧誘。世間的な評判はあまり良くないが、日々精進を重ね、精一杯取り組んでいてそれなりに充実しとる。

新聞勧誘が素晴らしい仕事やとは言わんが、まんざら卑下したもんでもないという思いは強い。

一般の人が考えておられるよりはるかに奥の深い、やり甲斐のある仕事であると個人的には考えとるさかいな。

新聞勧誘には営業のありとあらゆる要素が凝縮している。

真っ当な営業法から、ヤクザな勧誘、不法行為まで何でもござれで、関わる勧誘員も、それに合わせていろんなタイプの人間がいとる。

他業種のように、ほぼ画一的な営業マニュアルなどは存在しない。それぞれが、それぞれのやりたいようにやっているのが実態や。

また、顧客の中にも良い人間もいれば、悪質な人間もいて、実に様々な人間模様が日々展開され、飽きることのない面白い世界がそこかしこにある。

おそらくこんな状況で仕事ができるようなことは、他の業界では望めんやろうと思う。その善し悪しは別にして。

このサイトを開設した当初は『仕事は世間から蛇蝎(だかつ)の如く忌み嫌われとる新聞拡張員や』と自嘲気味に言うてたが、それは世間の風当たりを和らげるための苦肉の策でもあった。

本気でそう思うてたわけやない。第一、本気でそんな風に考えとったら仕事なんか続けられんわな。

世間の風潮に逆らって、「一般が考えているよりも真面目な拡張員の方が圧倒的に多いんやで」と、のっけから声高に主張しても誰も聞く耳を持ってくれんやろうという思いが強かった。

そんなことを言うよりも、初めは世間一般の期待どおりのことを言うてた方が聞く耳を持って貰えると考えたわけや。

何でもそうやが、話を聞いて貰えんことには始まらんさかいな。

話を聞いて貰えないのなら、聞いて貰える状況を作るしかない。その後で言いたい事を言い、訴えたい事を訴えればええ。

これは新聞営業の基本でもある。話を聞いて貰えないと嘆いていても、どうにもならんということやな。

今回は、『新聞勧誘が素晴らしい仕事やとは言わんが、まんざら卑下したもんでもない。一般の人が考えておられるよりはるかに奥の深い、やり甲斐のある仕事でもある』と冒頭で言うたが、今やったら、そう言うても聞く耳を持つ人は多いやろうと思う。

このサイトを開設した当初は、新聞勧誘員の立場でのHPやブログなどは皆無に近かった。ネットの世界では新聞の勧誘員に対する批判的なサイトで埋め尽くされていたさかいな。

それが、このサイトを始めた影響で多少なりとも新聞勧誘に対する世間の見方が変わってきたのないかと思うとる。

早いもので、2004年7月3日に、このサイトを開設して8年7ヶ月が過ぎた。

このサイトの執筆者で管理人でもあるハカセやメインコメンテーターのワシも、ここまで続けられるとは正直思うてなかった。

特にハカセは心臓の持病持ちということもあり、いつ倒れてもおかしくはないと自分でも自覚していたから余計やと言う。

そのハカセにしても、『ゲンさんの話は面白いからインターネットで公開しようと思うんだけどかまわないかな』という程度の気持ちで、取り敢えず始めてみようかと軽く考えたのが事の発端やった。

しかし、ハカセは、このサイトの運営をいつしかライフワークとまで考えて続けるようになった。

それに伴い、最近では病状もかなり好転してきとるという。本人ですら病気であることを忘れるほどやと。

また、今やこのサイトはワシらだけのものやないということもある。

業界関係者だけに止まらず、一般読者の方々からも日々数多くの情報がサイトに寄せられてくる。おそらく業界屈指と言うてええほどの情報量が集まるサイトやと思う。

情報を欲している人、営業について勉強したい人、人生の機微に触れたい人、あるいは何か面白いネタはないかとさがしておられる人など、あらゆる人の役に立てればそれで良いと考えているので、いつでも立ち寄って頂きたいと思う。

そこには思わぬ出会いと発見があるかもしれないので。


拡張員とは


拡張員については、このサイトを開設してから現在までの間に大きく様変わりをした。

ただ基本的な部分、新聞の勧誘は販売店と、通称、新聞拡張団と呼ばれる勧誘専門会社が行うことに変わりはない。

新聞拡張団で働く営業員を拡張員と呼び、販売店を含めた新聞の勧誘をする者を総称して新聞勧誘員と言う。

拡張員は各新聞社専属の勧誘をする。A紙ならA新聞の販売店と専属拡張団だけ、Y紙ならY新聞の販売店と専属拡張団だけという具合や。

業界では2003年頃から、拡張員という呼称を「セールス・スタッフ」と呼び変えるよう新聞社から義務つけられ、現在ではそれが定着している。

もっとも、「セールス・スタッフ」と言うより、単に「セールス」とだけ呼ぶケースの方が多いようやが。

ただ、一般では未だに新聞拡張員という呼び方が通っているので、このサイトでも新聞拡張員と表記している。

一般的な感覚ではセールスというのは何も新聞拡張員だけのことやなく、営業員全体をセールスマンと呼ぶということもあり、紛らわしいからや。

専属拡張団というのは、その新聞社公認の営業組織を指して言う。多くは株式会社、有限会社という会社形態になっている。

それらの公認の団と新聞社との間には、業務委託取引契約というのが交わされ、文字通り営業業務だけを委託された業者ということになる。

新聞拡張団と新聞社は一体というイメージが一般にはあるようやが違う。体裁はあくまでも独立した企業組織ということになっている。実際にもそういう会社が多い。

ただ、最近では新聞社自体が拡張団組織の育成に力を入れていて、子会社、孫会社、あるいは協賛会社の下部組織として結成された新聞拡張団が増えてきている。

いずれにしても某かの資金援助なり、バックアップがあるから、新聞社の意向には逆らえない新聞拡張団が多いという構図は昔から同じや。

それは、新聞社と新聞販売店の関係についても同じようなことが言える。新聞販売店の場合は業務委託に配達業務も加わっている。

ちなみに、新聞拡張団と新聞販売店の経営者は新聞社の認可がなければなれない仕組みになっている。

新聞販売店は、新聞社から新聞を卸して貰ってそれを販売する権利を得るために、業務委託取引契約を結んでいる。言えばメーカーと小売店という関係やな。

新聞社と新聞販売店との関係も同じ組織、一体と一般からは思われているようやが、違うということや。新聞社にとっては単なる委託業者の一つでしかない。

新聞の勧誘は新聞販売店でもしていて、拡張員を含み、そのすべてを「新聞勧誘員」と呼ぶ。

新聞拡張員と新聞勧誘員とは同じようでも、その違いがあるわけや。もっとも、一般にはその違いは分かりにくいようやがな。

現在、新聞拡張員の数は激減している。このサイトを開設した当時は推定で2万人以上、拡張団も2千社あると言われていたが、今はそれからすると半減以下にまで落ち込んでいる。

現在、どの新聞社も大幅な部数減に陥っている。理由としては、少子高齢化による人口減、長引く不況による経済的な要因、ネットの普及による新聞離れ、新聞購読者数の最も多い高齢者層が寿命で年々百万人近く亡くなられていることなどが挙げられる。

獲得部数が減れば、当然、その営業員である拡張員も減らざるを得なくなる。

拡張員が減れば、ワシが常に言うてる「新聞は売り込まない限り売れない」ということからして、さらに新聞が売れなくなるのは避けられない。

それにつれて拡張員の減少傾向に歯止めがかからないという負のスパイラル状態に陥っているのが現状やと言える。

ただ、悪いことばかりではない。拡張員の減少に伴って、かつての新聞勧誘に対する悪評が。ここのところめっきり影を潜めてきたことがそれや。

具体的には、サイトの『新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A』(注1.巻末参考ページ参照)を見て貰えれば分かるが、サイトの開設当初は悪質な勧誘員による契約のトラブルや苦情の相談が大半を占めていた。

それが今は極端に減ってきている。これをどう見るかやが、ワシは単に拡張員の人数が減ったからとは考えていない。

もちろん、それも大きな要因の一つやとは思うが、昔ながらの不正行為、悪質な勧誘が通用しなくなったために、それをやっていた拡張員の多くが、この業界を離れていった事の方が大きいと考える。

その意味では、当初、ワシが願っていた普通の営業職に、やっと新聞勧誘もなったと言えるのかなと思う。

もっとも、今までの悪いイメージがすぐには払拭せんやろうが、悪質な新聞勧誘員が少なくなったという事実はいずれ一般にも分かって貰える日がくる。

悪質な勧誘は、今は昔になったと。

それを裏付けるもう一つの要因に、現在、多くの新聞拡張員が拡張経験者の雇い入れを自粛し、素人を採用しているという点がある。

まったくの素人を一から教育し直した方が、悪質な勧誘に毒された経験者を使うより良いということで。

そのため評判は以前より良くはなったが、部数減に歯止めをかけるまでに至らず、その素人さんたちも稼げないため辞めていく者が、以前と比べて格段に多くなっている。

悪質な勧誘員が減少した反面、定着率がおそろしく悪い業界になったわけや。それは旨みのなくなった仕事だということを意味する。

また、新聞販売店が独自に専拡と呼ばれる営業専門の人間を雇うようになったということも、拡張団の減少の一因になっている。

これは拡張団から拡張員がやって来ないための苦肉の策で仕方なくそうしたという面と、直接拡張員を雇うことで拡張経費を安く上げられるということがあるためやと思う。

尚、以前、拡張員の中には例外的に正規の団とは関係ないフリーの何でも屋がおると言うたが、今はそういう者の存在は、まったく聞かんようになった。

また、地元の顔役的な存在で婦人会の役員をやっているようなおばはんも拡張員紛いのことをすると言うてたが、その話を聞くこともなくなった。

早い話が不必要で受け入れられん者は、この業界から手を引き、去って行ったということやな。


拡張員になる者


昔はスポーツ新聞などの求人欄に応募すれば比較的簡単に拡張員になれた。しかし、今は殆ど、新聞紙面での拡張員の求人広告などは出ていない。出ても稀や。

現在、最も多いのがネット上の求人サイトや。それでも業界全体に拡張員の募集が減少傾向にあるさかい、かなりの狭き門になりつつある。

犯罪歴のある者、他団で不義理、多くは金の持ち逃げ、借金の踏み倒しをした者などは調べれば、すぐにそれと分かるシステムが出来上がっているさかい、それらが発覚すればまず雇うことはない。

ワシが拡張員を始めた20年ほど前は、誰でも雇っていたという印象が強かったがな。

行き場に困って食い詰めた者も、雇う段には住民票や保証人の提示を求められるのが普通で、また応募者も求人難のご時世ということもあり、昔に比べて多くなり倍率も高いというから、そう簡単には雇って貰えなくなったと考えてた方がええ。

これは拡張員を雇うと、「新聞セールス・インフォメーション・センター(旧、新聞セールス近代化センター)」への登録が義務づけられているためやと思う。

身元の不確かな者を雇って問題を起こすと、その拡張団はまずい立場になるということで、より慎重になっていると。

極端な例では、ある新聞社の子会社系列の新聞拡張団などは大学の新卒者を中心に募集しとるというケースまである。それも結構難しい入社試験があり、かなりの倍率になっていると聞く。

昔を知る業界関係者からすれば、まさに隔世の感があると言える。

もちろん、中には昔ながらの形態を維持している拡張団も存在している。数は少なくなったがな。

他の団で弾かれた、辞めた拡張員を雇っている新聞拡張団もあるが、それらは個人的なツテ、コネといったケースが多く、一般の求人広告には殆ど載らないという。

そういう新聞拡張団には昔ながらの悪質な拡張員が集まっている場合が多い。

もっとも、そのやり方を変えない限り、近い将来、そういう新聞拡張団は淘汰されていくと思うがな。

ちなみに拡張員には、フルコミ制と固定給プラス歩合給制がある。

フルコミ制というのは獲得した契約数に応じた報奨金が支払われる制度で、身分的にはその新聞拡張団から業務委託された「自営業者」という立場になる。

このシステムを採用している拡張団は今は少ない。

現在は、固定給プラス歩合給制が主体で、こちらは拡張団との社員契約となり、一般の会社員と待遇面では殆ど変わらない。現在は、こちらが主流になっている。


拡張の仕組み


新聞の読者獲得は、勧誘営業に支えられているという構図は昔と変わりがない。自発的に新聞社や販売店に申し込んで来る客もいないことはないが少ない。

もっとも、最近は新聞社が電子版の新聞を売り出してはいるが、その売れ行きはあまり芳しくないようや。

その証拠に新聞各社とも、電子版の部数の公表は殆どしとらんさかいな。あまりに少ないので恥ずかしくてできんのやろうと思う。

まあ、これもワシがいつも言うてる「新聞は売り込まない限り売れない」というのを裏付けるええ証しになると思う。

営業の勧誘は販売店と拡張団がする。新聞社にも営業部はあるが、新聞社の社員がそれらの新聞勧誘員と同じように個人客を営業で勧誘することはない。公式にもしないと謳っている。

新聞社の営業部の仕事は、スポンサーへのご機嫌伺いが主で、販売部は販売店や拡張団の管理が主な仕事になる。

販売店や拡張団を直接管理する者を担当と呼ぶ。新聞社の中では下っ端でも、販売店や拡張団にとっては絶対的な存在である。少なくとも表向きは敬意を払われている。

担当は本社または支社から指示された新規読者の獲得部数のノルマを新聞拡張団に伝える。それを元に、各拡張団の能力に応じてそのノルマを振り分ける。

このノルマというのは一般が想像するよりも厳しい。成績の悪い拡張団は、業務取引契約の延長を拒否され、廃団に追い込まれることも珍しくはないさかいな。

それ故、拡張団によれば、そのノルマをクリアーするために団で、あるいは拡張員個人で、新聞を買うということもある。

ある拡張団などは数百部もの新聞が団の事務所に毎日配達されて来るということや。拡張員の10部、20部程度の新聞を自腹で買っている者もいとるという。

新聞販売店の場合は、このノルマが「押し紙」という形になる。

「押し紙」とは、新聞社が販売計画にもとづいて決めた部数を専属の新聞販売店に、ほぼ強制的に買い取るよう押しつけるところから、そう呼ばれている。

これは、新聞勧誘の実態と共に長く新聞業界のタブーとされてきたものや。

もっとも、近年では週刊誌などで、その暴露記事が頻繁に出回っているということもあり、広く一般にも知られるようにはなってきたがな。
 
押し紙というのは、その存在のあるなしを含めて新聞各社、各新聞販売店毎でそれぞれ事情がまったく違う。

押し紙がまったくない場合もあれば、かなりの量を抱えとるケースも存在する。

その確かなことは、どんなに優秀な捜査機関をもってしても調べることなど不可能に近いと断言できる。報道されているものは、ほんの氷山の一角にすぎんと。
 
新聞各社には部数至上主義という考えが強い。部数を増やすことのみに邁進してきたと言うてもええ。

それ故に新聞拡張員という特殊な営業員が生まれ、新聞の部数増にも大きく貢献してきたという事実がある。
 
部数至上主義の背景には、新聞社の総収入の実に半分近くを占める新聞紙面の広告収入が、その部数に比例するからやと言われている。
 
その広告収入を多く得るためには、どんなに無理でも困難でも部数を増やす必要があるからやと。せめて増えたという既成事実だけでも作っておきたいと。

それで、考えついたのが押し紙という手法やったわけや。
 
新聞社は部数を伸ばすために販売計画を立てる。新聞社の販売計画というのは増紙を意味する。減紙とか現状維持でええという考えは新聞社にはない。
 
新聞社にとって、その増紙先は販売店しかない。

ある新聞販売店に100部の増紙を依頼したとする。これは形の上では依頼であっても実質的には、その計画を立てた時点で100部の新聞を余分に買い取るよう、その販売店に強制していることを意味する。
 
その1ヶ月間で100部の増紙、つまり営業により、その分の顧客が獲得できれば何の問題もないが、それが達成できんかった場合は、その不足分を買い取らなあかんということになる。

新聞販売店には書店のような返品制度といったものは一切ないさかいな。
 
新聞社は、販売店に新聞を卸した段階で、部数増が約束されたことになる。

しかし、新聞販売店はそうはいかん。新聞販売店はその新聞の売り先を求めて、他紙販売店との間で熾烈な販売競争を余儀なくされる。
 
それが上手くいく販売店はそれでもええが、限られた読者の取り合いに終始するしかないわけやから、必ず敗者が出る。敗者はその押し紙による新聞を抱え込むしかない。
 
しかも、それは一度だけではなく、その販売計画の度毎に際限なく続いていくのが普通や。

結果、取り扱い部数の半分近くを占めるといった、とんでもない量の押し紙を抱えてしまったと嘆く経営者もいる。
 
ただし、表向きは、その押し紙の事実はないことになっとる。新聞社は当然としても、多くの販売店も公には予備紙の存在は認めても押し紙を認めることはない。
 
公にその押し紙の存在を認める販売店は、それに耐え切れず廃業を余儀なくされて裁判を起こした、あるいはこれから起こそうと考えとる人たちくらいなものやろうと思う。

俗に「押し紙裁判」と呼ばれとるものがそうや。ちなみに押し紙裁判では、一部の例外を除いて販売店側の敗訴に終わるケースが多い。
 
新聞社は、あくまでも新聞の発注は、販売店がするもので、その要望に合わせて新聞を卸しとるだけやというのが、その言い分や。
 
その際、新聞社は過剰な注文はしないようにとの通達を出すという。毎月の請求書にその文言を印刷したものを確認させたり、その誓約書まで提出させたりする新聞社もあると。
 
裁判所の判断は、それがあるからやと考えられる。

日本の民事裁判では、ほとんどが書類審査みたいなものに終始するさかい、書類に不備がなく法的に整合性ありと認められた方が、たいていは勝つ仕組みになっとる。
 
裁判所の裁判官が、実際にその舞台となった現場の新聞販売店に出向いて良く調べれば、また違った結果になるかも知れんがな。
 
ワシら業界人にとって押し紙は常識として存在するものでも、裁判所の判断では存在せんということになるわけや。

それには、どこまでが押し紙になるのか、ならんのかが分かりにくいということもあるからやないかと思う。
 
どんな新聞販売店にも配達されない「余剰紙」というのが必ずある。

押し紙を指摘して非難する者は、その余剰紙のすべてが押し紙やと主張するが、それは間違っている。
 
まず、予備紙というのがある。新聞販売店に限らず、予備の商品を備えておくというのは、どんな業界にも普通にあることや。また、それがないと困ることも多い。
 
新聞配達時の雨風の強い日には、突風やスリップなどによりバイクが転倒して事故を起こすことがある。そうなると、風のため飛散したり、転倒した場所が水浸しになっていて濡れたりすると、多くの新聞がダメになるという事態になる。

また、配達人の不注意による不配や誤配などの未配達新聞をカバーするためにも予備紙はなくてはならんものになる。
 
いかなる事情があれ「品切れ」を理由に新聞の配達をせんわけにはいかない。そう考える販売店が圧倒的に多い。

常に万が一を考慮する販売店では、必然的に予備紙も多くなるという理屈や。
 
さらに新聞の購読契約時、「無代紙」と言うて無料サービスを中心に勧誘している販売店では、その予備紙が多くなる傾向にある。

勧誘で部数が伸びる毎に、実際に売り上げにならずとも、その新聞が必要になるからな。

景品のみの場合にしても、契約当月分の新聞無料サービスというのをしているケースも多いから、予備的な新聞はそれだけ必要になる。
 
押し紙とは別に、販売店の余剰紙が多くなる原因に「積み紙」と呼ばれるものもある。

これは、新聞社から部数を押しつけられる押し紙とは逆で、販売店自らの意志で余分な新聞を買う行為のことを言う。
 
新聞販売店は、その取り扱う部数によりランク付けされている。新聞社や地域にもよるが、一般的に一万部の公売部数があれば、大規模販売店と認められることが多い。
 
この一万部の新聞を業界では「万紙」と呼ぶ。万紙以上を扱う大型店となれば、新聞社からの扱い、態度も違うし、意見も通りやすくなる。
 
一般的に、新聞社と販売店の関係では、圧倒的に新聞社の方が強い。両者の間に交わされている業務取引委託契約書の内容は、ほぼ一方的に新聞社側にとって有利なものになっとる。
 
新聞社の意に沿わなければ、いつでも契約解除することができるとその業務取引契約書に明記されとることからも分かると思う。

契約解除というのは、業界では「改廃」と言うて、事実上の廃業を意味する。
 
多くの新聞社では常に、代わりの経営者を養成、または用意しとるのが普通や。新聞社のWEBサイト上には、たいていその募集広告が掲載されている。

そこでは、その候補者がひっきりなしに集まってくるから、よけい新聞社は強気になり、現役の新聞販売店経営者は不安のあまり言うことを聞くしかないとなる。
 
つまり、新聞社は販売店経営者に対して生殺与奪の権利を握っとることになるわけや。

ところが、大型店ともなるとその事情が違うてくる。新聞社は部数至上主義のもと、部数を多く獲得しとる販売店ほど大事にする傾向にある。

あと僅かで、それに手の届きそうな販売店の場合、多少の無理を承知で積み紙をしてでも大型店の仲間入りを果たそうと考えることも多いという。

そうすれば、新聞の卸値を含めてあらゆる条件が有利になるさかいな。

押し紙には負担ばかりがあるわけやない。それを受け入れた販売店には、それなりの補助金が出る仕組みになっとる。

それについても新聞各社、各新聞販売店毎でそれぞれ内容も事情も違うが、大規模販売店になるほど有利になるのは間違いない。
 
また、改廃逃れのために顧客を獲得したと嘘の報告をして積み紙をするケースもある。これを新聞社は販売店の「虚偽報告」として裁判の場でも、そう主張している。

つまり、押し紙と言われているものの実態は、その虚偽報告があるからやと言うわけや。

まあ、その言い分は、事情を良く知るワシらからすれば無理がありすぎると思うがな。言うのは自由やが。
 
さらに、積み紙による公売部数の水増しは各販売店にとっても、その分、折り込みチラシ依頼業者からの持ち込み部数が多く見込め、その収入が増えることにもつながるさかい、一概にマイナスばかりとも言えない。
 
それら、諸々の事情から押し紙、積み紙などの余剰紙については販売店により負担に思うケースもあれば、そうでもない場合もあるということになる。
 
この押し紙を正面切って問題視する新聞販売店は少ない。内面的なことは伺い知れんが、少なくとも表向きはそうや。

それは、日本全国の新聞販売店が約2万店舗もありながら、実際に、その押し紙が原因で訴訟にまで至ったケースは、ほんの十数件程度しかないという事実からも推し量ることができると思う。
 
裁判で訴えた側が不利なのは、それも影響しとるからやないかと考える。訴えた側が、他の販売店を証人として使い辛いし、新聞社も他の店舗から苦情が上がってないということも、その理由にしやすいさかいな。
 
この押し紙、積み紙問題には、他にも数多くの事情、問題が内包しとる。それらについてもサイト内のあちこちで語っているので、見て頂ければ分かると思う。


以上や。

取り敢えずは、これらを書き加えることで、幾分最新の情報がサイト内にはあると示せるのやないかと思う。

この他にも新に付け加えたい項目もあるので、それは追々書き増ししていくつもりやとハカセも言うとる。



参考ページ

注1.新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A


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