メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第241回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2013. 1.18


■書籍『世界の子供たちに夢を~タツノコプロ創始者 天才・吉田竜夫の軌跡~』について


「ゲンさんは漫画のことには詳しかったですよね?」と、ハカセがいきなりそう聞いてきた。

「詳しいと言えるかどうかは分からんが、子供の頃から漫画が好きで今でも読んどるのは確かやけど……」と、ワシ。

今から7年以上も前の2005年6月3日発行の旧メルマガ『第43回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■たかがマンガ、されど漫画……』(注1.巻末参考ページ参照)で漫画好きの一端を披露したことがある。

漫画について人より多少詳しくなったと言えるのは、子供の頃から好きで良く見ていたということもあるが、大人になってからも人生の大半を営業員として過ごすうちに、時間があれば喫茶店などで漫画を読み耽っていたせいもある。

本人は充電のつもりでそうしていたわけやが、他人から言わせれば、ただのサボリということになる。

ワシは人生に無駄な時間はないと信じている。例え暇つぶしに読む漫画本からでも、読み方次第ではいろいろな情報、教訓、感動が得られることも多い。

それを営業の現場で、客との雑談の中で話題として活かせれば結局、勉強していたということになるさかいな。

逆に、いくら教養の高い文学書や学術書を読んでいても、知識として詰め込むだけで何かの役に立てようとせえへんかったら、それこそ無駄やと思う。

知識は生かしてこそ値打ちがあるわけで、知っているだけでは、ただの自己満足にしかならん。

もっとも、その本人が良ければ、それはそれで問題はないのやがな。

「何で、今更、そんなことを聞くんや?」

「実は、この本を読んで貰えないかと思って」と、ハカセが一冊の本を差し出してきた。

それには『世界の子供たちに夢を~タツノコプロ創始者 天才・吉田竜夫の軌跡~著者、但馬オサム』(注2.巻末参考ページ参照)とある。

「また、本の紹介でも頼まれたのか?」

過去、このメルマガでは出版社や読者の方から依頼された書籍についての読後の感想を語ったものが結構多い。(注4.巻末参考ページ参照)

ワシらは、それらの中から、これはという本を選んで読者のためになればとの思いで、その本の内容について話しとるだけなんやが、それが結構、評判がええようで時折、メルマガで書評を頼まれることがある。

その原点として、ワシらが個人的に好きな映画や小説をメルマガで紹介した(注3.巻末参考ページ参照)ものが好評やったということがあるようや。

批評というより、それ自体一つの物語として読ませると。それらを見た人が、「是非この本をメルマガで紹介して欲しい」と言われるケースがある。

書評以外でも、単にメルマガの「書籍紹介欄」での依頼も多い。

付き合いのある出版関係者の方、古くからの読者の方からの依頼であれば、快く応じさせて貰っている。

今回も、その類かと思うて、そう聞いたわけや。

「いえ、今回はそうではなく、但馬オサム氏と年始メールを交わしている時、氏が書籍を出されるという話を聞いて、私が勝手にアマゾンで予約をして買った本です。別に頼まれたわけではありません」と、ハカセ。

但馬オサム氏というのは、『第181回 ゲンさんの新聞業界裏話 増刊 ■オークラ出版のムック・シリーズ『利権マスコミの真実』での執筆記事についてのお知らせ』(注5.巻末参考ページ参照)というのを告知したことがあるが、その雑誌に掲載する原稿を依頼されて来られた方や。

その後、何度かメールでのやり取りがあったということで、当初は、それこそ付き合い程度の気持ちで、その本を買っただけやという。

さっと通読して感想を送れば良いという風に考えて。

ところが、その本を読み勧めていくうちに、これはメルマガ読者のためになる、漫画好きのワシも必ず食いつくはずやと思うたという。

特に、漫画のオールドファンには堪えられん内容やと。若い人にとっても、漫画業界の裏話がふんだんに盛り込まれているので、「へえー、あの漫画の裏にはそういうことがあったのか」と思って貰えるのやないかと。

もちろん、新聞勧誘時の雑談ネタにも十分使える内容になっていると。

サブタイトルに『~タツノコプロ創始者 天才・吉田竜夫の軌跡~』とあるから、当初、ハカセは吉田竜夫氏個人を美化した、あるいは偉人的な評伝になっているものと思いながら読み進めたという。

しかし、内容は吉田竜夫氏個人の話はあって当然やが、それより、氏の兄弟身内を含めたタツノコプロ全体の話の方が多かったと語っている。

ハカセは、ワシに書籍を読んでくれと依頼する時、その善し悪しについては何も言わん。内容について語ることもない。

単に、この本を読んでみて欲しいと言うだけや。ハカセが何か感想を言うと、よけいな先入観を与えるおそれがあるからやと。

そのハカセが今回に限ってヤケに雄弁である。それだけ何か心打つものがあったのやろうと思う。これはハカセにしたら珍しいことやと言える。

ハカセ曰く、「正直、あまり期待していなかった分、良い意味で期待を裏切られたので、よけい衝撃的でした」と。

そのハカセとワシの偽らざる読後の感想を、これから話したいと思う。

ワシらは滅多な事で、褒め千切るようなことはせんし、おかしなところがあれば遠慮なくそう言う。重箱の隅を突くような真似も平気でする人間や。

二人とも50歳代も、あと僅かで終わるというところまで生きている上に、人生の裏街道ばかりを歩いていたということもあり、そのひねくれた根性、思考回路たるや国宝級やと自負もしとるしな。

まあ、そんなことはメルマガ読者の方々には今更な話で、先刻ご承知やとは思うがな。

話を始める前に、予備知識として念のため吉田竜夫氏とタツノコプロについて少し話しとく。良く知っておられる方は、そのままスルーしてくれたらええ。

吉田竜夫(本名、吉田龍夫。1932年3月6日 〜1977年9月5日没)は、日本の昭和中期から後期にかけての漫画家、アニメ原作者。アニメ製作会社竜の子プロダクション(タツノコプロ)の設立者で初代社長。 京都府京都市出身。

というのが、公のプロフィールにある。

氏およびタツノコプロの主な漫画作品には、「鉄腕力也」「チャンピオン太」「ハリス無段」「少年プロレス王」「宇宙エース」「スーパージャイアンツ」「パイロットエース(後の『マッハGoGoGo』)「少年忍者部隊月光」「マッハ三四郎」「紅三四郎」「いなかっぺ大将」などがあり、

アニメ作品には「宇宙エース」「マッハGoGoGo」「ハクション大魔王」「昆虫物語 みなしごハッチ」「樫の木モック」「科学忍者隊ガッチャマン」「新造人間キャシャーン」「破裏拳ポリマー」「タイムボカン(ヤッターマン、ゼンダマン、オタスケマン、ヤットデタマン、イタダキマンなど)シリーズ」「一発貫太くん」「超時空要塞マクロス」等々、挙げるとキリがないくらい有名な作品が並んでいる。

また、上記の作品群にはアニメ化されているばかりではなく、テレビで実写版化された人気作品も多い。

特に「チャンピオン太」には、当時の超人気プロレスラー、力道山がレギュラー出演していたくらいやったさかいな。ちなみに、若き日のアントニオ・イノキも悪役レスラーとして出演している。

「忍者部隊月光」なども小学生の頃、夢中になって見ていた。ヘルメットを被って背中に刀を背負い、ピストルを持っているというのは、本来あり得ないスタイルなんやけど、小学生時代の子供の頃、その姿に憧れて良う真似して遊んだことを覚えている。

ちなみに、この作品が「科学忍者隊ガッチャマン」の元になったという。

余談やが、ハリウッド映画に出てくる「忍者」になぜかそのスタイルが多い。

最近の映画でも「ウルヴァリンX・MEN ZERO」に出てくるウェイド・ウィルソンや「G.I.ジョー」のスネーク・アイズ、ストーム・シャドウなどの出で立ちが、その典型的なものやと思う。

前振りの説明が少し長くなったが、そろそろ始めさせて頂く。

まず初めに本を開くと、冒頭から15ページほどに渡り、カラー刷りの往年の原画が目に飛び込んでくる。

これでワシらのようなオールドファンは郷愁に誘われ、その時代にタイムスリップしたような気分になる。気持ちだけやなく、身体も少年の頃に戻った気がする。

それが作者の狙いとすれば見事やと思う。その原画を見たファンは後戻りできんさかいな。

ただ、若い人が、どういう印象を持つのかは分からん。もっとも、この本のターゲットが、ワシらのようなオールドファンにあるのなら、それで成功なのかも知れんがな。

もし、そうだとすると題名に、なぜ『世界の子供たちに夢を』と付けたのか、その理由と意味が良う分からんかった。もちろん、最後まで読み進めれば、なるほどと理解できるのやが。

プロローグで、著者の但馬オサム氏が『吉田竜夫を探す旅―それは宇宙船に乗るようなものだった』と書いておられるのを見て、それほど吉田竜夫氏に近い人ではないなと直感した。

少なくとも、この評伝を書かれる前までは、ワシらとそれほど大差のない知識しか持ち合わせていなかったのやないかと。手探りで始められたなと。

それは『どんな遠大な旅も最初の一歩から始まる』という記述で確信に変わった。そして、本を読み終わった後、「あとがき」を読んで、「やはり、そうやったのか」と思った。

せやからといって、この書籍に対するワシらの評価が下がることはない。むしろ逆で、それでありながら良くぞここまで調べ上げた、取材したものやと感じたさかいな。

それほど中身の濃い内容になっていた。

氏は、「あとがき」で、原稿の依頼主に対して『他の、もっとアニメ史にくわしいライターに任を代わってもらうようにお願いした』と言っておられるが、逆に『アニメ史にくわしいライター』やったら、ここまでのものは書けなかったやろうと思う。

現在、ワシらのサイトは、世間的にも面白いと評価され、新聞販売業界随一とも言える存在にまでなっていると自負しているが、サイトの文章を書いている管理人のハカセ自身は、もともと業界とは無縁の素人さんやった。

サイトはワシの聞き語りという体裁で始めたが、ハカセには、その事に精通していないと説得力のあるものは書けないという思いが強くあったという。

物書きと言われる人は、たいていそうらしいが。

そのため経験と取材を兼ねて、実際に半年間、拡張員としてワシと行動を共にした。それによって一応の事が分かりサイトを立ち上げたわけやが、それでも最初は手探り状態やったという。

ただ、素人さん故の利点もあった。それは外から新聞拡張員を見る読者の思いが良く分かるという点や。また、新聞拡張に対する批判的な目や疑問を持っていたということもある。

どんな業界についても言えることやが、新聞販売業界にも特有の業界用語というものが数多く存在する。

当然の事ながら、素人さんはそれを知らない。例えば「マッチ箱を叩いて3Sで2年縛ってきた」と自慢げに書いても素人さんには何の話か分からない。

業界に精通している者なら、即座に「賃貸の一戸建て住宅を勧誘して、新聞3ヶ月の無料サービスだけで2年の契約を取ってきた」ということが分かる。

そんな会話を日々交わしていると、それらの業界用語を使うことが特別なものとは思わなくなるのが普通や。日常会話になる。

そのため業界関係者が書いた文章には、どうしても業界用語の羅列が多くなりやすい。「オレは専門家だ」と誇示したいということもあるやろうが。

それでは、その業界の事を知らない一般読者には意味不明な文章にしかならない。業界関係者だけが見るのなら、ええかも知れんがな。

しかし、一般読者には理解できんから、そんなものを読みたいとは思わんわな。

その点、ハカセは素人の目線で素人さんに分かりやすく書くことができたし、またそう心がけてきたという。

例えば「拡張員」という言い方一つについても、一般の人は単に新聞を勧誘するだけの人という認識しかない。

「拡張員」というのは、通称で拡張団と呼ばれる新聞営業専門会社に所属している営業員たちの事で、同じく新聞の勧誘をする新聞販売店の従業員は含まれない。

拡張員と新聞の勧誘をする新聞販売店の従業員を含む、すべての人たちを総称して「新聞勧誘員」と呼ぶのが正しい認識だと丁寧に説明している。

そこまで書いて、初めて「ああ、そういうことなのか」と素人さんに理解して貰えるが、業界関係者からは、何でそんなことまで説明する必要があるのかと思われる。根底のところで感覚が、まったく違うわけや。

専門家の書く文章が、すべてそうやと言うわけやないが、思い込みが入る分、どうしても「この程度は分かるだろう」という気に陥りやすいのは確かやと思う。

その事について予備知識の少ない人に訴えかける文章を書くには、まずその事を理解して貰えないと、どうにもならない。

その意味でも素人目線というのは大事やと思う。本当は、その道の専門家が素人目線で語りかけてくれたら一番ええのやが、残念ながら、そういう人は少ない。

それと同じで、吉田竜夫氏やアニメ史について良く知っている人は、これくらいファンなら当然分かるだろう、知っているだろうということで、多くを説明しないで書き流してしまうだろうと思う。

しかし、詳しく知らない人からすると些細な事でも引っ掛かってくる。それがどんなに初歩的なことであっても、知ればそれについて話せずにはいられなくなる。

つまり、筆者が素人目線で見るものが、そのまま素人である読者が見るものになるということでもある。

結果として、素人である読者は著者と同じように、吉田竜夫氏、およびタツノコプロを追いかける旅に出発できることになるわけや。

それが著者の狙いかどうかまでは分からんが、少なくともワシらは、そう考えて読み進めた。

もっとも、但馬オサム氏は普段から映画や漫画の評論をされておられるとのことで、その方面全体に関して言えば、専門家だから単に謙遜しただけと言えんでもないがな。

それでも「吉田竜夫」というビックネームを扱うことに躊躇されたのは間違いないやろうという気がする。素人云々の問題より、そっちの思いの方が強そうや。

いずれにしても、手探りで取り組まれたことには変わりはないとは思うが、それが結果として良かったと思う。

話は吉田竜夫氏の弟で、漫画家の久里一平氏(本名 吉田豊治)に取材に訪れるところから始まる。

ちなみに氏は、アニメーション制作会社タツノコプロ第3代社長を勤められた方で、創設時から兄、吉田竜夫氏と行動を共にしてきた人物でもある。

久里一平氏によると、吉田竜夫氏の原点は紙芝居にあったという。

紙芝居とは、何枚かの絵を順番に見せながら、一人の演じ手が語って進める形式のもので、主に子供たちを対象にしていた演劇の一つである。

ワシも幼稚園児くらいの頃、1個5円の串のついたアメ玉を買って舐めながら見ていたことを覚えてる。言えば、それが当時の観覧料やったわけや。

もっとも、ワシの家は貧乏やったから、3回に1回くらいしか、その5円のアメを買えんかったが、それでも紙芝居屋のオッチャンはワシが盗み見しているのを承知で見逃してくれていた。そんなことも覚えている。

その紙芝居の絵に、演じ手の台詞が吹き出しになって加わったものが漫画になったと言われれば、なるほどと頷ける。

京都から東京に出てきた吉田竜夫氏は、「紙芝居作家画家組合」という組織に所属している。

ここには、後に誰もが漫画家の大家として知ることになる、白土三平氏や水木しげる氏らが本名で名を連ねていたことが、但馬オサム氏の調べで分かったという。

ここでは割愛させて頂くが、他にも著名な漫画家、絵本作家、児童文学者、イラストレーターの方々が数多くおられるので興味のある方は書籍の方で確かめて頂きたいと思う。

吉田竜夫氏の少年誌デビューは、月刊誌「少年画報」の昭和29年11月号から6回に渡って掲載された絵物語『密林の少年王ジャングル・キング』だったということからも、原点が紙芝居にあったというのが良く分かる。

その後、吉田竜夫氏は、「巨人の星」や「あしたのジョー」、「タイガー・マスク」などの原作として知られている梶原一騎氏と、「少年画報」昭和30年1月号で小説『荒野の快男児』の押絵を担当し初コンビを組んでいる。

もっとも、多くの関係資料(ウィッキー・ペディアを含む)が、吉田竜夫氏と梶原一騎氏との初コンビ作は『鉄腕リキヤ』としているが、それは間違いやったと但馬オサム氏は書籍の中で指摘しておられる。

それについては専門家の方でも知らない人が多いと。その事一つとっても著者である但馬オサム氏の取材力の確かさが良く分かる。

その後、吉田竜夫氏と梶原一騎氏は数多くのコンビ作を発表している。

ここで、その作品群の中にある「0戦チャンピオン」というボクシング物について、興味深いエピソードが書かれているので紹介しとく。

梶原一騎氏は後に「あしたのジョー」の原作を手がけるわけやが、その作中に矢吹ジョーの宿敵である力石徹が過酷な減量に挑戦するシーンがあるが、その原型はすでに「0戦チャンピオン」で使われていたということである。

吉田竜夫氏は当初絵物語作家として活躍していた。実はストーリー漫画を手がけたのは弟の久里一平氏の方が早かったのである。

昭和30年、赤本として出版された『あばれ天狗』というのが、それや。氏は当時16歳。これは当時の最小年デビューであった。

「赤本とは、通常の取り次ぎルートを持たない零細出版社が露天や駄菓子屋などを通してマンガ本の総称で、表紙に赤茶けた粗末な紙を使っていたことから、こう呼ばれたというのが定説だ(本文より引用)」

ワシも子供頃、その赤本を目にしたことがある。確か散髪屋なんかに置いてあったと記憶している。中のページもザラ紙で黒くなっていてボロボロやった。買ったことがないので、その値段までは覚えていないが。

この赤本が一大ブームになったのは、手塚治虫氏の『新宝島』が赤本として発売されてからやという。その後、赤本は新人マンガ家の登竜門になったと。

昭和37年10月19日。東京都国分寺市に吉田竜夫氏は次兄吉田健二氏と共に株式会社竜の子プロダクションを設立する。末弟の九里一平氏もスタッフの一人として参加している。

創設時には、「タイガーマスク」の辻なおき氏、「ワイルド7」の望月三起也氏、「ボディーガード牙」の中城健氏、また「タイムボカンシリーズ」の演出を手がけた笹川ひろし氏らがスタッフ、アシスタントとして参加している。

余談やが、辻なおき氏と望月三起也氏は仲が良く、望月三起也氏の「ワイルド7」に登場するキャラクターの「ヘボピー」は辻なおき氏だったというのが、確か週刊少年キングに書かれていて、それを子供の頃に読んだ記憶がある。

ただ、両者がタツノコプロの創設時に所属していたというのは知らんかった。どおりで仲が良かったわけや。

書籍の中で笹川ひろし氏が面白いエピソードを紹介している。

「当時まだコピー機はありませんよね……主人公のいろんな表情の顔を大小描いたものがシートに印刷されているわけですよ。それを切り貼りして使うんです。ペタリと貼ってね。そのときは、これはこれで、ひとつの手法かなと思うようになりました(本文より引用)」と。

同じ東京国分寺に「ゴルゴ13」で有名な「さいとうプロダクション」がある。

望月三起也氏の話では、お互い存在は知っていたが、交流はなかったということである。

理由は「さいとうプロ」は劇画のリアルを、「タツノコプロ」はあくまで娯楽としてのマンガを追い求めていて、根本的な流儀が違うからやと。極論すれば、書き込みのリアルか、省略のリアルかやと。

中央線国分寺駅の南口側に「タツノコプロ」、北口側に「さいとうプロ」と別れているために、その違いから南口組、北口組という呼ばれ方をしていたのやという。

フランス近代絵画における「まるでモンマルトル派とモンパルナス派のようだ。ということは、中央線はセーヌ河か」という著者の行(くだり)が面白い。

この書籍の中ではマンガを書く上での技術的な部分に、かなり触れているが、ワシもハカセもその方面には、からっきし弱いので、ここでは省略させて頂く。

そういうのが好きな人は書籍を読めば勉強になると思う。

その後、吉田竜夫氏率いる「タツノコプロ」はアニメーションの分野に突き進むようになる。

ただ、アニメについては素人集団だったと笹川氏は告白している。

当初『宇宙エース』を東映動画で制作することが決まっていたが、権利問題などで交渉が決裂したために頼れず、すべて一から作ることになったからだと。

「セルひとつ、絵の具ひとつとっても、あるいは専門の筆にしても、どこに売っているのかさえも竜夫以下誰も知らない段階でのスタートだった(本文より引用)」と。

その『宇宙エース』の成功により、さらに、『マッハGoGoGo』、『昆虫物語 みなしごハッチ』、『科学忍者隊ガッチャマン』、『タイムボカンシリーズ』などの数々のヒット作を生み出していく。

もちろん、それぞれの作品には、それなりの苦労話があったと書籍に詰め込まれているわけやが。けっして順風満帆やなかったと。

ここで、そのすべてはとても紹介できんさかい、そのサワリだけ話す。

例えば、『マッハGoGoGo』では、当時怪獣ブームということもあり、スポンサーから敬遠されて、すぐには陽の目を見なかったという。

また、『昆虫物語 みなしごハッチ』では、『巨人の星』や『あしたのジョー』といったスポ根アニメ全盛期だった時期に、まるで傾向の違う母恋い物語である点やスポンサーである食品会社が虫を主人公にすることに難色を示したため、一時暗礁に乗り上げかけたこともあったと。

しかし、それらのアニメは周知のとおり、結果的に大成功を収めることになった。

その後、吉田竜夫氏率いる「タツノコプロ」は数多くのアニメ作品を世に送り出し続けてきた。

彼らだけが日本の漫画、アニメを支えてきたわけやないが、その足跡はやはり偉大やったと思う。

それが結果として、日本のアニメが世界中で認められ子供たちに愛されるようになっているわけやさかいな。

その昔、大人たちから眉をひそめられる存在で悪書の代名詞のように言われていた漫画やアニメが、今や日本を代表する文化にまでになったわけや。

残念ながら、氏は昭和52年9月5日、肝臓がんにより亡くなられた。享年45歳。如何にも早すぎる死やった。

しかし、氏と「タツノコプロ」の精神は今も生き続けている。

晩年、氏は娘である吉田すずか氏に、「ディズニーのようになれ」ではなく「ディズニーに勝て」と言ったという。

吉田竜夫氏はディズニーをこよなく愛していた。普通、自分の好きな存在、憧れの対象があれば、そうなりたい、近づきたいと思うもんやが、氏は「勝て」と言ったわけや。

おそらく、その時点で死を覚悟されておられたのやと思う。それ故の「なれ」ではなく「勝て」やったのやないかと。志を高く持てという意味を込めて。

吉田竜夫氏には、ディズニーランドのような遊園地を作りたいという希望があった。実際、その遊園地を作る寸前まで計画が進んでいたということや。

氏の口癖だった「世界の子供たちに夢を」というのを社是にしたというのも、ディズニーと共通した思いがあったからやろうと思う。

ちなみに、書籍のタイトルに「世界の子供たちに夢を」とあるのは、そのためやと知った。

子供の頃に見た漫画、アニメは大人になっても忘れることはない。ワシらがそうであるように。

漫画、アニメは基本的には勧善懲悪やさかい、子供の心を正しく導くための、ええ指標になるのは間違いないと信じている。

子供たちが心から楽しめて、まっすぐ育ち、夢を見ることができるのなら、こんな素晴らしいことはない。

そんなことを考えさせてくれ、また、いろんな意味で得られるものが多い書籍やとも思う。



参考ページ

注1.第43回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■たかがマンガ、されど漫画……

注2.世界の子供たちに夢を~タツノコプロ創始者 天才・吉田竜夫の軌跡~著者、但馬オサム

注3.第57回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■『ヤンキー、弁護士になる』から学ぶ、真の強さとは

第96回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ボクは新聞配達員になるのが夢なんだ……ヘンリーくんの挑

第131回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ハカセの決断……書籍『インターネットに就職しよう!』に触発されて

第193回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店漫画「かなめも」とは?

第221回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞営業専門書『セールスの生現場は新聞屋に学べ』について

注4.第116回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■殺人をしない、ひとごろしの話

第31回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■映画「クライマーズ・ハイ」に見る新聞報道の現場 前編

第32回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■映画「クライマーズ・ハイ」に見る新聞報道の現場 後編

第47回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■映画『社葬』による新聞への負のイメージについて 前編

第48回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■映画『社葬』による新聞への負のイメージについて 後編

注5.第181回 ゲンさんの新聞業界裏話 増刊 ■オークラ出版のムック・シリーズ『利権マスコミの真実』での執筆記事についてのお知らせ


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