メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第246回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2013. 2.22
■報道のあり方 その3 PC遠隔操作事件に見る警察発表報道の矛盾
昨年の夏から秋にかけてPC遠隔操作事件というのがあって騒がれた。
何者かが5人の所有するパソコンに対して不正な指令を与え、所有者の認識しないところでパソコンを操り、インターネット掲示板を介して計13件の襲撃や殺害予告を行わせたというものや。
5人の男性に容疑がかけられ、そのうち4人が誤認逮捕された。
その後、真犯人として2013年2月10日、都内に住むIT関連会社社員の30代男性Kが事件に関与している疑いが強いとして威力業務妨害容疑で逮捕された。
正直、その報道を見ていて何とドジな奴やなと思うた。
他人のパソコンを遠隔操作し、自分のIPアドレスを隠蔽しながら複数の海外サーバーを経由して掲示板にアクセスしていたほどの用心深い犯人にしては間が抜けとると。
簡単に事件の経緯を話す。
2012年11月13日、真犯人を名乗る者から報道機関宛てに「ミスをした。捕まるのが嫌なので自殺する」という旨の自殺予告メールが弁護士や報道機関に送り付けられた。
メールに添付された写真には人形と、首吊りの縄に見立てた青いLANケーブル、カッターナイフ、梱包用テープと当日の日付入りK新聞が写っていた。
写真のEXIF(イグジフ)情報には撮影時の位置情報が記録されており、それにより千葉県鎌ヶ谷市の畑地を示すデータが記録されていたことが分かった。
しかし、そのEXIF情報には通常含まれるはずのデータが欠けているなど不自然な点が見られることから改竄されている可能性があり、捜査攪乱を目的に電子メールを送信した可能性があった。
2013年1月1日、再び犯人から「謹賀新年」のタイトルで複数の報道機関や記者にメールが送られてきた。
メールには添付ファイルの中にある5題のクイズが出題されており、一つの問題を解いて得られる解答をパスワードとして次の問題を入手できる仕組みになっていた。
それらを順番に解き明かした結果、第4問で得られたパスワードを使うと2枚の写真並びにテキストファイルが得られた。
それによると写真は山頂三角点を写したもので、EXIF情報から東京都奥多摩町の雲取山(東京都、埼玉県、山梨県の三都県境付近)の場所が示されている。
この三角点の近くに関連資料や記憶媒体を埋めたとする内容や。
しかし、1月2日の午後になって警察が該当する地点を捜索したが、記憶媒体は見つからなかった。
また、写真の画像データは撮影日などの情報が含まれず、また、メールに添付された雲取山の写真には登山愛好家のサイトに掲載された写真と構図や影の位置などが酷似していたため、写真流用疑惑が浮上し、登頂を疑う見方が出た。
但し、犯人は1月5日のメール等で、埋め方が浅く風などで飛ばされたと主張している。
その日、犯人から「新春パズル 〜延長戦〜」のタイトルで25人の弁護士
や個人、報道機関に再度メールが送られた。
メールの添付ファイルにあった4枚の写真の1枚から記憶媒体のチップと共にピンク色の首輪をつけられた江の島の地域猫の存在が浮上する。
同日、報道機関と警察が当該猫を発見し、警察が記憶媒体チップを回収した。
目撃情報などから1月3日夕方から1月4日夕方にかけて当該猫に首輪がつけられたと見られた。
江の島の防犯カメラには、不審な男性複数が、猫に首輪をはめて写真を撮る様子や不審な男がバイクで移動する映像が記録されていたという。
これらの映像を手がかりに東京都内に住むIT関連会社社員の30代男性Kが特定され逮捕された。
K容疑者については秋葉原のネットカフェを利用した記録があり、ここからもPCが押収されている。また、猫カフェにも利用履歴があり、猫に対する執着があったと指摘されている。
K容疑者は2005年に勃発したインターネット掲示板での「のまネコ問題」をめぐり殺害予告などを掲示板に書き込んだことから逮捕され、脅迫罪など4つの容疑で2006年、1年6ヶ月の実刑判決を受けて服役していた。
2013年2月11日、K容疑者が派遣先企業で使用していたパソコンを警察が調べたところ遠隔操作が行われた時期にTorを使用していた形跡が見つかったこと。
また、K容疑者のパソコンには遠隔操作に使用した掲示板に接続した形跡があることなどが逮捕容疑であると報道された。
尚、K容疑者は事件への関与を否認している。
プログラムはC#(シーシャープ)で書かれているが、本人はC#でプログラムが書けないと主張しており、これが事実ならば警察の誤認逮捕ということになる。
この逮捕については新たな誤認逮捕である可能性も指摘されているが、各報道機関は被疑者の小学生時代からの学歴などの個人情報を報道している。
以上が事件の概要や。
これらの経緯を見ても分かるとおり、犯人は警察を翻弄するほどの知能の高さを見せつけ誇示していた。
しかし、K容疑者は報道を見る限り、とてもそのレベルにある人間とは思えないというのが、ワシの印象やった。
報道では『K容疑者のパソコンには遠隔操作に使用した掲示板に接続した形跡がある』とあるが、本当にその犯行を実行しようとする者なら、怪しまれるような証拠や痕跡など残すはずがないと考えるがな。
一度捕まって苦い経験のある者なら尚更や。警察を翻弄するほどの知能犯にしては、あまりにも間が抜けている。
『プログラムはC#(シーシャープ)で書かれているが、本人はC#でプログラムが書けないと主張』したというのも、勤め先のIT関連会社の関係者に聞けば簡単に分かりそうなものやと思う。
同僚や上司たちがK容疑者の技量を知らんかったというのは考えにくいさかいな。しかし、K容疑者がC#でプログラムが書けたかどうかの証言を掲載した報道はどこにもない。
『K容疑者が派遣先企業で使用していたパソコンを警察が調べたところ遠隔操作が行われた時期にTorを使用していた形跡が見つかった』というが、Tor自体は特別なものやないという。
Torとは、米海軍調査研究所(NRL)が開発した通信システムをベースにオープンソース・コミュニティーの人たちが改良を加えて作り上げた、匿名通信システムのことを指す。
誰でも無料で自由に利用する事ができるフリーソフトもある。
その形跡が勤め先で使用していたパソコン』に残っていたしても、それだけでは決定的な証拠にはならんと思う。
一般的に知られている程度のソフトが、IT関連会社のパソコンに残っていたというのは、むしろ自然やとも言える。
使う使わんは別にして、IT関連会社の社員であれば、その程度の知識を知っておく上でもインストールくらいするやろうし、試しに使ってみるということもあり得る話や。
もしK容疑者が真犯人なら、過去の犯罪歴から自身が疑われることを真っ先に考えるやろうから、警察の捜査がおよびそうなパソコンに、そんな形跡を残したままとは考えにくい。
しかも、犯人は様々な証拠を見せつけるかのように自身の存在を誇示しとるわけや。
あまりにも無防備すぎる。
ワシが『警察を翻弄するほどの知能犯にしては、あまりにも間が抜けている。
』と言う所以や。
ワシは、それらの事が、どうにも腑に落ちんかった。用意周到で知能の高さを誇示するような犯人がポカとも言えるような初歩的なミスなど冒すものかと。
そんな時、ハカセから電話があった。
「今日、こんな記事を見つけたんですけど、どう思いますか?」と。
その記事とは、パソコン遠隔操作で捕まった容疑者Kに関するものやった。
どうやら、ハカセもワシと同じ疑念を抱いていたようや。
【PC遠隔操作事件】被疑者の素顔を弁護人に聞く
http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20130219-00023545/ より引用
4人を誤認逮捕し、うち2人から虚偽の自白を引き出したことが明らかになっているPC遠隔操作事件。
威力業務妨害容疑で逮捕されたK氏は関与を否認している。
当初は、事件とK氏を結びつける決定的な証拠があると報じられ、警察は絶対的な自信を持っているように見えたが、その後も160人もの捜査員を動員して証拠集めを続けるなど、苦労している状況も伝わってくる。
K容疑者の弁護人となったのは、足利事件で菅家利和さんの無実を証明するなど、刑事事件の経験豊富な佐藤博史弁護士だ。佐藤弁護士に、2月19日時点での弁護人としての考えや主張を聞いた。
【弁護人となるいきさつ】
ーー佐藤先生がなぜ弁護人に?
報道で彼の逮捕を知った時には、他の方と同じように、警察がこれだけの発表をしたのだし、まず間違いないのだろう、ただ本人は否認しているんだな、と思っただけでした。
彼が当番弁護士を要請し、その時にたまたま当たったのが、以前、うちの事務所にいた竹田真弁護士。その竹田弁護士から頼まれたんです。
事件について語る佐藤博史弁護士。
私はすでにいくつも刑事事件を抱えていて忙しかったのですが、竹田弁護士が「接見は私が毎日行きます。要所要所で出てきて下さるだけでいいですから」と言うので、「分かった」と。
この時には、これほど頻繁に自分自身が接見に行くことになるだろうとは思ってもいませんでした。
【江ノ島の監視カメラには何が映っていた?】
ーー容疑者とはどういう話を?
まずは警察の取り調べ状況を聞きました。江ノ島に行ったか、猫に触ったか、と聞かれたので、本人は1月3日に行ったことを認めて、4〜5匹の猫と接触して、写真を全部で10枚か15枚くらい撮ったかもしれない、と説明したそうです。
ところが、その後は猫について聞いてないんですね、警察は。それで、変だなと思いました。
私が、あの猫について聞くと、「(顔の模様が)ハチワレで…」となどと、色のことを説明し始めるんです。あの猫の写真を撮ったかどうかを聞くと「撮ったかもしれません」と。
なぜかというと人なつっこい猫で、「膝にのっけたかもしれない」と言うわけです。そんな風に、全然包み隠さず話す人です。
警察に対しても、過剰なくらい供述をしています。それで、彼の話を聞いた後、新聞記事を精査してみると、話が全然違う。
これはどういうことだ、と思いました。
ーー足利事件の菅家さんの時には、面会してすぐに無実を確信したとのことでしたが、今回はどうでしたか。
当初は半信半疑でした。新聞には決定的な証拠があるかのように書かれていましたし。
でも、取り調べで警察はそういうものを本人に示していないんですね。
なので、接見の後、取調官に「もし決定的な証拠があるなら、早く示して欲しい。それで(否認しても)ダメだと分かったら、弁護人からも本人を説得しますよ」と言ってみたが、警察は「はい、分かりました」と言うだけ。
「本当はそんな映像ないのでは?」とも聞きました。
すると、「そういうこと(=決定的な証拠があるというような情報)はマスコミが勝手に書いているだけ」と。
検事にも、「(本人が猫に首輪をつけたことを示すような)防犯カメラの映像はないのでは?」と水を向けたところ、沈黙しか返ってこなかった。
私がそう指摘した翌日は、取り調べもせずに捜査会議をやっている。その後も、彼が猫に首輪をつけたことを示す映像は本人に示されていません。
報道でも、いつの間にか映像の話は立ち消えになりました。
こうした経過から見ても、警察は1月3日に彼が江ノ島にいる映像は持っているが、彼が猫に首輪をつける映像もなければ、(彼が江ノ島に行った)3日に首輪がついている状態の猫の映像もないことを、確信しています。
ーー江ノ島で猫の写真を撮ったカメラはどうなりましたか。
その時使っていたのは富士通製のスマホですが、新機種に買い換えて、1月の中旬にショップで売っています。
ネットの方が安いので、ネットで新機種を買い、古いものはショップに持って行ったところ、店員が初期化して引き取ったそうです。
もし、彼が真犯人であれば、自分で入念に初期化するはずでしょう。この時に彼は、すでに警察に尾行されていて、売ったスマホはすぐに警察が回収したようです。
ーー警察は猫の写真を復元したと報じられています。ならば、彼に示して説明を求めるのが普通だと思うのですが。
彼には示されていません。彼は、犯人が送った写真が自分のスマホの中にあるわけはない、と言っています。
復元したとして本人に示されたのは、友人とコスプレをやる所に行って、鎧かぶとをつけてポーズを撮っている写真など、事件に無関係の3点だけです。
ーーそれだけ証拠が希薄なのに、よく逮捕しましたね。
前回の事件の時、彼は任意の調べでは否認しましたが、逮捕されてすぐに自白しています。
今回も、逮捕してしまえばすぐに自白する、と警察は思ったんじゃないでしょうか。
【不利な証拠と有利な事情について】
ーー江ノ島の監視カメラ以外にも、雲取山に行ったとか、真犯人が送ってきた写真に写っている人形を買ったとか、最近は彼が仕事をしていた会社のPCでウィルスが作成された痕跡があるとFBIから情報提供があったという報道もあります。
山、海、前科、人形、猫、それにFBI情報。
これだけ彼に不利な事柄が重なっておきる偶然はない、と捜査機関は考えているようです。
ただ、猫の話もそうですが、そういう不利だと思われることも、彼は全く隠そうとしない。
彼は自分が山に行ったことや、人形を買ったことなどは認めている。人形はAmazonで買っているので、購入したことはメールを見れば簡単に分かるし、彼も隠していません。
前科については、彼は反省し、警察や検察を恨んだりしていません。
それどころか、私が「(取り調べの時に)黙っていた方がいいんじゃないの」と言っても、「僕はそういうのは不得意なんで…」と。
それで、「じゃあ、無理に黙秘は勧めないよ」という会話をしたくらいです。
後に、録音もしくは録画をしなければ取り調べに応じない、ということにした時も、警察から「話せることはないの?」と聞かれて、彼は「雑談なら」と言って、応じているんです。
ーーなぜ録音・録画をしないと取り調べに応じないことにしたのですか。
実は、問題のウィルス「iesys.exe(アイシス・エグゼ)」に使われたプログラミング言語はC#ですが、彼は「僕はC#は使えない」と言うんですね。
ところが、警察が最初に取った身上調書に、彼が使えるプログラミング言語が列挙してあり、その中にC#が入っていたそうです。
彼は、C#は他人が書いたプログラムがあって、それが実行できるかどうか確かめろと言われて確かめたことはあるが、自分では書けない、と説明したそうです。
そういう大事なことをさりげなく調書に入れ込もうとしていたことが分かったので、調書ができる時のやりとりはちゃんと記録してもらわないと危ない、と思いました。
最初に一般的な録音・録画を求める書面を送りましたが、それに加え、計3回に渡って、強く録音・録画を求めました。
本人も、録音・録画をしなければ話せないと警察に明言したところ、捜査官がパソコンで仕事をする前で何時間も黙って座らされることになりました。
その後、「話せることはないの?」と言われて雑談に応じたところ、捜査官は雑談に紛れ込ませて事件周辺の話をいろいろ聞いてきた。そういう事実上の取り調べが3時間50分も行われたんです。
なので、検事調べでは、録音・録画をしなければ、留置場の房から出ない、ということにしました。
私が彼に接見する時刻までに検事から連絡がなければ、そういう対応をすると通知をしました。
時間までに録音・録画に応じる連絡がなかったので、彼には出房拒否をアドバイスしました。
決定的証拠があって、供述なしで起訴・公判維持ができる事件とは思えないのに、取り調べを犠牲にしても録音・録画をしないというのは、いったい何なのでしょうか…。
ーー彼がC#を使えないというのは、彼にとって有利な事情ですね。
そうなんです。「それだけで、君は真犯人でない、ということになるのでは?」と聞くと、彼も「そうですね」と答えるんです。
でも、彼がその話をしたのは、逮捕されてから6日後のことなんですよ。それで、「そんな大事なことを、何でもっと早く言わないのか。このことを、警察は知っているのか」と聞いたら、最初の身上調書の話が出てきたので、これは録音・録画をしないと危ない、と思ったのです。
ーー彼が普段使っていたプログラミング言語は何ですか。
Javaです。
ーーC++はどうですか。
専門学校の時に資格は取ったと言っていました。
ーーウィルスとか遠隔操作などに興味は?
「ない」と言っています。それで、「セキュリティの開発のためには、(日々進化する)ウィルスとデッドヒートを演じている演じているわけで、そういうことに関心を持つこと自体は悪いことじゃないんだよ」と水を向けてみました。
でも、本人は「セキュリティには関係ないし、MALWAREには全く関心がない」と。
ハッカーの情報を交換するサイトがあるらしいけど、と聞いても、「そういうのは見たことがありません」と。
それで、彼自身がウィルス対策をどうしているのかを聞いてみました。
すると「Win8はウィンドウズディフェンダーがついているし、その前のWin7の時にはマイクロソフトで無料のソフトを手に入れた」とのこと。
その程度で大丈夫なのか、と聞いたら、「危険なリンクには近づかないから」と言っていました。
【被疑者の人間像】
ーー片山さんは、実際に会っていて、どんな人ですか?
「オタク」だと言われてましたから、そのつもりで会ったら、印象が全然違った。すごくコミュニケーションが取りやすい人なんですよ。
確かにゲームは好きで、「全機種持っています」と言ってましたけど、年に2、3回は山に行ったり、バイクで出かけるなどアウトドアの遊びもしていました。
コンパにも出ていましたし、女性とデートしたこともある。今年1月にはパックツアーでイタリア旅行をしているんですが、その時には老夫婦と仲良くなって一緒に食事をしていたそうです。
亡くなったお父さんのことはとても尊敬しています。愛情深い両親のようで、前の事件の時も刑務所に面会に来るなど、彼の立ち直りを支えました。
弟一家とも親しく交流していて、幼い姪はテレビで彼のニュースが流れると、「あ、おじちゃんだ」と声を挙げているそうです。
報道されている彼のイメージと、実際の彼とはずいぶん違います。
ーー逮捕前に、警察が尾行したりマスコミが写真を撮ったりしていましたが、彼はそれをどう見ていたんでしょう。
全然気付いていないんです。
報道各社に写真やビデオを撮られているのにも全然気がつかなかったーーあんなに多くのカメラが、あんなに近くから撮影しているのに?!
新聞に載っている猫カフェでの写真を見せたら、「こんなの撮ってたんですか?!」と本当に驚いていました。
警察は江ノ島の猫から記憶媒体を回収して6日後には彼をマークし始めたと報じられていますが、彼は逮捕されるまで、警察に尾行されているのも知らないままでした。
真犯人にしては無防備すぎませんか?
ーー前の事件の時と姓を変えたのは何故ですか。
彼の名前を検索すると、いつまで経っても事件のことが出てきて、これでは就職できないと気にしたからです。
両親が協力し、分籍して彼だけの戸籍を作ったんです。そして、今度こういうことになって、彼は「これからどうやって日本で生きていけばいいんだろう」と悩んでいます。
【報道のあり方】
当初、江ノ島の防犯カメラで猫に首輪をつける彼の映像があり、それが決定的な証拠だと報じられました。
でも、弁護人がそうした映像がないはずだと指摘すると、いつの間にか立ち消えになって、その後仕事先で使っていたPCに痕跡があるとかいうFBIの話にすり替わっている。
あの映像の話はどうなったんですか?
報道機関なら、そこをしっかり検証すべきでしょう。なのにそれはやらないまま、警察(の情報操作)に使われている。
我々弁護人の主張は、あまり載らない。足利事件や村木さんの事件の教訓は、いったいどこに行ったのですか。
というものや。
この記事を見て、ワシらの疑念が更に拡がった。
ひょっとすると、K容疑者は犯人とは違うのではないのかと。これも冤罪、誤認逮捕の可能性があるのではないのかと。
そう考えれば、納得できることが多い。
K容疑者は警察の取り調べで『江ノ島に行ったか、猫に触ったか』と聞かれたので、1月3日に行ったことを認めて、『4〜5匹の猫と接触して、写真を全部で10枚か15枚くらい撮ったかもしれない』と説明したという。
しかし、その後『猫について聞いてないんですね、警察は』と変に思った弁護士が、警察に「本当はそんな映像はないのでは?」と聞く。
一連の報道では、防犯カメラの映像にはK容疑者が猫の首輪に記憶媒体のチップを取り付けている決定的な証拠があるかのように報じられていた。
報道関係者がその情報を警察から入手して報道したものと考えて、弁護士はそう聞いたわけや。
すると、「そういうこと(=決定的な証拠があるというような情報)はマスコミが勝手に書いているだけ」だと言ったという。
検事にも、「(本人が猫に首輪をつけたことを示すような)防犯カメラの映像はないのでは?」と水を向けたところ、沈黙しか返ってこなかったと。
そのため弁護士は『こうした経過から見ても、警察は1月3日に彼が江ノ島にいる映像は持っているが、彼が猫に首輪をつける映像もなければ、(彼が江ノ島に行った)3日に首輪がついている状態の猫の映像もない』と確信していると話す。
ワシらも、その見解を支持する。そう考えた方が自然やからや。
弁護士が取調官に「もし決定的な証拠があるなら、早く示して欲しい。それで(否認しても)ダメだと分かったら、弁護人からも本人を説得しますよ」と言っているわけやから、本当にそんな証拠があるのなら示せば、それで終わるはずやと思う。
それが示せず、取調官は『マスコミが勝手に書いているだけ』と言い、検事に至っては沈黙したままというのでは、弁護士の言われるように、そんな証拠は何もなかったと考えるしかない。
ハカセは現在、新聞業界のサスペンス小説(注1.巻末参考ページ参照)を執筆中ということもあり、核心を見抜く目が研ぎ澄まされているという。
「若い頃に犯罪心理学も勉強しましたので良く分かるのですが、犯人には必ず不自然な供述、矛盾点があるものです。それが、このK容疑者には殆ど見受けられません」と。
「犯罪小説を書く上で最も注意しなければいけないのは、犯行の必然性に矛盾が生じないようにするということです。偶然やご都合主義で物語を進行させることも許されません。私は犯人の立場に立って、犯人の行動を決めます」と。
「犯罪を完璧にしようとすればするほど、話を作ろうとすればするほど矛盾点が浮かび上がってきます。それは虚構、ウソの話だからです。もっとも、その矛盾点を衝くことで謎解きもできるわけですが」と。
つまり、ハカセは話に綻びのないものは真実の可能性が高いと言うてるわけや。
K容疑者に、それが当て嵌まるのではないかと。
K容疑者は供述で、『本人は1月3日に行ったことを認めて、4〜5匹の猫と接触して、写真を全部で10枚か15枚くらい撮ったかもしれない』と認めている。
さらに『私が、あの猫について聞くと、「(顔の模様が)ハチワレで…」となどと、色のことを説明し始めるんです。あの猫の写真を撮ったかどうかを聞くと「撮ったかもしれません」と。なぜかというと人なつっこい猫で、「膝にのっけたかもしれない」と言うわけです』と猫好きの一面を見せている。
猫好きに関しては、常連でもある猫カフェに良く出入りしていて猫を抱いて可愛がっている映像がマスメディアで盛んに報道されていたから、それでも証明されている。
これは、江ノ島で猫の首輪に記憶媒体のチップを取り付けたという裏取りのための情報やろうと思うが、これが却ってK容疑者にとっては有利に働く可能性が出てきた。
弁護士は『彼は逮捕されるまで、警察に尾行されているのも知らないままでした。真犯人にしては無防備すぎませんか?』と言われているが、ワシもそう思う。
警察が尾行していた時には、すでに猫に関する報道があったわけやから、K容疑者が真犯人やとしたら、そういうところには近づかんようにするのが普通やないやろうか。
また、そんな状況であるにもかかわらず周囲に注意を払っていないというのも、おかしい。そんな犯人がいとるやろうか。
報道機関宛てに送り付けたメールに「ミスをした。捕まるのが嫌なので自殺する」と言っておきながらである。
このメールで犯人はかなりナーバスになっているというのがわかる。
そんな人間が警察の尾行に気づかず、報道関係者に写真や映像を撮られているのも知らんということがあり得るやろうかと思う。
「江ノ島の猫」というのは有名で、Yahoo!Japanで検索すると188万件ものページがヒットする。
猫好きのK容疑者が「江ノ島の猫」を見る目的で、正月休みにその場所に出かけたというのは十分考えられる。
おそらく、捜査関係者は防犯カメラに、殺人予告メールで逮捕され、脅迫罪など4つの容疑で2006年に1年6ヶ月の実刑判決を受けて服役していたK容疑者を見つけて驚喜したのやないかと思う。
犯人はこいつしかいないと。
警察が第一に疑うのは同様の犯罪歴の有無や。犯罪歴があり、猫好き。犯人の指定した場所の防犯カメラにK容疑者が映っていたというだけで犯人と決めつけた可能性が高い。
弁護士は『警察は1月3日に彼が江ノ島にいる映像は持っているが、彼が猫に首輪をつける映像もなければ、(彼が江ノ島に行った)3日に首輪がついている状態の猫の映像もない』と指摘している。
それを踏まえれば、『前回の事件の時、彼は任意の調べでは否認しましたが、逮捕されてすぐに自白しています。今回も、逮捕してしまえばすぐに自白する、と警察は思ったんじゃないでしょうか』と弁護士の主張が正解やいのかと思う。
『江ノ島で猫の写真を撮ったカメラはどうなりましたか』という質問には、『新機種に買い換えて、1月の中旬にショップで売った。ネットの方が安いので、ネットで新機種を買い、古いものはショップに持って行ったところ、店員が初期化して引き取った』とK容疑者は答えている。
『彼が真犯人であれば、自分で入念に初期化するはずでしょう』という弁護士の主張も、そう考えるのが自然やと思う。
この時には、すでにK容疑者は警察に尾行されていて、売ったスマホはすぐに警察が回収したという。
『警察は猫の写真を復元したと報じられています。ならば、彼に示して説明を求めるのが普通だと思うのですが』については、
『彼には示されていません。彼は、犯人が送った写真が自分のスマホの中にあるわけはない、と言っています。復元したとして本人に示されたのは、友人とコスプレをやる所に行って、鎧かぶとをつけてポーズを撮っている写真など、事件に無関係の3点だけです』というものしかない。
江ノ島の監視カメラ以外にも、雲取山に行ったとか、真犯人が送ってきた写真に写っている人形を買ったとか、最近は彼が仕事をしていた会社のPCでウィルスが作成された痕跡があるとFBIから情報提供があったという報道もある。
『江ノ島の監視カメラ以外にも、雲取山に行ったとか、真犯人が送ってきた写真に写っている人形を買った』という事実をK容疑者は素直に認めている。
『前の事件の時と姓を変えたのは何故ですか』
これも新たな事件を起こすための準備でしたことやとと疑われていた。
しかし、これについては弁護士が、『彼の名前を検索すると、いつまで経っても事件のことが出てきて、これでは就職できないと気にしたからです。両親が協力し、分籍して彼だけの戸籍を作ったんです』と説明している。
なるほどと納得できるものや。
『なぜ録音・録画をしないと取り調べに応じないことにしたのですか』
これは弁護士の勧めで、そうしたようや。
その部分をもう一度、記事から抜粋する。
実は、問題のウィルス「iesys.exe(アイシス・エグゼ)」に使われたプログラミング言語はC#ですが、彼は「僕はC#は使えない」と言うんですね。
ところが、警察が最初に取った身上調書に、彼が使えるプログラミング言語が列挙してあり、その中にC#が入っていたそうです。
彼は、C#は他人が書いたプログラムがあって、それが実行できるかどうか確かめろと言われて確かめたことはあるが、自分では書けない、と説明したそうです。
そういう大事なことをさりげなく調書に入れ込もうとしていたことが分かったので、調書ができる時のやりとりはちゃんと記録してもらわないと危ない、と思いました。
最初に一般的な録音・録画を求める書面を送りましたが、それに加え、計3回に渡って、強く録音・録画を求めました。
本人も、録音・録画をしなければ話せないと警察に明言したところ、捜査官がパソコンで仕事をする前で何時間も黙って座らされることになりました。
その後、「話せることはないの?」と言われて雑談に応じたところ、捜査官は雑談に紛れ込ませて事件周辺の話をいろいろ聞いてきた。そういう事実上の取り調べが3時間50分も行われたんです。
なので、検事調べでは、録音・録画をしなければ、留置場の房から出ない、ということにしました。
私が彼に接見する時刻までに検事から連絡がなければ、そういう対応をすると通知をしました。
時間までに録音・録画に応じる連絡がなかったので、彼には出房拒否をアドバイスしました。
この弁護士の処置は適切やったと思う。
ハカセの言うとおり、K容疑者の供述には不自然なところが見受けられない。
認めるところは認めて、違うところは、ちゃんと誰が聞いても納得のいく説明をしている。
これは、すべてを正直に話しているからこそやと思う。
ワシらは、普段から「真実より強いものはない」と言うとる。作った話は必ずほころびが出るが、真実にそれはないからと。
そして、何かの罪で警察に捕まった場合、安易な妥協で、やってもいないことを、その場を助かりたい一心で自白という形で絶対に認めるべきやないと。
また警察側の「認めてしまえば大した罪に問われない」という甘い誘いに乗ってもいけないと。
その誘いに乗ってありもしない犯罪の自白をしてしまうと、後になってその冤罪を晴らそうとした場合、途方もない年月がかかるからやと。
結局、警察の甘言どおりにはならず、冤罪として刑に服した事例は山ほどあるのが実情や。
事実、この一連の事件でも4人の誤認逮捕のうち2人が虚偽の自白をしとるさかいな。
警察による強引な取り調べに屈したのか、甘言を信じたのかは分からんが、いずれにしても、虚偽の自白に追い込まれたのは間違いない。
今回の場合は、誤認逮捕とすぐに分かったからええようなもんやが、一旦自白してしまうと、普通はそれが決定的な証拠として扱われ、後で冤罪を主張するのは限りなく難しくなる。
ワシも実際にそういう警察の強引な自白を強要する取り調べを受けたこと(注2.巻末参考ページ参照)があるから、その様子はある程度、想像がつく。
もちろん、ワシは徹底抗戦したがな。断固として自白を拒否した。
それに業を煮やした刑事が苦し紛れに「刑務所に叩き込むでぇ」と脅したが、ワシは「好きにさらせ。例え、絞首刑やと言われても知らんもんは知らんのや」と喚いて応戦した。
その時は、大した容疑やなかったということもあり、担当した刑事が根負けした格好になって「お前のような強情な男、見たことない。それもこんなしょうもないことで、良うそこまで、我が張れるもんやと感心したるわ」と捨て台詞を残して終わったがな。
その折りの教訓として、ワシは絶対に警察の自白強要には応じたらあかんと痛感した。
警察の取調官は、いろいろ言うてくるが、結局、ありもしない自白をしてしまうと、それが最悪の状況になって我が身に降りかかってくるわけや。
『決定的証拠があって、供述なしで起訴・公判維持ができる事件とは思えないのに、取り調べを犠牲にしても録音・録画をしないというのは、いったい何なのでしょうか…』と弁護士が疑問を呈しておられるが、そんな理由は分かり切っている。
取り調べにも録音・録画を導入すると、まずいからや。何の証拠もないのに逮捕したということが、それによりバレるさかいな。
逮捕の根拠は、弁護士が『山、海、前科、人形、猫、それにFBI情報。これだけ彼に不利な事柄が重なっておきる偶然はない、と捜査機関は考えているようです』と言われておられるように、限りなく怪しいと思う。
取り敢えず、逮捕さえしてしまえば簡単に自白するやろうという目論見もあったはずや。
そのアテが外れて困っているというのが、今の警察の立場やないのかと思う。
ただ、それなら100%、そのK容疑者は無実なのかと問われても困るがな。ワシらには報道やネット記事で知るだけの情報しかないさかいな。
単に、分かっている情報で推理すると、無実の可能性が高いと思えるだけやからな。
その記事にもあるように『FBI情報』というのが正しければ、K容疑者が犯人の可能性も残されとる。
その記事を紹介しとく。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130220-00000076-jij-soci より引用
全種類のウイルス見つかる=容疑者の派遣先PC情報も―遠隔操作事件・警視庁など
遠隔操作ウイルス事件で、米連邦捜査局(FBI)が差し押さえた米国のサーバーに、一連の遠隔操作事件で使われた全てのバージョンのウイルスが残され、うち複数のデータに、逮捕されたIT関連会社社員K容疑者(30)が派遣されていた会社のパソコン(PC)を示す情報があったことが20日、捜査関係者への取材で分かった。
警視庁などの合同捜査本部は、K容疑者がウイルスの改良を繰り返し、一連の事件に関与したとみて調べている。
捜査関係者によると、遠隔操作ウイルスはインターネット掲示板「2ちゃんねる」で紹介された無料ソフトを取り込むことで感染。ウイルス本体はタイマーなどの有益なソフトに偽装され、米国のデータ保管サービス「Dropbox」のサーバーに保管されていた。
FBIが差し押さえたこのサーバーには、これまでに事件で使われたことが確認されている全バージョンの遠隔操作ウイルス「iesys.exe」が保管されていた。
保管した人物は匿名化ソフトを使ってサーバーに接続しており、アクセス元の特定は困難だったが、ウイルス自体にK容疑者の派遣先のPCを示す付帯情報が含まれていたという。
もし、仮にK容疑者が真犯人やった場合は、並の知能犯よりも相当に賢い人間やということになる。
世の中で最も賢いのは、自分を愚か者やと他人に思わせることのできる人間やさかいな。
能ある鷹は爪を隠す。というやつや。
推理小説の犯人のモデルとしては、そういう人物は面白いかも知れんが、現実には考えにくい。
いずれにしても、事件の今後の展開に注目したいと思う。
ただ、あれほどマスメディアが騒いでいたにもかかわらず、K容疑者が取り調べに録音・録画を要求してから以降、その報道が、ここのところぴたりと止んだという感じがするのやが、ワシの気のせいやろうか。
参考ページ
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