メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第249回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2013. 3.15
■報道のあり方 その3 武器輸出三原則の例外報道から見えてくるものとは
「ゲンさんは、どう思われます?」
ハカセが、ある読者とのメールのやり取りを見せながら、そう聞いてきた。
「難しい問題やな」
ワシとしては、そう答えるしかなかった。
何が難しいのかを語る前に、まずその読者であるS氏の質問内容とハカセの回答を知らせる。
A新聞の「声」欄への投稿について
投稿者 Sさん 投稿日時 2013. 3. 8 PM 0:35
以下は、A新聞の「声」欄への投稿です。99%掲載はされないでしょうが、A新聞の余りな論点に半分は反論したいのです。
平和は続いて欲しいですが余りに平和ボケの日本は、危機管理において齟齬(そご)があるのではないか。
その原因の一つが新聞、教育などではないかと感じます。
私は、A新聞の「声」欄に数回掲載されています。ただ全部が季節の抒情ばかりです。「声」欄のほとんどが戦争反対で軍備や同盟国への批判のようです。
たしかに、米軍の不祥事、騒音のもとである飛行機などなど、沖縄への負担など問題はありますが、さて沖縄への金銭的な税金導入は報じられません。
友人が沖縄にいますが建前と本音が錯綜(さくそう)し、結論は都合の良いものであり続いているようです。
お時間を頂いて申しわけありませんが、是非ハカセのご見解を教えて頂いたらありがたいです。
以下が投稿文のコピーです。
先日の天声人語を読み、半分納得し半分は疑問符がついた。
納得したのは、武器輸出の緩和に問題ありとの内容。
しかし、そこから現憲法の精神を守るべきと言う。なぜ軍備がいけないのか、また集団的自衛権においても、戦争に結びつけるのか。
永世中立を謳うスイスですら軍隊を持ち徴兵制を敷く。
欧米の精神は、女神が完全に武装してこそ平和が守られるという。
昨今の近隣諸国の動静を見ても、平和からかけ離れた動きがますます不気味だ。
万一でも我が国に武力行使をした場合、新聞が危機管理の不足を追及するだろう。
また、万一同盟国の米国が攻撃された場合も、日本は傍観せよと言うのか。
反対に日本が攻撃されたとして米国の助けを求めるのは安全保障上当然と言うのか。
それは日本の常識だが国際社会の非常識である。
軍備や集団的自衛権が自動戦争参加装置などと言うのは、平和ボケ日本の脳天気でしかない。
何も戦争を望むわけでない。むしろ平和のために戸締まりを万全にするべきと主張しているのだ。
国境を無くせなどと言う人物にこそ、自宅の境界を他人が侵食したら怒り果てるものだ。
以上です。
回答者 ハカセ
正直、Sさんの提示された問題は非常に難しいと感じています。
Sさんの言われる『先日の天声人語』とは2013年3月4日のA新聞に掲載されたものだと思います。
公にされている事実に基づく事故や事件のニュース記事と違い、『天声人語』などのコラム記事には著作権が発生していますので、直接的な引用は控えさせて頂きます。
ただ、Sさんが『半分納得し半分は疑問符がついた』という点が何んであるかを明示しないと読者の方には分かりにくいと思いますので、私の方から簡単に説明させて貰います。
『武器輸出の緩和に問題ありとの内容』については、『戦闘機のF35が武器輸出三原則の例外になった』、という点だと思われます。
その記事です。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS01009_R00C13A3MM0000/ より引用
F35部品輸出を容認 武器輸出三原則の例外に
官房長官談話
菅義偉官房長官は1日午前の記者会見で、航空自衛隊の次期主力戦闘機F35について、紛争当事国への移転を禁じた武器輸出三原則の例外扱いとし、日本企業の部品製造への参画を容認する官房長官談話を発表した。
米国を中心に最先端の技術を結集するF35の製造への参画は「わが国の防衛生産および技術基盤の維持・育成・高度化に資する」とし、国内企業を育成する意義を強調した。
武器輸出三原則は2011年に野田政権が一部緩和した。国際共同開発への参加と人道目的の装備品供与を例外とする一方、国際紛争の助長回避の原則は維持している。
今回の談話も「日本の平和国家としての基本理念は堅持する」と明記。部品製造への参画については「日米安全保障体制の効果的運用にも寄与する」とした。
F35はロッキード・マーチン社製で、米英など9カ国が共同開発する最新鋭ステルス機。
日本は開発に加わっていないが、主翼などの部品製造に参加する方針。部品は米政府の一元管理の下、共同開発国同士で融通し合う仕組みになっている。
談話はこうした仕組みを説明し「移転を厳しく制限する」とした。
ただ、周辺国と緊張関係にあるイスラエルがF35の導入を計画しており、日本製部品を使った機体が移転すれば、国際紛争の助長を禁じる三原則が名ばかりになるとの懸念は残る。
私も、その記事にあるとおり『周辺国と緊張関係にあるイスラエルがF35の導入を計画しており、日本製部品を使った機体が移転すれば、国際紛争の助長を禁じる三原則が名ばかりになるとの懸念は残る』と考えます。
武器輸出三原則とは、国連決議により武器禁輸措置がとられた国、および紛争地域への武器輸出を禁止したものであり、その他の地域への武器輸出は慎む事とされているだけで武器輸出そのものが禁止されているわけではありません。
日本政府は、その国連決議を受け、これまで原則として武器および武器製造技術、武器への転用可能な物品などの輸出は認めないとしていました。
しかし、『国際紛争の助長を禁じる』とは言ってもそれは日本の法律で規制されているわけではないのです。そんな法律はどこにもありません。
政令運用基準という曖昧なもので、その時々の政府が自由に解釈して運用できることになっています。
過去の自民党政権では「武器輸出を慎む」と表現しているに止まり、「武器輸出の禁止」または「一切しない」という表現は使っていません。
唯一、ある通産大臣が「原則としてだめだ」と国会で答弁したケースがあるくらいです。
ただ原則というのは「例外がありますよ」と言っているのと同じで、事実、1983年の「対米武器技術供与について」の内閣官房長官談話で、アメリカへの武器技術供与は例外とされ、それ以降、武器輸出が認められるようになっています。
この例外規定は、アメリカが「紛争当事国」であっても適用されているのです。
その他、アメリカ以外の国であってもテロや海賊対策の場合は例外とされています。
つまり、『国際紛争の助長を禁じる三原則が名ばかり』というのは以前から、そうだったわけです。すでに形骸化されているのが実態だと考えます。
法律の規制がなく、政府の判断で自由にできるということであれば、名ばかり、形骸化している武器輸出三原則などを論じて追及しても何の意味もないと思われます。
武器輸出三原則を可能にするには、明確に武器輸出禁止を打ち出す政権を国民が選ぶしかありませんが、それは今のところ限りなく難しいと言う外はないでしょう。
国民は選挙で、前民主党や現自民党といった武器輸出三原則を形骸化させた政権を延々と選んでいるわけで、今後もその傾向が続きそうです。
ただ、批判的な見方をする分には構わないと思います。
形骸化された武器輸出三原則といえども建前として、それがある限り批判の対象にはなり得ますので、原則を守れと言うのは、それなりに筋が通っています。
もっとも、日米同盟でアメリカの傘の下でないと安全が保てないと考えている日本政府では、いくら批判しても結局は、アメリカの言いなり、主導ということになってしまうのは、ある意味、仕方のないことかも知れません。
日本には世界に冠たる平和憲法があり、戦争放棄を謳ってはいますが、そのアメリカの軍事力がなければ平和を維持することすら覚束ないのが現実です。
他国の軍事力のおかげで平和憲法が維持されているというのは私も疑問に感じますが、今のところ日本は、そのアメリカに頼るしかないのではないでしょうか。
理想としての平和憲法、戦争放棄は維持すべきだとは思いますが、理想と現実のギャップには厳しいものがあるのもまた事実です。
理想だけで国を守るのは難しいと。
『昨今の近隣諸国の動静を見ても、平和からかけ離れた動きがますます不気味だ』とSさんが言われておられる点についても同感です。
現在、日本を取り巻く周辺諸国との間で緊迫度を増していますので、特にそう感じます。
中国は昨年の9月以降、尖閣諸島の領有権を巡り、挑発的な行動を取り続けているため、いつ突発的な武力衝突に発展するか分からない情勢にあります。
韓国は竹島の領有権争いがもとで、あからさまに日本を敵視しています。とても友好的とは言えない状況です。
そのため、日本でも韓国を嫌う国民が増えています。
一時の爆発的な韓国ブームが、最近急速に下火になりつつあるのが、それを証明しているのではないかと。
今のところ日本、韓国の両国ともアメリカとの同盟関係があるため戦争、紛争に発展する可能性は低いと思われますが、お互いが毛嫌いしている状況が長く続けば、将来的にはどうなるか分かりません。
さらに最も危険なのが、近頃暴走気味の北朝鮮です。
ソウルやワシントンを核兵器で火の海にすると公言して憚(はばか)らず、戦争状態に突入したと宣言しています。
いくら北朝鮮が瀬戸際外交が得意だとはいっても、ここまで言い切ったことなど過去にはありませんでした。
それでも、ある事情通に言わせると、北朝鮮にはそうすることでアメリカの譲歩を引き出す狙いがあるとのことです。
しかし、そういう言動をすればするほど、アメリカは北朝鮮に対して強硬な姿勢を取るのは間違いないと思われますので、逆効果だと考えます。
アメリカという国は、日本と違い、自国に危険が及ぶと判断しただけで先制攻撃も辞さないところがありますので。
北朝鮮の出方次第では本当に、いつ戦争状態に突入してもおかしくない状況にあると言えます。
そして、そういう事態になれば日本も拉致問題を抱え、北朝鮮に対しても経済制裁を強化している関係で対岸の火事と傍観するわけにはいかないかも知れません。
北朝鮮がミサイルを日本に発射しないとは言い切れませんからね。
周辺国で比較的問題がなくなりつつあるのは、ロシアと台湾くらいではないかと思います。
ロシアとも千島列島の領有権をめぐる問題があり、どちらかと言うと今までは険悪な関係にありましたが、ここにきて様子が少し変わってきていて友好的な雰囲気さえ感じられるようになっています。
理由はロシアが日本を貿易相手、特に立地的にも天然ガスを売り込むために重要な存在だと考えているからのようです。
それは日本にとっても利益のある事として歓迎されていますので、今後その友好関係は続くものと考えられます。
台湾も尖閣諸島問題では日本に対して良くは思っていないようですが、もともとは日本に対して友好的な国なので中国などのように、あからさまな挑発はしないでしょう。
また日本が東日本大震災で被災した時、真っ先に援助の手を差し伸べてくれたということもあり、日本人の多くも台湾の人々に対しては好意的な感情を抱いているものと考えます。
そのため今後も両国との関係が悪化することは、まずないと思われます。
アメリカ頼み一辺倒だと、色々な弊害が予想されます。
本日15日にも安倍総理はTPPの参加交渉を表明するとの報道がありますが、その交渉の場で不利な条件を押しつけられても断り切れない事態が生じそうな状況です。
TPP参加に懐疑的な自民党議員から要望されている農林水産分野での「重要5品目」や国民皆保険制度などの「聖域」を守れというのは限りなく難しいのではないかと私は見ています。
おそらくは、なし崩し的にTPPの参加を強要され、実質的な関税撤廃を呑まざるを得なくなるでしょう。
アメリカとの同盟関係を維持するためには、例えそうであってもTPPに参加しなければならないと政府が考える可能性は大です。
TPP会議での決定は絶対だと言います。日本政府はその決定に対して逆らえなくなると。TPPの決定イコール、アメリカの意思と言っても良いと。
TPPへの参加は、日本がアメリカの実質上の植民地になることを意味すると言う識者もいます。
それが嫌でアメリカの干渉や支配を避けたいのなら、周辺国、特に中国との軋轢や脅威に対抗するためには自国の防衛力を強化することが必要だという意見も、あながち間違っているとは言えません。
『永世中立を謳うスイスですら軍隊を持ち徴兵制を敷く』も、自国の平和は自国民で守るという考えのもとに行われていることですからね。
『女神が完全に武装してこそ平和が守られる』というのが、まさしくそれになるわけです。如何にも西洋的な発想ですが。
中国が東南アジア諸国や日本に対して挑発的な態度で侵略的な姿勢を示しているのは、相手国の軍備を侮っているからに外なりません。
尖閣諸島がアメリカの領土であったとすれば中国も、現在の日本に対するような真似はしていなかったはずです。
もっとも、アメリカが尖閣諸島を日本の領土と認めているために、単なる挑発行為で済んでいるわけですが。
この先、日本が中国に対抗できる軍事力を本格的に備えられれば迂闊には挑発行為などしてこなくなる可能性はあります。
かつてのアメリカとソ連に代表する冷戦時代がそうだったように。限りなく危うい関係ではありましたが。
日本が今のままの平和を維持したいのなら、アメリカの言いなりであっても傘の下に隠れてご機嫌を取り続けるしかないでしょう。
今までがそうだったように。
国家として他国に頼らず自立するのであれば強固な軍隊を持つ以外に道はなさそうです。
もっとも軍隊を持つと言っても「自衛隊」自体が世界から見れば、すでに立派な軍隊ですから、今更な話だとは思いますが。
軍隊としての能力、質の高さも世界水準でも上位の方だと目されています。
ただ、中国と渡り合えるほどの戦力なのかとなると疑問符はつきますが。侮られないためには、今以上の軍事力を備えなければならないのは確かでしょう。
しかし、私は正直、そのいずれの道も選択したくはありません。
平和を維持するためにアメリカの鼻息を窺いながら暮らすのは嫌です。
アメリカ頼みということは、その力が弱まった時には共倒れの危険すらあるわけですからね。
そうかといって軍備を増強するというのも問題があります。
軍隊が強くなれば、その発言力も必ず増します。さすがに、現段階では戦前の軍部のようなことにはならないとは思いますが、同じ日本人のしたことですから未来を考えた場合、再びそうならないという保証もありません。
どんなことがあれ、戦争は絶対に避けなければいけないと考えます。
私は子供の頃、戦争に行ったという近所の大人から、その悲惨さを良く聞かされていましたし、実際にアメリカの空爆によって破壊された工場跡で遊んでいましたので、漠然とですが「戦争になるとこんなことになるんだ」と実感していました。
また、私たちの子供の頃は、ほぼすべての人が戦争反対と言っていて、戦争放棄が当たり前の社会で生きてきたということがあります。
言えば、日本人として最も平和に過ごしてきた世代なのだと思います。
ですので、戦争に発展するかも知れない軍拡競争に突入するというのは、どう考えても抵抗があるのです。
それでは、どうすれば良いのでしょうか。
正直、それが分からないから、冒頭で難しいと申し上げたわけです。
他国の干渉や支配は嫌だけど、そうかといって軍隊の増強による戦争の危険は避けたいという矛盾を抱えて。
他国との外交交渉で上手く折り合えれば良いのですが、残念ながら今の日本の政府にそれを期待するのは無理がありすぎます。
日本の経済力と民意は世界トップクラスと言われていても、政治は三流と世界中からこき下ろされているのが実情ですからね。
その世界トップクラスの民意が、三流の政治家たちを選んでいるという哀しい現実があるのです。
いずれ、その分岐点として憲法改正が論じられ、その選択を国民に迫られる日がくるかと思います。
結論を先送りするようで、まことに申し訳ありませんが、それまでにじっくりと色々考えてみたいと考えています。
ハカセに結論が出せなかったということで、ワシに、どう思うかと聞いてきたわけや。
それに対してワシも『難しい問題やな』と答えるしかなかった。
ただ、ワシは色々な意見があってええと思うとる。絶対に正しいという考えもなければ、間違っていると言い切れる主張もないさかいな。
『現憲法の精神を守るべき』と主張するのも、『軍備や集団的自衛権』を唱えるのも一つの意見やと。
そして、A新聞の論調は『現憲法の精神を守るべき』という主張になっている。
そのため、S氏の投稿文は『99%掲載はされないでしょうが』と言われとるわけや。
今現在に至っても掲載されていないとのことやから、S氏の『軍備や集団的自衛権が自動戦争参加装置などと言うのは、平和ボケ日本の脳天気でしかない』という発言をA新聞が嫌ってS氏の投稿が掲載されていないという見方もできる。
『「声」欄のほとんどが戦争反対で軍備や同盟国への批判』が多いから掲載なれないのやと。
それに対しては何とも言えんが、A新聞にその傾向にあるのはワシも認める。
ワシらはメルマガやサイトで書いたことへの批判的な意見は極力取り上げるようにしとるせいか、A新聞が一方的な主張ばかりを掲載して良しとするのはどうかと思う。
もっとも、それがA新聞の姿勢だと理解すれば、それはそれで一つの見方として受け取ればええだけの話やがな。
ハカセの言うように、近い将来、憲法改正の是非について国民一人一人が決断する日が否応なくやってくるものと思う。
昔は、戦争反対、平和憲法維持というのが当然で常識やったが、現在、中国、北朝鮮、韓国との危うい関係から、軍備の必要性を説く人たちが増えているのも間違いないと言える。
特に今の若い人たちにとって第二次世界大戦は歴史上の出来事でしかないさかい、戦争というものに実感が湧かん分、憲法を改正して軍備を整えろとの意見になりやすいという気がする。
また、同じ若い人であっても戦争反対、平和憲法維持論者も数多くいとるとは思うがな。
ワシらも、この問題について今後も取り上げていきたいと考えとるので、読者の方で意見のある方は是非、その考えを寄せて頂きたいと思う。
白塚博士の有料メルマガ長編小説選集
月額 210円 登録当月無料 毎週土曜日発行 初回発行日 2012.12. 1
ゲンさんの新聞勧誘問題なんでもQ&A選集 電子書籍版パート1
2011.4.28 販売開始 販売価格350円
書籍販売コーナー 『新聞拡張員ゲンさんの新聞勧誘問題なんでもQ&A選集』好評販売中