メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第256回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2013. 5. 3


■悪質勧誘の新たな手口について その1 偽造契約書の見破り方


「人は考える葦(あし)である」という言い古された言葉がある。

これは17世紀のフランスの哲学者、ブレーズ・パスカルという人物が自身の随想録の一節に記された言葉として有名になったものや。

ブレーズ・パスカルが、人間を「葦(あし)」と比喩したのは、その弱さを自覚して生きている様が、人の生き方と同じに思えたからだと言われている。

巨木は一見強そうで、少々の強い風くらいではビクともしない。しかし、台風などの予期せぬ強風に煽られると、頑強な巨木といえども倒れることがある。

自然の脅威に力で対抗しても勝てない。というのは誰でも知っていることではあるが、稀にそれを受け流すことのできる存在がある。

ブレーズ・パスカルは「葦(あし)」が、そうやと言っている。

葦は、風が吹くと身をまかせてしなり、一見屈服して倒れたように見えるが、風が止まると、再びもとの姿に戻る。

日本風の表現で言えば「柳に風」といったところやろうと思う。

もっとも、柳は木やから強風で倒れることもあるが、草である「葦(あし)」は徹底して風を受け流すさかい、地面に臥すことはあっても折れて倒れることはない。

人間も自然の猛威に対しては弱いが、他の生き物に比べると遙かに柔軟性があり、何があっても屈しない強靱な精神力を持っている。

さらに「考える」ことで、どんなに叩かれようと、打ちのめされようと復元する力を持っている。

そういう意味を込めて「人は考える葦(あし)である」と言うてるのやろうと思う。

人は考えるという武器を持ち得たからこそ、生き物としては弱者の部類でありながら地上最強の生物になれた。

それほど人間は素晴らしい存在やと言いたいのは分かるが、哀しいかな、その力を正しく使わない者たちがいるのも、また事実である。

その持ち得た武器で、傷つけ合い殺し合う者もいる。同じ仲間の人間を騙し、陥れる者もいる。

その意味では「葦(あし)」とは比べものにならないくらいタチが悪い。「葦(あし)」は、けっして仲間を攻撃したりはせんさかいな。大違いや。

今回は、そのタチの悪い者たちに絞って話をしようと思う。

新聞業界でタチが悪いと言えば、言わずと知れた「悪質な勧誘員たち」や。

最近では、新聞社や新聞販売店の「正常化の流れ」による運動などで、かなりの数、そういった悪質な勧誘員は激減しているが、全滅までには至っていない。

今は「葦(あし)」の如く地にひれ伏し、時を見て立ち上がる機会を窺っている。

悪質な勧誘員という言い方が悪ければ、昔ながらの違法な拡張を続けている者たちと言い換えてもええ。

その連中が再び力を盛り返そうとしている理由は、何と言うても歯止めのかからない新聞購読部数の減少にあると言える。

新聞社もやが、新聞販売店、新聞拡張団も新聞が売れなければ、やってはいけない。

新聞社の大半は赤字経営を余儀なくされているし、新聞販売店、新聞拡張団も毎年、減少の一途を辿っている。このままでは座して死を待つ外はない。

理想や綺麗事ばかり唱えていても腹は膨れない。まずは契約を確保することが第一やと考える業界関係者が増えている。方法の是非は、その後やと。

そこで俄に脚光を浴びつつあるのが、新たな勧誘手口をひっさげた連中や。

彼らの中には、過去の喝勧やヒッカケ、置き勧、爆行為といった違法性の高いやり方には限界を感じているさかい、独自に新たな手口を考え出そうとする者も少なくない。

結果、法に触れないぎりぎりの線、もしくは法に触れていることさえ察知させない方法を編み出しつつある。

昔なら、それらの手口は深く潜行していて、表面化する頃には、どうにもならない勢いで蔓延っていたものやが、今はネットがあるから、そうもいかない。

特に、ワシらのサイトのQ&Aには、そういった兆候が如実に表れるさかい、ワシやハカセの目をかいくぐって、それらのやり方が浸透するのは難しいのやないかと思う。

もっとも、如何にワシらでも初期の頃は、それと気づくことなどできんかったがな。当然やが、そういうのは特殊なケースとしか映らんさかいな。

「考える葦(あし)」に倣って現状を打破しよう、復活しようという姿勢は買える。

しかし、それに悪質性が備わってしもうては「考える葦(あし)」とは言えない。

葦を滅ぼす毒草以外の何ものでもない。毒草が蔓延れば、その場所には生き物が寄りつかなくなる。

単独で生きていける生物など自然界には存在しない。また、そんな生き物は自然界の方でも必要としない。遅かれ早かれ滅ぶ。

結果として毒草が滅べば周りの正常な草たちまで巻き添えを食うことになり、土地そのものが、それこそ草木一本生えない荒れ地と化してしまう。

悪質な勧誘員が蔓延れば、正常な勧誘員たちも同類と見なされ、購読者から相手をされなくなり、結果、新聞離れが加速し、新聞そのものが滅ぶことになるという理屈や。

そうなれば自身の生きる道も途絶えてしまう。もっとも、その毒草や悪質な勧誘員たちは、その日1日を生き抜くことしか考えていないから、それに気づこうともせんがな。

寄生主を冒すウィルスに似ている。その毒が強すぎれば寄生主を殺し、結局、自身も破滅の道を辿ることになるのやが、ウィルスにはそんな事など考えられんというのと同じやと思う。

悪質な勧誘員に寄生されている新聞業界としては、何としてもそれを排除して滅びの道だけは回避しなくてはならない。

それには悪質な勧誘員であるウィルスを取り除けばええわけやが、何分にも彼らは深く潜行していて、それと気づかれにくいやり方を覚えてしまっているから、簡単にその正体を明かさない。

厄介な事この上ない連中やと言える。

昔なら喝勧やヒッカケ、置き勧、爆行為には定番とも言えるやり方が大半を占めていたから、発覚しやすく駆逐されやすかった。

そこで一部の悪賢い知恵者は、一見、それとは知られない方法を編み出したわけや。

それは薬の効き目に絶える耐性ウィルスのように強力なものやった。

しかし、深く潜行して発病すると命取りになるウィルスでも、まだ勢力の弱いうちに見つければワクチンとして使える。

その意味を込めて、現時点で入手している情報をもとに、それらの方法の一端を明かそうと考えたわけや。

まず、その第1回目として「偽造契約書」について話すことにする。

「偽造契約書」というのは「てんぷら(架空契約)」として広く知られているが、従来のやり方とはまるで違う。

「偽造契約書」でありながら、「偽造契約書」とは見抜かれない方法を採っている。

やり方自体は単純やが、それを「偽造契約書」と見抜くには、それなりの知識と経験が必要やから、仕掛けられた一般の購読者にとっては厄介やと思う。

それらの方法による被害者の方々からQ&Aに数件の相談が寄せられているのやが、なぜか非公開を希望されているさかい、今のところ陽の目を見ることがない。

それではあかんと考え「特定されない」ことを条件に、ある相談者に掲載の許可を貰ったので話すことができるわけや。

前置きが長くなったが、それでは始めさせて頂く。

その家の主婦、ヤスコは、3ヶ月ほど前、「留め押し」と呼ばれる継続依頼にやってきたその販売店のアキカワという男に「更新はお断りします。契約期間が終ったら、新聞はもう入れないで」とはっきり言っておいた。

それまでは1年毎に契約を更新していたが、今回は継続する意志がないことを伝えた。

もちろん、継続の契約書にもサインなどはしていない。当然、その控えなども持っていない。1年前までのものは、昔から残してあるので今年の分だけがないというのは不自然やとヤスコは言う。

アキカワは「分かりました」と言っておとなしく引き上げて行った。それで終わったとヤスコは思っていた。

ところが、契約期間が終了しても、一向に新聞の投函が止まる気配がない。

ヤスコは、その販売店に「契約が切れているはずなので、新聞は入れないでください」と抗議の電話を入れた。

すると、その販売店から「いえ、そちらのご契約は更新されていますよ」という信じられない答が返っきた。

「そんなはずはありません。アキカワさんには、ちゃんと更新はしませんとお伝えしました」

「そうですか。分かりました。その件につきましては担当のアキカワに確認しますので」ということになった。

数時間後、そのアキカワが家までやって来た。

「更新はお断りしたはずですよ」と、ヤスコ。

「いえ、購読の更新契約は頂いています」と言いながら、契約書のコピーをヤスコに手渡した。

その契約書には、ヤスコの筆跡と思われるサインがされていた。今年の○月から1年間の契約になっている。

サインは自分の字のようだが、ヤスコには覚えがない。覚えているのは、ちゃんと断ったということだけや。

「3ヶ月も前のことですし、忘れたんじゃないですか。それに、僕はその時、サービスの洗剤も渡したはずですよ」

確かに、その時、洗剤を貰った。それは覚えている。

「でも、それは今まで長い間、新聞を取っていたので、その感謝の印としてのサービス分だと仰ったではありませんか」

「奥さん、それは何か勘違いされておられませんか。確かにあの時、僕はそう言いましたが、それは今まで長い間、新聞を取って頂いているので、いつもより余分に洗剤のケースをお渡しするから更新をお願いしますという意味で言ったのです。実際にいつもより多めに洗剤を渡したはずですよ。それに納得されて気持ちよくサインされたではありませんか」と、アキカワは譲らない。

「それは嘘です」

「嘘ではありません。事実、奥さんが書かれた契約書がここにあるのですから」と言って、アキカワが契約書のコピーを指さす。

「でも……」

ヤスコには契約などしていないはずだという思いが強いが、こうして証拠の契約書のコピーを持って来られ、自信ありげにそう言われると、その場でそれ以上、言い張ることができなかった。

もしかすると、本当に再契約に応じていて忘れているのかも知れないと考えたからだ。

ヤスコが更新しないと宣言した時、確かにアキカワはしつこいくらいに翻意を促していた。

アキカワの言うように『今まで長い間、新聞を取って頂いているので、いつもより余分に洗剤のケースをお渡しするから更新をお願いします』と言っていたのを、ヤスコが『今まで長い間、新聞を取って頂いているので、その感謝の印としてのサービス分です』と聞き違い、勘違いした可能性もある。

そして、現実に洗剤を受け取っている。

冷静に考えれば分かるが、勧誘に来た者が、『今まで長い間、新聞を取って頂いているので、いつもより余分に洗剤のケースをお渡しする』と言うことなど考えにくい。というか、この業界でそんな事などあり得ない。

それが言える立場の人間は、その販売店のトップか全権を任されている者だけや。そして、その人間でそんなことをする者は殆どいない。少なくともワシは聞いたこともないさかいな。

勧誘員にとって販売店にどれだけ利益があろうと、あまり関係のないことやと考えるのが普通や。

勧誘員は契約を上げることでしか利益を得られない仕組みになっている。拡材と呼ばれるサービスは契約を貰った客にしか与えてはいけない決まりがある。

従って、一勧誘員が契約も得られない客に対して、過去の実績により、そのお礼としてサービス品を渡すことなど、この業界では考えられないことやと言える。

しかし、世の中には、そうする業者も多いということで一般の人は、それに対して疑問を差し挟まないのが普通や。ヤスコもそうやった。

結局、その場はそれで納得した形になってしまった。

しかし、アキカワが帰った後、ヤスコはいくら考えても納得できなかった。

ヤスコは記憶力には自信がある。今まで人と交わした約束を忘れたことなど一度もないと言う。

『更新はお断りします。契約期間が終ったら、新聞はもう入れないで』と間違いなく言ったし、それにアキカワは「仕方ありませんね」と納得していたことをはっきり覚えている。

そして、『今まで長い間、新聞を取って頂いているので、その感謝の印としてのサービス分』と言っていたのも間違いない。

そうでなければ、あの時、洗剤など受け取らない。当然、その流れで契約書にサインすることもあり得ない。

今は、その時の状況を鮮明に思い出している。ヤスコの記憶に間違いはないと確信している。

それなら、なぜここに書いてもいない契約書のコピーがあるのか。それも筆跡を見る限り、自分のものに間違いなさそうな契約書が。

もしかすると、偽造されたのか。ヤスコの筆跡を真似て販売店の誰か、おそらくはアキカワが書いたのだろう。

嵌められたのか?

そう考えるとヤスコは段々、腹が立ってきた。

今回のことを認めてしまったら、これからもこういうことが続き、永遠に新聞を止めることができなくなる。

その危惧が強い。

ここは何としても認めるわけにはいかないとヤスコは考えた。

ただ、どうすればいいのか分からない。販売店に言っても無駄に思える。

ヤスコは、まず新聞社の苦情係に電話した。

しかし、新聞社の苦情係の担当者は「契約の事でしたら新聞販売店にお話ししてください」と言って話を聞こうともしない。

次に消費者センターに電話した。事情を話すと担当者と名乗る女性が丁寧に対応してくれて話を聞いて貰えることができた。

その後、「お話はよく分かりました。相手方の新聞販売店にも確認しますので」と言って一旦、その電話を切った。

しばらくして、消費者センターの担当者から「相手方の新聞販売店では、確かにあなたから契約を頂いていて、そのためのサービス品も渡しているので契約は成立していると言われています。そのあたりのところはどうなのですか」という返事が返ってきた。

「サービス品は、過去の契約分のお礼ということで貰った物です」

「契約書は?」

「コピーを持って来ました。私の筆跡に似ていますが、サインした覚えはありません。偽造されたのだと思います」

「偽造されたという証拠か根拠が何かありますか」

「それは、ありません。でも私はサインしていないのですから、それ以外には考えられません」

「お気持ちは分かりますが、それではこちらとしては相手方に強くは言えないのです」

消費者センターの担当者は押し問答になるだけでラチがあかんからやと言う。

消費者センターは行政機関やさかい、明らかな違法行為でもなければ行政指導などの対応はできない。

ヤスコの場合やと、契約書が偽造されたという証拠が必要になる。

それがなければ、契約書が存在し、その付加としてサービス品を貰っているという事実から見て「契約が成立している」と判断するしかないということや。

八方塞がりやった。ヤスコはそれでも何か方法はないかと根気よくネットを検索した。

そして、ワシらのサイトのQ&Aを見つけ、藁をも縋る思いで相談してきた。

ただ、その頃にはヤスコは、過去の契約書の控えと販売店が持ってきたコピーの筆跡が酷似しているという事実に気がつき、相談文に、そのことが触れられていた。

その時のワシの回答や。


回答者 ゲン


『過去の契約書の控えと販売店が持ってきたコピーの筆跡が酷似している』ということやが、それがどの程度なのかが分からんさかい何とも言えんな。

ただ、現時点では、その消費者センターの担当者の言うとおり証拠がなければ、その契約を拒否するのは難しいという外はない。

裏を返せば証拠があれば、あんたの正当性が証明されることにもなるということや。

あんたのケースに当て嵌まるか、どうかは分からんが、過去に似たような事案があった。

もっとも、あんたと同じく「非公開」を希望されているので詳しいことは言えんがな。

せやから、あくまでも仮定の話として聞いて欲しい。

『過去の契約書の控えと販売店が持ってきたコピーの筆跡』というのが、まったく同一の場合は、過去の契約書を偽造した可能性が高い。

それを見破る方法として、過去の契約書と今回届けられたという契約書のコピーを重ね合わせて見られたらええ。

一字一句どんぴしゃ重なるという場合は、偽造契約書と判断して、まず間違いないものと思う。

筆跡というのは個人を特定する上で重要な要素になるが、同じ人物が書いた同じ文面であっても、まったく同じ文字が書けることなどあり得ないとされている。

同じ人物の書いた同じ文字であっても「個人内変動」というのがあるのが普通やからや。

重ね合わせて透かして見ると、同じ文言を書いた文章でも、たいていの場合、違っている。

個人が字を書く場合、同一人が過去に執筆した一文字の場合であれば寸分違わぬ文字を書く可能性は僅かながらあるというが、氏名や住所など「文字列」として完成された文節の筆跡が、まったく同じ状態で執筆される可能性は極めて低いというのが、筆跡鑑定家の共通した認識になっとる。

この場合は「個人内変動」ではなく、透かし書きなどの偽造の可能性が高いと考えられるとして、実際の警察の捜査でも疑われることやという。

つまり、あんたのケースで、筆跡が似ているだけではなく、まったく同じ文字列になっいるというのであれば、その文字列が長くなれば長くなるほど、同一のものになるのは天文学的な確率が必要になるということや。

字には筆跡だけやなく、筆者のその時々の精神状態、置かれた状況により筆勢、筆圧の違いがその都度表れ、字の大きさも一定しないのが普通や。

さらに筆記用具による字の違いというのもある。

それらすべての状態が一致して同じ文面で同じ大きさの文字列が書けることなど、まずないと断じることができる。

つまり、名前の文字が、すべてまったく同じということはあり得んということや。

ワシが、『どんぴしゃ重なるという場合は、偽造契約書と判断して、まず間違いないものと思う』と言うのは、そのためや。

そのことを指摘して、その販売店に『頂いたコピーをこちらで調べたところ、過去の契約書を日付の部分だけを変えた偽造契約書と判明しました。そんなものは認められませんので、新聞の投函は速やかに止めてください』と言えばええ。

その販売店が、それで引き下がれば良し、そうではなく「偽造などしていない」と、あくまで言い張るのなら、「それでは、このことは警察に相談しますので」と言うて、本当に最寄りの警察署に相談に行かれたらええ。

そこまで言えば、「まずい」と考える販売店なら、「分かりました。もう契約は結構です」と言って、あっさりあきらめる場合も考えられる。

もちろん、あくまでも「偽造ではないので、どうぞ」と言うケースもあるが。

ちなみに、その時の会話は録音しておかれることを勧める。

警察署に相談に行かれる場合は、直接、刑事課に行くのやなく、まず「市民安全課」、「市民相談課」といった所に相談されることを勧める。

すべての警察署がそうやと言うわけやないが、一般的に刑事課という所は、なるべく事件を少なくしようとする傾向にあるため、取り立てて被害らしきものがない現状での相談事は、例えそれが刑法第159条の「文書偽造の罪」に該当するものであっても動かん場合が考えられる。

その点、「市民安全課」、「市民相談課」といった部署は市民へのサービスを目的として設置されているから、親身に話を聞いて貰える可能性が高い。

「市民安全課」、「市民相談課」の係官は、その警察署でも地位の高い警察官やベテランが配置されているケースが多いから、ワシが説明したようなことを言えば、すぐにそれと察知して、相手の販売店にそれとなく注意するはずや。

そこまで行けば、よほどの販売店でもない限り折れるものと思う。とはいえ、偽造契約書を平気で持って来るくらいやから、相当にタチが悪いということも考えられるがな。

それでも、引き下がらないようであれば、新聞社に警察に相談に行ったという事実を伝えることや。

警察も偽造の疑いがあると認めましたと。

それでもラチかあかんようなら、内容証明郵便で、「私はそちらと契約した覚えはなく、そちらから届けられた契約書のコピーは明らかに偽造されたものですから、新聞を投函されても支払いには一切応じられません」と書いた文書を送付するという手もある。

現時点では、あんたの方には具体的な被害が出ていないので裁判に持ち込むことはできんが、新聞代金を支払わないと通告することで、その販売店が新聞代金の請求するために裁判所に訴えるというケースが考えられる。

そうなれば、文書偽造を理由に戦える。

そして、『過去の契約書と今回届けられたという契約書のコピーを重ね合わせて、どんぴしゃ重なる』という場合は、偽造契約書として法廷の場で主張すれば、かなりの高確率で勝てるものと思う。

もっとも、今のところ、そこまでする販売店はないがな。そうかと言うて絶対ないとも保証はできんが。

参考までに、裁判で訴えられると何か大変なことのように一般の人は考えがちやが、このケースは民事裁判やから大したことはない。

それが心配なら、当サイトに『第113回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■民事裁判への考え方』(注1.巻末参考ページ参照)というのがあるので、見ておかれたらええ。

物語風に分かりやすく説明しとるさかい参考になるものと思う。

まあ、そこまで考えなあかんケースは、あまりないとは思うが、例えそうなっても心配されることはないと言うとく。

この先、さらに問題が拗れるようなら、いつでも相談されたらええ。

ただ、どうされるかは、あくまでもあんた自身の判断で決めて欲しい。いくらでもアドバイスはするさかい。


その回答後、ヤスコはメールに『過去の契約書と今回届けられたという契約書のコピー』をそれぞれスキャンして映像化したものを添付資料として送ってきた。

ハカセがそれを調べたところ、まったく同一のものやと分かった。

何のことはない、その販売店が持ってきた『契約書のコピー』が動かぬ証拠になったわけや。

ワシの予測したとおり、『過去の契約書を日付の部分だけを変えた』ことが明らかやった。

そのことをヤスコに教えると、ワシが回答で説明したままのことを、その販売店に伝えたという。

すると、翌日から嘘のように新聞の投函が止まったとメールで知らせてきた。

ワシも確信があったわけやないが、そういう方法もあるのやないかと、薄々感じてはいた。

それにしても誰が考えて、どの程度まで広まっている手口なのかは定やかやないが、こういったやり方が深く潜行しとるのだけは確かなようや。

他にも非公開ながら同じような相談があるさかいな。

この方法やと、ワシらのように現物を対比して調べん限り、それが偽造契約書かどうかを見抜くのは難しいと言うしかない。

過去において、一般的な偽造契約書は、勧誘員が契約者になり代わって書いたというケースが大半を占めていた。

筆跡が違うという段階で、偽造契約書と断定できた。

それが今回は、本人の筆跡で表面的には違法性がないかのように装っていたわけや。

これやと新聞社の苦情係の対応や消費者センターの対応に限界が生じるのは無理もないと思う。

違約者も「勘違いでは」と言われれば、「そうかな」と引き下がる人もおられるやろう。それも狙いの一つやとは思う。

ワシが、『やり方自体は単純やが、それを「偽造契約書」と見抜くには、それなりの知識と経験が必要やから、仕掛けられた一般の購読者にとっては厄介やと思う』と言うた意味が、それや。

しかし、中にはヤスコのように納得のできない人がいる。そういう人たちが最後にワシらに頼って来られるわけや。

結果として、今回は上手くいった。

もっとも、その販売店でも発覚するリスクは最初から、ある程度知っていたはずで、バレたらさっさと手を引くというのも折り込み済みやったのかも知れんがな。

あるいは、徹底して拒否された場合にも比較的簡単に撤退するつもりやったのかも知れん。

そうすることで、この手の手口が発覚されにくくなるさかいな。

徹底して揉めれば、そのコピー元の提示を求められる。今回のケースは、そのコピー元の契約書に手を加えたのは間違いないはずやから、それを見せるわけにはいかないと考えたというのもあるやろうと思う。

契約者が要望していないのにコピーを持参してきたというのは、用意周到にその準備をしていたとも考えられるさかいな。

いずれにしても、その販売店が、あっさり折れたことで、その先の追及ができんようになったのは確かや。

ただ、今後は、このメルマガで事案として紹介したから、同じ手口を使うのは難しくなったとは思う。

おそらくネットで『偽造契約書の見破り方』をキーワードに検索をかければ、このページなり、メルマガスタンドのバックナンバーなりが上位で表示されるはずやさかいな。

今回のように上手くいくかどうかは分からんが、今後もなるべく『法に触れないぎりぎりの線、もしくは法に触れていることさえ察知させない方法』を見つけたら、同じように暴いていきたいと思う。

奴さんらの手口は、契約部数を増やす、または減らさないための一時的な薬にはなるかも知れんが、危険な劇薬、毒であることに代わりはない。

危険な劇薬、毒を使い続ければ、いずれ身を滅ぼす。結果として、自らの首を絞めることにしかならんわけや。

ワシもこの業界でメシを食うとる人間やさかい、それだけは阻止せなあかんと思うとる。

同じ『考える葦』なら、もっと建設的で誰からも文句の言われない、真っ当なやり方を考出して欲しいもんやと切に願う。



参考ページ

注1.第113回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■民事裁判への考え方


追記 メルマガの件での意見です

投稿者 Jさん  投稿日時 2013. 5. 6 AM 9:30


「新聞がピタッと止まった」まではいいとして、私文書偽造という明らかな犯罪を犯しておいて、いけしゃあしゃあと、騙した客の近所で営業を続けている販売店の心理が、どうにも理解できません。

やったのは担当者個人であったとしても、社会的に店ぐるみであったことは、言い逃れできませんし、なにより、その当時者からウワサが流されたらまずいと思わないんでしょうかね?

何より、永い間、自分のお得意さんだった人を罠に陥れるんですから、バカとしか言いようがありません。

逆に言えば、ゲンさんがメルマガの冒頭で説明されたように、そこまで経営が追い込まれている店が出てきている時代になってしまったということなんでしょうか。

私も自営業で、小さい店を構えていますが、固定的に店を構えているからこそ、正直な営業を心がけているという理屈をお客様に説明し、信頼を得てきました。

だからこそ、そういった悪行をやったら即アウトだと思っています。


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