メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第259回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2013. 5.24


■自民党憲法改正案の是非 その3 公団でのペット飼育に関する考察


3年ほど前、三重県の公団住宅でのペット飼育問題を当メルマガでシリーズ化したことがある。(注1.巻末参考ページ参照)

その反響は予想以上に大きく、様々な意見が、ワシらのサイトや懇意にしている市民団体に寄せられた。

その主なものを公団での『ペットの飼養を容認する意見』、『ペットの飼養に反対する意見』に別けて紹介する。


公団でのペットの飼養を容認する意見


○人間の尊厳を尊重し、アニマルセラピーの本質と動物愛護の観点等を理解しつつ、法律の検証を含め、動物の練習及び飼育方法の研鑽が肝要。

○しつけの点で動物を飼育する側にも問題はあると思いますが、やすらぎという事でお年寄りにはいい事だと思います。

○動物を好きという理由でなく本当に必要とする人ならば考慮するべき。

○1人暮らしが多くなった現在、ペットの存在は大きくなりつつあると思います。心の頼りにしている人も多いと思います。生きる気力も与えてくれているはずです。ペットは大切です。

○人の命でも動物の命でも同じ。

○動物は本当に人間をやさしくしてくれる。

○やむを得ず引き取らざるを得ない場合(親が飼っていて亡くなった時)等があるため、一律に処分というのは考えてほしい。

○今子供を産み育てる家庭よりもペットを飼う家庭のほうが多くなりつつあるのに全くペットを飼うのをダメにするのはどうかと思います。

○モラルを守ればOKです。

○マナーの悪い人がいてきちんと飼育している人へ迷惑かけてる。

○仮に今飼っているペットの事で近所からはっきり苦情が出ていてその人が迷惑かけないよう努力しない場合のみ退去させるべきではと思います。


公団でのペットの飼養に反対する意見


○動物アレルギーにも配慮が必要だと思う。

○ネコとかも放し飼いにしないでほしい。危険だし、駐車場にウンチがしてあり踏んで嫌な思いをした。同じ家賃というのもおかしいので追加料金を取ってほしい。

○団地の回りを散歩させていて糞等をしても処分しなくてそのままにしています。大変こまります。

○夜中でも階段をあがっていくと鳴くから迷惑だと思う。

○イグワナや人間をおそう動物飼うのは禁止してほしい。

○自分が好きだからといって、他の人も好きとは限らないという認識がない。

○同じ階の人に了承を得るべき。トラブルの原因になる。

○飼育は絶対すべきでない。臭い。うるさい。近所迷惑この上なし。即退去。

○私は猫アレルギーです。臭いや抜け毛すら反応し病院へ行く始末です。ですから2Fや3Fで猫がいてどれほど迷惑しているか考えて頂きたいです。

○犬をベランダで飼っている人がいるけれど人が通ったり、動物がいるとよくほえるし、又これからハエが飛ぶので衛生的にも悪い。


というものや。どちらの言い分にも、それなりに理がある。

当時、ワシらが調べた際の印象では、公団の入居者はペットの飼育に否定的な意見が大半を占め、それ以外の一般の人たちは公団でのペット飼育には寛容やったように思う。

もっとも、それについては公団の入居者でペットの飼育をしている人は1割未満しかおらず、一般の人のペット飼育率が4割弱程度あるというのも影響しとると考えるがな。

公団の入居者と一般の人とでは温度差があると。

公団などの集合住宅でのペット飼育に関する世論調査に関しては、国の機関、内閣府大臣官房政府広報室が平成15年に発表した『動物愛護に関する世論調査』(注2.巻末参考ページ参照)というのがある。

その中に『表17 集合住宅におけるペットの飼育』という項目があり、それによると、集合住宅内であっても「一定のルールを守れば飼っても良い」が58%で、「飼ってはいけない」の36.6%を大きく引き離しているという世論調査結果が出ている。

それからすると、国民の半数以上は、公団であっても一定のルールさえ守ればという条件付きながら、ペットの飼育を容認する方向にあると言える。

三重県の公団住宅でのペット飼育問題では、ペットを飼っている入居者に対して、ペットを取るか、住居を取るかの二者択一を迫る誓約書の提出を求めていたが、ワシらの仕入れた確かな情報によると、「誓約書」を提出したのは14件やった。

これを多いと見るか少ないと判断するかについては意見の別れるところやが、ワシは意外に少なかったと見る。

三重県の公団住宅の入居者は約3500世帯で、ペットを飼っていると判明した世帯が212世帯やったという。

更に、そのうちの14世帯のみが「誓約書」を提出したということは、残りの198世帯の人たちは応じなかったということになる。大半の人が無視した格好になっている。

その後、「誓約書」の提出に応じなかった人たちが、どうなったかといえば、どうにもなっていない。今も尚、そのペットたちと平穏に暮らしておられるとのことや。

これは全国的にも言えることやが、単に「ペットを飼っている」という理由だけでは、公団から退去させることはできんということや。

少なくとも、現行の法律では、そうや。

現在、全国の殆どの公団管理事務所では『公団住宅のペット飼育は規則で禁じている』という姿勢を採っている。

その根拠の大半は、入居時に渡される「入居のしおり」で、それに「動物の飼育は禁止」と謳ってあるからやという。

しかし、これには法的拘束力は何もない。

なぜなら、「入居のしおり」は契約書ではなく、単なる注意事項、お願い事を記した案内書にすぎんからや。

辞書によると、「しおり」というのは、「栞」と書けば書物の間に挟んで目印とするもので、「枝折(り)」だと山道などで、木の枝などを折って道しるべとすること、とある。

そこから、簡単な手引書、案内書という意味で使われるようになったと。

つまり、公団事務所はその「しおり」という言葉を使うた段階で、自らソフトなイメージを演出し、法律とは無縁であることを鮮明にしたわけや。

当然のことながら、その「入居のしおり」に違反したからと言うて、「強制退去」などの法的処置が執れるはずなどないわな。

それでも、三重県の場合、平成22年6月30日発行の「第50回県営住宅だより」の中では、『(5)犬、猫など動物を飼わないでください。指導に従わず、エサやりや飼育を続ける場合は、明渡請求、法的措置を行うことがあります』と脅かしとも取れる記述があったがな。

他の公団でも似たような文言のチラシの配布があったと聞く。

公営団地への入居は、貸し主である公団と入居者個人との間で交わされる賃貸契約で成り立っているさかい、「規則」とする限りは、その中で、はっきりと『犬、猫など動物を飼うのは禁止』と謳うとく必要がある。

しかし、多くの自治体の住宅条例では、「迷惑行為の禁止」として、「入居者は、周辺の環境を乱し、又は他に迷惑を及ぼす行為をしてはならない」とあるだけで、それらの条例のどこにも、ペットの飼育禁止についての記述はなく、それに関連した条項も含まれていない。

もっとも、公団側は拡大解釈により「ペットの飼育」も、その「迷惑行為の禁止」になるという判断のようやが、単にペットを飼っているだけで、その条文を適用するには無理がありすぎる。

「ペットの飼育」=「迷惑行為」とは絶対にならんさかいな。

それやと、世間一般のペットを飼っておられる人のすべてが「迷惑行為」をしているということになる。

ナンボ何でもそんなアホな拡大解釈はないわな。

当然やが、公団でペットを飼っている人も居住権を有した正当な入居者や。法律の保護はもちろん、その人権や権利も尊重され、保証されなあかん。

民主主義というのは大勢の意見だけで成り立つ社会では絶対にない。少数といえども、その意見、考えは尊重されてしかるべきやさかいな。

しかし、公団側のそういった姿勢には、その『動物を飼育している』住民も一市民で一入居者やという配慮の欠片も感じられない。ただ排除することしか頭にない。

あたかも『動物を飼育している』こと自体が大変な犯罪を犯しているように扱い、対応しとるわけや。そんなことが許されて、ええはずがない。

公団での『動物の飼育禁止』を法的に有効とするためには、各自治体の住宅条例の条文に、それを加える必要があるが、そうすると憲法第13条に抵触するおそれが生じる。

その憲法第13条には、

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

とある。

この中の『幸福追求に対する国民の権利』に照らせば、犬や猫などのペットを飼うことは、その基本的人権の一つとして認められるという解釈が成り立つ。その解釈を支持する法律家も多い。

現在、三重県の公団住宅でのペット問題が下火になり、行政側が強硬な姿勢に出られず膠着状態になっているのは、そうしたことがあるからやと思う。

そして、それは全国的な流れ、趨勢になっていると。

そう考えていたのやが、ここに来て、またぞろ各地の行政が「公団でのペット飼育禁止」に積極的に乗り出してきたという情報が、ワシらに寄せられてきた。

まず、初めに、兵庫県のある公団住宅にお住まいの方から、


件名 公共住宅のペット飼育の是非についての記事

投稿者 Sさん  投稿日時 2013. 4.27 AM 7:52


今、当住宅でも全く同じ事がおこっています。私は犬を飼っているのでみんなに記事を見せたいと思っています。

バックナンバー第125回の分をコピーして使わせてもらってもいいでしょうか。

よろしくお願いします


というメールを頂いた。

それに対してハカセは、すぐに、


S 様

『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』のサイト管理者、白塚博士と申します。

メールを寄せて頂き、まことにありがとうございました。

> 今、当住宅でも全く同じ事がおこっています。
>私は犬を飼っているのでみんなに記事を見せたいと思っています

> バックナンバー第125回の分をコピーして使わせてもらってもいいでしょうか。
>よろしくお願いします

お役に立てるようでしたら、どうぞ、ご自由にお使いください。

上記以外にも、

第116回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について

第119回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 2

第130回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 4

第152回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 5

などがありますので、読まれて参考になるようでしたら、そうしてください。

他にも情報はいろいろありますので、そちらの事情などを教えて頂ければ、微力ながら、お力になれることがあるかも知れません。

もしそれらの情報がご希望でしたら、いつでも結構ですから、ご都合のよろしい時にでもご連絡ください。


と返信した。

しかし、その後、約1ヶ月になろうとしてるが、未だに何の返事もない。

メルマガの内容を使用したいとわざわざ断ってこられるような律儀な方が、何の返事もされないというのは考え辛い。

その可能性があるとすれば、こちらが無視したと受け取った、あるいは、コピーして使うことをワシらが拒否していると誤解されとるかのいずれかやないかと思う。

それからすると、どうもハカセの返信メールが先方には届いていないと考えた方が良さそうや。原因は分からんが、時折、そういうケースがある。

たいていは、受信する側のパソコンや携帯電話で、こちらのメールを拒絶する設定になっとる場合が多いようや。

もし、これをSさんが見ておられたら、その設定を解除するか、他のメールアドレスから連絡して頂けたらと思う。

ついでに、ワシらにメールを送ったにもかかわらず返信がないという方も同様にそうして欲しい。

ハカセは、どんなに忙しくても一両日中には返信メールを出すよう心がけとるので、返信がない場合は、何らかのアクシデントがあった可能性が高いさかいな。

次に、


件名 公営住宅のペット問題の考察依頼です

投稿者 佐藤さん  投稿日時 2013. 5.11 AM 0:40


突然メールで失礼いたします。

ただいま、大阪市営住宅のペット一律禁止化問題について調べており、三重県の県営住宅のペット問題について書いておられたゲンさんのブログにたどり着きました。

お陰様で、後に活動主体になったグリーンネット(注3.巻末参考ページ参照)さんにもたどり着くことができました。

ブログを拝見しまして、ゲンさんが考察を進めておられ、最終的にC新聞の立ち位置等も考察されているので、その調子で大阪市の問題も言級していただけたらと思いました。

いろんな切り口がある面白いブログ記事になると思います。

もしもご興味を持っていただけるようでしたら、お気軽にご連絡下さいませ。

御返事いただけましたら幸甚です。


というメールが寄せられ、それについてもハカセは早速返事をした。

こちらは連絡が取れ、その後、幾度かのやり取りの末、いろいろな情報を教えて頂いた。

そして、サイトの『ゲンさんのちょっと聞いてんか NO.20 「大阪市営住宅でのペット飼育禁止指針等の策定」中止を求める要望書への署名のお願い』(注4.巻末参考ページ参照)で、その運動の紹介をするに至った。

その中に、


2012年にペット飼育により迷惑を被っている市営住宅住民より「犬や猫の飼育に関する陳情書」が提出されました。

11月の消防計画委員会で東淀川区選出自民党議員床田正勝議員が取り上げ、これを受けて大阪市都市整備局が3月14日の予算委員会で「動物飼育の原則禁止、例外事項、啓発、指導等を具体的に規定するための要綱なり指針等の整備を行っていきたいと考えております。」と回答しました。


という記事があったので、今回はそれに注目したいと考えた。

この『東淀川区選出自民党議員床田正勝議員が取り上げ』た内容というのは、


2013年2月23日発行の読売新聞 より引用

ペット禁止市住入居8.5%で飼育


 大阪市は22日の市議会計画消防委員会で、ペット飼育を禁じた市営住宅の入居世帯の8.5%が犬や猫などを飼っている、との調査結果を明らかにした。

 床田正勝議員(自民)の質問に答えた。市は昨年12月〜今年1月、約750ある市営住宅自治会のうち約240を調査。3万2120戸中、2730世帯がペットを飼っていることがわかった。

 飼育数は約8割の世帯が「1匹」だったが、「5匹以上」と回答した世帯が35あった。自治会では約半数が「トラプルはない」とした一方、17自治体ではペットに絡む苦情が年10回以上寄せられていると答えた。

 市は、鳴き声などが迷惑になる可能性があるため、入居時に「ペット飼育をしない」との誓約書の提出を受けているが、徹底されておらず「実効性のある対応策を考えたい」としている。


という新聞記事のことや。

一読すると、もっともなことが書かれているといった印象を受ける人が多いと思うが、この新聞記事の内容にはおかしな箇所がある。

『市営住宅の入居世帯の8.5%が犬や猫などを飼っている』というのは、その調べ方に多少疑問はあるが、ワシらが調べた時の感触でも『公団の入居者でペットの飼育をしている人は1割未満しかおらず』という感じやったから、概ねそんなものやろうと思うさかい、その点については良しとする。

ただ、『約750ある市営住宅自治会のうち約240を調査』というのは良う意味が分からん。

そんな程度の調査では『市営住宅の入居世帯の8.5%が犬や猫などを飼っている』という実態など分かるわけなどないと考えるがな。『飼っていると推測できる』というのなら分かるが。

先にも言うたように公団の自治会には『公団の入居者はペットの飼育には否定的な人が大半を占め』ているのが普通やさかい、誰が考えてもそこで調べた結果には偏りが出るのは当然や。

公正、公平を期すのなら『約750ある市営住宅』の全住民から直接アンケートなり、意見なりを募るべきやったと考える。あるいは、大阪市の住民から幅広く意見を募集するかのいずれかの方法を採るべきやったと。

それをせず、最初から偏りの出る結果と承知の上で、公団の自治会のみ、それも自治会長だけを対象に調査したということのようや。

これでは、どう言い繕っても結果ありき、結論ありきの調査やったと言われても仕方がないと思うがな。

しかも『約750ある市営住宅自治会のうち約240を調査』というから、全体の3分の1の自治会の回答、および協力しか受けていないということになる。

それでありながら、『飼育数は約8割の世帯が「1匹」だったが、「5匹以上」と回答した世帯が35あった』という調査結果を報告しとるが、それについては、どこまで信憑性があるのか、甚だ疑問に思う。

その調査結果に何の意味があるのかと。作り話をしとるとまでとは言わんがな。

いずれにしても偏った調査では真実など分かるわけがない。ワシが良う意味が分からんというのは、そういうことや。おそろしく精度の悪い調査やったと言うしかない。

もし、それで納得させられると考えて、そんな発表をしたというのなら、あまりにもワシら一般人をバカにしとるとしか思えん。

まあ、公団行政に携わる職員や一部の政治家たち、また公団の自治会の連中はおしなべて『公団でのペット飼育は禁止にするべき』という固定観念が強すぎるさかい、自ら冒している愚に気がつかんのかも知れんがな。

一方の方向だけしか見ない人間が集まると、それが絶対の正義やと勘違いしてしまうわけや。

国の世論調査でも、『集合住宅内であっても「一定のルールを守れば飼っても良い」が58%で、「飼ってはいけない」の36.6%を大きく引き離している』という結果が出ている。

そのことを知らずか、無視してのことかは良う分からんが、自分たちの意見、考えを押し通そうとしとるのだけは間違いないと言える。

とはいえ、『「ペット飼育をしない」との誓約書』など何の法的拘束力も生じないというのは過去の幾多の事例で実証済みやがな。意味がない。

ヘタをすれば、そんな誓約書を強制する行為自体、違法性が問われかねん。もっとも、行政側は「誓約書の提出は任意です」というのを強調して、その矛先を躱しとるがな。

しかし、「任意」とすること自体が誓約書には何の法的拘束力もないと自ら認めとるのも同じなんやけどな。大いなる矛盾がそこにあるわけやが、それに気づいていないのやろうな。

ただ、公団などの集合住宅でペットを飼育する際、他人に迷惑をかけたらあかんというのは当たり前のことや。

そして、現行の法律でも、そういった迷惑行為があれば公団からの立ち退き請求はできるし、実際にその事例もある。

例えば、2008年11月20日、北海道岩見沢市では、市営住宅で十数匹の猫を飼う70歳代の夫婦に対して市営住宅管理条例違反(迷惑行為)として居室の明け渡しを求める訴えを札幌地裁に起こしたというのがある。

また、2010年12月28日、福井地裁では「市営住宅で犬を放し飼いし、狂犬病の予防接種を受けさせず、犬が近所の子どもにほえたり、付近で便をしている」といった迷惑行為をしたとして、福井市の度重なる指導を無視した飼い主の男性に住宅の明け渡しを求めた訴訟で、裁判官が明け渡しを命じたというケースがある。

これらは、いずれも市の住宅条例に「迷惑行為の禁止」として、「入居者は、周辺の環境を乱し、又は他に迷惑を及ぼす行為をしてはならない」とあるという項目に違反したからというものや。

つまり、これらの事例でも分かるように迷惑行為に及べば現行の法律でも十分に対応できるという証明でもあるわけや。それで十分やないかと思う。

ペットを飼って迷惑行為を起こした者のみ、その法律を適用すれば済む話やさかいな。

それであれば誰からも文句は出ないはずや。ワシらも、それについて反対などするつもりはない。むしろ、当然やと思う。

実際、人の迷惑を顧みないで公団でペットを飼うている人間がいとるというのも事実やしな。そういうのは論外や。庇う気にはなれんし、そのつもりもない。
ただ、それだけに止まらず、「ペットを飼育すること自体がダメ」とするところに、今回の問題があるように思う。

何度も言うが、現行の法律では「公団でペットを飼育」していることのみを理由に住民を処罰することはできんわけや。そんな事例は今までのところ一件もない。

それを大阪市は条例化しようとしている。

過去、幾多の自治体が、それをしようとして上手くいかんかったものを、ここにきて複数の自治体が歩調を合わせるかのように、その条例化に積極的になっているフシが見受けられる。

それらには、大阪市の例を見ても分かるように、なぜか自民党議員の暗躍、いや活躍がある。

先の床田正勝議員などは、「苦情があるのはペット飼育が迷惑行為であるということが明らかであり、住民は迷惑をしている」として、市議会でペット禁止を当局に迫ったという。

「ペット飼育が迷惑行為である」というような暴論を自民党の議員が吐いたと知ったとき、ワシは当メルマガ『第255回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■自民党憲法改正案の是非 その2 基本的人権が危ない』(注5.巻末参考ページ参照)で話したことを思い出した。

現行の憲法を自民党が改正しようと画策しとるというのが、それや。

それは憲法第十三条でのくだりやった。その部分を抜粋する。


現『日本国憲法』

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


『自民党憲法改正案』

(人としての尊重等)
第十三条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。


現『日本国憲法』では『個人として』となっているのが、『自民党憲法改正案』では単に『人として』となっている。この『個』という一文字が削除されている意味は大きい。

基本的人権とは説明するまでもなく個人に属する権利のことで、人というのは人間全般を表す時に使う文字や。

「人として」と語れるのは道徳や主義主張などの人の行為、行動に関する場合であって、基本的人権という権利について使うのは「個人」でなければならない。

権利とは個人が有するものやさかいな。

つまり、この条文で『個』という一文字を取り去ることで、基本的人権そのものを否定していると読み取れることができる。『個人』を消してしもうとるわけやさかいな。

それを裏付けているのが、現『日本国憲法』で『公共の福祉に反しない限り』という部分が、『自民党憲法改正案』では『公益及び公の秩序に反しない限り』となっている点や。

『公共の福祉』と『公益及び公の秩序』とでは大きな違いがある。

『公共の福祉』とは、個別の利益に対して、多数の人々の利益を意味する。

個人の利益と社会の利益が矛盾する場合、両者の調和、調整が必要になるために『公共の福祉』という概念が必要になるわけや。

常識がその物差しになる。つまり『公共の福祉に反しない限り』とは、個人の権利が大多数の常識、および利益の前では限定されるということやな。

対して『公益及び公の秩序』はどうなのかということなるが、実は何を以て『公益』とするのかという定義自体が難しい。

公益とは、一言で言えば社会の利益のことやが、どの程度の組織、どのくらいの規模のコミュティ以上に、どのような利益が出れば公益とするのかといった定義には曖昧なところがある。

社会を構成する単位には、企業や団体などの組織、市町村、都道府県、国家まで幅広く存在する。

それらすべての利益を公益と呼ぶとすれば『公の秩序』の範囲もそれに準ずるものと考えられる。

つまり、『公益及び公の秩序に反しない限り』とは、企業や団体などの組織、市町村、都道府県、国家まで幅広く存在するものすべての利益や秩序に反する場合は、『国民の権利』は保証されないと言うてるのと同じになるわけや。

誰が、何が、その『公益及び公の秩序』とやらを決めるのか。

ここに大きな問題があるように思う。

企業に損失を出せば『国民の権利』が失われるのか、団体などの組織の不利益になれば『国民の権利』がないがしろにされてもいいのか、市町村、都道府県、国家に損失を与えれば『国民の権利』を主張できないのか、ということになる。

現在の常識をもとにする、現『日本国憲法』の『公共の福祉に反しない限り』では、そんなことは絶対にあり得ない。

しかし、『自民党憲法改正案』では『公益及び公の秩序』に反すれば『国民の権利』、つまり基本的人権は認めない、剥奪すると言うてるのに等しいことになる。

極端なことを言えば、国のトップ及び機関が、曖昧な公益や公の秩序についての判断を盾に「あなたは公益や公の秩序に反しています」と言えば基本的人権など認めなくてもええということになるわけや。

突飛な主張やと言われるかも知れんが、そういった危険性を排除するべきやないと思う。


と言うた。

現行の『日本国憲法』第13条で謳われている幸福追求に対する国民の権利(幸福追求権)がある限り、それに反する内容の法律(条例)の制定が難しいのは当然や。

ペットを飼うこと自体は「国民の権利(幸福追求権)」であると主張できるわけやさかいな。

それに関しては「立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされている。

唯一の例外条件である「公共の福祉に反しない限り」という点についても、「個人の権利が大多数の常識、および利益の前では限定される」というのに合致する必要がある。

しかし、公団でのペット飼育に反対している勢力『公団行政に携わる職員や一部の政治家たち、また公団の自治会および迷惑と感じている人たち』の意見が「大多数の常識、および利益」とは言い難い情勢にある。

国が実施した世論調査でも『集合住宅内であっても「一定のルールを守れば飼っても良い」が58%で、「飼ってはいけない」の36.6%を大きく引き離している』という結果が出ていることでもあるしな。

これからすると、世論は『集合住宅内のペット飼育』に対しては容認していると見ることができる。

加えて大阪市の説明にもあるとおり、『飼育数は約8割の世帯が「1匹」だったが、「5匹以上」と回答した世帯が35あった。自治会では約半数が「トラプルはない」とした一方、17自治体ではペットに絡む苦情が年10回以上寄せられていると答えた』ということからすると、『自治会では約半数』というのは18自治体になり、苦情が持ち込まれたという17自治体を僅かながら上回る。

「公共の福祉に反しない限り」という点について言えば、「個人の権利が大多数の常識、および利益の前では限定される」とある以上、過半数以下の事例を持ち出されても「大多数の常識、および利益」とは言えんわな。

よって現行の『日本国憲法』第13条に照らせば、条例で「ペットの飼育禁止」条項を盛り込むのは無理があり、現実問題としてあり得んことになる。

また、議員立法で無理矢理、その条例を決めたとしても憲法違反に問われる可能性が高く、「ペットを飼っている」という理由だけでは退去やペットの強制処分といった処置は執れんものと考える。

事実、迷惑行為の実証できん事例で、そういうのは皆無やさかいな。

現行の『日本国憲法』第13条がある限り、条例で「ペットの飼育禁止」条項を盛り込んだとしても意味のないものになるわけや。憲法と一般法では勝負にならんさかいな。

それがために、今まで「ペットの飼育禁止」が条例化されずにきたわけや。

しかし、『自民党憲法改正案』の第13条になると話が違うてくる。

現『日本国憲法』で『公共の福祉に反しない限り』という部分が、『自民党憲法改正案』では『公益及び公の秩序に反しない限り』となっている。

『公益及び公の秩序に反しない限り』になると、企業や団体などの組織、市町村、都道府県、国家まで幅広く存在するものすべての利益や秩序に反する場合は、『国民の権利』は保証されないということになるわけや。

その場合、条例で決められた「ペットの飼育禁止」条項が有効になるものと考えられる。

つまり、行政が『公益及び公の秩序に反する』と認定すれば、それまでの個人の権利、人権などいとも簡単に踏みにじることができるわけや。

『自民党憲法改正案』は、それを目指していると言える。

為政者にとって国民の権利は少ないに越したことがないという論理で。国民は国の方針に従順であるべきやという考えのもとに。

それが最大の問題点やと考える。

現行の法律、条例でもペットを飼って迷惑をかけていると証明された公団の入居者に対しては、退去させることが可能なわけや。

それにもかかわらず、敢えて「ペットの飼育禁止」条例を作ることに固執しとる議員がおる。迷惑の如何に関係なく一律に「ペットの飼育禁止」とするために。

その議員が、自民党の議員やというのは、自民党が推進している『自民党憲法改正案』と関係があるのやないかと、ワシらは見とるわけや。

現在、安倍首相および自民党は国民から絶大な支持があると勘違いしとるフシが見受けられる。

去年の年末、低投票率の総選挙で圧勝したことが、その支えになっているのやろうな。その支持がある今のうちなら、何でもできると錯覚して。

また、アベノミクスとかの影響で、株価の高騰や円安傾向で経済が好転しとると考えとるというのもあるやろうと思う。

まあ、それについては新聞やテレビ報道に見るように雰囲気だけが先行してだけやと考えるがな。

所詮は投資家たちの気まぐれなマネーゲームの域を出ていないにもかかわらず。

それを裏付けるように、昨日の5月23日「東京株、暴落 終値下げ幅1143円 1万4500円割る」といったニュースが流れると途端に「株価急落 政権の緊張感高まる」という具合にあわてふためいている政府の様子が報道から伝わってくる。

実態の伴わない期待感のみに裏打ちされた支持率だけが頼りでは、それも仕方ないのかも知れんがな。

ただ、今までは、それで何でもやれると考えて錯覚していたのは間違いないと思う。

その思い上がりの象徴が『自民党憲法改正案』にあると言える。

自民党の議員であれば、当然のことながら『自民党憲法改正案』の内容は知っているはずで、それが成立すれば、現行の憲法13条を変えられ、自治体による「ペットの飼育禁止」条例も簡単にできると承知しているものと考えられる。

今まで幾多の自治体が試みようとしてできんかったものについてはリスクを伴うから、普通、政治家の立場では手をつけようとはせんものや。

三重県の例やないが、苦情を言い立てる市民の手前、そうしようというポーズくらいは示す議員や自治体の担当者は多いがな。ただ、市民と揉めてまでしようと考える者は少ない。

それを敢えて、今頃になって積極的に推進しようとするのは、そこに何らかの勝算ありと考えるべきやないかと思う。

その拠り所が『自民党憲法改正案』にあると。その成立の可能性が高いと考えて先を見越した行動を起こしていると。

それは穿った見方やと言われる人もおられるかも知れんが、そう考えれば、少なくともワシらの中では自民党議員のそうした行動が納得できる。

一般の人たちにとっては「公団でのペット飼育問題の是非」など対岸の火事にすらならんことかも知れんが、その裏には国民の権利を剥奪しようとする画策、陰謀が潜んでいると知って欲しい。

裏を返せば、『自民党憲法改正案』を廃案に持ち込めば、現『日本国憲法』がそのまま活きるさかい、そんな画策、陰謀を阻止することができるわけやがな。

今がまさに、憲法第13条の国民の権利(幸福追求権)が守られるか否かの瀬戸際にあると言える。

そう考えれば、とても対岸の火事で済ますことなどできんのやないかと思う。タカが公団でのペットの飼育問題ではないと。

ただ、『自民党憲法改正案』に対する是非の選択、ジャッジについては、近い将来、国民が決めることになるときが必ず来るはずや。

そのときが来るまで、ワシらは改悪とも言える『自民党憲法改正案』の内容を今後も訴え続けたいと思う。決まった後で悔やみたくはないさかいな。



参考ページ

注1.第116回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について

第119回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 2

第125回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 3

第130回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 4

第152回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 5

注2.動物愛護に関する世論調査

表17 集合住宅におけるペットの飼育

注3.グリーンネット

注4.ゲンさんのちょっと聞いてんか NO.20 「大阪市営住宅でのペット飼育禁止指針等の策定」中止を求める要望書への署名のお願い

注5.第255回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■自民党憲法改正案の是非 その2 基本的人権が危ない


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