メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第271回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2013. 8.16


■消費者センターの警告チラシ『新聞購読の契約は慎重に!』の是非について


「ゲンさん、これをどう思われます?」

ハカセが、そう言いながら見せたのは京都府消費生活安全センターが公布している一枚のチラシやった。

「これは?」

「読者の方から、このチラシについての意見を求められたんですが……」

「そうか……、これを一読するだけやと、新聞の勧誘をすること自体が悪いような印象を見る人に与えてしまうな」

「ええ」

チラシには大きく目立つタイトルで『消費者注意報』とあり、副題として『新聞購読の契約は慎重に!』(注1.巻末参考ページ参照)とある。

それには4コマ漫画があり、


1コマ目。

独り暮らしの母のもとを訪ねた娘が、「あら? お母さん、なんだか新聞が増えてない?」と言う。

「実は3日前のことなんだけどね……」


2コマ目。

3日前のシーン。

背広姿の勧誘員が、「うちの新聞とってもらえませんか? 1ヶ月無料にしますから」と言って勧誘している。

お母さんが、「でもいま別の新聞とっているし」と言うと、すかさず、「1年先からの契約でもいいので……」と、勧誘員が切り返している。


3コマ目。

お母さんは心の中で、「困ったわ……。なかなか帰ってくれないし……」と思いつつ、契約をしてしまう。

勧誘員は「いやー、ありがとうございます。景品も差し上げます」と言って、景品を渡している。


4コマ目。

1コマ目のシーンに戻る。

お母さんが、「というわけで断りきれずに契約しちゃったの……。でも新聞2つもいらないし……」と訪れた娘に相談している。

「これって解約できないかしら? そうだ、消費生活センターに相談してみようよ」


という内容になっている。

一見すると、ありがちな勧誘風景に見えるが、この4コマ漫画には大きな矛盾がある。

1コマ目で、「あら? お母さん、なんだか新聞が増えてない?」と、あたかも家の中には余分な新聞があるかのように描かれている。

2コマ目には『お母さんが、「でもいま別の新聞とっているし」と言うと、すかさず、「1年先からの契約でもいいので……」と、勧誘員が切り返している』という場面がある。

4コマ目では、お母さんが、「というわけで断りきれずに契約しちゃったの……。でも新聞2つもいらないし……」と訪れた娘に相談している。

もう読者の方はお分かりになられたと思うが、2コマ目で『お母さんが、「でもいま別の新聞とっているし」と言うと、すかさず、「1年先からの契約でもいいので……」と、勧誘員が切り返している』という状況であれば、十中八九、その勧誘員は、『別の新聞』の契約期間が終わった後の『1年先からの契約』にしているはずや。

新聞購読契約の大半の契約が、そうやさかいな。

たいていの勧誘員は一度に2紙の新聞を購読すると契約者に負担がおよぶということくらい分かっている。

負担が大きいと途中解約のリスクが高くなり、後々の成績にも響いてくるから、勧誘員の方でもなるべくなら2紙がバッティングするのを避ける契約にしたいと考える。

それに契約開始の期間が早まろうと遅くなろうと、それほど報酬に差がつくわけやないから、その点については契約者の意向に沿うようにするのが普通や。

そうであれば、新聞の銘柄が変わるだけで、同時期には一つの新聞しか購読していないということになるさかい、1コマ目の「あら? お母さん、なんだか新聞が増えてない?」という状況には、なり得ないと思う。

加えて、4コマ目の『でも新聞2つもいらないし……』という愚痴が出ることも考えにくい。

この4コマ漫画は『なんだか新聞が増えてない?』、『でも新聞2つもいらないし……』という状況を描くことで、勧誘の強引さ、しつこさ、悪質さを際立たせようとする狙いがあったのやろうと思われるが、現実にはあり得ない設定を作ってしまい、見る者に矛盾を感じさせとるわけや。

これでは、この4コマ漫画のストーリーは成立せん。

素人さんなら、そのままスルーして読み進めてくれると考えて、敢えてそうしたのか、単にミスをミスと気づかず掲載したのかは分からんがな。

これを見た人が、そのままスルーすると考えたのなら、あまりにも思慮が足らんかったと言うしかない。

公のチラシは、不特定多数の人の目に触れるものや。影響力も大きい。

その中には、そのチラシに反感を持つ者もいて、矛盾点を突いてくる人間が現れることくらい考えてなあかん。

突っ込まれても反論できる、言い逃れできる程度のものなら、まだマシやが、このチラシの事例では反論のしようがないやろうと思う。

矛盾が浮き彫りになっとるさかいな。

ワシが思慮が足らんかった言うのは、そういうことや。

あるいは、単にミスをミスと気づかず掲載したというのであれば、きついようやが、このチラシを配布した京都府消費生活安全センターの担当者は、新聞勧誘がどういうものなのかが、まったく分かっていなかったということになる。

何も分かっていないのに、このチラシを作ったと指摘されても仕方がない。

ワシが、ここまで言うのは、このチラシには限りない悪意が込められていると感じるからや。

このチラシの事例からは、何ら悪質性も見出すことができないにもかかわらず、暗に新聞勧誘自体が悪質やというところに誘導して貶めようという意図が見てとれる。

そもそも新聞勧誘は、公に認められた立派な仕事や。勧誘するために訪問すること自体に問題はない。

これだけは動かし難い事実であり正論やと思う。公の機関であるなら、正当な仕事には、それなりの配慮があってしかるべきやと思う。

それを、如何にも新聞勧誘をすること自体が悪質で違法性があるかのようなチラシ作りを消費生活安全センターがしたというのは頂けない。

当然やが、勧誘員は、新聞を勧誘することで生計を立てているわけや。

この京都府消費生活安全センターの行為は、その生活を脅かすものやと言うても過言やないと思う。

それも正しい認識に則った記述、記載ならまだしも、事例として成立せんような矛盾があるものを、無理矢理に悪質な勧誘と思わせるように仕向けているわけや。

このチラシは、誰がどう見てもそうとしか受け取れんやろうと思う。そのやり方の方が、よっぽど悪質やと考えるがな。

そのチラシの中に書かれているQ&Aで、


Q 新聞勧誘でどんなトラブルがあるの?

A 「景品をつけるから契約してほしい」としつこく勧誘されたり、断ってもなかなか帰ってくれず、あいまいな返事をすると勝手に契約書を書いて渡されたりします。

ドアを開ける前に用件を確認し、購読するつもりがないのなら景品に惑わされないで、きっぱりと断りましょう。


という記述があるさかい、悪質な勧誘の事例については分かっていることになる。

それらの事例をもとに4コマ漫画を描くべきやった。それなら、こんな矛盾を生むことはなかったはずや。ワシらも突っ込むことはなかった。

それらのことを総合的に判断すると、このチラシの制作者は、敢えて普通の勧誘を悪し様に描くことで、新聞勧誘そのものを「悪質な行為」と位置づけるために、最初から意図的にそうしたものと考えられる。

『第253回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■「初めての一人暮らし…悪質な新聞勧誘に注意!」喚起について』(注2.巻末参考ページ参照)でも、似たような国民生活センターのチラシについて話したことがあったが、それには『悪質な』という枕詞があった。

それがあれば、悪質な限定的事例を指しとると分かるさかい、正当な注意喚起やと言える。

今回の場合も『新聞購読の契約は慎重に!』を『悪質な新聞の勧誘は慎重に!』とでもしていれば問題はなかったし、事例の4コマ漫画も『断ってもなかなか帰ってくれず』、『あいまいな返事をすると勝手に契約書を書いて渡された』といった感じものにしておけば良かったと思う。

単に『新聞購読の契約は慎重に!』だけやと、どう見ても「すべての新聞勧誘に気をつけろ」という風にしか思えんさかいな。

これは、勧誘営業という職業に対する侮辱やと思う。見方によれば「偽計業務妨害罪」に該当する可能性すら考えられる。

「間接的、無形的な方法で虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害すること」という犯罪成立要件に適合する可能性があるさかいな。

これに関して、新聞社や新聞販売店から何らかのクレームがあったのやないかと調べてみたが、特にあったという事実は見つけられんかった。

一部の販売店主からは「抗議すべき」という声が上がったようやが、同じ頃、2012年2月20日、京都の新聞販売店主らが特定商取引法違反容疑で逮捕されたという事件が起きたために、地元の店主たちは何も言えなくなり、そのままになったらしい。

それについては、サイトのQ&A『NO.1117 強引な勧誘での逮捕者が出た事件について』(注3.巻末参考ページ参照)で取り上げたことがある。

その事件の報道記事や。


http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120220/crm12022020080019-n1.htm より引用


新聞販売店代表ら逮捕 特商法違反容疑で 京都府警
2012.2.20 20:08

 大学生に対する新聞購読の契約に際してクーリングオフ(契約解除)に関する書類を渡さなかったり、強引な勧誘をしたりしたとして、京都府警は20日、特定商取引法違反(不備書面の交付など)の疑いで、京都市北区のY新聞K販売店経営、T容疑者(52)=同市上京区=と従業員の男ら3人の計4人を逮捕した。T容疑者は容疑を認めている。

 Y新聞大阪本社広報宣伝部は「当社と取引関係にある販売店の代表と従業員らが逮捕されたことを重く受け止めます。販売店に対しては、より一層の法令遵守と従業員教育の徹底を求めていきます」とコメントした。


というものや。

この記事に『新聞購読の契約に際してクーリングオフ(契約解除)に関する書類を渡さなかった』とある部分に違和感を覚える業界関係者の方もおられるのやないかと思う。

一般的な新聞購読契約書の裏面には『クーリング・オフのお知らせ』という赤字で目立つように印字されている。

契約書とは別に『クーリングオフ(契約解除)に関する書類』を渡す必要はない。また口頭でその都度、説明をする義務もない。

法律的には、『クーリング・オフのお知らせ』の記述が契約書のどこかにあれば、それで『新聞購読の契約に際してクーリングオフ(契約解除)に関する書類を渡した』として事足りる。

ワシは20年ほど前に京都で、この拡張の仕事を始めたのやが、そのとき、裏面に『クーリング・オフのお知らせ』というのがない契約書が実際にあったことを覚えとる。

その当時でもクーリング・オフは特定商法第9条で規定されていた。ただ、新聞の場合、そのクーリング・オフが適用されたのは1988年からや。

ワシが拡張を始めた頃は、それからまだ5、6年しか経ってないということもあり、新聞の購読契約においてクーリング・オフができること自体知っている人が少なく、世間に浸透してなかったように思う。

そのため、わざわざ『クーリング・オフのお知らせ』の記載をして契約者に、それと知らせることもないと考えた販売店主もいたわけや。

京都という土地柄は、良くも悪くも昔の伝統を重んじる地域で、新しいことを嫌う傾向にある。

そのため法律に関しても一般に浸透するまで、他の地域より時間がかかるものと個人的には解している。

さすがに今の時代に『クーリング・オフのお知らせ』が裏面にない契約書などあり得ないと考えるのが普通やが、それが京都であったと言われると、ワシは別に不思議とは思わん。あり得ることやと納得できる。

契約書そのものを渡さずに契約したというケースも考えられる。

これはサイトのQ&Aでもありがちで、契約書を渡すとクーリング・オフをされるからというのが、その理由のようや。

これは、『契約書は双方が同じ物を所有すること』という契約の原則に反するさかい、契約自体が無効になる可能性が高い。

契約書に契約日の日付が記載されていない場合もある。

契約日が特定できんということでクーリング・オフをさせないための意図的な妨害行為と見なされた可能性がある。

業界関係者の方の中には、この程度で逮捕されるのかと驚かれた人もおられるが、法律は一般法より特別法が優先するさかい、警察としては、むしろ自然やと言える。

あいまいな刑法を適用するより、具体的な訪問販売の禁止行為を定めた特定商取法を適用する方が警察としても逮捕状が取りやすいというさかいな。

『強引な勧誘をしたりした』というのが、どの程度のものかは分からんが、それに関しても逮捕理由はその警察署の判断次第で、どうにでもなると考えられる。

例えば、サイトのQ&Aでもよく言うてることやが、「帰ってくれ」と言ったにも関わらず居座わり続ければ、不退去罪で逮捕することも可能や。もちろん、勧誘時の言動次第では脅迫罪も適用できる。

このQ&Aには関東方面の悪質な勧誘が数多く届けられるが、ワシ自身の経験では京都も相当にひどい状態やったと認識しとる。

もっとも、ワシが初めて飛び込んだ拡張団は京都の中でも最悪な拡張団として有名やったから、一般的とは言えんかも知れんがな。

8年前の2005年にも似たような事件があった。このQ&Aの『NO.108 近所で販売店員が逮捕されました』(注4.巻末参考ページ参照)に、それがある。

この事件で逮捕された従業員は、その後も系列の販売店で仕事していたという話やが、さすがに今の時代では、そんな穏便に済むようなことはないやろうと思う。

普通は経営者が逮捕された場合なら「改廃」と言うて廃業に追い込まれるし、逮捕された3人の従業員の氏名も業界情報に回されることが予想されるから、新聞業界での再雇用は難しいものと思われる。

新聞社は、こういった新聞販売店が引き起こした不祥事について、『当社と取引関係にある販売店の代表と従業員らが逮捕されたことを重く受け止めます。販売店に対しては、より一層の法令遵守と従業員教育の徹底を求めていきます』という謝罪コメントを出すだけで終わるやろうがな。

よくネットでは新聞社への使用者責任を問う声、書き込みを見かけるが、法律上はそこまで責任を問うのは難しい。形式上は単なる委託先業者の不始末にしかならんさかいな。

ただ個人的には、新聞販売店の事情、例えば契約書の裏面に『クーリング・オフのお知らせ』の記載がなかったという程度のことは、新聞社の販売担当員も知っていたものと考えるさかい、少なからず新聞社にも責任があるとは思う。

何度も言うが、もうすでに昔ながらのやり方では通用しなくなったと知るべきや。それが分からんと同じことを繰り返す者は逮捕され世間の晒し者になるだけやさかいな。

もっとも、その事件以降、京都でもそういうのはなくなりつつあるとのことやがな。

今回の京都府消費生活安全センターが公布したチラシの背景には、地域的な事情があってのことかも知れんが、例えそうであったにしても『新聞購読の契約は慎重に!』という記述は頂けない。

それとこれとは別や。

違法行為を犯して逮捕された者がいるから、その業界すべてが悪いとは言えんさかいな。またそんなことは言うべきやない。

それを言えば、昔から不祥事の多い警察などは、その組織そのものが悪いとしか言えんようになるさかいな。そうなってしもうたら日本の治安は壊れる。

どんな業界、組織にも心得違いの者や犯罪を犯す者がいとるのは事実やが、その仕事に対して誠実に取り組んでいる人の方が圧倒的に多いというのも、また事実なわけや。

当たり前やが、犯罪は犯した者に責任があるわけで、それ以外の善良な人に罪はない。

「罪を憎んで人を憎まず。罪を憎んで仕事を憎まず」やと考えて欲しい。

今回取り上げた京都府消費生活安全センターが公布したチラシは、その罪もない善良な勧誘員に不当な打撃を加えるものやと、ここで言うとく。

それに気づいていたか、どうかは別にして、次からは消費生活安全センターの名誉にかけて、こういったことがないようにして貰いたい。

あれば、何度でも、ここで取り上げるつもりや。

もちろん、ワシらの言うてることに異論があればいつでも聞くので是非、教えて頂きたい。

ワシらも人間やから間違いは当然のようにあるし、あれば謝罪すべきところは謝罪するつもりや。

ただ、今のところ非は、京都府消費生活安全センター側にあるとしか言えんがな。



参考ページ

注1.京都府生活センター『消費者注意報・新聞購読の契約は慎重に!』

注2.第253回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■「初めての一人暮らし…悪質な新聞勧誘に注意!」喚起について

注3.NO.1117 強引な勧誘での逮捕者が出た事件について

注4.NO.108 近所で販売店員が逮捕されました


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