メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第276回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2013. 9.20


■ゲンさんの拡張クリニック……その1 訪問恐怖症の克服法


ある日、突然、それは襲ってきた。

勧誘営業中、コウイチはある家の前で立ち竦んだまま固まってしまった。

目の前のインターフォンに触れようとするのやが、何度試みてもその手が伸びない。動かないのである。

まるで、利き腕の右手の神経が遮断されたような感じやったという。

コウイチは、その日を境に「訪問恐怖症」になったと考えるようになった。叩くことが怖くなった。

精神疾患に「訪問恐怖症」という正式な病名はない。「恐怖症」と名の付くものは、すべて精神疾患の一種、「恐怖神経症」に分類される。

「恐怖神経症」とは特定のある一つのものに対して、他人には不可解な理由から、心理学的、および生理学的に異常な反応を起こす症状のことをいう。

それからすると、「訪問恐怖症」も立派な「恐怖神経症」の一つと考えられる。

もっとも、誰もそれが病気やとは思わず、多くの場合「サボリ」の一言で片付けられてきたがな。言い訳にすらならないと一蹴されて。

2007年3月9日発行の『第135回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■悩める人々 Part3 サボリと詐病について』(注1.巻末参考ページ参照)の中で、ワシも『勧誘の世界で、そんな言い訳が通用するほど甘くはない』と言うたことがある。

ちなみに、その話をするキッカケになったのは、ある新聞販売店に勤める読者の方から、


ゲンさん、はじめまして。いつもHP、メルマガを楽しみに読ませていただいてます。

僕は、拡張の仕事をはじめて、まだ2ヶ月の新米セールスです。なかなか、成績が上がらず困っています。

情けない話ですが、お客の家のインターフォンを押せないときがあるのです。1日、10軒ほど叩いたら、それであきらめてしまうこともあります。

そんなときは、いつも、明日こそがんばろうと思うのですが、次の日、その場に立つと体が動きません。

それどころか、気分が悪くなり頭さえ痛くなってきます。実は昨日から、インフルエンザに罹ったと言って仮病を使って休んでいます。

自分でも、この仕事に向いてないというのは分かります。でも、正直に言ってお金もない状態で転職もできません。

どうしたら、この状況を抜け出せるのか、教えてください。本当に情けない話ですが、真剣に悩んでいます。


というメールが送られてきたことからやった。

それに対して、


Q&A用に送られてきたメールやが、これでは話にならん。

悪いが、この相談者には、どんなアドバイスをしても無駄やと思う。意味がない。

それでも、敢えてアドバイスをするとしたら「さっさとこの仕事を辞めろ」と言うしかない。

この相談者が、このまま、そうして続けていても状況は日増しに悪くなるだけやさかいな。

転職先なんか、贅沢さえ言わんかったら、その気になればナンボでも見つかるはずや。

何とか頑張ってはいるが、契約が上げられんという悩みなら、まだ相談に乗る価値もある。

せやけど、この相談者には、それが微塵も感じられん。仕事せずに契約なんか上げられるわけがない。

そういう甘えた人間には、ワシではどうしようもない。

正直、こういうのは堪忍してほしいと思う。

「おそらく、ゲンさんなら、そう言われるだろうと思っていました」と、ハカセ。

「で、どうする?」

一応、サイトの基本方針として、新聞勧誘に関するすべての質問に答えると謳うとる手前、何もなしでは、ハカセも具合が悪いやろうと思う。

「ゲンさんは、詐病というのをご存じですか」

「サビョウ? 何やそれ……」

「厳密には違うところもあるんですけど、分かりやすく言えば仮病のことです」

ワシには、あまり聞き慣れん言葉やが、かなり昔から存在していてた言い方やという。

古くは、太平洋戦争の頃、その徴兵逃れに考え出された手法が今も継続され進化しとるということらしい。

身体障害者、病気持ちは、その徴兵から除外される。これは、徴兵制度のある国なら世界共通やと言うてもええ。

そのため、当時は「砂糖を尿に混ぜ糖尿病を装う」、「卵白を尿に混ぜて腎臓病を装う」、あるいは「数年に渡り、松葉杖を使い障害者を装う」というようなことが実際にあったという。

中でも、精神病に及ぶ分野は巧妙を極めるとのことや。狂人の真似を平気でする者がおると聞く。

そう言われて、ワシは、ある男のことを思い出した。

セキヤという昔の拡張員仲間やが、都合が悪くなるとすぐ、その狂人の真似を得意とする男がいてた。

そのセキヤが、あるオートロックのマンションに侵入して、叩いていたことがあった。

そういう所へ許可なく入ると、家宅侵入罪が適用される場合がある。突き出されて警察沙汰になることも珍しいことやない。

その現場を、そこの管理人に見つかり、セキヤは瞬間的に得意の狂人を装うて、外に放り出されるだけで済んだということがあった。

また、万引きがバレたときとか、放置自転車を勝手に乗り回していて警察官に呼び止められた際にも、同じように狂人を装い難を逃れたと自慢げに良う言うてた。

「アホの真似をしたら、たいていの人間は嫌がるから、それで無罪放免や」とうそぶく。

それに長けとるのを詐病と呼ぶらしい。

「なるほどな……」

専門の精神科医でさえ騙されることも多い。正に「詐病」、詐欺の病と呼ばれる所以でもある。

しかも、これは、正規の精神疾患として「虚偽性障害」と呼ばれとるという。

つまり、仮病も病気やということになる。

「そんな、アホな……」

そして、最近は、それが、よりたちが悪くなって、実際の犯罪にも応用されとる頻度が増えとるようや。

良く殺人などの凶悪事件を起こした犯人が、すぐ心神耗弱という理由で精神鑑定を受け、その責任逃れをしようするのが、それやと思う。

精神病患者、狂人を装うわけや。

中には、本当にそうやという者もおるのかも知れんが、ワシにはとうてい信じられん話や。

そういうのに限って、計画的犯行というのが多い。断言してもええが、本当の狂人に計画的犯行というのは絶対に無理や。

しかし、実際の裁判では、そのときにだけ「心神耗弱」と認められ、減刑された判決が下っとるというのがある。

何やねんと思う。もうこれ以上は、やめとこう。考えれば考えるほど腹が立ってくるさかいな。

ただ、本当に、そういう病気で苦しんでいるのなら、凶悪犯以外であれば、気の毒やとは思う。

「つまり、仮病も病気だという風に考えれば、この相談者のことも見えてくるのではないでしょうか」

この相談者が、インターフォンも押せず、その前に立っただけで『気分が悪くなり頭さえ痛くなってきます』と訴えとるのが、その病気の症状やないかと、言うわけや。

「百歩譲って、仮にそうやとしても、そんな人間に何をしてやれる? ワシらは医者やないで」

「そのとおりです。何もできません。ただ、そのことについて、このメルマガを通じて話すことで、この相談者に考えてもらうことができるのではないかとは思うのです」

確かに、ワシが回答するとしたら「あんたには、この仕事は向いてないから、早々に辞めた方がええ」と言うくらいしかないやろうと思う。

それでは、相談者を否定するだけで終わる。

このメルマガはQ&Aとは違うが、時折、たった一人のためだけに話すことも何度かあった。

たいてい、それで、そういう人には分かってもらえたから、それなりに意味もあったとは思う。

しかし、この相談者が、どうかというのは、正直言うて疑問や。そのたった一人に対しても、ハカセの思いが通じないおそれがある。

本人が、甘えているということを認識せん限りは「あんたは、病気かも知れんで」と言うてみたところで、それを逃げ道にするだけやという気がする。

所詮、サボリにしろ詐病と言うにしろ、それは、ただの甘え、言い訳にしかすぎんとワシは思う。

少なくとも、ワシらの世界は、そんなものが通用するほど甘うないのだけは確かやと断言できるさかいな。


と結論づけた。

しかし、その後、こういった相談が多くなるにつれ、当人にとっては「サボリ」の意識など、まったくなく、真剣に叩けないことに対して悩んでいるケースがあるということに気がつくようになった。

世の中には、そういう人もおられるのやと。

「訪問恐怖症」の自覚のある人が精神科医や心理カウンセラーに診断を受けると「恐怖神経症」の中の「対人恐怖症」、または「失敗恐怖症」と宣告されることが多いという。

そもそも「対人恐怖症」の人が新聞勧誘をするとは思えんから、ここでは除外する。

もっとも、あまり人と会わなくても済むという理由で新聞配達員になった方が、販売店の命令で勧誘をする羽目になったという不幸なケースはあるがな。

「対人恐怖症」の人は総体的に気弱な人が多いということもあり、その命令を拒否することができず、結局、その人は配達員の仕事そのものを辞めたとのことや。

そういう特殊なケースを除けば、「失敗恐怖症」から「訪問恐怖症」になった人が圧倒的に多いのやないかと思う。

「失敗恐怖症」の人は、自分がリスクを伴う行動に対して極度な反発や抵抗をしてしまいやすく、失敗したときに結果として残る恥ずかしさと屈辱、挫折感を避けたいという心境から、そうなるのやと言われている。

要するに、新聞勧誘で言えば、「どうせ叩いても断られるに決まっているから、嫌な思いをするくらいなら叩かない方が良い」と結果を先に予測して何もできない、しない状態になるということやな。

先日、セミナー(注2.巻末参考ページ参照)に参加して頂いた方の感想の中に、


もし第2回目があるのでしたら、また参加したいです。

そのときは「訪問恐怖症」についての講座をリクエストしたいです(笑)

いくら話し方を学んだところでドアを叩けなければ意味がないですからね。

私は実際に訪問恐怖症かと思うくらいに叩く事が怖いと感じる事が多々あります。

お暇な時で良いですので訪問恐怖症についての白塚様、ゲンさんの意見をお聞かせ下さい。


というのがあった。

当初、サイトのQ&Aで回答するつもりやったが、偶然にも前後して、


質問させていただきます。仕事をしているとインターフォンが恐怖に感じてしまい、1日中さぼってしまうことが時々あります。

自分でも、こんなことではアカンと思うのですが、どうにもできません。どうしたら良いでしょうか。教えてください。


自分はガチ叩きがとても嫌いで、もはや叩くことに恐怖を感じるということでした。

人と話しをするのが苦手とは思ってなかっただけに自分でも驚き、情けなくて、初めてこの仕事を続けていけるのか不安になりました。

新勧&起しはセールスさんの案内で揚げてきたやり方が出来ない現状ですので、なんとか叩きに対する苦手意識を少しでも克服してこれからもこの仕事を楽しくやりたいと願ってやまないのです。

いわゆる叩きがヘタレな自分でも叩きカードを揚げていくにはまず何をするべきでしょうか?

答えなどないかも知れませんが、一筋の光明をお与え下さい。よろしくお願いします。


といった具合に同じような相談が相次いだことで、それぞれの相談者の方に了解して貰った上で、急遽、このメルマガで、じっくり話すことにしたわけや。

ただ『訪問恐怖症』が、うつ病などの精神疾患が原因の場合は、悪いが精神科医か専門のカウンセラーに診て貰うしかないと始めに断っておく。

叩いて(訪問)も叩いても断られ続けると、誰でも意気消沈する。その次に叩く気力が失せるというのは正常な人間でもありがちなことや。

もちろん、ワシにもそんなときがある。

その程度の『訪問恐怖症』なら気持ちの持ち方次第で、どうにかなるやろうという前提のもとに、その方法について話す。

念のために言うとくが、これは『訪問恐怖症』を克服するための方法で、契約を上げるためのものやないで。

まあ、結果的には、これらの方法を実践することで契約を上げられるようにはなるやろうがな。


訪問恐怖症の克服法


1.割り切る。

新聞勧誘とは、叩いて(訪問)も叩いても断られ続ける仕事なんやと割り切ることや。1日100軒叩いて10軒話ができ、そのうち2、3軒で契約が貰えたら御の字の仕事やと。

確率的には97、8%は失敗する。しかし、その97、8%の失敗があるからこそ、2、3%の成功にたどり着けるとも言えるわけや。

そう考えることができれば、断られ続けるのも仕事のうちやと割り切ることができるはずや。一軒断られる毎に成約できる確率が確実に上がっていくのやと。


2.叩く目標を決めて、少しずつ増やす。

まずは、自分が現在叩けそうな軒数を確実に叩く。極端なことを言えば1日10軒だけしか叩くことができなければ、それでもええわけや。

人は達成可能な目標を立てると、それだけは何とかクリアしようとする。その目標を少しずつ無理なく増やす。

最初は10軒だけ叩き、次の日は11軒、その次の日は12軒という感じで少しずつ増やすわけや。

そうすることで自然に叩く軒数も増えていき、やがて叩くことが、それほど苦にならんようになるはずや。

三重県の伊賀上野市に住んでおられる忍者の子孫という人から聞いた話がある。

昔の文献によると、伊賀忍者は跳躍の訓練をする際、麻の苗木から飛び始めるということや。

最初は20、30センチくらいの高さやから誰でも簡単に飛び越えられる。翌日は僅かに伸びているが、大した伸びではないから苦もなく飛べる。

それを毎日続ける。

麻という植物は成長が早い。日に日に伸びていく。しかし、それを毎日続けているとその成長に合わせて跳躍しているうちに、最後には数メートルの高さの麻を飛び越えられるのやという。

毎日飛び越えていると、その高さを飛べて当たり前という感覚になり、最終的には通常では考えられんほどの高さの麻を飛び越せるようになるのやと。

ちなみに、麻は4ヶ月で4メートルほど伸びるという。

もっとも、人にそんな高さのものを飛び越える跳躍力などあるわけがないさかい、眉唾物の話ではあるがな。

実際、その忍者の子孫という人に、「実践したことはあるのですか」と訊いたら、「文献にはそうある」と逃げられた。

この逸話でワシが言いたいのは、そこやない。

いきなり高い麻を飛び越えろと言うても無理やが、苗木で低い麻なら誰でも簡単に飛び越えられる。

低いという感覚が残ったままやと、実際に高くなっても、ある程度の高さは気持ちに余裕が生まれている分、本当に飛べるようになるということや。

つまり、最初から100軒、200軒叩けと言うても無理な話やが、10軒くらいなら例え断られ続けても叩ける人は多い。

それを少しずつ毎日増やすことで、最終的には相当数の軒数が叩けるようになる。

単純に3ヶ月で100軒、次の3ヶ月で200軒。1年後には1日400軒は苦もなく叩いているという計算になるわけや。

そこまでいけば『訪問恐怖症』など、余裕で克服しとるはずや。

何度も言うが、その最後の「1日400軒は苦もなく叩いている」という結果だけを見たらあかんで。

そんなことを考えたら、それこそ1軒も叩けんようになるさかいな。

それは小さな積み重ねによる結果でしかないわけや。その小さな積み重ねが、とてつもなく大きな結果を生むのやと知って欲しい。


3.挨拶を徹底する。

ワシは拡張の現場では挨拶を徹底するように心がけとる。

訪問する客は当たり前として、営業中、道ですれ違う人にでも「こんにちは……ですね」と必ず声をかけるようにしている。

「……」の部分は、たいていは気候のことを言う。

「こんにちは、寒いですね」「こんにちは、暑いですね」といった具合や。道でこんな風に声をかけられたら「ほんとですね」とほとんどの人が挨拶を返してくれる。

見知らぬ人でも、近所の知り合いと勘違いするんやな。これを長く続けとるとプラスになることはあっても、マイナスになることはない。

何度か同じ人とそういう挨拶を交わしていると本当に知り合いになり、気軽に話のできる関係になることもある。

この何度も会うということやが、それほど広いバンク(販売店の営業範囲)やなかったら、限られた範囲を拡張するわけやから、同じ人と出会すこともある。

そうすると、訪問した家からその人が出て来ることがある。

新聞を断るつもりの人でも、普段、そういう関係があったら無下には断りにくいから話くらいは聞いてくれる確率が高い。

そして、ここからが重要なんやが、その挨拶を続けていることで、次に叩く家から、挨拶を交わして心やすくなっている人が出て来るかも知れんという期待が持てるようになるわけや。

期待は不安を消す。

つまり、『訪問恐怖症』になる要素も消えるということや。挨拶一つで、そうなれれば言うことはないと思うがな。


4.心やすい客を作る。

立て続けに断られて、心が折れそうになった場合、過去に気持ちよく契約してくれた人とか、意気投合した客の所に行く。

これは現読の人でも構わない。その場合は「近くを通りかかったので、これをお持ちしました」と言って、ゴミ袋や映画の割引券などの捨て材を渡す。

心やすい人と世間話などの雑談を交わすことで、それまで立て続けに断られた嫌な思いが払拭できる。

さらに現読の場合は、新聞販売店従業員は、いずれ止め押しといった継続契約依頼をせなあかんから顔つなぎをするという面でも効果がある。

ワシの場合、この心やすい客の中には、世話好きな主婦、町内会の顔役的な人物、マンションやアパートのオーナー、および管理人といった人たちが多い。

そういう人たちの中には、その心やすくなることで他の客を紹介してくれることがある。紹介客は、ほぼ100%の確率で成約できる。ワシには、そういう客が多い。

つまり、そういう心やすい客を日頃から探して確保しておくことで、一石二鳥にも一挙両得にもなるということや。

また、心やすい人間を探すという目的を持って叩けば、『訪問恐怖症』の解消にもなると思う。


5.データを作る。

叩く目的は成約することやが、『訪問恐怖症』の克服を優先するのなら、必ずしも成約のみに拘る必要はない。

『訪問恐怖症』の克服には何より、叩いた(訪問した)という事実が必要なわけや。その実績が自信になる。

ただ、そうは言うても何もないのに、ただ叩けるもんやないわな。そこで目的をデータ取りに徹するわけや。

訪問する地域、曜日、時間、天候といった条件を記した上で、訪問した家の在不在、話の出来不出来、感触、結果などを克明に記録する。

ワシは、そのデータを常に取っている。そうすることで次に訪問するときに役立つさかいな。

訪問した家が不在だった場合は次に行けばええし、話のできた客とは次もできる可能性が高いから、それなりの戦法を考えて訪問できる。感触が良ければ尚のことやわな。

つまり、次に活かすつもりでデータを取ることを優先すれば『訪問恐怖症』の克服にもなるということやな。


6.基本的なトークを覚える。

『訪問恐怖症』の人は客と話すことが苦手、あるいはどういった風に勧誘すれば良いのか分からないといった根本的な部分で自信のないケースが多い。

最初のうちは、あれこれと一度に多くを覚えても迷うだけやから、得意なトークを一つ、ないし二つくらいをまず身につけ、当面はそれで押し通す。

多くはインターフォンに向かってのトークやと思うので、その例として、

「○○さん、夜分、おそれいります(こんにちは)。近所の○○新聞店の者ですけど、お得な○○サービスのご案内に寄せて貰いました。お渡ししたい物がありますので、お願いします」

「○○さん、夜分、おそれいります(こんにちは)。私、○○と申します。現在、当○○新聞販売店では、先着○名様に特別なサービスをお知らせしていますので、お願いします」

というのが、ええのやないかと思う。声の抑揚や調子で、話を聞かな損やという風に持っていくわけや。

実際、これはワシが所属しとる販売店グループの専業員にやらせている方法で、
なかなか効果的やと考えとる。

もっとも、効果的やと言うても2、3%の確率が僅かに上がる程度やけどな。
まあ、その差が大きいんやけどな。

勧誘のトークは無数に考えられるので、その効果的なトークを考え出すというだけで十分に『訪問恐怖症』の克服になると思う。


7.対鏡自演法で練習する。

対鏡自演法というのは、早い話が鏡に向かって話す練習のことや。これの最も重要なポイントは笑顔で話すという点や。

勧誘時に笑顔で客と接するのは当たり前やが、調子が悪いとその笑顔が消えていることがままある。

それでは叩いても成果が望みにくい。ワシはそのときために常に手鏡を持ち歩いとる。

笑顔で話す人間が嫌われるケースは少ない。相手の気分を良くし、こちらのテンションを上げる効果も期待できる。営業には絶対に欠かせんものやと思う。

テンションが下がって『訪問恐怖症』の顔が覗きそうになったら、手鏡で自分の顔を見て、笑顔を取り戻すわけや。

このとき、第三者として鏡の中から、客観的に自身の顔を見ることが肝心や。そうすることで、この程度の笑顔では足らんということに気づく。

そうして笑顔を作っているうちに、なかなかええやないかと、自信が持てるようになる。

この自信を持つということが『訪問恐怖症』にとっては一番の特効薬やないかと思う。自信を持てば叩くことなど怖くはなくなるさかいな。


8.言い訳をしない。

人はできない理由を探しだすと際限なく見つける。それで安心するわけやが、それでは営業する者としては失格や。

そもそも『訪問恐怖症』と考えている時点で、自身に甘え、それを理由にできると考えとるフシがある。

もちろん、大半の人は、それと自覚しとらんのかも知れんが、深層心理の奥底ではその心理が働いていると力説する学者も多い。

何でもそうやが、言い訳をすると正当化できると錯覚しやすくなる。その錯覚は自分自身を蝕む。本当の意味で病気にもなる。

逃げたいのなら逃げたらええ。それも一つの方法や。他人から、とやかく言われる筋合いのことでもない。

しかし、人には、ここ一番踏ん張らなあかんという時が必ず来る。

そんな時、言い訳する癖がついて逃げてばかりいたら、どうしようもないと思うがな。


と、こんなところや。

コウイチは、ワシらからの回答で、何となく『訪問恐怖症』が克服できそうな気になったという。

ただ、話を聞いて頭で理解するのと、実践して克服するというのは次元の違う問題や。

最終的には、その人の『訪問恐怖症』を克服したいという強い気持ちがなかったら、どうにもならんやろうと思う。

すべては、それで決まる。

そのためのアドバイスやヒントを与えることができても、ワシらが、その人になり変わることなんかできんさかい、それ以上のことは無理や。

ワシらにできることは、ただ見守ることくらいやと思う。

一度そうなった人が、たった一度話を聞くだけで簡単に変われるとは思えんので、迷ったらまたワシらを頼って来られたらええ。

何度でも同じ話をさせて貰う。

同じ話を繰り返し聞くことで、いつかは、そこから抜け出せる日が来るやろうと思う。

また、そうあって欲しい。



参考ページ

注1.第135回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■悩める人々 Part3 サボリと詐病について

注2.第275回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■第1回「新聞拡張員ゲンさんの嘆き」オフサイト・セミナーこぼれ話あれこれ


読者の感想  一人より二人の方が心が折れにくい

投稿者 YMGのYKKさん  投稿日時 2013. 9.21 PM 6:03


大変参考になりました。諦めずコツコツ叩いていくしかないので、精一杯努力してまいります。

早速自分が取り組んだのは自分の後輩スタッフと一緒に叩いて廻るというやり方です。一人より二人の方が心が折れにくいかなと思ったのですが、真面目にやればけっこう叩くことが出来ました。成果的には全くでしたが…。

これからも色々と工夫して叩いていく所存です。


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