メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第291回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2014. 1. 3


■正月風景の移り変わり


時代は変わる。

当たり前のことやけど、特に毎年元旦を迎える今時分になると、いつもそう感じる。

ワシらの子供の頃は、どこの家でも年が明けると玄関先に日の丸の国旗が掲げられていたもんや。

それが、いつの頃からか徐々に減ってきた。

今日、散歩がてら、ぶらぶらと町内を見回ったが、日の丸の国旗が掲げられていた家は、ホンの数件のみやった。

もちろん、ワシは店のバンク内にある町内のことは良う知っとる。表札や住宅詳細地図などを見なくても、ほぼすべての家の名前と家族構成を把握している。

まあ、新聞販売店に長く勤務していれば当然のことで自慢げに言うほどのことでもないけどな。

日の丸の国旗を掲げている家はいずれも、お年寄り世帯、あるいはお年寄りと同居されておられる世帯ばかりや。

比較的若い世代の家は日の丸は出ていなかった。

それと同様に玄関先に門松やシメ飾りを飾っている家もめっきり減った。

だからどうやということはないが、昔ながらのそうした風習が目に見えて廃れていくのは、この国に生まれた人間として寂しい気分になる。

新調した和服を元旦に着ることを「着衣始(きせはじめ)」と言うのやが、正月に和服を纏った人も男女を問わず少なくなった。

初詣の神社ですら見かけるのは珍しいくらいやさかいな。昔は、その姿が当たり前で大勢を占めていたんやがな。

滝廉太郎作曲による有名な日本の唱歌『お正月』に、


もういくつねるとお正月
お正月には 凧あげて
こまをまわして 遊びましょう
はやくこいこいお正月

もういくつねるとお正月
お正月には まりついて
おいばねついて 遊びましょう
はやくこいこいお正月


というのがあるが、ワシらの子供の頃までは普通にあった「凧揚げ」や「コマ回し」いった遊びをしている男の子は殆ど見かけなくなった。

「まり」をついて「追い羽根(羽子板)」をしている女の子も皆無に近い。

双六や福笑い、かるた取りといった正月特有の遊びをしている家庭も珍しくなり、やり方すら知らない若者が増えているという。

今はテレビゲームになりスマホゲームになっているが、正月特有のものやない。

そんなテレビゲームやスマホゲームのできんワシらのような「おっさん」と子供や若者との間の垣根は益々拡がっていく。

彼らにとってテレビゲームやスマホゲームは息をするような感覚やろうが、ワシら「おっさん」にとって一つのゲームを覚えるのは相当な苦痛と苦労を要する。

そのため「おっさん」はゲームを低俗とこき下ろすことで対面を保とうとし、近づこうとすらしない。

子供や若者たちも、ゲームのできない「おっさん」を馬鹿にして相手にしない。

時代が変わったと言ってしまえば、それまでやが、人と人との間に垣根があってお互いを理解しようとしないような状況は、やはり正常とは言えんのやないかと思う。

正月の遊び一つを取っても、そう感じる。

餅つきも近所でしているのを見ることはなくなった。おせち料理もデパートやネット通販で買う時代になっている。

こういうのは時代が変わったと片付けてええものかどうか疑問に思うがな。

それでも昔と変わらないものも、まだ残っている。

年賀状などは、パソコンや携帯での年賀メールで済ますという人も増えたが、ハガキで送るという人も、まだまだ多い。

ただ、その数は新聞同様、年々減少の一途を辿っているがな。

それが嵩じて、『第288回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞業界だけではなかった自爆営業の実態』(注1.巻末参考ページ)の中で話したような事態になった。

年賀ハガキが売れないために日本郵便では職員に年賀状を売り上げるよう強制的に営業ノルマとして、一人当たり3000〜1万枚ほどを課しているという報道があったのが、それや。

ノルマが達成できない者は自腹で、その分を買い取るしかない状況に置かれていると。

そう言えば、最近、めっきりヤクザからの年賀ハガキも減った。

7年前の『第126回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■年賀状は営業のチャンス』(注2.巻末参考ページ)の中で、ヤクザから送られた年賀状について、


ヤクザで思い出したが、趣向を凝らした年賀状ということで言えば、奴さんらのそれは、ある意味、突出しとる。

さすがに、ヤクザに対してええ印象を持っとる人は少ないはずや。ワシも、その口や。毛嫌いもしとる。

ただ、ヤクザほど格式ばったことが好きな人種も珍しいのやないかとは思う。律儀さという点においては認めるべきところも多い。

中でも、この年賀状へのこだわりは尋常やないからな。

和紙貼り合せの最高級品のハガキを使用しとるし、代紋を中心に印刷部分には、やたらと金箔が目立つ。

昔は、直筆の達筆な文字が多かったが、さすがに今は毛筆の印刷物が主流や。それでも、かなり金をかけとると思われるがな。

まあ、見栄を張るのがヤクザの生き方やから、それはそれでええ。無理してベンツの高級車に乗っとるのと同じ感覚なのやろうからな。

ワシの昔からの連れ(友人)に、神山(仮名)というヤクザの組長をしとる男がおるのやが、こいつが、毎年、その手の年賀状を寄越してくる。

迷惑というほどでもないが、そんなものを送られても、誰にも見せられん。特に、拡張員仲間には見せたくはない。ろくなことにはならんからな。

団長あたりにも、付き合いのある、そういうヤクザ関係者から同様の年賀状が届く所もある。

個人的な付き合いに関しては、どうこう言うつもりはないが、中には、それを団員あたりに見せびらかす団長もおる。

最近、少なくなったとはいえ、まだ、ヤクザと付き合いのあることが、ステータスの一つと勘違いしとる者もおるようや。

それを見せられて「親っさん(団長)さすがですね」と、よいしょする取り巻きのバカもいとるから、その愚に気づくこともない。

これは、伝聞やが、ある拡張団の団長同士が喧嘩になって、その年賀状を見せ合いしたという笑い話のようなことが実際にあったらしい。

どっちの年賀状が格上かという張り合いやな。子供のカードゲームとちゃうで、ほんま。情けない。

まあ、それでも、その届いた年賀状の威信の差で、恐れ入って喧嘩がなくなったということやから、まんざら、役に立たんものでもなかったようやがな。


という話をしたことがあるが、そのヤクザからの年賀状も今は届かなくなった。

多くは引退、廃業といった理由やが、その点でも新聞業界に似ている。

新聞同様、年賀ハガキもいつかは廃れてしまうのかと考えると何か物哀しくなる。

できればなくして欲しくはない。

初詣なんかも未だに人気の高い正月の行事の一つやと思う。

ワシは毎年、ハカセの家族と一緒に伊勢神宮に初詣に行くのが恒例行事になっとるが、相変わらず参拝客は多い。

ただ、それにも時代の流れは感じる。

ちょっと前までなら、携帯電話を手にした参拝客など皆無やったが、今はやたらと目につくようになっている。

どうやら神社の様子を携帯カメラで撮影し、それをブログやツイッターでアップ、あるいは友人、知人に転送するのが目的のようや。

神社関係者からの「境内は撮影禁止になっています」というアナウンスが、やたら聞こえてきてはいるが、そんなものに耳を貸す人はいない。

厳密に言えば、「境内は撮影禁止」という神社側の禁止行為や規制を無視すれば、建造物侵入罪に該当し、犯罪行為になる可能性がある。

とはいえ、現実的には少数であればその場を退去させられることがあるくらいで終わるかも知れんが、数万人規模でそうしている場合は如何ともし難い。

多くの人がしていれば「別に悪いことやない」と人は考える。

または神社側の「境内は撮影禁止」が法律違反になるとは知っていないのやろうと思われる。

知っていても「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という心理に共通するものがあるのやろうな。

ワシは、基本的にはその行為で誰かに切実な迷惑が被るのでなければ「好きなようにすればええのやないか」と考えるがな。

昨日の1月2日。伊勢神宮での参拝中、ワシらの目の前で、それに関して小さなトラブルがあった。

「やめろ。撮影は禁止やと言うてるやろ。この罰当たりが」と、スマホをかざして撮影している若者に向かって、70歳代と思われる白髪の気の難しそうな高齢者が怒鳴っていた。

「うるさいわい、ジジイ。俺だけやないやろ」と、その若者がそう反応した。

昔の人にとって神社の境内は神聖な場所という思いが強く、おそらくは正義感から、そう言うたのやろうと思う。正しいと信じて。

それと似たような場面は、他でも見かけることがある。

電車内での携帯電話の使用が禁止されているということを理由に、年配者が若者に注意しているという図が、それや。

以前までは、電車内や病院内で携帯電話を使えば、心臓疾患の人のペースメーカーや病院機器に誤作動が出るなどの理由で禁止にされていたが、最近の調査では、どうもそうではないらしいということが分かってきた。

総務省によると、携帯電話がペースメーカーに影響を及ぼした例は一度も報告されていないという。それと同じく、病院の医療機器に与える悪影響の報告もないと。

そのため、「携帯電話が心臓ペースメーカーに与える影響は小さい」として総務省が去年、2013年の1月に指針を緩和している。

「鉄道各社には実態に合わせて見直して欲しい」と。

そのことにより、鉄道各社が優先席付近の乗客に呼びかけてきた「携帯電話電源オフ」の車内放送を見直す動きが出ているという。

京阪電鉄は指針の緩和にいち早く反応し、2013年の3月から混雑時を除き「電源オフ」の呼びかけを止めている。

近鉄や阪神電鉄は今後、車内放送の見直しを含め検討を進める方針やという。

もっとも、利用マナーの観点から「電源オフ」を継続する鉄道会社もあるとのことやがな。

JR西日本などが「とりあえず現状のまま様子をみたい」との姿勢を打ち出したというのが、それや。

利用のマナーというのは、電話をかけたり、かかってきたりする時の話し声が耳障りなるということやと思うが、それなら電車内で騒いだり、話し込んだりする人たちはどうなのかというと、それについては何のお咎めもないのが現状や。

しかも、現在、若者が携帯電話を使う最大の目的がメールやゲームをすることで話すためというのは少ない。たいていはもの静かに指を動かしているだけや。

それを迷惑行為とするには無理があるのやないかと思うがな。

これについては、高齢者側に勉強不足の面があり、鉄道会社の誤った警告がトラブルを引き起こしていると言えなくもない。

法律の専門家は「トラブル防止の観点からも鉄道各社で(呼びかけを)統一するべきだ」としている。

今後は、電車内でも携帯の使用禁止はなくなり、病院内でも自由に携帯が使える時が来るやろうが、それまでは過去のマナーに拘る高齢者からの、こうしたクレームが続くものと思う。

伊勢神宮でのそのトラブルは、その言葉のやり取りで終わったが、それが原因で刃傷沙汰にまで発展することがあるさかい、人に何かを注意する場合は十分注意することやと言うとく。

世間一般で言われているマナーが絶対に正しいとは言えん場合もあるさかいな。時代と共にマナーも変わると。

その反面、なくなって欲しい正月の恒例とも言える慣習も消えたがな。

最近、正月に暴走族らが暴走行為をしなくなったというのが、そのええ例や。

単純に見れば、迷惑行為の一つがなくなったという点では良かったと言えるが、その理由が、何かの行動を起こすのが面倒になったという若者が増えたというのは、別の意味で問題があるのやないかと考えるがな。

いずれにしても、正月風景が変わってきたのは確かや。これからもいろいろ変わるやろうと思う。

時代は、そうして動いていく。ええか悪いかは、たいていは後で分かる。

ワシらは、幾つになっても、できるだけ臨機応変に物事に対応したいと考えとるがな。

それでは、本年も今までどおり頑張っていくので、今後ともよろしく。



参考ページ

注1.第288回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞業界だけではなかった自爆営業の実態

注2.第126回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■年賀状は営業のチャンス


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