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第292回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2014. 1.10
■新聞販売店物語……その11 納得できない事について
タナカ新聞販売店にA社から専業で区域担当者のケンジに会社まで来て欲しいという電話があった。
以前、そのA社から新聞購読の依頼があり、ケンジが契約担当者になっていた。契約は、まだ若干残っていて配達も続けている。
契約時、Y紙の後にM紙を取りたいという趣旨の話をA社の担当者であるタケダから聞いていたので、おそらくその話だろうとケンジは考えた。
A社も仕事柄、Y紙1紙だけ取るわけにもいかないだろうし、それまでも他紙を購読していたのだから、それはそれで仕方ないと思っていた。
そのM紙の後に再び契約をして貰えれば御の字やと。
担当者のタケダのニュアンスではY紙を取り続けたいようだったが、決めるのは社長だとも言っていたので、どちらでも良いという気楽な気持ちでA社に行った。
そこで告げられたのは、若干の契約は残っているが、どうしても一旦、Y新聞との契約を終わらせたいというのが社長の意向とのことやった。
タケダも一旦締結した契約事が簡単には終わらせることができないとは承知しているが、そこを曲げて契約担当者のケンジに頼みたいと言う。
ケンジもタケダから、「半年先の契約は今はできないが、またY紙を取りたいので必ず連絡する」と言われ、承諾するしかなかった。
決定権者との間に第三者が絡むと、こういったケースはよくあることだとケンジも承知していた。
しかし、この後、タケダから予想外の依頼を受けた。
「J新聞を購読したいので担当者をここに連れてきて欲しい」と。
J新聞は地方紙ながら自前の販売店が少ないため、配達と営業を全国紙に委託するケースが多い。
ただ、タナカ新聞販売店ではJ新聞を取り扱っていないため、この辺りの区域ではA紙かM紙の販売店でないと契約ができないことになっていた。
そのことをタケダ氏に説明したのだが、ケンジにその手配をして欲しいということやった。
タケダの言っていることは業界としては非常識な依頼やとは思ったが、それを言うと角が立つと考え、「それでは連れて来ます」と、ケンジは応じることにした。
ケンジには、その心当たりがあったからや。
A新聞の販売店の専業にシンゴという男がいた。たまに会って世間話をする程度の仲やったが、この男になら頼めそうな気がした。
つい最近、シンゴから、10年以上勤めた今の販売店を辞めると聞いたばかりやったので餞別代わりに、その話を持っていけば快く応じてくれるやろうと考えた。
ほどなくシンゴと会え、その話をすると「わざわざありがとう、僕が行くね」と、予想どおり快諾してくれた。
もっとも、シンゴにとっては客を紹介してくれたわけやから、当然と言えば当然なわけやが。
その日は土曜日でA社は休みだったので、翌週の月曜日の午後3時頃、タケダに「J新聞を扱ってる販売店の担当者を連れて行きますが、いつがいいですか?」と電話で尋ねると「すぐで良い、今からでも構わない」ということやった。
ケンジは早速、シンゴに電話をした。
すると「現在、この電話はお客様の都合でお繋ぎできません」というアナウンスが聞こえてきた。
料金の未払いでつながらない。困った!
タケダにはすぐに連れて行きますと言った手前、連れて行かないわけにはいかない。
ケンジはシンゴを探し歩いた。しかし、こういう時に限って、なかなか見つからない。
ほとほと弱り果てたケンジは、取り敢えず単身タケダに謝った。担当者が風邪でダウンしていて来られないと適当なことを言って。
そして、改めて再度担当者から連絡させて訪問するという形にした。
シンゴが捕まらない以上、別の人間を探すしかない。
ケンジは、タナカ販売店で配達と午後の電話番をしていたアルバイトのサワノという年輩の男のことを思い出し、夕方店に帰ってから相談した。
サワノは近所のM紙の販売店で長年働いていたので、心当たりの人間がいるのやないかと考えたからや。
「そうか、じゃあちょっと電話するから待ってろよ」と、サワノは気軽に応じ電話をかけた。
「あぁ、そういうことや。じゃあ、それで良いのでよろしくな」ということで、その最初の電話で話は、あっけなくまとまったようや。
サワノが信頼してるM紙の販売店の担当者に話したら「今日は仕事が終わったので明日行く、午前11時頃なら空いてるのでその時にいく』ということやった。
「え?」と、ケンジは思った。
「新勧なのにすぐ行かないで明日?」と。普通なら、すぐ行くのにと。
サワノの言うところによると、そのM新聞の販売店の専業は休みがないとのことやった。
1年に休日は休刊日の10回だけ。病気や怪我をした時ですら休みはなし。それが嫌なら辞めろというのが店の方針とのことやった。
もちろん、そんなことは労働基準法に違反するが、労働基準監督署から指導があった時でさえ、まるで眼中にないという。
その苦情を持ち込んだ専業を解雇して終わりやったと。
その専業が労働争議に持ち込めば、そのM新聞の販売店の立場はまずいことになったかも知れないが、そういった話はサワノが在籍していた時にはなかったという。
逆らえば辞めるしかなくなる。辞めたくなければ逆らわないことやというのが店の合い言葉になっていたとサワノは言う。
但し、それでは誰も店のために頑張って働こうという気にはなれない。
そのため専業の方でも集金じゃない時期は夕刊を配り終えると、そのまま上がりが普通とのことやった。
休みは適当に自分たちで取るしかないという考えが定着しているという。
新聞勧誘も専業の半数くらいはしていないらしく、中にはそれからコンビニやラーメン屋でアルバイトをしている者もいるほどやと。
そのケンジから、ワシらに、「それについてどう思います? 同じ新聞販売店で働いているのに新勧ですよ?」というメールがあった。
ケンジには信じられんことのようやった。
それについては、ハカセが、
そういう販売店は他にもあると聞きおよびます。
特に関東地方のM新聞あたりでは現状維持で良いという所が多いようで、勧誘に関してもあまりうるさく言わないとのことです。
加えて、J新聞の場合、拡張員でも3軒分で本紙1軒分の契約にしかにならず、販売店によれば従業員が契約を取っても報酬が数百円、もしくはゼロというケースもあると聞きおよびますので、それも影響しているのではないでしょうか。
早い話、その方にとっては、その契約はどちらでも良いということなのでしょうね。
と返信している。
ケンジは、そのメールの返信で「新勧に対する考え方の違いがこんなにあるなんてショックを受けました」と返していた。
ただ、サワノは「そんなもんだよ。お前たちは仕事し過ぎなんだ」と言って笑っていたとのことやったが。
話は、それで終わらない。
ケンジの受け持ち区域に新しい客が引っ越して来た。販売店Bのイシハラという男からの転居通報やった。
客の名は○○アサミ。
「住所は……と、え? あそこかな? この住所からするとあそこしかない。でもあんな所に人が住むかな?」
ケンジは少し疑問を感じつつ、配達する前に挨拶しておこうと考え、その家を訪問した。
その家は借家の一軒家で相当に古い。以前は、店の長期購読者やった独り暮らしのおばあさんが住んでいたのやが、今は娘さんの所に引っ越ししたとかで、長い間空き家になっていた。
おばあさんが住んでいた頃は「古い家だな」くらいにしか思わなかったが、誰も住まなくなって時間が経つと、もう人が引っ越してきたりはしないだろうと思えるほど荒れ果てていた。
あいにくその日はアサミは不在で、会うことはできなかった。
ケンジは、その名前から病気がちで療養に来て窓から外の景色を眺めている物静かな美少女を思い描いていたが、翌日本人に会って、その淡い期待は見事に消し飛んだ。
アサミは独身で50歳前後。元気そうで肥え気味の大柄な女性だった。
想像とは違ったが、話してみると特に変わった様子はなく、どこにでもいる普通の「おばさん」のように感じた。
「今朝新聞を配達させていただいたY新聞の区域担当者です」
「あぁ、そう……」
「ご挨拶に伺いました」と形どおり名刺を差し出しながら、「挨拶品のビニール袋と古新聞をお入れする袋をお持ちしましたのでお使いださい」といつものように言って、
「B店のイシハラ様からのご紹介ということで報告を受けているのですが」と続けた。
「え? イシハラさんを知ってるの?」
「いえ、直接は存じませんが販売店をまたぐ時は担当者の名前が入っているので、それで分かるんです。それにより引っ越し翌日から新聞が配達できる仕組みになっていますので」
「あ、そうだったんですか。だから今朝新聞が入っていたんですね」と、やっとアサミは理解したようやった。
それまでは、単に近くの販売店が勝手に新聞を入れたと思っていたようや。
「それから確認なんですが、集金の日について翌月の7日と聞いているのですが、それでよろしいですか?」
「えっ、う〜ん……ちょっと待って。イシハラさんに聞いてみます」
「あれ? アンタの集金の日がイシハラさんと、どんな関係があるの?」とケンジは訝ったが、それは口には出さなかった。
これについてはワシの推論で的外れかも知れんが、紹介者の販売店Bのイシハラは契約欲しさにタダにするという条件で契約しているのやないやろうか。
それに似たような話は、サイトのQ&Aに時折、寄せられてくるさかいな。
つまり新聞代金を持参することになっているために、「イシハラさんに聞いてみます」と言っている可能性が考えられるということや。
新聞販売店の多くでは月初めの5日が給料日というケースが多いさかい、7日だと確実にその代金を持って行けるからということで、その日を設定しているのやないかと。
もし、そうやとすれば、それが発覚すると問題が大きくなる可能性がある。もっとも、ワシには、それを暴けと言うつもりはさらさらないがな。
万が一、そうではなかった場合、そんな疑惑を向ければヤブヘビになりかねんしな。
「分かりました。それでは改めて伺いに参りますので……」と言ってケンジが帰ろうとすると、「そうだ。5日でいいや。5日に来てください」とアケミがはっきりとそう言った。
「はい、では集金は毎月5日、稀に会議や休日の関係で翌日になる場合もありますが必ず伺いますので」
「お願いします」
ここまでは普通のやり取りで何の問題もなかった。
しかし、3ヶ月後の10月5日の午後6時頃、そのトラブルが発生した。
タナカ販売店に販売店Bから電話があった。
電話に出たのは、例によってアルバイトで配達と電話番をしているサワノやった。
販売店Bからの電話の内容をまとめると、アケミから「何で今日集金に来るんだ。集金日は7日じゃないか!」と物凄い剣幕で電話が、かかってきたということらしい。
店長のタケシマが、ケンジを問い詰めた。
「どうなっているんだ」と。
「転居通報が来た翌日、挨拶に伺って集金日に関しては確認を取りましたよ」と、ケンジ。
その時、販売店Bでは7日ということだったが、アケミが5日に来てくれと言ったので、そうすることにしたと。
そのため、すでに8月分と9月分の集金は翌月の5日に貰っていたとタケシマに告げた。
「何で、今回に限って、そんなことを言われるのか僕には分かりません」と。
ただ、今日に関してはアケミは留守だった。
ケンジは5日に集金に来たことを知らせるために、小冊子やごみ袋などをポストに入れて帰ったという。
それを見たアケミがなぜか販売店Bに電話して、こういうことになったようや。
「とにかく怒ってるらしいからちょっと謝りに行って来い」と、タケシマ。
「え? 俺が、何で?」とケンジは思ったが、店長命令なら仕方ないかと思い「様子を窺いに行く感じでいいですか?」と念を押した。
ケンジに謝るつもりはなかった。謝る理由がないからだ。
「それでもいいから、とにかくすぐ行って来い」と、タケシマ。
ケンジは、そもそも何でアケミが怒ってるのか不思議で仕方なかった。ケンジにはアケミの気分を害することをした覚えは一切なかった。
集金に行っても今までは気持ちよく支払ってくれていた。
ピンポーン。
玄関の磨りガラスの向こうで人が動いてるのが見えた。玄関に誰か近づいて来ている。
玄関越しから、いきなり「お前さぁ〜集金は7日って言ってんだろうが! 分かんねーのかよっ!!」とアケミが怒鳴ってきた。
「え? そうでしたか?」
ガラガラと玄関引き戸が開いた。
「お前さぁ〜、客の言うとおりにしろよな」
「いえ、そちらが引っ越しされて来られた時に、そちらから集金は翌月の5日にして欲しいと聞きました。何かの勘違いではありませんか」と、ケンジ。
「7日って言ったよ! あー?」と、アケミは尚も威嚇してくる。
「いいえ、確かに5日と伺いました」と、ケンジも負けずに言い返した。
「……んじゃあ分かったよ。次から7日にしてくれ。あとさぁ今日はカネがあるから持っていけ。ホラッ」
ケンジは、その一連の態度にカチンときた。
「いいえ、7日と伺ったので頂くわけには参りません。明後日改めて伺います」
ケンジも意地になっていた。
それに、「こんなわけの分からない人間に強引に新聞代を取っていかれたなんて言われたらたまったもんじゃない」という気持ちもあった。
「良いから持っていけって言ってんだよ!!」
「7日にまた参ります」
「ホラッ、ホラッ」と、アケミが新聞代金を突き出してくる。
「……」
「……」
気まずい空気が流れた後、ケンジは、こんな押し問答をしても始まらないと思い、「分かりました。それでは頂いて帰ります」と言って新聞代金を受け取り、領収書を切って渡した。
「ありがとうございました」とケンジは一応、礼を言ったがアケミは憮然とした表情で無言だったという。
帰って店長のタケシマに、ありのままを報告した。
するとタケシマは、「お前の言い方はきつくておかしいよ! お客様の立場からすると7日といったつもりなんだから、お前が反抗すればするほど怒るのは当然だ」と言った。
それにはケンジも唖然とした。どこが、きつくておかしいと言うのか。
店長のタケシマは、直接アケミの口汚く罵われていないから、そう言えるだけで同じように言われたら気分を害して、そんな悠長な配慮などできるはずがないと、ケンジは思った。
「でも、挨拶に行った時、以前の7日の集金日をお客の意向で5日にして欲しいと確認しました。それに、その後、8月分と9月分は、お客の言うとおり5日に集金していて何も言われていなんですよ」
「それはそうかも知れないが『僕の聞き間違いかもしれないですね』みたいな柔らかい表現にすれば向こうの感情も収まったかも知れない。お前の言い方なら俺でも頭にくる」
「はは……大した言い草だな。明らかに向こうの言い分の方がおかしいし、態度も悪いのに」と心の中でケンジは考え、この件では2度に渡り嫌な思いをした。
それでも『もっと柔らかい言い方』という部分は、ケンジ自身、気分を害していたために客に突っかかった点もあると考え勉強になったと思うことにして、その場はそれで我慢した。
人と人との諍いは、事の善し悪しより、ちょっとした物言い、言葉のやり取りが原因で起こるケースが多い。
俗に言う売り言葉に買い言葉というやつやな。
ケンジが店主なら、例え客をなくしても自身の正当性を主張することを優先できるが、雇われの身ではそうもいかない。
釈然とはしないが、客商売をしている限りは客を怒らせるべきではないというのは正論や。少々のことは辛抱せなあかん。
そのことはケンジも理解していた。理解はしているが、納得はできない。
正しい事を言っているのに否定され、尚かつ悪者扱いされた悔しさを払拭することなどできないからだ。
とにかく、ケンジが我慢することで終わったと思っていたが、この件にはまだ続きがあった。
数日後の午前中、アケミの近所に住む「母親」と名乗る人間から店に電話があった。
例によって応対したのはサワノである。
サワノの話やと、その母親曰く「娘が新聞を辞めたがっているから止めてくれ」ということのようやった。
その電話をタケシマが代わった。どうやら、それを認めて即止めになったという。
そのことをサワノから聞かされたケンジは、タケシマに詰め寄った。
「店長、どういうことなんですか?」と。
「向こうの親という人から電話がかかってきて新聞を止めてくれということなんで止めた」と、あっさりタケシマが言う。
「……」
ケンジは言葉が出なかった。
そのケンジから、ワシらにメールがあった。
どうせ、そんなことになるではないかという予感はありましたが、やはり納得できません。
僕が言いたいのは2点です。
1.まず店長は俺ばかり責めておかしい。
僕は何も間違っていないし、例え言い方が悪くても新聞を辞めたいというのは契約上、筋が違う。
感情の問題でどうしても止めたいのなら残りの契約分の新聞代金を全額払ってもらうか、紹介者の販売店Bのイシハラさんに理由を言ってこれまた全額払ってもらうべきだと、僕は考えます。
母親も変。本人が電話をするのが当たり前と思うのですが、同居してもいない母親を名乗る人の電話で新聞止まるなら大変なことになるんじゃないですか?
それにしても何かあったら従業員が悪い、悪いハズだ。悪いに違いない。
こういう勘違いはどこで産まれるのでしょうか? 不思議。
会社から給料をもらっていて会社の為にならないことをしたら非も受けましょう。
店長自身がこっちが悪いと思ってるから向こうの契約破棄に応じてしまう。
本当におかしな結末です。
2.心が育ってない。
アケミさんは残念ながら人間として心が育ってきてないんです。
怒り狂って威嚇してきた日から4日くらいは新聞を配達してました。
新聞見るたびに悔しかったのか。どうにかして俺に? 仕返ししないと気が済まないとでも考えたのでしょう。
僕は普通の会話をしたつもりですが、本人的には屈辱を受けたと感じたのかも知れません。
どうしたら新聞を止めることができるのかと考えた結果、「そうだお母さんから言ってもらおう」ということになったのだと思います。
もう新聞を取ることができない。止めてやる。馬鹿野郎。といったところだと思いますが、あまりにも稚拙です。
モンスターピアレント。キチガイクレーマー。そしてDV。この3つをまとめて論じている人はどれくらいるでしょうか?
僕には根っこは一緒に思えます。
たまたまそういう人間が小学生の親で相手の先生がひ弱ならモンペアで、シマムラに買い物に行って機嫌が悪く、店員が初心者であればキチガイクレーマー。
配偶者やお付き合い程度でも男女の仲ならDV。
心が育ってない人間の環境による行動の違いでしかありません。
こんな日常の些細なことにも大きな問題や真理が隠されているのではないかと感じました。
『1.まず店長は俺ばかり責めておかしい』というケンジの気持ちはよく分かる。
ケンジの話を聞く限り、店長のタケシマはケンジの言うことなど信用していないのやないかとワシも感じるさかいな。
当然やが、部下を頭ごなしに責めるのは上司としての資質を問われても仕方がない。
部下を信用しなければ、その部下からの信頼を勝ち取ることなどできん。部下にしてみれば「最悪な上司」ということになるさかいな。
おそらく、その販売店、もしくはその店長は、客の言うことには逆らわん方が無難やと考えとるのやと思う。
特にクレーマーに対しては良い悪いやなく、敵対するより言うとおりにしていた方が問題が少なくて済むという考えなのやろう。
事なかれ主義というのか、新聞販売店に限らず、客と直接対する店には、そういう姿勢のトップは結構多い。
世にクレーマーと呼ばれる者たちが蔓延っている理由の大半が、そのためやと思う。
そういうトップのいる店では、しつこいクレーマーと喧嘩して問題を大きくするより、内々で我慢してやり過ごす方を選ぶ傾向にある。
ただ、そうであるなら、そのことを従業員には納得させなあかん。
「お前の言い分はよく分かるが、泣く子とクレーマーには勝てんさかい、ここは辛抱してくれ」という一言があれば、また違う。
それがなく、ケンジのように一方的に悪いと決めつけられて責められれば誰でも嫌になるし、怒る。
ワシがタケシマの立場なら『僕は何も間違っていない』という言い分を尊重した上で、『例え言い方が悪くても』の部分は違うと諭す。
先にも言うたように、人が気分を害して揉めるのは、その言い方の部分が大きいと思う。
クレーマーと呼ばれる者は、事の是非より、その部分で争おうとする。「それが客に対する物言いか」と。
例え相手が先に毒のある言葉で攻撃してきたとしても、それに反応した言動をするようでは、金を貰って商売している側としてはまずい。
そんなことをしても揉め事にしかならんし、客を減らすだけやさかいな。
「お客への言葉は十分に気をつけてくれな困る。お前にしても言葉の揚げ足を取られたら、つまらんやろ」と、ワシなら諭す。
それであれば、ケンジも納得するものと思う。
『例え言い方が悪くても新聞を止めたいというのは契約上、筋が違う』というのは、揉めた場合、客としてはありがちな考えや。
気分を害している者にとって契約云々など眼中にない場合が多い。気分が悪いから新聞を止めたいという思いが先走る。
『感情の問題でどうしても止めたいのなら残りの契約分の新聞代金を全額払ってもらう』という考えには賛同できん。
当たり前やが、新聞販売店は配達した新聞の代金を払って貰うことしか許されん仕事や。
商品を渡さずに、その分の代金を払えと言うのは、どう考えても間違いとしか言えんさかいな。少なくとも新聞販売店のするべきことやないと思う。
まあ、これは怒りに任せて言うたことやろうがな。
この場合は、『残りの契約分』に対しての解約違約金を支払って貰わないと困るというのが正解やと思う。それなら分かる。
『紹介者の販売店Bのイシハラさんに理由を言ってこれまた全額払ってもらうべきだと、僕は考えます』というのも、その販売店Bのイシハラとやらには、そうする義務も責任もないさかい、それを言えば単なる「言いがかり」にしかならん。
販売店Bのイシハラからすれば、「それは、そちらの揉め事でしょ」ということになるさかいな。
アケミがケンジの態度が気に入らないから怒っていると言うのであれば、尚更そういうことにされる。
いずれにしても、『解約に応じた』というのは、その販売店の方針やさかい、従業員の立場では、どうしようもないわな。
『本当におかしな結末です』と思う分には、それでええかも知れんがな。
それなら、こういう場合は、どうすれば良かったのか。
ワシがいつもしている方法がある。
今回の場合は、集金日が5日か7日ということで揉めたが、その真偽については客観的な証拠がない。お互いが、そう主張しているにすぎんと第三者は受け取るさかいな。
この手のトラブルは昔から結構あった。
そこで契約を貰う場合、ワシは必ず集金日をその契約書に記入することにしている。
ワシらの方では、そうするのが常識であり、販売店によれば、そうするよう勧誘員に強制することもある。
今回の場合なら、最初にアケミと会った時には引き継ぎ用契約書を持って行ったと思うので、アケミが5日に集金に来て欲しいと言った時に、その引き継ぎ用契約書の客用の控えに「集金日は5日に変更」と書いておけば良かったと思う。
口約束で済まさず、常に形あるものにして残すという姿勢でいれば、今回のように「言うた、言わん」の水掛け論によるトラブルは少なくて済むはずや。
とはいえ、直近の2ヶ月間は5日に集金して問題がなかったわけやから、今更それを言う方も言う方やとは思うがな。
今回の場合は、アケミの思い違いか、もしくは気分を害したことによる言いがかりの線が強い。
ケンジの方に非は少ないやろうと考える。
ただ、それにしても、その店の方針で『解約に応じた』というのであれば、如何とも、し難いとあきらめるしかないやろうがな。
『2.心が育ってない』でケンジが言うてることについては本人の感想やと思うから、特にコメントするつもりはない。
ケンジに同調される方もおられれば、店長のタケシマの考えを支持する人もいるかも知れん。それはそれでええと思う。
感じ方は、人それぞれやと考えるしな。
ただ、最後の『こんな日常の些細なことにも大きな問題や真理が隠されているのではないかと感じました』というのは、そのとおりやと思う。
物事全般に言えることやが、その事に直面している人にとっては、そのすべてが切実で大きな問題ということになる。
他人が、その問題を大きく捉えるか小さく考えるかの違いはあるやろうがな。
ケンジのような事例を経験して悔しい思いをしている業界関係者の方は他にもおられるものと思うので、そういったものがあれば寄せて頂きたい。
ここで取り上げて、一緒に考え、解決策を模索したいと思う。
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