メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第298回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2014. 2.21


■ゲンさんとハカセの時事放談……その1 ゴーストライター問題について


以前から、その時々で世間を賑わせている様々な問題について意見や感想を求められるケースが多かった。

最近のメルマガで『第295回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■考えさせられる話……その3 TVドラマ「明日、ママがいない」について』(注1.巻末参考ページ参照)で話したし、

サイトのQ&Aにも『NO.1227 乙武洋匡氏のツイート上での発言問題について』や『NO.1256 山本太郎参院議員の行動について』(注2.巻末参考ページ参照)というのがある。

他にも探せば相当数、その手のものがあるはずや。

本来なら、それらは新聞業界とはあまり関係がないさかい、このメルマガやサイトでするべきやない話かも知れんが、読者から要望されたとあれば断るわけにもいかん。

ワシらのメルマガやサイトは読者の要望や質問を重視しとるさかいな。

ワシらの考えや意見が読者の方々の参考になるのなら、それなりに意味のあることやとも思う。

それに、読者の中には「新聞記事になったものは広義の意味での新聞話になるので良いのではないですか」と理解を示してくれる方もおられる。

今後も、そういう読者の要望に答えていきたいと考え、新聞記事になった事件、出来事を中心に『ゲンさんとハカセの時事放談』と銘打って話すことにしたわけや。

第1回めは、時折メルマガの読後感想を寄せて頂いている読者の方から寄せられた質問メールについて話たいと思う。


佐村河内守氏のゴーストライター問題について

投稿者 奥本さん 兵庫県在住 投稿日時 2014.2.14 AM 10:13


質問内容


いつも楽しく拝見しております。以前、何度か質問させて頂きました、奥本と申します。

さて今回、お尋ねしたいのは、オリンピックのメダル獲得で影が薄くなりつつある「佐村河内守氏」の話題です。

内容はご存知だと思いますので、あえて記載しませんが、NHK等の各社は一斉にコメントを発表し、損害賠償請求にまで展開しそうです。

その賠償責任問題のなかに、「佐村河内守氏のCD代金を返金して貰えるか?」というものがありました。

ハカセさんは、ゴーストライターをしておられる(おられた?)と認識していますのであえて質問をさせて頂きます。

私は無類の本好きで、日頃かなりの本を読んでいます。

ほとんどが「歴史」か「身体の動き」に関するものですが、たまに作家以外の
有名人(芸能人やスポーツ選手)の書籍を手にすることもあります。

しかし私は、それらの書籍がまさか本人が書いたものであろうとは思いませんし作家と呼ばれる方々に、ゴーストライターがいたとしても何とも思いません。

私は、音楽のことは分かりませんが、「誰が書こうが、自分がいいと思えるものを何度も味わう」という姿勢であり、「本人の作品じゃないから返金しろ」というのは消費者の我がままです。

コマーシャルやドラマも、一般消費者(視聴者)がいて成り立つものですが、どうも最近は、一部の身勝手な消費者の意見に振り回され過ぎです。

佐村河内守氏の聴覚能力は別問題として、「自分で作っていないのなら、聴く価値が無いから返金しろ」という主張は、「全聾者が作ったから聴いたのに、健常者の作った音楽なら意味が無い」という、音楽そのものに対する間違った認識であり、文句を言える土俵に上がっていないと思います。

これにつきまして、ハカセさんのご意見はいかがでしょうか?


回答者 ハカセ


ゴーストライターとしての私の意見を知りたいということのようですので、お答えします。

その前に、常連の読者の方々はご存知だと思いますが、このメルマガ誌上、およびサイト上では公人以外の個人に対する名指しでの批判はしないという主義ですので、佐村河内守氏についての批判的なコメントは控えさせて頂くと念のため申し上げておきます。

ただ、問題の背景については新聞やテレビ、週刊誌などの報道でしか、その経緯は分かりませんから、それらの報道記事を参考にさせて貰ってはいますが。

この問題について詳しい事情を知らない読者の方もおられると考えますので、それらのソース(情報の出所)から知り得た問題の背景について簡単に説明します。


佐村河内守氏は、聴覚障害を持ちながら「交響曲第1番『HIROSHIMA』」を作曲したとして脚光を浴びたが、2014年2月5日、自作としていた曲が実はゴーストライターの代作によるものと発覚し物議を醸している。

また聴覚障害2級認定の過程についても疑義を持たれている。

ゴーストライターだったと名乗り出たN氏(後で批判的なコメントと受け取られる可能性がある関係で本名は伏せさせて頂きます)は、佐村河内守氏との18年間に渡る関係を記者会見で曝露した。

N氏は、

1.佐村河内の曲は全て自分が担当した。

2.佐村河内の耳は聞こえており、通常の会話で自分の要求を伝えていた。ときには作曲し演奏した録音を佐村河内に聴かせ、やり取りをしていた。

3.佐村河内は図表や言葉で曲のイメージを伝えてきて、それをもとに作曲した。

4.佐村河内氏はプロデューサーのような立場だった。佐村河内氏のアイディアを曲にして、佐村河内は自分のキャラクターを作って世に出した。

5.報酬は18年間で20曲以上作って720万円であった。

6.「交響曲第1番『HIROSHIMA』」は、最初『現代典礼』というタイトルで書いたものを、数年後に佐村河内氏が『HIROSHIMA』と名づけた。

と語った。

N氏の会見後、佐村河内氏は弁護士を通じて、「聴覚障害2級の身体障害者手帳を持っている」「N氏の話す内容は唇の動きを見て理解していた」と話し、耳が聞こえていたという証言を否定した。

また佐村河内守氏はマスコミ各社に直筆の謝罪文を送った。その内容、

1.3年ほど前から体調によっては周囲の声や音をある程度聴きとれるようになっている。

2.聴覚障害については再判定を受け、場合によっては手帳の返納も考えている。

3.作曲の指示書については直筆であり、「娘(佐村河内の妻)の字」は義母の誤解。

4.両親は本当に被爆者であり、被爆者健康手帳を持っている。

についても嫌疑の目が向けられている。


というのが、私が知り得た大凡の経緯です。

私たちは、ある特定の人物を寄ってたかって叩く、攻撃するというのはあまり好きではありません。

もっとも、過去のメルマガやサイトにおいて、殺人事件などの凶悪で極悪非道と思われ、その犯行に疑いの余地のない行為については痛烈に批判するケースはありましたが、その場合でも名指しすることは避けてきました。

それらに比べると、今回の問題は誰かに危害を加えたという話ではなく、単に佐村河内氏の名前で利益を得ようとしていた音楽関係者、出版関係者たちのアテが外れて損害が生じたという程度のことだと考えます。

また佐村河内氏を信じてCDなどを買って裏切られたと感じた人たちが被害を被ったくらいなものだと。

もちろん、それだから良いとは言えませんが、金銭的な損害程度のことで、さも極悪人でもあるかのように扱って一緒になって叩く気にはなれないということです。

まして、佐村河内守氏は自身の非を認め、謝罪の意思を示しておられるのですから尚更です。

私は佐村河内守氏を擁護するつもりはありませんし、庇う理由も根拠も持ち合わせていませんが、この程度のことであれば謝罪して済む問題だろうと思います。

また、法律に抵触する部分があれば、その罪を償えば終わるものと考えます。

同様に損害賠償訴訟で敗訴した場合、またご本人が損害賠償に応じると判断した場合、その支払いをすれば問題はなくなります。

現時点では、佐村河内守氏の社会的信用は大きく失墜しているわけですから、その点での制裁はすでに受けているものと考えられますので、私としては氏を責める気にはなれないということです。

『NHK等の各社は一斉にコメントを発表し、損害賠償請求にまで展開しそうです』というのは、現段階では『噂』の域を出ない問題ですのでコメントするのは難しいですが、NHKが損害賠償請求するという件に関しては懐疑的な見方をしています。

NHKは、昨年の2013年3月31日に『NHKスペシャル 魂の旋律 〜音を失った作曲家〜』という番組を放送しています。

ちなみに、これがブームの火つけとなって関連するCDや書籍が爆発的に売れ始めたとされています。

1番組まるごとウソだったということが発覚したのはNHKスペシャル始まって以来とのことです。

これはその真相次第ではNHKにも責任を問われかねないことです。被害者としてより加害者としての立場もあり得ると考えます。

NHKに企画を提案したフリーのディレクターK氏は、5年ほど前から佐村河内氏を取材していたということのようです。

佐村河内氏が『3年ほど前から体調によっては周囲の声や音をある程度聴きとれるようになっている』と言っている事実は、当然、K氏も知っていたものと思われます。

そうだとした場合、K氏が佐村河内氏を敢えて全聾としてNHKに売り込んだ点についてはNHKを騙す意図があったか、どうかはまでは分かりませんが、結果として欺いたことになります。

もっとも、佐村河内氏が全聾ではないと薄々知ってはいたけれど、作曲は彼がしたと思っていたというのであれば騙すつもりがなかったと抗弁できるでしょう。

その場合でも、全聾の「日本のベートーベン」として売り出すつもりだったと考えられます。

この程度のキャッチフレーズは出版業界はもとより、CD販売を手がける音楽業界においても特段珍しいことでも、非難されることでもないでしょう。

誇大宣伝と言えば、そうなるかも知れませんが、消費者にインパクトを与える手法として、この程度の過大な表現は昔から数多く使われてきています。

そして、このキャッチフレーズまで佐村河内氏が考えたものとは思えません。

それにもかかわらず、報道では中心的な役割を担っていたとして、すべての責任を佐村河内氏に押しつけるような論調に終始していますが、一作曲家という立場で、そこまでできるものだろうかと思います。

結果的に「日本のベートーベン」というのはウソだったわけですが、そこに至るまでには佐村河内氏だけではなく、様々な人たちの思惑が複雑に絡み合ったからだと思います。

それらの事実をNHKの担当プロデューサーがどこまで知っていたかが焦点になります。

すべてを知っていて番組を制作していたとすれば、佐村河内氏およびK氏に対してNHKが損害賠償訴訟を起こして勝訴するのは難しいでしょう。

同じ穴のムジナということになりますからね。損害賠償訴訟を起こせば、そのあたりのことまで暴かれるかも知れません。

加えて、NHKスペシャルでは試写、および放送までには100名以上の人たちがチェックする仕組みになっているということですから、それらすべての人を騙し通すことができたのだろうかという疑問も生じます。

そのチェック態勢があったからこそ、今までこういった不祥事はNHKスペシャルにおいて発生していないわけですからね。

騙し通されたとする場合、NHKのチェック態勢に問題があったことになりますし、NHK関係者の誰かが佐村河内氏が全聾ではないと知っていながら見過ごした場合は損害賠償訴訟を起こすというのは論外な話になります。

下手をすれば共犯者をNHK内部に抱えていたということになりますからね。

現在、NHKはフリーのディレクターK氏について査問委員会を開いて調査しているということですから、その結果次第で佐村河内氏に対する損害賠償訴訟を起こすかどうかが決まるのではないでしょうか。

さらに大きな問題は、佐村河内氏が作曲したとされる音楽を高名な音楽家S氏などが絶賛したという点です。

ただ、同じ高名な音楽家でもK氏のように、そういった情報を聞いていても「作品自体を評価すればそれでいいのだから」というスタンスの人もおられたと付け加えておきます。

ちなみに、高名な音楽家S氏の「作曲者はベートーベン並みの才能の持ち主」という発言で、「日本のベートーベン」というキャッチフレーズが生まれたと言われています。

ゴーストライターをしていたN氏は会見の場で、「マーラーのコピーです」、「あの程度の楽曲だったら、現代音楽の勉強をしている者なら誰でもできる、どうせ売れるわけはない、という思いもありました」と言っていたことから考えて、それを見抜けなかった高名な音楽家というのはどうなんでしょう。

どんな分野でもそうですが、その道の権威がお墨付きを与えてしまうと、それをひっくり返してまで検証するのが憚られるということが往々にして起きます。

また、業界としても検証して暴くより、それに乗っかった方が得だとの計算も働くでしょうしね。

当時は、佐村河内氏が全聾ではないという事実を知っていたとしても聴覚障害2級の身体障害者手帳を持っているという事実もあり、その程度のことは問題ないと考えたのでしょう。

それよりも「日本のベートーベン」として売り出すことの方を優先したというのが、真実に近いのではないかと私は考えています。

そう考えると、この件は単に個人の詐称だけに止まらず、もっと大きな問題を孕んでいるのでないかと思えます。

『その賠償責任問題のなかに、「佐村河内守氏のCD代金を返金して貰えるか?」というものがありました』というのが、佐村河内氏に対してということなら法律的には難しいでしょうね。

もっとも、CDの発売業者が、今後の信用を重視して「返金に応じる」とすれば、あり得る話ではありますがね。

そうではなく、法的に今回のケースでCD代金を返金して貰うためには、全聾の人が作曲した音楽だから買ったと言える具体的な事情を証明する必要があります。

それが認められれば、消費者契約法第4条の「重要事項の不実告知を理由とする取消し」により、請求が可能になるかも知れません。

ただ、CDを購入したと言える具体的な事情というのが、単に「そう思ったから」では弱すぎます。

それは個人の内面的な気持ちにしかすぎず、第三者にそうだったと認めさせることはできませんからね。

何でも主張さえすれば認められるというものではありません。法的に認めさせるためには、それなりの証拠が必要だということです。

そのCDを購入することで全聾の人たちに寄付金が届けられるという理由であれば、『全聾の人が作曲した音楽だから買った』という主張が認められる確率は高いかも知れませんが、今回問題にされているCDにそれはありません。

それに個人、もしくは被害者団体を結成して損害賠償訴訟を起こすにしても、たかだかCDの購入代金を取り返すためというのでは費用対効果の面からも現実的ではないと考えます。

あるとすればCDの販売業者、およびこれからイベントを企画していたイベント業者くらいでしょう。それでしたら高額の損害賠償訴訟になるので十分あり得ると思います。

『私は、音楽のことは分かりませんが、「誰が書こうが、自分がいいと思えるものを何度も味わう」という姿勢であり、「本人の作品じゃないから返金しろ」というのは消費者の我がままです』と言われるのは、私もそのとおりだと思います。

『コマーシャルやドラマも、一般消費者(視聴者)がいて成り立つものですが、どうも最近は、一部の身勝手な消費者の意見に振り回され過ぎです』というのは、

当メルマガ『第295回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■考えさせられる話……その3 TVドラマ「明日、ママがいない」について』(注1.巻末参考ページ参照)で私たちが話したこととも一致します。

身勝手な主張をして業者や関係者を追い込むような真似をするのは恥ずかしいという風潮にでもならない限り、こういった人たちが後を絶つことはないのかも知れませんね。

そうする人たちは、自身では正義の行いと思っているのですから。

世の中にはキャッチフレーズに釣られて思わず買ってしまい、後で意に背く作品だったというのはザラにあります。

その良い例が映画のDVDで、面白そうなキャッチコピーが書いてあったために購入したけれど、その購入者にとっては駄作だったといったようなケースです。

それに比べて音楽は事前に聴いて買う人が大半を占めると考えますので、その楽曲自体は納得して買ったはずです。

佐村河内守氏のCDの代金を返金して欲しいという人たちが、どれだけおられるのかは分かりませんが、たいていの人は、そういった場合、あきらめるのが普通です。

金を返せと言えるのはCD自体に欠陥があって物理的に視聴できない場合くらいなものです。それがない以上、個人的な返還請求は難しいでしょう。

『佐村河内守氏の聴覚能力は別問題として、「自分で作っていないのなら、聴く価値が無いから返金しろ」という主張は、「全聾者が作ったから聴いたのに、健常者の作った音楽なら意味が無い」という、音楽そのものに対する間違った認識であり、文句を言える土俵に上がっていないと思います』と言われるのも、まったくそのとおりだと考えます。

おそらくCDの返金を求めるような人たちは、音楽そのもの値打ちというより、『全聾者が作った』ということに価値を見い出しているコレクターのような人たちではないかと思います。

そういった人たちにとって『作者が全聾ではなかった』という事実は大きいでしょうからね。

ただ、そのようなコレクターと呼ばれる人たちが世の中にどれだけおられるのでしょうか。私は少ないと思いますがね。

この件に関して私が問題にしたいのは、N氏が佐村河内氏のゴーストライターをしていたという事実を曝露した点です。

もっとも、N氏は本当の意味でのゴーストライターだったのか、どうかというのは疑わしいですけどね。

単に、佐村河内氏の名前で作曲していただけだという思いが強かったのでしょう。ゴーストライターとしてあるべき姿など知らずに。

N氏はゴーストライターとしての経験が、佐村河内氏からの依頼だけだったということのようですから、ゴーストライターとしてのルールについてまでは考えてなかった、知らなかったと思われます。

私は一時期、ゴーストライターで生計を立てていました。人に自慢できる仕事ではありませんが、それなりに誇りと矜持を持ってやっていました。

ゴーストライターには絶対に守り通さなければならないルールがあります。

それは、誰のゴーストライターをしていたかという事実は何があっても絶対に曝露してはいけないということです。

ゴーストライターは、その名のとおり「幽霊の書き手」であって現世に現れることは許されません。

某かの対価と引き換えに、その事実を墓場まで持っていくというのが多くのゴーストライターたちの矜持だと思っています。もちろん私もその一人です。

世の中には、私に限らず数多くのゴーストライターが存在します。今回の曝露は、そういう人たちの生活をも危うくします。

今回の場合、その曝露をしたN氏に対してマスコミや世間は寛大というか、賞賛する声さえ聞こえてきます。

そうなると、どういうことになるでしょう。

必然的にゴーストライターに依頼する人たちが激減することが予想されます。

後になって「実は私が誰それのゴーストライターでした」と曝露されたのでは堪らないと考えますからね。依頼者にとっては致命的なことになりかねません。

また、ゴーストライターの中には、それで表の世界に出られるのではないかと勘違いする者が現れないとも限りません。

そうなると、ゴーストライターの仕事自体が消滅しかねません。誰も依頼しなくなりますからね。

確かに、その本人になり代わって作品を書くという行為は褒められたことではないでしょう。読者を欺く行為と言われれば反論できませんからね。

しかし、世間に発表できる内容を持ちながら、それを表現できない人が数多くおられるのも事実なのです。

書きたいことは山ほどあるのに、その第一歩が踏み出せない、人に読んで貰える文章が書けないという人は世の中にはいくらでもいます。

私たちゴーストライターは、そういった人たちの助けをしていると考えています。

求められているのは単に文章を書く能力だけです。作品は、あくまでも依頼者の心の中にあります。私たちゴーストライターは、その思いを汲んで文章にして書いているわけです。

それに満足して頂ければ仕事は、そこで終わりますし、満足して頂けなければ、満足して頂くまで書き続けます。

ですので、多くのゴーストライターは書き上げた作品が自分のものだとはけっして考えません。それを自分の作品だとして曝露するなど以ての外です。

例え、その作品が売れたとしても、それは依頼主の名前があったからだと考えます。

音楽の世界のことは私には分かりませんが、似たような構図ではなかったかと思います。

ただ、書籍や文章の代筆にありがちな厳然としたゴーストライター契約があったのか、どうかは不明ですが。

佐村河内氏である依頼者がN氏というゴーストライターに曲の制作を依頼する際、図表や言葉での指示が問題視されているようですが、私はそれもアリだと考えています。

ゴーストライターに依頼する人は、それを楽曲として書き表せないのですから、そうすることに不自然さはないと私は思います。

N氏はその対価として720万円貰っていたと言っています。つまり、ゴーストライター契約が成立していたということになります。

そうであるなら、如何なる事情があったにせよ絶対にゴーストライターだったという事実だけは曝露してはいけなかったと考えます。

報道では、N氏が曝露に至った理由が幾つか挙げられていました。


1.N氏が関係解消を申し入れた際、佐村河内氏から「夫婦で自害してお詫びしようと思います」と自殺をほのめかす電子メールがきたことで、これ以上付き合うのは危険と判断した。

2.フィギュアスケートの橋大輔選手がソチオリンピックのショートプログラムで、自作の楽曲「ヴァイオリンのためのソナチネ」を使用することを知り、「このままでは高橋選手までもが佐村河内氏のウソを強化する材料になってしまう」と懸念したからである。

3.「佐村河内氏の愛弟子」とされる先天性四肢障害の少女がマスコミでクローズアップされていたが、少女の家族は佐村河内の虚偽を知らなかった。

この少女とN氏は、少女が4歳の時から知り合いだった。少女が「佐村河内の愛弟子」としてテレビに出たあと、少女の家族は佐村河内氏から無理難題を言われるようになった。

このことを少女の両親がN氏に相談したことも告発するきっかけになった。

少女の父親が託したコメントによると、ここ1年ほど少女の家族は、佐村河内から「絶対服従」を前提とした従いがたい要求を出されるようになっていたという。

2013年11月「服従できない」と答えたところ激怒され、絶縁状態になった。


これらの事情があったとのことで、心情的には理解できます。N氏が実直な方だというのも伝わってきます。

実際、今回のことで勤めていた大学を辞める覚悟で曝露をされて責任を取られておられることでもありますしね。

しかし、それは一般の人の感覚であって、それでも曝露したという事実は、きついようですがゴーストライターとしてのプロ意識が欠如していたと言うしかありません。

あるいは、最初からゴーストライターとしてのプロ意識などなかったのかも知れません。

上記の事実があったにせよ、曝露する以外にも方法はあったはずです。私なら、他の手段を嵩じます。

1.の『自殺をほのめかす電子メールがきた』というのは、あきらかな脅しです。

私は脅しには絶対に屈しないという信念があるからかも知れませんが、そういったメールに対しては無視するか、「まことに申し訳ありませんが、私の才能のなさで、これ以上楽曲を作り続けることができません」と穏やかに拒否します。

2.の『「このままでは高橋選手までもが佐村河内氏のウソを強化する材料になってしまう」と懸念したからである』というのは理解できません。

『ウソを強化する材料』というのは無理な論理で、そんな程度でウソが本当になることなどありません。

ウソはどこまでいってもウソでしかないと考えます。いつ発覚しても、それは同じです。

何かの実績があったからといって、後にそれがウソと発覚すれば賛美されることなど絶対にありませんからね。非難の的になるだけです。

フィギュアスケートの橋大輔選手がソチオリンピックのショートプログラムで、自作の楽曲「ヴァイオリンのためのソナチネ」を使用することを決めたのは、あくまでもその楽曲が気に入った、競技する上で良いと判断したからだと思います。

作曲者に拘りがあったというのであれば、あるいはその理由にも汲むべき点があるかも知れませんが、とてもそうとは考えられません。

もし、作曲者に拘りがあったとすれば、その他の演技の多くにも佐村河内氏が作曲したとされている曲を使用していたはずですが、高橋選手にはその1曲しかありませんから、そう考えるには無理があります。

さらに言えば、なぜこのオリンピックの最中、しかも競技前のタイミングで曝露しなければならなかったのかという疑問が生じます。

この時点での楽曲の変更など、とても無理だというのは私のような素人にでも分かります。演技構成そのものを変えない限り楽曲の変更など、とてもできないでしょうからね。

高橋選手が、その曝露により心の動揺が少なからずあったというのは想像に難くありません。

もっとも、高橋選手はそのことを成績が今ひとつだった理由には挙げていませんし、恨み言一つ言ってませんが、一国民として残念な気持ちになります。

どうしても、そのことがなければ、もう少し成績が良かったのではないかと考えてしまいますからね。

高橋選手は満身創痍の身体にむち打って頑張っておられたというのは周知の事実だったわけですから、そのことに配慮してあげて欲しかったと思います。

同じ曝露会見をするのであっても、せめてオリンピックの後にするべきだったと。

3.の『この少女とN氏は、少女が4歳の時から知り合いだった。少女が「佐村河内の愛弟子」としてテレビに出たあと、少女の家族は佐村河内氏から無理難題を言われるようになった』、

『このことを少女の両親がN氏に相談したことも告発するきっかけになった』というのも、これだけを聞けば無理からぬことのように思えますが、実際には、

『2013年11月「服従できぬ」と答えたところ激怒され、絶縁状態になった』ということですから、少女および、そのご両親にとってはその時点で救われていたのではないでしょうか。

終わった話ということになります。

いずれも曝露に至る理由としては弱いように思えます。

本当の理由は他にあるのではないかと私は睨んでいます。

私の勝手な想像で言わせて貰えれば、それらの事情に共通するのは佐村河内氏に対するN氏の私怨ではないかと考えます。

一説には、佐村河内氏には印税などで1億円以上の収入を得ているとされています。しかし、N氏には総額で720万円しか渡っていません。

それを快く思っていなかっただろうというのは容易に想像できます。

またゴーストライターのプロとして徹することができなければ自身を世の中にアピールしたいと考えるのも無理からぬことだと。

『「夫婦で自害しお詫びしようと思います」と自殺をほのめかす電子メールがきたことで、これ以上付き合うのは危険と判断した』というより、ふざけるなという思いの方が強かったのではないかとも思います。

これ以上、利用されたくはないと。

私なら、そう考えます。

高橋選手の件にしても、このタイミングで曝露すれば世間に与えるインパクトも強く、佐村河内氏に対する効果的な復讐にもなると計算した可能性があります。

少女の件に至っては終わったことの蒸し返しにすぎないと思います。私には単に佐村河内氏の評判を貶めるために使った材料の一つとしか考えられません。

この件についても少女のことを本当に考えるのなら、そのままそっとしてあげておくべきだったと思います。

以上が、私がN氏の私怨により佐村河内氏を曝露したのではないかと考える理由です。それですべての説明がつくからです。少なくとも私の中では。

もっとも、N氏が、そうではないと否定されれは、あくまでも私の推測ですから、「そうですか」と答えるしかありませんけどね。

ただ、断っておきたいのですが、私は私怨で復讐することが悪いとは思っていません。

直接的な攻撃や刃傷沙汰に及べば犯罪行為になりますが、こういった曝露であれば法的にも問題は少なく相手にも効果的なダメージが与えられるので方法としてはベストだと考えます。

普通の立場の方なら、それで良いでしょう。

しかし、ゴーストライターという立場での曝露は、すべきではなかった、してはいけなかったと思います。

私の意見ということでしたら、そういうことになります。


以上や。

この問題に限らず、世間から注目を浴びる話題は多い。

様々な有名人、評論家、著名人のそうしたブログがネット上には毎日のように溢れている。

それらの意見、見解に賛同する人もいれば反論したくなるという人もおられるやろ。

ワシらの考えが、そういった人たちの参考になるのなら、いくらでも話すつもりはある。

ただし、それは今回のように読者からの依頼、質問があった時に限らせて頂きたいと思う。

多くの場合、世間から注目を浴びる話題というのは、誰か特定の人物の犯罪行為や失態話が主で、たいていは、その火中にある人物に非難が集中しているもんや。

それに対して積極的に参加しようという気にはなれん。

ただワシらは性根が普通の人に比べ、かなりひねくれとるということもあり、世間一般の反応をせんというのはある。

「口は災いの元」やないが、つい余計なことを言いそうやしな。

もっとも、そういった意見でもええから知りたいと言われるのなら、今後もこのメルマガ誌上で話したいと思う。



参考ページ

注1.第295回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■考えさせられる話……その3 TVドラマ「明日、ママがいない」について

注2.NO.1227 乙武洋匡氏のツイート上での発言問題について

NO.1256 山本太郎参院議員の行動について


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