メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第299回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2014. 2.28


■新聞販売店物語……その12 ある臨配配達員の憂鬱


「団長、店を変えてくれませんか?」

ヤマザキ新聞販売店で臨配をしているショウジが電話の相手に、そう頼んだ。

ショウジが団長と呼んでいるのは新聞拡張団の団長のことやない。この業界では、臨時新聞配達派遣会社の社長も団長と言う。

これは臨時新聞配達派遣会社を俗称で臨配団と呼ぶためである。

臨配というのは、その名の示すとおり、臨時新聞配達人のことを指す。分かりやすく言えば新聞配達の派遣業務やな。臨配団は人材派遣会社ということになる。

一般的な販売店の構成は、経営者である所長(社長)、店長、主任、専業員、新聞奨学生、事務員、アルバイト配達員、集金請負人、店内雑務員などからなっている。

アルバイト配達員や集金請負人、店内雑務員らのパート契約者には原則として、新聞休刊日以外の休みはない。

しかし、店長、主任、専業員、新聞奨学生、事務員らといった従業員(社員)には、多くの場合1週間に1度の休みが与えられている。

通常、中小規模程度の新聞販売店では店長クラスの人間が、専業員の休日にその区間の代配をするケースが多い。

しかし、大規模販売店などの配達区域の多い所では、そうするのは物理的に無理やから、そのための代配専門員を置くか、外部の専門組織である臨配団に依頼するしかない。

急に配達員が辞めたことで穴が開いた場合も、次の配達員を確保するまでの間のつなぎとして臨配を依頼するケースも珍しくない。

臨配は新聞販売店にとっては、その場しのぎという意味合いが強く、その名のとおり臨時雇いということになる。

そのため普通の新聞配達員とは違い、仕事の継続は保証されていない。派遣先がなくなれば待機することもある。

それもあり、臨配は総体的に高給を貰っている。もちろん、それにはそれなりの理由がある。

一般の人材派遣会社であれば、派遣登録することで比較的仕事にはありつきやすい。業種が多岐に渡っているのが普通やからや。

その点、臨配は違う。登録するところまでは一緒やが、それだけで仕事先が保証されるわけやない。

臨配の派遣先は新聞販売店しかない。需要と供給の関係で依頼が来なければ来るまで待たなければならない。通常の配達員より高給なのは、その待機料込みという意味合いが強い。

仕事の依頼は、臨配人として能力のある者順に優先される。誰でも登録はできるが、誰もが稼げるとは限らんということや。

それなりの難しさがある。稼げる臨配人になるためには、その実力を証明して認めて貰わなければならない。

具体的には、派遣先である新聞販売店での評価を高めることや。

臨配は、その場しのぎの臨時雇いという関係上、派遣された新聞販売店の配達区域を短期間のうちに覚えられるようでなかったら勤まらない。

場合によれば、その日、1日だけの配達業務に対応するということもある。

販売店には順路帳というものがあるから、それを見て配達すればええやないかとなるわけやけど、口で言うほど簡単なものやない。

短期間の間に違う配達区域での配達が複数になることも多く、中には通常の配達区域二つ分の部数を配れと言う販売店もある。

他にも幽霊が出る、配達効率の悪い地域や二戸一の公団住宅がある区域を任されるといった具合に他の配達員が嫌がるコースを押しつけられるケースも少なくない。

臨配に高給を支払っているという考えが、その根底にあるからそうなるのかも知れないが、それらの条件を加味すれば、得られる報酬は、けっして高いとは言えないとショウジは思っている。

しかも、精神的にも肉体的にも負担を強いられる仕事やさかい尚更やという気持ちが強い。

誤配や遅配がないのは当然として、バイクの運転の技術や、積載の要領、ポストへの入れ方、新聞紙面への折り込みチラシの差込みスピードなどは配達員なら誰でも習得していることについて、臨配人はそのすべてに秀でていて当たり前という風潮がある。

加えて日々変わる「配達指示書」をそつなくこなす必要がある。

「配達指示書」とは、その地域の「契約切れによる配達中止」や「即入などの配達開始」、「休止依頼」、「再配達開始」、または顧客により「新聞投函場所の変更」に対応できるように書かれた書類で、たいていは配達区域毎に出されている。

「配達指示書」は、その新聞販売店で長く配達している者でも間違えることがある。

しかし、臨配人は例え初めての配達区域であっても、「初めてやから」という言い訳は許されない。

たった一度のミスであっても他の配達人のように大目に見て貰えることなど期待してはいけない。

「使えない臨配」という烙印を押され、それきり仕事が回って来ないケースもあるからだ。過酷な仕事やと言う所以である。

ただ、ショウジは、そんな臨配の仕事が好きやと熱く語る。

ショウジが臨配を始めたのは2005年からやから、もうかれこれ8年以上も続けているという。

臨配は、ただでさえ突出した能力を要求される上に、第一線でそれだけ長く続けられているのは並大抵の力量ではないことを証明している。

事実、ショウジは過去、一度も待機を言い渡されたことはない。業界の売れっ子である。

ショウジは自身でも、事、臨配の仕事に関しては「職人技」の域に達しているという自負を持っている。誰にも負けないと。

仕事に誇りが持てるだけやなく、臨配にはやっていて飽きることのない面白さもあると言う。

いろいろな街の様子を知ることができ、それに伴う景色も様々な面で違うと。

全国的に有名な繁華街、例えば東京の銀座や秋葉原といった場所のイメージは誰でもできるやろうが、それらの早朝の景色を知っている者は少ない。

昼間の喧噪とは、まったく違う街の顔が覗く。眠らない都会と言われる東京で唯一、眠りに落ちる時が、朝刊を配っている時間帯やと言える。

単に人通りが少ないというだけやなく、普通の人の想像以上に閑散とした風景が、そこにある。ゴーストタウンに近い。

それでも配達中、様々な場所から見上げる夜空の星や朝焼けの美しさには格別なものがあるとショウジは言う。

雨風の激しい日もあれば、つい先日あったような大雪の日もある。風邪をひいて体調の悪い時もある。

ショウジは元来、意思の強い方ではないが、どんな状況下であろうと、この仕事を始めて途中で投げ出したことは一度もない。

それが許されないという雰囲気というのもあるが、そんな過酷な状況にもめげない精神力が臨配の仕事で培われたからやと言う。

ショウジには独立して店を持ちたいという夢がある。新聞販売店ではない。他の業種や。

その夢については、あちこちで話しているから、それについて語ると特定される恐れがあるとのことで、本人の希望もあり、ここでは伏せさせて頂く。

そのための資金を臨配して貯めているのやが、もうすぐ実現できるところまできているという。

ショウジは、「例え、将来において夢や希望が叶わず失敗したとしても、少なくとも僕にはまだ臨配の仕事が残っているので何も怖くはありません」とワシらにメールで話している。

その臨配の仕事に、そこまで思い入れを持っているショウジが、「団長、店を変えてくれませんか?」と言うてるわけや。

「何でや?」

そう問い返したのは臨配団の団長、ウエスギやった。

ウエスギは、普段あまり愚痴や不平を言わないショウジが、そこまで言うのは、よほどのことやと察知したようや。

「僕の部屋、最悪ですよ」と、ショウジ。

臨配人は臨配団に所属しているとは言うものの実際の生活は、派遣先の新聞販売店になる。

そこでの待遇ですべてが決まる。

ショウジの場合、ウエスギ新聞販売店の2階、四畳半の一室が部屋として、あてがわれた。

引っ越し荷物のようなものはない。ショウジは着替えの入ったボストンバック一つで、どこにでも行けるようにしているという。

臨配人にとって安住の住み処などない。極端な話、明日どこの新聞販売店で仕事しているか分からんさかい、常に移動できやすい状態にしておかなければならないからや。

どうしても必要な荷物は実家に送って、親に保管して貰っていると言う。

与えられた部屋には、寝具やテレビ、冷蔵庫、冷暖房設備などは店の方で用意されたものがあるのが普通で、食事もたいていは外食で済ますから自前の食器を持ち込む必要もない。

建物自体が相当に古いということもあるが、それにしても、その部屋は酷く汚ならしい。

単に掃除が行き届いていないというレベルやない。部屋全体がカビ臭く、じめじめしていて気分が滅入りそうやとショウジはぼやく。

ショウジが赴任した日、押し入れの布団を見て驚いた。敷き布団、かけ布団ともカビだらけやった。それを敷いて寝ろと言う。

ショウジも長く臨配をやっているから、ある程度の扱いには慣れていた。

正直、各新聞販売店の臨配に対する扱いは、どこに行ってもあまり良くない。

特に数年前のリーマン・ショックの頃は大学の新卒者ですら仕事がないというほどの不景気やったこともあり、新聞販売店にも求人が殺到していた。

募集しさえすれば配達人が集まるという状況やったから、一時しのぎの臨配は、どんな扱いをされても文句が言い辛い環境やった。

しかし、その頃と比べても、この扱いは酷すぎる。

ショウジは「別のちゃんとした布団を用意して欲しい」と店長に掛け合ったが無視された。

また、その後、取り付けてある古いエアコンも作動しないということが分かった。部屋を暖めることができない。

これでは、とても今年のような厳しい寒さの冬を乗り切れないと感じたショウジは、仕方なく近くのホームセンターに行き、安い電気コタツとコタツ布団を買ってきた。

それを取り出す前に、部屋を綺麗に掃除し、買ってきた芳香剤を部屋中に噴射させて匂いを消した。

もっとも、その程度では部屋全体に染みついたカビ臭さを完全に消すことはできなかったが、気休めにはなった。

初日の配達前、店長がショウジに「電気コタツを点っ放しにして寝るな。電気代が勿体ない」と言ってきた。

ショウジはあきれる思いと、怒りが同時に込み上げてきた。

その場は、所属先の臨配団の対面を考えて怒りを抑え黙っていたが、こんな店で仕事をする気になれなかった。

その思いが、「団長、店を変えてくれませんか?」という言葉になって表れたわけや。

「分かった。オレに任せておけ」と団長のウエスギは、そう言って電話を切った。

新聞業界において後発組織ということもあり臨配団の地位は低い。ウエスギは、それで過去幾度も嫌な思いをしている。

臨配団の結成は、ある意味、新聞拡張団よりも厳しいと言える。誰でもやる気があって望めばできるというものではない。

新聞社や新聞販売店から認められる以外に、臨配団は人材派遣業として厚生労働省の許可が必要になる。

それには人材派遣業の許可申請には「派遣元責任者講習」(注1.巻末参考ページ参照)を受けていることが絶対の条件とされている。

現在、人材派遣業は人気が高く、講習会には100名から200名の定員がすぐに満杯になるということや。

この講習を受ければ3年間は人材派遣業の許可申請ができる。その間に許可条件をクリアできれば問題はない。

人材派遣業の許可申請に必要とされている主な条件を列記する。

1.資産があること。一事業所について資産の総額から負債の総額を差し引いた額が2千万円以上あることと決められている。

そのうち負債額は資産の総額の7分の1以下と決められている。また、現金および預貯金が1500万円以上あることとされている。

これは派遣社員への安定した賃金の支払いができるよう、一定の財産基盤が要求されるためや。

派遣先から得た収益で派遣社員に給料を払ったらええさかい、それほど資金がなくても大丈夫と考えとるようでは許可は下りんということやな。

当たり前やが、人材派遣会社は、派遣先からその代金を貰えんからと言うて、派遣社員に賃金を払わないというわけにはいかんさかいな。

この理屈は、一般の会社でも同じで、得意先から集金できんから社員に給料を払えんでは通らんということや。

そんな事態にならんようにするためには最低限の資産が必要ということやな。

ちなみに、複数箇所で人材派遣業務をする場合は、その数に応じて資産額が、同じ割合で必要になる。

2.人材派遣会社の事務所は最低、20平方メートル以上と決められている。また、面接をする際の占有スペースがあることとされている。

3.開設する事業所の近辺に、風俗営業法の規制の対象となる風俗営業店がないことというのも条件に入っている。

「事業所の近辺」という表現については特に厳密な線引きがあるわけではなく、最終的には検査官の判断次第ということのようや。

ただ、同じ町内にそういったものがあると審査にひっかかる可能性が高いと考えて、実際に事務所選びをする際には注意しとく必要があるということやな。

4.派遣社員の教育や研修について、施設、設備、体制が整っていること。義務づけた研修などで料金を取らないこと。

人材派遣事業の許可は、派遣社員の教育や研修を重要視しとるというから、そのための計画を十分錬って書面化しておく必要がある。

5.労働保険、社会保険の加入など派遣労働者の福利厚生が充実していること。

6.申請者の住所及び居所が一定し生活根拠が安定していること。

7.申請者が成年に達した後、3年以上の雇用管理経験があること。

8.その他、法で適正と認められた者であること。

未成年ではないこと。禁錮以上の刑に処せられたことがないこと。労働者派遣法、労働基準法、職業安定法、最低賃金法等に違反して罰金刑に処せられ、その執行を受けることがなくなって5年を経過しない者。

成年被後見人、被補佐人、被補助者又は破産者。一般労働者派遣事業の許可を取り消されて5年を経過しない者などが、それになる。

この他にも細かな決まりはあるが、大体、これらがクリアできたら人材派遣業の許可が得られて開業できるとされている。

ただ、人材派遣業の許可が下りて臨配団を作ったとしても、それだけで上手くいくとは限らんがな。

一般的に、この業界は新聞社の許可を必要するものが多いが、事、臨配団に限ってはケース・バイ・ケースで違うてくる。

一つの新聞社系列の販売店専門に臨配を派遣するというのなら、新聞社の許可も必要になるかも知れんが、それでは仕事の範囲を狭めるだけやから意味がない。

同じ臨配をするのなら、すべての新聞販売店を対象にした方がええわな。

そうであるなら各新聞販売店との交渉は不可欠やろうが、すべての新聞社に話を通す必要があるのかなという気がする。

新聞社は、もともと表向きは配達業務に口出しすることはなく、ノータッチという姿勢を貫いているさかいな。

もっとも、新聞社からお墨付きを貰った方が有利と考えるのなら、そうするのもアリやとは思う。

まあ、それについては、その地域毎の事情もあることやさかい、経営者が判断すればええことやがな。

新聞拡張団や拡材専門業者よりは参入するための障壁は低いと考えられがちやが、地域によれば臨配の登録派遣会社というのも結構多いから簡単ではない。

当然やが、臨配の必要な販売店では常にその確保をしとく必要があるから、常時使っている臨配派遣会社とは強固な付き合い、取引関係が出来上がっとるのが普通や。

そういうところに割り込む難しさがある。

それもあり、ウエスギの臨配団では過去のトラブルから、「できる者」だけを厳選して登録員にしている。信用第一を考えて。

そのため規模はそれほど大きくはないが、業界での信用度はトップクラスやとウエスギは自負している。

ただ、業界全体での臨配団の地位の低さにより、長い間、新聞販売店の「間に合わせの一時しのぎ」という考えもあり、臨配人に対する扱いは、お世辞にも良いとは言えなかった。

ショウジのケースは特別としても、それに近いことは、いくらでもあったと記憶している。

その都度、「我慢してくれ」とウエスギは所属の臨配人たちに言っていた。

ショウジのような場合やと、団の負担で布団を買い与えることさえあったという。

ちなみに、ショウジは、事後報告でコタツとコタツ布団を買っていたため、それはしていないが、かかった費用は別途支払った。

そうすることで所属の臨配人には、何があっても直接、派遣先の新聞販売店には文句を言うなと釘を刺していた。

扱いの悪い新聞販売店に文句を言えば、次から仕事が回って来なくなるという恐怖があったからや。

現在は、臨配人にはそんな辛い思いをさせる必要がなくなりつつある。数年前のリーマン・ショックの頃とは明らかに違ってきている。

特に、昨年の夏頃から、それが顕著になっていて新聞販売店業界全体が、今までも増して人材難に喘いでいるということがあるためや。

新聞業界への人材は、世の中が不景気になればなるほど集まってくるという傾向にある。仕事が限定されるからや。

しかし、好景気になれば、その逆の現象が起きる。

ここ1年の間、アベノミクスとやらで景気の上昇が見込まれるようになって他の職種への求人が増え始めた。

それがより決定的になったのが、昨年9月に決定した2020年の東京オリンピック招致や。

ワシらが子供頃の1964年時もそうやったが、当時日本は空前の建設ラッシュを迎えた。俗に「オリンピック需要」と呼ばれるものや。

それが再び起きようとしている。

現在、建築関係の求人は半端やなく多い。各建築会社ではその人材の取り合いのため人件費が高騰しているという。

当然のことながら、そちらに流れる人材が多くなり、新聞配達員が今までにも増して減少しているという現実が浮き彫りになっている。

加えて、新聞部数の減少が追い打ちをかけている。

今まででも2000年頃から毎年10万部ずつ程度の発行部数減という状態になっていて、それに伴い、ここ10年ほどの間に2万人近くもの新聞配達員が減っているというデータがある。

その原因になっている新聞の部数減が、去年1年間で更に顕著になった。過去に類を見ないほどの勢いで。

2012年度と2013年度を比較した場合、新聞社全体で朝刊が54万部弱、夕刊48万4千部強もの発行部数減になっていると、新聞の発行部数などを公表している機関、日本ABC協会で先日、その発表があった。

俗にABC部数と呼ばれとるものや。新聞の発行部数は、そのABC部数の公表により決まる。

発表された数字は過去に類を見ないほどの部数減である。

新聞配達員の減少については、まだ統計が出ていないが、普通に考えて、それだけ部数が減れば、それに伴って配達員も少なくなっているものと予想される。

ちなみに、臨配団が必要とされる割合の多い全国紙だけに限っても、朝刊で37万4千部強、夕刊で35万4千部強もの部数減に陥っている。

全国紙とブロック紙および地方紙との発行部数の比率は3対2程度である。

それからすると、全体の部数減に対する割合が、全国紙が朝刊で約70%減、夕刊で約74.3%減に至っているという数字を見る限り、全国紙の新聞販売店にとってより大きな痛手になっているものと思われる。

仕事の減った業界から人が逃げ出すのは世の常や。

現在、『新聞販売店業界が、今までも増して人材難に喘いでいる』というのは、そのためもある。

ウエスギの臨配団でも依頼してくる新聞販売店、すべてに人を回せないのが実情やという。

昔はできなかった販売店を選別するという行為が、今はできるようになったわけや。

所属の臨配人には同じ手数料なら、働きやすい新聞販売店で気持ちよく仕事をして欲しいという気持ちがウエスギには強い。

臨配団も新聞拡張団と同じくピンハネ(搾取)で成り立っている。

ただ、臨配団の方が新聞拡張団に比べれば働いている者を大事に考える傾向が強いように思う。もちろん、すべてがそうとは言い切れんがな。

新聞拡張団は、所属の拡張員に仕事ができても、できなくても在籍しているだけで搾取の対象になる場合が多い。

拡張員に住居を提供していれば大家としての収入も得られるし、セールス(拡張員)登録をすることで、新聞社から「拡張補助費」など諸々の恩恵が得られる仕組みがあるからや。

対して臨配団は、基本的に住居は派遣先の新聞販売店の責任やからそれにタッチすることはない。

純粋に新聞販売店から臨配団に支払われる金額だけの収入しかない。

そのうちから、それぞれの臨配人との間に結んだ契約料から所得税、労働保険、社会保険などの福利厚生費を差し引いた額を給料として銀行に振り込む。

臨配団は人材がすべてやから、優秀な人材をつなぎ止めておくためにも彼らの要望はできるだけ受け止めなければならない。

今回のショウジの話にはウエスギも怒りを覚えたから、ヤマザキ新聞販売店に抗議することにした。

ただ、ウエスギも業界関係者やから、新聞販売店の事情が分からんわけやない。

新聞販売店にとって最も大事なことは部数の確保で、そのために高額の拡張料を新聞拡張団に支払っている。

拡張時、客に渡すサービス品も基本的には新聞販売店の負担になる。

それらは後に新聞社から「拡張補助費」という名目で支払われることにはなっているが、昨今は何かと理由をつけて減額されているという。

次に新聞販売店が重視しているのが集金や。

現在、多くの業種での集金は銀行振り込みか、コンビニ払い、クレジット払いというのが主流になっているが、新聞販売店は今以て手集金というのが大半を占めている。

そのために「集金請負人」という専門職を別途雇っている新聞販売店も多い。

一般の人は意外に思われるかも知れないが、新聞販売店にとって新聞配達というのは当たり前の仕事という感覚で、それほど重要視されてこなかった。

それもあり、専業員やアルバイトの配達員に対して、あまり労務費をかけてこなかったという歴史がある。

酷い販売店になると、労災保険や社会保険などの福利厚生に入ってないケースもあるし、事故を起こしても任意保険すら使わず、すべてを配達人の責任で負担させる場合もあると聞く。

新聞配達員は使い捨てと考えているのか、大事にしたくても経営的に労務費をかけられないのかは分からないが、いずれにしてもウエスギには理解できない。

従業員がきちんと仕事をしてくれるからこそ、新聞販売店は存続していられるのではないかという思いが強いからや。

そのためには従業員を大事にせなあかんのやないかと。

「ヤマザキさん、うちのショウジから、こんなクレームがあるんですが、何とかしてやって貰えませんか」

「うちとしては、これが精一杯なんや。これ以上は何もできん。高い臨配料を払うとんねんから、そっちで何とかせいや」

「そうですか。分かりました。そんな店では、うちの大事な人間を任せられませんので、他で人を手配してください」

ウエスギは、そう言って強気に出た。

結局、臨配団としても配達人のいない状態で今すぐ辞めさせるとも言えんさかい3日だけ猶予を与えて、ショウジには別の販売店を手配したという。

その後、ヤマザキ新聞販売店がどうなったのかは分からんが、大体の予想はつく。

多くの新聞販売店では配達人を大事にしていると思いたいが、中にはヤマザキ新聞販売店のようなケースがあるのは事実や。

そのヤマザキ新聞販売店の言い分は、それなりの報酬を支払っているのやから、ええやないかという理屈やろうが、それでは、これからの新聞販売店を経営していくことはできんと思う。

ある臨配団長の方が、


新聞販売店の労務難について、私が感じていることは、みなさんが想定しているよりもはるかに厳しい情勢で推移し、この先、販売店は、従業員の確保どころか、臨配の確保すらままならなくなり、配達不能区域が生じて、戸別配達網の崩壊につながるのではと思っている。

販売店にとって他系統との読者の取り合いにかける経費が相当な負担になっており、労務に回せないのが現状だろうが、今こそ先を見据えて、他系統との協力体制などを含めた労務対策を検討するときではないだろうか。


と言っておられたが、ワシもそのとおりやと考える。

新聞社、新聞販売店に足らない思考は『他系統との協力体制』やが、これなどは臨配団の団長をされておられるからこそ言えることやと思う。

現在、新聞販売業界は大きな岐路に立たされている。

昔のように、最早、我が身さえ良ければ、それで良しという時代ではなくなったということやな。それを分かって欲しいと、ワシも節に願う。



参考ページ

注1.派遣元責任者講習


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