メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第301回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2014. 3.14


■新聞復活への試み……その1 マラソンドリルとシニアサポートについて


ここのところ新聞業界には冷え込んだ話しか聞こえて来ない。

2000年の新聞社全体の購読収入は1兆2,839億円で紙面広告収入は9,012億円の計2兆1,851億円あった。

それが毎年のように新聞の部数減が続き、紙面広告収入の減少傾向に歯止めがかからん状況になってきたことで、それが大幅に減ってきている。

2011年には、購読収入1兆1,643億円に対して、紙面広告収入は実に半分以下の4,403億円で、計1兆6,046億円と、金額にして約5,800億円も落ち込んでいる。

これでは新聞各社の経営が悪化せん方が、おかしいわな。事実、殆どの新聞社が赤字やという。

去年、2013年の日本ABC協会の発表では新聞の発行部数がその前年の2012年に比べて、朝刊で約54万部、夕刊で約48万部と過去類を見ないほどの大幅な減少になっているというから、状況は更に悪化しているのは間違いない。

また、日本新聞協会販売委員会の調べによると、10年前の2003年には21,405店舗あった全国の新聞販売店が、2013年には18,022店舗にまで減少しているとのことや。

実に10年間で3,383店舗も消えている計算になる。

それに伴い、2003年の452,284人から2013年には356,186人と、96,090人にも上る新聞販売店の従業員が減っている。

新聞拡張団は、もともと情報を公開することがないから、その確かな数は昔から把握することはできんが、サイトに届けられる関係者からの情報を精査すると少なくとも10年前と比べて6、7割程度まで落ち込んでいるものと予想される。

数にして3、400社程度が廃業しているはずや。人員にして3,000名以上は辞めているものと思われる。

今のところはまだ関東だけのようやが、ある新聞社では今年の3月から拡張員のカード料が下がる(注1.巻末参考ページ参照)という情報もある。

このままやと、他の新聞、地域にそれが波及する恐れもあり、新聞拡張団と拡張員の更なる減少に拍車がかかるのは避けられそうにない状況にある。

まだある。

来月からの消費税増税に対し、新聞業界は自民党の国会議員207人や多くの自民党地方議員を動員してまで新聞の軽減税率を得ようと画策していた。

しかし、政府の閣議決定により、新聞業界に限らず、すべての業種で軽減税率が見送られることになって、新聞にも消費税税率8%がかけられると正式に決まった。

そのことにより、多くの販売店が深刻な部数減に陥るのではないかと不安になっている。

ただでさえ、新聞業界は少子高齢化による人口の減少、長引く不景気感、若者の新聞離れ傾向などによって厳しい状況にある。

それらが複合的に重なり合って、事態は悪化の一途を辿っているのが現状やと思う。好転する見込みは薄い。

それでも敢えて言う。どんなに厳しく困難な状況になろうと方法は必ずあると。

そのヒントになりそうな話が、ある読者からもたらされた。


いつもお世話になります。

ゲンさん、ハカセさんは酒井勇介さんをご存知ですよね?

学研の社員だった方で、現在は退職して家庭教育アドバイザーとして新聞業界での講演会などをされているのですが、今期も引き続き講演会を企画しているようです。

昨年は県内で数か所やりました。

初回は無料という事もあって珍しさから会場も埋まったのですが、次第に参加者も減っていきました。

そこで従業員が読者宅を回り参加者を募ることになったのですが、認知度の低さも手伝ってか、結局当日のキャンセルが相次ぎ、結果はサクラというか、関係者が目立つような状態でした。

まあイベントは新聞自体の価値を上げるためには必要な事業かも知れませんが、問題は酒井さんが開発したマラソンドリルというものを販売(980円)することになった事です。

「新聞以外に売れる商品が増えて、戦力がアップする」と言われますが、はたしてこの先、酒井さん&ドリルとコラボしてやっていっていいのか?

そんな時、青木慶哉氏のシニア向けのサポート戦略の記事を見つけました。

「現読の要となっているのがシニアなので、ここへアプローチした方がいい」と現在国内の講演会をされております。

新聞情報紙の広告を見ると思わず納得してしまう内容でした。

これから先、小中学校の児童のいる世帯向けに、ドリルを売っていった方がいいのか? もしくは、シニアサポートに重きを置いた方が良いのか?

ゲンさん、ハカセさんはどう思われますか?


というものや。

正直言うて、ワシらは酒井勇介氏(注2.巻末参考ページ参照)については殆ど何も知らんかった。

ネットで調べて初めて『家庭教育プロデューサー・新聞学習プランナー・教育住宅コーディネーター』として、2011年から新聞社各社で販売店向け、および新聞購読者向けに講演を開始されていると知った。

この質問をされた読者の方は、ハカセが「よく知らない」との返信をしたところ「正直びっくりです。業界関係者の認知度は結構上がっていると思っておりました」と言われておられたがな。

もっとも、ワシらが、酒井勇介氏のことを知らんかったように、酒井氏の方でもワシらのことは知らんのやないかな。

とはいえ、せっかく教えて頂いたのやから、どんな人なのか調べてみることにした。

氏のメッセージとして、


プロフィール 酒井のつぶやき
http://www.katei-kyouiku.com/?page_id=188 より引用


日々の生活に追われてお子様のことが気になりながらも、どのような家庭教育をしていけばいいのか戸惑いのママやパパが多いのではないでしょうか。

年齢にあわせた親子のかかわりとはどのようにすればいいのか。バランスのとれた家庭環境づくりとはどのようなことなのか。

お子様の将来財産となる『学力』を育成する方法を全国で楽しく、わかりやすく且つ、熱く!お話をします。「親として」の勉強のきっかけになればと考えています。

子育てをしていく上で、一番のメリットは「親の私たちが成長できることです」過剰は禁物です。

ただ真剣に子供たちと向かい合えば、それが子供の成長のみに目的が達成されるのではなく、自分の充実感・成長として反映されます。

必ず・・・


というのを見つけた。

酒井氏の言われる趣旨は、新聞で子供の学力を上げようということのようや。

子供を持つ親に、その教育の重要性を説くことで、その親はもちろん、子供も将来の新聞読者にしようと。

狙いは悪くないと思う。

特に氏の『1日3分間! 新聞でできる家庭学習法』というのは、なかなかのものや。

そのコンセプトとして、


ちょっと昔の時代にはどの家庭にも当たり前にあった家庭内の約束…。

時代は急速に変わり家の中には沢山の便利な物が増えたけれど、今はその大切な約束(ルール)それら多くのモノの背後や忙しさに隠れ失われつつありませんか?

家族で新聞を活用して文字、言葉、漢字、会話を共有する時間を見直しましょう!

これからの時代の大切な約束…。

約束1.新聞の漢字に○付けしよう!

約束2.新聞の熟語に○付けしよう!

約束3.知っている言葉に○付けしよう!

約束4.天気予報で「算数、理科、社会!」

約束5.気になるニュースを「質問!」

約束6.今日のニュースを「採点!」

約束7.面白いニュースは「ファイリング!」


というのがある。

『酒井さんが開発したマラソンドリル』とは、そのコンセプトに沿って作られた小中学生用の問題集のことを言うておられるのやと思う。

内容を確認したが、それだけやと学校や学習塾でありがちな国語や算数、社会、理科の問題ドリルとあまり変わらんようにしか見えんかった。

ただ、新聞を利用する教育法という点で、今の時代では斬新と言えるかも知れん。

もっとも、昔から「勉強するなら新聞を読め」とは、ワシらの子供頃からよく言われていたことではあるがな。

大学でも今以て新聞を教材に使っている教授も多いと聞く。

科学的根拠とまでは言えんまでも、新聞を読むことで頭が良くなり学力が向上するという点についても検証されている。

それについての詳しい情報は、4年前の『第110回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞購読へのススメ その1 新聞を読むことで向上する学力について』(注3.巻末参考ページ参照)で話したことがある。

世界的にも優秀と言われていた日本の昔の子供は皆、普通に新聞を読んでいた。

新聞の購読理由で最も多いのが、惰性で読んでいるという人たちやが、昔の子供たちは、何も「さあ、今日から新聞を読んで勉強するぞ」と意気込んでいたわけやない。

毎日届けられる新聞がそこにあったというだけのことや。身近に新聞があれば読む。それが少なくなれば、その分、読む機会も減る。

単純に言うてしまえば、それだけのことやが、それが、子供の学力に大きな影響を及ぼしていたことになる。

そのデータがある。

文部科学省が、小中学校の最高学年(小学6年生、中学3年生)を対象とした全国学力テストを毎年、4月の第4火曜日に実施しているが、その際、ある興味深いアンケートを一緒に集めているという。

そのアンケートの中に「新聞やテレビなどのニュースに関心がありますか?」という設問がある。

そのアンケートで、「関心がある」と答えた生徒と「関心がない」と答えた生徒では、ほぼすべてのテストの平均点が、15点から20点ほども違うという結果が出ている。

もちろん、「関心がある」と答えた生徒の方が上や。

その一例として、小学6年生の場合、新聞を読む回数が「ほとんどない」と答えた生徒の「国語B」の平均点が37点に対して、「週に数回読む」と答えた生徒の平均点は56点やったという調査結果がある。

そして、これはPISA(学習到達度調査)で得られた結果とも、ほぼ一致する。

世界的に見て、新聞をよく読む子供ほど成績がええという結果になっている。

ただ、せやからと言うて、「新聞を読むから学力が高い」とは一概に決めつけられんとは思うがな。

なぜなら、学力の高い子ほど知的好奇心が高く、その結果として「学力の高い子供は新聞を読む」とも言えるからや。

ワシとしては、新聞を読むから賢くなるのやと言いたいがな。

しかし、新聞の購読率の減少に伴って、PISA(学習到達度調査)での日本の子供の学力が年々低下しているのだけは確かで、これを単なる偶然の一致と片付けることはできんやろうと思う。

その意味では酒井氏の『新聞で子供の学力を上げよう』というのは理に適った提言やと言える。

次に『青木慶哉氏のシニア向けのサポート戦略』やが、この青木慶哉氏についてもワシらは良う知らんかった。

今回質問をされた読者の方から青木氏の情報(注4.巻末参考ページ参照)を送って頂いて初めて分かったくらいや。


青木慶哉氏のプロフィール。

株式会社ジーアンドビー代表取締り役。1976年生まれ(37歳)。

15年間、新聞販売会社(最大読者1万件)を経営し、現在は新聞販売店が「シニアサポート」に取り組むことで新聞業界のイメージアップと同時に、超高齢化が進む日本の抱える多くの問題解決に繋がることをテーマにした講演会を行う。

またシニア市場への事業拡大を目指す企業数社のコンサルティングを行う。


青木氏は高校を卒業後、Y新聞社の営業マン、つまりここで言うところの『拡張員』になって実績を残し、その後、Y新聞社の販売店オーナーになられた方や。

そこで日本初、女性スタッフだけの新聞販売店をつくり、「地域密着ー感動を生むまごころ販売」をテーマに、業界最高の増客新記録を達成されたという。

そのスタッフによる読者の年齢調査で実に7割が60歳以上だと知ったことにより、シニアに特化した店づくりをすることを考えつかれたと。

青木氏の考え、取り組みについては新聞情報紙に平成26年1月22日に掲載された『2014年のキーワードは間違いなくシニアサポート』の記事を読めば分かって貰えるとは思うが、新聞社、および青木氏の許可を取っていないので、ここでその全文の引用は控えさせて頂く。

その要点だけを簡単に抜粋する。


1.『ダメな会社はあれもやって、これもやって、いろんなことをやって最後に爆死していきますから、私たちはシニアという以外はしないという意思決定をしました』

2.『おばあちゃんから仕事のお手伝いの依頼があれば、「はい喜んで」と飛んで行き、お手伝いをしました』

『それがどんどん口コミで広がり、それを見ている現読者が購読契約の更新を以前よりも渋ることなく、してくれるようになったんです』

3.『新聞販売店の強みを活かして「副業」するときが来ています』

4.『新聞店には大きな強みがあります。それは信用力です』、『また新聞店は折り込みチラシによる発信力もあります』

5.『新聞店は他の業種の人たちが喉から手が出るほど欲しがっているシニアの顧客名簿を持っています。インターネットを使わないシニアのリストは新聞店以外には作れません』

6.『新聞販売においても「捨てる」ことが大事です。私は20代、30代、40代は捨てるという意思決定ができたことで明るい未来を見ることができました』

7.『新聞店でシニアサポート事業を始められるとうれしいことが3つ起こります』

『まず購読者の購読中止が減ります。2千軒の読者のうち5軒がシニアサポートを利用したとき、この5軒が新聞購読を止めなくなるのではありません。サービスを提供したことをチラシでしっかり報告すると1995軒のお客さんが「あなたたちは本当に良いことをやってるね」と言って、新聞を止めなくなるのです』

『2つ目は、新規読者、過去読者の獲得が確実に増えています』、『シニアサポートを始めると以前に購読されていたときにはなかったサービスとして「過去読者」に案内できます』

『3つ目は店内が明るくなることです』、『シニアサポートによって区域の中で「ありがとう」と言われることが増えてきます』

『また「こういうサービスを始めましたからPRに来ました」と、ストレスのない営業ができます』、『スタッフからストレスがなくなれば、店内は自然と明るくなっていきます』

8.『こうした事業に取り組むには「ストーリー」が大切です』、『「シニアサポートは電球交換から始めましょう」と言いますと、「そんな小さなことからですか」と聞かれます。大きいことからやって成功するものがあれば、誰もがそうします』


なるほどなというものが多い。

シニアサポートと言うと、ワシらは『第117回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店による高齢者見守りサービスへの取り組みと、その問題点』(注5.巻末参考ページ参照)で話した高齢者見守りサービスを思い浮かべる。

その回の中で、


人に喜ばれ、人の役に立ち、人へ奉仕する。そのための商品とサービスを売り込む。

それが本来の営業のあるべき姿やと思う。

社会にとって必要で望ましいものなら廃(すた)れることはないやろうし、人に喜ばれるものなら、さらに発展するはずや。

いくら世の中がデジタル化していようが、人を直接守ることができるのは人しかないさかいな。

この取り組みとは、そういった類のものやと。

もっとも、新聞販売店だけにそれができるというわけでもないが、先の読者の投稿にもあるとおり『「毎日」となると、新聞配達の方が一歩、秀でている』のは間違いないと、ワシも思う。


と言うたが、青木氏の取り組みの根本には、その思いがあるものと考える。

現在、青木氏は全国でセミナー講演会を展開されておられるということのようやから、機会があれば一度、話を聞いてみたいと思う。

本来なら、ワシらが聞いてから、読者の方々にお知らせするべきやと考えるが、今回は読者の質問に答えるという形で話したためにこうなった。

要点だけをピックしたくらいでは分かりにくかったと言われる新聞販売店関係者の人で、興味のある方は、その近くで講演会がある時にでも出向かれることを勧める。

最後に、『これから先、小中学校の児童のいる世帯向けに、ドリルを売っていった方がいいのか? もしくは、シニアサポートに重きを置いた方が良いのか?』という質問についてやが、どちらかに偏る必要はないのと違うかな。

それぞれの置かれた状況で、あるいは共感できる形で始められたら、ええと思う。

酒井氏のマラソンドリルというのは、小中学生の親御さんに働きかけるさかい、比較的若い購読者層をターゲットにできるし、将来の新聞読者を育てることもできる。

対して青木氏のシニアサポートは若い世代を切ってシニアに特化したサービスをするべきやと言われている。

『インターネットを使わないシニア』の確保は、おそらく新聞販売店くらいしかできんやろうと思うさかい、そういう人たちの取り込みに関してはベストや。

ただ、いつまでも『インターネットを使わないシニア』ばかりとは限らんということはあるがな。

最近ではPCは当然として、スマホなどを巧みに操作する高齢者も増えているし、何より高齢者の予備軍と言われるインターネット使う人たちも多く、これからその人たちが確実にシニアになっていくわけやさかいな。

そうなると今とは事情が異なってくるかも知れん。

それでも、青木氏の提唱するシニアサポートが根付いて、言われるように新聞販売店に対して読者が好感を持つようになれば、この業界も救われそうな気はするがな。

反面、過去50年以上に渡って行われてきた悪しき新聞勧誘や悪質な新聞販売店に対する読者の反感も相当根強いものがあり、そのための新聞離れが、そう簡単に解消されるとは考えにくいという思いもある。

何でもそうやが、評判と信用を得るのは長い年月が必要になるさかいな。

それこそ小さなことからコツコツと積み上げていくしかない。

結論として、『マラソンドリル』と『シニアサポート』のいずれが良いのかということを考えるより、自分自身に今できる、できそうなことから始めるのがベストやないのかな。

何にせよ、座して滅びを待つのやなく、何とかしようという意識を持つことが大切やと思う。

それが結果として、自身を救うことになり業界を復活させることに繋がる。

少なくともワシらは、そう考えるがな。



参考ページ

注1.NO.1265 拡張員のカード料が変更されるようですが

注2.プロフィール 酒井のつぶやき

注3.第110回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞購読へのススメ その1 新聞を読むことで向上する学力について

注4.株式会社ジーアンドビー

注5.第117回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店による高齢者見守りサービスへの取り組みと、その問題点


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