メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第304回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2014. 4. 4


■新聞の記事は真実でなくても違法性はない?


新聞記事に誤報や捏造があるのは残念ながら事実や。その例を挙げたらキリがないくらい多い。

そして、たいていの場合、法律はその誤報や捏造に関して寛大や。

ある読者から、寄せられた報道記事がある。


http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131219/waf13121917440036-n1.htm より引用


真実でない点含まれていても記事に違法性なし−逮捕時報道めぐり、朝日新聞の逆転勝訴確定 最高裁
2013.12.19 17:41

 傷害事件で無罪判決が確定した男性が、大阪府警に逮捕された際の報道で名誉を傷つけられたとして、朝日新聞社と府に損害賠償などを求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は19日までに男性側の上告を退ける決定をした。男性側逆転敗訴の二審大阪高裁判決が確定した。17日付。

 一、二審判決によると、朝日新聞は府警への取材を基に平成20年12月6日付朝刊の記事で、男性が「事件の現場で撮影された防犯ビデオに写っていた男と似ており」と表現した。現場に防犯ビデオはなかった。

 一審大阪地裁は「真実でない記事を掲載した過失がある」とし朝日新聞社に22万円の支払いを命じた。

 二審は「防犯ビデオに関する部分は補足的にすぎず、真実でない点が含まれていても記事に違法性はない」と判断した。


というものや。

この記事を送って来られた読者は、


この報道には納得できません。

一審では有罪としながら、なぜ二審、最高裁は無罪とするのでしょうか。

「真実でない点が含まれていても記事に違法性はない」というのは、どういうことなのでしょう。

とくに朝刊の記事で、男性が「事件の現場で撮影された防犯ビデオに写っていた男と似ており」と表現した。現場に防犯ビデオはなかった」という部分はひどすぎると思います。

新聞記事にウソがあっても良いというふうにしか見えません。

これでは新聞の記事を信用しろと言われても無理なのではないでしょうか。

これについて、ゲンさんの見解をお聞かせください。


と言われている。

この報道でも裁判所は新聞記事に対して寛大やというのが、よく分かる。

ワシも含めて一般市民の感覚では、やはりおかしな裁定やと言わざるを得ない。

『「真実でない点が含まれていても記事に違法性はない」というのは、どういうことなのでしょう』についてやが、この裁判は当該の記事が名誉毀損に当たるかどうかが争われた事案や。

名誉毀損とは、『公然と事実を晒して、人の名誉を毀損』する行為のことを言う。

『不法行為』として認定されれば名誉毀損罪が成立し、損害賠償の対象になる。

しかし、新聞などのマスメディアの報道が名誉毀損罪に問われるには条件がある。

その行為が、(1)公共の利害に関する事実の場合、(2)主に公益を図る目的だった場合、(3)摘示した事実が真実であると証明された時には罪に問われないというのが、それや。

つまり、例え名誉毀損に当たるような表現があったとしても、上記の条件が満たされれば、不法行為とはならず、損害賠償の対象にもならんということや。

当たり前やが、犯罪報道自体に問題はない。例え後にその人の無罪が立証されようと、事件当時、被疑者であれば、そう報道するのが新聞の使命でもあるさかいな。

今回の場合、報道された内容が裁判前の犯罪行為に関する報道であり、(1)の『公共の利害に関する』ことを前提に記事にしたというのが裁判所の判断やったと考えられる。

また、記事の内容および表現は、(2)の『主に公共の利益を図る目的』だったと認定したのやろうと思う。

(3)の事実の証明については、記事の内容に間違いが含まれていたから該当しないとものと考えられる。

一審の大阪地裁は(3)を重視して有罪とし、二審の高裁や最高裁は、(1)と(2)の解釈で無罪にしたということのようや。

『傷害事件で無罪判決が確定した男性』にとってみれば何ともやりきれん判決やったやろうと推察する。

『現場に防犯ビデオはなかった』というのは、調べればすぐ分かることで、これは明らかに新聞社側の調査確認不足で手抜き報道と言われても仕方ないわな。

現場に防犯カメラがないにもかかわらず、『事件の現場で撮影された防犯ビデオに写っていた男と似ており』と記事にしたのは誤報を取り越して捏造に近い愚行やないかと指摘されても仕方ないと思う。

警察関係者あたりから出た情報なのか、記者、および新聞社の編集部の人間の作為的な文章だったのか、あるいは現在、至る所に防犯カメラがあるのが普通やさかい、調べるまでもないと安易に考えたのかも知れんがな。

いずれにしても、ないものをあるとして記事にしたらあかんわな。

本来、新聞社は、これほど分かりやすい失態に対しては自ら襟を正して、裁判に持ち込まれる前に被害者の男性に謝罪すべきやったと考えるが、新聞社はそうせず真っ向から争い、一審で敗訴しても二審、最高裁と上訴して争った。

新聞の存在意義は、事実を伝えることやが、その事実に誤りがあったと分かった以上、訂正する勇気を持たなあかんと思う。

なぜ、それができんのか。答は簡単、新聞社の誰も責任を取りたくない、取らないという体質があるからに外ならん。

ある新聞記者の方の話やと、「誤報記事を書いて一々責任を取らされていたら何も書けません」とのことや。誤報は結果論にすぎんと。

ただ、結果論やから仕方ないで済まされたら、その誤報記事を書かれた人は堪ったもんやないがな。

新聞に実名で報道されたという事実だけで、その人の信用は大きく失墜してしまう上に、『事件の現場で撮影された防犯ビデオに写っていた男と似ており』というアリもしない記事を書かれることで、世間からは「犯人に間違いない」という目で見られてしまうわけやさかいな。

裁判の結果、無罪が確定し、新聞記事が誤報、もしくは捏造と分かっても新聞社は謝るどころか、何が悪いと開き直って法廷で争う姿勢を示している。

当然のように、新聞社はその経緯や結末を報じることは殆どないから、世間では依然として過去の記事が生きていて、その人は無罪であっても実質的には「罪人扱い」のままや。

そんな仕打ちを受けたら人はどうするか。

まず、絶対にその新聞を生涯に渡って購読しようという気にはならんわな。

その人だけやなく、身内、親戚縁者、親しい友人、知人もその新聞社に対して、ええ印象は持たんはずや。

また、その記事を見た多くの人も新聞に対して不信感を抱くやろうと思う。

過去において新聞社が幾度となく繰り返してきた誤報や捏造により、多くの読者離れが生じ、それが今になってローブローのように利いてきているような気がする。

そのことも近年急速に進んでいる新聞部数減少の原因の一つになっているのやないかと思う。

これがもし、その逆やったらどうやろ。

その男性が無罪やったと分かった時点で、新聞社も自らの誤りを正して真摯に謝罪報道をしていたら、新聞に対する世間の評価は大きく変わっていたやろうと思う。

もちろん、ええ方に。

人のやることに間違いが生じるのは仕方ない。問題は、その間違いをした後や。

普通、人は間違いを冒せば謝罪するもんや。謝ることは恥やない。むしろ、評価されることやと思う。

しかし、残念ながら新聞社には、記事に間違いがあったからといって、被害者本人に謝罪するという考えはないようや。

他のすべての職種や企業にある世間の評価を気にする思考がないから、そうなるのやと思う。世間の評価は、そのまま売り上げに直結するさかいな。

世間の評価が売り上げに直結するのは新聞も同じなんやが、如何せん新聞社の人間は直接、その新聞を売り歩くことがないから、その意味が実感として分からんのやろうと思う。

特に新聞社を牛耳っている編集部にとっては、新聞が売れようが売れまいが関係ない、あまり頓着しないというのがある。

紙面を作ることが第一義で、世間の評価など一々考えていたんでは記事など書けないと。

もちろん、そんなことを広言する新聞社の人間はおらんやろうがな。

ただ、その前提で生じた少々の誤報程度は仕方ないとうそぶく者はおる。よほどの誤報や捏造記事で世間を騒がせでもしない限り、責任を問われることなどないと。

日本の新聞社では、取材した現場の新聞記者の大半が直接記事を書くことはないという。

現場の記者は、ただひたすらメモを取る。警察関係者や目撃者、近所の住人たちから聞いた話をメモにする。これを「聞き打ち」と言う。

また取材時、ICレコーダーに録音して後で書き起こすことを「書き起こし」と言うのやが、現場の記者たちは、そうして作ったメモをデスクと呼ばれる上司に上げるだけが仕事やという。

現場の記者の評価は、そのメモの数の多さで決まると言われている。それが出世に大きく影響するのやと。

そのメモを頼りにデスクが記事を書く。しかし、デスクには現場感がないから、見てきたような話として書くケースが多くなる。

それが誤報や捏造の温床になっている可能性がある。

これはワシの推測やが、『事件の現場で撮影された防犯ビデオに写っていた男と似ており』というのは、現在、日本全国に400万を超す防犯カメラが設置されているということもあり、その事件現場にも当然、防犯カメラがあるはずやという思い込みで記事を書いたのやないかと思う。

防犯カメラがあれば、犯人が映っているはずだから、確定的ではないにしても『似ており』と書いておけば間違いがないと考えたのやないかと。

普通の感覚なら、そんなええ加減なことで書いたらあかんと考えるもんやが、紙面を作る、紙面を埋めることを第一義に考える編集者にとっては、その程度の表現は許容範囲内だと考えているようなフシがある。

現場の新聞記者はメモを上げているだけで記事はデスクや編集者が書くから関係ないと考え、デスクや編集者はメモに沿って記事を書いているだけやとなる。

今回のように『現場に防犯ビデオはなかった』という間違いがあったと指摘されても現場の記者は「私はそんなことはメモには書いていません」と言い、編集者は「現場の取材がきちんとしていないからだ」と、お互いが責任のなすり合いをして、うやむやになるケースが多いという。

そして、新聞社は新聞に間違いがあってはならないという信念のもと、例え明らかな間違いと知った後でも、今回のように裁判に持ち込まれようと受けて立つ姿勢を崩さんわけや。

さらにタチが悪いのはテレビでの報道番組やと思う。

テレビ局の報道番組のコメンテーターたちは、新聞記者は入念な取材のもとに記事を書いているはずやという思い込みから、その記事の内容に疑いを挟むこともなく、「防犯カメラに映っていたのでは犯人と疑われても仕方ありませんね」と言う。

それらの報道が一般に流れたら、その人の社会的信用は著しく失墜する。それを取り返すのは、個人の力ではまず無理や。

何も悪いことはしていないのに社会から抹殺同然の扱いを受けるわけや。

当然彼らの中の誰も、そのことに思いを寄せる者はいないし、責任を取ろうともない。少々の間違いは仕方ないやないかで済まされる。

まさに報道の犠牲者ということになるが、今回の判決は、それに輪をかけた酷いものやと言わざるを得ない。

ワシら一般市民は、ある日突然、やってもいない事の犯人に仕立て上げられても法律は救いにはならず、社会から抹殺されることを前提に生きて行かなあかんわけや。

明日の被害者はワシらかも知れんし、これを見ておられる読者の方々かも知れない。

本当に怖いことやが、残念ながら、それがこの日本の報道の現実やと思う。疑われて新聞報道された時点で、その人の人生は救いがなくなる。

もっとも、それが新聞の報道のすべてというわけやないが、そういうケースは結構多い。

ならば、ワシら一般市民はどうしたらええのか。何の策もないのか。

策ならある。

新聞社やテレビ局の報道には遠くおよばないかも知れないが、個人で世間に向かって無実や誤報を訴えることはできる。

個人でサイトやブログを立ち上げ訴えるのでもええし、人気のサイトやブログに訴えるのも手やと思う。

例えば、今回の男性が、ワシらのサイトやメルマガに潔白を世間の人に知って貰いたい、証明したいというのであれば、ワシらは喜んで協力させて貰うというのが、その一つや。

新聞に関わって生きている身として、新聞社が謝罪できんというのであれば、ワシが代わって謝るのもやぶさかではないし、その人の名誉もここで晴らしてあげたいと思う。

具体的には、新聞の誤報により社会的地位と信用を失ったと言われる人からの依頼があれば、このメルマガ誌上でその内容を詳しく掲載させて頂くというものや。

投稿者の氏名、および事件の概要、報道された記事、誤報やと言い切れる証拠などを教えて貰えれば、ハカセがそれをもとに文章を書く。

それを当メルマガに載せれば、投稿者の氏名で検索すると確実にネット上でヒットするさかい、その人がその事を証明するのに役立てて頂けるものと思う。

証明したい人に、そのページの存在を知らせれば分かって貰えるはずやさかいな。また、こうした事実があるから「私は何の罪もない被害者です」と言い切れる。

単に、「その事件の報道は誤報でした」と言うだけでは、なかなか信じて貰えないかも知れないが、具体的な事実の提示と説明がネット上にあれば、たいていの人は信用するはずや。

当メルマガおよびサイトであれば知名度という点ではともかく、ネット上においては10年近くやっているということもあり、それなりに大手検索サイトからの信用度は高いさかいな。

実名報道された事件の記事は新聞社のWEBサイトでは比較的短期間のうちに消えるが、個人のサイトやブログあたりだと、かなり長期に渡って残ることが多い。

その人が再就職をしようとする際、現在は比較的簡単に、その人の氏名で検索すると、その行状、および事件がヒットする。

それが犯罪に関するものやと致命的で、検索する企業は、それだけで本人の弁明を聞くこともなく不採用にするケースが実際にあると聞く。

そうした時、その記事が誤報やったというページが同時にあれば、そうした悲劇が少しでも減るのやないかと思う。

もちろん、それは依頼があった場合で、ワシらから勝手にそんなことをするつもりはないがな。

そういう方法もあるとだけ知って貰えれば、それでええ。


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