メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第306回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日  2014. 4.11


■新聞の良心……その1 特定秘密保護法廃止を訴える地方議会報道について


特定秘密保護法が2013年12月6日の深夜、自民、公明両与党により参院本会議で強行採決された。

国民の多く、また識者と呼ばれる人たちの大多数が、乱暴かつ拙速な強行採決に反対、または疑念を抱いている。

野党の多くも強行に反対していたようやが、反対する多くの国民の声が背景にあるにもかかわらず、結果として、為す術もなく敗れ去っている。

圧倒的多数の国会議員を擁する与党の前では、国民の声など無力だということを今更のように痛感させられた。

それが、ここにきて状況が変わりつつある。

それぞれの地域の地方紙を除けば、今のところ全国紙1紙だけの報道やが、何と国会で可決された特定秘密保護法に対して、地方議会が廃止を唱え出したのである。

地方議会と言えば、どこでもたいていは政府と同じ与党の自民党と公明党の議員たちで占められている。

その与党の議員たちが反乱を起こしたような格好になっているわけや。もちろん、こんなことは過去にも例のない珍しい現象である。

その新聞記事を紹介する。


108議会 秘密法廃止訴え 意見書続々 地方に根強い不安

2014年4月6日 朝日新聞より引用


 特定秘密保護法の廃止を求める意見書を地方議会が続々と可決し、昨年12月の法成立後で108議会に及ぶことが分かった。

 今年2〜3月だけでも60以上の議会にのぼり、同法への不安や強引に成立させた政権への批判が地方にも根強く広がっている。

 秋田県仙北市議会は廃止を求める意見書を3月12日、全会一致で可決した。法律の内容や審議過程が「非民主的で強権的に進められた」とし、「国民の怒りと不安は広がり続けている」と指摘する。

 提案者の1人、総務文教委員長の高久昭二市議(67)は「うちは保守的な議員が多いが、強行採決に対して批判が強かった。政府や国会は地方の声を謙虚に聞いてほしい」と話す。

 茨城県取手市議会は、廃止運動の広がりについて「民主主義・平和を求める巨大なエネルギーが日本国民の中に深く根付いていることを示している」とし、「国民主権・基本的人権・平和主義という日本国憲法の基本原則をことごとく蹂躙(じゅうりん)する特定秘密保護法」の廃止を求めている。

 長野県の小海町や豊丘村の議会も「国民の知る権利や言論の自由に対する侵害など憲法の精神に反し、民主主義の根幹を破壊する」と批判。三重県亀山市議会は「まさに国民の目と耳、口を塞ぐもの」と断じた。

 第三者機関の設置についても、北海道の奥尻町や美瑛町の議会は「チェック機関としての機能は疑わしい」とし、山形県長井市議会は「法律の危険性は何も変わらない」と批判する。

 意見書の受理状況を公報で公表している参議院事務局の集計に、首相だけに送った分など朝日新聞の取材分を加えると、昨年12月6日の特定秘密法成立後に出された意見書は少なくとも170件。

 うち法律の廃止・撤廃を訴えるものが108件。凍結が10件、見直しや修正が11件、慎重な運用や施行までの適切な措置を求めるものが37件などとなっている。

 法成立前にも慎重審議や廃案を求めた意見書は40件あり、これらを合わせると少なくとも198議会で210件が可決されている。


 更なる協議必要

 弥久保宏・駒沢女子大教授(政治学)の話 

 基本的人権にからむ重要法律は、法案段階で国民に周知徹底し、国会でも議論を尽くす必要があるのに、説明不十分の感が否めぬまま拙速に採決された。

 その反発を受けて、身近な地方議会が国政に対し意思表明するのは当然の成り行きだ。政府や国会は施行までに更なる協議を重ね、施行後も見直していく必要がある。


 地方議会の意見書 

 地方議会の意見を国の政策に反映させるため、政府・国会に提出する文書。地方自治法99条で定められており、議員が提案し、本会議にはかって提出する。政府や国会側への拘束力はない。


というものや。

この記事にもあるとおり、地方議会の意見書は政府や国会側への拘束力はないとは言うものの、これらの地方議会の動きの影響は大きいと考えられる。

政府は、『地方議会の意見書は政府や国会側への拘束力はない』というのを盾に、法案を考え直すとか、撤回するといったようなことはせんはずや。

しかし、このまま地方議会の意見書を無視し続けると、政権の基盤が揺らぐ可能性がある。

地方の与党議員やその支援者が、政府与党の力の源やさかいな。

地方議員がそこまで動くのは、それぞれの地元の後援者、有権者に突き上げられているからやと思う。

その声を無視すると、その後援者、有権者の票で国会議員になっている与党議員たちの明日が危うくなる。

これはワシの穿った見方かも知れんが、与党議員たちの最大の関心事は政策の決定より、次に自分が当選するか否かやと思う。

こう書くと、与党の議員たちをこき下ろし、批判しているように見えるやろうが、彼らの思いは、ある程度理解できる。

それは与党議員の多くが、前々回の総選挙で大量に失職するという憂き目を見ているからや。

前回の選挙では、当時与党だった民主党の自滅に近い失策のおかげで議員に返り咲いた者が多い。

現在、与党の圧倒的多数を誇る議員数は、必ずしも国民から指示された結果とは言い難い。

政治そのものに嫌気が差したといった理由で選挙に行かず低投票率になったというだけのことやさかいな。

前回、自民党が一人勝ちしたと言うても、前々回の総選挙で、自民党が惨敗を喫した時より、小選挙区、比例区ともに200万票以上も票が少なかったという事実がある。

本来なら同じように惨敗していてもおかしくはなかったのやが、なぜか一人勝ちみたいなことになってしもうた。

その理由は一つ。投票率が60%にも届かんという日本の国政選挙史上、戦後最低の投票率やったからや。

自公の得た衆議院での議席数は325議席で全議席の3分の2を超えていて、これは法案が参議院で否決されても衆議院で再可決可能な数字になる。

自公の獲得総数は総有権者の約32%でありながら、圧倒的多数の議席を占め、残り68%の大多数の有権者は少数派に甘んじなあかんことになったわけや。

なぜ、そんないびつなことになるのかと言えば40%超の人が選挙に行かんかったからや。それに尽きる。

つまり投票率60%の内の32%を占めたことで、32%対28%ということになり、僅か4%の差で過半数どころか3分の2の議席を得るというおかしな事態が起きたわけや。

小選挙区制の場合、当選者は一人だけやさかい、勝つか負けるかで大きく結果に違いが出るから、そういうことになる。

そのため、小選挙区制では国民の意志が反映されにくいということで、いろいろ問題も指摘されている。

当時、民主党への批判が大きかったのは確かやが、さりとて自民党が特別支持されていたわけやないということも、前々回の総選挙時より200万人もの有権者が自民党に投票していなかったという事実を見ても明らかや。

加えて、少数政党が乱立したことで、有権者がどこに投票してええか分からんようになって嫌気を差し、棄権する人が多かったというのもある。

そのことも組織票を持つ自民党や公明党に有利に働いた要因やろうと思う。「漁夫の利」を得たわけや。

そういう状況が、去年の参院議員選挙でも起きた。低投票率により与党が圧勝し、その結果、特定秘密保護法の強行採決という形になって表れたわけや。

奢れる者は久しからず。

古から繰り返し言われてきた格言やが、それは今の時代でも生きている。

こんなことをしていれば前回の総選挙で国民の信頼を失って大敗した民主党のように、現与党である自民党も同じような憂き目を見る可能性が高い。

そう考える国会議員がいてもおかしくはない。

実際、前々回の総選挙でその苦渋を味わった者が多いわけやから、その思いはより具体的やないかと思う。

しかも、特定秘密保護法の強行採決に踏み切った与党政府の幹部の多くは、惨敗を喫した前々回の総選挙ですら失職することなく当選した者たちばかりや。

自分たちは、どんな失敗をしようが絶対に安泰な立場を確保していると信じた上で、やりたい放題の法案を通しているのが現状やと思う。

やっていることは独裁国家のそれと何ら変わらない。

表向きは国民のためとか言いながら、その国民を監視、縛るためとしか考えられん特定秘密保護法を強行採決させたのが、そのええ証拠やと思う。

なぜ、そんなことをするのか。

それについては『第284回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■『特定秘密保護法案』が21世紀最大の悪法と言われる理由について』(注1.巻末参考ページ参照)の中で話した。

その部分や。


『特定秘密保護法』というのは、民主党前政府が3年以上前の2011年1月に提出した『秘密保全法』の焼き直し法案と言っても差し支えないと思う。

情報を漏洩した際の最高刑が懲役10年というのは『秘密保全法』と同じやさかいな。

名称は『保全法』から『保護法』へとソフトな印象を持たせようとしているようやが、その中身はより悪質化している。

当時、野党だった自民党の谷垣禎一総裁は、民主党政府の『秘密保全法』法案に真っ向から反対していた。廃案に追い込んだ人でもあった。

それには、氏は昔からその手の法案に対しては反対論者だったということが大きかったようや。

中曽根政権時代の1985年に自民党が提出した「国家秘密法案」に真っ向から反対していた人でもあったさかいな。

その谷垣禎一氏が法務大臣になった途端、まったく同じとも言える『特定秘密保護法』を推進しようとしとるのやから恐れ入る。

立場が違えば、考え方も違うてくるということなのやろうか。

ご本人にすれば、いろいろ事情と言い分がおありなのやろうとは思うが、悪いけどワシには信念の欠片もないようにしか見えん。

最近では、小泉元総理が福島第一原発事故以降、原発推進の立場から脱原発論者に変わったというケースがあるが、それは過去の過ちに気づかれたからで、同じ心変わりでも、えらい違いや。

一方は過ちに気づき正そうとしていて、一方は過ちと知りつつ過ちを犯そうとしとるのやからな。

『特定秘密保護法』は一言で言えば、国民に情報を隠すことが目的で、情報を洩らした者を厳罰に処するためのものということになる。

さらに言えば、政府にとって都合の悪い情報を守るために、国民の目と耳と口を塞ぐための法律でもあると思う。

この法律では、情報の漏洩を実行していなくても、それをしようとして共謀したという疑いだけで罪に問い、投獄することができるようになっている。

例え、その事実がなく証拠がなくても「疑い」があるというだけで逮捕も可能で家宅捜査もできるということや。

そんなことはないと政府は否定しているが、そんな便利な法律ができれば警察や公安がそれを利用せんわけがない。

警察や公安に逮捕されたという事実だけで、例えそれが後に無実と判明しても、その人は法を犯した人間というレッテルを貼られ、社会的な信用を落とすことになる。

つまり、その事実が何もなくても、権力側がその人物を社会的に抹殺したいと思えば、「疑い」さえすればそれが可能になるということや。

また、その捜査状況そのものを「秘密事項に関する事」と指定すれば一切公開する必要もないとされとるから、これほど権力側にとって有り難い法律はないわな。

しかも、何を秘密にするかは、それぞれの行政機関の長がするということになっているさかい、それこそやりたい放題のことがやれる。

この法律の作成に関して、内閣官房や外務、防衛両省以外に、警察庁と公安調査庁のメンバーが加わっていて、両庁が当初から主導的な役割を担っていたという事実が明るみになっている。

その警察庁と公安調査庁のトップが何を「秘密」にするかを決める権限があるとされとるわけや。

しかも、この法律には、警察庁と公安調査庁のやり方をチェックする機能がまるでない。

もっとも、チェック機能のついた法案では警察庁と公安調査庁にとって意味がないやろうがな。

現在のままの『特定秘密保護法』が成立してしまえば、特定秘密を盾に警察や公安の捜査が暴走し、歯止めが利かなくなるのは目に見えている。

特に監視活動が主体の公安捜査は現状でも行き過ぎる傾向にあり、国民の人権がないがしろにされる危険が極めて高いと言える。

現在の日本国憲法では、国民の人権とプライバシーは保障されているが、この『特定秘密保護法』は、それとは正反対のものやから、このまま成立しても必ず大きな軋轢生むはずや。


ワシは『このまま成立しても必ず大きな軋轢生むはずや』と予想したが、それが現実のものになろうとしている。

民主主義国家に生きる普通の感覚の持ち主なら、これが如何に酷い法律であるかというくらいは分かるはずや。

当然、多くの国民からの反発も予測できる。それにもかかわらずゴリ押しで法案を成立させた。

その結果、国民からの支持を失えば、その煽りを食らうのは前々回失職した与党自民党の議員たちなわけや。

その議員たちの間でも特定秘密保護法の強行採決には懐疑的やった人が少なからずいるのは知っている。

しかし、彼らは公然と反旗を翻すことができん。それは、与党の執行部が公認権を握っているからや。

党の公認を外されると選挙に勝てないという恐怖から、心ならずも政府の方針に従っているというのが実情やないかと思う。

そこには国民のためとか自らの信念というのは何もない。ただ、保身の思いがあるだけや。

情けないとは思うが、「国会議員は選挙に落ちればただの人。残るのは借金だけ」という政界の隠れた有名な格言に象徴されるような憂き目に遭いたくない気持ちも分からんでもない。

しかし、地方議員には、それは関係ない。政府や与党の国会議員よりも直接的に有権者と関わっているさかい、その声もストレートに届く。

直接、それが当落に関わってくると考える。

政党の公認というのも選挙には多少影響するやろうが、たいていはその地域での知名度と評判で決まるさかい、どうしても政党の公認を得ることより有権者の顔色の方を気にするしな。

その有権者たちの意向が「特定秘密保護法の強行採決反対、および廃止」なら、その方向で動かざるを得ない。

「民主主義・平和を求める巨大なエネルギーが日本国民の中に深く根付いていることを示している」、

「国民主権・基本的人権・平和主義という日本国憲法の基本原則をことごとく蹂躙(じゅうりん)する特定秘密保護法」、

「国民の知る権利や言論の自由に対する侵害など憲法の精神に反し、民主主義の根幹を破壊する」といったことが本当に地方議員たちが考えての行動なら日本もまだ救われる。

しかし、実際は「非民主的で強権的に進められた」、「国民の怒りと不安は広がり続けている」といった具合に、地域の住民の意見に圧されてというのが正しい見方やろうと思う。

もっとも、それであっても正しい判断には違いないからケチをつけるつもりはないがな。

これは、地方議会が政府与党に反乱を起こしている極めて重大な出来事やと思うのやが、それにしては、それほど大きく報じられていない。

おそらく、この事実を知っておられる読者も少ないのやないかと思う。

新聞は国民の知る権利と公共の利益を守るために存在するものとは言うても所詮は営利企業でしかない。

政府側の論調を重視する新聞もあればスポンサーの意向に逆らえない新聞もある。

新聞社の中には残念ながら、よらば大樹の陰と考え、権力に阿(おもね)った報道、広報のような役割を果たす報道があるのは事実や。

ただ、その反面、こうした報道をしている新聞もある。そこには新聞の良心があるからやと信じたい。

もっとも、同じ新聞であってもある時は良心の欠片を見せ、ある時は誤報や捏造記事を垂れ流すという一面もあるがな。

それすべての新聞の中で繰り返し行われていることや。

常に正しい記事を掲載している新聞もなければ、いつも間違った報道をしている新聞もない。

ワシらは、その時々に応じて、新聞の良心について、これからも問い続けていきたいと思う。



参考ページ

注1.第284回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■『特定秘密保護法案』が21世紀最大の悪法と言われる理由について


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