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第309回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2014. 5. 9


■拡張の群像 その14 別班拡張団、Hの実態


ここ10年間の新聞販売店舗数とその従業員数の推移については、ほぼ信頼できるデータが公開されている。

当メルマガ『第301回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞復活への試み……その1 マラソンドリルとシニアサポートについて』(注1.巻末参考ページ参照)の中で、


日本新聞協会販売委員会の調べによると、10年前の2003年には21,405店舗あった全国の新聞販売店が、2013年には18,022店舗にまで減少しているとのことや。

実に10年間で3,383店舗も消えている計算になる。

それに伴い、2003年の452,284人から2013年には356,186人と、96,090人にも上る新聞販売店の従業員が減っている。


と言うてるのが、それや。

その時に、ワシの推測として、

……………………………………………………………………………………………

新聞拡張団は、もともと情報を公開することがないから、その確かな数は昔から把握することはできんが、サイトに届けられる関係者からの情報を精査すると少なくとも10年前と比べて6、7割程度まで落ち込んでいるものと予想される。

数にして3、400社程度が廃業しているはずや。人員にして3,000名以上は辞めているものと思われる。


と言うたが、近年の新聞拡張団の減少について、ある読者の方から、興味深い情報が寄せられた。

その方は以前、ある拡張団に所属されていたという。その拡張団を仮にH団とする。

そのH団は、もとはN団という、そこそこの規模の新聞拡張団やったんやが、数年前、新聞社から廃団の憂き目に遭うて、今はM団の別班として活動しているとのことや。

N団が廃団になったのは、脱税が発覚したからやった。

一般的に税務署は、会社設立後2年間は法人税や消費税などの納税に関して納めなくても脱税扱いにしないのが通例になっていると言われている。
 
課税の基準期間というのがある。

個人事業者又は法人の前々事業年度を1期、前年事業年度を2期とし、その間の課税売上対象額が1千万円以下の場合には、消費税の納税義務が免除されるという特別措置がある。

新たに開業した個人事業者、および法人については、設立1期目及び2期目の基準期間が存在しない、つまり課税対象期間がないさかい、原則として納税義務が免除されるというのが、その根拠になっているわけや。
 
実際にも、個人事業者、および法人については設立後2年以内に脱税の疑いで税務署から査察を受けるケースは殆どないという。

N団は、それを逆手に取り、2年毎に新しい法人を設立しては潰すということを繰り返してきた。

しかし、あまりに何度もそれを繰り返していたので税務署から目をつけられ、ついに数年前に脱税で摘発された。1億数千万円程度の脱税額やったとのことや。

そうなると新聞社でも業務委託契約を破棄し、登録団コードの抹消をせざるを得なくなり、N団は廃団になったという。

ただ、それは表向きで大半の人員は、そのままM団に吸収され、別班のH団として今も活動しているとのことや。

別班というのは、団の名前は同じでも勧誘する地域や入店する店が別で、実際には正規の団員と一緒に仕事をすることは殆どないと言われている。

そのためH団のように独立した呼び名になっている場合が多い。

言えば、新聞社は表面上、廃団にした形にはしているが、実際はそのままM団の下請けとして活動しているわけや。

これは近年、新聞販売店が大規模化、グループ化してきている状況とよく似ている。

廃業した新聞販売店、および改廃を余儀なくされた新聞販売店は近隣の大規模新聞販売店に合併吸収されるケースが少なくない。

『実に10年間で3,383店舗も消えている計算になる』と言うたが、その店舗数の減少には大規模販売店の存在があるさかい、実質的には、その数字ほど深刻な状況ではないと思う。

それと同じことが新聞拡張団の世界でも起きているわけやな。

新聞業界は、倒産しても、それで終わりやない。その販売店、拡張団の多くは名を変え、形態を変えて存続するのが普通である。

そのあたりが他の業界、業種と大きく違うところや。一般の会社が倒産すれば、多くの人が職を失うもんやが、新聞業界はそうはならんさかいな。

まあ、それ自体は路頭に迷う人が少ない分、悪いことやないとは思う。

表面にはあまり表れていないが、脱税行為で摘発されている新聞拡張団もある。

もっとも、新聞拡張団に限らず、程度の差こそあれ、脱税に近い行為をしている企業は多いがな。

それが発覚して摘発されれば脱税になるだけの話でな。脱税で摘発される企業が特別悪いということやないと思う。ただ、運の悪さというのはあるやろうがな。

新聞業界の場合は、他の業種と比べて特殊な事情が多い分、それと発覚する可能性が低いと言われている。

新聞業界は他業者と比べても従業員の出入りの激しい仕事や。1年以内に辞める者が多い。それを利用するケースがある。

新聞販売店で正社員の場合は給料から所得税や住民税を天引きして支払うのが一般的や。配達や集金、店内アルバイトの場合でも給料から所得税の天引きをする。

新聞拡張団の場合、フルコミの請負契約であれば、自分で申告して税金を支払っている者も未だにいる。

しかし、今は正社員で月給制が主流やさかい、同じように所得税や住民税を天引きしているケースが大半を占めとるようやがな。

所得税などの天引きを源泉徴収という。

余談やが、この源泉徴収制度が始まったのは、1940年4月1日からで、戦費を効率的に集めているナチス・ドイツの制度に倣ったものと言われている。

その徴税効率の高さを知って、第二次世界大戦中、およびその後もアメリカやイギリスやドイツなどの先進国で行われるようになったということや。

無理矢理税金を取るには、これ以上ない最適な制度ということでな。

ナチス・ドイツは欧米では忌み嫌われているが、その制度を利用しとるというのはどういうことなんやろうな。

悪党のやり方でも役に立つ方法であれば、それでええということか。もっとも、誰にとっての役に立つ方法かという問題はあるがな。

尚、2013年1月1日から2037年12月31日までの間に生ずる所得は、源泉所得税だけでなく復興特別所得税も併せて徴収されることになっている。

それらの税金は3ヶ月に1回、年4回に納めることに一応なっとるが、1月1日から12月31日までの1年分の税額は翌年の1月20日までに納入すれば良いと決められている。

そのため脱税を目論む拡張団は、その年の1月1日以降に入社して12月31日までに辞めた者は、最初から存在しなかったことにするという手を使う。

その間に集めた源泉徴収分は当然のように税務署には払わず、団の懐に入るという寸法やな。

もっと言えば、辞めた拡張員の存在を消すわけやから、その団員の売り上げ分もなかったことにできる。というより、そうせな辻褄が合わんようになる。

普通、脱税は利益にかかる法人税の支払いを逃れるために売り上げをなるべく安く申告することに腐心するもんやが、新聞業界は『最初からそんな人間は存在しなかった』とすることで自然にそれができてしまうわけや。

また、それに伴う消費税分の支払いも逃れられる。

そういうことをする新聞拡張団では、販売店から受け取る契約料(カード料)は外税で徴収して、団員には内税で払った事にするという会計上の処理をするケースが多いという。

つまり1万円あたりの契約料(カード料)の場合、現在の消費税率8%やと1万800円貰って、団員には9,200円しか払わないということにするわけやな。

内税分の消費税を税務署に支払えば必然的に外税で貰った分は消える。その額が脱税になるという絡繰りや。

一般的な新聞拡張団では新しく入団してくる団員の在籍がその年度内の1年未満というのが圧倒的に多いさかい、半端やない額の脱税が可能になるということや。

もちろん、中にはきちんとした申告をして税金を正しく支払っている新聞拡張団もいるというのは言い添えておく。すべてが脱税しているわけやないと。

もっとも、その割合までは分からんがな。

脱税は犯罪やが、新聞業界では税務署員や税理士ですら知らないことがあり、それと見破ることが困難やという事情もある。

源泉徴収は所得に応じて税率が決められている。しかし、新聞業界では、新聞社と税務署の申し合わせで新聞拡張員の場合、1ヶ月の基礎控除額12万円を差し引いた税率を納めればええということになっていると聞く。

更に年間の総所得の39.5%が領収証が無くても経費として控除され、差し引いた残りの分に課税されるだけやと。

不思議なことに、そのことを知らない税理士や税務署員もいるいうのがむしろ一般的なのやと。

それらの控除については疑問を投げかける税務署員もいるとのことやが、「上層部に確かめろ!」と言えばOKになるという。

そのことを最近になって知った。

正直言うて、ワシが現役の拡張員をやっていた頃は、そんなことなど知らずに普通に確定申告をして税金を払うてたがな。

あの時に支払った税金を返してくれと言うても遅いやろうが、敢えて言う。

「払いすぎた税金分を返してくれ」と。

そういったシステムは知らない者が悪いとされるさかい、いくら喚いても所詮、負け犬の遠吠えにしかならんがな。

新聞拡張団ほどではないが、新聞販売店にも似たような構図があると聞く。

新聞拡張団の減少とそこに所属する拡張員の減少は確かと思うやが、中には税金逃れを目的とした意図的な人員の減少もあるということやな。

それと同じような構図が新聞販売店にもあるとすれば、日本新聞協会販売委員会のデータも、どこまで信用してええのか分からんようになる。

ちなみに、税務署とは関係ない「新聞セールス登録」は、実数より多いということやさかい、よけいやわな。

これについては新聞社からの補助金目当てや。それがあるために、団を辞めた後も「新聞セールス登録」を外して貰えないと嘆く人が多い。

「新聞セールス登録」の二重登録は認められとらんさかい、その団の登録を抹消して貰えんと新しい団では仕事ができんわけや。

脱税に関しては、税務署への申告人員と「新聞セールス登録」数を付き合わせれば簡単に分かりそうなもんやが、そこまで調べるケースは、まずないという。

通常、脱税行為が発覚するのは、明らかに利益を上げているのがミエミエなのに過少申告しているとか、その業界からの内部告発があった時くらいやさかいな。

要するに、税務署から目をつけられるようなことさえ、せえへんかったら脱税で挙げられるようなことはないということや。

ワシも住宅リフォームの会社を経営してたから分かるが、すべてを正直に申告せんでも、そこそこの申告さえしておけば怪しまれることは、まずないと言える。

実際に、そう指導する税理士も多い。

こんなことを言うと一般の会社員の方には怒られるかも知れんが、日本の税法では、それがまかり通るということや。

もっとも、国税局の職員5万7千人のうち査察で脱税を調査している人間は、ごく僅かしかおらんということやから、すべての企業を調べるわけにはいかんという事情もあるがな。

たった一つの企業の脱税を調べて暴くためには数十人規模の人員で数ヶ月かかるということやさかいな。

日本全国に421万社ある企業すべてを調べるとなると、途方もない人員と年月をかけなあかんわけやから、物理的にもそうするのは不可能に近いわな。

大半は善意に期待して、よほどのケースだけしか調べないというのは、むしろ仕方ないことやと言える。

この業界で悪を論ってもキリがないさかい、積極的に暴くようなことをするつもりはないが、こういった情報がある度に、このメルマガの読者にはお知らせしたいと思う。

もっとも、それを知ったところでどうなるもんでもないとは思うがな。

ただ、こんな世界もあると知って頂くだけのことや。



参考ページ

注1.第301回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞復活への試み……その1 マラソンドリルとシニアサポートについて


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