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第33回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2009. 1.23
■拡張の群像 その1 自虐の果てにあるもの
今から3年ほど前の事やった。
「拡張員なんか糞や!!」
ミヤシタは帰りの車中で、そう吠えた。
そう言うてるミヤシタ自身が、その拡張員や。
「拡張員なんか、世の中のためには何の役にも立たんやろ?」と誰構わず、同調を求める。
そのライトバンに乗り合わせた他の班員たちは「また始まった」という風にシラけた表情で、いやいやながら適当に相づちを打つ。
ミヤシタは、その団では古株やったさかい、その車中の人間は大人しく黙って聞いていた。
普通、こういうことを言うからには、何か面白くないことでもあったとかという、それなりの理由があるもんやが、ミヤシタのは単なる口癖でしかなかった。
そのとき、たまたま、そのライトバンに乗り合わせることになったワシが「それならミヤさんは、その拡張員を何で10年も続けてんねや?」と水を向ける。
普通、こういう質問をされると、ある種のトゲのようなものを感じ、機嫌が悪くなる人間も多い。
実際、ワシにしても、半分はうっとうしいという思いから言うてることでもあったしな。
しかし、ミヤシタはそうは受け取らず、我意を得たりとばかり持論を展開する。
「糞や小便をするには便所が必要やろ。どんなに汚かろうが、臭かろうが人間である限り、糞や小便は絶対に出るわな」
それと同じで世間から毛嫌いされる人間が存在する。拡張員がまさにそれやさかい「拡張員なんか糞や」と力説する。
さらに、「どうせ、ワシらの人生は皆、ここで終いや。これから先、どう頑張ったところで、どうにもならんわい」と、その後も延々と自虐めいた戯言(たわごと)を並べる。
こんなことを言うて、何が楽しいのかと思うが、拡張員の中には、こういうタイプもそれほど珍しいことでもない。たまにおる。
自虐とは、文字通り「自分を虐める」という意味やが、個人の精神的な範疇にある限り、社会的には許容されるとみなされるという定義がある。
つまり、自虐的なことを言うからというて、即、人から非難されるべきものやないということになるわけや。
もっとも、そうは言うても、その拡張員をやってる本人たちにしたら、そんなことを言われてええ気のする人間は誰もおらん。
それがミヤシタには分かってない。
もしくは知って言うてるかやが、いずれにしても、あまりタチが良くない。
サイトのQ&Aに『NO.512 拡張員自体存在してるのがおかしいと思いませんか』(注1.巻末参考ページ参照)というのがある。
その質問内容や。
あるセールスチームのリーダーです。キャリアは約8年です。
本音で言うと、拡張員自体存在してるのがおかしいと思いませんか。
わたしも以前鉄鋼業界で営業しました。店力ですべて賄うのが当然と私は思います。
正直、拡張員なんか必要無いとも思っている一人です。
セールスチームのリーダーしながらこんな事言うのはおかしいかもしれませんが、げんさんいかがですかね。
この質問内容に敏感に反応された現役の拡張員さんがおられた。
その方から寄せられた、そのときの質問に対するメールや。
どのような意見も尊重するというこのページであっても、少なくとも質問者は経済活動することによって利益を得ようとしているわけですので、天に向かってつばを吐くような真似はしない方がよいのではないでしょうか。
疑問を感じたら一刻も早くお辞めになったほうがよいと思います。
足をすりこ木のようにしてカードを揚げている、この仕事を生業にしている多くの人の神経を逆なでていると思うし、どのような仕事であっても綺麗事だけでは成り立たないのではないでしょうか。
多くを読みませんでしたが極めて不快です。
実は、その批判とも受け取れるメールを受け取ったとき、ハカセは次のような返信をしていた。
当Q&Aは、なんでもと銘打ってまして、新聞関連、サイト内のテーマに関連したことなら基本的には、どんな質問も受け付けています。
ご存じのように、世の中には、いろいろな意見を持たれておられる方が多く存在されていますので、中にはご不快に思われる質問もあろうかと思います。
正直、私どもも、今回のような拡張団の団長さんのご質問、ご意見というのには驚きました。
しかし、相談や質問、または意見を求められた場合は、それを拒否することはできません。
もっとも、ゲンさんの回答が、必ずしも、その質問者の意に沿うものとは限りませんけどね。
つまり、どんな質問も、一応の回答を示すという形をとっているということですので、それを、ご理解、ご納得頂けないでしょうか。
ただ、頂いたご意見は貴重なものだと認識していますので。
それでは、今回の件で、ご不快に思われたでしょうが、ご理解の上、当サイトを今後とも、よろしくお願い致します。
と。
また、去年暮れの12月には、『NO.663 拡張員は営業マンじゃない』(注2.巻末参考ページ参照)というのもあった。
その質問内容や。
新聞勧誘なんてものは、虚偽でドアオープン→遠回しなトーク→玄関に侵入→拡材ならべる→泣きつく→ねばる→仕方なく捺印。が契約の過半数です。
営業と拡張は違うんです。拡張を営業の職歴にいれてる方は間違ってます。
安いものに付加価値を付けお客様に納得していただいて高額で購入していただくのが営業で、まともなものを嘘並べて売るのは営業じゃない。
ゲンさんはどう思いますか?
これに対して、前回と同じ方からのメールが再びあった。
その部分を紹介する。
日ごろの活動に敬意を表すとともに、質問にも丁寧に返答されることに頭が下がります。
過去にも、拡張団の団長とか言う方が、否定的な愚問を書いていましたが、お金が天から降ってくるわけでもないし、地から湧いてくるわけでもありません。
自らの才覚、全知全能を用いて、カードをアゲル努力をしている人間に対する侮辱、冒涜以外なにものでもありません。
現代において奇麗事だけでなり立たないのは、少し知恵のある人ならば容易にわかりそうなものです。
自分のしていることはだれも自分が良くわかっているはずです。
心の片隅に少しでも許せない気持ちがあったなら、生意気なようですが、真剣にこの仕事に生きがいを見出している者に対して、失礼ではないかと考えますので退場していただきたいものです。
最初の動機はなんであれ、拡張で身を立てようとした以上、この仕事に惚れて好きになって頂きたいと思います。
俗に言うではありませんか、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある」ということを。
人の生きる道は千差万別、本当に沈黙は金ですね。
僭越ながらこんな楽しい仕事があったのか、といつも思っております。
このホームページは金銭に換えることができません。船が灯台を頼りにするように、本当にありがたいものです。
というものや。
寄せて頂いたメールで、多くの方のためになりそうだと判断したものは、その項目に追記として掲載するようにしている。
ただ、それが批判になるものについては、載せるわけにはいかんので、ハカセが、その都度、返信して、その理解を求めているというわけや。
ワシらが、基本的に批判メールを掲載せんのは、それなりの理由がある。
第一には、その質問や相談をすることで他者から批判されるとなると、それ自体が敬遠される可能性が高くなるということがある。
また、批判には批判返しということが起き、収拾がつかんようになるということも考えられる。どこかの掲示板サイトのように。
もっとも、その批判が、ワシら直接にというのであればいくらでも受け付けるがな。
実際に、そういうものもサイトには結構多い。
また、そういうのに関しては望むところでもある。
もちろん、それは何もワシらの意見が絶対正しいと考えとるからやない。
むしろ、間違いは間違いと指摘して頂いた方が、ワシらとしても有り難いと思うてるくらいや。
それが、なるほどと納得できるものなら、大いに勉強にもなるさかいな。
それに、ワシらも、間違いは素直に受け入れ訂正する程度の度量はあるつもりやさかい、そういうのがあれば、どしどしお願いしたいくらいや。
但し、その指摘が納得できん場合や意見の相違があれば、その説明はさせて頂くがな。
人には様々な意見がある。
基本的には、ワシらは、例えどんな意見であっても、すべて尊重することにしとる。
もっとも、回答では、そのときどきのワシの思いはストレートにぶつけとるがな。
中には、それで気を悪くされる人がおられるのも事実や。
その底流には、あくまでもその質問者、相談者のためという気持ちがあるからこそ言うてることなんやが、なかなかそうは思うては貰えんようや。
苦言や提言は、ある種の親切やと思うとる。
また、その思いがなかったら、何も言えんし、言えるもんでもないんやけどな。
ただ、いくら批判メールの類は掲載せんと言うても、同じ方からの二度目のメールともなると、同じように処置すれば、その意見を無視、抹殺することにもなりかねんという気が少なからずした。
それも、ワシらとしたら不本意ではある。
そこで、そのQ&Aのその箇所に掲載することはできんでも、関連する話題があるときに引用させて頂くことにしたわけや。
それが今回ということになる。
長くなったが、つまりは、拡張員の自虐めいた話で不愉快な思いをする同業者の方がおられるということが言いたかったということや。
そして、実際にも、それが元である事件が、そのミヤシタの身の上に起きたことがあったというのを思い出して、今回の話をすることにしたわけや。
いつものように、ミヤシタは、東海のある町の販売店に入店して拡張していた。
その日の夕方。
ミヤシタが、他団の人間にドツかれ(殴られ)て、前歯を3本折られるという事件が起きた。
たいていの新聞販売店には複数の拡張団が出入りする。
拡張団にも、販売店のバンク(営業エリア)と同じような、地場というのがある。
この地場というのは、決められた地域のみ営業することを許された範囲のことを指す。
それは、新聞販売店のように一つの区域に一店舗しかないというものやなく、複数の拡張団が競合しとるのが普通や。
これは、新聞社がそれぞれの団を競わせることによって購読者をより多く確保する目的と、成績の悪い団、問題を起こした団をいつでも切り捨てることができるようにするためやと言われとる。
全国紙の場合、都市部を一部、その外郭を二部という構成にしとる場合が多い。
さらにその外郭の遠隔を三部にしとるケースもある。
それらは、販売一部、二部と呼ばれている。その販売一部、二部毎に、それぞれ複数の拡張団が存在する。
それが、各拡張団の地場エリアということになる。ワシらの団は、その販売第二部に所属していた。
ワシらの団の場合、その地場エリアとして、入店先の販売店が30数店舗と決められいた。
その販売第二部の担当者からの指示で、入店先の販売店の日程表が決められる。
その入店日が、同じ地場エリア内の他団と重なることが希にある。
いくら、同じ新聞社系列の拡張団やと言うても仲がええとは限らん。
むしろ、悪いケースの方が多い。
当たり前やが、他紙の拡張員以上に、同じ客の取り合いをせなあかん分、最も強力なライバルになるわけやさかいな。
まあ、そうは言うても表面上は、それほど敵愾心を剥き出しにすることはないがな。
それでも多少の揉め事が起きることもある。
たいていの販売店では、それを嫌がり、入店時間や終了時間を微妙にずらして、両者がかち合うのを避けるようにしとる。
しかし、現場ではそうもいかん。
同じ日に同じバンクで同じように仕事をしとれば、お互いが出会うというのは、珍しくもなく、ありがちなことや。
たいていは、お互いをそれと知っても無視するか、声をかけても「どや、調子は」、「あかんな」という程度の短い言葉を交わして終わることの方が多い。
しかし、その日のミヤシタは違うた。
たまたま出会っただけのT団のゴトウという若い男を喫茶店に誘った。
お互いの団の上層部は嫌がるが、こういうのはそれほど珍しいことやない。
お互いの動向というのも気になるし、他団の待遇というのも知りたがる者が多い。
もっとも、ミヤシタにはそこまでの意識はない。単に暇つぶしの一つにくらいに思うてただけや。
その相手のゴトウがどう考えてたかは知らんがな。
初めのうちは、お互いの団の様子を言い合っていた。
そこでミヤシタは止めとけばええのに、そのゴトウを話せる相手とでも思うたのか、調子に乗って、いつもの「拡張員なんか所詮、糞や」と言うてしもうた。
「そういうミヤシタさんかて、拡張員でっしゃろ」と、ゴトウもたしなめるように言う。
しかし、ミヤシタはそれでは止まらんかった。
「おい、若いの言うとったるがな、拡張員なんかクズのやる仕事やで。人を脅して、騙して、ええ加減なことを言うて契約させる。こんなものが仕事と言えるか」と、エスカレートする。
同じ団の人間なら、「また始まった」で済むが、他団のそれもその日、初めて会うただけの者はそうはいかん。
当然のように気を悪くする。
それでも、そのゴトウは「おっさんと話しとったら気分が悪うなるから、これで帰らして貰うわ」と言って、それ以上相手するのを避けるつもりで、先に喫茶店を出て行った。
よせばええのに、ミヤシタはその後を追いかけた。
ミヤシタはすでに50歳半ばを過ぎていて、そのゴトウは、まだ30歳前後やった。
団の中では、常に一目置かれているミヤシタにしたら、「おっさん」呼ばわりされて席を蹴るようにして出て行ったゴトウを「糞生意気な若造」と思うたわけや。
一言、謝らせんと、どうにも腹の虫が治まらんかった。
ゴトウの後を追いかけたミヤシタが「こら、おっさんて誰にモノを言うてんねん」と、言いながら、その肩に手が触れた。
その刹那、ゴトウは振り向きざま、拳をミヤシタの顔面に叩き込んだ。
哀れ、ミヤシタは口から血を吐きながら、その場でのたうち回ることになった。
前歯3本を折られたミヤシタは、近くの歯科医院に駆け込んだ。
その一報が、すぐ団に入り、即座に皆に知れ渡った。
他団の人間に殴られ歯を折られたという衝撃の事実として。
その販売店の表で、お互いの団員同士で険悪な睨み合いになり、一触即発の騒然とした雰囲気に包まれた。
すぐに、双方の団長が、その販売店にやってきて話し合いの場が設けられた。
事情を聞けば、ミヤシタにも非がある。
「俺は、この仕事に誇りを持ってやっている。それを糞やのクズやのと言うからアホらしいて相手にするのを止めとこうと思うて外に出たら、追いかけてきて、肩を掴まれたから反射的にドツいただけや」と言う。
つまり、ゴトウにしたら先に手を出したから反撃したまでと言いたいわけや。
しかし、どんな理由があれ、ケガをさせたというのはあかん。しかも、実際にはミヤシタは手を出してない。
このケースは出るところに出れば立派に傷害罪が成立する。
ただ、ミヤシタの吐いた言葉は、業界人として看過できんと見なされても仕方のないことではある。
どんな仕事であっても、それに従事している限りは、それなりのプライドを持ってせなあかん。
もっとも、その人間が何を考えようと、それは自由やが、少なくとも今まで面識すらなく会ったばかりの同業者に言うべき言葉やなかった。
それが常識であり、たしなみ、礼儀というものや。
誰でも自分の仕事を否定され、貶(けな)されて面白いはずがない。それが元で喧嘩になることくらいは十分に考えられるさかいな。
穿った見方をすれば、喧嘩をふっかけるためのインネンとも受け取れるわけや。
せやから、そのT団の団長も、ゴトウが一方的に悪いと謝罪させるわけにはいかんかった。
ゴトウの言うてることは正論やさかいな。
むしろ、そんなことを言うたミヤシタこそ、ドツかれても文句は言えんのやないかとなる。
責められてしかるべきやと。
こちらの団長も、その非は認めた。
但し、他団の人間にドツかれ歯をへし折られて、何もないで済ますわけにもいかんかった。
それでは、団としてのメンツが立たん。
このまま、平行線を辿れば、こちらとしては傷害罪で訴えるしか方法はない。
一般の争いで揉めた場合、そうなる事の方が多い。
しかし、この業界には事を荒げることを嫌う体質がある。ヘタしたら他紙の格好の新聞ネタにされかねんさかいな。
実際、その頃には、新聞記事やWEBサイトにやたらと拡張員の悪行が報じられていた時期でもあった。
このことが新聞社の人間の耳に入ると、団へも叱責を喰らうおそれがある。
間に入った販売店にも迷惑をかける。
誰にとって何一つ、ええ事はない。
こういう場合、この業界では、双方の顔が立つような「落としどころ」というのを考え模索する。
その結果、ゴトウはミヤシタにケガをさせたことに対して謝罪し、ミヤシタはゴトウに言い過ぎたことを謝罪するということで、一応の決着を見た。
ちなみに、歯の治療代については、ゴトウが実費の3割を払うことで話はまとまった。
この実費の3割というのには理由があった。
ワシの所属していた拡張団はフルコミ制で、拡張員は表向き、個人事業者という立場で団と業務委託契約を交わしているだけやった。
その関係で、会社員としての厚生年金の加入もなければ雇用保険もない。
加えて、拡張員は労災保険への加入も、ままならん状況にあるため未加入やった。
サイトの『ゲンさんのお役立ち情報 その1 労災についての情報』(注3.巻末参考ページ参照)それについての情報がある。
そこに、このサイトの法律顧問、アドバイザーをして頂いている今村英治先生に、ハカセが拡張員の労災に関して問い合わせた際に教えて頂いたものがあるので、その部分を紹介する。
拡張員の労災の件です。
請負ならば適用をうけません。
メールを頂き、あらためてほんとうに驚きました。そうだったんですか〜。
法の盲点をうまくついてるというか、なんというべきか、拡張員の方々は本当に社会的弱者ということが分かります。
労働者としていないことで労働基準法も労災法も適用を受けませんよね。
労災には特別加入という制度があります。
個人タクシーや赤帽の運転手さん、職人さん、大工の親方等々個人事業主ですが、現場で働く人たちですから、労災保険に入れてあげようという制度です。
もちろん拡張員さんも法的に加入できるでしょう。
特別加入するためには、私たち社会保険労務士や地元の商工会などを通じて労働保険事務組合の組合員になる必要があります。組合を通じて労災に特別加入するわけです。
国に対して直接手続して特別加入することはできないのです。
労働保険事務組合は保険料の滞納が許されません。ですから組合員を入れるにあたり、どの事務組合もしっかりと保険料が払えるかどうかかなり慎重になっています。
組合員が払わないと組合が自腹を切ることになりかねないからです。
拡張員さんが労災に入れるかどうかは、まさにこの点に尽きます。
個人的に懇意である社労士さんか商工会に顔が利くとかがない限り・・・。
フリーエージェント制のような拡張員さんですから受け入れてくれる事務組合はそうそうないと思います。
お答えしておきながらため息が出てしまいますが、拡張員さんの地位向上のためには業界内部で協力して共済組合とか労災のための事務組合をつくってしまうとかしないといけません。
また大手新聞社が体質を改善し正式な社員としてでないと営業活動ができないというシステムに変えていくべきでしょうね。
拡張員さんに限ったことではないですが、フリーで働く人の中には国民年金はおろか国民健康保険の保険証すら持っていない人もいますよね。
身体が資本の仕事であればこそ社会保障の恩恵を受けるべきなのに・・。老齢基礎年金の受給すらないようでは老後の生活が憂慮されます。
現状のシステムがすぐに変わるとは思えませんので一人一人の拡張員さんがしっかり経済力をつけ、国保の手続きをちゃんと行った上で、国民年金基金にも加入し労災保険についても分割ではなくて、年度保険料を一括で払うことを条件に労働保険事務組合にも入れてもらって労災も自分でしっかりかける。
こういう形で生活防衛のためのリスクヘッジ(危険措置)をするしかなさそうです。
ということや。
これは事実上、労災保険の加入が無理やと言うに等しいことやと思う。
フルコミ制での拡張員の組合なんぞできる可能性は、限りなくゼロやと思うしな。
また、拡張員を組合員にしてもええという奇特な団体も考えにくい。
どのみち、このケースでの労災保険の摘要は難しいと思うから、今回の場合は関係のない話かも知れんが、拡張員にとって普通にケガもおいそれとはできんということになるわけや。
ケガと病気は自分持ち。この業界で長く言い継がれてきとることや。
せめて国民健康保険の加入くらいは自分でしてなあかんのやが、ミヤシタにはそれすらなかった。
数年前に保険料金の延滞金が支払えず切られたままやという。
相手にケガをさせれば、その治療費を全額負担せなあかんが、今回の落としどころは、その国民健康保険に加入しているものとして計算することにして、その3割をゴトウが負担するということになったわけや。
慰謝料についての発生はナシ。双方痛み分けということになる。
落としどころとしては、仕方のない線やと言える。
詰まるところ、いらんことを言うたおかげで殴られ損をしたということやな。
結局、ミヤシタは二度ほどその歯科医に行っただけで、その後は放置したままやという。
拡張員をしてると、日程の都合上、いつも同じ歯科医院には行き辛いというのが、ミヤシタの理由や。
本当のところは、その治療費が高いのと、差し歯や入れ歯にしたとしても、その代金が払えそうもないということやとは思うがな。
人間、前歯が3本なくなると何とも締まりのない顔になる。
ベテランの威厳も迫力もあったもんやない。笑いの対象にしかならん。
それで人間自体が変わることはないんやが、周りの目がそう変わってしまうわけや。
また、団の中では、「歯を叩き折られて謝った」という事実だけが一人歩きして、よけいにバカにされる要素まで加わった。
ミヤシタは、それからも懲りずに「拡張員はクソや」と言うてたようやが、それ以降は、同年配の人間は言うに及ばず、若い者からも「そんなこと言うてたら、また歯をなくしまっせ」と、おちょくられるようになった。
さらに、それまでは、それほど悪いというほどの成績やなかったのが、極端に下降していった。
まあ、体面営業でそういう面相は不利ではあるがな。
それらが原因かどうかは定かやないが、それからほどなくして、ミヤシタは団を去った。
その最後の日。
ワシは「ミヤさん、達者でやりや」と声をかけた。
そのときに、「おおきに」と言うて、ニコリと笑ったときの歯のない寂しそうな笑顔が、なぜか今でも、ワシの脳裏に焼き付いて残っている。
参考ページ
注1.NO.512 拡張員自体存在してるのがおかしいと思いませんか
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage10-512.html
注2.NO.663 拡張員は営業マンじゃない
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage10-663.html
注3.ゲンさんのお役立ち情報 その1
労災についての情報
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage16-01.html
時折、メルマガのネタを提供して頂いている『店長の想い出』シリーズ、また、旧メルマガ『店長はつらいよ』シリーズのタケシタ氏から感想が寄せられたので、それを紹介する。
特別寄稿 タケシタ店長の感想
寄稿者 タケシタさん 元新聞販売店店長 投稿日時 2009.1.24 AM 1:26
今回のメルマガを読んで、過去の記憶が蘇りました。
当時、支店の主任をしていたセガワという、がさつな男がいました。
態度は横柄で、椅子にどっかりと座り、一日中あくびと背伸びを繰り返しているようなだらしない人間でした。
なぜ所長はこんな男を主任にしたのだろう? と、本当に納得できませんでした。
それでも私も隣の店で店長をしていたので、私に対しては敬語を使っていました。
当然のことですが、彼の当時のむちゃくちゃぶりからすると???でした。
とにかくセガワは、新聞業界を心の底からバカにしていたように感じました。
セガワの前職は工場のオペレーター。
飽きっぽいセガワにとっては、それも長続きしなかったようです。
我慢という言葉がもっとも似合わない男でした。
そんなセガワが放った言葉はいまだにわすれられません。
「タケシタさん。聞いてくださいよ。こないだね、客から苦情の電話が来たんですよ。そしたらね。それに出たのがタザキさん。それでね、タザキさんったら、客に対してこういうんですよ。」
タザキさんは当時の営業部長であった。
証券会社出身で、経済概念のしっかりしたひとでした。
セガワが言うにはこうです。
「客にたいしてね、こういったんですよ。『お客様、手前どもと致しましては・・・・』ですって! たかがシンブンヤが、『手前ども』って!ガハハハ。バカじゃないですかね」
言葉も出なかったです。
「たかがシンブンヤが」のフレーズでまず一怒り。
「手前ども」の件でもう一怒りです。
わたしは、こんなに新聞業界に携わる人間が低レベルなのかと本当に愕然としました。
しばらくして、セガワは案の定やめていきました。
その前に、相談の電話が私に来たのです。
「タケシタさん。残業代も出ないし、オレ訴えようと思うんですけど・・」と。
私は我を忘れて、怒声を放ちました。
「おめぇ!勝手にしろ。」と。
セガワにしてみれば、私は優しい先輩のような存在だったようですが、結局、どこにも訴えることなく静かに辞めていきました。
私はこのような人間が大嫌いです。
もう一つあります。
私の友人であるナガハラ君です。
彼も酔うと自虐的なことを口にする悪い癖がありました。
「どうせ、シンブンヤなんだからよー」と何度となく聞かせれらました。
彼の辛い立場もよくわかっていたのですが、どうもこのような言葉は好きになれませんでした。
メルマガにもあるように、「だったら、やめろ!」と言いたい気分になります。
それと同時にとっても悲しい気持ちになります。
少なくとも一生懸命、新聞業界で名をはせようと頑張っている人たちは少なくありません。
そんな彼らを冒涜する言葉であることに違いないのです。
ただ・・・。
ナガハラ君の場合は、家庭の問題もあり中々直接言いづらい部分がありました。
新潟で育った彼には最愛の母がいました。
その母を養う為に頑張ってきた彼なのですが、大地震で彼の環境は一変しました。
あろうことか、かれの配達している新聞紙面に彼の実家が崩落している写真が載ったのです。
かれは目的を失ったのです。
本当はそうであってはいけなかったのですが、彼の心は折れてしまったのです。
今でもナガハラ君は、酒に酔っては「シンブンヤなんかはよー!」とわめいています。
そんな彼を直接、注意することなど誰にできるでしょうか?
以上、メルマガへの感想でした。
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