メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第36回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日  2009. 2.13


■拡張員だった父親の負の遺産……相続放棄について


2008年9月。

ごく普通のサラリーマンであるアキオのもとに一通の手紙が届いた。

送り主は、「○○市災害援護資金貸付の係」とある。

それには、目を疑いたくなるような内容が書かれていた。

死亡したアキオの父親、ケイジローが地震による復興支援の一環として、○○市災害援護資金を借りていて、それが滞納しているので、唯一の子供であるアキオに支払ってほしいというものやった。

その残額、350万円ほどになるという。

まさに、アキオにとって青天の霹靂(へきれき)、寝耳に水の話やった。

アキオと、その父親のケイジローとは30年以上も音信不通のままやった。

母親の話やと、アキオがまだ3歳になる前に女を作って蒸発したという。

当然のように、アキオにその父親の記憶は一切ない。

アキオは、母親のヨシコに女手ひとつで育てられた。

その母親も5年前にガンで亡くしていた。

現在、アキオは3年前に結婚した妻と1歳になる長女カリンの3人の幸せな家庭を築いている。

そこへ降って湧いたようなこの話やった。

いきなり父親が死んだと知っても、それほどショックも感慨もなかった。

どこか他人事のようなところがあった。

まあ、父親やと言うても顔も知らんのやから無理もないがな。

ただ、名前だけは知っていた。

母親はなぜか失踪手続きによる婚姻破棄の申請もせず、父親の性をそのまま名乗り続けていた。

後年、そのことを母親のヨシコに問い質すと、「お前のために」とだけしか言わなかった。

おそらくは、アキオに対して片親であることの肩身の狭さを、せめて戸籍上でだけでも回避させたかったのかも知れん。

あるいは、父親をどこかで愛していて、いつかは帰ってくると信じ待ち続けていたのか。

実際、母のヨシコは再婚をしていない。

もっとも、その疑念について、ヨシコは最後まで何も言わず逝ったから、その真意を探る術はもうないがな。

アキオにとって、そんな父親が死んだと聞かされたことよりも、借金が350万円残っているから払えと言われた衝撃の方が、はるかに大きなものやった。

いきなり、そう言われても、そんな大金あるわけがない。

例えあったとしても、母と子を捨てたような父親のために、そんな大金を払うつもりはアキオには微塵もなかった。

アキオは、早速、その「○○市災害援護資金貸付の係」へ電話をした。

受付から担当部署につながり、担当官と名乗る男が応対に出た。

「今日、そちらから、父親のカツラギ ケイジロウが死んだので貸付金を支払ってくれという手紙を受け取ったんですけど……」

「失礼ですが、お名前は」

「カツラギ アキオと言います。カツラギ ケイジロウの子供の……」

アキオは、その父親の名前を口に出して、しかもその人間を自らの父と言うのはかなりの抵抗を感じたが、そう説明するしか仕方なかった。

「ああ、カツラギ アキオさんですね。お父さんのケイジロウさんが震災に遭われたときにお貸しした災害援護資金が滞っていまして、その返済のお願いなんですが」

「あの……、父はいつ死んだんでしょうか?」

「えっ? ご存知ない?」

「ええ、私が3歳の頃から30年以上も音信不通のままでして、今回、初めてそちらの手紙で知ったんですが……」

「そうだったんですか。えーと、亡くなられたのは5月○○日ですね」

すでに4ヶ月以上も前ということになる。

「そうですか……、それで、その父の借金というのはどうしても私が支払わなければならないものなのでしょうか」

「私どもと致しましては、唯一のお子さんである相続人のアキオさんに、それをお願いするしかありませんので」

「この手紙には、相続しない場合には相続放棄の手続きが必要と書かれていますが、その手続きというのはどうすればいいんですか」

「さあ、それは管轄の家庭裁判所でお尋ねになってください。そこで相続放棄が受理されれば支払い義務はなくなります」

「管轄の家庭裁判所と言われましても、どこか分かりませんけど……」

「カツラギ ケイジロウさんの場合、最終住所が○○市ですから、そこの家庭裁判所ということになりますね」

「その手続きは簡単にできるのでしょうか」

「さあ、それは私の方では何とも言えません。その手続き申請が認められるかどうかは、その裁判所の判断ですので。そこで、そちらの相続放棄が認められれば、私どもと致しましては、保証人の方に支払いをお願いすることになります」

「えっ? 保証人がいるのですか?」

「ええ」

「あの、その保証人の方というのはどちらに?」

「それについては個人情報ですので私どもでは、お教えすることはできません」

その担当官は、さも当然という口調でそう言った。

こういった役所では個人情報に関して神経質なくらい気を遣っているというのは知っていたが、ここまでとはアキオは思わなんだ。

「そんな……、それでは、どうするかの判断などできないではないですか」

保証人がいると聞かされれば、その相続手続きとやらをすると、当然ながらそちらに迷惑がかかる。

いくら音信不通の父親で面識すらないとはいえ、父親には変わりはない。

法律的にもそうやが、世間体としても、親の相続放棄で他人に迷惑をかけるのは人としてどうなのかと、アキオは考えた。

アキオが相続放棄をすることで、その保証人、およびその家庭が崩壊することにもなりかねん。

350万円というのは誰にとっても、けっして少ない額ではないさかいな。

しかも、父親を助けようと善意でそうしたことなら、結果として、その保証人を追い込む行為は「人でなし」ということになる。

それは、人として耐えられん。

アキオは、その担当官にそう訴えた。

「それでは、お父さんの契約書のコピーをそちらに送らせていただきますので、それでどうされるか、ご判断いただくというのでは?」

なるほど。その手があったか。

アキオは、いきなり借金を返せという手紙を受け取り、そのことしか考えられんかったが、その負債を引き継ぐにせよ、放棄するにせよ、その実態を知らんでは話にならんのは確かや。

そして、いくら個人情報云々をかざしても、その負債の根拠となる契約書をその役所は提示する義務がある。

当たり前やが、「あんたの親が350万円の借金があるから支払え」と言うには、その確かな根拠を、その当人に示す必要があるさかいな。

その契約書には保証人の情報も当然のことながら明記されとるはずや。

その保証人と話し合ってどうするか決めればええ。

アキオは、そう考え即座に返事した。

「ええ、是非そうしてください」と。

その担当官は早速、その書類を揃えて送付すると約束した。

その電話が終わったアキオは、気になってもう一度、その文書を良く見た。

それには相続放棄のことについても書かれていた。

それで分かったことは、被相続人(親)の死後、つまり、その相続の開始を知ったときから3ヶ月以内にその相続放棄の手続きをせなあかんということやった。

それやと、すでに父親の死から4ヶ月がすぎている。

しかし、その3ヶ月以内というのは、その死を知った日からということやから、アキオに関しては、それを知ったのが、この手紙を受け取った今日ということで、十分期間があることになる。

ただ、懸念がないわけやない。

それは、その「○○市災害援護資金貸付の係」とやらが、なぜ父親の死後、4ヶ月も経った今、その通知をしてきたかという点や。

穿った見方をすれば、その逃れられない期間になったと承知して知らせてきたのやないかとさえ思える。

その役所は、父親の死んだ日まで知っていたわけやから、即日にでもアキオの存在を掴むことができたはずや。

そこには何か恣意的な意図が働いたのやないかと考えた。

通常、父親の死を子供が知らんかったというのは考えにくいことやと判断されやすい。

果たして、それで「父親の死を知ったのが4ヶ月後やった」ということが裁判所で認められるのか考えると、アキオはどうしても不安な思いに囚われざるを得んかった。

ただ、その文書には、「被相続人の死亡後、3ヶ月をかなり経過している場合でも、受け付けられているケースもあるようです。詳しくは裁判所で確認してください」とあった。

しかし、アキオには、それはただの気休めにしか思えんかった。

「受け付けられているケースもあるようです」というのは、裏を返せば、受け付けられんことがあるとも受け取れるさかいな。

一週間後、その契約書のコピーが送られてきた。

それで、その「○○市災害援護資金貸付」というのが、震災で全壊・全焼した際に貸し出される種類のものやということを知った。

ということは、父親のケイジロウは自宅を所有していたことになる。

それなら、それでその借金くらいは、返済できるのやないかと考えた。

そして、法的には、子供はアキオ一人やから財産が残っていることも考えられる。

そうなると、何も急いで財産放棄の手続きをする必要はないのやないか。

アキオは、そう考え、再度、その「○○市災害援護資金貸付の係」の担当官に連絡を取った。

「この貸付金というのは、住宅が全壊・全焼した際に貸し出される性質のものですよね」

「ええ」

「それでしたら、普通、こういった契約を結ぶときには、その所有している土地を担保に取るのではないのですか?」

「いえ、それは……」

その担当官は急に、口ごもり始めた。

「土地は担保に取ってなかったということですか」

「ええ……、当時は被災者の方々に一刻も早く、ご融資するというのが私どもの考えでしたので……詳しくは、どうも……」

なぜか必死にそう弁明しているようで、どこか煮え切らない。

そんな印象をアキオは受けた。

ついでに、アキオは、「この契約書に書かれている保証人のオギワラという方は、今もこの住所に住んでおられるのですか」と聞いてみた。

すると、「いえ、今はかなり遠方に住んでおられます」という意外な返事が返ってきた。

「そこの連絡先は?」

「それは個人情報になりますので、お教えするわけには……」

また、個人情報とやらをかざしてくる。

「それでは、その保証人の方と話し合うこともできないではないですか」

温厚なアキオもこの対応にはさすがに苛立ってきた。

「そう言われましても困ります」と、その担当官。

「分かりました。それは、こちらで調べろと言われるわけですね」

アキオはそう言って、その電話を勢いよく切った。

アキオは再び、その契約書に目を落とした。

すると、父親のケイジロウとその保証人のオギワラが、同じ会社に勤めていたと知った。

どちらも、「株式会社○○企画」という会社の会社員となっている。

アキオは、その会社に電話をした。

「はい、こちらは、株式会社○○企画です」と、事務員らしき女性が出た。

「恐れ入りますが、そちらにオギワラ ケンジさんという方は、まだお勤めでしょうか?」

「いえ、当社には、オギワラという者はいませんが……」

「そうですか。それは失礼しました。ところで、そちらは何のお仕事をされている会社なのでしょうか?」

「当社は、○○新聞の営業会社ですが」

新聞拡張団。

アキオにはすぐにそれと分かった。

アキオは、『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』のサイトの大ファンやった。

2年ほど前、ある新聞トラブルの相談をサイトのQ&Aにしたことで、そのアドバイスによってそれが上手く解決できて以来、サイトはおろか、メルマガもすべて読破しているほどの熱心なファンやという。

それで「○○新聞の営業会社」というだけで、即座に新聞拡張団の会社やと分かったわけや。

そうなると、父親のケイジロウも同じ会社に勤めていたということやから、拡張員をしていたということになる。

それには少なからずショックを受けた。

今まで、サイトやメルマガは、ただ面白く見ていただけやが、それが急に身近なものになったような気がしたからや。

もちろん、それは親しみとはほど遠いものや。

その電話の向こうで誰かの「代われ」と言う声が聞こえた。

「少々お待ちください」という女性事務員の後から、いかにもドスの利いた野太い声の男が電話口に出た。

「お電話を代わりました。営業部長のカガミという者ですが、オギワラにどういったご用件でしょうか」

意外に紳士的な口調の男やった。

「今、そちらではオギワラさんはおられないと」

「いえね、オギワラは3年ほど前に当社を辞めてますんで、そちらさんはそのオギワラとはどんなご関係で?」

「実は、あるところから、死んだ父が借金をしていると聞かされまして、その保証人にオギワラさんがなられているので、それで事情をお伺いできないかと思いましたものですから」

「そちらのお父さんのお名前は?」

「カツラギと言います」

「何やて? あのカツラギか?」

そのカガミと名乗った部長の口調が一変した。

「……」

当然のように、アキオは不穏なものを感じた。

「そうか、あのカツラギ、死んだのか」

「ええ……」

「ちょうどええ、あんたはカツラギの息子さんなんやろ。実はカツラギのおっさん、あんたが捜しとるというオギワラと一緒に、うちの借金踏み倒してトンズラしてしまいよったんや。その借金、あんたに払うて貰えんやろか」

「借金? いくらほど……」

「ざっと200万ほどや。いや、延滞金がつくさかい、もうちょっと増えるかな」

「そんな無茶な……」

「無茶なんは、借金踏み倒して逃げたあんたの父親やないのんかい。父親の借金を子が払う。これは別に無茶でも何でもないやろ!!」

アキオは、そのヤクザまがいの恫喝に恐れをなした。

「分かりました、良く考えて見ますので」と、答えるのがやっとやったという。

「まあ、こっちも罪もない息子さんのあんたにあまり無理なことを言うつもりもないさかい、一度、ゆっくり話そうか」と、その部長のカガミが急に優しい口調に変わった。

結局、住所を教えてくれというのだけはやんわりと断って、その拡張団の事務所に赴く約束をした。

アキオは、一瞬、その約束を反故にしようかと考えた。

しかし、その電話を切る際、部長のカガミに、「約束守らんかったら、あんたの所の電話場号は、番号表示で分かっとるから、それで住所を探して行くさかいな」と、脅しとも受け取れる言葉を吐かれたことで怖くなっていた。

そして、アキオは、すぐにワシらにメールを送ってきた。


大変ご無沙汰しています。アキオです。

その節は、ゲンさんのアドバイスのおかげで無事解決し、大変感謝しています。

前回の『第18回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■長かろうと短かろうと、それが人生』(注1.巻末参考ページ参照)でハカセさんのお父さんが亡くなられたとのことお悔やみ申し上げます。

私の父も、その阪神大震災のときに○○市に居住していて、その被害にあったということなのですが、実は……。

中略。

そんなわけで、一度その○○市に行って、父の住んでいた場所とその拡張団の会社に行ってみようと思うのですが、それについて何かアドバイスしていただけないでしょうか。

父が所有する土地があってそれを処分することで双方の借金が返済できるのならそれでいいですし、それができないときは相続放棄をしようと考えているのですが私のケースでも可能なのでしょうか。

それと非常に申しわけないのですが、この相談をHPに載せるのはしばらく待ってもらえないでしょうか。

勝手なことばかり言ってすみませんが、よろしくお願い致します。


これに対して、希望どおり、サイトのQ&Aに掲載するのは見合わせることにしたと伝えた上で、回答を送った。

但し、事が完全に解決、決着が着いたときを条件に、メルマガのネタとして使わせて頂くことには了解して頂いたがな。


回答者 ゲン


お父さんの住んでおられた住所に行って、その居住を確かめられるというのなら、それはそれでええと思う。

確かに、あんたの言われるとおり、『○○市災害援護資金貸付』というのは、住宅が全壊・全焼した場合に貸し付けられる性質のものということになっている。

その限度額が350万円ということやから、その減額額一杯を借りたということで、土地建物を所有している人間がその建て替え資金として申請したものが認められたと考えたいというのは良く分かる。

それが普通やし、本来そうやなかったらあかんとも思う。

しかし、このケースの場合、それが必ずしも、あんたの『父が所有していた住宅があるはず』ということにはならん可能性もある。

そんな現実を、ワシはこの目で嫌というほど見てきた。

ワシは、その阪神大震災が発生した当時、大阪で小さな住宅リフォーム会社を経営していた。

その関係で、顧客の住宅リフォーム費用の資金として『○○市災害援護資金貸付』の申請手続きを実際に教えて代行していたこともあるから、その実態をある程度知っとるつもりやが、結構、ええ加減なものやったと記憶しとるで。

どさくさ紛れと言うと、あんたのお父さんには失礼かも知れんが、そんな建前とは関係なく申請さえすれば、ほぼすべて無審査に近い状態で貸し付けられていたようや。

例えば、住宅の所有はおろか、ボロボロのアパートに住んでいて、月収15万円ほどしかないような人間でも、その全額が融資されていたケースも事実あったさかいな。

その『○○市災害援護資金』は10年返済が条件やけど、普通に考えて月収15万円しかない人間が、350万円もの大金を返済できるわけがないわな。

ちなみに、『○○市災害援護資金』の回収不能金は実に4割ほどもあると言われとるくらい酷いもんやったということや。

その額、72億円以上という。これはナンボ何でも異常というしかない。これにより、○○市の財政もかなり圧迫されとるという話や。

そんな杜撰(ずさん)な状況が「震災復興」のかけ声の蔭にあったわけや。

ワシがなんで、失礼を承知でこんなことを言うのかというと、あんたの話を聞いて、あんたのお父さん、およびその保証人になった知人のオギワラという人の融資に疑問を感じたからや。

それと似たような話を実際に良く聞いたさかいな。

基本的に、この融資にはお互いが保証人になり合いすることは認められていない。それだけは厳しくチェックしていたようや。

しかし、それが3人なら、AがBの、BがCの、CがAの保証人にさえなれば、もう誰にも分からんわな。

そういうのは造作もなく可能になるし、実際、そういうケースは腐るほど見てきた。

悪いが、あんたのお父さんのケースもその可能性があると知っておかれた方がええと思う。

これは何も、あんたのお父さんを貶(おとし)めようというのやなく、あんたが深みに嵌ることを危惧する故の老婆心からやと理解してほしい。

加えて、その担当官という人に、あんたが『普通、こういった契約を結ぶときには、その土地を担保に取るもんではないのですか』と聞いても、曖昧な返事しか返ってこんかったというのも、その土地建物を所有されてなかったからとも思える。

もし、あんたのお父さんが本当にその土地建物を所有していたのなら、その担当官にそれが分からんわけはないから、それをあんたに伝えていたはずやしな。

もっとも、これはワシの勝手な憶測ということも考えられるさかい、実際に確かめられるのはええことやと思う。

その場合、その契約書にある被害に遭遇された住所で、その管轄の○○市の法務局に行って調べられたら、その住所の所有者はすぐ分かるはずや。

但し、その拡張団とやらに行くのは止めといた方がええで。

今のままやったら、最悪、相続放棄をすれば、それらの借金の返済をせんでも済むようになるが、実際に行ってしまうと、さもあんたの借金、もしくはその借金をあんたが肩代わりすることを認めさせられるような書類を作成されるおそれがあるさかいな。

極力無視しとくことを勧める。

番号表示だけで住所が特定できるというのは半分は脅しや。

以前は、その電話の所有者なんかになりすませば簡単に聞き出せたが、現在は個人情報保護法というものが結構な足かせになっとるから、それほど簡単なことやないしな。

聞けば、あんたは携帯電話でかけたということやから、そこから電話がかかってきたら、それと分かるわけやから出んようにするか、迷惑電話設定でもしといたらええのと違うかな。

それとも、その電話がかかってきたら「相続放棄しましたのでお支払いできません」とでも言うておくことやな。

それで、たいていはあきらめるはずや。

万が一、あきらめんようやったら、また言うてくれたらええ。

根拠のない支払い、支払う必要がなくなった請求は法的にも認められとらんから、ヘタにそれをすると恐喝罪に問われかねんさかいな。

それが、新聞拡張団やと言うのならナンボでも対処のしようがあるさかい心配することはない。

ちなみに、あんたは、『相続放棄をしようと考えているのですが私のケースでも可能なのでしょうか』と心配されておられるようやが、かなりの高確率で相続放棄できると思うよ。

ここで、一般的な相続放棄の手続きに対して簡単に説明しとく。

揃える書類は、役所や管轄の裁判所に出向いてもええし、郵送でもできるから一応、両方示しとく。

相続放棄の手順

1.必要書類を揃える。

相続放棄の申述書1通……管轄の裁判所、被相続人の最終居住住所を管轄する裁判所の家事受付係で用紙の申請をする。

その裁判所の家事受付係に問い合わせれば郵送で取り寄せる手順も教えてくれる。

ネットの場合、裁判所・相続の放棄の申述書(注2.巻末参考ページ参照)というページからダウンロードしてプリントアウトすることも可能や。

ここにはその書式の記入例もある。

申述書にすべて書き込み、申述人一人につき収入印紙800円を貼って管轄の裁判所に提出する。

あるいは、それに連絡用の郵便切手を余分に添えて郵送する。

連絡用の郵便切手というのは、2〜3度ほどその管轄の裁判所との文書のやりとりのために必要なもので、その管轄の裁判所の家事受付係にでも問い合わせれば必要な切手分の同封を求められるはずや。

当然やが、切手分の同封はその地域毎で違うてくる。

たいていは余分に入れるように言われるが、余った分は最後の書類が届いたときに同封されている。

申述人の戸籍謄本1通……申請人、この場合、現住所にあんたの戸籍があれば、その管轄の市区町村役場の住民課に行けば揃えられる。

他府県に在住なら、その戸籍謄本のある役所に出向くか、郵送希望の場合は郵送依頼の電話をその役所の住民課にして尋ねればその方法を教えてくれる。

たいていは、返信用の封筒に切手を貼って、言われた必要事項を記入して必要な金額の小為替を同封して送れば一週間から10日程度で返送されてくる。

被相続人の除籍謄本(戸籍謄本)、住民票の除票各1通……被相続人の本籍地が分からない場合は、先に住民票の除票をその契約書にある最終住所の役所に出向くか、そこに問い合わせて送って貰う。

それには被相続人の本籍地が必ず記載されているから、その市区町村役場に申請すればええ。

直接、その役所に出向くか、同じように郵送の手配を依頼すればええ。

人によりその他の書類を求められることがあるようやから、管轄の裁判所の指示に従うことや。
 
それらの申請書類をすべて揃え、その管轄の裁判所宛に郵送する。

2.裁判所から送付された相続放棄申請書類に記入する。

この申請書類に記入するために、念のため、送られてきたすべての書類のコピーを取っておいて、それを見ながら間違いなく記入していく。

ここで、最も重要なことは、その相続放棄理由とあんたの場合、お父さんの死亡から3ヶ月以上経過して申請した理由や。

それは、正直にありのままを書けばええ。

30数年音信不通であったこと。お父さんの死を知ったのは「○○市災害援護資金貸付の係」からの文書を受け取った日であることなどを記入する。

裁判所によれば、その証拠となる文書と封筒のコピーの添付を要求されることがある。

また、それらの申請書類に不備があればその都度、訂正および理由を担当裁判官から聞かれることがある。

それで、よほどのことでもない限り相続放棄は認められるはずや。

3.裁判所から相続放棄申述受理通知書が届く。

これが届けば相続放棄が決定されたことになる。但し、この通知書は再発行されんから絶対に紛失せんことや。

それを「○○市災害援護資金貸付の係」に知らせれば、その借金を支払う必要はなくなる。

但し、役所によれば「受理証明書」の提出を求められる所もあるようやから、その場合は再度、管轄の裁判所に同じような手順で尋ねその申請をする。

以上が、大体の手順やが、例の拡張団については、その連絡があれば「相続放棄」が受理されて決定したとだけ伝えればええ。

尚、可能性として、お父さんに財産が残っているケースも考えられから、土地などの所有財産の有無を調べられてから、どうするか考えられたらええ。


その回答を送った2ヶ月後、アキオからメールが届いた。


この度は、いろいろ教えていただき本当にありがとうございました。

おかげさまで、すべて無事終わりました。

やはり、ゲンさんの言われていたとおり、○○市の法務局に行って調べたら父の住んでいた住所は当時アパートで、別の人の所有だったことがわかりました。

それで、教えていただいた方法で相続放棄の手続きをして本日、その「相続放棄申述受理通知書」が届き無事終わりました。

「○○市災害援護資金貸付の係」へは、「相続放棄申述受理通知書」のコピーだけでいいということでしたのでそれを先ほど送ったところです。

新聞の営業会社さんの方から一度電話がありましたが、相続放棄の手続きをしていると言うとそれっきりになっていますので、もう何もないのではないかと思ってます。

このたびは本当に感謝致しています。これからも応援させていただきますので、ゲンさん、ハカセさん、お身体に気をつけてがんばってください。


このアキオのお父さんについては、それ以上は分からんということやったが、何となく、アキオの心の痛みが分かるような気がする。

ハカセが良く言うてることやが、辛く哀しい生い立ちがあるからこそ、今が幸せやと感じるのやと。

その生い立ちに挫折し負ける者もおるが、それを乗り越えた者は、より素晴らしい幸せを手にすることができる。

それが人生やと信じたい。



参考ページ

注1.第18回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■長かろうと短かろうと、それが人生

注2.裁判所・相続の放棄の申述書


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