メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第381回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2015. 9.25
■報道のあり方 その8 安保法案強行可決に見る新聞各紙の二極化について
2015年9月19日。衆議院に引き続いて『安全保障関連法案(安保法案)』が、参議院でも強行可決された。
なぜ、そんなことになったのか?
答えは簡単。国会で政府与党が圧倒的多数の議席数を占めているからや。
議会制民主主義のもとでは、議席の多い与党が法律を決めるという仕組みがある。
与党と野党の議席数が拮抗していれば、こんなことにはならんかったやろうが、極端に議席の少ない野党では、どれだけ頑張っても強行採決を阻止することなどできんということや。
今回のように1万人近い憲法学者たちが、いくら口を揃えて『安全保障関連法案(安保法案)』は違憲だと声を張り上げようが、大規模な反対デモが起き、国民の大多数が反対していようと、そんなことにはお構いなしに政府与党の一存で、どんな法案、法律であっても決めてしまうことができるわけや。
最早、今の日本において国会の審議など、ただのセレモニーにすぎないと言うしかない。
さすがに国会の審議なしに法律を作るわけにはいかんから、一応、形だけ審議したことにしているだけの話でな。
実際には現在の与党の法案が成立するのは、総理や一部の高官、高級官僚たちが頭の中で考えた時に決まっているも同然なわけや。
好き放題に法律を作ることができる。今後も間違いなく、この流れは続く。その意味では今の日本は「独裁的国家」と言えるかも知れん。
残念ながら、それをくい止める術は今のところない。
今回のような結果は、成るべくして成ったと言う外はない。予想されたことやと。
しかし、こんな強引なやり方は必ず禍根を残す。国民からの政府与党へ対する風当たりが強まり、支持率の低下は避けられんやろうと思う。
それでも政府与党は10パーセント程度の支持率の下落は織り込み済みやと嘯(うそぶ)く。そのくらいは仕方ないと。
もっとも、次の国政選挙(参議院選挙)は来年の夏までと、かなり先の話やから、その頃には国民の多くが、今回のことなど忘れてしまっていると考えとるのかも知れんがな。
それまでに下落した支持率を回復させれば良いと。例え回復させられなくても大負けさえしなければ、参議院は半数の改選だけで済むから大した影響はないと。
それは、その時になってみな何とも言えんが、問題はそこだけやない。他にもある。
今回、ワシらが問題にしたいのは、本来、大きな役目の一つである権力の暴走を監視するという役目を担っているはずの新聞の一部が、その権力の暴走に与しているという点や。
昔から、政府寄りの右翼系新聞、反政府寄りの左翼系新聞というのが存在してはいたが、今回ほど、その論調があからさまに二分されたケースはなかったやろうと思う。
そう思える記事がある。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150919-00000059-asahi-soci より引用
安保法賛否・デモの報道…新聞各紙、二極化する論調
戦後日本の大きな転換点となった安全保障関連法の成立や抗議デモを、国内の新聞・テレビはどう報じたのか。
朝日、毎日、読売、産経、東京の在京5紙は19日付1面(最終版)に、法案成立への賛否を示す論文を掲載した。
朝日新聞は「民意軽視の政治問い続ける」との長典俊・ゼネラルエディターの論文を掲載。「憲法に抵触する疑いが強い法制だ。成立してもなおその是非を問い続ける」とした。
毎日新聞は小松浩・論説委員長が「国家の過ちに謙虚であれ」の見出しで、「国民の支持のない自衛隊の海外派兵はあってはならない」と指摘。東京新聞は深田実・論説主幹が「不戦の意志貫こう」とし、憲法9条の条文を添え、「法律が成立しても国民多数が望まぬなら不用にできる」と訴えた。
一方、読売新聞は田中隆之・政治部長が「戦禍を防ぐ新法制」として、「強大化する中国と向き合い、必要最小限の抑止力を維持できるようになる」と評価。
産経新聞も「視点」で、「中国の脅威 抑止力強化」の見出しで成立を評価し、「自国存立のために集団的自衛権を行使できるようにするのは当然だ」とした。
各地の反対デモの取り上げ方も、5紙で分かれた。
最大規模となった8月30日の国会周辺での反対デモ。朝日、毎日は翌31日付朝刊で1面2番手の扱いを含め3ページにわたり掲載。
朝日の長ゼネラルエディターは「カウンターデモクラシーの萌芽(ほうが)の動きとして注目すべき事象と判断した。
しかし、「反対」だけに焦点をあてるのではなく、人々を街頭へと突き動かしたものはなにか、を考えるという視点から記事の構成を考え、紙面扱いを判断した」とした。
東京は31日付朝刊1面トップをはじめ、6ページにわたり全国のデモを紹介。参院特別委の中央公聴会を報じた9月16日付朝刊では、学生団体「SEALDs(シールズ)」の中心メンバー奥田愛基さんの発言を全文掲載した。
3紙は積極的に各地の反対デモを取り上げた。
一方、読売は8月31日付朝刊社会面で、29日にあった賛成デモと併せて反対デモを紹介。
9月17日付朝刊社会面で「デモ国会周辺緊迫 寝そべり 通行妨害」の見出しで、デモの主催者発表と警察集計の参加人数の開きを指摘し、60年安保闘争のデモに参加した大学名誉教授の「当時は安保改定が何なのかよく分からないままデモに加わったが、のちに必要だと理解できた」との談話を添えた。
読売新聞グループ本社広報部は「記事掲載の経緯や判断は従来お答えしていませんが、安保関連法案をめぐる抗議行動など様々な動きは、紙面で適切に報じています」としている。
産経は8月31日付朝刊社会面で「SEALDs(シールズ)」の分析記事を掲載。
公安関係者の見方や共産党の機関紙・赤旗が大々的に掲載した経緯に触れ、「実態は不明な部分もある」と書いた。
産経新聞広報部は「個別の記事や特定の記事に関することはお答えできません」としている。
各紙の論調やデモの扱いの違いについて、慶応大の大石裕教授(ジャーナリズム論)は、新聞が果たす役割が論説や解説へ移っている点に着目する。
「スマホに最新のニュース一覧が並ぶ時代に新聞も様変わりを求められ、論調の違いが最大の個性になった。記事の切り口や扱いは社の論調に影響されやすく、メディア環境の変化が二極化に拍車をかけた」と話す。
というものや。
この記事でも分かるように、以前から右翼系新聞と目されていた読売新聞、産経新聞の2紙のみが政府自民党および『安全保障関連法案』の擁護、賛成の論調に終始している。
それに対して朝日新聞、毎日新聞が批判的な論調を展開しているという構図になっている。
全国紙だけを比較すれば、ほぼ拮抗しているように見える。
しかし、新聞には他にブロック紙3社、地方紙100社以上あり、その殆どで
『安全保障関連法案』に懐疑的な論調の記事が紙面に踊っている。
全国紙は、関東、関西などの大都市部以外では劣勢で、その他の地域では圧倒的にブロック紙、地方紙の方が勝るケースの方が多い。
それから言えることは『安全保障関連法案』を擁護、賛成する論調の新聞は発行部数の点から言っても少ないということや。
割合にして4対1くらいで『安全保障関連法案』に否定的な新聞記事が多い。
それに呼応するかのように各種の世論調査でも『安全保障関連法案』に反対、もしくは今回の与党による強行採決に対する批判的な意見が圧倒的に多い。
それでも、そんなことはお構いなしに『安全保障関連法案』が強行可決された。
しかも、それは法案が提出される以前に政府内では、そうなるものとして規定の事実になっていた。
その理由は、『安全保障関連法案』が、まだ国会に提出されてもいない段階で安倍首相が渡米した折り、オバマ大統領に法案の成就を公然と約束していたからや。
安倍首相および現政府にとって国会の審議や国民の反応など、まったく関係ないということが、これによく表れている。
何で、そんなことができるのか。
答えは一つ。政府与党が衆参両院とも3分の2を超える圧倒的議席数を擁しているからや。
普通、選挙で圧倒的議席数を確保するということは国民の大多数の支持を得ていたからやと思われがちやが、現自民党政府は、それとは少し違う。
政府与党を支持する国民は多く見積もっても全有権者の3割程度でしかない。それなのに、なぜ圧倒的多数の議席を確保できたのか。
理由は低投票率だったことに尽きる。
戦後最低だった2012年総選挙の投票率は59.32%。自民党の圧勝、民主党惨敗、日本維新の会と、みんなの党は躍進、日本未来の党の惨敗、その他の党は伸び悩むという結果に終わった。
そして、自民党と公明党は3分の2もの議席を得たことで政権与党に復帰した。
しかし、この結果は自民党が国民から圧倒的に支持されたからではなかった。
それどころか、その前回、2009年に自民党が惨敗を喫し、政権を失った時より、小選挙区、比例区ともに200万票以上も票が少なかったのである。
本来なら同じように惨敗していてもおかしくはなかったのやが、それでも政権与党に返り咲くことができたのは、この低投票率のためやった。
自公が獲得した票は有権者の約32%に過ぎない。しかし、60%の内の32%を占めたことで投票総数の過半数を超えた。
与党が32%ということは、それ以外の野党は28%ということになる。
その4%の差がとてつもなく大きな差となって表れた。
小選挙区制では当選するのは一人や。一票でも多い方が、その地域の議席を獲得する。
つまり、その4%の差で与党はことごとく勝利して3分の2もの議席を得たわけや。3分の2もの議席を得ていれば、法案が参議院で否決されても衆議院で再可決可能になる。
その当時、民主党政府は失策が続いたことで国民から見放されていた。さりとて、自民党に投票するのも嫌だという人が多かったため、そんな低投票率になったものと考えられる。
自民党の支持者ですら、惨敗した時に比べて200万票も少なく、見限っていた。それにも関わらず大勝したのである。
あまりにも低すぎる投票率が、国民の総意に背く結果になったと言うても過言やないと思う。
事実、今回同様、その翌年の2013年には国民の大多数が反対して国会前で大規模なデモが行われた『特定秘密保護法』が強行採決されて可決している。
反対する大多数の国民の声が背景にあるにもかかわらず、結果として、その翌年の総選挙では自民党政府与党が同じように圧勝した。
そうなった要因は、戦後最低だった2012年の59・32%を下回る52・66%しかなかったことに尽きる。実に半数近くもの人たちが選挙を棄権した計算になる。
国民の意思に反して『特定秘密保護法』が強行採決された事実を国民自身が忘れていなければ、選挙に行ってその無念な思いを晴らすことができたはずや。
しかし、国民の多くが棄権したことにより、その機会を放棄してしまった。
少なくとも投票率が後10%でも上がっていれば、政府与党が3分の2もの議席を得ることはなかったやろうから、今回のような強行採決などなかったはずや。
まあ、そんな「たら、れば」をここで言うてみても詮ない話ではあるがな。
この二度の圧勝で与党政府は大きな自信を持ったのは間違いない。
数の論理で、どんな法案であろうと通すことができると考えたやろうことは容易に想像できる。
事実、その後、現在に至るまで国会は政府与党の独壇場と化して、国民の意思とは関係なく、ほぼ思い通りの法案を次々に成立させていることでもあるしな。
今回の『安全保障関連法案』の強行可決も、その一つや。
『安全保障関連法案』の賛成、反対については、いずれの意見を持っても構わないと思う。
どちらが良くて、どちらが悪いかを、ここで論じるつもりはない。
ただ、その正否は多くの国民の意志が反映された形で決めて欲しかったという思いが強いだけや。
高投票率の結果、選ばれた議員たちによって決めた法律なら、あきらめもつく。
しかし、低投票率で国民の3割が支持しただけの議員たちに強行採決されるというのは、どう考えても納得できん。
ワシらは、それが嫌さに、このメルマガで嫌われるのを承知で政治の話題を持ち出し、選挙前には必ず選挙に行くようにと訴え続けてきたわけや。
「喉元を過ぎれば熱さを忘れる」と言うとおりで、『特定秘密保護法』が強行採決されて多くの国民の怒りを買っていたにもかかわらず、その翌年の総選挙で政府与党が何事もなかったかのように大勝した。
そのことで、ワシは大きな失望感を味わった。
今回も次の国政選挙である、来年夏の参議院選挙では同じように低投票率になるのやないかと考えていたが、今回は、ひょっとすると違うのやないかと思えるような新聞記事があった。
http://mainichi.jp/select/news/20150917k0000e040177000c.html より引用
安保法案:合言葉は「賛成議員を落選させよう」
◇国会前で、街頭で、ネットで、野火のように広がる
安全保障関連法案に反対する人々が集まる国会前で、各地の街頭で、ネット上で、一つの合言葉が野火のように広がっている。
「(法案)賛成議員を落選させよう」。来年の参院選をにらみ、抗議のうねりが「落選運動」へと発展する可能性が出てきた。
今月11日、国会前。「テレビでビートたけしさんが『選挙で呼びかけをした方がいい』と言っていた。じゃあさせてもらいましょう」。
学生たちでつくる「SEALDs(シールズ)」の中心メンバー、奥田愛基(あき)さん(23)=明治学院大4年=がひと呼吸置いて、声を張り上げた。
「賛成議員を落選させよう」。参加者たちが鳴り物を打ち鳴らしながら大声で唱和する。
16日、国会前で与党の参院議員の顔写真を並べ、落選を呼びかける人がいた。「強行採決がなされようとしている今、我々に残された手段は議員を揺さぶること」。
シールズに刺激され60?70代で結成した「OLDs(オールズ)」のメンバーで、建築作業員の枚田繁さん(66)だ。「法案が通っても来年の参院選まで声を上げようと話し合っています」
ネット上では、法案が7月に衆院を通過したころから言及が増え始めた。「落選運動の準備しとこっと」「地元議員に非応援メッセージを送ろう」
総務省によると、落選運動は他の候補を当選させる目的でなければ「選挙運動」には当たらない。ウェブサイトなどでメールアドレスを示す義務があり、虚偽の事実を広めれば罰則の対象となる。
選挙プランナーの松田馨氏は「やり方次第だが、結果を出すことは難しい」と話す。
それでも、シールズの中心で活動する筑波大大学院生の諏訪原健さん(22)は「『落選させよう』は、9月に入り増えているコール」と話す。
「最後は選挙で自分たちの声を届けないといけない。法案が通って終わり、という動きにはしない。今起きていることを簡単に忘れる社会にはしたくない」
というものや。
この事の是非は、それぞれが判断すればええことで、ワシらはその行動に与するつもりはない。
ただ、こういった運動が広がることで政治に関心を持ち、選挙に行くきっかけになってくれるのなら、悪くはないと思う。
『総務省によると、落選運動は他の候補を当選させる目的でなければ「選挙運動」には当たらない』ということであれば違法性もなさそうやしな。
今後も新聞紙面上で、政府寄りの論調と非政府寄りの論調が戦わされていくやろうが、新聞業界の人間は、所属する新聞社の論調に合わせた勧誘活動を心がけるしかない。
読売新聞、産経新聞の勧誘員なら政府寄りの論調で、朝日新聞や毎日新聞、その他のブロック紙、地方紙の勧誘員は政府に対して批判的な論調で対した方が事はスムーズに運ぶ。
例え、自分の意見が、その正反対やったとしてもな。
新聞勧誘時に「自分を殺せ」とワシが常に言うてるのは、そういうことや。
今回の『安全保障関連法案』に関する話題は巷でも、よくされている。勧誘時での雑談に、それを取り入れん手はない。
ただ、その時には、極力、相手になる客の論調を重視することや。何があっても逆らってはいけない。迎合しておけばええということや。
両方の意見には、それぞれの支持者がいとるから、そういう人間を見つけることができれば、例え勧誘することが難しいとされる新聞を購読していない無読者でも落とせるかも知れんという気がする。
「当方の新聞は、まさにあなたと同じ意見を掲載していますので、是非購読してください。必ずお役に立てるはずですから」と言うてな。
雑談に持っていく極意があるとすれば、多くの人の関心を引いている話題に話を引きずり込むことやと思う。
今回の場合は、それが『安全保障関連法案』の強行採決問題になるということやな。
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