メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第405回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2016. 3.11
■新聞販売店の苦悩……その1 労働力不足解消への打開策について
新聞販売店の人手不足は今に始まったことではなく昔から慢性的に抱えている問題ではあるが、ここにきてかなり深刻な状況になっているようや。
ある新聞販売店の方から寄せて頂いたメールが、如実にそれを物語っているように思う。
いつも、楽しく拝見させて頂いております。
ここ最近も、エリア内の地方紙販売店が、配達スタッフ不足から廃業をしました。
また、A販売店も長いこと勤めた専業が辞めたあと、あっけなく改廃になりました。
私が勤めている販売店は、今年に入り立て続けに怪我などで入院しないといけない配達スタッフが出て、朝からテンテコ舞いの状態です。
募集をず?っとかけてはいますが、6ヶ月経った今も、応募にさえ全く来ない日が続いています。
私は、以前から週一休みのシステムを導入しないと、将来的にも今のスタッフに長く勤めてもらうのは難しいのではないかと提言しましたが、受け入られず今に至っております。
このままだと、今の配達スタッフに負担が掛かり、いつ不慮の事故に遭うかわかりません。それに、もうこの先のオプションもありません。
何度か、合配について聞いた事がありますが、地方紙が全国紙を配達するとか、全国紙が地方紙を合配するとなれば、お互いに『うちの読者を取られてしまうのでは?』との余計な心配をしていたり、
本社からの押し紙を懸念したりと、中途半端に部数を持っている中で本社、販売店側で良いと思っていても中々、前に進めないのが現状です。
ただ、現場では一刻を争う労務難です。
私は、素人考えなのかも知れませんが、何処の新聞社にも属さない販売会社を作り、配達、集金だけを請け負う所と、営業会社で分けてやらないと、この先人なんか集まりません。
ゲンさんの持っている情報と経験を元に、意見を聞かせて頂ければと思います。
というものや。
まずは、この方の質問に答えたいと思う。
『何処の新聞社にも属さない販売会社を作り』という発想は面白い。
ただ、この考えは新聞業界では斬新とされるが、世間一般の小売店では普通に行われていることや。
それについては書店をイメージすれば分かりやすいと思う。
書店の場合、新聞社に当たる発行先が出版社になる。そして書店には様々な出版社から発行されている書籍が並んでいる。
それと同じ発想で新聞の書店化が『何処の新聞社にも属さない』ということになるわけやが、現状のままで、そうするのはかなり難しいと思う。
通常、新聞社は新聞販売店経営希望者を募り、許可を与えるという形で業務委託契約を結んでいる。1社専属の新聞販売店が大半を占める。
その地域で全紙の新聞を扱っている合配店というのが、『何処の新聞社にも属さない販売会社』に最も近いとは思うが、これは厳密に言うと少し違う。
合配店も元は1社専属の新聞販売店やったんやが、諸事の事情により、その地域で廃業した新聞販売店の配達を引き受けた結果、そうなったにすぎない。
諸事の事情には、何らかの不始末によって新聞社から改廃された、扱い部数が少ないため経営が成り立たない、後継者がいない、労働不足により配達員の確保ができず自主廃業したケースなどいろいろある。
如何なる状況になろうと新聞社は顧客に対して「販売店がなくなりましたので新聞の配達はできません」とは言えない。顧客が、例え一人であったとしてもや。
そのため、自社にその地域の販売網がなければ他社の販売店に任せるしかない。
その場合でも依頼する側の新聞社が直接、該当する合配店と掛け合うのやなく、その合配店の元になる新聞社に頼み込み、そこからの依頼で配達と集金業務を請け負うという仕組みになっている。
つまり、合配店自らが積極的にそうしたというのやなく、やむを得ず、そうなってしまったというのが実状なわけや。
ただ、何事にも例外があり、駅売り、コンビニ売りが唯一、『新聞の書店化』に相当するものやと思う。ここでは、その地域で発行されているすべての新聞が売られているさかいな。
しかし、その駅売り、コンビニ売りにしても扱っているのは新聞発行部数全体の5、6%程度にすぎない。というか、それくらいしか売れないといった方が正しい。
『何処の新聞社にも属さない販売会社』を作り『新聞の書店化』という発想も、現在程度の売り上げがあるという前提での話やと思うが、残念ながら、そうなった場合、肝心の新聞は殆ど売れんやろうと思う。
ゼロにはならんかも知れんが、現時点での販売部数の8割から9割は確実に減るはずや。
ワシが『現状のままで、そうするというのは難しい』という所以が、そこにある。
ワシが常に言うてることやが「新聞は売り込まな売れん」という絶対の真理があるさかいな。
新聞社は自社の名前とブランド力に自信を持っているようやが、そんなもので新聞は売れない。
なぜなら、すべての新聞は、それぞれの地域では名の通った存在やからや。
全国紙の大新聞であっても地方に行けば地元紙の足下にも及ばないシェアしか確保できていないケースは、いくらでもある。というより、全国的に見れば、その方が多い。
たいていの場合、それぞれの地方紙の方が多くの部数を有しているというのが、それを証明しとる。
新聞の銘柄がクソやとまでは言わんが、そんなものを頼りにしても新聞は売れんということや。
新聞が売れるか否かは、あくまでも営業力、販売力の問題の方が大きいとワシは考えとる。
それが故に実質的な普及率が8割を超えていながら、今以て新聞の勧誘が続けられているわけや。新聞から勧誘をなくせば何も残らない。
『配達、集金だけを請け負う所』というのが現状では新聞販売店になる。
配達だけに特化すれば、代配業者とか臨配業者というのがすでにある。配達員がいなくなった時に臨時に配達だけを依頼する業者や。
現在、都市部では結構重宝されていると聞く。これも人手不足のために生まれた必然的な仕事やと思う。
一時期、大手の宅配業者が新聞配達業務に参入するという話があったが、いつの間にか立ち消えになった。
集金だけを請け負う業者というのはないが、これは専属のアルバイトを雇っている販売店も多く、それで何とか回っているものと考える。
これについては、今後も独立した業者が出てくる可能性は低いやろうな。
今日び、手集金中心にしているのは新聞代くらいなもので、殆どの業種で代金の支払いは銀行引き落としかコンビニ払いにしているのが普通やさかい、そんな発想自体する者はおらんやろうと思う。
営業会社は、セールス・チーム、俗に言う新聞拡張団が、すでに独立して存在している。
昔から専業の三業務として、配達、集金、勧誘というのがあるが、それをすべてやっていると現在のような人手不足の状況では、なかなか人は集まらんやろうと思う。
労務面を優先するのなら、この方の言われるとおり専業の負担を軽減することを考えなあかんのは、確かや。
『週一休みのシステムを導入』というのは多くの販売店で取り入れられている。
というか、労働基準法で決まっていることやさかい、それに違反する事自体が違法行為になる。
そうは言っても人手不足から、そうはなっていない販売店も結構多いがな。
新聞販売店の場合、新聞休刊日以外の配達はどのようなことがあろうと休めないから例え労働基準法で決まっていようと配達する人間がいなければ休みたくても休めないというのが実態なわけや。
そういう販売店では『スタッフに長く勤めてもらうのは難しい』わな。きつい上に休みもないのでは続けろと言う方が無理な話や。
それでも勤めろと言うのなら、それ相応の給料を支払うしかないが、それも現在の業界事情から難しい。
慢性的な部数減が続いているため多くの販売店の経営が昔と比べ、かなり悪化しているさかいな。
それ故、低賃金の上に過酷労働というレッテルが新聞販売店に貼られている。
どうすれば現状を打開できるのか。その可能性について考えてみたいと思う。
新聞販売店の労働力不足解消への打開策について
1.経営者の意識を変える。
この業界は、はっきり言って販売店のトップ次第という側面が強い。
良い従業員が集まらないと販売店は儲からない、伸びないと考えるトップであれば望みはあるが、従業員は使い捨てという感覚のトップやと先はない。
どの業種でもそうやが、特に新聞販売店は人が基本や。良い人材を集めるには、それなりの処遇とやりがいを従業員に与える必要がある。
そして、経営者自ら率先して頑張っている姿を従業員に見せることや。必死に働く経営者の姿を見れば、従業員もそれなりに頑張るはずや。その気にもなる者もいると思う。
まずは、そのことを経営者に知って貰うことが必要になる。
2.求人広告媒体の見直し。
『募集をず?っとかけてはいますが、6ヶ月経った今も、応募にさえ全く来ない日が続いています』というのは、あまりにも異常やと思う。
普通、広告を打っても面接に来ない場合、広告媒体を増やすか、変更するもんや。
当たり前やが、そのままの状態では、いつまで経っても同じことが続くだけやさかいな。
3.勤務条件を考える。
この業界は、すべてとは言わんが、経験者が新聞販売店を転々とする場合が多い。
それから言えるのは、労働条件や給料が他と比べて、ええか悪いかが面接してみようという気になるか、ならないかの判断基準になるということや。
それを考えた募集要項に変更せなあかん。
具体的には同地域、同類の募集広告を調べて、他店より魅力のある募集条件を提示することや。
他より劣っていれば必然的に、そっちに人は流れるさかいな。
4.現在の従業員を大事にする。
当たり前やが、人材が不足しているからという理由で従業員に負担をかければ「やってられん」となって辞めていく者が増えるのは当然やわな。
店も経済的に苦しいかも知れんが、報酬のアップ、もしくは代配、臨配などを使って、せめて最低でも一週間に1日くらいの休日を与えることや。
労働基準法に違反している販売店はブラックやさかいな。それを説いてトップに分かって貰うことや。新聞販売店を経営するというのは、そういうことやと。
5.経営者、および従業員同士で工夫する。
人材が増えない状況で休日を取ろうとするなら、経営者を含めた従業員全体で知恵を出し合って考えるしかない。
例えば、7人で配達している区間を6人で配達するよう各自の部数を増やせば、毎週1日空いてくる。それを休日に充てるという考え方や。
その際、負担増の配達分に対する報酬をどうするかという問題が生じるが、一般的には、部数増に見合った加給ということになる。
1週間に1日の休日を与えるというのは法律で決まっていることやから経営者は、それを絶対守る必要がある。
そのことを理解している経営者ならええが、理解していない、理解しようとしない経営者ではどうしようもないがな。
6.稼げる従業員を養成する。
これは一般的な企業ではよくやっている手法やが、その店で実際に稼げる従業員を養成することも必要や。
一人でも稼げる人間がいると、少々きつくても頑張れば、ああいう風になれると思えるし、募集広告に多額の報酬額を記載していたとしても過大広告にはなりにくいさかい人も集めやすい。
具体的に、どの程度の額がそれに該当するのかという点については、その地域毎のレベルがあるやろうから、それぞれで判断して貰うしかないがな。
募集広告を見て「そんなに稼げるのか」と思わせることができれば、それでええ。
7.やりがいのある販売店を目指す。
人は労働条件や報酬だけで集まってくるとは限らない。
「やりがい」を求める人間も多い。
具体的には、「高齢者見守りサービス」などの社会貢献をしているというアピールなどが、それになる。
実際、他者を大事に扱う販売店は従業員も大事にするのが普通やから人も集まりやすい。
8.販売店の評判を上げる。
販売店の評判が悪いと、当たり前やが人も集まりにくい。特に「あの店は危ない」という噂が立ったら致命的や。そんな店で誰も働きたいとは思わんさかいな。
ただ、逆も真なりで、評判の良い、経営者の人柄の良い販売店には不思議と人が集まってくるもんや。
そういう店作りを経営者を含めた従業員全体でやらなあかんやろうと思う。
他にも考えれば、まだいろいろあるかも知れんが、ワシが今言えるのは、こんなところやな。
ただ、この方のいる販売店のように『今年に入り立て続けに怪我などで入院しないといけない配達スタッフが出て』という事態は突発的なものやさかい、それに対する即効性のある方法を考えるのは難しいとは思う。
やはり、人を集める第一歩は募集広告やから、現状では面接すら来ないというのであれば、そこから変えるしかないやろうと考える。
しかし、これは本来、経営者の仕事で、その経営者にその気がなかったら、どんなにええ方法を進言しても無駄やけどな。
酷な言い方かも知れんが、人が集まらないのは単に業界だけの問題やなく、多分に経営者個人の資質も大きく関係しているからやと思う。
何度も言うが、その販売店を良くするも悪くするも経営者次第やと念を押しとく。経営者に、その気があるのかないのかで判断するしかないと。
白塚博士の有料メルマガ長編小説選集
月額 216円 登録当月無料 毎週土曜日発行 初回発行日 2012.12. 1
ゲンさんの新聞勧誘問題なんでもQ&A選集 電子書籍版パート1
2011.4.28 販売開始 販売価格350円
書籍販売コーナー 『新聞拡張員ゲンさんの新聞勧誘問題なんでもQ&A選集』好評販売中