メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第410回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2016. 4.15


■報道の危機……その5 番組スポンサーへの圧力示唆について


現在、ネット上で、ちょっとした論争が起きている。

それは市民団体「放送法遵守を求める視聴者の会」が、特定のテレビ局に対して番組スポンサーに圧力をかけると示唆したことについてや。

これは報道の根幹、報道の自由を揺るがせかねない大きな問題やと思う。

新聞とテレビ局の多くが表裏一体と言うてもええくらい深く繋がっているというのは、このメルマガでも散々言うてきた。

つまり、テレビ局への圧力は回り廻って新聞への圧力に繋がりかねんということや。実際、そう受け取られても仕方のない状況が生まれている。

そうなると、新聞業界の片隅でメシを喰っているワシらとしても黙っているわけにはいかんわな。

そういうわけで、今回は、この問題について話したいと思う。

まず、4月6日の報道から知らせる。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160406-00000157-jij-soci より引用

「スポンサー圧力」にTBSが抗議声明


 TBSは6日、「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」が同局の番組スポンサーに圧力をかけることを示唆したことに対し、「表現の自由、民主主義に対する重大な挑戦であり、看過できない行為だ」と抗議する声明を発表した。
 
 同会は、安保関連法などをめぐる同局の報道姿勢を「放送法違反」と主張している。TBSは「権力に行き過ぎがないかをチェックするという報道機関の使命を認識し、公平・公正な番組作りを行っており、放送法に違反しているとは考えていない」とコメントした。 


というものや。

「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」が同局の番組スポンサーに圧力をかけると示唆した声明とは、


http://housouhou.com/duty-of-sponsor  より引用

スポンサー企業への要望

放送法 4 条に違反した番組のスポンサー企業に対する、電話等での要望についての当会の考え方とガイドライン.


TV 番組を視聴者に提供するスポンサー企業は、番組内の広告を通じて自社の製品やサービスを広く知らしめるだけでなく、番組による報道を通じて、国民に重要な情報を知る機会を提供するという意味で、社会に多大な貢献をしていると言えます。

そして、スポンサー企業の側から見れば、その際提供されるのが公平な番組であるからこそ、株主には保守から革新まで様々な思想信条を有する者がいるとしても、その「総意」として、多額の広告料を当該番組に支払うことを是とするのでしょう。

ところが、現状での報道番組の多くは、当会の詳細な調査によれば、しばしば「放送法 4 条」を蔑ろにし、事実に反する報道、重要な事実の隠蔽、論点の一方的な押し付けなどを繰り返しています。

これでは、スポンサー企業は、逆に、負の影響(ネガティブインパクト)に加担していることになってしまいます。

放送法 4 条は単なる編集準則という以上に、国民の知る権利を守り、政府や当該事業者を含む、一部の人間のイデオロギーや思惑、情報の独占から、「国民の知る権利」を守り、「健全な民主主義」を守る上で、不可欠の条文だからです。

そしてまた、このような公平を欠く番組を企業が後援することに対しては、様々な思想信条を有する株主の総意が得られるはずがありません。

思想信条が不当に侵害されたと感じた株主は業務執行に異を唱えるでしょう。

こうした状況下、視聴者が自らの「知る権利」を守る為にできることは何か?

当会は、視聴者が自ら、番組スポンサー企業に問題の実態を知らせ、事態に適切に対処するよう要望することで、スポンサー企業が社会的責務・株主に対する責務をより良く果たせるよう促すことだと考えます。

視聴者は、単にテレビ視聴者であるのみならず、スポンサー企業の――潜在的な場合も含め――「購買者」=「ステークホルダー」(利害関係者)です。

当該企業が社会的責任をよりよく果たせるよう関与することは、正当な社会正義の実行と言えるでしょう。

従って、当然のことですが、問題のあった報道についてスポンサー企業に問い合わせる場合、やみくもに責め立てるのではなく、当該企業が社会的責任を全うするため、視聴者が「協力」するという姿勢を堅持することが大切です。

その為、当会では、実際にスポンサー企業に要望を行うにあたっての簡単なガイドラインを以下のように定めます。

?良識を重んじ、攻撃的な姿勢などをとらないこと。

?当該企業が提供している番組の報道が放送法 4 条に抵触していると思料される根拠などを、具体的かつ明確に伝えること。

?指摘した問題が実際に存在するかどうかについて、当該企業が自ら調査・確認することで、スポンサー企業としての社会的責務に応えるよう要請すること

視聴者が指摘した問題について、スポンサー企業がいかなる行動をとるかの判断は、当該企業自身が行うべきものです。

そしてその結果は再び視聴者が受け取り、場合によってはさらに必要な行動をとることになるでしょう。

今、私たちの社会が持続的に発展していくために、企業を含むあらゆる組織の「社会的責任」が問われています。

TV 報道が、放送法を遵守し、国民の「知る権利」に応えるものになっているかどうかについては、原則論としては、放送事業者自身が自律的に判断・改善すべき問題です。

しかしながら、TV 報道がもたらす多大な影響については、放送事業者自身の「法的責任」のみならず、スポンサー企業に「社会的責任」、株主の「総意」への責任があることも、紛れもない事実です。

当会は、「国民の知る権利」を守る為の視聴者運動を、積極的に推進してゆく所存です。


のことや。

この声明を一見するだけやと、まともなことを言うてるなと感じられる方がおられるかも知れんが、注意深く読めば、かなりな矛盾と勘違い、あるいは強引な思想的な誘導が存在していることに気付かれると思う。

また、見方によれば脅しと受け取れる文言が多い。少なくともワシは、そう感じた。

これはテレビ局と番組スポンサーに対する明らかな圧力を与えるものやと。その意図以外に、こんな声明文を公表する必要性があるとは考えられんしな。

矛盾の最たるものは、『TV 報道が、放送法を遵守し、国民の「知る権利」に応えるものになっているかどうかについては、原則論としては、放送事業者自身が自律的に判断・改善すべき問題です』としながら、

『放送法 4 条は単なる編集準則という以上に、国民の知る権利を守り、政府や当該事業者を含む、一部の人間のイデオロギーや思惑、情報の独占から、「国民の知る権利」を守り、「健全な民主主義」を守る上で、不可欠の条文だからです』という点や。

放送法4条の遵守が『放送事業者自身が自律的に判断・改善すべき問題』であるなら、そもそも『不可欠の条文』とは言えんのないかと思う。

これについては、今年の2月19日発行の『第402回 ゲンさんの新聞業界裏話  ■報道の危機……その4 電波停止発言の波紋は新聞報道にも関係する?』(注1.巻末参考ページ)の中で、


放送法というのは、戦時中の「大本営発表」のように政府や軍部による権力側の一方的な報道を阻止する狙いで戦後間もない1950年に制定されたものや。

放送法第1条第2項には『放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること』とある。

つまり、放送の自律や表現の自由の確保を原則としていて、そのたの外圧、特に権力の筆頭である政府の介入は認められないと捉えるべきやと思う。

それを裏づける規定が、放送法第3条(放送番組編集の自由)にある。

『放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない』というのが、それや。

『法律に定める権限に基づく場合』というのは、放送法第4条(国内放送等の放送番組の編集等)で、


一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

二 政治的に公平であること。

三 報道は事実をまげないですること。

四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。


と定められている。

これを盾に高市早苗総務大臣は『放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合』と言うてるわけや。

『一 公安及び善良な風俗を害しないこと』というのは、公序良俗と呼ばれとるもので、これには明確な法律違反が伴うさかい、刑事罰として処罰される。

『二 政治的に公平であること』が、政府にとっての一番の問題点やろうと思うが、そもそも『政治的に公平』とは何か。

ワシには、「政府のやることには批判するな」という風にしか聞こえん。「一
方的に政府に対する批判的な放送ばかりしていたら、処罰するぞ」と。

それが本音やろうと思う。しかし、それは独裁者の考えることや。

新聞も含めて報道機関には国家権力を監視する役目を担うという大きな使命がある。となれば、政府に対する批判的な報道が増えるのは当然や。

公平に報道しろと考える方がおかしい。政府が批判されることを嫌ったら、その時点で終いや。

批判される事、もしくは批判されると予想されるからこそ、そうならないよう\にしようと考えるのと違うのかと思う。

要は批判されるようなことをしたり言うたりせな、ええだけの話や。

そうすることが本当の意味で良い政治に結びつくものと信じる。批判の芽を摘むことやない。


と言うたが、今回の「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」の主張は、その時の高市早苗総務大臣の発言と非情に酷似しているように思えてならん。

そう考えて「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」について調べていたら興味深いことが分かった。

そして、なるほどと思うた。

この会は、すぎやまこういち氏の呼びかけで7名の文化人、著名人が集まって組織された市民団体やという。

すぎやまこういち氏は、この他にも「安倍総理を求める民間人有志の会」の発起人であり、「朝日新聞を糺す国民会議」の代表呼びかけ人にもなっている。

2014年12月の解散時、すぎやまこういち氏は『集団的自衛権の行使容認を閣議決定した安倍総理を「勇者が国を思い踏み切った解散」』と賞賛している。

会の事務局長である小川 榮太郎氏も「安倍総理を求める民間人有志の会」の発起人の一人で、安倍総理の礼賛本と言われている「約束の日 安倍晋三試論」、「国家の命運 安倍政権奇跡のドキュメント」の著者としても知られている。

会の設立者の一人、渡部昇一氏も著書に「安倍晋三が、日本を復活させる」がある。

また同じく会の設立者の一人、上念司氏に至ってはSEALDsメンバーの個人情報や、安保法制に反対していた一般女性を痴漢冤罪の犯人だというデマを拡散するなどしたとして、当時の安保反対派への攻撃をSNS 上で積極的に繰り広げていたことにより、ネット上では有名になっている人や。

経済界から唯一の呼びかけ人となっている鍵山秀三郎氏は、沖縄の基地運動で住民がフェンスに反対の意志表示を行ってきたものを「清掃」と称して撤去するなどの活動を行っており、安倍総理が関わる保守組織「日本教育再生機構」の顧問を務めている人でもある。

その他のメンバーもすべて安倍総理、もしくは自民党政府与党との結びつきが強い、また政府与党を熱烈に支持している方々ばかりやった。

それならば政権の中枢にいる高市早苗総務大臣の主張に近いのも無理はないと納得できる。政府与党の代弁者と言うてもええくらいやないかと。

何のことはない、当時、ひんしゅくを買ってトーンダウンした高市早苗総務大臣の主張を代わってしている団体にすぎんかったわけや。

まあ、一般の人たちには、表向き政府与党とは何の関わり合いもない市民団体を装えると考えたのかも知れんが、その程度のことは現在のネット社会であれば誰にでも探り出せることや。隠しようがない。

そんな人たちが「公平な報道をしろ」と言うてるわけや。何かの悪い冗談、ブラックユーモアなのかと思える。笑えんジョークではあるがな。

日本には言論の自由があり、報道の自由がある。

「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」の方々が何を言われようが、責めるつもりはない。自由に発言されたら良い。

また誰を支持しようが、誰と与しようが一向に構わない。

しかし、それがスポンサーを脅してまですることかとなると話は別や。その一事だけで、自らの存在が一気に胡散臭くなるということを知るべきやと思う。

「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」のHPに、『「圧力」と言う言葉を振り回して、我々のような弱小団体に「圧力」を掛けるのはやめて頂きたいです』とあるが、バックに安倍総理、および政府与党の影をちらつかせる団体が『弱小団体』のはずがないわな。

彼らこそ、権力を嵩にテレビ局に圧力をかけているとしか見えん。虎の威を借りる狐そのものやと。

政府与党、および「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」の拠り所は『放送法第4条の第2項 政治的に公平であること』にあるわけやが、そもそもそんな条項に何の意味があるのかと思う。

世界の民主主義国家である欧州や北米などではテレビ放送局、新聞、マスメディアに対して『政治的に公平であること』を強要、強制しとる国なんか、どこにもない。

報道の自由という観点から、それぞれのテレビ放送局、新聞、マスメディアの自主性と判断に任せているのが実状や。

多くの場合、偏向報道であっても容認されている。もっとも、嘘があったり、差別的な報道であったりというものは許されんがな。

偏向報道というのは見る側の立場、受け取る側の思いで、どうとでも解釈できるさかい、何が偏向報道なのかということを一概に決めつけるのは難しいと思う。

ある人にとっては素晴らしい内容の放送であっても、別の人にとっては好ましくない報道というのは、いくらでもあるさかいな。

それらの国のテレビ放送局、新聞、マスメディアが、もし日本と同じような圧力をかけられたとしたら大騒ぎになるやろうと思う。

まあ、そんなことは絶対に起きんとは思うがな。民主主義の何たるかを知っている人間に、そんな真似はできんしな。

その点で言えば、民主主義を自らの力で勝ち取ったとは言い難い日本は、まだ稚拙で幼いのかも知れんがな。本当の意味での民主主義をまだ知らないという気がする。

現在、アメリカでは大統領選挙の真っ最中やが、そのアメリカのテレビ放送局などは特定の候補者に肩入れしているケースがいくらでもある。

アメリカには民主党と共和党の二大政党があるが、どちらか一方の政党を熱烈に支持しているテレビ局や新聞社は普通にある。一般の会社、企業ですら、そうや。 

そのことに異を唱える人などアメリカには誰もいない。それでええと思う。

自らの主張を明確に打ち出し訴え、それを誰も非難せず受け容れる。それが本当の民主主義やと思う。

気に入らないものには圧力をかければ良いという考えから民主主義は絶対に育たない。ワシは、そう考える。

日本の放送局は、その点、『放送法第4条の第2項 政治的に公平であること』とある手前、主立った民主主義国家と比べれば、まだ公平な報道に終始しとる方や。

『第402回 ゲンさんの新聞業界裏話  ■報道の危機……その4 電波停止発言の波紋は新聞報道にも関係する?』(注1.巻末参考ページ)で、


高市早苗総務相は8日の衆院予算委員会で、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に言及した。


という発言が物議を醸し、国民の多くから、ひんしゅくを買ったということもあり、その後、こうした発言は自民党内からは出ていないが、「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」のメンバーが、それを代弁しているのは確かや。

政府関係者がそうさせているのか、メンバー自身が自発的にそうしたのかは定かやないがな。

ただ、メンバーと政府与党との繋がりを見れば共通の思考で動いているのが、良う分かる。

いずれにしても政府与党の言えないことを市民団体の名を借りて言うてるのだけは間違いないと。そう思われても仕方のない状態にあると。

何度も言うが、それであっても構わない。何を言おうが自由や。問題はない。

ただ、『スポンサー企業への要望』と題して政府与党に対する批判的な報道することに対して、あたかも「そんな番組のスポンサーにはなるな」と言わんばかり脅しをかけて圧力をかけていることについては、絶対にしたらあかんことやったと声を大にして言うとく。

そんな脅しに屈するスポンサー企業などないと信じるが、今後の動向を注意深く見させて頂くつもりにはしとる。

万が一、「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」の言うことを真に受けてスポンサーを降りる、またはテレビ局に圧力をかけるというスポンサー企業がいたとしたら、ワシを含めた一般視聴者が、そのことをどう見るか。

それを良う考えて欲しいと思う。政府与党の反発を覚悟で放送しているテレビ局を応援している国民も数多くいるさかいな。ワシらのように。

その意味でも、今回、TBSが毅然とした態度で「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」に対して抗議声明を発表したことについては評価したいと思う。

久しぶりにテレビメディアの気骨を見た思いがした。

ここのところ、政府与党の圧力かどうかまでは分からんが、政府批判を繰り返していたキャスターやコメンティターの降板が続いていたので、結局、テレビ局も権力には逆らえないのかと半分がっかりして、あきらめていたから、よけいやった。

このままやと政府の圧力により、報道そのものが潰されるかも知れんという危機感しかなかったしな。

そうではなかったと知って、報道業界、新聞業界の末端、片隅で生きているワシらにとっても大きな誇りになった。

明日から、いや今日から、この場から、胸を張って新聞の良さ、報道の良さを売り込めるさかいな。まだまだ捨てたもんやないと。



参考ページ

注1.第402回 ゲンさんの新聞業界裏話  ■報道の危機……その4 電波停止発言の波紋は新聞報道にも関係する?
http://melma.com/backnumber_174785_6330631/


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