メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第42回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2009. 3.27


■マイナーワーカー同盟座談会 その3 新聞の進むべき道について


注.今回は、前回の『第41回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■マイナーワーカー同盟座談会 その2 新聞の闇と戦う人々』からの続きやさかい、先にそれを読まれてからの方が分かりやすいと思う。

「つまり、何もせずに、このまま放っといても新聞社は勝手にコケるということか?」と、テツ。

前回、新聞社の横暴により新聞販売店を改廃(廃業)に追い込まれたという元店主スヤマの話をした。

スヤマは、何とか新聞社に一矢を報いたいと裁判することも視野に入れ、ワシらにその実状を訴えた。

ワシらは、その裁判をすることの現実的なリスクと厳しさを伝えた。

もちろん、それは止めさせようとか、反骨心を煽って奮い立たせようとしてのことやない。

どうするかの判断、決断は、あくまでもその本人に委ねるというがワシらの基本的な姿勢やさかいな。

結局、スヤマは断念する方向に気持ちが固まったようやが、それについてテツは少なからず不満を覚えたようや。

そのスヤマを京都からわざわざ連れて来たのに、「あきらめろはないやろ」という気持ちなのやと思う。

ワシらなら、その後押しのためのアドバイスをするものと決め込んでいたフシもある。

特に、ワシはそのテツとの付き合いが古い。ワシの性格は熟知している。

相手がどれだけ強大であろうと簡単に尻尾を巻く人間やないとも承知している。

敵に回すと、厄介な相手になるが、味方にすれば、これほど頼りなる男も他におらんと思うとる。

誤射やったとはいえ、ヤクザに拳銃を向けられ発砲されても怯む素振りを見せんかったし、タカが野良猫のために猫取り稼業の極道崩れ数人と渡り合って撃退したこともあった。

テツ自身、それらの現場に目の前で一緒に立ち会ったさかい、それが良く分かる。

その胆力と頭の回転の速さ、弁舌の巧みさに、テツは一目も二目も置いていた。

ワシなら、どんな状況でも何とかするやろうと。ええ知恵を授けてくれるはずやと。

そう信じてもいた。

せやからこそ、テツは「ゲンの親友」ということをスヤマに明かし、はるばるここまで連れて来たわけやしな。

そのワシの口から、「この手の裁判で勝訴するのは厳しいのやないかなと思うよ」という弱音とも受け取れる言葉を聞くことになるとは思うてもなかった。

もっとも、テツも「オレの立場がないやないか」とまでは言わんかったがな。

ただ、スヤマの手前、皮肉とも受け取れる質問を投げかけずにはおられんかったわけや。

「勝手にコケるかどうかまではワシにも分からんが、少なくとも、このまま、スヤマさんのようなケースが増え続けるようやと、その新聞社は窮地に立たされていくやろうとは思う」

現在、新聞社の方針として販売店店舗の巨大化を計り、販売組織の強化をしたいという思惑が強いと聞く。

経営難を理由に自らの意志で手放した引き受け手のない販売店を吸収して、結果的に店が大きくなるというのは悪いことやない。

そこで働いていた従業員や配達員も辞めずに済む場合が多いから、その救済にもなるしな。

また、現在、新聞の部数が減少しつつあるから、小さな店ばかりやったら、経営難のため新聞の販売網全体が危機的状況になるというのも分かる。

新聞販売店の経営には、それなりの部数を確保する必要がある。もちろん、その部数は実売部数やないとあかんがな。

押し紙や積み紙のような余剰新聞がいくら増えても経営を圧迫するだけやさかいな。

小さな店舗は無理難題を押しつけられやすいが、巨大店舗は却って新聞社に対して強い態度で臨むことができるから、身を守るということに関してもええ方向やということになる。

今のような社会状況やと店舗の巨大化というのは、ある意味、業界が生き残るための必然という気がせんでもない。

従業員の救済と業界の未来を見据えてのことやと。

ただ、それとは別に、スヤマのように、僅かでも新聞社の意に沿わん行動をする販売店を、強制的に潰すような行為におよぶケースがあるのも、また事実なわけや。

その実態が世間に知られつつある。

それと知れば、誰でも「えげつないことするな」という気になる。そんな新聞を止めようかと考える読者が現れても不思議はない。

それが、新聞社には分かっとらん。

現在の新聞の衰退は、単に景気の悪さによるものやという風にしか捉えてないようやさかいな。

新聞社には、長く報道をリードしてきたという自負が強い。

新聞で報じられんことは世間で話題になることすらないと信じていたのやないかと思われるほどや。

確かに、そういう面も事実としてあったと思う。

今はそれにかげりが見えている。新聞報道が唯一無二のものやなくなっとる。

そのことは、現場で新聞の勧誘をしとるワシらが一番良う分かっとる。

新聞の購読を断る理由として、「新聞の記事にはウソが多い」という声が、以前より確実に増えとるのが、それや。

その具体的な意見として、

「インフルエンザの治療薬タミフルを服用した少年が、異常な行動を起こした後に事故死した例を複数の新聞が大きく取り上げたことがあったが、実際には薬の副作用が原因かどうかは医学的には未だに不明なままやし、異常な行動は発熱のせいという医師も多い。新聞社は良く調べもせず記事にしている」というものや、

「食中毒を起こすサルモネラ菌が調査した採卵養鳥場の4分の1以上で検出されたという記事があったが、実際は空気中に存在しているサルモネラ菌の検出やったんやで」というものがある。

この新聞記事を読めば卵にサルモネラ菌汚染が進んでいると錯覚し、「卵は危険」と誤解しまうのやないかと。

実に具体的な指摘を受けるようになった。

これらは、いずれも新聞の一面、トップ記事として報じられたもので、その反証がネット上の記事として複数のサイトやブログで報じられている。

それらを見てという意見が多い。

ハカセも一応、その記事の裏を取るために調べたが、概ねネット上の見解は正しかったという。

その後、一部の新聞ではその反証記事が掲載されることもあったようやが、この手のものでその訂正記事が、それを報じた新聞の一面に掲載されることはほとんどない。

たいていの新聞社は、一度報じた記事は、よほどの誤報と発覚して世間から非難されん限り、そうすることはまずないさかいな。

残念ながら、自ら襟を正すという姿勢は新聞社には希薄やと言うしかない。少なくとも、そう見える。

テレビやラジオの報道やと聞き流す、あるいは忘れるということもあるが、新聞記事は活字として残るさかいタチが悪い。

新聞の一面で報じられたものは、ネット上の大手ポータルサイトにおいても報じられる可能性が高いから、世間に広まりやすい。

「それを信じてえらい目に遭ったらどうするんや」、また、「人に話して恥をかいたらどないすんねん」と言われると返す言葉がない。

ちなみに、新聞記事の検証とか、反証などの真偽を尽くした議論は主にネット上で大々的に行われているケースが多い。

たいていの場合、新聞に非があると思われるような事案やがな。

一般の新聞購読者もそれを見る機会がある。

新聞の報道には紙面を作るためのタイムリミットというのがあるのは確かやが、この手の記事にはその速報性より確実性が要求される。

すべてをタイムリミットのせいにして流すべきやない。確実な情報も新聞の命やさかいな。

また、それが誤報、もしくは不十分な報道と分かったら、訂正、あるいは続報記事を同じ一面トップでするべきやと思う。

ワシは、以前からネット上の情報と新聞報道を比べれば、確実に新聞報道の方が信頼度が高いと言い続けてきたけど、このままやったらそれも怪しくなってくる。

このメルマガは、良識ある新聞社の方々や記者さんも読んでおられるから、そのあたりのことも良く考えて頂きたいと思う。

「この報道について、どう思われます?」

ハカセが、プリントアウトしたものを見せた。


http://trendy.nikkeibp.co.jp:80/article/news/20090311/1024479/ より引用
NN新聞、山口県での発行を3月末に休止、九州7県に集中
2009年03月11日


 NN新聞社は2009年3月31日付けで、山口県内で日刊紙「NN新聞」とスポーツ紙「NNスポーツ」の発行を休止する。今後は発行区域を九州7県に絞り、より九州に密着した情報を発信する。

 NN新聞社は、かつてあった福岡日日新聞や関門毎夕新聞など西日本地域の複数の新聞社が作った「西日本新聞連盟」を前身に持ち、九州のほか山口県でも100年以上発行を続けてきた。

 しかし広告需要の落ち込みや製作費の上昇などを受け、新聞事業を安定的に維持するため発行区域の見直しを決めた。


「いよいよ始まったか」と、ワシ。

去年、メルマガ『第4回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■消えゆく夕刊……その知られざる裏事情』(注1.巻末参考ページ参照)の中で、北海道でM新聞の夕刊が廃止されることに触れたことがあった。

その折りに、『今のところ、夕刊廃止の発表は、その北海道のM紙だけやが、遅かれ早かれ、全国紙、引いてはブロック紙、地方紙にまで、その波は確実に拡がっていくやろうと思う』と言うてたが、その新聞の販売網縮小の波が現実のものになりつつあるということやと思う。

この動きは、今後もしばらく続くものと思われる。

「それが直接関係しているかどうかは、まだ何とも言えませんが……」

そう言いながら、ハカセは、日本新聞協会から2008年10月現在の販売店数や従業員数について公表された資料を示した。

それによると、従業員総数は41万7169人と前年より7609人減少。新聞販売店の数も2万99店と前回に比べ325店減少しているとある。

「毎年、確実に減っとるな」と、ワシ。

ワシらが、HPやメルマガを始めた2004年頃には、新聞販売店の従業員総数約47万人、販売店舗数、2万2000店前後と言うてきた。

そう公表されてたさかいな。

それからすると、この5年近くで従業員総数の1割強に当たる約5万人が減少した計算になる。

その多くは配達人やと思われる。

机上の単純計算やが、配達人が1割減れば、5年前までの新聞の総部数は5300万部とされていたから、530万部の部数減になってな計算が合わんことになる。

しかし、実際には新聞協会の発表では、2004年から2008年までの5年間、153万部程度の部数減ということで止まっとる。

全体の3パーセント弱の減少になる。

「これをどう見るかやな」

「サイトに届く、販売店の従業員さんたちの話によると、一人当たりの配達量が相当増えているようですが」と、ハカセ。

酷いケースは5割増しというのもあったというが、平均で2、3割程度、配達部数が増えた販売店というのが圧倒的に多いと報告されとる。

そのことが、ただでさえ過酷な新聞配達業務をより過酷にし、慢性的な人手不足に喘ぐという悪循環になっとる理由の一つと言える。

昨今の求職難で、それが緩和されると期待した向きも多かったようやが、現実には、今以て、事、新聞販売業界に関して言えば、それは大した追い風とはなってない。

現実にも、従業員が減少して行っとるわけやさかいな。

その従業員の減少には、新聞販売店の経営の悪化の影響があると、スヤマが言う。

「そう言えば、その5、6年前頃から、押し紙を強要されることが多くなってきたような気がしますね」というのが、その根底にあると。

新聞協会の発表では、2004年を堺に新聞の部数が凋落傾向を示し始めたとなっているが、実際には、それよりも前からその兆候があったと見るべきやろうと考える。

スヤマの言は、それを裏付けとると思う。

その著しい部数減を隠し続けることができたのが、押し紙であり積み紙の増加なのは、ほぼ間違いないと。

そして、未だにその実数を発表できんのは、そのあまりにも激減しとる実態を公表すれば、その部数減にさらなる拍車がかかると懸念してのことやというのも、その理由の一つやろうな。

その部数減には、なかなかその実数の表れん拡張員の減少の影響というのも大きいと思う。

新聞拡張団も同じか、もしくはそれ以上の比率での減少という事態になっとると思われる。世間にはそれと知られてないだけでな。

新聞販売は新聞営業のエキスパートであるワシら拡張員に負うところが大きいさかい、それが減少すれば部数もそれにつれて減るのも、理の当然ということになる。

「それについて、新聞社は、タダ手を拱(こまね)いているだけですか」と、カポネ。

「いや、それなりにいろいろやってはいるようやけどな」

「すべての教室へ新聞を」運動というのがある。

子どもたちに新聞を浸透させるために始めた運動やという。

それについての関連記事がある。


厚木市新聞販売組合
教室へ新聞を
http://www.townnews.co.jp/020area_page/02_fri/02_atsu/2009_1/01_23/atsu_top1.html より引用

 この試みは昨年10月、厚木市新聞販売組合が市教育委員会に話を持ちかけたのがきっかけ。11月の小中学校長会議で検討された結果、今年1月から3月までを試用期間とし、4月から本格始動することが決まった。期間は1年間。A紙・M紙・Y紙・T紙・K紙・S紙の6紙が毎朝、各販売店から1部ずつ無償で配達される。

 身近で起こっているタイムリーなニュースを文章で読むことにより国語力、言語力のアップが期待され、また、組合は未来の購読者となる小中学生の新聞離れを抑えたい考えだ。

 1月8日からスタートしたのは市内の小中学校22校。すでに、これらの新聞を活用し始めている。例えば、戸田小学校では図書館に新聞の閲覧コーナーを設置。今後、道徳や社会科の授業での活用も検討しているという。また、依知中学校では多目的ホールに各新聞を閲覧できるコーナーを生徒会広報部が主体となって設置。文章に触れる機会をつくるほか、運営を生徒たちに任せることで主体性を持たせる狙いもあるという。残る東名中学校は2月1日から開始する予定だという。

 組合長は「将来を見据えての投資でもあります。普段新聞に馴染みのない子どもたちにも新聞の面白さを知ってもらえたら嬉しい」と話す。

 「すべての教室へ新聞を」運動は(社)日本新聞販売協会が立ち上げたもので、文部科学省も後援する全国的な活動。すでに学校教育の一環として進められているNIE事業(教育に新聞を)と連携し広がりを見せている。2008年10月現在、実施校は全国で1,005校となっている。


というものや。

「子供のときから新聞を読ませるための教育をしようということですか」と、カポネが疑問を投げかける。

「まあ、そういう風に受け取ってしもうたら、それまでやけど、現在の社会状況を知らせる上での教育とすれば、それなりの意義と成果も見込めそうやけどな」と、ワシ。

ワシは、この試みは悪いとは思うてない。

もっとも、現在、無読者への勧誘のトークに、「これからの小中学校では、新聞が教材として大々的に取り上げられることになりましたから、新聞を取っておられないと、お子さんの勉強にも差し障りがあると思いますが」と、それをネタに使うとるということもあるがな。

営業トークとしては、それなりに説得力もあると思うとる。もっとも、批判が起きるやろうとは承知しとるがな。

ただ、事実に基づく信憑性の高い予想の上での営業トークやさかい許されると考えとる。

営業というのは、どんなネタでも活かす必要がある。また、それができな一流にはなれん。甘い世界やない。

もっとも、そのワシの判断の是非は、一般に委ねるしかないがな。

実際、このトークで、「それなら仕方ないな」と、数軒やけど契約を貰うたというケースもある。

もちろん、それでも新聞否定論者からは断られたがな。

いろいろや。

「しかし、肝心のその親たちが新聞離れしている状況で、それが果たして上手くいくでしょうか」と、ハカセもカポネと同じく懐疑的や。

極論すれば、親の言うことか、教師の言うことかという問題にまで発展する可能性がある。

「親たちが黙っていないということですか」と、カポネ。

「このことがもっと広まっていけば、一部の親たちから異論が噴出する可能性はあるな」と、ワシ。

「新聞を教材に使うというのは、文部科学省を巻き込んだ新聞社の陰謀という感じが、そういう人たちからすれば拭(ぬぐ)え切れないでしょうからね」と、ハカセ。

「それでも、賛成論者の方が圧倒的に多いという気はするがな」と、ワシ。

確かに、新聞の部数は長期凋落傾向にある。これに歯止めをかけるのは現状では難しいというのも確かやと思う。

歴然とした新聞離れが進行しとる。

しかし、世の中には新聞を必要としている人が多いのも、また事実や。

新聞の公表部数には、確かに押し紙、積み紙などの余剰新聞が含まれとる。

その実部数は、予想でしかないが、公表部数の8割程度やないかというのが、ワシの見方や。

中には、「いや、3、4割以上の押し紙に苦しんでいる」という販売店もあると聞くが、その反面、押し紙のようなものは、ほとんどないという販売店も存在する。

例えば、合配店などのようにすべての新聞を扱っている販売店やと、新聞社から押しつけられる部数というのは少ないから、予備紙程度の2、3パーセントに止まっているケースが多い。

もっとも、合配店といえども、ケースにより、その押し紙、積み紙という類の余剰新聞がまったくないということでもないがな。

サイトの『新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第5話 新聞奨学生マタやんの憂鬱』(注2.巻末参考ページ参照)の中でも、合配店による業者から余剰新聞用の余分な折り込みチラシを入れさせていたことが発覚してトラブルになったという事案について話したことがあった。

その話の中では、販売店、業者の特定はしとらんが、これはワシが実際に立ち会った出来事やったから、自信を持って間違いないと言える。

こういうのは希なケースやとは思うが、事実としてそういうこともあるわけや。

それらすべてのことを総合して考え、一般紙というくくりで新聞を捉えた場合、平均すると実部数は公表部数の8割程度に落ち着くのやないかというのがワシの見方なわけや。

新聞協会の公表部数、5300万部の8割となると、4240万部というのが実部数やという計算になる。

それからすると、2008年の総世帯数が、5232万世帯強やから、約81パーセントの普及率やということになる。

これだけ、新聞が衰退しているとネット上では騒がれとるが、実質的には、まだ80パーセント以上の家庭で新聞が購読されとるということやと思う。

5軒に1軒が無読。そんなところが実状やないかと思う。

実際、勧誘してて、いくら無読が増えたと言うても、実感するのはそんなもんやさかいな。

もっとも、それにしても昔と比べれば、凄まじい勢いで増えてきたのは確かやがな。

一般の拡張員が1日、100軒叩く(訪問)として、20軒、無読者に当たるという確率になる。

これは、ワシが、この仕事を始めた15年前とは、えらい違いやと言うしかない。

その頃やったら、無読者に当たる確率は、ええとこ100軒に2、3軒程度で、その彼らにしても今ほど頑迷に断るというほどでもなかったと記憶しとる。

また、拡張員の間でも、無読者と聞けば、押せば契約できると考えられてもいた。

どこの新聞も取ってないのやから、おいしい客やと。

今は、そう考える者の方が少ない。

無読者ほどタチの悪いものはないというのが、一般的な拡張員の認識やさかいな。

現在の、この事態は業界にとって大変な状況やと言える。

そして、今後、さらにそれが進行していく可能性が高いとなると、先行きに暗澹(あんたん)たる思いがしとるのは、ワシだけやないと思う。

ただ、それでも、どこかで下げ止まりになるのも確かなような気はするがな。

新聞不要論者は、ネット上で声高にそれを訴えることが多いから、それが大勢の意見のように錯覚しやすいが、実際には、サイレントマジョリティ(声なき多数派)の方が多く、その彼らが新聞を支えていると思う。

その証拠として、実質的な新聞の普及率が80パーセント以上も維持されとるわけやさかいな。

彼らは、その性質故に口に出して言わんだけのことや。

もっとも、新聞に対して苦情のない人間が文句を言うこともない代わりに、購読者という客の立場からして特別に新聞を養護する必要もないわけやがな。

つまり、サイレントマジョリティの声は、いつの時代でも聞こえてくることはないということや。

ただ、彼らは、その新聞を購読し続けるということで、その意志表示をしとるのやと思う。

それが力としては大きい。

まあ、中には単なる惰性や習慣になっているから、今更止められんだけやというのもあるがな。

「その他には何か?」と、カポネ。

「その他には大して目玉となる動きはないな」と、ワシ。

新聞協会のスローガンとしては、その他には「地域に役立ち読者に喜ばれる新聞販売網の構築に向け対応を進める」とか「販売現場の実情把握に努める」などの当たり障りのないものばかりで、具体性のカケラすら見えんものがほとんどやさかいな。

中には「法規にてらし労働環境の整備適正化の推進に努める」というのもあるが、新聞社がどこまで新聞販売店に対し、それを真剣になって推し進めることができるのかとなると、はなはだ疑問やと言うしかない。

周知のように、多くの販売店の従業員の労働環境は過酷を極めとるのが実状や。

そのお題目どおり、新聞社が本気で「法規にてらし労働環境の整備適正化の推進」をすれば、今度は、その大多数の販売店が悲鳴を上げることになる。

配達業務はまだええとしても、集金業務と営業業務は、新聞販売店ではなぜか、その部分だけ請負業務ということになっとる。

その成果報酬は、あくまでも出来高払いやさかいな。

通常の「法規にてらした労働環境」を標榜するのであれば、定時労働の8時間を超える業務に対しては、時間外手当が支給されなあかんことになる。

しかも、その成果が上がる上がらんに限らず、命令でその仕事をさせる限りは、必要不可欠なものやさかいな。

それが取りも直さず、「法規にてらした労働環境」ということになる。

しかし、そうなると、なかなか集金できん相手に対しては何度も訪問せなあかんことになり、その1軒に対して5、6時間程度余分にかかるというのも普通にあるから、事は厄介や。

つまり、その集金人に5000円以上の時間外手当を支払って、3925円の集金をするということにもなりかねんわけや。

また、営業についても同じで、10時間かけても新規の契約が1軒も取れんというのは、この業界では特に珍しいことやない。

しかし、「法規にてらした労働環境」ということになれば、例え契約ゼロでも、時間外手当がその分必要になるわけや。

そういうことになったら、販売店の経営が成り立つことは絶対と言うてええほどない。

悪いが、いくら新聞社が、世間体を良くしようとそんな目標を掲げても現況のシステムでその改善などできるわけがないということや。

それを新聞社が強引に推し進めれば、倒産を余儀なくされる販売店が激増するだけのことやと思う。

そんなことにでもなれば、肝心の宅配システムそのものが崩壊してしまう。

結果として、自らの首を自らが絞めることになる。

新聞社のお題目としては間違ってはないが、根本的なシステムを作り変えてから、それを標榜せんと、何も知らん一般の人はともかく、ワシにはただの虚しいかけ声にしか聞こえんわけや。

「何言うてんねん」としかならん。

真に生き残るために新聞の進むべき道は、この状況でも購読して頂いている読者を裏切ることなく、その根幹を支えている販売店の経営、およびその従業員の生活を守るように考えることやと思う。

それを、新聞社が自らの立場だけを考え行動するようになってしもうたら、そこですべてが終わる。

そのときこそ、本当の意味での新聞の終焉を迎えることになる……それだけは避けてほしいと願うしかない。

結局、いつもそうであるように、結論の出ないまま、我ら『マイナーワーカー同盟座談会』は終わった。

もっとも、ワシらがいくら結論めいたことを言うたとしても、あまり意味はないかも知れんがな。


参考ページ

注1.第4回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■消えゆく夕刊……その知られざる裏事情

注2.新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第5話 新聞奨学生マタやんの憂鬱


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