メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第43回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2009. 4. 3


■新聞報道とネット社会の今 その1 消せない過去の記録


あるメルマガ読者から一通の相談メールが届いた。


いつも楽しく読ませてもらっているセンバという者です。

先日の『第39回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ある拡張員が語る刑務所残酷物語』(注1.巻末参考ページ参照)のお話は、私にとって非常に身につまされました。

というのは……。


数年前、センバは、ほんの出来心から、ある店で万引きをした。

それだけなら微罪で済んだのやが、逃げようとした際、そこの店員と取っ組み合いになり、はずみで全治3ヶ月の重傷を負わせてしまった。

結果、強盗致傷罪に問われることになり、5年弱の間、某刑務所に収監された。

その刑務所で、メルマガの内容にあったような過酷な状況を経験したという。

しかし、センバの話はそれだけでは終わらんかった。

捕まった当時、センバにはマイコという恋人がいてた。

結婚するつもりやった。

事件当初、センバはマイコのためを考え、別れ話を持ち出した。

マイコは、すでに30歳手前やったし、センバの出所を待っていたら婚期を逸してしまう。

また、前科持ちになる男が「幸せにしてやるから待て」とも言えなんだ。

マイコの幸せを考えたら、身を引くのが最良の選択やと考えた。

しかし、マイコは健気にも、センバの帰りを待ち続けると言い張って譲らんかった。

そのマイコの気持ちに絆(ほだ)され、両方の親には内緒で密かに獄中で結婚した。

出所後、センバはけじめをつけるために、マイコの親に、その報告に行った。

すると、半ば予想したことではあったが猛反対された。

特に、マイコの父親であるカノウは異常なくらいの怒りを見せ、その報告をしにいったセンバを、いきなりその場でしたたかに殴りつけた。

母親とマイコが必死でそれを止めようとするが、カノウの怒りは収まらず、尚もセンバに掴みかかってくる。

殴られるのは、ある程度、覚悟していた。

しかし、それが度をすぎた場合、マイコの父親であるカノウが暴行罪に問われることになる。

それがさらなる悲劇を呼びかねん。

そのことを恐れたセンバは、謝罪しながらその場を急いで逃げた。

カノウは、そのセンバの後を追うマイコの背に「そんな男と一緒に行くような者は、娘でも何でもない!! 勘当や!! 二度と帰ってくるな!!」と、罵声を浴びせた。

センバは、センバで親兄弟からは、「一族の面汚し」と責められた。

行き場を失った二人は、誰にも知られず逃げるようにして大阪に行き、1DKの安マンションを借りて住み始めた。

センバのことを誰も知らない大都市に紛れることで、一からの再出発ができると信じた。

センバは小さな町工場で工員として、マイコはスーパーの店員として働き始めた。

ちゃんとした生活の基盤さえ作れば、そのうち、両方の親たちも理解してくれるときがくる。

そう信じて頑張ろうと二人で誓い合った。

半年ほど、それなりに幸せな日々が続いた。

そんなある日、突然、マンションの家主から1本の電話が入った。

「あんたは、以前、強盗で5年も服役していたことがあるらしいな?」と。

「誰からそれを?」

「やはり、そうか。そんな人間は、ワシのマンションに住まわせるわけにはいかん。迷惑や。即刻、出て行ってくれ!!」

「そんな……」

「保証人になっている、あんたの親にもその確認を取ったが、保証人になった覚えはないと言われたで。それだけでも立派な契約違反や。今すぐ出て行って貰うさかいな」

「親……」

センバは言葉を失った。

そのマンションに入居する際、保証人が必要やった。

その保証人の欄に、センバは勝手に親の名前を書き込み、手持ちの判を押した。

万が一、それを調べられ親に連絡が行ったとしても、その程度ことは目をつむり口裏を合わせてくれるやろうと考えた。

その意に反して、センバの親は、その保証人の拒否をしただけやなく、その犯罪歴まで家主に言うたという。

そんなことは夢にも思うてなかった。そこまで見捨てられたのかと愕然となった。

もっとも、黙ってそうしたセンバが悪いのやから、親を恨むのは筋違いかも知れんが、ただ無性に悲しくなった。

ただ、後日談やが、センバの親は、その家主に保証人になってないということを言うただけで、犯罪歴のことまでは話してなかったという話やった。

その家主がカマをかけて、そう言うただけということになる。

センバがそうしたのは、家賃の滞納などは絶対にせんと決めていたからでもあった。

親に迷惑さえかけんかったら連絡が行くこともなくバレないと。

事実、家賃の滞納など一度もなかった。

それにしても、どこの誰が何の目的で何年も前の事件をほじくり返して、しかも遠く離れた何の関係もないマンションの家主にわざわざ、それを知らせる必要があるというのか。

センバたちが、ここにいることを知っている人間など誰もおらんはずやのに。

ちなみに、用心のために、住民票の移転届けもまだ出してないから、その線で追っかけるのも無理や。

夫婦お互いの友人、知人との連絡も絶った。そこから足がつくというのも考え辛い。

なのになぜ……。

得体の知れない深い闇がそこにあった。

その暗闇から、センバたちを狙っている不気味な存在がある。

しかし、センバには、どうしてもそのことが腑に落ちなんだ。

それほどまでに恨まれる覚えはなかった。

しいて言えば事件の被害者くらいやが、それにしても十分な保障もして民事でも和解している。

それが、裁判官の心証を良くして7年の求刑に対して、5年の判決になったと弁護士も言っていた。

後に、獄中から被害者に向けて謝罪文を送ったところ、快く許してくれるという返事も貰っていた。

センバには、その被害者が、そんな陰険な真似をする人間には、どうしても思えんかったという。

犯人は他にいる。

しかし、その事件以外では、人と争ったことのないセンバにとって、人から恨みを買うということ自体が信じられんかった。

もっとも、人の恨みは、その人間の気づかん、ちょっとしたことでも買う場合があるさかい、絶対にないとまでは言い切れんがな。

ただ、それが誰なのか、皆目見当がつかん怖さを、センバはそのとき感じたという。

「確かに、それを黙っていたのは悪かったですが、それはもう罪を償って済んだことですし、今はまじめに働いているんで、何とか退去することだけは勘弁して貰えませんか。家賃の滞納などもしていませんし、今後も絶対しないと約束しますので」

そう、必死になって家主に頼んだ。

しかし、家主は、「強盗の言うことなんか信じられんな。しかも親に内緒で保証人に仕立て上げるような人間は尚更や」と、ニベもない返答やった。

とりつく島がない。

センバは、何を言うても無駄やと悟るしかなかった。

「分かりました。でも、今すぐというのは無理ですから、せめて後、2、3ヶ月の猶予をください」

センバはそれだけを言うのが、やっとやった。

これが通常の賃貸契約なら、いくら過去に犯罪歴があろうとも、それを償った限りは一般市民としての権利があるから争おうと思えば争えるが、保証人の偽造ということになると、裁判で争っても負ける可能性の方が高い。

前科のある身で、ヘタに争って私文書偽造の罪にでも問われたら再度、刑務所送りになりかねんという危惧もあった。

「そんなには待てん。今月分の家賃を貰うとるから、今月の末までは待つさかい、それまでに出て行ってくれ」

「それは約束できません」

当たり前やが、次の入居先がすぐ決まるという保証はどこにもない。

「何や、開き直って居座るつもりか。それなら、それでこっちにも考えがあるで!!」

家主は、それだけを言うと勢いよく電話を切った。

「どうするの?」と、マイコが不安げに言う。

「取り敢えず、ここには長居できそうにないから、近くで住める所を探そう」

二人には、まだ仕事がある。それの通える範囲で住居を探すしかない。

保証人も、現在勤めている町工場の社長に頼めば快く引き受けてくれるはずや。

この半年、休まず真面目に勤めとるから、社長からも目をかけられている。正直に本当のことを話せば力になって貰える。

そう考えた。

翌日、出社してそう頼み込んだが、予想に反して社長からは冷たく断られた。

それどころか、「辞めてくれ」と言われる始末やった。

「どうして?」

「あんたが真面目な人やというのは、この半年間の仕事ぶりで良く分かった。ワシとしても、このまま働いて貰いたい気持ちはあるんやが、何分、小さな会社やから、元強盗の前科者がおると言われるだけでも信用が落ちるさかい、拙いんや。そこのところを分かってほしい」

「マンションのオーナーさんから何か言われたんですか?」

それに違いない。

どうしても、センバたちをすぐにでも追い出す腹や。

「それなら、それでこっちにも考えがあるで!!」という捨て台詞がセンバの脳裏にこびりついている。

結局、その会社の社長は、1ヶ月分の給料とは別に、「依願退職扱い」にするということで、20万円支払うと約束した。

センバは、それ以上、その社長を責めても仕方ないと考え、それを受け取りあきらめることにした。

家に帰ると、マイコも同じような理由でスーパーをクビになったという。

これはやりすぎや。

「俺たちが、あのマンションの家主に何をしたと言うのか。何で、ここまでの仕打ちをされる謂(い)われがあるのか」と、その怒りが沸々と湧いてきた。

さすがに大人しいセンバも頭にきて、マンションの家主宅に文句を言いに行った。

すると、その剣幕に恐れをなしたのか、その家主はすぐさま警察に通報した。

センバは、今は真面目に仕事をしているし、何の疚(やま)しいところもないから、警察を呼ばれても怯むつもりはなかった。

警察に事情を話せば分かって貰えるはずやと考えたから、むしろ望むところでもあった。

それが甘かった。

やって来た警察官は、うむも言わさずセンバを警察署に連行して行った。

そして、長時間の取り調べを受ける羽目になった。

そのとき、センバは、前科者というレッテルの怖さを嫌というほど思い知らされたという。

「元強盗の前科のある男に脅かされた」という一言で、警察は、その家主の言うことを全面的に信用して、センバにはまるでゴロツキでも扱うように接してきた。

何を言うてもあかん。そうセンバは観念するしかなかった。

ただ、警察の方でも具体的な脅迫の立件ができんかったということもあり、結局、数時間後には放免された。

但し、「同じことをまたすると今度は留置所にブチ込むぞ」と、しっかり脅かされた上で。

結果、口惜しいが、そのマンションの家主には今月末で退去すると言うしかなかった。

もっとも、そう言うと急に家主も態度が変わって、最初に支払った権利金は全額返還すると言い出したがな。

また一からの出直しになる。

しかし、前回のように、親を保証人に仕立てることはもうできんから、新しい入居先を見つけるのも難しい。

そうかと言うて誰が、その家主にセンバたちの所在と昔の犯罪歴を伝えたのか分からんという恐怖があるから、迂闊(うかつ)に友人、知人にその保証人を頼むわけにもいかん。

そこで、センバは切羽詰まり、ワラをもすがる思いで、ワシらのところに相談してきた。

冒頭のメールがそれや。

その相談とは、新聞販売店に住み込みで働けないかというものやった。


そういうわけで、私たち夫婦は相談して、そんな保証人のいらない新聞販売店に住み込みで働くことを考えました。

しかし、ゲンさんは「新聞販売店も昔ほど誰でも雇うようなことはなくなった」と、身元調査をすると言っておられましたが、それだと私のように前科があると雇って貰えないのでしょうか?

私は何とか真面目に働きたいのですが、それは無理な相談なのでしょうか?

どうか宜しくお願います。


これに対して、ハカセはワシの回答を知らせた。

尚、この相談者からの原文をそのままサイトのQ&Aに掲載するには、いろいろと差し障りがあると判断したので、相談者の了解を得て、このメルマガ誌上で取り上げることにした。

念のために、この場を借りて言うとく。


回答者 ゲン


新聞販売店の雇用時に、身元調査をするケースが増えたのは、2004年11月17日に発生した奈良の小1女児誘拐殺人事件以後、その犯人が新聞販売店の従業員やと判明したことから、より顕著になったと思われる。

そんな従業員を出したら、その販売店は改廃(廃業)に追い込まれるわけやから、自己防衛上、やむを得んことやと考える販売店が増えた。

ワシも、この事件以後、昔は比較的、誰でも雇うというイメージの業界やったのが一変したと随所で言うようになったさかいな。

実際、旧メルマガの『第70回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■くり返される悲劇!!広島小1女児殺害事件の現場では……。』(注2.巻末参考ページ参照)でも、その実例に触れ、そう言うた部分がある。

「事件が起きると、真っ先に新聞販売店が疑われるという構図があれば、当然やが、この業界におる人間は迂闊なことはできんということになる」と。

それが、いやでも昔ほど、犯罪者の隠れ蓑になるようなケースが少ない業種になったと実感することになったわけや。

それにつれ、必然的に雇う側も厳しい目を持ち始めた新聞販売店もあるということや。

その意味で言えば、あんたのように犯罪歴があると知られると、採用するかどうかは、怪しいと言うしかない。

しかし、そうでもない販売店もあるさかい、何とも言えんところがあるのも確かやがな。

拡張員の世界も含めて、この業界では、業界内の不始末についてはかなり厳しい対処をするが、それ以外では、そうでもないというケースもある。

他の世界の犯罪、もちろんその程度にもよるが、あんたのケースのように罪を償ったということであれば不問に付す販売店も多いのやないかと思う。

実際、新聞販売店においては、過去に犯罪歴のある者が再犯を繰り返すことの方が少ないさかいな。

まあ、普通に考えて、これほど過酷な仕事をするには、更正したいという強い気持ちがないと、とてもやないが続けられるもんやないさかいな。

特に長く続けとる人間ほど、それが言える。そのことを良く知っている新聞販売店の経営者も多い。

それと、この不況下で失業率の高い世情にあってさえ、依然としてこの業界への求職者が少ないということも、少なからず影響しとるのやないかとも思う。

それもあって、未だに昔ながらの誰でもええから雇うという販売店があるのも、また事実やさかいな。

もちろん、先にも言うたように、それとは反対に犯罪歴のある人間を雇うことで評判を落とすことになりかねんと危惧する販売店も、当然のようにあるがな。

新聞販売店は全国に2万店舗余りもあるのやさかい、いろいろやと言うしかない。

せやから、当たって砕けろやないが、その確かなことは、実際に、その希望の販売店に面接に行ってみな分からんやろうと思う。

ここで、問題になるのが、その事実を面接先の販売店に伝えるかどうかということや。

黙っていれば、雇用される確率は高いやろうが、それが発覚すると、履歴書偽造を理由に解雇されることもある。

正直に話せば、その場で断られるケースも考えられる。

いずれにしても、きつい選択やが、ワシとしては、正直に話して、真面目に働きたいからと訴えた方がええと思う。

その方が、同じ働くにしても、理解して貰える経営者の方が、気持ちの上では楽やろうしな。

それに、遅かれ早かれ、あんたの過去の犯罪歴が知れる可能性もあるさかいな。

あんたは、マンションの家主が誰かに過去をバラされたと考えとるようやが、それは少し違うと思う。

あんたのような人には気の毒な話やが、今の世の中、それが苦もなく分かる方法というのがあるという話や。

現在、マンションのオーナーたちの間で、入居者の犯罪歴を確かめるというのが流行ってるらしい。

ワシは顧客に、そのマンションオーナーがいとるのやが、彼らからそう聞いたことがある。

それも簡単に分かる方法やという。

具体的には、大手ポータルサイト、および新聞社のWEBサイトにおいて『○○容疑者』というキーワードで検索するだけで、それに該当する新聞報道記事が表示される。

それを調べる人間は、○○の部分に入居者の氏名を入れるだけでええわけや。

その名前が過去の事件報道記事に載っていれば、検索でそれがヒットする可能性が高い。

試しに、あんたから聞いた名前をそれに従って打ち込んでみたが、それで、あんたの言うてるような事件の報道記事が見事にヒットした。

しかも、あんたは『住民票の移転届けもまだ出してない』ということのようやから、賃貸契約書に書かれていた住所と事件が起きたときのあんたの住所が同一、もしくはその近くが表記されていたのやないかと思う。

それがあったからこそ、そのマンションの家主も、あんたがその犯人やないかと疑ったと考えられる。

せやなかったら、その名前だけやと、同姓同名の可能性もあるわけや。

報道記事には、その年齢も記載されとるが、それにしたかて、たまたま近いということもある。

まあ、その確率がどの程度かは分からんが、例え、その可能性が低くても皆無でない限り、いきなり犯人扱いはできんもんや。

実際にも、あんたの名前やと、同姓同名の人もおられるやろうと思う。もしかしたら、年格好が近い人もいてるかも知れん。

もっとも、その家主が『あんたは、以前、強盗で5年も服役していたことがあるらしいな?』と聞いたのは、それを考慮しての探りやったとも考えられるがな。

それが、あんたの『誰からそれを?』という返答で確信に変わったとも考えられる。

言えば、それと知らずに、あんた自身が自白したわけや。

現在、この方法を煽る情報サイトというのがあるらしく、中にはそれを「商材」と称して高値で売っている者もおるという話や。

また、この過去の犯罪歴を調べ上げてデータベース化して、賃貸業者やアパートやマンションのオーナーたちに売り込む業者まで現れとるという。

一度、何かの事件を起こして新聞などのメディアで実名報道されると、それがネット上で半永久的に残り、果てしなく拡がっていく可能性がある。

昔から新聞などのメディアで実名報道というのは恒常的に行われとったことやが、例えそうであっても、よほどの大事件の容疑者か、もしくは近隣に住んでいて、その人間を良く知っている者以外は、そんな名前をいつまでも覚えていることの方が少ない。

たいていは、すぐ忘れる。

人の噂も七十五日。という格言がそのまま活きていたわけや。

ところが、ネット社会ではそうはいかん。

その報道記事はいつまでも残り、それを題材にしたHPやブログが果てしなく増大していく。

しかも、それが本当に犯人かどうか、えん罪かどうかに関係なく、単に「容疑者」として逮捕されたという事実だけで、そうなるわけや。

これは、ある意味、途方もなく怖い世界が訪れたのやないかという気がする。

例え、それが、後に、えん罪やった、間違いやったと判明しても、逮捕されて実名報道されたという事実が、ネット上に流れた時点で、もう誰にも止めようがなくなる。

気の毒やが、あんたにもそれが言えると思う。

それなら、どうしようもないのかというと、そうでもないがな。

どんなに過酷な状況であろうと、それを切り抜ける方法はいくらでもある。

問題は、そう信じられる気持ちがあるかどうかだけの話や。

少なくともワシは、そう信じて今まで生きてきて、それなりに死地もくぐり抜けてきた。

もっとも、それはワシのように、何でもすぐ開き直れる性格と図太い神経の持ち主やないと難しいかも知れんがな。

それさえできれば、あるいは覚悟を決めれば、比較的簡単なことやけどな。

今回のあんたのケースで言えば、「その犯人か」と尋ねられたら、「違う。それは同姓同名の人間の仕業で、えらい迷惑してねん」と言うてごまかせばええ。

ただ、あんたの場合は、住民票の異動をしてないというのがネックになりそうやから、それは一応しといた方がええやろうな。

住所さえ同一やなかったら、同姓同名やと言いさえすれば、「いや、それは違う」と相手側が反証するには相当の証拠を示さなあかんようになるさかいな。

普通、それ以上は突っ込めんもんや。

もちろん、それは新聞販売店の面接にでも使える。

「何や、ウソをつけということか」と、思われるかも知れんが、これに対処するには、それくらいしか対抗策がないのやないかと思う。

ただ、その「同姓同名の別人」というのを信じるかどうかは、その相手次第やがな。

自分の生活を守ろうと思えば、例え、それで疑惑を持たれたとしても確証を相手に与えたらあかんということや。

確証を与えたら、今回のように「退去」を迫られ「辞職」せざるを得ん状況に追い込まれるさかいな。

あんた自身に疚(やま)しいこところがなければ、ウソも方便でええのと違うやろか。

もっとも、どうされるかは、あんたが決められることではあるがな。


そう回答した。

この回答には、賛否両論あるものと思う。

ワシも、ごまかすというのが最良の方法とは考えてない。

ただ、正直に話すことがええとも言えんというのも確かや。

言えば、大きな災いを避けるための緊急避難的な発想やな。

それが、ええか悪いかは、それぞれが考えて判断してくれたらええ。

それにしても、ほんま、真面目に更正しようとする人間にとっては住みにくい社会になったと思う。

この問題に関して、ハカセにええ提案があるということやから、次回はもっと突っ込んで話したいと考えとるところや。



参考ページ

注1.第39回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ある拡張員が語る刑務所残酷物語

注2.第70回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■くり返される悲劇!!広島小1女児殺害事件の現場では……。


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