メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第445回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2016.12.16
■新聞社が長時間労働で是正勧告を受けたことについての業界への影響
ある業界関係者の方から、
いつも貴メルマガを楽しく拝見させてもらってます。
本日、ヤフーニュースを見ていると、
▼朝日新聞社に長時間労働では初の是正勧告
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161209-00010000-bfj-soci
という記事がありました。
以前のメルマガで、新聞販売店がブラック企業だという趣旨のことを仰ってましたが、私もその意見に賛成です。
この記事は、「BuzzFeed News」というウェブサイトが発信元ですが、新聞でも報道されるでしょうか?
私は、他の新聞社内でも似たようなことがあるはずなので、報道しないのではないかと思っています。
今後、この報道の拡がり次第では新聞社に大きなダメージがあると考えられます。
そして、このことがキッカケで新聞販売店がブラック企業だということも明るみに出るのではないでしょうか?
そうなった場合、業界にどんな影響が出るでしょうか?
この件について、できればメルマガ誌上で取り上げてもらって、ゲンさんのご意見を是非お聞かせいただきたいと思っています。
というメールが寄せられた。
その読者の質問に答える前に、まず、示された記事から紹介する。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161209-00010000-bfj-soci より引用
朝日新聞社に長時間労働では初の是正勧告 電通だけではない、報じる側の課題は
朝日新聞東京本社が12月6日、社員に違法な労働をさせたとして、中央労働基準監督署(東京)から長時間労働での是正勧告を初めて受けていたことが、BuzzFeed Newsが入手した社内文書と同社への取材でわかった。
同社では、記者が記録した2016年3〜4月の2ヶ月分の出退勤時間を、所属長が短く書き換えていたことがBuzzFeed Newsの取材でわかり、11月に報じた。その報道をきっかけに、労基署が調査に入っていた。
電通事件に関連し長時間労働について批判的な報道が相次ぐなか、報じている側の「働き方」にも注目が集まる事態となっている。
BuzzFeed Newsが今回入手したのは、朝日新聞社の労働組合がメールで配信した文書だ。
取材に応じた同社によると、労基署から指摘を受けたのは、財務部門に務める20代男性社員の労働時間。2016年3月の残業時間が法定外85時間20分と、定められた上限を4時間20分上回っていた。
是正勧告は行政指導で、法的な強制力はない。企業が違反でないと認識すれば是正する義務もないが、繰り返された場合は書類送検されることもある。
社員の体調の問題や、残業代の未払いはなかったという。取材に応じた管理部門担当者は「毎日勤務記録を付けるなどのケアはしていたが、決算の時期で、結果として(上限を)超えてしまった。職場の所属長には指導をした」と話した。
きっかけは「改ざん報道」
調査のきっかけとなったBuzzFeed Newsの記事は「朝日新聞社、上司が部下の『労働時間』を短く改ざん 基準内に収めるため」。
ある記者が申請した2016年3〜4月の2ヶ月分の出退勤記録の残業時間にあたる「措置基準時間」が、所属長によって短く改ざんされていた、というものだ。
これを受け、労基署から過去1年間の労働時間が長い5人の勤務記録と、改ざんのあった記者の出退勤記録を提出するよう指示があったという。
同社はこの改ざんが発覚したあと、すべての所属長(数百人規模)を対象に実施した労務管理研修を10回に分けて実施。労基署からは「再発防止策も含め、しっかりと対応されている」との評価があった、と説明している。
今後の対策は
今回、超過があった財務部門は、勤務時間に応じて時間外手当などを支給する「単純時間制」の職場だ。同社では人事や労務、財務部門などで導入しているという。
一方、記者職種などでは把握が困難なため、協定によってあらかじめ所定労働時間を決める「みなし労働時間制」を導入している。出退勤記録で目安の「労働時間」を把握している状態だ。
担当者は「持ち場や仕事の性格上、代表的な長時間労働の職場はどうしても記者職種になってしまっている」と語る。
記者職種を含めた長時間労働対策には2年ほど前から取り組んでいるといい、「時短・WLB(ワーク・ライフ・バランス)の推進は重要な経営課題だと位置づけている」としている。現在は全部署で「仕事見直し」に取り組んでいるという。
担当者は、「報じる側として、襟を正してやっていかなければいけないという意識がある」と話した。
問題視されるマスコミの長時間労働
長時間労働の問題は、朝日新聞社に限ったことではない。メディア業界に蔓延している。2016年に始めて発表された「過労死防止白書」を見ると、その実態がよくわかる。
厚生労働省が企業約1万社(回答1743 件)、労働者約2万人(回答1万9583人)を対象に昨年、実施したアンケート結果。
これによると、1年で残業が一番多い月の残業時間が「過労死ライン」とされている80時間以上だった企業の割合は、テレビ局、新聞、出版業を含む「情報通信業」が44.4% (平均22.7%)と一番高い。
是正勧告を受けている社は、他にもあるのか。
中央労働基準監督署の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に「新聞社に特化した是正勧告を取りまとめたものはない」と答えた。
BuzzFeed Japanには新聞社から移ってきた記者も少なくない。私(籏智)もその1人で、朝日新聞社で働いていた。
土日に出勤し、平日は代休が取りづらい。事件や事故が起きれば、早朝から次の日の未明まで働く日々が1ヶ月以上続くこともある。新聞やテレビで記者をしていた人なら、多くの人がそういう経験があるだろう。
あるテレビ局の20代女性は、BuzzFeed Newsの取材にこう語っていた。
「マスコミってやっぱり、世間から見たら働き方が普通じゃない気がしています。午前1時や2時まで働いて、夜遅くまで飲み会をするのが頑張っていることみたいに、思いがちなんじゃないんでしょうか」
というものや。
この記事を報じている「BuzzFeed News(バズフィード・ニュース)」は、アメリカのニューヨークを拠点に近年、急成長しているネット配信専門のグローバル・メディアだという。
この記事を書いた人が、『朝日新聞社で働いていた』と言っているように、世界各国の元ジャーナリストが数多く所属して記事を執筆しているようや。
それからして記事の内容は、既存の新聞メディアと比べ信頼度には遜色ないものがあると考えてええやろうと思う。
『他の新聞社でも報道されるでしょうか?』という質問やが、答えは「イエス」。実際に複数の新聞紙面で報道されている。(注1.巻末参考ページ参照)
ただ、それについては、『2016年3〜4月の2ヶ月分の出退勤時間を、所属長が短く書き換えていたことがBuzzFeed Newsの取材でわかり、11月に報じた』時には、ほぼ無視に近かったが、
『その報道をきっかけに、労基署が調査に入っていた』結果、『是正勧告』が行われたという事実が大きかったため、無視することはできないと判断して今回の「BuzzFeed News(バズフィード・ニュース)」での報道を追随したのやと思う。
もっとも、同じ内容の記事でも「BuzzFeed News(バズフィード・ニュース)」と既存の新聞メディアとでは、報じ方に、かなり温度差があるがな。
「BuzzFeed News(バズフィード・ニュース)」では『社員に違法な労働をさせた』と断じているが、既存の新聞メディアでは、『社員に規定を超える長時間労働をさせた』として、若干、ソフトな言い回しになっとる。
『他の新聞社内でも似たようなことがあるので』というのは、確かに、そのとおりかも知れん。あったとしても、おかしくはない。
特に『残業時間が法定外85時間20分と、定められた上限を4時間20分上回っていた』という程度のことは、新聞社に限らず、どの職種、企業でも起こり得ることやと思う。
とはいえ、『上司が部下の『労働時間』を短く改ざん』した事実を正当化するつもりはない。完全な違法行為やし、明確な悪意が働いてしたことに間違いないさかいな。
そんな隠蔽工作なんかせず、『定められた上限を4時間20分上回っていた』という事実に対して「管理者として、そのようなことになり、まことに申し訳ありませんでした。以後気を付けます」とでも言っておけば、それほど大した問題にはならずに終わっていたはずや。
しかし、その発覚を恐れ、あるいは、この程度ならごまかしても分からないと考え「改ざん」してしまった。
起きてしまったミスは仕方ないとは責任者として思えなかったのか、それとも新聞社内の空気が、そうさせたのかは分からんが、いずれにしても隠蔽工作をしたという事実が発覚した時のリスクが大きいことを如実に証明しているような事案やったと思う。
何事も正直に、ありのままの結果を受け容れ、それが謝罪せなあかんことやったら素直に謝り、それなりの責任を甘受する姿勢を示す。
それが結果的には大きな怪我をしないで済む最良の方策なんやがな。
例えば、現在、大きな話題になっている某有名お笑い芸人がタクシーと接触し、その場から立ち去ったことが発覚して「当て逃げ犯」という立場に置かれ窮地に立っている事件なんかが、そのええ例やと思う。
接触事故程度のことは車を運転していれば誰にでも起こり得ることや。やってしまったことは仕方ないとして、その場で適切に対応していれば、何ということもなく終わっていたはずや。
有名お笑い芸人の関わった事故としてニュースにはなるかも知れんが、それだけでは悪意を持って伝えられることはない。
しかし、その場から逃げれば「当て逃げ犯」として悪質な犯罪者に成り下がってしまう。世間は、そう見る。
当然、非難の目が向けられる。ヘタをすれば自身が今まで築いてきたキャリアをすべて失うことになるかも知れん。
そのことは、その有名お笑い芸人だけやなく、一般人にも言えることや。
誰も見てない、発覚しないだろうという安易な考えで逃げた者に救いはない。
今日び、至るところに防犯カメラがあり、科学捜査も徹底しているさかい、「当て逃げ犯」に逃げる術はない。
ほぼ100%に近い確率で加害者が特定され逮捕される。その結果、どうなるかは誰にでも分かるわな。その人間にとっては自業自得とはいえ、悲惨な末路しか待っていないということになる。
起きたことは仕方ない。問題は、その時、どう行動できるかや。それで、その人間の値打ちと評価が決まる。そう心して生きたいもんやと思う。
『今後、この報道の拡がり次第では新聞社に大きなダメージがあると考えられます』というのは、この程度と言えば語弊があるかも知れんが、『新聞社に大きなダメージがある』と言えるほどの事態にはならんやろうという気がする。
せいぜいが、新聞バッシングに明け暮れるアンチのネタにされるくらいやないかな。
それよりも『このことがキッカケで新聞販売店がブラック企業だということも明るみに出るのではないでしょうか?』といった懸念の方が大きいように思う。
新聞販売店のブラック企業度については『第441回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店がブラック企業として世間で騒がれない理由とは』(注1.巻末参考ページ参照)でも話したが、探せばいくらでもある。
労基署がその気になって本格的な調査に乗り出せば摘発理由など簡単に見つけられ『是正勧告』される新聞販売店は多いやろうと思う。
ただ、労基署というところは、よほどの証拠が提示されん限り、そう簡単に動く組織ではないがな。
よほどというのは、元従業員などによる詳細な内部告発よる証拠が持ち込まれた場合くらいなものや。
今までにも違法な長時間労働を巡る争いが新聞販売店と従業員との間で数多く発生し、労基署に持ち込まれているが、公になったケースは殆どなかったように思う。
労基署が介入しても、たいていは当事者間での話し合い、もしくは裁判で決着する場合が大半、その結果を労基署が公表することは、まずない。
新聞は当然のように、そんな報道はせんし、ネット上でも、そこまでの情報は掴みにくいさかいネタにされることもない。
しかし、『そうなった場合』、つまり、日本全国の新聞販売店で違法な長時間労働が問題になった場合、業界としては今より更に厳しい状況になるやろうとは思う。
現在、ブラック企業として名前が公開されると、いくら求人募集をかけても人材が集まりにくくなっているという。
新聞販売店は、ただでさえ慢性的な人手不足に喘いでいる業界やのに、その上、ブラック企業てな汚名を被ることにでもなれば、今以上に人が集まらんようになるのは確実や。
そんな状況が予想できるような状態で、『業界にどんな影響が出るでしょうか?』と訊かれれば、倒産に追い込まれる新聞販売店が続出するやろうなと答えるしかない。
危機的状況やと。
ただ、今回の報道で、そこまでの状況に陥るかとなると、それはないやろうと思うがな。
今までのところ、労基署による新聞社への『是正勧告』は今回が初めてで、何度も繰り返しているわけではなく、報道でも真摯に反省する姿勢を示していることでもあり、今後、こういったケースは二度と起きないはずや。
また、新聞社と違い、一新聞販売店の長時間労働問題を「BuzzFeed News(バズフィード・ニュース)」が取り上げて報道するというのも考えにくい。
一般の人と違い、この記事を書いた元新聞社の記者だと新聞社と新聞販売店は、まったく別の会社やというくらいは百も承知しているさかいな。
一新聞販売店の不正をいくら暴き立てても、新聞社にとっては蚊に刺された程度のダメージもないはずや。
今回の場合は、日本トップクラスの新聞社内で起きたことやさかい、それなりにニュースバリューが高かったわけで、新聞社に比べ、はるかに知名度で劣る新聞販売店には、そこまでの報道価値はないと見るやろうしな。
メディアとは、そういうもんや。
メディアの報道基準は、あくまでもニュースにした場合、どれだけ注目され反響があるかという点に絞られる。
その基準は、たいていの場合、報道する対象のネームバリューや話題性の大きさに比例する。
事の善悪や不正、悪質性といったものが優先されるイメージがあるが、実際は違うということや。
殺人事件にしても、日本では年間千件ほど発生しているが、そのすべてが報道されているわけやない。
同時期に大きな事件や出来事があれば、新聞やテレビは、その方を中心に報道するため除外されやすい。
反対に何もなければ、痴情のもつれや喧嘩沙汰といった程度のありふれた殺人事件でも大きく報道することもある。
また同じ殺人事件でも正当防衛によるもの、さして残虐性のないもの、身体障害者、未成年者の犯行といった加害者側に汲むべき事情がある場合は報道を控える傾向にあるという。
そして、最も大きな要素として報道する側の思惑次第というのがある。何を報道して何をボツにするかは新聞やテレビの自由ということでな。
それには、あまり表には出ていないが、警察や国家権力、およびスポンサー企業からの要請、要望というのも含まれていると言われている。
殺人事件のような重罪犯罪ですらそれやのに、これが傷害事件や窃盗事件といった比較的軽微な犯罪になると、その数はさらに増える。
もっとも、新聞紙面やテレビのニュース枠には限りがあり、すべての犯罪を報道するわけにはいかんさかい、結局は報道の自由ということで済まされるがな。
従って、今回のような残業時間のごまかし程度の不正で、しかもネームバリューの乏しい新聞販売店が例え同じことをしたとしても報道の対象にはなりにくいということや。
ただ、絶対とは言えん。報道の自由というのは、逆に言えば、どんな事案であっても報道できるということにもなるしな。
今回の教訓として何事も、ごまかしや不正はしたら損、発覚した時のリスクが大きいと知るべきや。
例えどんな事であっても「起きたことは仕方ない」と考え、その後の対処を誤らんように常日頃から準備しておくことやと思う。
それが結果的にダメージを最小に抑える秘訣やと。それが今回の教訓やな。
参考ページ
注1.朝日新聞社に是正勧告 中央労基署
http://mainichi.jp/articles/20161210/k00/00m/040/037000c
朝日新聞社に是正勧告 上司が部下の勤務時間書き換えも
http://www.sankei.com/life/news/161209/lif1612090025-n1.html
朝日新聞で長時間労働 是正勧告、記録書き換えも
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/294657
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