メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第450回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2017. 1.20
■考えさせられる話……その5 人の相談に乗るということの難しさについて
ある読者の方から、
いつもゲンさんやハカセさんのメルマガやQ&Aを拝見させてもらってます。
読者の疑問や悩みを聞いて適切なアドバイスをされていることについて本当にすごい方たちだなと思っておりました。
今回、特にそう思える出来事がありました。私事で、申しわけありませんが、しばらく話を聞いてやってください。
ここのところ、去年の暮れに発生した糸魚川大火をはじめ、日本各地で火事が多発しているというニュースをよく見聞きします。
いつもは他人事のように、それらのニュースを見ていました。しかし、その火事が私の身近で起きたのです。
その火事の様子は、こちらのローカルテレビのニュース番組で取り上げられていました。
中略。(投稿者の方から詳しい火事の報道が記載されていましたが、投稿者、
および関係者の特定につながる恐れがあるので省かせて頂きました)
実は、この火事で亡くなられた女性は、私の家内の友人でした。
先日、家内と二人で、ご遺族にお悔やみを伝えに行きました。しかし、家族だけの密葬であること、また、ご両親が憔悴しきっていることから、被害者のお姉さんとだけお話して帰りました。
実は、私と家内、被害者の3人は、元々同じ会社に勤めていました。ですから、私もよく彼女を知っていました。
私たちの結婚後も家内と彼女は、メールやケイタイで頻繁に連絡を取り合っていたとのことでした。たまに、うちに遊びに来ることもありました。
最初の数年は、彼女に変化は見られなかったと言いますが、ここ1年くらいの間、だんだんと彼女の様子がおかしくなりだしたと家内が、時々心配そうに言っていました。
ほどなくして本人が、精神科に通っていることを家内に告白してきました。
つい先日も、彼女が泣きながら家内に電話をかけてきたので、家内が気持ちを落ち着かせるようなアドバイスを何度もしたことがあると言ってました。
彼女は未婚です。今まで、何度も失恋したり、職を転々とするなど、精神的な負担が続いたことが原因だろうと、家内は推測しています。
そして、今回、このような衝撃的な出来事が起こりました。
彼女の自宅が出火したのは午前3時頃だったのですが、実は、その1時間半ほど前に、うちの家内のケータイに彼女から電話がかかってきたのです。
もちろん、そのとき、家内は就寝中でした。目を覚まして電話に出るまでに時間がかかったようで、電話を手に取る前に電話は切れてしまいました。
それまでも、深夜帯に電話をかけてくることが何度もあったので、家内は「まあいいか」と考え、また眠ってしまいました。
そして、朝になり、テレビのニュースを見たという別の友人からの知らせで今回の不幸を知ることとなり、家内は愕然としていました。
報道では事故扱いになっていますが、鬱病患者にありがちな自暴自棄による放火の線が濃厚だろうと家内は思っているようです。
まるでテレビドラマのようなことが現実に起こってしまい、私はまだしも、家内は、かなり動揺しておりました。今はもう落ち着いています。
ここで何を言いたいのかと申しますと、今回のことで私は、人の相談を受けるということは、とても難しいことなんだということを痛切に感じたということです。
常に、「もしかすると、命が掛かっている場合があるかもしれない」という心構えで臨まなければならないのではないかと思いました。
いつも、ゲンさんやハカセさんたちは、全ての読者からの問いに答えておいでですが、そういった相談メールの中に、もしかしたら、最終的には死ぬことで問題を解決しようと考えている人がいないとも限らないですよね。
拡張の仕事がうまくいかずお金に困った人や、悪徳な訪問販売に神経を参らせた人が、ひょっとすると、死んで楽になろうと思ったとき、最後の頼みの綱として、「ゲンさん」のサイトに訪れたとしたら、これはたいへんな責任を負わされていることになります。
もちろん、仮に、その人の悩みが解決されずに、最悪の事態が発生したとしても、実際には、法的な責任は誰にも科せられるわけではありません。
ただ、結果的には、その人が”勝手に”選んだこととはいえ、止められるものを止められなかったという事実があったとしたら、よほど、割り切りのうまい人でないと、後に引きずってしまうことでしょう。
ちょっと、何をいいたいのか、自分でもよくわからなくなってきました。
命の重要性を誰よりもよくご存じのハカセさんから、もし、これに関してご意見などいただけたら幸いです。
というメールが届いたという。
これに対して、
ハカセです。
ご心中、お察しします。
慰めになるかどうかは分かりませんが、人にはどうしてもできない限界のようなものがあると考えます。
唯一、その人を助けられる可能性があったとすれば、それはその現場に居合わせた時くらいなものではないでしょうか。
奥様のお気持ちは私も痛いほど、よく分かりますが、今回のことは、どなたであっても避けられなかったことだと思います。
サイトにも鬱病で悩んでおられるという方からのメールが時々届くことがあります。
例えば、
……時々死にたくなるんです。今回の解約の問題で悩んで相談した訳なんですが、ゲンさんからの返事を待ってる間も悩んだせいか鬱になったんだと思うんですが、急に死にたくなり遺書を書いて死んだら解約できるんじゃないかと思い始め、初めてリストカットをしてしまい……
といったようなものです。
もちろん、リストカットをしたというのは鬱病のせいです。
普通は、それと知っていても、四六時中、その方を監視できる立場、またはそうする気持ちのある身内の方以外には防ぐことは不可能だと思われます。
以前、三重大付属病院に勤務している私の担当医に、世間話として鬱病患者との接し方について意見を伺ったことがあります。
それまで、上記の方のように鬱病で悩んでおられるという人たちから似たような内容のメールを幾つか貰っていましたので、アドバイスの参考になればとの思いで、お尋ねしました。
その医師の専門は循環内科ですが、以前、世間話をしている時に精神科の方にも造詣が深い方だとお聞きしていましたので。
その医師曰く、そういった鬱病患者からの相談は、取り敢えず話を聞いてあげることが何より大切だとのことでした。
何も無理に適切なアドバイスをしようとする必要はないと。
鬱病の方は、非常に疎外感が強く、誰からも構って貰えないという強迫観念から、発作的に自傷行為を起こすことが多いそうです。
「あなたの悩みは、私が知っていますよ」と教えてあげることで大半は落ち着くのだと。
また、「白塚さんの場合は、大病を経験されているわけですから、そのことに触れて話されるのも良いのではないでしょうか。同病相憐れむではありませんが、同じような立場、もしくは自分より大変な病気で苦しんでいるけど頑張っているのですよと教えてあげるだけで、かなり違うと思いますので」とも言っておられました。
そのことを踏まえて、すぐに、その方に返信しました。
ハカセです。
頂いたメールを見て、正直、驚きました。
私は以前、心筋梗塞を引き起こし、救急病院に担ぎ込まれたことがあります。
その時は、何とか一命を取り止めることができましたが、その後、入退院を繰り返していますので、病気のことには人一倍敏感です。
ですから、あなたの抱えておられる病気(鬱病)についても、その大変さは理解できます。
当初、医師からは、私の心臓はもって数年だと言われました。その数年というのが、正しく、現在ということになります。
正直、私は死ぬのが怖いです。その怖さは死ぬこと自体ではなく、この世に生まれて何の足跡も残さないまま、消滅することの怖さです。
妻や二人の子供と別れる辛さ、怖さというのもあります。
私は、昔からくだらない小説もどきの物を書いていましたから、何かを書き残すことを考えましたが、それは、すぐあきらめました。
そんなものを書いても、私の書いたものなど誰も読まないだろうと思ったからです。
そんな時、ゲンさんと知り合いました。その人柄、考え方に触れるうちに、この人のことを書けば、人の役に立てるのではないかと考えるようになりました。
もっとも、その当のゲンさんは、当初、嫌がってましたがね。ただ、私の必死さは理解してくれたようで、最後には、快く引き受けて頂きました。
それは、私の想像以上の結果を生み、実に多くの方から、助かった、勇気づけられた、勉強になったというメールを頂くようになりました。
それを励みとしているのは言うまでもありません。
つくづく人生というのは不思議なものだと思います。もうだめだと思った瞬間にでも、生きる道というのが示されているからです。
むしろ、そんな時こそ、本当の自分の生き方が見えてくるのではないでしょうか。
私は、後どのくらい、生きられるのか分かりませんが、命ある限りメルマガとHPを続けていくつもりです。
言えば、これが今の私の生き甲斐となっているわけです。
病気は治すしかありません。そして、それができるのは、あなた自身だと思います。
ご自分の人生を素晴らしいものにできるか、つまらないものにするかは、すべて、あなた次第なのです。
はっきり、言いますが、タカが新聞購読契約くらいなことで、悩んで命を落とすのは「犬死に」以下のくだらない行いだと思いますよ。
人は、そうでなくても、いつかは死ぬものです。しかし、同じ死ぬにしても、そんな惨めな死に方は最悪だとは思いませんか。
あなたの本当の敵は、あなた自身の中にいます。それに負けないでください。
あなたが、私たちのサイトに辿り着いたのは、何かの力がそうさせたからではないでしょうか。
私には、たまたまとか偶然では説明のつかない何かが、この世界にはあるように思えてなりません。
あなたにも、その何かの導きがあったと。救われるべき運命にあったと。どうか、そう信じてください。
と。
私は、今まで僅かでも人の役に立てるのであれば、それで良いという思いでメルマガやHPを続けているつもりでした。
しかし、そのことで、人の役に立つというのは考えている以上に難しいものだ
ということを痛感しました。
回答がもう少し遅れていれば、この相談者は本当に自ら命を絶っていたかも知れませんからね。
そう考えれば、確かに『たいへんな責任を負わされていることになります』と、仰っておられるとおりだとは思いますが、そこまでは考えていては負担があまりにも大き過ぎます。
少なくとも、私はゲンさんには、そこまでの負担をかけたくありません。
何度も、申し上げますが、私たちにとっては相談に乗ったという事実が重要だと考えていて、回答に対するその後の判断、および行動は、それぞれに委ねるしかないと思っています。
多少、無責任なところがあるかも知れませんが、それが私たちのできる限界だと思っています。
それに、私たちは自殺願望というのとは対極にいる人間ですから、そういった方々の悩みというのは正直言って、あまり理解できません。
特に、私は、せっかくまだ生きられるのに、何でわざわざ死に急ぐ必要があるのかと考えている人間ですので。
ただ、同じ病人という立場で考えると絶望的な気持ちになる時があるというのは分からないでもありません。
病気は、精神的なものも含め、自分ではどうしようもない部分がありますからね。
そう思い、必死に考えて送ったのが、あのメールでした。幸い、その方は、それで自殺するのは思い止まれたようでしたが。
その方から、すぐに返信がありました。
ハカセさん、心配してくださりありがとうございます。見ず知らずの僕の事を心配してくださり嬉しくて涙が出てきました。
世の中にはハカセさんの様に生きたいと思う人はいっぱいいるのに、死ぬなんて駄目だと分かっているんですけど厄介な状態なんでごめんなさい。
そもそも中学の時にいじめられてから時々、漠然と死にたいと思うようになってしまいました。
今も時々あるんですが今回は解約のことで悩んでたせいで重症になったんだと思います。
と。
ただ、それについては永続的なものではなく、その場限りのものでしかないかも知れません。
そういった病気を持っておられる方は、いつ何時、またそのような行動をしないとも限りませんので。
つまり、私が言いたいのは、奥様は、今までその方の悩みや相談を真摯に聞いてあげたからこそ、その方がそれまで生きて来られたのではないかと思うのです。
今回、その方の電話を聞いてあげられなかったというのは不可抗力によるものです。
もし、その電話に出られて、いつものように話を聞いてあげられたら、と思われるでしょうが、例え、それでその時、発作を起こすことがなかったとしても、いずれは同じような結果になった可能性が大だったと思います。
私の担当医の話では、日本にはそういった方の治療というか精神的なケアをするシステムが、欧米に比べてかなり劣っているとのことでした。
そのシステムが構築されない限り、不幸は、まだまだ続くような気がします。
もっとも、そのシステムが構築されたとしても完璧に防げるというわけではないでしょうが。
私が、なるべくすべての方に短くても返信するように心がけているのは「話は聞いてますよ」とアピールするためです。
そうすることで、もし、そういった方からのメールだった場合、僅かでも救いになるのではないかと思いますので。
無責任なアドバイスと誤解されても困るのですが、今回の件は、あくまでもその方は「病気で亡くなられた」というように考えられたらどうでしょうか。
申し訳ありませんが、私には、この程度のことしか申せません。実に、難しい問題だと思います。
と返信したという。
今更な話やが、ハカセの言うとおり、多くの人の相談や悩みに答えるというのは本当に難しいことやと思う。
せやからと言うて、ワシらにメルマガやサイトのQ&Aを止めるという選択肢はない。今後も続けるつもりや。
一人でも「助かった」、「ためになった」と言うてくれている限りはな。
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