メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第53回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2009.6.12


■救いのない拡張員の人たちのためにできる事とは


6月8日の午後6時。

サイトに一通のメールが届いた。

それには、本日発売された週刊プレイボーイ6/22号に「新聞拡張員がハマった『平成のタコ部屋』ルポ」という記事があるのと、

「高校のひろば」という季刊誌に「vol72 話題あれこれ知って欲しい!新聞奨学生の労働実態」というのがあるから、その部分を見てほしいというものやった。

読者の中には、こういった情報を教えてくれる人がたまにおられる。

ワシらも、それなりにアンテナを張ってはいるが、なかなかすべての業界情報を把握することは難しいから、正直、こういうのは助かる。

過去にも、そういった情報を頂いたことで、メルマガの題材にさせて貰ったことが幾つかあったさかいな。

早速、ハカセは近所の書店に行き「週刊プレイボーイ6/22号」は買ったが、「高校のひろば」というのは、その書店にはなかった。

一応、書店には問い合わせて貰うようには頼んだが、それが入るかどうかの確約はとれてない。

もっとも、それにある「vol72 話題あれこれ知って欲しい!新聞奨学生の労働実態」と、前述のものは、あまり関わり合いがなさそうやから、それを入手し、読ませて貰ったうえで、このメルマガ誌上で話すかどうか判断したいと思う。

先の「週刊プレイボーイ6/22号」の166ページにある「新聞拡張員がハマった『平成のタコ部屋』ルポ」というのを見て、この業界のどこかには、それに近いようなケースはあるやろうなとは承知していたが、正直、ここまで酷いというのは聞いたことがなかった。

それについては、ワシらの知らん関東方面での事というのもあるやろうし、週刊誌特有の誇張された部分がないとは言えんから、その真偽のほどは定かやないがな。

その全文は著作権の問題もあり、転載許可も取ってないのでここに記すのは避け、要点のみを抜粋して話したいと思う。

東京都内の新聞拡張団X社に勤めるA氏の話として、

「元拡張員が郵便局に強盗に入ったものの、直後に女子職員に取り押さえられた男がいました。きっと彼は刑務所送りを望んだんだと私は思います……。

あんな環境で働いているよりも懲役の方がマシ、そう考えたんでしょう」

という記載があった。

そういう事件があったのかどうかは、ハカセが調べても良う分からんということやった。

もっとも、それには、いつ、どこで起きた事件かの記載がないから、よけいやけどな。

まあ、すべての強盗事件が報道されるわけやないから、それでその事件そのものがなかったとも言えんがな。

その真偽のほどは別にして、ここでは、それがあったとして先に話を進める。

この捕まったという拡張員の気持ちは分からんでもない。

現在の過酷な状況を逃避するために犯罪を犯すというのは、そう珍しいことでもない。

借金でどうにもならん状態に陥った者、食うに困って行き場を失った者などが、そういった事件を起こすというのは良く聞く話やさかいな。

本人は、その罪で刑務所に入れられることになっても、それで救われたと思い、安堵するというケースや。

しかし、そういう者は、それと匹敵するか、さらに過酷な状況が待ち受けているとまでは考えがおよばんのやろうなと思う。

このメルマガ『第39回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ある拡張員が語る刑務所残酷物語』(注1.巻末参考ページ参照)の中でも言うたが、その刑務所の中にも、悲惨を極めるケースというのがある。

その過酷な状況の一端を紹介する。


現在、全国60ヶ所の刑務所の受刑者総数は2006年で6万8千人超になる。

この6万8千人超により、刑務所の収容率は116パーセントの状態になっていて、アズマが服役していた13年前と比べると1.5倍ほどにもなっているという。

その頃でさえ、過酷な状況にあった受刑者の生活環境はさらに悪化しとると考えられる。

但し、悪化した反面、受刑者1人当たりの生活費は確実に安くなっとるとは思うから、国庫はそのとき以上に潤っとるはずやということにもなる。

ただ、受刑者、刑務所の職員、双方にとって、この状況は有り難いことやないやろうがな。

この受刑者の増加は、ここ近年の犯罪に対する厳罰化傾向への影響でそうなっているだけで、犯罪自体の発生率は、10年前と比較してそれほど増えとるわけでもない。

ちなみに、10年前と現在を比較した場合、犯罪発生率は微増になってはいるが、2002年以降、毎年、減少傾向になってきていると法務省および警察庁が発表している統計にある。

その10年前でさえ、住空間の悪化によるストレスから受刑者同士の暴行事件が絶え間なかったという。

アズマは、それが原因と思われる受刑者が病死と称されて人知れず葬られていたというケースを数多く見聞きしたと話す。

受刑者の増加により、定数の決まった刑務官1人当たりの負担は確実に増える。

それにより、受刑者への処遇の低下が起きるというのは容易に予想できることや。

それが、受刑者同士の暴行の見逃しであり、刑務官に対して反抗的な受刑者へのリンチという形で表れるのやと思う。

直接、間接を問わず、それが原因で死亡する受刑者もいとるという。

ただ、その事実は各刑務所にとっては恥部となり責任問題にもなりかねん事やさかい、外部に知られることは少ない。

そこには、すべての役所と同じ独特の隠蔽体質があるのやろうと思われる。

たまに、それが外部に漏れると大きな事件として報道されることがある。

それが、2002年11月25日のN刑務所の暴行事件であり、2007年11月16日に起きたT刑務所暴動事件やと思う。

但し、それはあくまでも氷山の一角として発覚したものにすぎんとアズマは言う。

「実際、ボクのいた所もひどかったですが、その実態は、ほとんど世間には知られていませんからね」と。

例えば、こんなことがあった。

刑務所の食事にパンが出ることがたまにあるのやが、これがやたらと固い。

アズマと良く話をしていたある年輩の受刑者がこのパンをノドに詰まらせ死亡するという事故があったが、大して問題にされることなく処理されたという。

その後も、何事もなかったかのように、そのパンが食事として出され続けたというさかいな。

雑居房でのリンチなどの暴行行為は日常的にあり、それで死亡した者がいたというのも、それをやったという当事者の受刑者から脅し文句として言われたこともあった。

また、刑務所には「鎮静房」という問題を起こした受刑者の反省を促すための独居房があるのやが、そこに入れられる際、刑務官から袋叩きにあって殺されたというのも普通に受刑者の間で噂されとることやった。

加えて、その刑務所の医者の程度は最悪やったとアズマは言う。

横柄で、診察らしき行為は何もせず、薬なんかも滅多に貰えない。

それどころか「お前らのようなクズを治してやっても世の中のためにならんし、誰も喜ばん」と平気で言う医者さえおるのやという。

アズマは、同室のヤマギシという囚人から「官(刑務官)に寄ってたかって殴り殺された兄弟分の家に出所して行ったことがあるのやが、刑務所からはその家族には心不全で死んだと教えられだけやったらしい」という話を聞かされたことがあった。

心不全というのは、如何にも、もっともらしい病名やが、良う考えたらおかしなことやと誰でも気づく。

人が死ぬと誰でも心臓が止まる。それを心不全と診断しておけば間違いはないわけや。

昨年、大相撲の新弟子がリンチにより殺害されたという事件があった。

その被害者は明らかに見た目にも暴行の傷が生々しかったにも関わらず、最初にその死亡診断書を書いた医師が、「心不全」と記していたことで物議を醸した件は、まだ人々の記憶に新しいと思う。

それに似た、ええ加減で杜撰(ずさん)な処理が為された可能性が高いということや。

一事が万事。こんな調子で人知れず葬られた命は多いのやないのかという想像はつく。

ヤマギシは憤ったが、結局、その事実を家族には知らせず終いやったという。

医者の死亡診断書にそう書かれてあれば、証拠がない限り、いくらそう話しても、その家族を苦しめるだけやし、万が一、その家族が騒ぎ立て事が公にでもなれば、チク(密告)ったのがヤマギシやと刑務所の官に知れる。

再度、刑務所に収監されるようなことにでもなった場合、それがもとで生きて出られんかも知れんという恐怖もあったと言う。

N刑務所の暴行事件やT刑務所暴動事件などが発覚したのは希有なケースであり、似たような事は多かれ少なかれどこの刑務所でも行われているはずやというのは、ワシの知る限り、刑務所に服役した経験のある者の一致した見解やった。

しかし、それが表面に出ることは少ない。例え発覚しても特別な事件、ケースとしてしか扱われんということや。

出所した受刑者が、その非人道的な現状を訴えるケースもあるようやが、所詮、犯罪者の戯言(たわごと)やとされ、誰にも相手にされず、その声がどこにも届くことはない。

アズマはそう嘆く。

長いものには巻かれろ。他人の不運は己の安全。

そう考えてな刑務所では生きてはいけん。刑務所で人並みの人権を望む方が愚かやと。


普通、初めて服役する者は刑務所の中で、ここまで悲惨な状況が待ち受けとるとは考えん。

例え考えてたとしても、今を逃れたい者は、ついその選択をしてしまうのやと言う。

どうしようもなかったと。

ただ、一方では、そんな過酷な刑務所暮らしは二度としたくないと出所してから更正しようと懸命に頑張っている者もおるがな。

先の話の中に出ていたアズマという男がそうや。

その後のアズマの話は、旧メルマガの『第62回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ それぞれの事情 Part3 犯罪者と呼ばれし者』(注2.巻末参考ページ参照)にある。

郵便局に押し入ってまで拡張員の世界から逃れようとした人間が、例え刑務所の中で悲惨な状況になったとしても、そこを無事に出所さえできれば、それから先、本当の意味での出直しができる可能性はある。

そう考え長い目で見れば、救われるかも知れんがな。

拡張員の世界もそうやが、未知の場所がええかどうかは、実際に身を投じてからでないと、事前にそれと分かることは少ないと思う。

そういう過酷な状況に置かれた人間の常として、ただ自身の不運を嘆くだけというのが多い。

そうなる原因を自らが作っとるということには思いが至らんわけや。

冷静に考えれば、その事態は避けることができたはずなんやが、それに気づくことがない。

郵便局に押し入った元拡張員のそれに至る経緯が、記事には書かれてないから何とも言えんが、冒頭のA氏の告白があるので、それと重ねて話す。

A氏は、衣料品メーカーの営業マンをしていて、家庭の事情もあり家を買ったが、その直後、バブルの崩壊で不景気になり、ローンの返済が滞ったという。

不景気で営業成績が落ちたためにその収入が減ったということやろうと思う。

しかも、そのときには、すでに金融機関のどこからも借金ができん状態に陥っていたと話す。

困り果てたA氏は、金を貸してくれるという埼玉県の某全国紙の拡張団Y社の専務と名乗る人物と会い、個人的にということで金を借りた。

そして、その後、10年に渡って、その拡張団で拡張員として働くことになったという。

これも、ワラをも縋(すが)りたい人間にすれば「地獄で仏」に出会うたと思うたのかも知れんが、地獄に仏がおるわけがない。

地獄におるのは鬼と相場が決まっとるし、神様に近いのは閻魔様だけや。

いずれも地獄に迷い込んだ死者にとっては、やさしい存在とは言い難い。

そんなことは普通の状態で考えたら誰にでも分かりそうなもんやと思うが、切羽詰まった人間にはそれが理解できんのやろうな。

そこに掴めそうなワラがあれば、どうしても縋(すが)りついてしまう。

このとき、一体どのくらいの金を借りたのかが記されてないから、コメントするにも困るが、おそらくその手の拡張団がその人間に貸したのは数十万円〜100万円程度やなかったかと推察する。

今やったら、そんな大金を出す拡張団は少ないとは思うが、その頃はまだ業界では金で人を縛るという風潮があり、その人間次第では、その程度の金は用立てたと考えられる。

勤勉で逃げる心配の少ない気の弱い人間や、そこそこ営業できそうな人間なんかがその対象になる。

そのA氏と似たような状況の人間を何人も見てきたさかい、ワシには良う分かる。

もちろん、その拡張団がいくらうわべは親切を装うても、そんな甘い所は皆無やと言うてええ。

貸し与えた金は、獲物を釣り上げるための単なるエサでしかない。

その獲物はエサの数倍、数十倍の値打ちがないと意味がないから、金を貸した拡張団はそれを意味のあるものにする。

その仕組みが業界にはある。

新聞拡張団は、客からの契約を確保することで成り立っていると思われがちやが、それだけやない。

拡張団にとっては拡張員そのものが客になる。

何、それ? という人のために簡単に説明する。

多くの拡張団では住み込み用の社宅としてのマンションやアパートを用意しとるが、そこに住まわせるのにも、しっかり、金を取る。

団によって格差はあるが、だいたい家賃、光熱費の実費の倍くらいが相場やろと思う。

物件を持たずに大家になっとるようなもんやと考えればええ。

ついでに公共料金の上前もハネとるから、電気屋、ガス屋も兼ねとることにもなる。

もちろん、当然のように借金の返済も強要される。

釣った魚からエサを返せと言う釣り人はおらんが、拡張団ではそれを普通に言う。

「借りた金を返すのが当たり前やろ」という大義名分があるさかいな。

もっとも、そういう団に転がり込む人間は、一銭も持たず住む場所もないというケースが多いから、それでも仕方ないとあきらめとる場合がほとんどやがな。

通常、マンションやアパートを借りるには、そこそこの金がいる。

それがない者にとって、例え相場以上の金を取られると分かっていても、今すぐ寝る場所と食えるということだけで助かったと思い、感謝するわけや。

ありがたいと。

実際、A氏に与えられた寮の部屋は、カビだらけの不衛生な所やったというが、それでも辛抱したというのは、そういうことやと思う。

しかし、それも勤め出すと、その環境の悪さと思うように稼げんということで
嫌気も差してくる。

3度の食事に事欠き、公園の水を飲んで空腹を凌いでいたというから、よけいや。

ここまでは、ワシも実際にその手のケースを数多く見てきたさかい、そういう状況は分かるし、さして特別悪いという風にも考えていない。

この業界に限らず、フルコミの営業で稼ぎが悪いと、ありがちなことやさかいな。

このときのA氏の稼げんという事情が分からんから、決めつけるわけにもいかんが、一般論で言えば、多分に本人の責任もあると考えられる。

しかし、この後は、ワシですら、「ほんまかいな」と疑うような話が続いた。

A氏は、その環境を逃れるために、同僚から誘われるままに、その埼玉県のY団から東京都内のX団に移籍したという。

これは、おそらく、この業界で言う「身売り」のことで、X団はY団に借金の肩代わりをすることで、その移籍が了承されたのやと思う。

その同僚というのが、どういう役回りを演じたのかは分からんが、それに一枚噛んでいた可能性はある。

これも、業界では、ありがちな話や。

但し、これらについては、記事の中では一切触れられていないから、あくまでもワシの憶測にすぎんというのは言うとく。

まあ、当たらずとも遠からずという気はするがな。

そして、A氏の本格的な地獄は、ここから始まったという。

えぐい拡張団は、さらにいろいろな名目で拡張員から絞り取ろうとするのは良く承知しとる。

しかし、このA氏の場合は、ワシがえぐいと考えとる拡張団のはるか上を行っていた。

X団の雇用体系はフルコミの完全歩合制やった。

記事には2006年10月分の「支払い明細書」なるものが掲載されていた。

それによると、A氏は1本7000円の3か月契約96本、1本8000円の6か月契約6本を上げていて、総額104万円1600円の稼ぎがあったことになる。

この業界では優秀な部類になる。

ただ、この明細で気になった箇所がある。

それは「内金」として計上されている24万1000円が、収入に加算されとるという点や。

この「内金」は普通、前渡し金として日々渡される金額の合計されたもののはずや。

そうやとしたら、それは本来、収入総額から差し引かれるべきもので、それが収入として加算されとるというのが良う分からん。

もっとも、その内金が何かの報奨金やと言うのなら別やが、記事にも、


「内金」というのは、食費などにあてる1日の活動費として、契約をとった翌日に契約数に応じて支給されるもの(ただし、同額が給料から差し引かれる)


とある。

先のA氏の成績で計算すると、

1本7000円×3か月契約96本=67万2000円で、

1本8000円×6か月契約6本=4万8000円で

合計しても、72万円にしかならず、この明細にある総額104万円1600円にはならん。

さらに、奇々怪々なのは、加算されたその内金24万1000円と同額が、控除明細の中で「内金・立て替え分」として差し引かれとる点や。

これやと、行って来いになり、その「内金・立て替え分」は団がタダでA氏にやったことになる。

言うとくが、天地がひっくり返っても、そんなバカなことをする拡張団はおらんし、考えられん。

こんな奇怪な明細書を見たのは初めてや。

もっとも、それにはワシらの分からん、からくりが何かあるのかも知れんさかい、これ以上の詮索は止めとくがな。

いずれにしても、このとき稼げたのは確かなようやから、この場は、それで良しとしよう。

しかし、A氏曰く、ほとんどの月で赤字なったという。

さすがに、この10月は稼げたというが、それでもいろいろ差し引かれて60万6740円というのが、支払い額、つまり給料ということで明細に記載されている。

ところが、翌11月には給与明細上の支払額が37万8300円ありながら、実に9万3669円の赤字になっとるという。

それからすると、10月分、60万6740円も実際の手取り額はいくらなのかと思う。

当然やが、赤字になるには、差し引かれる金額があってということになる。

その控除項目を見て驚いた。

源泉分、11万2560円。旅行積み立て、5000円。というのは、まだ分かる。

もっとも、その拡張団が正しく税務署に申告して税金を支払っているとしてやけどな。

まあ、個人的には限りなく怪しいとは思うが、確証のあることやないので、これ以上、突っ込むつもりはないがな。

問題はこの後や。

部積み、5万1000円。労災2000円。共済2000円。ライセンス制度積み立て、7500円(全6回の1回分)。生命保険、8205円。

これらは、当たり前のように平然と並べられているが、どれを取ってもおかしなことやと業界関係者なら誰でも、すぐそれと気づく。

「部積み」の欄は500円が102とあり、102というのは上げた契約の総数102本(3か月96本、6か月6本)ことやと思う。

そうやとすると、本来この「部積み」は収入に加算されなあかんもののはずや。

通常、どの拡張団でも、ある一定以上の契約数を上げると、1本につき、いくらかのプレミヤがつき報酬単価が上がるシステムになっとる。

A氏の場合、契約数が100本を越えとるということで、それが500円というのは考えられることや。

「部積み」というのは、そのプレミヤのことでなかったらあかんが、そうやとしたら、何でその額が「控除項目」に平然と記されていて、差し引かれとるのやろうか。

これやと、この団では、上げた本数が多ければ多いほど、その単価が安くなっていくということになる。

ワシもこの業界に15年以上いとるが、そんな話は未だかつて聞いたことがない。

普通は逆や。

この業界は、契約を上げれば上げるほど稼げる仕組みになっている。

それだけは、どこの拡張団であろうとも絶対の真理やと思うてた。

また、サイトを開設して、もうすぐ5年になろうとしとるが、延べ千人以上を越える業界関係者の方々から日々、多くの情報が寄せられてくるが、その誰からも、そんな話が届くことはなかった。

「信じられん」の一言に尽きる。

ちなみに、関東で懇意にさせて貰っているある拡張員の方に、このプレイボーイの記事のことを知らせて、その調査を兼ねて、ご意見を伺った。

その回答や。


まず、埼玉の某拡張団の関係者聞いたところ、そんな団の話は聞いたことがないそうです。

次に都内の団にいた先輩にも聞きましたが、自分の団より待遇が良い話は聞いたことはあるが、こんなひどい話は聞いたことがないということでした。

お二方の話では、第一そんなに稼いでいるのに明細が赤字になっていたら、普通はすぐにやめるか、よその団に移るはず。

「お尋ね者」に関しては各団でも協力しあうことはあるが、普通はどこの団も有能な人材を欲しがっているから、もし本当に、月に100万円も稼げる奴がいたら、よその団から逃げてきても、その団でかばってくれるはず。とのことでした。

というわけで、私達の見解では、おそらく「やらせ」ではないかと。

第一、雑誌に出ている明細書は、本物の写真などではなく、どう見ても、雑誌用に製作したものだし。疑わしいことだらけですね。

結果的に、相手にする価値のない記事だということが私達の一致した見解です。


おそらく、この方から寄せられた情報が、関東方面の実態に最も近く、大勢を占めているものやと思う。

ただ、関東と言うても広い。

その方々の知らんほど酷いという団が、どこかに存在せんとも限らん。表向きは他と同じに装っているとも考えられるしな。

ということにして話を戻す。

さらに、「労災2000円」やなんて、良くも平気でこんな項目を掲げられるもんやなと思う。

労災保険は、従業員から保険料は一切徴収されず100%事業主が支払うものやと法律で決められとるものや。

当然、そんな徴収は違法になる。

ライセンス制度積み立て、7500円(全6回の1回分)に至っては言葉も出ん。

これは、日本新聞協会の新聞セールスインフォメーションセンター(旧新聞近代化センター)で支配下の拡張団に拡張員の登録を義務つけとるのやが、その費用のことを言うてるようや。

その費用が必要なのかどうかも分からんが、必要やとしても直接、拡張員から徴収するのはおかしい。

それに普通に考えて、そんなに高額の費用が必要なら、その登録をごまかそうとする拡張団はナンボでも現れると思うがな。

そんなことにでもなれば登録制度自体が成り立たんやろ。

ちなみに、ワシが以前いてた東海の拡張団でも、その登録のためと称してザラ紙に印刷されたそれらしきものにサインしたことがあるが、それで金など請求されたことも差し引かれることもなかったで。

それにも関わらず、こんなことが平然と行われいているというのも、今回初めて知った。

ちなみに、この件にしても、「そんなバカなことはないでしょう」というのが、先の拡張員の方の見解やったがな。

もし、これが本当だとしたら、この事実だけでも、その団を「新聞セールスインフォメーションセンター」に通報したらどうなるのやろうなと思う。

生命保険の8205円に至っては、団(会社)が掛けて徴収するもんやないやろ。あくまでも個人で入り、支払うものや。

穿った見方をすれば、その受け取り主を団にしていて、何かあれば借金などかせ残っていれば「死んで払え」と暗黙のプレッシャーを与えているとも受け取れる。

まったく、目を疑うとしか言いようがない。ふざけすぎとる。

さらに、話は続く。

A氏は、自分名義の車など存在していないと言うが、その「立て替え」項目には、車代、3万9840円(全23回の22回目)というのがある。

どう見ても、これは車のローンの支払いを意味しとるものや。

配下の団員数名の名前を使ってローンを組んで車両を購入するというケースは団により、まれにある。

その理由の多くは、一人の所有にしとくとその台数が多い場合、どうしても事故の確率も増え、自動車保険が高くなるからというものや。

しかし、A氏にそれと知らせず、その金を天引きしとるというから驚く。

その驚きは、その拡張団の悪辣さもやが、A氏がそれまで、それと気づいていないということも含まれる。

記事の内容から、どこか他人事のような響きを感じたさかいな。

ここまでなら、えぐい拡張団なのは確かやが、同時にそれと分からんA氏もどうかしとるという風にしか考えんかったやろうと思う。

その気にさえなれば、いくらでも対処のしようがあったはずやと。

しかし、事はそれほど簡単やなかった。

A氏は、体調不良で倒れるまで拡張員として働き続け、担ぎ込まれた病院でガンを告知されたという。

そのときA氏は、「死にたくないという思いよりも、これでようやく過酷な労働から解放されるという思いの方が強かった」と話す。

人ひとりが死んだ方が楽やと考えたという事実は重い。

そこまで追い込んだ「拡張」の仕事とは一体何なんやという思いがする。

同時に、ワシらは無力やとも感じた。

この5年間、何をしていたのやろうかと。

このA氏が、もっと早くに、サイトのQ&Aに相談してくれたら、それなりのアドバイスができたのにという思いが強い。

もっとも、それにしても本人次第ということもあるから、限界はあるやろうがな。

正直、ワシらは、少々、自惚れていた面があったのやないかと思う。

この業界では、そこそこ知れた存在になっとるから、新聞業界に関して困ったことがあれば、たいていの人は相談しにくるやろうと安易に考えてた。

事、新聞関連のQ&Aなら、ネット上、最も有名なサイトやからと。

そして、今回のA氏ほどの酷い状況が届いてなかったから、そういうのはないものやと考えていた。

せやからこそ、その記事を見て、少なからず衝撃を受けたわけやさかいな。

しかし、それにはネットができる環境を持ち合わせている人にとってはという、注釈が抜けていた。

ワシ自身も、ハカセと知り合うまでは、パソコンはおろか、インターネットなど別世界のもんやと思うてた。

ハカセとの出会いがなかったら、おそらく、今もパソコンを扱えんかったやろうし、インターネットなど見ることもなかったと思う。

今は、携帯電話でもインターネットはできるから、多少はその幅が拡がってはきとる。

実際、業界関係者の半数くらいは、その携帯のメールアドレスからメールが送られてくるさかいな。

しかし、食うや食わずの底辺に喘いでいる拡張員たちは、パソコンは言うにおよばず、その携帯電話を持つことすらできん者もいとる。

加えて、メールを書くには、ある程度の文章力が必要やと考える人が大半やから、それで相談するのも面倒やというケースもあると思う。

ハカセくらいになると、とんな文章でも読解する能力に長けとるから、上手いヘタなど気にする必要はないんやが、普通は、いくらそう言われても、なかなかそうかとはならんもんや。

一度、思い切って出せば、それと分かるのやけどな。

そうは言うても、それが難しいと考える人には難しいわけや。

ワシも、どちらかと言うと、その面倒やと思う側にいた人間やさかい、それが分かっていたはずやった。

それが、いつの間にか、ハカセと日々メールを交わし、ネットの情報に触れる機会が多くなると、その世界の方が主流というか、当たり前やと考えるようになってしもうてた。

当然やが、そのネットやメールのできん人には、ワシらのサイトの存在など分かるはずもないから、その悩みを訴えることなどできるわけがないわな。

本当に救いの手を差し延べなあかんのは、そういう人たちなんやが、アクセスの手段を持たん人には、ワシらではいかんともし難いのが実状や。

ワシらが普段しとる拡張と違うて、HPは訪問を待つしかないさかいな。

そこに途方もない無力感が生じると、ハカセも言う。

ただ、一縷の望みというか、その環境にない拡張員たちに、それと知らせられる可能性ならある。

それには、ワシらだけがどんなに頑張っても、どうしょうもない。

これを見ておられる人の協力が必要不可欠になる。

どういうことかと言うと、これを見ている業界関係者の方で、そういうジリ貧状態に喘いでいる拡張員の人たちに、ワシらのことを知らせてやってほしいということや。

相談のまた聞きというのでもええから、質問してくれれば、それに答えることができる。

実際、Q&Aには、幾つかそういうケースもあるさかいな。

ただ、いくら相談されても金の関わることには弱いというのは言うとく。

できるアドバイスも限られるし、大した助けにはならんやろうと思う。

その場合には、法テラス(注3.巻末参考ページ参照)というサイトがあるので、そこに相談されるとええ。

法テラスは国が設立した公的な法人で、北海道から沖縄まで全国展開している。

ここやと、A氏のように借金苦で喘いで、尚かつ弁護士を雇えないような人でも救われる可能性がある。

相談は無料でできるから、まずはそれから始められるとええ。

但し、地域により数日から2週間程度の待ちは必要とのことやけどな。

それを待っても、その値打ちはあると思う。

例え、裁判をすることになったとしても、その裁判費用は一般のそれと比べても格安でできるさかいな。

一般の弁護士では、民事裁判一件につき30万円というのが相場やが、この法テラスでは15万円以下ででき、しかも相談次第で立て替えてもらった上、その返済は分割にして貰えるという。

その分割額は5千円から1万円というのが原則とのことや。

記事にあったX拡張団のような、あくどい相手なら、裁判次第では不法に徴収された金の大半を取り返せるというのも可能になるはずやから、その中から弁護士費用を払うという手もあると思う。

これだけ低料金、低条件でやろうという弁護士さんたちの集まりやから、正義感に燃えている人が多い。

また、話の分かる人たちばかりやから、相談して損はないと思う。

もっと詳しく知りたいという方は、先ほど示したサイトを良く見てほしい。

ワシの説明だけやと、また聞きやから間違いがあるとあかんさかいな。

実は、ここでこれだけワシが言うてるのは、この法テラスに多少なりとも関わったことがあったという方から、是非とも読者の方に教えてあげてほしいと頼まれたことでもあるからや。

それを紹介する。


法テラスでは、社会的、経済的弱者を救済するのが目的の機関ですから、もちろん新聞拡張員などにはもってこいなのですが、逆に高所得者はこのサービスを受けることができません。

あくまで低所得者の救済ですから。

それと、弁護士費用を含む裁判費用(裁判所に収める印紙代等)も、立て替えてくれるわけですが、もちろん金融会社のような審査があるわけではありませんので、その辺のご心配もご無用です。

なので、借金苦で相談する「債務整理」や「破産申告」等の場合でも、もちろんこちらのサービスを受けることが可能です。


ということや。

金銭の絡む相談なら、こちらを勧める。

そして、ワシらのサイトのことも含めて、このメルマガを読むことのできる環境にある人が、それのできない人に教えてあげてほしいと思う。

世の中、ひとりで苦しむ必要はないのやと。



参考ページ

注1.第39回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ある拡張員が語る刑務所残酷物語
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage19-39.html

注2.第62回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ それぞれの事情 Part3 犯罪者と呼ばれし者
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage13-62.html

注3.法テラス
http://www.houterasu.or.jp/


感想 メルマガの感想です。

投稿者 Jさん  投稿日時 2009.613 PM 1:34


今週のメルマガ、拝読しました。ハカセさんのご要望がありましたので、ここに感想をお知らせします。

いろいろな角度からの見方はありますが、私は「デジタル・デバイド」の面から、コメントしたいと思います。

プレイボーイ誌の記事が、仮に架空のものだったとしても、おそらく、デジタルデバイドの点では誇張は無かったかと思います。

今回、ゲンさんが「自惚れていた」と反省されておられますが、やはり、インターネットが一般化して10年以上が経過したといっても、まだまだこのシステムは、全国に散らばる拡張員にアドバイスするためのプラットホームとしては、機能しえないものだったということなんですよね。

これはすなわち、むしろ「それ以前」の問題であることも、同時に言えます。

と言いますのも、今回、記事に登場する拡張員の方(拡張員だった方)が、もし、PCや携帯で、さまざまな情報にアクセスできるスキルをお持ちだったとしたら、おそらく、そもそも拡張員という仕事には就いていなかったはずだと思うからです。

ネットの掲示板などには、拡張員に対するネガティブ情報があふれていますので、ちょっと探せば、すぐにそういった情報を発見できます。

結果、拡張員に幻滅して他を探すという流れです。

もっと言えば、PCを操作できるほどの電子機器習得能力があれば、たとえ20世紀末の不景気の時代であっても、おそらく借金苦になる前に早々に転職できるはずで、最終的に、拡張団に出会う機会も無かったはずです。

現代社会は、ある意味、格差だらけです。その人が社会的弱者でない限り、困窮するという事態は、自分の努力の足りなさが招いた「自業自得」であると言われるのが、この社会の厳しいところです。

もちろん、自分の特技や才能をいくら鍛えても、「いい人」と巡り会えないがために不遇に陥る人もいます。

ゲンさんだって、ハカセさんに出会って懇意になったからこそ、今のようなアドバイスができる立場になられたわけで、それゆえ、身近に自分を助けてくれる人がいるかいないかの違いも大きいわけです。

なんだか、話が途中ですり替わってしまったようですが、とにかく、この社会から教育的格差を無くさない限り、不幸な人はいつまで経っても不幸の淵から逃れられないといった悪循環が続くという気はします。

さて、もう一つですが、大衆雑誌全般に関しての所感があります。

それは、時間つぶしで読む人は除きますが、「積極的に」雑誌を読むような読者の心理についてです。

もしかすると、不憫な人の記事を読むことで、自分はまだマシな方だと確認(安心)したいがために、あえて、センセーショナルな見出しの雑誌に手に伸ばすのではないかという推測です。

ここ数年、日本の中産階級だった世帯が、どんどん「下」に落ちていると言われています。

そういう記事が庶民に好まれるということを、出版社は熟知しているからこそ、このような記事は週刊誌に多いのではないかと思っています。

もちろん、こういった雑誌の記事の傾向は、もう何十年も前から変わっていないようにも思えますので、当たっていないのかもしれませんが。


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