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第61回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2009.8. 7
■悪徳業者の甘い罠 その1 不法投棄は誰のせい?
平穏な日常が、一本の電話で一変した。
「もしもし、サカキバラですが」
主婦のアカネがその電話に出た。
「キタヤマという者(もん)やが、あんたところのゴミが、うちの土地に大量に捨てられて困ってんねん。すぐ、どけてんか」と、いきなり機嫌の悪そうな野太い男の声がした。
「ゴミ? 一体、どういうことなんでしょうか……」
アカネにとっては、まさに寝耳に水の話やった。
「知らんとは言わせへんで。古いテレビとか洗濯機や冷蔵庫をホカした(捨てた)のは、あんたやろ。そっちの住所と名前、電話番号の書かれた書類が一緒にあったさかい、こないして電話しとんねん」
「あっ!!」
アカネは思い出した。
半年ほど前、一人の新聞勧誘員がやってきた。
もっとも、「古紙回収の者ですが」というのが、その第一声やったがな。
「お宅、本当に古紙回収の人?」
その古紙回収と名乗った男はスーツ姿の爽やかな印象の男で、とてもその作業中とは思えなんだから、訝(いぶか)しげにそう訊(き)いた。
「ええ、古紙回収の予約を取って回っている者です」と、その男は言う。
「古紙回収の予約?」と、オーム返しにアカネ。
「はい、この辺りの方は、それで困っておられる方が多いと聞きまして」
確かに、そういうのはある。
町役場から月一度の古紙回収にゴミ収拾の際に良く使われているパッカー車が回って集めには来るのやが、その集積場所が遠いのと、その古紙を出す時間が、当日の午前7時以降と決められとるため、ついつい出しそびれる人がこの辺りには多い。
以前は、前日からでも良かったのやが、それやとその古紙を盗んでいく指定業者以外の古紙回収員が多いということで、そうなったという。
そのため、出すのを忘れる、あるいは面倒がる者がいとる。
アカネがそうやった。
新聞は出しそびれるとすぐ溜まる。しかも、この辺りには、ちり紙交換車がなかなか来んから、よけいやった。
それもあり、アカネの家の物置には、その新聞や雑誌、ダンボールが溜まっていて、そろそろ限界にきていた。
「失礼ですが、お宅では、どこの新聞を取っておられます?」
「A新聞ですけど。ひょっとして、お宅、新聞の勧誘員さん?」
「ええ、そうですけど。分かりますか」
「それは分かりますよ。私はネットで『ゲンさんの嘆き』というホームページを良く見てますから。どこの新聞を取っているかなんて聞くのは勧誘員さんくらいですからね。あなたのしているのは、『ひっかけ』と言われている勧誘でしょ?」
アカネは、古紙回収を理由に勧誘に来るという話を、そのホームページで見て知っていた。
「参ったなあ、『ゲンさんの嘆き』を見ておられるのなら誤魔化せませんね。そのとおりです。当方のY新聞では契約して頂くと、新聞以外の古紙も一緒に集めますし、トイレットペーパーやサランラップのサービスもしていますので、これを機に新聞の購読をお願いできませんか」
イワタと名乗った拡張員は悪びれるでもなく、そう言いながら爽やかに笑う。
その仕草には好青年という印象も相俟(あいま)って、厭味がまったく感じられんかった。
「どうしようかしら……」
アカネは別にY新聞でも構わんのやが、夫のケイジロウが新聞を替えるのは嫌がる。
以前にも、そのY新聞の勧誘員が来て、あまりにもそのサービスが良かったので、替えようとしたが、そのケイジロウに反対されたというのがあった。
しかし、溜まった古紙類も何とかしたい。新聞の契約をすると言えば、その古紙は片づくはずや。
この感じのいい拡張員のイワタがウソをつくとも思えんかった。
迷うところや。
「古新聞がたくさん溜まっておられるんですね?」
「ええ、まあ……」
「失礼ですけど、一度、その溜まった古新聞を見せて頂けませんか」
「別にいいですけど、多いですよ」
アカネは、そう言いながら、イワタを裏庭に置いてある大型のスチール物置まで連れて行き、その引き戸を開けて中を見せた。
間口3メートル、奥行き2.5メートルほどのその大型物置の入り口付近には、大量の古新聞と週刊誌、ダンボールが所狭しと詰め込まれていた。
その奥には、テレビとか洗濯機や使わなくなった家具類が相当数押し込まれているのやという。
どう見てもその大型物置の収納は限界に達していた。
「どうです、奥さん。この際、不要品の処分も一緒にしませんか。僕がいつもお願いしている古紙回収業者の人は、その不要品の処分をしてますんで」
「でも、お金が相当かかるんでしょ」
家電リサイクル法というのがある。
これは、2001年4月1日から施行されとるもので、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機を処分する際には別途リサイクル料金というのが発生し、業者に頼むとその運搬費用も必要とされている。
今年の2009年4月1日からは、それに加えて液晶テレビ、プラズマテレビ、衣類乾燥機が対象品目に加わったという。
そのリサイクル法が制定されるまでは、自治体でタダで持っていってたものが、急に金がかかるということになった。
そんな費用を払うくらいならと大型の物置を買ってそこに仕舞い込んだのやという。
ここ8年の間に、その廃棄費用が必要とされる壊れたブラウン管テレビ2台と洗濯機2台、冷蔵庫1台、エアコン1台、壊れたパソコンのモニター2台がそこに入れられている。
それがある故に高額の処理費がいるのやないかと、アカネを言う。
「大丈夫ですよ。僕の知っている回収業者さんは良心的ですから、そんなにはかからないと思いますよ。何なら、今から電話で簡単にどの程度費用がかかるか聞いてみましょうか」
イワタはそう言うと、携帯電話を取り出し、その廃品回収業者とやらへ連絡をした。
「ええ……、そうです……。その程度ですね……、分かりました。それではそのように、お客さんには伝えておきますので」
その携帯電話を切ったイワタは、「回収業者さんの話ですと、2トントラックにリサイクル家電品も含めてどれだけ不要品を積んでも1車につき2万円で処理するとのことですが」と言う。
「リサイクル家電品も含めて?」
「ええ」
「それは安すぎませんか?」
アカネは以前、そのリサイクル家電品を処分する費用を知るために町役場でその処分費を記載されたものを貰っていて、それで計算したことがある。
それによると、ブラウン管式テレビ1台、2835円が4台(パソコンのモニターを含む)。洗濯機1台、2520円が2台。冷蔵庫1台、4830円。エアコン1台2625円の計、25835円が必要になる。
加えて、それぞれに運搬費という名目の手数料を加えると、ざっと4万円ほどになるという計算や。
リサイクル家電と言われている物だけでそれやった。
それにプラス、他の不要品も込みで2トントラックに積み込めるだけ積んでも2万円で処分すると言う。
それが本当なら安い。
「但し、それには条件がありまして、当方のY新聞を契約して頂かなくてはいけませんが」と、イワタ。
その廃品業者は営業力がないため、イワタがその客を見つけてくることでその営業費を押さえられるため安くできるのやと言う。
その処理費が安いと新聞の契約もして貰えやすいから、双方にメリットがあると。
加えて、お客も得をするので喜んで貰えるのやと説く。
「そうねぇ……」
アカネは、このときにはすでにその気になっていた。
後は夫のケイジロウをいかに説得するかだけやと、それを考えていた。
しかし、イワタは、そうは取らず、尚も迷っていると考え、ある提案を持ちかけてきた。
「奥さん、こうされてはどうでしょうか。僕の方は、これからずっとY新聞を取って貰っても、あまり意味がありませんので、3ヶ月だけの契約ということで」と。
イワタは、アカネの顔色を確かめながら、さらに続けた。
「それに、当店のサービスの方がA新聞さんよりいいですし……」
それは、知っている。
アカネの家は、夫のケイジロウの親の代から続く典型的な長期購読者というやつで、ロクなサービスがない。
そのA新聞から貰える物は、集金時の小さなゴミ袋と年末のカレンダーくらいしかない。
それが不満やった。
それを理由にケイジロウに新聞を替えたいと言うたことがある。
そのときは「そんなサービスほしさに新聞を替えるつもりはない」というケイジロウの言葉に、無理に逆らうこともないとあきらめた。
「それに、3ヶ月だけでも他の新聞に替えれば、そのA新聞さんも驚かれて次からはサービスも良くなりますよ」と、イワタが追い打ちをかける。
どこかで聞いた話や。
「確か、ゲンさんも似たようなことを言ってたわね」
「ええ、実は同じ内容のものがホームページにもあります。僕も『ゲンさんの嘆き』の大ファンで、ゲンさんは僕の師匠だと思っていますので、いろいろと参考にさせて貰っていますから」と、イワタ。
それでアカネは信用した。
ゲンさんのホームページを参考にするような拡張員さんに悪い人はいないだろうと。
ここで一言。
ワシらのサイトを信用してくれるのは有り難いことやと思う。
しかし、ワシらのサイトを見て参考にしていると言う者が、ええ人間やというのは何の根拠もないことやと言うとく。
結果的に、このイワタという男の話がええ加減やったからと言うわけやないが、サイトに訪れてくるという人間、とりわけ拡張員の中には、当然のことながら、いろんな者がいとるのが普通や。
営業の参考にしたいと考え純粋に勉強目的で訪れる方もおられるやろうし、客を騙すのに使えそうなネタはないかと考える不埒な輩もおるというのも考えられる。
ワシらは、お世辞にも清廉潔白とはほど遠く、叩けばホコリなんかナンボでも出るような人間や。
人にえらそうなことを言えた義理や資格なんかはないが、それでも多少なりとも人の役には立ちたいという気持ちだけはある。
ただ、哀しいかな、その気持ちがあってしとる事でも、それを受け取る人間次第では真逆になることが、世間では往々にしてある。
人の役にと考えていたのが、その扱い次第では人に仇為(あだな)す結果を招くこともある。
それは、ちょうど、良く効く薬を飲みすぎると毒になることがあるように、美味い料理を作るためにと良く研がれた包丁も人を傷つける凶器となり得るように、それを扱う人間次第で良くも悪くもなるという事と同じやと思う。
そこに、どんなに素晴らしい事が書かれていようが、その受け手により、いかようにでも解釈されてしまうわけや。
このケースも、それと同じことが言える。
サイトの『拡張員の1日』(注2.巻末参考ページ参照)の中で、
「奥さん、何もずっと取って欲しいというじゃないんですよ。3ヶ月だけでいいんです」
中略。
「でも……」
優柔不断な人間というのは、断るのも優柔不断やが、決めるのも良う決めきらん。
そうは言うても、ほとんどがこのパターンなんやけどな。
ここで、最後のプッシュや。
「奥さん、C新聞から毎年何かサービスしてくれますか?」と訊く。
ほとんどは「何もない」と答える。
古くから購読しとる客の中には契約書すらないことも珍しいことやない。
長期購読者には何もやらんというのが新聞販売所の大原則、不文律やから、わざわざ寝た子を起こすようなことはせんというわけや。
「奥さん、C新聞がやってるサービスを知らないんですか? 最低でも、一年のうち3ヶ月分の購読料は無料なんですよ」
C新聞にも勧誘員がいて拡材も同じようにある。
ワシの知る限り、C新聞は品物より無料サービスを軸にしとるようやから、こう言っておけば間違いない。
「でもね、長いこと取ってる人は可哀想に、販売店さんはお客さんには何も教えないから何もないままなんですよ。おかしいですよね。本当は、そんな長期購読者ほど大切にするべきなのに。だから、一度、脅かしのつもりでも、ちょっとの間、他の新聞を取ってみたらどうです。C新聞さんも、驚いて、次からはちゃんとサービスしてくれますよ」
これで、この母親の気持ちが大きく傾いた。
どんな人間も、自分だけ損をしていると言われてええ気はせん。誰でも、出来れば得したい。特にこの母親の性質ではほとんどがそう考える。
と言うてた。
それをそのまま、イワタという拡張員に使われた。
この話自体には、何ら問題はないと考えていて、勧誘の参考にでもなればという気持ちで言うたことやったが、今回のような使われ方もあると知った。
どんな言葉、教訓もその使い方次第で薬にもなるし、毒にもなるが、冷静に考えればそれが真実かウソかを見分けることはできる。
簡単なことや。
それが上手すぎる話であればあるほど、何か必ず裏があると用心するだけで、それと分かるはずやと思う。
世の中には上手すぎる話など絶対にないのやと。
もっとも、こういうケースで冷静にそれと考えられる人というのは、そうはおらんやろうがな。
また、このときは、そのイワタに、「どうされます?」と急かされたからよけいやった。
この機を逃したら、こんなええ話は二度と舞い込むことはない。
そうアカネは思い焦った。
「分かったわ。新聞の契約をしたら、不要品の処分は、すぐにお願いできるかしら?」
アカネは、3日以内にその約束を守るのならと考え、そう言った。
その約束を守らなければ、最悪、クーリング・オフをすれば済むという計算も働いて。
すると、「大丈夫です。話が決まれば明日には来ることができると言ってましたから」と、イワタが言う。
それなら、夫のケイジロウを説得するのは容易い。
新聞を替えるのは3ヶ月間だけのことやし、どうしてもそれが嫌やと言うのなら、Y新聞との併読でもええ。
ここいらは、たいていの新聞が全国版とかで朝刊しかないから、1ヶ月の購読料は3千円で、3ヶ月分やと9千円や。
しかも、スーパーで400円程度で売っている洗剤を5ケース貰ったから、それが2千円分ほどになると見込めば、実質的には7千円程度の出費で済む。
廃品の処理費用2万円に、その7千円をプラスしても、2万7千円ですべて片がつくから、それでも格安や。
このまま何もせずほっといたら、近い将来、それ以上の費用が必要になるのは目に見えとる。
何のアクションも起こさないケイジロウに文句は言わせない。
アカネは、そう考えた。
翌日の午前10時頃。
その廃品回収業者は約束どおり、やって来た。
いかにも手慣れたという感じで、アカネの指定した不要品を手際よく積み込んでいた。
トラックの前部の方に、テレビや冷蔵庫といった家電リサイクル品を積み、後ろに新聞や雑誌、ダンボールを積んでいた。
何でこんな積み方をするのかと聞くと、先に紙問屋に寄って、その古紙類を処分するためやと言う。
そのために、完全に仕分けしとく必要があるのやと。
アカネは、その作業が終わると約束の2万円を払って、その領収書を貰った。
それがトラックの横に書かれている社名と一致していたということもあり、それですべて終わったと安心していた。
それが、キタヤマと名乗る男からの電話で、その土地にアカネが業者に廃棄を委託したその不要品が不法投棄されていると知った。
「あのー、それは、廃品業者さんにお金を払って処分して貰った物なのですが」と、アカネ。
「そんなことは知らん。こっちはあんたのところのゴミを捨てられて困ってんねん。とにかく、すぐそのゴミを撤去してくれ」
「ちょっと、待ってください。こちらから、その業者さんに連絡して確かめますので」
「分かった。3日だけ待つさかい。それをすぎたら警察に不法投棄で訴えさせて貰うから、そのつもりでいとってくれ」と、キタヤマと名乗った男はそれだけを言うと電話を切った。
アカネは、その領収書を探し出し、その廃品回収業者に電話した。
「もしもし、M紙業ですが」と、事務員らしい女性の声がした。
「こちらは、京都の○○町のサカキバラと言いますが、半年前ほど前にそちらに、廃品回収をお願いした者ですが、それがどうも他の方の土地に捨てられているようなのですが、一体、どういうことなのでしょうか?」
「廃品回収ですか……。それは一体、どのような物ですか?」
アカネは、その内訳を話した。
「それは何かの間違いではありませんか。当社では、古紙類と衣類以外の回収は一切していませんけど」
「いえ、確かに、そちらの社名入りのトラックで来られました。領収書も貰っていますから、こうして電話しているわけですので」と、アカネ。
「その領収書というのはどんな?」
「えーと、それは……」と、その領収書を見ながら説明した。
「その担当員の名前は何と言ってました?」
「名前ですか……、それは聞いてませんが」
「そこにトラックのナンバーは何と書かれていますか?」
「トラックのナンバーは、ありません……」
アカネは、その問答を繰り返すうちに、段々と心細くなってきた。
「当社の社印がおされていますか?」
「そのようなものはありません。印刷された領収書に手書きで『金2万円也。廃品処理費として確かにいただきました』と書かれていますが」
「その領収書を見せて頂かないと何とも言えませんが、それはおそらく当社の物とは違うと思いますね。誰かが勝手に作った物ではないかと思われます。それに、当社では回収員には古紙類と衣類以外の回収は一切させていませんので、不要品などを集めることはないと思います」
そう、事務的にその女性が言う。
「それでは、お宅から来た人ではないと?」
「当社では、あり得ないことですから、そうとしか申し上げられません」
「そんな……」
「実のところ、最近、ちょくちょく、このような苦情が増えていて、こちらも困っているんです。警察に相談された方がよろしいですよ」
「うちが騙されたということですか?」
「その可能性がありますね」
その電話を切って、アカネはしばらく茫然自失になっていた。
騙された……。
その思いだけが頭の中を駆け巡った。
そうや。
アカネは、Y新聞の販売店に電話した。
「勧誘員のイワタさんという方はおられますか?」
「イワタ? イワタは、現在、当店には出入り禁止となっとるけど。会社の方もクビになったという話やけどな」と、電話の応対に出た男が、ぶっきらぼうにそう答えた。
「それでは、私のところの廃品回収の責任は誰が取ってくれるんです」
普段は、冷静なアカネやが、その受け答えに腹が立ってきて、かなりきつい調子で言った。
「何を言うとるのか分からんが、うちは、廃品回収業者やないで。古新聞も集めとらんしな」
「そうですか。それでしたら、警察に通報してもいいんですね?」と、アカネ。
「さっきから、何をわけの分からんことを言うてんねん。警察でも、どこでも言うていかんかい!!」
その販売店の男は、そう怒鳴って電話を切った。
そのアカネから、メールが届いた。
いつも、サイト、メルマガを楽しみにさせてもらってます。
実は、新聞とは関係のない話かも知れませんが、たいへん困っているので相談に乗ってもらえないかと思い、メールしました。
中略。
……ということなのですが、どうしたらいいのか途方に暮れています。
なにかいい方法があれば教えて下さい。
どうか宜しくお願いします。
今回の相談は、新聞のトラブルと直接関係するかどうかが微妙やと判断したので、サイトのQ&Aではなく、このメルマガで取り上げることにした。
そのときのワシの回答や。
回答者 ゲン
結論から先に言うと、相手のキタヤマ氏に「私も被害者です」と伝えて警察に通報して貰うた方がええと思う。
本来なら、あんたの方でその当事者である、その不要品の回収に来た人間とそれを勧めた勧誘員に連絡し、責任を取って貰うべき事案やと思う。
しかし、そのいずれも行方が定かやないという状況では、その連中を個人の力で探すのはとても無理な話やさかいな。
また、その人間が、その古紙回収業者である「M紙業」を騙ったのか、そこの従業員が会社に無断でそれを行ったのか、それをあんたに突き止めるのは無理やろうしな。
さらに、クビになったという拡張員のイワタを追跡することなど、素人さんには限りなく不可能やと思う。
しかも、その行方を突き止めたとしても、そのイワタという男が、どこまでこの件に関わっていたのかも分からんしな。
キタヤマ氏が「不法投棄」で警察に通報したとしても、その警察署が本腰を入れて捜査をするかどうかはワシには保証できんが、少なくとも、あんたが被害者やったという実証はできるはずや。
不法投棄されたという不要品の中にあんたを特定する名前、住所、電話番号が記載された書類があったということは、その警察がそれを事件化するためには必ずその事情を聞いてくるのは間違いないと思う。
その際、その業者名入りの領収書を示せば、あんたは単なる依頼者やと分かるやろうからな。
その後、その廃品業者が、どうしたかという責任まであんたが気にする必要はない。
今回の場合、そのリサイクル家電があると承知で処分を引き受けとるわけやから、それをせず不法投棄したというのは、明らかにその業者の責任や。
この事件は京都ということで、ワシの昔からの友人でもある古紙回収業者のテツという男に、その「M紙業」について聞いたところ、そこそこ名の通った業者やというのが分かった。
あんたが、それを知っていたかどうかは分からんが、それで信用したとその京都の警察署も考えると思う。
無理もないと。
今回のケースは、その関与について「M紙業」は否定しとるようやが、その真偽についてはあんたには関係ない。
他の誰であっても、たいていは信用するはずや。
その社名入りの領収書やトラックのナンバーまで控えるような依頼者もおらんやろうし、その義務もないさかい、それを責められるいわれもないしな。
その身の潔白の証明は、その「M紙業」自身が警察署にすればええことや。
ちなみに、あんたにそれを斡旋したという拡張員については、直接の実行者やないから、その警察署はその行方を追いかけるようなことまではせんのと違うかなと思う。
そのイワタという拡張員が関係しとるかどうかは、そのやってきたという廃品回収業者の人間を捕まえんことには何とも言えんからな。
もっとも、その行方が分かれば事情くらいは聞くやろうがな。
その廃品業者から、分け前を貰っていれば共犯ということになるし、単に契約を取るために業者を斡旋したというだけなら、大した罪には問われんということになる。
そのいずれとも考えられるが、あんたの話だけで、それを特定するのはワシには無理や。
ただ、常習性があるというのは分かる。一件や二件のことやないと。
そのキタヤマ氏の土地の状況を見てないから何とも言えんが、おそらく、そんな真似をしたのは、あんたのところだけやないはずや。
他にもあると考えた方が自然やと思う。
あんたのところの不要品だけが、そこに放置されとるというのなら、警察沙汰にして事を大きくするよりも、地元の役所に問い合わせて、その処理を依頼して済ませるという方法もあるがな。
これは、たまたまやったが、ワシの友人のテツが、その放置された近辺に居住しとるというので、あんたから知らせて貰うた住所を頼りに、その現場を確認するとか言うてたから、すぐにそれが分かるはずや。
その返事待ち、結果次第というのもあるが、ワシとしたら、警察にゲタを預けた方が懸命やと思う。
そう回答した。
翌日、テツから連絡が入った。
テツは、その住所に行って驚いたという。
その地域は、その町の中心地に近く、住宅用に区画整理はされた地域やった。
しかし、あまりにも長く放置されたままになっていたようで、辺り一面、雑草が伸び放題になっている。
テツが、アカネから教えてもらった住所の近くにやって来ると、そこら中、ゴミの山やったという。
ワシの予想が的中したことになる。
これやと、おそらくアカネの家から出たという不要品を特定するだけでも、相当困難な作業になるとテツは見た。
どうしようもないやろうなと。
テツは、たまたま、その近くの家の庭で、家庭菜園をしている老夫婦と出会い、話を聞くことができた。
それによると、ここは20数年前、町興しの一環として住宅用に整地された場所で、大々的に売りに出された土地やったという。
計画では、学校ができスーパーや病院が建ち並び一大住宅地になるはずやった。
それが、バブルの崩壊後、その計画を進めていた建設会社が撤退し、それに伴い、水道や電気、ガスといったライフラインの推進計画も中止になり、荒れ地になった。
その当時、かなりの高値で、半ば騙された形でその土地を買わされた大阪や京都市内の一部の住民が集まり、共同で井戸を掘り、電気も自前で引き込んで住み始めた。
その数、20軒余り。地域全体の1割にも満たないと話す。
その老夫婦は、その中の一軒やった。
その他の土地所有者の大半が他府県の人間ということで、手入れされることもなく長く放置されていた。
それでも、区画整理されている土地やから誰かの所有地というのは分かる。
中にはその土地にバリケードを張ったり、名前を書いた立て札が打ち込まれとるさかいな。
それが、ここ数年の間に、急にゴミが多く持ち込まれるようになった。
アカネに電話してきたキタヤマもその中の一人やと思われる。
住民の誰かが、それに対して廃棄する人間に文句を言うと、「ここは、昔、オレが買った土地や。何を置こうが文句を言われる筋合いはない」と、切り返されたという話や。
それを言われると、それを確かめる術のない住民にはどうしようもない。
「私らのように、こうして畑にしている所へは、さすがに誰もゴミは捨てに来はらしませんが、そうでない所は見てのとおりです」という状態になった。
テツは、ついでということで、その町役場に行った。
すると、町役場でも、その手の苦情が多く、そのゴミの処理に困っているのやという。
そのゴミをすべて処理するには数千万円の費用がかかると試算されているため、どうすることもできんと。
「今回のことは、おそらく、そのM紙業の回収員たちが、その小遣い稼ぎに会社には内緒でやっていたことやないかと思う」と、テツ。
そのM紙業の回収員というのは、京都で「ちりこ」と呼ばれているちり紙交換員のことで、その生活実態は悲惨さを極めているという。
その詳しい実態は、旧メルマガ『第47回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞報道の裏読み?』や『第177回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■もう一つの新聞裏話 Part1 古紙騒動の是非』(注2.巻末参考ページ参照)で話したことがある。
現在、古紙の値段は、新聞で1キログラム7円前後とその頃に比べれば若干持ち直しとるとは言うものの、それでも生活が維持できるほど稼げる仕事やとは言い難い。
現在、ちりこの平均日収は、すべての経費を差し引くと良くても1000円程度で、ヘタしたら赤字になる者も多いという。
そんな世界や。
そのため、会社に隠れて、この廃品回収のアルバイトをする者が後を絶たんのが現状やとテツは言う。
実際、このM紙業に限らず、同業者のちり紙交換員で、その不法投棄をしている現場を見つかり警察に捕まったという人間は相当数いとるとのことやさかいな。
現在、不法投棄は5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金という規定がある。
まあ、そうは言うても、たいていの場合、数十万円程度の罰金刑というのが多いようやがな。
ただ、そんな連中では、その数十万円程度の罰金と言うても払えんから、1日5000円程度の計算で拘置所に入る方を大半が選ぶ。
それに対して、そのM紙業などの会社は、従業員が勝手にやったという理由でその従業員の救済はおろか、弁償などの責任を取るようなことはない。
知らぬ存ぜぬで通す。また、法律的にも個人の犯罪ということで通るようや。
会社が禁止行為にしとる事を隠れて破るのは、どうしようもないと。
まあ、実際にもそうやろうとは思う。
もっとも、そんな人間でも拘置所を出所してきたら、またそれらの会社で雇うとるケースもあるという話やから、何かええ加減で釈然とせん思いはするがな。
結論とすれば、ワシが最初に言うたように、そのキタヤマに警察沙汰にして貰い、善意の依頼者を主張すればええということになる。
テツからの報告も一緒に、アカネにはそう伝えた。
後日、そのアカネから返礼のメールが届いた。
その節はいろいろとアドバイスしていただき本当に有り難うございました。
ゲンさんの仰るように、こちらは業者さんに依頼しただけですし、その証拠もありますので、ぜひ、警察に被害届けを出すようにとキタヤマさんに言いました。
キタヤマさんは、そうされるとの事でしたが、その後、キタヤマさんからも警察からも何も言って来ません。
ゲンさんのアドバイスとテツさんのお話から、少しは安心しています。
それにしても、今度のことはいい教訓になりました。
ゲンさんの言われるとおり、上手い話はないと肝に銘じて、これからは気をつけたいと思います。
これから暑い日が続きますが、ゲンさんハカセさん、お身体には気をつけてください。それから、テツさんにもよろしくとお伝えください。
それでは失礼します。
と。
こういう被害者にならんためには、各自治体に相談して、そこからやってくる正規の業者に委託するしかないと思う。
このアカネのケースのように、訪問してくるような人間の甘い誘いや口車には乗らんことや。
あるいはチラシの広告を見ただけで依頼するのも極力、避けた方がええ。モグリの業者も多いというさかいな。
現在、不法投棄の問題は全国規模で拡がっている。
テレビや新聞、雑誌などのマスコミで取り上げられることが多いが、一向に減る兆しは見えない。
もちろん、それをする業者が悪いのは確かやが、今回の場合には、その連中にも哀しい事情があったと思われる。
もちろん、いかなる事情があろうと法を破る行為が正当化されることはないがな。
あってはならんことや。
ただ、一体誰のせいで、こうなるのかと考えた場合、ワシにはその答が見えて来んだけの話でな。
問題の根は深い。そう思う。
参考ページ
注1.拡張の手口
注2.拡張員の1日
注3.第47回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞報道の裏読み?
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