メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第69回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2009.10. 2


■そこにある危険で身近なトラブル その1 万引き犯との格闘の末に


ワシはなぜか昔からトラブルには良く遭遇する。

もっとも、正しくは首を突っ込むというのが、そのトラブルを招く大きな要因なんやけどな。

営業の仕事をしとると、客がトラブった、またそれで困ったと言われ相談されることが多い。

性格的なものもあるが、人間関係の構築を第一義として営業しとる建前から、そういう相談には、つい乗ってしまいがちになる。

頼まれると無下にほっとけんわけや。

因果な性分であり、因果な営業スタイルやと自分でも時々思うけど長年それでやってきたから仕方ない。

おそらく、それは、これからも変わらんやろうと思う。

まあ、基本的にトラブルの対処には自信もあるし、嫌いやないから別にどうということもないがな。

すべてとは言わんが、たいていの揉め事なら解決の糸口程度は見つけられるという自信と自負がある。

少なくとも落としどころくらいは見つけられると。

サイトでQ&Aをやってるのも、それがあるからやしな。

ワシが週に一度配達している「置き配」コースに組み込まれいるコンビニのアルバイト店員、タダシから、あるトラブルについての相談を受けた。

ワシは現在、「専拡」というて、某新聞販売店グループの専属の拡張員をしとる。

基本的には「専拡」というのは店の配達や集金はせん。営業オンリーや。

ただ、そうは言うても、誰かが困っているというのを聞くと、いつもの悪い癖で、つい「それくらいならワシがやろうか」と安請け合いをしてしまう。

今回の「置き配」というのもそれで、いつもはグループ店のマミヤという店長がしとるのやが、その店長が休みを取る週に一度、ワシが「代配」しとるというわけや。

部数は1000部近くもあるが、30ヶ所ほどの指定の場所にライトバンで配達するだけやから、小1時間程度で済む軽い仕事やったがな。

たいていは、午前4時過ぎから5時頃までには終わるさかい、ちょっとした早起きをするだけでええ。

若い頃なら、その早起きも苦になっていたが、この頃は歳のせいか朝目覚めるのが早い。

何もない日でもその時間に起きることも多いから、特に負担やということもない。

主な配達先には、公団住宅の指定場所、オートロックおよび管理人常駐の大型マンションのドア前、数カ所の住宅地の指定場所というのがある。

こういう所では、所定の場所に新聞を置いておくと、その建物や地域の「請負配達人」という人たちによって、それを各家に配達するというシステムになっている。

「請負配達人」について説明すると長くなるので、旧メルマガ『第156回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■悩める人々 Part4 請負配達人の憂鬱』(注1.巻末参考ページ参照)を見て頂ければ、その大凡の仕組みが分かって貰えると思う。

他には、駅売店の前、コンビニ、ホテルといった数部から数十部まとめて配る所なんかもそのコースに入っとる。

それがワシの言う「置き配」や。

タダシのいとるコンビニもその内の一軒やった。

週一とは言うても、そこは営業人間のワシのことやから黙ってその新聞を置いてくるだけやない。

たいていの場合、早朝のコンビニには客がほとんどおらんから暇ということもあり、そこの担当者とは一言、二言、世間話を交わすように心がけとる。

その短い会話に、前回のメルマガで話したようなジョークを交えると心やすくなれる確率が上がるわけや。

人間関係というのは、そういう些細なところから始まって作られていくものと思うとる。

そして、その人間関係が営業員にとって有形無形の財産になると。

もっとも、その分、厄介事を背負い込む確率も増えるわけやがな。

1ヶ月前、その事件は起きた。

午前2時過ぎ。

店内に一人の若者が入ってきて雑誌売り場で立ち読みを始めた。

コンビニには良くあることや。

タダシは他に客もいないという事と、その客がすぐには買い物を終わりそうにもないと判断して、レジのすぐ奥にある事務所の椅子に座って雑誌を読んでいた。

念のため、その客がレジに来た場合、すぐ対応できるようにと、防犯カメラの映像に時折目をやって、その客の姿をそれとなく眺めていた。

すると、何やら怪しげな動きをしているのに気がついた。

その若い男はレジの方を何度も気にする仕草を見せ、素早く手持ちのスポーツバックにコミック本数冊を投げ入れた。

万引き。

タダシは即座にそう判断した。

その若い男は何食わぬ顔で、週刊誌を片手にレジでその分の会計を済ませ店外に出た。

それを待ってタダシが後ろから声をかけた。

「お客さん、お支払いは他にありませんか?」

「ああ……、別に……、な、ないけど……」

明らかに動揺しているのが見てとれる。分かりやすい男やった。

「困りますね、お客さん。そのカバンにコミック本を入れたでしょ。防犯カメラで見ていたんですよ」

「……」

タダシは、そう言うと、その若い男に、「申し訳ありませんが、ちょっと事務所までご同行願えませんか」と促した。

これは、多くの食品関係のスーパーやコンビニ、商店などで実行されているマニュアルの一つで、その客がどんなに怪しくても、その行為の最中では咎め立てしないようにと決められている。

これは「隠し持った商品を会計をしないで店外に出る」という行為がなければ、犯罪として立件が難しく警察が逮捕しないケースがあるためやと言われている。

店外から一歩外に出れば代金を支払う意思がないということが明らかになるが、それ以前にレジを通過したというだけでは「うっかり払い忘れていた」という言い訳が通用することもあるということでな。

その言い訳が通用すれば「犯人扱いするのか」と逆に店側が責められる危惧も生じる。

それを防ぐためのマニュアルなわけや。

もっとも、そのケース毎で各警察署の担当警察官の判断次第というのもあるから、それを厳格に守らんと、その罪に問えんということでもないが、より確実で安全を期すには、そうするのが店側とすれば一番ええという結論になる。

まあ、それがなくとも常識的に店側の人間が他の客の見ている店内で揉め事を起こすのはまずいというくらいは誰にでも分かるやろうがな。

タダシは、その若い男を半ば強制的に促して事務所に連れて行き、椅子に座らせた。

「君のしたことは窃盗になるんだよ」

タダシは、もうすぐ30歳になる。その若い男はどう見ても、まだ20歳前後そこそこにしか見えなんだということもあり、そういう上から目線の口調になった。

加えて、万引きをまるでゲーム感覚でもあるかのように軽く考えとる若者に対して憤りを覚えるというのもあった。

そういうのが、コンビニの「万引き」に多い。

見つかって「運が悪かった」と平気で言う若い人間を何人も見てきたからよけいや。

罪の意識がほとんどない。

それが故に、あえて「万引き」やなく「窃盗」と言うたわけや。

「万引き」というのは、あくまでも俗称でそういう名称の罪名はない。正しくは刑法第235条の窃盗罪や。

その罪名で裁かれれば、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処すると定められている。

「万引き」とは江戸時代から使われている言葉で「間引き」が変化したものという説が有力とされている。

また、「万」というのは「間」と「運」の意味が含まれる当て字で、そこから商品を間引いて盗むにはタイミングの「間」と運次第ということで、現代に至っても、そう言われ続けとるのやという。

タイミングが悪いことを「万が悪い」と言うのも、これに由来している。

したがって「万引き」という言葉そのものが、軽い響きだけではなく意味を持っているということになる。

それを考えれば多分にゲーム的な要素があるとも言えるが、所詮は盗みに変わりはない。ただの泥棒や。

「盗人にも三分の理あり」というのは認めない。

その思いが、タダシには強かった。

その思いが「万引き」やなく「窃盗になるんだよ」と言わせた。

「……」

その若い男は、そう言われても押し黙ったままやった。

タダシは、これではラチがあかんと考え警察に通報した。

その電話で事件のあらましを説明しているとき、その若い男は、いきなり走って逃げ出した。

タダシもすぐその後を追った。

若い男は、乗ってきたと思われるコンビニの表に止めてあった自転車に跨(またが)った。

タダシは尚も、その後を追う。

学生時代は陸上部で鳴らしたということもあり足には自信がある。

それに、若い男が逃げた先は行き止まりになっていると知っていたから、逃げられないという思いもあった。

案の定、ものの100メートルも行かずに、その若い男はその行き止まりの壁に阻まれて立ち往生していた。

観念するかと思いきや、その若い男はタダシの横をすり抜けて強行突破して逃げようとした。

このとき、タダシは腹を立てていたということもあり、力ずくでねじ伏せて捕まえようと飛びかかった。

自転車ごと押し倒して激しく揉み合った。

激闘の末、何とか取り押さえることができ、通報で駆けつけた警察官にその身柄を引き渡した。

タダシは、そのとき興奮していて自覚はなかったが、揉み合った際、かなりのケガを負っていた。

両手の甲と両膝の打撲や挫傷、擦り傷の痛みもそうやが、中でも利き腕の右手の痺れが特にひどかった。

その日の朝、病院に行ったところ「右手背捻挫」で全治3週間と診断された。

タダシは、昼間は個人でデザイン事務所を経営していて、夜間、このコンビニでアルバイトをしていた。

そのコンビニのアルバイトは、この1ヶ月間休んでいた。

またデザインの仕事をしようにも、利き腕の右手がまったく動かせんからどうしょうもない。

そのとき、請け負ったデザインの納期が迫っていた。

納期に間に合わせないと報酬も貰えないし、信用も失う。そう考えて、やむを得ず、その仕事を外注に出すことにした。

タダシは、現在までの分、および今後必要になる病院の治療費と休業補償分と外注依頼分を含めた損害賠償請求を、その犯人にしようと考えた。

後日、その若い男はまだ高校生だったということが分かったので、その請求先を親である保護者にしたという。

その請求額の合計が約200万円。

示談交渉の場でその金額を提示すると、その親は「そんな高額は無理です。裁判でもなんでも起こして下さい」と言って応じようとしなかったという。

それでは仕方ないと考え、タダシは民事による損害賠償訴訟を起こすことにした。

「確かゲンさんは民事裁判のことには詳しいと仰ってましたよね?」

「詳しいと言えるかどうかは分かりませんが、昔、建築関係の仕事をしていたとき、裁判沙汰に関わる事が多かったので、普通の人よりかは場慣れしているというのはありますけどね」

「僕の場合、どうしたらいいでしょうか?」

「あんたのケガに対して、その高校生は傷害罪に問われてますか?」

罪に問われて起訴されているか、どうかというのは、こういった示談交渉には大きく影響する。

「いえ、一応そのとき警察の方が、ケガをした部分の写真も撮ってはいましたが、後に傷害罪ではないと判断した言ってました」と、タダシ。

「そうですか」

それやと「始末書」を書く程度で放免ということになる可能性の方が高い。

親を呼んで、きつく説諭する程度やな。

普通、店員が万引き行為を阻止しようとしたとき、その犯人が暴力を振るえば、例え、かすり傷程度であっても強盗罪が成立するとされている。

これを「事後強盗」という。

ただ、タダシの場合は、その「万引き」行為の最中ではなく、それが一旦中断され、警察に通報中に逃げ出したところを追いかけて格闘になったという点で、その事後強盗という線が見送られたのやろうと思う。

もちろん、このような事案のすべてで、そういう判断をするかどうかは何とも言えんが、この程度の事案であればその警察署の裁量の範囲内とされる場合が多い。

その高校生がその罪に問われていれば成人の裁判にかけられ、それなりの罪に服さなあかん場合もあり得る。

軽くても少年院送致、保護観察処分は免れんやろうと思う。

それを阻止する、あるいは減刑するには、被害者への心証を良くする必要がある。

その前提があれば、当然の事ながら示談交渉は有利に働くということになる。

被害者が黙っていても、加害者側から積極的にその働きかけがあるのが普通や。

被害者の心証を良くして少しでも裁判を有利にしたいというのは本人はもちろん、身内もそう考えるさかいな。

先ほど、ワシが「罪に問われて起訴されているか、どうかというのは、こういった示談交渉には大きく影響する」と言うた意味が、それや。

裏を返せば、被害者の心証に訴えかける必要がなければ、その交渉に応じるまでもないということになる。

それが呑めないような条件やと思えば尚更や。

タダシのケースは、それやったと思われる。

「それでは、裁判に訴えても損害賠償をして貰えるのは難しいということですか」

「そうは言いません」

被害者が損害賠償を請求すること自体は正当な権利やから、そうするのは問題ない。

この場合、犯人が未成年やから、その請求先は親権を持つ保護者ということになる。

損害賠償請求には、治療費などの実費やケガにより痛い思いをしたり生活上の不便を被ったりしたことに対する慰謝料、ケガにより会社や仕事を休まなければならなくなったその間の休業損害などがある。

ケガに関しては医師の診断書と治療費などの実費が分かる領収書を集め、用意すればええ。

慰謝料については、通院日数とケガの程度に応じてある程度、相場というべきものが判例にあるにはあるが、その事案により必ずその相場どおりになるとは限らんから、その相場は参考程度に考えとく必要がある。

休業損害については、そのケガによる個人経営の仕事への影響、コンビニエンスストアーを休業することによる損害の保障などがある。

それは個々に、その証明を付けて請求すればええことやと思う。

相手が、その示談交渉に応じなければ、民事で損害賠償訴訟を起こすしかない。

民事裁判を個人で起こす場合は、管轄の家庭裁判所に出向き、所定の書類に記入後、印紙代と郵便切手代を支払えばできる。

印紙代は請求する金額に応じて変わる。いずれにしても、個人でするのなら、費用は多くても1、2万円までで済むはずや。

ただ、相手が弁護士を立てて争ってきた場合、法律の素人がその専門家と渡り合うのは、どうしても不利になる。

そのため普通は弁護士に依頼するというケースが多くなる。

弁護士に依頼する場合、こういった民事の相場として弁護費用は30万円というのが一般的とされとるが、依頼する弁護士によってそれは違うてくる。

弁護士と一口に言うても、いろいろやさかいな。詳しくは、その弁護士さんに聞いて貰うしかない。

それで納得できれば依頼したらええわけや。

もちろん、自信があれば個人で訴えるのでも構わんがな。

ただ、その前に、加害者に請求額の支払い能力があるかどうかを確かめとく必要があるというのは言うとく。

今回の場合、高校生ということやから働いてないわけで、一般のように、その給料を差し押さえるということはできん。

保護者にしても財産がない場合、その支払い拒否をされると強制執行するのは厳しいと考えといた方がええ。

つまり、加害者側に財力、資力がなければ、残念ながらどんな法的手続きを採ろうとも無意味になる可能性が高いということや。

その相手の人間性次第という面はあるが、ない袖は振れないで済まされることも現実に多い。

もっとも、裁判所にその判決を貰っておく事で、その高校生が後日、成人して働くようになれば支払って貰える可能性はあるがな。

「それで、ゲンさんから見て、私の請求は認められると思いますか?」

「さあ、それは何とも言えませんね。裁判というのは正直、やってみないことには分かりませんから」

過去において民事裁判に立ち会うた際の経験で言うのやが、これはまず勝てそうやと思ったものがそれほどの成果を得られなかったという事例や、こんな要求はとても無理やろうなというものが案外、そのまま通ったというケースが幾つかあったさかいな。

同じような事案であっても、関わる裁判官、検事、弁護士などでその判決が大きく違うというケースはいくらでもあるということや。

裁判に絶対はない。

こういう質問や相談をしてくる人間には、そう答えておく方が無難やと思う。

ワシのように、営業員として客と相対して言う場合は特にな。

当たり障りのない事実のみを告げて、後はその相手の判断に委ねるようにするわけや。

そうしておけば、仮にその裁判が不調に終わったとしても「あんたが裁判したら勝てると言うたからそうしたのに負けたやないか」という非難や責任転嫁をされずに済む。

それが営業員としての処世術ということになる。

ただ、これがサイトのQ&Aに相談してきた場合や友人、知人、身内などの心やすい人間になら、また違った回答をするがな。

営業員にとって客に嫌がられる言動は極力避けなあかん。

当然やが、例えその相手のためを考えたにせよ意にそぐわん直言をすれば嫌がられ、怒り出すことも多いさかいな。

そうなれば、その客は離れて行ってしまう。そうなったんでは何にもならんからな。

良かれと思って助言したことが徒(あだ)になるわけや。

人は知っている事があると、つい披露してしまいがちになるが、そうするには十分な注意を払ってせなあかん。

そこまで考える必要があるのかと言われれば、営業員なら、そうやと言うしかない。

相手のことを考えるのは悪い事やない。ワシも普段から相手の立場に立って物事を考えるべきやとも言うてるしな。

しかし、営業の場合は、それを言えば相手がどう思うか、反応するかということにまで配慮する必要がある。

特にワシらのような対面営業は、その客と1対1やからな。その相手にどう思われるかが、契約の成否に大きく関わってくるさかい尚更やということになる。

極端な話、少々自説を曲げてでも相手に迎合するくらいの度量が必要やと思う。

それが営業やと割り切って。少なくともワシは、そうしとる。

ところが、サイトのQ&Aやこのメルマガで話す場合は違う。

純粋にその相談者のためという前提に立って、正しい事は正しい、間違っていると思う事、おかしいと感じる事は、そのままストレートに言うようにしとる。

当然のように、苦言や提言も多い。

サイトのQ&Aやこのメルマガで言うてることは営業目的やないさかいな。

もっとも、その苦言を中には自身を否定、もしくは批判されたと受け取ってサイトを離れて行く人が中にはおられるけどな。

それは仕方ない。真意を分かって貰えないのは残念ではあるが。

もし、タダシがそのQ&Aに同じような相談を持ちかけてきたとしたら、こう答えるやろうなというのを、これから話す。

ただ、今まで話したことも同じように伝えると思うので、その部分は重複するさかい省かせて貰う。


回答者 ゲン


『それで、ゲンさんから見て、私の請求は認められると思いますか?』ということやが、この件はかなり難しいのやないかと思う。

少なくとも100%の請求が認められる可能性は低いという気がする。

『逃げようとした犯人を力ずくでねじ伏せて捕まえようと飛びかかった際、ケガを負わされた』というのを裁判所がどう判断するのかが焦点になる。

ここで大きな要素となるのは、その犯人がその傷害を負わせる意志があったか否かということや。

その点で言えば、その加害者は、あんたから逃れるために抵抗した結果、そうなったということは明白やから、ケガを負わせようという意志はなかったものと判断される可能性が高い。

警察が「傷害罪」に対してお咎めなしとしたのは、そのためやと考えられる。

警察や検察は、かけた容疑の罪で裁判に勝利できんと判断すると、その罪を適用せず、他の確実な罪で起訴に持ち込む。

それが困難な場合は不起訴にする。

ここで断っておくが、不起訴という処分は「無実」の可能性が高いとか「疑わしき者は罰せず」の法の精神があるからというより、起訴に持ち込んでその罪に問えるかどうかということで判断されるものなわけや。

つまり、検察がその裁判で勝てる可能性が高いと判断した場合には起訴となるし、反対に勝てんと考えれば不起訴ということになる。

日本の司法での「有罪率99%」と言われている裏にはそれがある。

警察での判断は「放免」となる。その際、形式的に「始末書」くらいは書かされるが、言うても、それで終わる。

また、その犯行が中断された状態やったというのも、あんたに不利に働く可能性がある。

その犯人が、商品を持ったまま逃走を図ったという場合なら、あんたにはそれを阻止するという正当な理由があったと考えられるが、その商品を回収した後、逃げた人間を追い詰めた結果、格闘になったというのは、過去の判例を見る限り、あまり有利に扱われるケースは少ない。

そのとき興奮していて、許せないと考えての事やったというのは理解できるがな。

ただ、裁判の場では、そうする必然性の有無が問題にされる。それからすると、あんたのしたことはそれに欠けるきらいがあったと判断されやすいと思う。

それなら、この場合はのベストの対応はどうすれば良かったのか。

結論から先に言うと、逃げるのなら追いかけず、そのままほっとく方が得策やったと思う。

あんたは、その犯行を防犯カメラで確認したというくらいやから、そのシーンは録画されとるはずや。

その決定的な証拠を警察に伝えれば逮捕される確率は高い。逃げれば「窃盗犯」として手配されるやろうからな。

例え、その犯人が捕まらんかったにしても、あんたは、それで役目を果たせたはずや。

誰も、その犯人に逃げられたからというて、あんたを咎め立てする人間はおらんと思うがな。そのコンビニのオーナーも含めて。

あんたの行為は、いろんな意味で大きなリスクを背負い込む可能性が大きかったと考える。

今回、そのケガ程度で済んだわけやが、最近の若者は刃物を持っている者も珍しくないから命の危険まであったと思う。

反対にその格闘の際、誤って相手を死亡させるというケースも考えられる。

もしそうなったら、あんたのその後の人生そのものまで大きく狂わしかねんことにもなる。

今回のケースとは少し違うが、数年前、ある本屋で少年が万引きして、そこの従業員が追いかけたところ、その少年は逃げる際、遮断機を無理にくぐり電車に撥ねられて死亡したという事件があった。

当時、その従業員の行為に批判が集中し、結局、その本屋は廃業してしまったということがあった。

その従業員の行為に間違いがあったというわけやないが、結果として大きなリスクを背負い込むことになってしもうたことになる。

あんたの場合も自身の身の危険とその行為により引き起こされるリスクは、その犯人を捕まえる手柄よりも大きいとワシは考えるがな。

今回程度の事で済んだというのは、むしろラッキーやったのやないかと思う。

結果論やが、黙ってほっといて、後は警察に任せとけば、あんたもケガをせずに済んでたわけやから、悩まずに済んだやろうしな。

今回、あんたはご自分のケガについてばかり言われとるが、相手にケガは何もないのやろうか。

もし、相手もケガをしていれば、場合によったら過失相殺の可能性もあり、損害請求額から減額されることになる。

それら諸々の理由から私見やが、あんたの請求が100パーセント認められる可能性が低いと言うたわけや。

ただ何度も言うが、裁判は実際にやってみな分からん部分が多いさかい、ワシの言うとおりになるとは限らんがな。

その点は、ご自身で考えるなり、弁護士に依頼されるのなら、良く相談されるることや。

ただ、ワシに意見を求めるということなら、そうやとしか言えんということやと理解してほしい。


サイトのQ&Aなら、そう答えると思う。

多少きつめの表現も含まれとるけど、根底にはその相談者のためになれば、あるいは読者のためになればという思いがあるからこそ、そこまで言えるわけや。

実際には、よほど親しい人間以外、こんなストレートな返答を面と向かってすることは絶対にないがな。

特に、客に対しては「裁判というのは、やってみないことには分かりませんから」と当たり障りのない言い回しで逃げると思う。

苦言や提言というのも控える。

普通に考えて、営業員からそんなことを言われて、「なるほど」と理解を示す人間なんかほとんどおらんさかいな。

検察官や弁護士は裁判に勝つために努力するように、営業員は商品売り込むことに力を注ぐ。

そこには社会正義とか社会通念、倫理観というものを超越せなあかん場合があるということや。

人は何を優先するかで、その行動が決まる。

もちろん、心に正義を持つことは人として大切やけど、それだけでは人間の社会を生き抜くのは難しいと思う。

その是非は別にしてな。



参考ページ

注1.第156回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■悩める人々 Part4 請負配達人の憂鬱


書籍販売コーナー 『新聞拡張員ゲンさんの新聞勧誘問題なんでも選集』好評販売


ご感想・ご意見・質問・相談・知りたい事等はこちら から


ホームへ

メールマガジン『ゲンさんの新聞業界裏話』登録フォーム及びバックナンバー目次へ