メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第75回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2009.11.13


■新聞販売店物語 その3 面接交通費詐欺について


それは偶然から発覚したことやった。

午後7時。

ヤマダ販売店グループ東部支店店長、ジローが系列の北部支店に立ち寄った際、そこの先輩店長、イサオの机の上に無造作に置かれていた一枚の履歴書に気がつき手に取った。

その履歴書には「ワカマツ ユキオ、前職、宅配便勤務、25歳、独身」とあった。

「あれ? イサオさん、この履歴書のワカマツという男、今日、ここに面接に来たんですか?」

「ああ、一応、うちで雇うことにしたんやが、何でや?」

「それは何時頃?」

「夕方の5時過ぎくらいかな」

「この男、うちにも4時頃、面接に来ましたよ。ボクもOK出したんですけど」

「何や、二股かけてたのか。まあ、そういうこともあるわな。その男が返事してきた方が雇えばええやろ」

「そうですね」

そのときは、そういうこともあるかなとジローも納得していた。

世間では、失業率が5パーセント台を推移していて雇用状況は相変わらず厳しく失業者が溢れとるとのことやが、事、この新聞販売店業界の限って言えば、常に慢性的な人手不足の状況が続いている。

たいていの新聞販売店では従業員、配達員の募集を常時行っているのが普通やさかいな。

いくら世間で仕事が少なくなっても、なかなか新聞販売店の求人に応募して来る人間は少ないとボヤく新聞販売店の店主は多い。

例え来て雇ったとしても長続きせんと。

新聞販売店の仕事は過酷を極める。

もっとも、そこで長年働いて慣れているジローたちにとっては、どうということはないのやが、それと知らずに単に働き場所がないという理由だけで飛び込んで来る者は、すぐに音を上げて辞める人間が後を絶たんという。

平日の一般的な新聞販売店の仕事は、午前2時頃から午前7時頃までと、午前11時から午後7時頃までの二部出勤というのが多い。

就寝時間および自由時間は、午後7時頃から午前2時頃まで。朝刊配達後の午前7時頃から午前11時頃までというのが一般的やと思う。

集金業務や勧誘業務が手こずれば人によっては1日15時間労働というケースもあるという。

休日は週に1日程度はあるとされとるが、それも配達員などが急に休むとその補充に駆り出されることも多く、絶対という保証もない。

完全休養日とされるのは、新聞休刊日とされる前日の午後7時頃から翌日の第2月曜の早朝くらいなものと考えといた方がええやろうな。

新聞販売店のでは、配達や集金、営業などの仕事を完遂するのが至上命題とされとるから、それに支障をきたすおそれのあるような場合、個人の自由と権利は二の次にされるケースが多い。

何よりも仕事が優先。

それが新聞販売店の基本、当たり前とされとることやが、他の業種で仕事をしてきた人間にとって、それを理解して馴染むまでにはかなりの時間を要し、辛いと感じることが多いようや。

それも、よほどの決心と心構えができてなかったら続けていくのは、なかなか難しいやろうと思う。

ただ、そうは言うても、その仕事に従事しとる専業と呼ばれる人たちは全国2万店舗、十数万人ほどもいとるわけやから、その気になれば誰でもやってやれんことはない。

要は、その心構え次第や。

この新聞販売店での仕事については、サイトのQ&A『NO.46 新聞店の販売スタッフとして勤務するにあたり心構え等を教えて下さい』や『NO.136 この業界での仕事は魅力がありますか』

および『NO.243 販売店の仕事を話づらい職業だと思いますか?』、『NO.589 新聞販売店で勤務する際のアドバイスをお願いします』、『NO.606 新聞販売店に有給休暇はないのですか?』、『NO.626 新聞販売店で勤務しようかどうか迷っています』(注1.巻末参考ページ参照)などで、その実態について幾つか回答してきたので、それらを見られれば、およそのことは分かるはずや。

ここには、どちらかと言うと、きつい事ばかりを並べとるが、それくらいでちょうどええのやないかと思う。

人が続きにくい仕事というのは、世間ではあまりええ印象がないのが普通やが、裏を返せば、そこで頑張って続けておられる方々は「すごい人たち」という証明にもなるさかいな。

それだけ甘い仕事でも、人からバカにされるような仕事でもないと。

ただ残念ながら、評価はされず、現実的には販売店への就業を敬遠するという形になって表れとるわけやけどな。

業界の慢性的な人手不足には、それがある。

そのためか、今回のように、あからさまな二股をかけられた面接と分かっても「仕方ないな」となり、それを怒り、批判することまで考えが及ばんかったということになる。

しかし、翌日になって、それが一転した。

ヤマダ販売店グループ東部支店店長、ジローのもとに、昨日面接に来たワカマツという男から「せっかく採用して頂いたのですが、お断りします」という断りの電話が入った。

それは、北部支店のイサオの店にもあったという。

それだけやなかった。

ヤマダ販売店グループは、このT市内に4店舗あるが、そのいずれにもワカマツは昨日面接に訪れていて、そのすべてで断りの電話が入ったということやった。

一見すれば、これは律儀な行いということになる。

しかし、ジローは直感的に不穏なものを感じた。

ワカマツという男は、H市という電車で1時間余りをかけて面接に来ていたということで、普通に考えれば、その地域の新聞販売店、数店舗に面接に来ていたというのはあり得ることや。

一店舗だけやと断られてしまえば、まったくの無駄足になる。

そのためにも、保険の意味でも他の販売店に面接を受けておきたいという気持ちは分かる。

ジローの店で「採用」となった後、イサオの店に出向いたというのも約束を守るためと言えば、それも納得できる話ではある。

それでも尚、ジローが引っかかったのは、ワカマツからの前日の電話にあった。

そのときに、「面接に行きたいのですが本当に交通費は出るのですか」と念を押して、その額まで聞いてきたというのが、なぜか脳裏にこびついていたからやと言う。

ワカマツは大手の「求職情報誌」を見たと言って応募してきた。それには「面接時の交通費は支給」と謳ってある。

それについて念を押すというのは面接に出向く側の立場とすれば不自然というほどの事ではないが、ジローの印象として、ワカマツはそのことに異常に拘(こだわ)っているように感じたという。

ジローはその電話で「当社の決まりでは、そちらはH市と遠方になりますので一律、1万円となってますが」と答えた。

すると、そのワカマツは「それでしたら、是非お伺いします」と嬉しそうな声で返事したという。

念のため、そのことをイサオや他の店にも問い合わせて聞いてみた。

すると、案の定、他の店、4店舗すべてで同じように前日にその確認をされ、実際にも交通費として1万円手渡したということやった。

このワカマツという男の真の狙いは、それやったのやないか。

その疑惑が頭をもたげた。

だとすると、これは「寸借詐欺」の類になるのやないのか。

ジローは漠然とそう考えたが、法律にそれほど詳しくないから、その確証はなかった。

そこで、ジローはかねてより懇意にしとるワシらのもとへ、その質問をしてきた。

ちなみに、ジローは、旧メルマガ『第189回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞販売店員奮闘記 その1 集金秘話』および『第65回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ある新聞販売店の取り組み その1 哀しき孤独死をなくせ』(注1.巻末参考ページ参照)に登場して、その情報を知らせてくれた人物でもある。

その相談文や。


ゲンさん、ハカセさん、お久しぶりです。

その節は大変お世話になりました。

今日は教えていただきたいことがありましてメールしました。

先日、当店並びに系列他店に同一実物が面接に来られたのですが、すべての店で採用すると伝えたにもかかわらず、翌日断りの電話が入りました。

これだけなら良くあることで問題はないのですが、そのときに各店がそれぞれ交通費として1万円ずつ渡していたのが気にかかります。

これについては募集広告にも謳っていることでしたが、その人は前日にわざわざその確認をしているのが、私にはどうも怪しいと感じられてしかたありません。

渡した交通費は4店で4万円にもなります。これっておかしくないですか?

同一人物がグループ店に面接に来たことに気づかなかったというのは、こちらのミスですが、ご存知のように当ヤマダ販売店グループの経営者は一人ですので、4店といっても全体で1店という見方も出来ます。

この場合、1店分の交通費はしかたないとしても3店分3万円の返還は求められますか?

また、私の勝手な思い込みかも知れませんが、これは寸借詐欺に当たる行為ではないかと思うのですが、違うでしょうか?

小さなことかも知れませんが、もし、これが意図的に行われたのだとしたら他の販売店さんにも被害が拡がるおそれもありますので、注意を呼びかけたいと思っています。

どうか良い知恵をお貸しください。


というものやった。

これに対してワシの回答文を送った。


『寸借詐欺に当たる行為ではないかと思うのですが、違うでしょうか?』ということでその面接者を疑っておられるようやが、例え、それが意図的に行われていたとしても、あんたの話を聞く限り、それと立証するのは難しいやろうと思う。

確かに、結果としてその面接者はかなり得もしているし、そうしたことに意図的な思惑、計画があったと疑えば疑える。

その意図があったと証明できれば、何らかの詐欺罪に問える可能性もあるやろうが、この件はいくらでも言い逃れができることやと思うから、普通ではまず無理やと言うしかない。

『この場合、3万円の返還は求められますか?』というのは、その面接者に返還を求めるのは自由やが、それと認めて応じなければ、どうしようもない。

『当ヤマダ販売店グループの経営者は一人ですので、4店といっても全体で1店という見方も出来ます』というのは、あんたの側の言い分で、「それら4店舗が同じ経営者の店やったとは知らんかった」と言われれば、それまでやさかいな。

それと分かる看板、もしくは募集広告に、その販売店グループと謳っていれば別やが、それがなければ一般の人間がそれと知ることはまず無理やろうと思う。

「知らんかった。別の販売店やと思うて面接に行った」と主張されれば、それなりの説得力があるさかいな。

それに、その悪質な意図を持った人間が、バレる危険を冒してまで同一販売店グループ4店に面接に来て、そのすべてで交通費をせしめようと考えるやろうかという問題もある。

それと知っていれば、逆に1店舗だけに絞るのやないやろうか。ワシが、その面接者の立場でその詐欺を働くとすれば、そうするがな。

実際、あんたの店へも、そうしていれば、それと気づくこともなかったはずやさかいな。

普通に考えて、その地域の新聞販売店に片っ端から面接に行ったというのが実際のところやろうと思う。

そうやとすると、電車で1時間以上も離れた距離なら、一度にまとめて面接に行ったというのも、面接する立場の人間とすれば、あながちおかしな話とは言えんわけや。

少なくとも、そう言い逃れすることはできる。

それに、あんたの疑う「寸借詐欺」の定義にも問題があると考えるしな。

「寸借詐欺」というのは、その名のとおり「ちょっと、お金を貸してください」と言うて返さずドロンを決め込むことや。

それも最初からその狙いと意図を持ってな。

しかし、あんたの話やと単に面接に行くための交通費が貰えるかどうかを確認しただけやということになる。

しかも、それはその面接者に要求されたのやなく、販売店が自発的に支払ったというのでは、その「寸借詐欺」に問うのは弱いと思う。

普通なら、これ以上のアドバイスは難しいから、これで終わるところやが、ハカセはどこでどう調べたのか、あんたの危惧が正しいのやないかと思わせる情報を見つけてきた。

ちなみに、これはネットで検索したくらいでは簡単には見つからん情報やということや。

ただ、ここでその全文を掲載するのは、いろいろと差し障りがあると思われるので、その概要、要点だけを抜き出して知らせる。


スポーツ新聞や夕刊紙などに掲載されている求人広告には、新聞配達員の募集が多い。そこで新聞販売店の求人広告に片っ端から応募して面接に行く。

そのとき、遠方からわざわざ来たことが分かると、交通費として1万円ぐらいまでなら支給して貰える場合がある。

新聞配達は主にバイクで行うことが多いから、運転免許証の提示は必ず求められる。その際、運転免許証に記載された住所でそれと分かるから信用されやすい。

現在、どこの新聞販売店も人手不足のため、普通の人ならほぼ100%採用される。なるべく、その交通費が貰えそうな遠方を選んで面接に行く。

そこで、採用が決まった新聞店には、後ほど電話で「都合が悪くなったのでキャンセルがしたい」と告げれば問題ない。

採用を断ったからといって「1万円を返せ」とはまず言われない。

以上の方法で1日に数店舗面接に行けば数万円程度の小遣いが稼げる。


といった内容のものや。

こんな大胆な情報をネットで配信してどうなのかという問題もあるが、それについては「各関係業者向けに犯罪防止対策、並びに手口の警告としてお知らせします」また「悪用は厳禁です」と断った上で公開しとるというから、法的には問題はないやろうとのことや。

もっとも、その是非についてワシらは保証できんから、その情報源を知らせるのは控えさせて貰うがな。

単に、その手の情報がネット上にあるとだけ知ってくれてたらええ。

それに示された内容は、くしくもあんたから寄せられた話と非常に酷似したものやと思う。

もしかすると、その面接者はそれを見て、その方法を実行した可能性が考えられる。

あるいは、単にその方法をその面接者自身が思いついただけなのかも知れんがな。

ただ、こういう情報があると、その面接者の悪質性を疑いたくなるし、あんたの直感も正しいのやないかと思えてくる。

結論として、その面接者に対して「先日の○月○日、あなたが面接された4店舗はすべて私どもと同一経営の店ですから、そちらにお渡しした3店舗分の交通費は返還してください」と言う分にはええやろうと思う。

但し、その面接者が、それに応じるかどうかは何とも言えんがな。先にも言うたように、応じなければどうしようもない。

その面接者の悪質性を証明できれば別やが、こんなことを意図してやるような人間は、強(したた)かやと相場が決まっとるさかい、用心することや。

ヘタに証拠もなく、思い込みだけで「詐欺をしたやろう」と言えば、あんたにとって不利な立場にならんとも限らんしな。

最後に『もし、これが意図的に行われたのだとしたら他の販売店さんにも被害が拡がるおそれもありますので、注意を呼びかけたいと思っています』というのは、その面接者の個人名を出さん限り、そうするのは特に問題はないやろうと思う。

もっとも、すでに、あんたがワシらに質問をされたことで、この回答はサイトに掲載することになると思うから、結果としてそれを公表するに等しいことにはなると考えるがな。


ジローからすぐに返信があった。


いつもながら、素早く適切なご回答ありがとうございました。

サイトへの掲載についてですが、大変申し訳ありませんが、いましばらくお待ち願えませんか。

その理由は、後日、必ずご報告しますので。

宜しくお願いします。


と。

ジローは、その後、面接者のワカマツに会いに行った。

ワカマツの住所は1ルールマンションの1室やった。

チャイムを押すと、そのワカマツが現れた。

「ヤマダ販売店の者ですけど、私のことは覚えてますか」と、ジロー。

「ええ、それはもちろん。でも仕事は断ったはずですけど」と、ワカマツは明らかに困惑した表情を浮かべた。

「今日、お伺いしたのは、そのことではありません。ワカマツさんは、あの日、私の店の他に数軒、面接に行かれてますよね」

「ええ……、それが何か?」

「実は、その中に、私どもと同じ経営の店がありまして、それぞれの店でお渡しした1万円の交通費を返して頂きたいのですが」

「そんな……、どの販売店です?」

「分かりませんか?」

「ええ、あの日、確か7軒ほど面接に行ったと思いますので、どの店と言われても分かりません」

「7軒も?」

ジローは、オウム返しにそう声を発したが、同時にそれで確信した。

ワシから聞いた話は事実やったと。

「あなたは、そのどこかで働くことにされたのですか」

「い、いえ、新聞販売店の仕事は僕には向いてないと考えたので、皆さんにお断りの電話をしました。確か、そちらにも……」

「ええ、聞きましたけど、私はどうにも腑に落ちなくて、こうして今日来たわけです」

「……」

ワカマツは明らかに動揺して言葉に詰まっていた。

ただ、ジローには、そのワカマツが、ワシの言うほど強(したた)かな男、悪(ワル)にはどうしても思えなんだと言う。

大人しく小心者。その印象しかなかったから、会えばおそらく正直に話すやろうと踏んでいたと。

「あなたは、どういうことをしたか分かってますか?」と、ジローはすこし詰問調になって、さらに続けた。

「どこのネット情報を見て、そうしたのか知りませんが、あなたのしたことは立派な詐欺になるんですよ」と、ここが勝負とばかり、そう言い放った。

「詐欺……になるんですか」と、ワカマツは意外そうな表情になった。

「あなたの目的は、面接して仕事を探すことではなく、交通費を集めることだったんでしょう?」

「ええ……、まあ……」と、あっさりとそう認めた。

勝った。

何かあっけなかったが、この一言で結果としてはそうなる。

「だったら、立派に詐欺罪が成立します。あなたは働く意志もないのに、その交通費だけを目当てに面接に来たわけですからね。警察に通報すれば逮捕されるでしょうね」

ジローは強気でそう言うた。

もっとも、確たる自信があって言うたわけやない。

ただ、漠然とそれが法律に触れなんだらおかしいと思うて言うただけのことやった。

また、本人が、そう認めた以上は、逃げ道はないやろうと考えたというのもあった。

「僕は逮捕されるんですか……」と、ワカマツは今にも泣き出しそうやった。

「まあ、私としては、あなたを警察に突き出しても仕方ありませんから、うちが渡した交通費だけを返して貰ったら、それで結構ですので」

「一体、いくらほど」

「あなたが、面接に来られた販売店のうち、このリストの4軒が当方の店です」

ジローは、そう言うて販売店グループで作っている特製の手帳を見せた。それにはグループ店、すべての名前と店の地図が載っている。

「面接されたのは外見的には4軒ですが、実質的には1軒ですので、交通費も1軒分とさせて頂きます。ですから、他の3軒分の交通費、つまり3万円だけ返して頂ければ、それで結構ですから」

「それだけで、いいんですか」

「それで十分です」

「他の販売店さんは?」

「それは私どもには関係ありません。どうされるかは、そちらで決めてください」

ジローは、その3万円を受け取ると、面接時にワカマツに書かせた3軒分の交通費の領収証を返した。

「それにしても、どうして、こんなことをされたんです?」と、ジローが聞いた。

終始、紳士的な対応のジローにワカマツも心を開いたのか、「実は……」と、その理由を話し始めた。

余談やが、このジローのように相手が悪い、落ち度があると分かっても鬼の首を取ったかのような態度を示さん方が賢いと思う。

ヘタに恫喝して逆に「恐喝された」と言われてもつまらんしな。

もっとも、ジローがそうしたのは、その性格もあるが、念のためにとボイスレコーダーを隠してその会話を録音していたからでもあった。

この会話を録音するというのは、サイトのQ&Aでもワシが良う言うてることやが、こういう使い方もある。

特に激高気味の性質の人間には、その気持ちを抑えるという意味でも効果がある。

当たり前やが、本人は録音しとると分かっているわけやから、言葉を選んで慎重に話すし、気持ちも抑えやすいさかいな。

この隠し録りのような真似をするのは卑怯やと言うて来られる人も、たまにおられるが、ワシはそうは思わん。

少なくとも、言うた言わんというような水掛け論になるよりかは数段マシやと考えるからな。

このケースも結果的に、ジローが紳士的に振る舞ったということで、ワカマツも素直にそれと認めたわけやさかいな。

もっとも、それですべてが上手くいくという保証はできんがな。

ワカマツの言うところによると、やはりネットでその手の情報を見たためやったという。

ワカマツは、日頃から、僅かでも得する情報があるとすぐ、その方法を試すのが半分趣味のようになっていたと話す。

実際、そういう人はネットの普及と共に増えとるようや。

もちろん、それ自体は悪い事でも責められる事でもない。

また、そういう情報を発信する所もそれなりに意義のある事をしとるとも思う。

ただ、何でも得をすればええという風になりすぎると、今回のように、それで誰かが被害を受けるとか、困るということにまで考えが及ばんようになる。

例え多少の後ろめたさがあったとしても、「得をしたい」という気持ちの方が勝ってしまうわけや。

人は、一度、その高さのハードルを飛び越えると次も簡単に越えるようになる。

ええことであっても悪いことであっても、それは同じや。

当たり前やが、そのハードルが高くなっているのに気がつかず無理をしてさらに飛び越えようとすると、それにつまずいてケガをすることになる。

それが悪いことやと、それと知らずに罪を犯してしまいやすい。

その第一歩のところで誤る人間が結構多い。

そうなる原因の大半は金銭的な欲からやと思う。

欲に負けるというのは、ある意味、人間の弱さの証しとも言えるが、それと心しておけば救われることもある。

欲に負けて暴走する者は、いつか破局が訪れ、最後には救われん状態になる。

幸い、ワカマツは、その交通費詐欺のような真似をしたのは、その日が初めてやったようで、ジローが会いに行ったことで、それと気づき、もう二度としないと誓っていたということや。

ただ、このワカマツのようなことをしている者が他にもいとる可能性はある。

もっとも、それについては、それなりの対策が業界で講じられつつあるとのことやがな。



参考ページ

注1.NO.46 新聞店の販売スタッフとして勤務するにあたり心構え等を教えて下さい

NO.136 この業界での仕事は魅力がありますか

NO.243 販売店の仕事を話づらい職業だと思いますか?

NO.589 新聞販売店で勤務する際のアドバイスをお願いします

NO.606 新聞販売店に有給休暇はないのですか?

NO.626 新聞販売店で勤務しようかどうか迷っています

注2.第189回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞販売店員奮闘記 その1 集金秘話

第65回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ある新聞販売店の取り組み その1 哀しき孤独死をなくせ


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