メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第85回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2010.1.22


■悪徳業者の甘い罠 その2 悪徳住宅リフォーム業者への対処について……手抜き工事被害者の憂鬱


何でこんなことになってしまったのか?

ヨウコは、荒れ放題に荒れた家の中で呆然と立ちつくしていた。

2008年の5月、その家で独り暮らしだった母のキヨミが急死したことから、それは始まった。

その葬式を済ませ落ち着いた頃、ヨウコは地方にいる叔母たちに母の着物などの形見分けをしたいというのもあり、ある遺品整理屋に室内の片付けを依頼した。

「家が少し汚れてますね。ここに住まれるのでしたら直された方がいいですよ。何でしたら私が腕のいいリフォーム屋を紹介しましょうか?」と、その遺品整理屋がそう持ちかけてきた。

こういうケースは、結構多い。

持ち家、借家を問わず、その家、またはその部屋の主が亡くなった場合、少なくともクロスの張り替えなどの内装工事をするのが一般的とされている。

ワシ自身も昔、小さいながらも住宅リフォーム会社を経営していたとき、直接、間接を問わず、そういった内装工事を依頼された経験が何度がある。

一般的に住宅リフォーム業者は、他業者からの仕事依頼に対しては、その請負金額の数%から10%くらいの範囲で謝礼をその業者に渡すという約束になっている場合が多い。

それが業界の慣習、常識ということになっている。

ヨウコにそう持ちかけたその遺品整理屋も、それが狙いやったのやと思う。

まあ、ここまでは良くある話で、その当事者にとっては親切になる場合も多いから、特に問題はない。

そのリフォーム業者が普通のまともな工事をする限りはな。

「そうね。お願いしようかしら」

ヨウコは何の疑いもなく、そう返事をした。

それには現在、ヨウコは夫であるイサムの会社で社宅住まいをしているということがあり、この際、その家に移り住むのも悪くはないかと考えたというのも、その理由としてあった。

翌日、その家に行くと、すでにその業者と思わしき男が遺品整理屋と一緒に来ていた。

有限会社○○総合リフォーム代表取締役のタカヤマと、名乗った背広姿のその男は、とても感じの良さそうな人間に見えた。

タカヤマは母の仏壇にそっと線香をあげ、黙って手を合わせた。

それを見たヨウコは母を一人で死なせてしまった後ろめたさからくるショックが少し和らぐような気持ちになった。

この人はいい人なのだと。信用できる人なのだと。そう思い込んだ。

まさか、それが単なるポーズにすぎなかったとは、そのときには微塵も疑ってなかった。

その日はそれで終わった。

その3日後。

ヨウコがその家で母の思い出に浸っていると、そのタカヤマが訪れて来て「寂しいですよね。お察しします」と優しく話しかけてきた。

そして母の事で悔やんでいたヨウコに「お母さんの家をきれいにしましょう」と言ってきた。

最初は、予定どおり一部屋だけのクロス張り替え工事で済ますつもりやった。

ヨウコは1階にある母の寝室、兼居間の洋室8帖のクロス張り替え工事を依頼した。

タカヤマは、おもむろに手提げカバンからスケールを取り出し壁面の計測を始めた。

そして、その場で「見積もり書」を渡された。

それには「量産クロス貼り材工・単価1250円、総額15万円」となっていた。

一般的な洋室8帖の天井、壁面の施行面積は、入り口や窓などの大きさによっても多少バラツキがあるが、おおよそ50u前後程度になる。

90p幅×長さ1mというのが一般的なクロス材料やから最低でも施行面積の1割増し、柄模様により接合のための切り幅が決められている場合は、その切り捨て分込みで3割程度増しになるケースもある。

その多い方の3割増しで計算すると、50u×1.3=65mのクロス材料が必要ということになる。

それを1m単価1250円の計算だと、65m×1250円=81250円が材料単価ということになり、これに施工費、諸経費、税金込みで10万円〜12万円程度が一般的な料金ということになる。

それも最高にかかったとしてや。

普通、量産タイプのクロスを使用すると施工費込みで1m1000円以下で請け負っても業者は十分利益が上がる。

住宅リフォーム業界でその業者が良心的かどうかを見抜く方法の一つが、その価格なわけやが、その簡単な見分け方というのがある。

それは、一般的な見本帳に量産タイプと書かれているクロス材料を使用した場合、その請求額は部屋が6帖の場合は6万円、8帖の場合は8万円までというのが、その判断基準の一つとされている。

つまり、それ以上は怪しい、それ以下なら良心的な価格として、その業者を見分けるラインになるということや。

もっとも、値段だけで、その仕事の善し悪しを一概に判断することはできんがな。

クロス工事というのは利益率が少ないから、業者によればその利益を度外視して極端に安くすることで、他の工事も受注しようと考えるケースもあるさかいな。

ただ、それでもその価格設定で、業者の考え方、姿勢に対する一応の目安にはなるということや。

ただ、こういった遺品整理屋のような他業種からの紹介は、先にも言うたように謝礼を渡すケースが多いから、良心的な業者でも通常より1割程度は高くなる。

それにしても、8帖一間の量販クロス使用の張り替え工事で総額15万円の請求は高い。

この最初の見積もりでハテナ・マークがつくのやが、そこまで分かる、また考えのおよぶ一般の人は少ない。

もちろん、ヨウコにもそれは分からんかったが、その程度の金額ならとその「見積もり書」にサインして、その工事を頼んだ。

後にも先にも、ヨウコがサインしたのは、その一度きりやった。

その代金もすぐに振り込んだ。

お人好し。

昔からヨウコは、良い意味でも悪い意味でも、そう言われることが多かった。

それ自体は決して人として悪いことやないのやが、悪徳業者にそれと知られたら、救いのない状態に陥ってしまうことが多い。

それから間もなく、タカヤマがヨウコのいる社宅に訪れてきた。

「念のため、他も調べていたらシロアリが風呂にいたので、そのシロアリを追跡していたら外壁が壊われていました。外壁を直さないと家が持ちませんよ」と脅かされた。

それは拙いと考え、その外壁を直すという名目でサイディング工事をするとタカヤマ言ってきたのを鵜呑みにして承諾した。

それから、日を置かず、立て続けに、「雨漏りがしています」というので屋根工事。

「風呂はシロアリにやられて取り替えるしかありませんね」ということで風呂工事。

「トイレもやられています」とトイレ工事。

「この際、キッチンも取り替えましょう」ということでキッチン工事などが必要だと、その都度、やって来て矢継ぎ早に承諾させられた形になった。

それらについては見積もり書すらなかったが、タカヤマは信用できるという思い込みと、それらを断ることで工事を頓挫したくないという一心で、ただ言われるままに、工事代金の前金として数回、計600万円の金をタカヤマの口座に振り込んでしまった。

その後、しばらくの間、タカヤマからは何も言って来なくなり、工事の様子を見るために、その家に行ったが、工事の進展はほとんどない状態やった。

家の中は見る影もないくらい荒れ放題でそこら中の壁がめくれ、キッチンを入れるのに邪魔になるからと、何の了解も得ずに勝手に柱も取っ払ってしまっていた。

結局、6月に始めた工事が9月になっても全く終わっていないため、さすがのヨウコも怒って、タカヤマを責めた。

すると、それまでの態度を一変させ、「職人はこんな金じゃ動かないよ」と言って開き直る始末やった。

このときになって初めてヨウコは騙されているのではないかと考え、タカヤマに対して不信感を抱くようになった。

それでも、11月中には工事を終わらせるようヨウコが強く求めたことで、タカヤマは仕方なく念書まで書いたが、結局、その約束も反故(ほご)にされてしまった。

その後、早く工事を終了するようにいくら頼んでも「いつか終わりますよ」と責任感のかけらもない返事しか返ってこない。

ヨウコは、自身の「人の良さ」を責めた。

その後、ヨウコは大金を振り込んでしまった後悔と死んだ母への申し訳なさで、気持ちが不安定になり精神科に通院するようになった。

タカヤマはその事を伝え知ると慌てたように、サイディングと屋根工事の手配をした。

それで何とかサイディングと屋根工事だけは終わった。

しかし、それらの工事を終わらせたことで、タカヤマに抱いていた不信感が払拭されたわけやなかった。

サイディングと屋根工事は終わったが、内装は職人がたった一人で、のんびりとやっていたからやった。

そんな12月のある日、遅々として進まない工事に業を煮やして、その下請けの職人に、「一人で施工ですか? それではなかなか終わらないでしょう? タカヤマさんは9人の職人を雇っている、と言っていたので他の職人さんの助けを借りればいいじゃないですか」と聞いてみた。

すると、その下請けの職人は「お宅は支払いの方は大丈夫なんですか?」と逆に聞き返してきた。

「どうして、そんなことを?」

「自分はお金をまだ一円も貰ってないんで」と、その職人が言う。

事情を良く聞くと、どうやら、タカヤマはヨウコがまだ工事代金を支払ってないと言って、すべての下請け業者、職人に対してその工事代金を払っていないということが分かった。

それに驚いたヨウコは、「私はタカヤマさんにはとっくにもう600万円も振り込んでいてるのてすよ。それなのに、あなたにはお金が支払われてないんですか」と言った。

それでタカヤマの嘘が発覚した。

そして、ヨウコのタカヤマへの疑惑が確信に変わった。

そういった話は、あっという間に広まる。

サイディングと屋根工事は同じ業者で、そこへも「施主が金を払ってくれないから」と嘘を言って支払いを待たせていたらしい。

そのサイディング業者は、それを知ってすぐタカヤマを捕まえ、その工事代金200万円を支払わせたという。

後に聞いた話では、その業者は相当コワモテの怖い人間やったということや。

もっとも、そんな嘘をつかれて金の支払いを延ばされ黙っている業者はどこにもおらんがな。

どんな迫り方をしたのか、おおよその想像はつく。まあ、そんなことはどうでもええことやが。

そうなったのは自業自得なんやが、当のタカヤマはそうは思わず、そのすぐ後、ヨウコのところに怒鳴り込んで来た。

「よくも、よけいなことを言ってくれたな!! 施主が下請け業者の職人に元請けを飛ばして直接話をするのは、この業界ではご法度なんだよ!!」と。

「知りませんよ、そんなこと。それは、あなたが業者さんにお金を払ってないから悪いんでしょ!!」と、ヨウコの方も我慢の限界だったということもあり、珍しく強気でそう言い放った。

「もう、これ以上、あなたに仕事を任せるわけにはいきません。止めてください。他の業者さんにお願いしますから」とも。

「そうかい、それだったら、あんたから契約を解除するわけだから、それ相当の解約金を支払って貰おうか」

タカヤマの請求総額は1000万円近くあり、ヨウコはすでにそのうち600万円支払っているから、残り400万円足らずを支払えという。

もちろん、そんな無茶な話が通るはずもないが、この手の人間は平気でそう言うケースがままある。

相手は所詮、女一人やさかい脅せばどうにでもなると考える。

ヨウコにしてみれば、何とか終わったと呼べる工事は屋根とサイディングだけで、それにしても、所々サイディングがめくれ上がっていて、とてもきちんと仕上がった状態とは思えんものやった。

しかも、タカヤマの請求には、まだその姿形すら納入されていない、浴槽やトイレ、キッチンの設備品、及びその施工費まで入っている。

「嫌です。損害賠償金はこちらが貰いたいくらいです」

実際、タカヤマが屋根とサイディングに支払ったのは200万円やと言うから、ヨウコが支払った600万円のうち、400万円がそのタカヤマ利益ということになっている。

いくら何でも、そんな無茶な話はない。

残りの工事も、どう多めに見積もっても200万円もしないとある専門家に教えて貰っていた。それにも多額のピンハネが含まれている。

許せない。その思いから発した言葉やった。

すると、タカヤマは「俺には○○組に知り合いがいるんだ。払わないなどとは言わせないぜ」などと、一般の人間でも知っている広域暴力団の名前を出してヨウコをさらに脅しにかかった。

そして、「良く考えときな」と捨て台詞を残して帰って行った。

「暴力団に何かされたらどうしよう」と考えるとどうしようもなく怖くなり、ヨウコは知り合いから紹介して貰った弁護士に相談した。

弁護士から「暴力団はリフォーム屋に味方してあなたを脅すほど頭の悪い存在ではありません。暴力団のトップクラスの人間は却って紳士的ですよ」と、そう言われたことで、いくらか安心できた。

まあ、この見解はまったくの的外れではないが、一口に○○組というても日本全国に数万人もいとるというから、中には本当にロクでもない者もおる。

タカヤマのような人間の言うことは、たいてい「フカシ」、「ハッタリ」と相場が決まっとるさかい、実際、その○○組の知り合いと言うても、どの程度の人間と係わり合いがあるのかは疑問やけどな。

大手ヤクザの名前を出せば、まるで水戸黄門の印籠のような効果があると勘違いしとるアホがたまにおるが、それは逆で、その一言があるために、立派な「脅迫罪」が成立して逮捕されることすらあるわけやさかいな。

普通は、そんなことを言うた時点で負けになる。アホはそれが分からん。

もっとも、弁護士さんもそんなことは百も承知やが、依頼人を安心させるためにそう言うたのやと思う。

それに、相手に弁護士がついたと知れば、どんなアホなヤクザまがいの人間でも手を出し辛くなるから安心できることには変わらんしな。

その弁護士の勧めもあり、翌年の2009年1月、ヨウコは、この件で裁判所に建築調停を申し立てることにした。

ただ、その頼みの調停もなかなか思うように進まず、多少イライラしていたところに、ヨウコは、ネットでワシらのサイト見つけメールしてきた。


私はヨウコと言います。ゲンさんのページを読み、メールを送らずにはいられませんでした。

私は去年、母を亡くし、母が一人で住んでいた一軒家をきれいにしようと思い、リフォーム屋に頼んだらそのリフォーム屋が詐欺でした。

お金を払っても払ってもリフォームは進まず、不信感がつのり、弁護士に相談して現在、建築調停を申し立て中なのですが、相手は何ひとつ有力な証拠や言い分を出してきません。

なのに調停だけは欠席せず毎回来ます。相手の意図は何なのでしょうか。

また、払ったお金を少しでも取り戻したく調停を申し立てましたが、勝ち目はありますでしょうか。

弁護士は「勝ちます」とも「負けます」とも言いません。なお、弁護士は相手方にはついていません。

リフォーム途中でまだ完成していない家にはいつになったら住むことが出来るのか、本当に不安です。

何かいいアドバイスがありましたら教えて下さい。どうぞよろしくお願いいたします。


これに対してのハカセの返信や。


『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』のサイト管理者、白塚博士(ハカセ)と申します。

ご質問は新聞関係とは違いますので、ゲンさんによるサイトのQ&Aでの回答はできかねますが、私どもは建築関係の仕事とそれに関わる裁判にたずさわった経験が多少なりともありますので、参考程度でよろしければ、分かる範囲でお答えしたいと思います。

『リフォーム屋に頼んだらそのリフォーム屋が詐欺でした』という具体的なリフォーム工事の内容は、どんなものなのでしょうか。

それが、はっきりしないと、一概に『詐欺』と言えるかどうか判断できませんので、できる範囲で結構ですからその内容とやらを教えて頂ければと思います。

『調停だけは欠席せず毎回来ます。相手の意図は何なのでしょうか』

これは、裁判を欠席すると「欠席裁判」として処理され、著しい不利益、多くの場合、調停申立人の言い分が100パーセント認められ、それに沿った決定が下される可能性が大なので被告側にとっては仕方のない行為だと考えます。

『相手は何ひとつ有力な証拠や言い分を出してきません』というのも何もないからでしょう。

あるいは書類を作成する能力に欠けるかですね。

民事裁判、調停の場では、書類審査中心と言われるくらい、その書類に重点が置かれますので、それが提出されないと、何も言い分を申し立てていないと同じ扱いを受けるわけです。

したがって、何かの作戦や考えといった意図的なものではないと思われます。

『弁護士は「勝ちます」とも「負けます」とも言いません』

事情に詳しい弁護士がそう言われるのでしたら、難しい事案なのかも知れませんね。

ただ、弁護士というのは、よほど確実でない限り、あまり楽観的な見解を示さないのが普通です。

裁判や調停に絶対という事がないというのを一番良く知っているのは彼らですからね。

『なお、弁護士は相手方にはついていません』

これは、民事で訴えられる側が必ず弁護士をつける決まりはないので自由と言えます。

経費を余り掛けたくないのでしょうね。そのリフォーム工事の規模や支払った金銭の多寡にもよりますが。

情報が少ないので確かなことは言い切れませんが、そのリフォーム会社自体に金がなく危険な状態というのも考えられます。

『リフォーム途中でまだ完成していない家にはいつになったら住むことが出来るのか、本当に不安です』

これについても、そのリフォーム工事の状況次第で違ってきます。

一般的には、そこまで揉めている業者に工事を継続させても同じ事の繰り返しになる懸念が大ですから、一から、もしくはその続きから、どこか信頼できる業者に依頼されるのがベストだと考えます。

そのリフォーム会社の社長が追うべき賠償額が決定して、それが支払われれば、それをいくらかの足しにすればいいことだと考えますが。

もし、そのリフォーム会社に工事の継続をさせるという事になったとしても、その調停が終わってからでしょうしね。

その調停が、いつから始まってどの程度進んでいるのかは分かりませんが、私の経験から、早くて半年、長ければ2、3年というのもざらにあります。

以上ですが、これ以上はその詳しい状況がないとお答えできません。

また、弁護士がついておられる事案なら、基本的には任せられるのが筋かと思います。

ただ、その内容次第では助言ができるかも知れませんが。

弁護士の方にも得意分野というものがありまして、それ以外では専門家の意見を必要とされるケースも結構あります。

実際、私どもへも参考意見を具申されて来られる弁護士の方もおられますので。

また、私自身、過去には法廷で参考人として専門家の立場で意見を述べたことも幾度かありますから。

そのリフォーム工事の内容次第では、もう少し突っ込んだアドバイスができるかも知れません。

それでは、どうされるか良くお考えの上、助言をご希望でしたら、またお知らせください。


といったことから始まり、その後、ヨウコから3ヶ月ほどの間に40通近くのメールを貰い、またその返信を繰り返したことで、ほぼその全容が分かった。

冒頭からの話は、それで分かった大まかな経緯や。

現在は、ワシらの感覚からするとほぼ終結したとみてええ状況やが、形の上ではまだ完全決着には至っていない。

本来なら、こういった話は決着が着いてから話すことにしとるのやが、ご本人の『私としましても悪徳会社は許せなく、騙される人が増えるのは本意ではありません。私のケースが他の人の役に立つのならメルマガ誌上で使ってください』という強い希望もあり、今回、途中ながら掲載させて貰ったわけや。

ただ、そうは言うても、その大まかな被害面だけに止めることにしたがな。

それには、現在も弁護士に委ねている事案ということもあり、迂闊な記述をしてその調停を不利にするわけにもいかんさかいな。

話の面白さという点では、この後の展開の方が、はるかにあるとは思う。

また読者の役に立つ情報も多いと確信もする。ワシらでさえ、「へえー、そんなことがあるんや」と思うたものもあるさかいな。

調停をめぐり事態も二転三転しているし、警察もそれに関わってきていることでもあるしな。

話すネタも多い。

それについては、後日、必ず報告するので、悪いがそれまで待ってほしい。

今回は、このヨウコの被害から見える、タカヤマのような悪徳業者への対処法を話しておきたいという思いも加わり、ここまで進めてきたわけや。

それを話す。


悪徳住宅リフォーム業者への対処法


1.一見の業者からの紹介は疑ってかかる。

今回は、遺品整理屋やったが、初めての業者を信用するのは危険やというええ見本のような話やったと思う。

メルマガ『第61回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■悪徳業者の甘い罠 その1 不法投棄は誰のせい?』(注1.巻末参考ページ参照)でも、初めての新聞勧誘員に紹介された古紙回収業者のために、投稿者がえらい目に遭ったという話やったからな。

これが古くからの知り合いで信用のおける人間というのなら、まだマシやろうとは思う。

類は友を呼ぶ。というのは、ええ意味でも悪い意味でも、成り立つことやさかいな。


2.話、立ち振る舞いだけを見て安易に信用しない。

詐欺師や悪意のある人間に限って表面的には善人を装うことが多い。

オオカミも羊の皮を被るからこそ騙せるわけで、最初からオオカミと分かっていれば誰でも用心する。

騙しにかかろうとする人間は、そんな愚は冒さない。被れる皮は何でも被ろうとするさかいな。


3.名刺を貰ったら、一応、その会社やその経営者を調べてみる。

名刺に書かれている職業や肩書きを信用する人は結構多い。詐欺師はそこに力を注ぐ。如何に信用の置ける人物であるかを強調するために。

安い名刺業者なら100枚1500円程度で作って貰える。

しかも、名刺業者はそこに何が書かれていようと、その詮索や調査などするはずもなく、ただその注文どおり作るだけや。

せやから、名刺というのは印刷された自己紹介にすぎんという風に見ておいた方がええ。

自己紹介がええ加減やったら話にならんさかい、そこに某かの代金を支払って仕事を依頼するのなら簡単に誰でもできる調査くらいはしておくべきやと思う。

具体的には、ネットでその会社名、およびその経営者名で検索してみることや。

その会社が例えホームページを作ってなくても、国民生活センターの警告ページや悪徳業者の摘発専門サイト、大手掲示板サイトの書き込みにヒットする場合がある。

悪徳業者というのは、悪質な仕事をするからそう呼ばれるわけで、そういう業者は被害者も多く、必然的にその情報や苦情が掲載されとる場合もあるから、そういう人たちからの暴露情報が存在する可能性もあるわけや。


4.見積もりを貰っても即答で決めない。

相手との取引経験がない場合、または、その工事についての知識がないケースでは工事の見積もり書を貰っても即答はせん方がええ。

ベストなのは他業者からも相見積もりを取ることやと思う。

そうしておけば、ヨウコのようなクロス張り替え工事の見積もり段階でも、その業者を疑うことができたはずやさかいな。

総体的に工事を急(せ)かせる業者にロクな業者がおらんというのは、建築業界では昔から言われてきたことでもあるしな。

何で急(せ)かせるのか。簡単や。良う考えられたら断られると思うとるからや。それだけ自信がないということやな。

逆に自信のある業者は客を急(せ)かせたりは、せえへんもんやさかいな。


5.「私に任せてください」は疑ってかかる。

その詳しい仕事の説明もせず、ただ「大丈夫ですから、私に任せてください」を連発する業者はまず怪しい、危ないと疑ってかかった方がええ。

なぜ、そんな言葉を言うのか。それは客に詳しく説明をすれば不安感を持たれて断られる、工事ができんと考えるからや。

あるいは、それを説明する能力に欠けるかやな。

何とか仕事にして金にさえなったらええという者の定番の台詞やと思うといて、まず間違いない。

慎重で良心的な業者はそういう言葉を吐くことも少なく、客の意向を良く聞き、幾通りかの方法を示して、その中から客に選択させることが多い。

そして、当然のように、その仕事のメリット、デメリットの両面も伝える。

まあ、早い話が、ええことばかり並び立てる業者は要注意やということやな。


6.不安を煽(あお)る業者は要注意。

典型的な悪徳業者は、頼まれもしないのに屋根裏や床下の点検を強要して調べると決まって「シロアリがいて危険」、「地震がきたら、危ない」などと不安を煽って、何とか工事の契約をさせようとする。

今回のヨウコのケースのように。


7.次々に追加工事を強要、勧めてくる業者は違反業者。

去年の2009年12月1日に、『特定商取引に関する法律』の改正法の施行が開始され、その中に「次々販売の禁止」というのが規定された。

ただ、今回の改正法では具体的な基準は定められていないが、日本訪問販売協会が、「過量に当たらないと考えられる目安」のガイドラインを作成しとるから、それが判断材料になると考えられている。

それによると、住宅リフォーム工事については、「屋根や外壁などの住宅リフォームは築年数10年以上の住宅1戸につき1工事」とされている。

つまり、ヨウコのケースやと、タカヤマのような業者は違反行為業者と認定される可能性が高いわけや。

こういうケースでの工事契約は無効にできる。

但し、当たり前やが、これが客からの積極的な要望、希望でということになると、その限りではないがな。


8.契約書、見積書、仕様書の簡略なものには要注意。

契約書や見積書の明細欄に具体的な内訳を書かずに単に「○○工事一式」と書いとるのがこれや。

これも、『特定商取引に関する法律』の改正法で禁止行為に規定された。

これも当たり前と言えば当たり前の話で、その工事の詳しい説明なしに施工する方が異常やわな。

ただ、建築業界では長年、その異常なことが異常とは認識されずにまかり通ってきたのも、また事実やけどな。

言えば、やっとまともになった、なりつつあるということかな。

今後、この「○○工事一式」と書いただけの契約書、見積書は、契約解消事由になる可能性が高いということや。

良心的な業者は、元からそういうことはないがな。


9.長時間の勧誘も要注意。

サイトの『新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第7話 ゲンさんの悪徳業者対処法』(注3.巻末参考ページ参照)の中で、建築業者が住宅を売りこむ際に使う「ふらふら営業」という手口に触れた部分がある。

その部分を抜粋する。


ふらふら営業というのがあった。

文字通り、客をふらふらにして思考力をなくさせて契約させる手法や。

具体的には、その丸い客にアポイントを取り、クローザーと呼ばれる詰め専門の営業員が出向く。

総じて、丸い客は話を良う聞く。

営業員も家の中に呼び込む。

ここで、簡単に契約すれば問題はないが、いくら丸い客やと言うても大金がいるし、たいていの人間にとっては一生に一度の買い物や。

当然、抵抗する者もおる。

普通、こういう所へは、その家の主人が仕事から帰って、食事やら入浴を済ませた夜8時くらいに訪問の設定をすることが多い。

抵抗する客には、ありとあらゆるアプローチをかけるんやが、その場合は基本的に長期戦の構えを取る。

なかなか帰らん。というより、そういうタイミングに持っていかんように、手練手管を駆使し、話術の限りを尽くす。

夜の12時程度は普通に粘るし、夜中の2時、3時ちゅうのも珍しいことやない。

その日、客が仕事であろうと気を使うようなことはせん。

いかにも、話に熱中していて時間に気がつかんという風に装う。

そうなると、客も思考力がにぶり、その場が凌(しの)げればええと考え出す。

あきらめが入るわけや。

文字通りふらふらになる。

その頃になると、営業員の「賃貸で家賃を払うより買った方が絶対お得ですよ」というトークが本当にそうやと思い込み納得してしまうわけや。

ほとんどはローンで買うから、その支払いは一見、払いやすそうなプランにも思える。

もっとも、建築屋にとっては、そんなマジックは普通に考えるがな。

それに、人間は思考力が衰えると相手の話に納得しやすくもなる。

それが、丸い客なら尚更や。

丸い客というのは、正直で実直な一面がある。

どんな、状態であれ、交わした約束は破れん。

そのことを営業員は熟知しとる。


というものや。もちろん、住宅リフォーム営業でも同じような手法は行われている。

これに対抗するには、最初に「30分、1時間だけお話をお伺いしましょう」と時間を区切っておくことや。

その程度の時間があれば必要なことは十分聞けるし、良心的な業者はそのための資料を持って行って「ご検討をよろしくお願いします」と言って、その場での契約には拘(こだわ)るようなこともないさかいな。


10.高額な工事は必ず見本工事を見せて貰う。

これは、良心的な業者なら必ずやっとることやけど、数十万円以上の工事の場合、客にその見本工事を見せて納得させるケースが多い。

もちろん、その際、その工事をした施工主にも話を聞く。

それを要求する。

それに応じない業者は疑ってかかった方がええ。その実績を見せられんと言うとるのと一緒やさかいな。

それに業者が外から「これが当社で施工した物件です」と言って見せるだけでは本当かどうかの確認もできんしな。


11.工事の契約書は必ず、その付帯条件もつける。

契約書には、必ず施主の意向が盛り込まれていることを確認する。

具体的には、工事期間の厳守とそれが守れない場合のペナルティとしての違約金などがそうや。

ちなみに契約書のない契約は、気に入らんとなればいつでも解除可能になる。

法的に保護されるのは契約書に双方が署名、捺印しとる場合のみやさかいな。

これは新聞の購読契約と基本的には変わりはない。


12.おかしいなと思えばクーリング・オフ制度を使う。

その期間とされる工事契約日から8日間以内なら工事着工後でも契約解除は可能やが、手続が煩雑になるさかい、クーリング・オフ期間中の工事はさせんようにした方がええ。

尚、消費者はクーリング・オフの権利を行使すると、契約時に遡って一方的に契約解除できる。

しかも、クーリングオフで契約が一方的に解除されても、事業者は消費者に損害賠償や違約金を一切請求することができんとされている。

万が一、工事が開始されていた場合、事業者の費用負担で原状の回復が義務つけられた。

消費者は費用を一切負担することなく契約解除できるということや。

この事実を知っている者は少ない。


13.保証書の有無の確認

良心的な業者は、ほぼ100%の確率でリフォーム工事の保証をしている。

それは工事の自信の表れと姿勢の問題やから、悪徳業者を見分ける一応の目安にはなる。

ただ、いくら良心的とは言っても、その業者が工事中に倒産すると、それも意味のないものになるので、できれば、住宅リフォーム品質保証システム(注3.巻末参考ページ参照)を利用している業者が望ましい。

住宅リフォーム品質保証システムとは、施工会社とは別の第三者の機関が工事内容を検査し、第三者の機関が工事内容を保証するという、新築業界で昔から導入されているシステムを、リフォーム業界に取り入れた比較的新しいシステムやと、その説明にある。
 

施工会社様に対しては「自社保証」による「やり直し工事」の費用負担を回避することができるし、施主に対しては、第三者が検査・保証する事で、万全の安心を備えたリフォーム工事を提供することができるとされている。

もっとも、これに関しては、今のところまだ一般化され普及しとるというほどでもないようやがな。


以上やが、参考にして貰えたらと思う。

基本的に悪徳業者の被害に遭うのは、あなた任せにしてしまうからやと理解してほしい。

以前、このメルマガでも紹介した映画『クライマーズ・ハイ』の主人公の新聞記者、悠木和雅の信念に「チェック・ダブルチェック」というのがあった。

「チェック・ダブルチェック」というのは、念には念を押して調べろという意味や。

あの話は、不確かなことは記事にはしないという意味で使っていたものやが、あらゆることに応用すべき言葉やと思う。

世の中、どこにどんな落とし穴が潜んでいるか分からんさかい、十分すぎるくらいの注意が必要や。

そう心しておいて損はない。



参考ページ

注1.第61回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■悪徳業者の甘い罠 その1 不法投棄は誰のせい?l

注2.新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第7話 ゲンさんの悪徳業者対処法

注3.住宅リフォーム品質保証機構


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