メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第9回 ゲンさんの新聞業界裏話     

発行日 2008.8. 8


■営業の雑談に使えるUSJの話


「ゲンさん、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に行ったことある?」

ワシがハカセの車に乗り込むなり、そう言うてきたのは、今年、中学1年生になったコウ君やった。

コウ君というのは、ハカセの二人いてる子供の弟で、旧メルマガ『新聞拡張員ゲンさんの裏話』(注1.巻末参考ページ参照)の中に何度も登場してた子や。

初めて知り合ったのは4年以上も前のまだ小学3年生の頃で、そのときは女の子と見間違うような可愛い子やったが、今はサッカー部に所属しているということもあり、真っ黒に日焼けしていてなかなか精悍な男らしい顔つきになっている。

もっとも、小さな頃から外観は女の子のように見えていても、ハカセと同じで、言い出したら引き下がらんという気の強さのある子やったけどな。

男らしさに加え正義感も強い。

そのコウ君のエピソード(注2.巻末参考ページ参照)も旧メルマガ『新聞拡張員ゲンさんの裏話』の中にある。

「いや、今度が初めてや」

「ぼく、去年の小学校の修学旅行で行ったけど面白かったよ」

ここ3年ほど、ハカセの体調が安定していて入院するようなことがなくなったということもあり、家族で毎年夏に旅行に行っているのやという。

夏にというのは、子供たちの休みが長いということと、持病であるハカセの狭心症の発作が夏場は出にくいということで担当医の許可を得て始めた。

今回、ワシは、休みを取ってそのハカセたちの旅行に付き合うことにした。

ちなみに、7月25日から7月27日までの2泊3日の予定や。

何や今回は新聞とは関係のない、ただの遊びの話やないかと、がっかりせんといてほしい。

まんざら関係がないということでもないと思うさかいな。

ワシら拡張員というのは新聞を売るのが仕事や。

新聞の営業というと、「サービスしまっせ」と言う者ばかりと考えとる人がいとるかも知れんが、それだけでは一流と呼ばれる拡張員にはなれんというのがワシの持論や。

その営業についての考え方は、サイトに『ゲンさんの勧誘・拡張営業講座』(注3.巻末参考ページ参照)というのがあるから、それを参考にして頂ければ分かると思う。

自慢するようで気恥ずかしいが、多くの人たちから、なかなかユニークで面白く役に立つコーナーやと評価して頂いているものでもある。

その中に『ゲンさんの勧誘・拡張営業講座 第1章 新聞営業の基本的な考え方 人間関係構築編 その7 雑談から入れ』という項目があるのやが、今回の話はその雑談ネタの一つとして役立てて貰えるのやないかと思うてるわけや。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)というのは関西では図抜けたテーマパークで、全国的にも関東のディズニーランドに匹敵する人気がある。

当然、そのオフィシャルサイトや関連サイトなんかも豊富にあるが、さすがに営業用の雑談ネタとして紹介するところはないやろうと思う。

ワシやハカセは物事を観察する場合、素直に見るということがほとんどない。

どんなものでも、その裏側やアラを探すのを生き甲斐にしとるというところがある。

まあ、それだけ性格が素直やなく、ひねくれとるのやけどな。

ただ、その分、単に面白かった、良かったでは終わらんし、他の人には気づかんことも気づけると自負しとるので、どこよりも面白い話のネタは提供できるのやないかと思うてる。

今回の話を無理矢理、意味のあるものに、こじつけるのならそういうことになる。

まあ、たまにはこんな話もあるという程度に考えといて貰えたらええ。

車で阪神高速5号湾岸線の北港Jctを降り、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に向かう。

2、3分で宿泊を予定しているオフィシャルホテルの一つの駐車場に着く。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのオフィシャルホテルは幾つかあるが、遠方から訪れる場合、そこに泊まった方が何かと有利やし便利もええと思う。

チェックインは午後3時からやが、ワシらが着いた10時前からでも荷物の預かりはしてくれる。

そのときに、『ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのオフィシャルホテル宿泊特典サービスクーポン券』というのを必ず貰う。

たいていのホテルのフロントでは何も言わんでも渡してくれるとは思うが、今のように夏休みでごった返しとる時期やとチェックイン以外では忘れられることがあるようや。

それで揉めてフロントに食ってかかっていた客がおったさかいな。

このサービスクーポン券にはパーク内のレストランの食事が10%安くなる特典があるから大人数で行く場合にはかなり得するものや。

もっとも、パーク内のレストランは高いから、ホテル周辺で食事を済ますという手もあるが、パーク内のレストラン街でしか食べることのできんメニューというのもあるから、そこでの食事は思い出の一つになるとは思う。

ただ、昨今、物価高が叫ばれとるご時世やが、それにもましてこのパーク内は何でも異常に高い。一部の例外を除いて総体的に外より中の方が5割は物価が高いと思うてた方がええ。

ちなみに、自動販売機などのペットボトルの飲み物やと一般で150円のものがここでは250円になっている。

夏場は熱中症対策のためにも飲み物は欠かせんし、多く飲む傾向にあるから、知らず知らずのうちにバカにならん出費になっとる場合がある。

まあ、これは何もここに限ったことやなく全国のすべてのテーマパークに言えることやけどな。

「パーク内に入れてしもうたら、こっちのもんや」てなところやと思う。

もちろん、これに対しての対策はすぐ考えついたさかい、パーク内に入って必要なときがきたら話す。

チケット売り場に行く。

オフィシャルホテル内のチケット売り場なら、列ぶこともなく比較的早く買えてええのやが、ハカセはWEBサイトでそのチケットを購入しとるから、チケット売り場の窓口でそれを受け取らなあかんということらしい。

「バースデー2デイ」チケットというのがある。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのWEBサイト(注4.巻末参考ページ参照)に会員登録をして誕生日を書き込めば、その「バースデー2デイ」チケットが買える。

バースデイというても誕生月の3ヶ月前から購入でき、購入の日から3ヶ月先までの日付のパスが買えるということやから、最大で半年間利用できることになる。

家族の誕生日も登録しておけば、たいていの場合、ほぼ1年中OKになる。

しかも、その家族を含め同行者5人分まで購入可能ということやから、これはかなり得する。

通常、「1デイスタジオパス」チケットというてアトラクション利用し放題のもので、大人5800円。

それが、「1デイバースデイ」やと、大人5100円。さらに「バースデー2デイ」になると、8800円で買える。1日、4400円ということになる。

ハカセはすでにWEBサイト内からクレジットカードで購入済みやから、窓口でそのチケットを受け取るだけや。

その際、その誕生日が正しいかどうかの確認のため運転免許証などの提示を求められる。

ハカセは、更新したばかりのゴールド免許証を誇らしげに見せる。

ハカセは運転免許を取得して以来、12回めにして初めてそのゴールド免許を貰った。

それが嬉しくて、あちこちで見せびらかせているという。

ちなみに、ゴールド免許証というのは何も免許証全体が金色ということやなく、その有効期限の年月日の部分だけが金色になっているというものや。

その有効期限が5年になっていて、前回の免許証では「普通」となっていた免許区分が「中型」と変わり「中型車は中型車(8t)に限る」と特記されていた。

そして、「優良」という文字が太い黒枠で囲われている。

ワシも、それを見るのは初めてやった。

ワシ自身もそうやが、業界関係者や知人でそういうものを持っている人間は他におらんさかいな。

もっとも、窓口のおねえさんは、ハカセのこれ見よがしの提示など気にする素振りもなくパソコンで照合すると機械的に、そのチケットを5枚渡しとったがな。

それを貰って入場したのが午前10時すぎやった。

入場口ゲート近くのショップでチケットショルダーを買う。

首からぶら下げる長いひも状のストラップがついていて紛失しにくいし、その中に入れておけば破れや水濡れからも防げる優れものや。

種類も豊富にあり記念の一品としてもお勧めできる。

後で、各アトラクションの案内のところでも触れるが、パーク内はかなり水濡れするところが多いから、その対策のためにもええと思う。

ちなみに、カバンは防水性の高いビニール性ものを持っていくことを勧める。

そして、土産物売り場がその各アトラクション毎あるのやが、買うのならなるべくその日引き上げる前の最後にした方がええというのも言うとく。

理由はもう分かると思うが、荷物になって邪魔になるだけやなく、ヘタしたら水を被ってぐちゃぐちゃになるさかいな。

ワシの印象やが、それくらい半端やないアトラクションが多かった。

しかし、ワシらが最初に飛び込んだのは……その土産売り場やった。

「何やねん、それ」と言わんといて。もちろん、そこでの買い物が目的やないさかいな。

この日の暑さは尋常やなかったから、つい飛び込んでしもうたわけや。

パーク内は、どこのショップも冷房がガンガンに利いてて涼しいから、移動は、ショップとショップのハシゴに限るということや。

ただ、コウ君とシン君は遊びたくて仕方ないということで、すぐに別行動ということになった。

まあ、動きの鈍いワシら年寄りと一緒というのもかわいそうやさかいな。

もともと、ここへは彼らのために来たという側面が強いから、始めからそのつもりやったということもあった。

ワシとハカセ、そしてハカセの奥さんチエさんの三人でぶらぶらパーク内を見て廻ることにした。

「これはスタンプウォールですね」

ハカセが、ニューヨークの街並みを摸した通りの壁を見てそう言う。

「せやな。だいたいが、それで作られとるな」

知らん人には、何の話やねんとなるが、専門家同士ならこれだけで十分分かる。

ハカセは昔、遊園地などの設備管理の仕事(注5.巻末参考ページ参照)をしていたということもあり、ワシはワシで拡張員をする前は建築屋におったから建築物のことなら、たいていは知っとる。

ちなみに、スタンプウォールというのは、ディズニーランドでもそうやが、この手のテーマパークで頻繁に使われとる建築工法の一つでもある。

これは、壁面に塗りつけたスタンプミックス壁と呼ばれる専用特殊モルタルに、任意の模様の型を押し付けて立体的な凹凸をつける工法ことをいう。

一つ一つレンガや石などを貼っていく従来の工法に比べ、一気にスタンプで模様を写すから素早く広範囲の施工ができる。

特に、複雑なデザインのものになればなるほど、そのメリットが発揮される。

それにより、何でもないモルタル壁が見た目にはニューヨークの街並みそのもののように変貌するわけや。

「ここに入りましょうか?」

ハカセが指さしたのは『アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド』というアトラクションやった。

映画好きのワシはもちろん、ハカセも子供たちにせがまれてスパイダーマンの映画は1から3まですべて観たというのも理由の一つやった。

待ち時間は40分とある。

元来、ワシもハカセも行儀良く列ぶというのはあまり好きな方やない。

ただ、そういうことを言うてたんでは、このUSJでは、どんなアトラクションも見ることはできんがな。

今のように夏休みの期間中は特にそれが言える。アトラクションに待ち時間があるというのは常識や。

これをスキップするのなら、エキスプレスパスというチケットを買えばええということやが、高いということもあるし、個人的にはあまり勧める気はない。

それにここでは列ぶのも、エアコンがガンガンに効いていたからそれほど苦になることもなかったしな。

何でもそうやが、一番最初に体験したものの印象というのは強い。

ここに入ったおかげで、当初はコウ君たちの付き添い的な気分で来たのが、いっぺんにその認識が変わった。

ここは、列ぶというても、ただ人の後についていくだけやなく、その道中、趣向を凝らしたものが多く、それほど退屈もせんかった。

あちこちのディスプレイに、スパイダーマンやそれに登場するキャラクターなどの映像が映し出され、雰囲気が盛り上がる。

また、その通路には、1963年当時という設定の、スパイダーマンことピーター・ベンジャミン・パーカーがカメラマンとして働く新聞社、デイリー・ビューグル社内のデスクなどが展示されていて、一見、歴史的価値がありそうな錯覚にさせている。

この「アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド」は本場マイアミのハリウッドスタジオでオープンして以来、全米の各メディアから軒並み「世界No.1アトラクション」との評価を受けたということや。

このアトラクションにはストーリーがある。

順番が来ると3Dメガネを装着し、デイリービューグル社の見学ツアー客として、「スクープ号」と名付けられたビークル(ライド)に乗り込み報道見学ツアーをするという設定になっている。

しかし、始まるとすぐに、スパイダーマン2に登場するドクターオクトパス率いる「シニスター・シンジケート」と名乗る悪の組織が、重力を無力化する「反重力砲」で自由の女神を奪い、ニューヨークを引き渡せと要求する大事件が発生したという報告が入る。

ただ、デイリービューグル社の記者は他の事件で出払っていて、新聞社内にはそのツアー客だけしか残っていない。

そこで編集長のJ・ジョナ・ジェイムソンは見学ツアー客を「スクープ号」に乗せて事件現場に派遣するという無謀な設定にして出発させる。

そこにドクターオクトパスらお馴染みの悪役キャラが襲ってきて、それをスパイダーマンが助けるというストーリーや。

ストーリー的には陳腐やが、それが実に面白い。

3D映像と立体音響、爆発の熱風や水しぶきを浴び、スモークなどに合わせて、ライドが前後、上下に移動しながら激しく振動、回転していく様は圧巻やった。

スパイダーマンが手から糸を出し、それに掴まって上昇するシーンは実際にもこんな感覚やろうと思わせるくらいの臨場感がある。

悪役キャラに攻撃されライドが落下するのも本当にそうやと思わせるものがあった。

地面が眼前に近づいた瞬間に、スパイダーマンのネットにキャッチされて無事助けられて終わる。

奥さんのチエさんがそうやったように、絶叫を上げる女性と一緒やと尚、その迫力が倍増するのやないかと思う。

このアトラクションができて以降、USJの入場客がかなり増えたというのも十分頷ける話や。

ワシら、おっさんが乗っても文句なく面白かったさかいな。

出口が、スパイダーマン専用のショップになっている。もっとも、すべてのアトラクションの出口がそうやけどな。

そこで、ワシは面白い物を見つけた。

「すぱいだぁ麺!!」というカップ麺がそれや。さすが大阪人の考え出した、こてこてのオヤジギャグやがこれは受ける。

そう直感した。

ワシが受けるというのはその商品が売れるという意味やない。ワシがそんな心配せんでも実際に良う売れとるようやしな。

哀しいかな、ワシには、いつどこで何をしていても営業員としての性を捨て切れんという因果な性分がある。

その因果な性分が、これを拡張の拡材に使うたらどうやと考えさせた。

その「すぱいだぁ麺!!」は細長い箱に3個入って900円。単に食うだけやと高い気もするが、拡材にするのなら手頃な価格や。

カップ麺自体は、どこにでもありそうな醤油味でまずまず美味い。しかも、ナルトの模様がスパイダーマンになっとるのがふるっていて面白い。

それを帰りがけに20ケースほど買った。

後日談やが、僅か3日でそれがなくなった。もちろん、その分、すべてで成約になっとる。

今更やが、拡材は何も金をかけるだけが脳やないとつくづく痛感した。いかに客受けのする物を探し出すかやと。

もっとも、そのアトラクションの内容を身振り手振りで面白おかしく話す雑談の技量も多少は必要やと思うがな。

そこを出るとすぐ、コウ君たちから電話がかかってきた。

それで、『ジェラシック・パーク・ザ・ライド』の前で落ち合うことにした。

そのとき、ワシは何気なくそのアトラクションの注意書きを読んだ。

それには次の方はご遠慮くださいというのがあり、その中に「心臓疾患」という記載がある。

それを指さし、「大丈夫なんか」とワシ。

「大丈夫ですよ。万が一のときはゲンさんもいてますし」とすました顔でハカセは言う。

実は、ハカセはこの旅行をするに当たり、担当医にアトラクションに乗るのはどうかと一応の相談はしていたという。

医師曰く、ジェット・コースターのような過激なものでなければ取り立てて心配することもなく、もしものときでも二トロールという舌下錠のとんぷく薬があれば心配ないやろうと言われていた。

但し、絶対の保証はできんとは釘を刺されていたようやがな。

「それに、私の身体は私が一番良く分かっていますから」と自信ありげに言う。

それ以上はワシも何も言うことはない。

コウ君たちと落ち合ってすぐ、例によって列ぶ。待ち時間30分の表示。

ここは、「スパイダーマン・ザ・ライド」と違うて列ぶのは屋外やったが、通路に冷気の吹き出ているパイプがあるので、それほど暑さを感じることはなかった。

パーク内には随所にそういう工夫が凝らしてある。

まあ、そうせな、この殺人的暑さやと熱中症の患者が続出しかねんやろうがな。

余談やが、ワシらのおったときはもちろん、この夏、USJで熱中症患者がまだ発生してないというのも、そういう細かな配慮があってのことやないかなと思う。

まあ、配慮しすぎるというのもないではないがな。

「このアトラクションは絶対に濡れます。濡れない席はありません」と、マイクで妙な自信めいた説明をしとるのがそれや。

一瞬、嫌な感じはしたが、大袈裟に言うてるだけやろうと思うてた。面白がらせるために。

しかし、結果はその言葉どおり洒落にならんほど濡れた。

初めは、作り物の恐竜が動くだけの優雅な雰囲気のところをボートに乗って廻るだけやった。

それが突如、アトラクションお決まりの突発事故というのが発生する。

凶暴な肉食恐竜T−REX(ティラノザウルス)が檻を壊し逃げ出したという。

その巨大なT−REXが目の前に現れ、頭上ぎりぎりに迫ったところから逃げるために滝の中を約26メートル下の水面まで本当に一気に落下する。

冗談やなく、バケツで頭から水をぶっかけられたような感じやった。

ただでさえ髪が少ないのに、水を被ったらたまらんで、ほんま。

せやけど、ここも文句なく面白かった。

ここでは、その落下中の様子を記念写真として売り出しとるということで、ハカセは想い出にするため買うてた。

ここに来たら、恐竜の足という触れ込みの「ターキーレッグ」を食うとくことを勧める。

もちろん、本物の恐竜やないけど、骨も太く大きく、そう思わせるに十分なものがある。

正体は七面鳥(ターキー)の足ということや。

まあ、鳥の先祖は恐竜やから、実際にも似た味がしてたのやないかと思うので、周りの雰囲気と併せて本当に恐竜を食うてる気分を味わえる……かも知れん。

値段も630円とそのボリュームのわりに安い。その味はスモークチキンのようでなかなか美味かった。

ワシらはちょうど昼飯どきというのもあり、それを食うた。1本食えば、昼飯には十分や。

ただ、さすがにこれは生ものやから拡材にするために持ち帰るわけにはいかんかったがな。

午後から、コウ君とシン君とは、また別行動ということになった。

ワシらは、しばらくの間、例によってショップのハシゴをしながら彷徨(うろつ)いた。

暑い。言うまでもないとは思うが、水分補強はしっかりとしとかなあかん。

ここで、ちょっとした裏技を教える。

最初は高いかも知れんが、ストラップ付きのペットボトルの飲み物を買う。

ストラップ付きで750円。通常、150円のペットボトルの飲み物がここではすべて250円するが、外からの持ち込みは禁止やから仕方ない。

そのストラップだけやと500円。もっとも、それだけはでは売ってくれんやろうがな。

これは肩にぶら下げることができ、なかなか便利な代物や。

最初は、普通にそれを飲む。

なくなると、パーク内の幾つかの場所に冷たい水が出る冷水器がある。これが結構美味い。もちろん、タダや。

そこの水をペットボトルに入れるわけや。

お茶ならまだええが、コーラやジュースなんかは糖分が多いから、のどが乾く度に摂取していたら身体にも悪い。

しかも、このペットボトルに入れた水は冷たいから、肩にぶら下げておくと脇腹に触れて気持ちもええ。

簡易冷却装置の役目にもなる。一石二鳥や。

しばらくそんなことをして、ワシらは『シュレック4−Dアドベンチャー』という所に入った。

ここは映画館のような広い座席のあるホールに座って前方のスクリーンを3Dメガネをかけて観るだけのアトラクションやと思うてたが、実際にはそんな生やさしいものやなかった。

ただ、これは映画の続編としても結構楽しめる内容になっている。

シュレック1で悪キャラやったファークアード卿は、その最後にドラゴンに食われて死ぬわけやけど、ここでは、その幽霊となって復讐するという設定になっている。

当然のように日本語の吹き替えも映画と同じ声優がやっている。つまり、彼らはこれだけのために特別に吹き替えをしたということになる。

フィオナ姫がその幽霊ファークアード卿の手下にさらわれ、シュレックとドンキーがそれを追いかけ助け出すというストーリーや。

3D−CGの迫力ある臨場感と質感がリアルに迫ってくる。
 
スピード感溢れるドラゴンの飛翔シーンと敵ドラゴンとの対決も映画をはるかに凌ぐ面白さがある。

火球やヤリが何度も身に襲い掛かるような感じで、一緒に戦っていると錯覚させる。
 
しかも、座席が映画館のそれやと思うてたのが、ストーリーの進行と共に激しく動くから驚く。

シュレックが馬車に乗っていれば、その乗り心地の悪さがそのままに、味方ドラゴンの背中に乗っているシーンでは実際に空中を飛んでいるかのような錯覚をさせる。

そして、クライマックスの300メートルもある巨大な滝の映像も実写と思わせるに十分な圧倒的迫力があった。
 
その滝から飛び散る飛まつ……これが実際に勢いよく首の後ろから吹き出してくる。僅かやが、それで濡れる。

そこを実際に落下していくシュレックたちと観客。手に汗握る。まさにそうとしか表現のしようがなかった。

所要時間は20分とのことやが、十分すぎるほど堪能した。文句なく面白い。

そのアトラクションからすぐの所にパークの出口がある。

午後3時前になっていたので再び落ち合って、チェックインのためにホテルに向かうことにした。

出口で若い女性の係員が、ワシらが首からぶら下げとるチケットホルダーを見て「……パスですか」と聞く。

ハカセが「ええ」と言うと、「どうぞ」と言う。

もちろん、ワシらには、一旦、ホテルに行ってチェックインの手続きを済ませてから再度入場するという目的があった。

スタジオパスチケットというのは、その有効期間内であれば何度でも出入り可能やというのがワシらの認識やったから、そうしても特に問題はないやろうと思うてた。

しかし、これが後に、ちょっとしたトラブルを招くことになる。

ホテルでチェックインを済ませ、部屋のシャワーで軽く汗を流してからTシャツを着替え、またパークに向かった。

先頭のハカセが、首からぶら下げたチケットホルダーの「バースデー2デイ」パスを示して通り抜けようとしたとき、若い女性係員が「ハンドスタンプの確認をさせてください」と言う。

「何や? そのハンドスタンプて……」

このパークの決まりで再入場するには、パーク退場時に出口ゲートで手の甲にハンドスタンプというのを押す決まりになっているという。

この手のテーマパークでは当たり前になっていることらしいが、ワシらはそうとは知らなんだ。

再入場の際には、それとスタジオ・パスの提示が必要ということになっとるらしい。

「さっき、出口でそんなこと何も言われんかったけど」

「ハンドスタンプを押されてないお客様の再入場はできないことになっています」

その係員は、そう、機械的に冷たく言い放った。

本人はそうでもないのかも知れんが、少なくともハカセにはそういう風に聞こえた。

「そんなバカな話はないやろ!!」

気の短いハカセが声を荒げた。ハカセの声は異様に大きい。周りの人間が一斉にこっちを注目する。

「出口の係員は、このパスを見て『そのパスでしたらどうぞ』と言うたで。もし、あんたの言うてる通りやとしたら、その警告くらいはしとかなあかんやろ。出た時間は午後3時やったんやから、再入場する可能性も高いのやしな」

「そう言われましても……」

この場面だけ見ていると、若い女性係員にいちゃもんをつけている、たちの悪いおっさんやと誰もがそう思うはずや。

もっとも、たちが悪いというのは当たらずとも遠からずかも知れんがな。

ワシやハカセにはトラブル解決のエキスパートやという自負もあるから、道理に合わんと思う事で引き下がるようなことはまずない。

その意味では、ワシらの相手をする羽目になった人間にとっては相当たちの悪い輩ということになる。

というても、この状況は拙い。どう見ても、か弱い女性をいじめているとしか傍目には映らんさかいな。

「あんたの立場では話は無理やろうから、誰かこのパークの責任者の人を呼んでくれんか」

ハカセも、それに気づき声のトーンを落としてそう言う。

「ちょっと、お待ちください」

どこかに電話しているようや。

それが終わると、「その時間までパークにおられたという証拠、例えばパーク内で何かを買われたレシートとかはありませんか」と言うてきた。

「ああ、それなら」ということで、『ジェラシック・パーク・ザ・ライト』の外で食うた「ターキーレッグ」のレシートを見せた。

それで、やっと通して貰えた。

後で分かったことやが、出口の係員が言うた「……パスですか」というのは「年間パスポートですか」のことやった。

年間パスポートなら、出入りは自由ということらしい。

余談やが、このパーク内では買い物をする毎に、ぶら下げたチケットホルダーを見て、その「年間パスポートですか」と聞かれることが多かった。

どうやら、それを持っていると買い物も安くなり特典もいろいろあるということのようや。

見た目に、ワシらの持っている「2デイパス」とその「年間パスポート」とが勘違いされたということになる。

ワシらはそれを単にパスという部分だけを聞いた。それで「そうや」と言うたので何も確かめず「どうぞ」と係員が言うたのが事の真相やった。

後で出口付近を確認すると、確かに「再入場の際はハンドスタンプを押してください」という看板がある。

どうやら、ワシらとその係員は、お互いに勘違いしたことになる。

客やからと偉そうに言うわけやないが、お互いに勘違いということになれば、一般的には業者側に落ち度があるとされる場合が多い。

客は交通標識を良う見なあかん運転手やないねんから、注意を喚起する責任は業者、この場合はパーク側にあるという理屈や。

実際、出口の係員もそのつもりで声をかけたはずや。そこに勘違いがあった。

もし、あのまま入場拒否されていたら、ハカセもワシも、その事務所に乗り込んで談判してたはずや。大人しく引き下がることはまずない。

しかし、それにしても何でこんなややこしい手間のかかることをせなあかんねんという気はする。

ワシらのようなトラブルは他にも起こりそうなもんやと思うけどな。

まあ、自由に出入りさせといたら、飲み食いだけ外でして中の店が儲からんということなんかも知れんがな。

せやけど、それなら、スタンプさえ押せば出入りが自由ということになるわけやから、そんな規制をしても同じで意味がないと考えるのやけどな。

その意図が良う分からん。

唯一、ここに来て嫌な思いをした瞬間やったが、ワシらはそういうことはすぐ忘れるたちやから、後に尾を引くことはなかったがな。

その後、ワシはコウ君と『ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド』というジェット・コースターに乗った。

コウ君は兄貴のシン君と行動を共にしていたのやが、どうやらシン君は、そのジェット・コースターが苦手のようで乗ることができんかったという。

奥さんのチエさんも嫌いで、ハカセは医者に止められている。

結局、付き合えるのはワシだけやった。もっとも、ワシは嫌やなかったがな。

ワシは、昔、息子のユウキが小学生の頃、遊園地に行って良く乗っていたから、コウ君と一緒に乗ることで、束の間やが、その昔を思い起こすことができた。

ただ、このジェット・コースターに関して言えば、特に凄いというほどでもなかった。というて、期待はずれというほどでもなかったがな。そこそこや。

ちなみに、この『ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド』というのは夜になると、その動き自体がその派手なイルミネーションによりまるで流星のように流れて見える。

なかなか幻想的な雰囲気が味わえる。

その日はそれで終わった。

翌日、26日、朝食の後、8時30分からゲートに列ぶ。

但し、すでに長蛇の列ができていた。夏休み最初の土曜日の影響やと思う。

この日は、前日の作戦会議で、真っ先に、これも人気の『ジョーズ』のアトラクションに行くことにしていた。

開門が9時やから、最初に行ったアトラクションは待ち時間が少なくて済む。

実際、ほとんど待ち時間なしに乗ることができた。

ツアーボートという大きめの船に乗り、ハイテンションのツアー・ガイドがつく。

ここのアトラクションのガイドは皆、こんな人間しか雇わんのかというくらい、妙にハイテンションな者が多い。

まるで、何かの演劇を観ているような感じや。例えて言えば、宝塚歌劇あたりの雰囲気ということになる。それを朝からやられると少しばかり引き気味になる。

アトラクション前に透明の使い捨てポンチョが自動販売機で売っとる。1つ300円。

これが何を意味するかは明白や。ここも、相当水を被ることになる。

そう言えば、昨日『ジェラシック・パーク・ザ・ライト』に来てた連中の中にそれを着ている者がおったな。ここで買うて用意していたということのようや。

アトラクションも面白かったが、何より、その精巧に作られたジョーズの完成度には驚かされる。

水の中から迫ってくる姿には本物の鮫を彷彿させるものがある。

作り物やと分かっていても向かって来られると、思わず後ずさりするさかいな。

ただ、途中で本物のガソリンに火をつけて爆発炎上させるシーンというのはどうやろ。

あれは事故の元になるのと違うやろか。それに夏やとよけい暑さも増すで。

他にも、『バックトゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド』、『ターミネーター・2:3−D』、『バックドラフト』、『E.T.アドベンチャー』など数多くのアトラクションに乗って堪能した。

そのどれ一つとっても期待はずれというのがないのは見事というしかない。

童心に帰るとは良く言うが、まさにそのとおりやった。

その夢のような2日間は、あっという間にすぎた。

今回、その話をすべてすることはできんかったが、いずれ機会があればまた話すこともあるやろと思う。読者の方が望めばやけどな。


参考ページ

注1.旧メルマガ『新聞拡張員ゲンさんの裏話』バックナンバー
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage13.html

注2.旧メルマガ『第145回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞屋さんの
どこが悪いの?』
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage13-145.html

注3.ゲンさんの勧誘・拡張営業講座
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage9.html

注4.ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのWEBサイト
http://www.usj.co.jp/

注5.『第191回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■届いた『ねんきん特別便』
で甦った記憶』
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage13-191.html


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