メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第93回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2010.3.19
■新聞はネットで生き残ることができるのか?
3月初旬のある日。
久しぶりに休みを取ってハカセに会いに行った。
特に用事があってのことやないが、電話ばかりの打ち合わせというのもなんやから、たまにはゆっくり顔を突き合わせて話をするのもええのやないかと思うたわけや。
「ゲンさん、私たちはネットというものを過大評価しすぎじゃないですかね?」
会うなり、いきなりそうハカセが切り出してきた。
「何や?」
何の前触れもなく、話を向けるというのは何も今に始まったことやないが、奴さんにはどうもそういうのが多い。
ハカセ自身は、頭の中でいろいろ考えた末に出した結論、質問やろうというのは何となく分かる。
分かるが、やはりその前段の説明くらいはしてほしい。
しかし、ハカセはワシならそれくらい言わんでも分かるはずやという思い込みがあるのか、勝手にそう喋り始める。
ワシをそれだけ買い被っているのか、単に自分勝手なだけなのか。
まあ、その両方やとは思うがな。
「いえね、ここのところ、新聞とネットの関係についてメルマガで話す機会が多くなっているでしょ?」
「ああ、確かにその手の話題が最近多いな」
それを調べているうちにハカセはネットそのものに疑問を持つようになったのやという。
インターネットが現代の社会には必要不可欠というか、それなくしては生活していくことすら困難な時代に突入しているのは最早、疑いのない事実やと、ワシも事ある毎に言うてる。
人々の仕事や生き方そのものにまで密着していると。
それに関してはハカセも同意見や。
ただ、ハカセは、そのネットの世界にあまりにも多くの人が幻想を抱きすぎているのやないかと言う。
あまりにも、そのええ面ばかりに目が行きすぎているのやないかと。
調べれば調べるほど、その矛盾点が浮き彫りになると話す。
新聞についてもそれが言えると。
確かに、新聞はネットの著しい台頭によって衰退の道を歩んでいることには疑いの余地はない。
しかし、それは新聞そのものが変にネットと関わりを持とうとしたからやないのか。
紙の時代は終わり、これからはネットの時代やと勝手に思い込んでいるからやないのかと。
ネットでの生き残りを模索しすぎたために却って自ら墓穴を掘る結果になってしまった。
それが新聞の今の姿やないのかと。
そのことに気づいたのやという。
基本的に、メルマガの話題は二人で話し合って決めるのやが、読者からの投稿があれば、それを優先することも多い。
今回の話も、J氏という常連の読者の方から、
以前、S新聞が新しく電子配信サービスを立ち上げたことをメールでお伝えしたことがありますが、その後の変化には全く気づきませんでした。
すでに最新のS新聞の紙面が、毎朝5時に低額で読めるようになっています。今日まで全く知りませんでした。
この価格で読めるならと、口コミで評判が広がっていけば、一部の層(チラシを不要と考えている人たち等)の“新聞紙”離れに拍車がかかるように思います。
という情報を寄せて頂いたことで、それに関する調査をした結果、メルマガで話すことに決めたわけや。
ちなみに、ハカセは、この読者に後日、
Jさんのように考えられる方が自然なのかも知れませんが、私の意見は少し違います。
というのは、このサービスが始まってすでに4年半が経過していますが、Jさんがそうであったように、ほとんどの人にその存在が知られていないというか、知られていてもその購読者数が増えていないという現実があります。
現在、調査中ではありますが、ある信頼のおける情報によりますと、その電子S新聞のネットでの申込み読者は今以て数千人程度しかなく、多くても1万人までとのことです。
S新聞がネットへの完全移行を果たし、新聞社の経営を維持するためには、その価格で販売する場合、いくら発行経費、販売経費が抑えられるとしても、少なくても現状の紙媒体の発行部数192万部の3倍、600万部程度が必要だと考えます。
それはどう考えても不可能な数字でしょうから、この試みはかなりの高確率で失敗するものと思われます。
他には、N新聞が今年、2010年中に電子新聞の発行を決めていますが、あまり見通しがいいとは言えなさそうです。
結論として、ネットでの電子新聞事業は成功しないだろうというのが私の考えです。
その理由は幾つか考えられます。
1.ゲンさんの持論の一つですが、新聞は売り込まないと売れないという商品であること。
これまででもWEBサイトでの新聞本紙の申し込み軒数は、サイトに協力して頂いている販売店の方々のお話を総合しますと、2000部前後の取り扱い部数のある販売店で、平均して年間5、6軒程度とのことです。
それからしても待ちの営業では、まず売れないというのはすでに実証済みではないでしょうか。
2.電子新聞で収益を上げられるのかという点。
例え420円と破格に安い価格と知っていても、ネットを利用している人にとっては、タダでニュース記事を見ることのできる環境がすでに整っていると認識されているわけです。
そういう人たちが果たしてお金を払ってまで電子新聞を講読するかとなると、それは考えにくいのではないでしょうか。
ちなみに、大手ポータルサイトのニュース配信については、新聞社、及び時事通信などからその情報を買って掲載しているものですので、今更それを一般利用者に課金するように依頼、制限するのも困難な状況にあります。
つまり、大手ポータルサイトの方針が変わらない限り、あるいは新聞各社が大手ポータルサイトと絶縁してでも、その記事情報を流さないと決めない限り、現在のニュース報道がタダが当たり前の環境に変わりはないということです。
3.紙媒体の広告費に比べて、ネットでの広告費は比較にならないほど安いと言われています。
紙媒体でも広告費の下落が著しいとのことですが、ネットではそれ以上の暴落が常識でもありますので、新聞社の目指す広告収入というのは、まず期待できないかと考えます。
4.現存の販売店との兼ね合いという問題もあります。
ネットでの販売を促進するのなら、現存の販売店を切るくらいの覚悟が必要です。
実際、S新聞のネット価格は420円ですから、それと同じ内容の紙面であるにも関わらず、それよりもはるかに高い価格で販売を余儀なくされている販売店にとっては、やり切れない思いになるではないでしょうか。
それもあってか、S新聞自体もさすがに新聞紙面での宣伝広報は控えているようです。
狙いはあくまでもネットに逃げた人たちに対してということのようですが、現時点までは、それは空回りしているようです。
いずれにしても、どっちつかずのやり方では、紙媒体の新聞もネット新聞も両方ともだめになる、そんな気がします。
まだ、調べている段階で多くを語れませんが、他にも問題がかなりありそうです。
『第91回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞の実像 その1 新聞が斜陽化している本当の理由とは』でも言及しましたが、事を起こすのがあまりにも「遅すぎた」ということではないでしょうか。
また、ネットの折り込みチラシについても同様で、脅威になる前に自滅する可能性がかなり高そうです。
もっとも、それだからと言って新聞の折り込みチラシ依頼の減少に歯止めがかかり救われるという保証はできませんが。
それらについても、近いうちにメルマガにまとめて話したいと考えています。
と返信して、約束したのが今回の話ということや。
これから、ハカセがJ氏に返信したメールの検証をしようと思う。
S新聞の電子配信サービス「SNetView」(注1.巻末参考ページ参照)について、
『現在、調査中ではありますが、ある信頼のおける情報によりますと、その電子S新聞のネットでの申込み読者は今以て数千人程度しかなく、多くても1万人までとのことです』
と言うてたが、その裏付けは結局取れんかった。
少なくともワシらには、その確かな数字を調べることはできんかったということや。
それには「SNetView」がその購読者の数を公表してないということが大きい。
『ある信頼のおける情報』というのは、ワシらが信頼のおけそうだと思われる人物が書籍に記していた数字で、それを鵜呑みにしてもええのかどうかという問題がある。
ただ、その購読者数が極端に少ないというのは、ほぼ間違いないという気はするがな。
S新聞も含め新聞各紙のすべてでその購読者数の公表をしとるが、なぜかこの「SNetView」に関してだけは、できて4年半も経っていながら、未だにどこにもその購読者数が公表されとらん。
新聞社は今まで部数にゲタを履かすのを得意としてきたから、その粉飾した数字を出すことはできたかも知れんが、その元の数字があまりにも低いさかい、それもできにくかったのやないやろうか。
それなら、いっそのことその数字の公表はしないでおこうという結論に達した。
そう考えるのが自然やと思う。
それが購読者が極端に少ないという何よりの証拠、裏付けになるのやないかということや。
その理由として、『1.ゲンさんの持論の一つですが、新聞は売り込まないと売れないという商品であること』というのは、まさしくそのとおりやと言うしかない。
WEBサイトでの新聞本紙の申込み軒数が極端に少ないのは業界では半ば常識とされとることやさかい、今更それを言うてもという気がする。
ついでに、客から販売店に直接、講読を申し込むケースも少ないというのも言うとく。
もっとも、こっちの方が、WEBサイトのそれよりは、いくらか多いということやがな。
いずれにしても、新聞は、売り込まんと売れんというのは普遍の真理やと思う。
「SNetView」のように、ネットで網を張って待っているだけでは絶対に無理やと。
勧誘員にそれを売らせるというのなら、あるいはその数字が伸びるかも知れんが、月420円という安値やと、とてもやないが、その営業報酬が出るわけがないから、それも考えるだけ無駄やわな。
次の『2.電子新聞で収益を上げられるのかという点』、および『3.紙媒体の広告費に比べて、ネットでの広告費は比較にならないほど安いということ』については、これはもう絶望的と言うしかない。
ネット先進国のアメリカで、その象徴的な話がある。
アメリカを代表する新聞の一つでもある、ニューヨーク・タイムズは2007年、あまり収益が芳(かんば)しくなかったそれまでのサイト上の課金制度を取り止め、無料にすることに決めた。
無料にすることで、サイトへの訪問者を増やすことができればネット上の広告収入が増えると目論(もくろ)んだわけや。
結果は、大きくアテが外れた格好になった。
2008年のニューヨーク・タイムズ紙の講読部数は約110万部で紙面による広告収入は約20億ドル(約180億円)。
これに対して、WEBサイトへの訪問者数は1ヶ月、約5千万人。ネットでの広告収入は約2億5千万ドル(約22億5千万円)となっている。
つまり、紙面購読者約110万部に対して、WEBサイトへの訪問者数は約5千万人でおよそ45倍もあるにも関わらず、その収益は約20億ドルに対して約2億5千万ドルで8分の1程度しかなかったことになる。
それまでのネットの常識でもあった、サイトへの訪問者数を増やせば広告収入もそれに連れて大きくなるやろうという予想は、これにより完全に否定された形になったわけや。
少なくとも、アメリカの新聞のWEBサイト全般にそれが言えた。
ちなみに、アメリカ新聞協会(Newspaper Association of America) 発表のデータによれば、アメリカの新聞業界全体の2008年の広告収入は、紙面によるものが約347億ドル(約3兆1230億円)で、ネットからの広告収入は約31億ドル(約2790億円)に止まっているという。
これから言えることは、アメリカではネットで新聞記事を読む人が圧倒的に多いにも関わらず、その広告収入は10分の1以下しか得られてないという事実が浮き彫りになったということや。
日本でのそういったデータはまだないが、ネット上ではアメリカも日本もそれほど大差ないと思われるから、それについてのデータを出せば、ほぼ同じ結果が出るのやないかと思う。
そんな中、実験なのか、あるいはヤケクソなのかは知らんが、そのデータがあると知りながら、無謀な試みに挑戦した、アメリカのある新聞社があった。
146年の歴史を持つ地方紙、シアトル・ポスト・インテリジェンサー社というのがそれや。
2009年3月17日、シアトル・ポスト・インテリジェンサー社はそれまでの紙の新聞発行を止め、WEBサイトのみに移行した。
それには、1998年に約20万部やった同紙の発行部数が10年後の2008年には、11万7千部前後と、ほぼ半減になるまでに落ち込んでいて、その先もジリ貧状態は目に見えとるということで、電子新聞での生き残りに望みを託し、そうしたのやという。
そうした裏には、同社のスポンサーである持ち株会社は他にも幾つか新聞社を持っていたから、シアトル・ポスト・インテリジェンサー社を実験台に使ったのやないかという噂がある。
結果は、無惨なものやった。
同紙の広告収入は、先のアメリカ新聞協会のデータどおり、ほぼ90%減になり、紙の10分の1になった。
当然やが、そのままでは新聞社の経営を維持するのはとても無理や。
そのため大規模なリストラを余儀なくされ、165人いた編集スタッフ、記者たちは現在20人にまで減ったという。
しかし、これでは、とても地元のニュースをカバーすることすら不可能で、現在は約200人ほどのボランティア(無給)のブロガーたちに協力して貰いながら、何とかWEB上での新聞の発行を続けているとのことや。
このシアトル・ポスト・インテリジェンサー社というのは日本での馴染みは薄いが、2008年7月18日に、ここの記者が書いた1本の記事が発端となってアメリカ・シアトルの地元は疎(おろ)か、日本でも物議を醸(かも)したことのある新聞社や。
その当時、日本の大手ポータルサイトのほとんどで報じられたニュースやったから記憶されておられる人も多いのやないかと思う。
「イチローをトレード? 大胆だが分別ある提案」と題した記事を掲載し、過激な論調でイチロー選手を批判したというのが、それや。
同紙の記者はGM(ゼネラル・マネージャー)を解雇した際にシアトル・マリナーズのCEO(最高経営責任者)が「フロントや監督、選手全員がトレードの対象」と語ったことを引用し、「それならば、7月31日のトレード期限までにイチローを先発投手や将来有望な選手と交換すべきだ」という記事を書いた。
さらに、ディズニーの傘下にあるESPNラジオのある有名解説者による「イチローは本当に良い選手だが、平凡な3割打者。単打しか打てない『蚊』だ。チームの中心となる『象』にはなれない。スポーツではパワーが勝つ」との過激な発言を紹介した。
この当時、シアトル・マリナーズは最下位を独走中で、結果的にこの年、25年ぶり4度目のシーズン100敗を喫するという不名誉な記録を残すことになる。
総年俸が1億ドルを超えるチームのシーズン100敗到達はMLB史上初というオマケまでついて。
それからすると、あながち暴論というほどの記事ではなかったかも知れん。
日本でもそのチームが不振になると、監督や主力選手に批判的な記事が載るというのは、それほど珍しいことでもないさかいな。
しかし、いかんせん、あまりにもファン心理を無視しすぎた論調やった。
イチローの実績は今更披露するまでもなく、まさに不世出と言うてもええくらいの成績を残し、今やアメリカ、日本のみやなく世界中の野球ファンのあこがれになっとる存在や。
特にシアトル・マリナーズのファンにとっては唯一の誇れる『宝』でもあったわけや。
しかも、他のメジャーリーグのスパースターたちがその報酬と条件に釣られて、いともたやすくチームを離れることの多い中で、イチローは日本人特有とも言える「チーム愛」を前面に出し、それを嫌ったという背景もファンの心を打つ大きな要素になっていた。
イチローは並のスーパースターとは違うと。
そのため、その記事に対して読者から批判が殺到することになった。
その記事のコメント欄には、「イチローは史上最も驚くべき、そして最も偉大な選手の1人であることを忘れてはいけない」、「私はイチローを愛している。彼はチームの体であり心でもある。使い古した商品のように彼を追い払うことをしてはいけない」など、トレードに反対する意見が多数を占めた。
それに加えて、「黙れ! お前こそ今すぐシアトルから出て行け!」、「よくこんな記事をデスクが通したな」、「あなたは精神異常者ですか?」、「イチローを嫌いなあなたが自分の欲求を満たしたいだけなのでは?」という記者を痛烈に批判する声が多数寄せられたという。
ここで、ワシはある疑問が浮かんだ。
この地元記者は、そのイチローの存在の大きさは良く知っていて、そのイチローを痛烈に批判すれば、どんな反響が返ってくるかも予想できたはずや。
それまでにも、多少の批判めいた記事を他紙が書くことはあっても、有力地元紙でもある、シアトル・ポスト・インテリジェンサー紙は常にイチローを称えてきたという歴史がある。
せやからこそ、この記事の反響が大きかったわけやからな。
そこには、シアトル・ポスト・インテリジェンサー紙の哀しい裏事情があったのやないかと思う。
このときの新聞社は、まさに沈没寸前の帆船(はんせん)のような古いだけが取り柄の状態やった。このままでは座して死を待つしかない。
そう考えて、敢えてそのアドバルーンをブチ上げたのやないやろうか。
シアトル・ポスト・インテリジェンサー紙、ここにありと示すために。
例え、悪役になろうと、それを記事にすれば確実に話題にはなる。話題になれば、当然やが新聞の売れ行きは伸びる。
実際、その目論見はある程度成功したと思われる。
一時的にでも、その売り上げが伸び、アメリカ中、ひいては日本中のマスメディアにその記事が取り上げられ、その知名度も上がったさかいな。
これは、日本の週刊誌あたりが良く使う手やと思う。
敢えて悪役になるのを承知でその宣伝効果を狙って衝撃的な記事、アドバルーンを上げるわけや。
それで裁判沙汰にまでなったというのは日本の週刊誌では日常茶飯事でもある。それ自体も狙いの一つやないかと言う人もいとるくらいやさかいな。
前回の『第92回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞の実像 その2 週刊誌による新聞批判の真の理由とは』の中で言うたように、新聞への批判記事を書くことで一時的に売り上げを伸ばそうとする手法に似ているのやないかと考える。
言えば、禁断の劇薬を使ったということになるわけや。
劇薬はその場の効き目は抜群やが、結局は毒やから、いずれはそれで自らも身を滅ぼすことになる。
翌年、シアトル・ポスト・インテリジェンサーは、紙の新聞を廃業することになったというのが、それを裏付けとるのやないかと。
ちなみに現在、WEBサイトのみになってからは、そのイチローの賞賛記事はあっても批判的な記事はほとんどないという。
まあ、これはワシの考えすぎ、裏読みのしすぎなのかも知れんが、個人的には「中(あた)らずと雖(いえど)も遠からず」やと考えとるがな。
日本の場合はS新聞の「SNetView」の実態がもう一つ良う分からんから断定はできんが、その運営が厳しいというのは分かる。
紙の新聞のようにネットでは「再販制度」に守られるということもないさかいな。
日本での電子新聞経営は難しいのやないかと言える事例が一つある。
「インターネット新聞JANJAN」(注2.巻末参考ページ参照)というのがある。
いや、あったと言うべきかな。
これは2003年2月1日、掲載希望者の投稿から記事を作成するという市民ジャーナリズムの草分け的存在として、市民記者制度を日本に導入した最初のインターネット新聞やった。
「これまでのメディアの発想を一新する市民の、市民による、市民のためのメディア」をそのスローガンとして掲げていた。
ここも結局、ネット上での広告収入の落ち込みにより運営の存続が危うくなったという理由で、2010年3月末、つまり今月の末に「暫時休刊」すると発表した。
その再開のメドは今のところ立ってないらしい。事実上の倒産やという向きも多い。
記事自体は市民記者制度ということで、多くはボランティアの投稿やさかい、その面での経費はほとんどかからんようやが、株式会社組織にしているため、年間約3億円の運営費が必要やとされている。
それまでは親会社からの広告費でその経費の大半を賄(まかな)っていたようやが、折からの不況に加えて、ネット業界の広告単価の安値傾向により、それを含めた広告収入の落ち込みが著しいために運営の存続が難しくなったというのが事の真相のようや。
一般の新聞とは違い、市民記者というほぼ誰でもなれるというシステムを採用したため、いろいろと問題を起こしていたのが原因とも言われている。
もっとも、その真偽については、あまり関心もないのでここで詳しく触れるつもりはないがな。
ただ、さもありなんと思うとだけ言うとく。
ワシが、この「インターネット新聞JANJAN」というのを初めて知ったのは、2年ほど前の2008年6月13日、サイトのQ&Aに投稿してきた『NO.588 残念ながら、サイトにあきれています』(注3.巻末参考ページ参照)の質問でやった。
この質問者の方が、その「インターネット新聞JANJAN」の市民記者の人やったということが、そのときに判明した。
この人は、その2年前の2006年7月18日、『NO.279 「新聞拡張員ゲンさんの嘆き」を読んで』(注4.巻末参考ページ参照)でも投稿されていた。
正直言うて、その質問はあまりにも見当外れな論調に終始していて、ワシらを攻撃してくる姿勢には怒りさえ覚え、辟易(へきえき)した記憶がある。
ワシらは自分から他者に仕掛けることはないが、こちらの土俵に上がって論戦を挑まれるのは、むしろ歓迎したいくらいやから、そうされた場合は逃げるつもりはない。
その相手の言い分、論調も封じ込めるつもりはないので、正直に載せる。その上で論戦を闘わせる。
もっとも、この方は、2年毎の2度に渡り、それなりの論戦を挑んでおきながら、いずれも単発に終わっている。
そのワシの反論には何も答えていない。
まあ、言いたいことだけ言うて、そのままという人も世の中には珍しいことでもないから、そういう人がいたとしても別に構わんとは思うがな。
ただ、ワシのように「インターネット新聞JANJAN」を良く知らん者にとっては、そこの記者さんからの攻撃を受けると、どうしてもそこはそういう人たちの集まりなのかと考えてしまいやすい。
それはちょうど、悪質な勧誘員に遭遇した一般読者と同じように。
もちろん、ワシは悪質な勧誘員がそのすべてやないというのと同じように、「インターネット新聞JANJAN」の記者さんたちが、そんな人たちばかりやないとは思うし、信じとる。というか、信じたい。
しかし、その思いはあっても、気分としてはあまりええもんやないのは確かやった。
今回のような事態になれば、そういう人がスタッフの一員やったというだけで『さもありなん』と、どうしても考えてしまうことになるわけや。
ワシは過去、どんなに苦情や文句を並べてこられた人に対してでも、そこまでの感情が湧(わ)くことはなかった。
その多くは、拡張員や販売店の酷い仕打ちにあってのことやと理解していたさかいな。
それについては、常に「同業者として申し訳ない」という思いの方が強かったということもあったしな。
それでも、そのときは、そんな人も中にはいとるというくらいにしか考えてなかったが、今回のこの話の中で偏(かたよ)った思考の人が、その市民記者の人の中にいたと思い当たったわけや。
何でもそうやが、偏(かたよ)った思考からは、ええ結果を招くことはまずないと言える。
それも「暫時休刊」の理由の一つやなかったのかと。
まあ、これについてもワシの考えすぎかも知れんがな。
ネットの広告という点について、もう一つ。
新聞販売店の悩みの一つに、新聞の折り込みチラシの依頼が減っているという問題がある。
それによる収益が以前と比べて激減していると。
その理由として、ネットでその新聞の折り込みチラシそのものが無料で公開されていて、新聞を買わずとも自由にそれを利用できるからやという見方が有力や。
その利用者が急増して、新聞紙面の折り込みチラシが激減しているのやないかと。
果たしてそうなのか。
これについても検証してみた。
そのネットでその新聞の折り込みチラシを利用する一般消費者とそれを依頼する委託業者、両方の視点でな。
結論から先に言うと、ネット上で言われているほど多くの人がその電子チラシを見て利用しているとはとても思えず、その効果のほども期待できんのやないかという答えにワシらは達した。
少なくとも、それを裏付ける数字や保証がどこにもないのだけは確かやったと。
ヤフーなどの大手ポータルサイトで「電子折り込みチラシ」のキーワードで検索すると、悠に100万件以上のサイト、ページがヒットするが、そのすべてのサイトで訪問者数のカウントがない。
まあ、近年はサイトにしろブログにしろ、その訪問者数のカウントがないのが普通という傾向にあるが、それではその利用者の適切な数は把握できん。
中には月数千万PV(ページビュー)があるとの触れ込みのサイトもあるが、PV(ページビュー)というのは、ほとんどが自己申告やさかい、その真偽のほどを外から確認するのは難しい。
素人考えかも知れんが、本当に広言するだけのアクセス数があって自信があるのなら、そういった訪問者数が値打ちを決めるサイトは、やはり見た目にもそれと分かるカウンターをつけるべきやないかと思う。
サイトの重要度とそのステータスを計り判断する方法の一つに、グーグルのページランクというのがある。
それを見る限りでも、その検索の上位にくる「電子折り込みチラシ」サイトは軒並みランクの数値が低い。
ちなみに、ヤフージャパンの検索の1ページめついて調べてみると「ページランク4」が最高で1つ。後は軒並み「ページランク0」から「ページランク2」程度やった。
まあ、もともとページランクというのは単なる目安程度のものやとは言われとるから、それでどうこう言うのもどうかと思わんでもないが、それでも被リンク数によってその数値が決まるということやから、大した外部リンクがないサイトやというのは推し量れると思う。
また、ヤフーにはブックマーク数の表示があるが、それも「ページランク4」のサイトの472人が最高で、他は0から数人、十数人という低レベルやった。
その購読者数が1万人にも満たないと言われているS新聞の電子配信サービス「SNetView」で「ページランク6」、ヤフー・ブックマーク103人となっていることから比較すると、その「電子折り込みチラシ」サイトへの訪問者数には疑問があるということに、どうしてもなる。
尚、「電子折り込みチラシ」サイトのトップと目されるのはヤフージャパンの「Shufoo!(しゃふー)」で、こちらは「ページランク6」、ヤフー・ブックマーク1011人ということになっとる。
もっとも、このブックマークの人数は、「Yahoo!ブックマーク」というサイトに、ネット経由で登録している人の数で、ネットユーザー自身がブラウザに登録したブックマークの数とは全く違うから、どこまでアテになるものかとなると何とも言えんが、それでも人気のバロメーターくらいにはなると思う。
この「Shufoo!(しゃふー)」は、2001年8月に開設されたもので比較的古い。
2008年2月の時点で総合小売業をはじめホームセンターやドラッグストアなど約300法人・1万店舗が登録しているということや。
これを多いと見るか、少ないと見るかは、人それぞれやが、この業界でトップなのは、ほぼ間違いないと思われる。
しかし、ここもその訪問者数は表示されてない。
ちなみに、このサイトについてはハカセが時折使っているというSEOアクセス解析では「総合評価A・92 / 180 pts 」という解析結果が得られた。
参考になるかならんかは分からんが、当サイトのそれは「総合評価A・89 / 180 pts 」という結果になっている。
もちろん、その比較で訪問者数を論じるわけにはいかんが、「電子折り込みチラシ」サイトが、どの程度の評価のものかは、おぼろげながらでも分かるのやないかとは思う。
もっとも、これ以上は、いくらその訪問者数に疑問があると言うても、それを数字やデータで示せん以上、ここまでが調査の限界ということになるがな。
ただ、どの世界でも同じように、その「電子折り込みチラシ」サイトの中にも、詐欺とまでは言わんが、それに近い胡散臭い所があるのは、どうやら確かなようやというのも、ついでやから言うとく。
それは、その「電子折り込みチラシ」サイトは利用者のためというより、広告主の募集にその力を注ぎ、見栄えのええページを作り、その広告主からの出費で儲けを出そうというのがミエミエやと思えるからや。
その訪問者、利用者の数も不確かやのに、その加入費、広告費はしっかり取る。
もちろん、それによる効果のほども分からんし、何ら保証しとるわけでもない。
ただ、そういう種類のサイトやというだけで広告主を納得させているにすぎん。
極端なことを言えば、そういう種類のサイトはその広告主を確保したことで目的を達したことになるわけや。
もっと言えば、広告主を確保するためだけに存在しているサイトやと。
ネットの世界には、その「電子折り込みチラシ」に限らず、どさくさに紛れてそういう得たいの知れんサイトがウヨウヨいとる。
それと知らず、その罠に嵌(はま)る人も結構多い。
ワシは昔から新聞の折り込みチラシについては、確かに主婦層の人気が高いのは認めるが、それにしてもそのすべてが見られるわけやないというのは良う知っとる。
大半は新聞に折り込まれたまま古紙に出されるか、ゴミ箱行きになって終(しま)いや。
わざわざ手に取って見る人の方が圧倒的に少ない。
100枚のうち1、2枚、そのチラシを見て買い物に行ってくれたらええ方の部類やと思う。
チラシを作る側にとっては相当な思い入れがあり、多くの人が見てくれるはずやと考えたい気持ちは分からんでもないが、所詮、チラシというのはそんな程度のものでしかない。
ハカセは、現在、ある町内会の役員をしとるということで、最近、その集会に出向くことが多いという。
そこに集まるのは、たいてい暇な主婦連が多い。
その集会のあった日。
その場でハカセは、ちょっとした話をすることになり、その折りついでに、思い切って「インターネットで折り込みチラシを見ることができるというのを知っている方はおられますか」という質問をしたという。
そこに集まった主婦連は50名ほどやったが、ただの一人もその存在を知っているという人はおらんかったらしい。
また、それについて興味を示した人も皆無やったと。
もちろん、それはたまたまやないかと言うてしまえば、それまでの話やけど、ネットの力というのはあまり過信するもんやないと、そのときハカセは気づいたと言う。
そうかと言うて、その「電子折り込みチラシ」サイトが利用されてないのかと言えば、そうやないとは思う。
利用している、便利やと考えている人も多いのは確かなはずや。
ただ、その絶対数に疑問があるだけの話でな。
この事業が成功するかどうかは、それ次第で決まる。
それについて、多くの人が疑問を感じるようになれば、結局は、ネットでの広告の弱さということにつながり、その事業そのものが先細りするのやないかと考えるがな。
ハカセがJ氏に『ネットの折り込みチラシについても同様で、脅威になる前に自滅する可能性がかなり高そうです』と言うたのは、そういう理由からや。
少なくとも、現在の乱立状態のままやとその懸念は高い。
人の幻想はいつかは醒め、その現実を知るときが必ず訪れる。
ハカセが冒頭で『私たちはネットというものを過大評価しすぎじゃないですかね?』と言うてたのは、その思いがあってのことなわけや。
つまり、ワシらの結論としては、ネットに依存せず、新聞は新聞として生き残る道を選んだ方がええということや。
いずれはネットへの移行もやむなしと考えた時点で終わる。
そんな気がしてならん。
逆に、ネットと一切の手を切るという覚悟をどこかでして、新聞の情報は新聞でなければ知ることができんという風に持っていけば、今よりも活路を見出せそうな気がするがな。
いずれにしても、新聞社が今のような優柔不断な態度を続けとるようでは、進むも地獄、退くも地獄に陥るだけやという気がする。
何度も言うが、紙の新聞は売り込むことができる。それにもう一度、賭けてみるべきやないかと思う。
参考ページ
注1.S新聞の電子配信サービス「SNetView」
注2.インターネット新聞JANJAN
注3.NO.588 残念ながら、サイトにあきれています
注4.NO.279 「新聞拡張員ゲンさんの嘆き」を読んで
読者感想 今回のメルマガについて
投稿者 Jさん 投稿日時 2010.3.21 PM 9:28
Jです。
> ハカセがJ氏に『ネットの折り込みチラシについても同様で、脅威になる前
> に自滅する可能性がかなり高そうです』と言うたのは、そういう理由からや。
>
> 少なくとも、現在の乱立状態のままやとその懸念は高い。
>
> 人の幻想はいつかは醒め、その現実を知るときが必ず訪れる。
>
> ハカセが冒頭で『私たちはネットというものを過大評価しすぎじゃないです
> かね?』と言うてたのは、その思いがあってのことなわけや。
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> つまり、ワシらの結論としては、ネットに依存せず、新聞は新聞として生き
> 残る道を選んだ方がええということや。
よくよく考えてみると、「ネットチラシ」というのは、広告紙面を、わざわざバーチャルで見せようとする発想です。
ネット(PC)の強みは、データを蓄積して、検索したり分析することが容易にできることです。
そういう特筆すべき機能を一切捨てて、画像データのみを閲覧者に提供しようとするから失敗したのではないかと気づきました。
逆に言えば、もし、自分の近所のスーパー全てが、カカクコムのような見せ方をするサイトに登録したら、ネットを使いこなせる人であれば、ほとんどの人が飛びつくと思うのです。
しかし現実には、情報をそのように出す戦略を、食品スーパーは賛同しないでしょうし、飛びつく人の数としても、全世帯の一部にすぎないでしょう。
むろん、時代がもっと進めば、パソコン商品のように、データ比較用のサイトに食品が並ぶようになるのかもしれませんし、ネットを使いこなす人も増えてくるはずですから、事態が変わってくるはずです。
今は、諸々の事情から、チラシのコピーをネットで見せるのが精一杯であるがゆえに「中途半端」なものになってしまった。
「だから失敗した」という構図であると私は考えました。
もちろん、ネットがどんなにすばらしい技術に発展していったとしてもチラシという紙を毎朝、宅配で戸別に届けるというビジネスモデルはネットにはできません。
今後、部数は今以上に減っていくかもしれませんが、「情報(データ)」だけでない、別の物を届けるんだという意識を持つことが、新聞販売店が生き残る道につながると思います。
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