メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第98回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2010.4.23


■新聞トラブルあれこれ その4 倒産で使えなくなった商品券をめぐって


「何やと!! できんやと!! それやったら、詐欺やないか!!」

講読客のタニガワという中年の男が電話越しに、オオトリ新聞販売店の店長、ヤマザキにそう噛みついてきた。

「そう言われても、うちも被害者でっさかい……」と、噛みつかれたヤマザキが困惑気味にそう答える。

タニガワの言い分は、去年の12月に1年契約の拡材として貰った5000円分の商品券のうち使った残りの3000円分が、発行していたSスーパーの倒産によって使えんようになったから、他の商品券と換えろというものやった。

そう言われてヤマザキも、「ハイ、そうですか」と応じるわけにはいかんかった。

店長とは言うても、所詮は雇われの身で販売店の経営権は社長のオオトリにあるから、そういうことに対する決定権はない。

しかも、そのオオトリからは、今回のような苦情があることを、いち早く想定して、「Sスーパーの倒産は、うちの店の責任やない。もし、商品券の交換や解約するという客が現れても、それには一切応じるな」と、厳命されていた。

ちなみに、そのSスーパーでは、一般でも1万円で1万2千円分の商品券が買える仕組みになっていた。

それに釣られて購入した約600人が総額1千万円以上の被害を訴えているという。

オオトリは多めに買うからということで、ヤマザキにはその価格は知らされてなかったが、もっと安く購入していたのは、ほぼ間違いないと思う。

新聞販売店の中には、大手百貨店の商品券でもかなりの割引率で購入しとるケースもあるというのはワシも知っとるが、そうすることが悪いとは思わん。

むしろ、経費を節減するための企業努力の一環という見方もできる。

但し、今回のような問題がなければの話やけどな。

社長のオオトリの通達に、「それなら自分で言えよ」と、心の中で毒づいてはみたものの、それを声に出して言うことは、ヤマザキにはできなんだ。

そのSスーパーの商品券を使うように指示した責任は、タニガワという顧客の言うように経営者のオオトリにあると、ヤマザキも内心思っていた。

ヤマザキは「うちも被害者でっさかい」とは言うたものの、その気持ちを払拭できずにいたから、どうしてもその部分の声のトーンは落ちる。

しかし、その思いとは裏腹に、「分かりました。苦情を言うてきた客には私から、そう言い聞かせますので」と、追従して安請け合いをしてしまった。

ワンマンの権化でもあるオオトリの意向に逆らったら、この店で働き続けることはできんようになる。

ヤマザキにとって選択の余地はそれしかなかった。

一般からは販売店の店長というのは、その店の最高責任者のように思われることが多い。何でも自由に決められると。

実体は何の決定権も持たん単なる中間管理職にすぎんのやが、客はそう思わんし、また立場的にもそういう対応はできんわけや。

雇われの身は辛い。

このときほど、ヤマザキはそれを実感したことはなかったと後に語っていた。

「どうしても、他の商品券かサービスに換えられんというのなら、新聞は解約するで」と、そのタニガワは強気やった。

「うちもそのSスーパーの商品券を大量に買っていて甚大な被害を被っているんです」

実際には、そのSスーパーの商品券はすでに使い切って残ってなかったから被害は何もないのやが、オオトリからそう言えと厳命されていた以上、ヤマザキは再度、そう言うしかなかった。

ウソでも被害者を演じるしかないと。

「そんなことはオレの知ったことやないがな」

「そうはいきません。私どもは、お宅が契約する際、一応、そのSスーパーの商品券5000円分か2ヶ月分の新聞代の無料のいずれかを選んで貰ったはずです。そして、タニガワさんは、そのSスーパーの商品券5000円分の方を選ばれたのと違いますか」

ヤマザキは、そう言うことで暗にタニガワにも責任の一端があることを知って貰い、納得してほしかった。

「それはそうやが、そのSスーパーの商品券が紙クズ同然になった今は、その契約そのものも成立せんはずや」

「それは違いますよ。法律上、契約は、そのSスーパーの商品券を渡した段階で成立していますので」と、ヤマザキは譲らない。というより譲れない。

ただ、この部分に関してはヤマザキの言うてることの方が正しいと思う。

景品である商品券が、その契約時には有効なものであって契約者もそれと認めた限りは、その契約の付帯条件(サービス)として何ら問題はない。

実際、タニガワは貰った5000円分の商品券のうち、2000円分はそのSスーパーの買い物で使うとるわけやから、販売店に責任を問うのは難しい。

残りの3000円分は、言えば使い遅れただけにすぎんさかいな。

今回の苦情は、そのSスーパーの経営者にでも言うしかない。

それが道理やが、その肝心のSスーパーの経営者は、弁護士に任せて表に出てこんと言うから、個人ではどうしようもない。

持って行き場のない怒りであっても、それを訴える場所があれば、そうしたくなるのが人情やから、このタニガワの気持ちも分からんでもないがな。

余談やが、そのSスーパーでは、その商品券は1回の買い物で千円分しか利用できんかったという。

つまり、タニガワはそれを2度使った後で、そのSスーパーが倒産して、今回のようにその商品券が使用不能になったわけや。

これが、そのSスーパーの倒産をオオトリ販売店が事前に知っていて、その商品券を景品に使ったというのなら問題もあるかも知れんが、いくら何でもそれはあり得んと思う。

その理由は二つ。

一つは、そんなことをしても、新聞販売店には何のメリットもないということ。

新聞販売店が、景品として商品券を契約者に渡すのは、あくまでも他紙販売店との競争に負けないためのサービスが目的で、新聞は悪徳業者のように売ってしまえばそれで終わりというものやない。

後々のトラブルになると知って、そうするケースはほとんどないと思う。

当然やが、倒産すると知ってその商品券を使えば揉めてトラブルになるのは目に見えとるわけやさかいな。

客もやが、新聞販売店にとってもトラブルは避けたいし、そんなものはないに越したことはないと考えるのが普通や。

二つめの理由は、今回のSスーパーの件では、その従業員たちですら、その当日にもそれと知らされてなかったというから、それが外部に洩れることが考え辛いという点や。

一般の人は、新聞販売店も新聞社も同じ組織内という風に見やすいから、その事情を知っている者ほど、新聞販売店にはよけい隠そうとするはずやと思う。

新聞社がこの情報を事前に掴めばスクープ記事になって、破産宣告をする前に大騒ぎになるくらいのことは誰にでも容易に想像できることやさかいな。

実際、新聞社に限らず、どのメディアにも、それと悟られないで事前に報道されずに済んだわけやから、そのSスーパーの上層部は相当慎重に事を運んだことになる。

「いいや、法律上のことはどうかは知らんが、そんなものを客に渡した責任はそっちにもあるはずや。どうしても他の商品券と換えんと言うのなら、今月の新聞代は払わんし、後の契約はなしにするからな!!」

そう言い残して、タニガワは一方的に電話を切った。

そして、そのとおり月末の集金を拒否し、契約を打ち切ると宣告してきたという。

その相談が、ヤマザキからワシらに寄せられた。


ゲンさん、ハカセさん。いつもサイトを参考にしています。

店長をしているヤマザキと言います。

実は近所のSスーパーという所が倒産してしまって、景品にしていたその店の商品券が使えなくなってお客様と揉めています。

お客様は「他の商品券と換えろ」と言いますが、うちの社長は「絶対に応じるな。法律的にそうする必要はない」と言います。

しかし、お客様は納得しないし、集金を拒否して解約すると言って聞きません。

こんな場合、どのようにお客様を説得すればいいのでしょうか?

宜しくお願いします。


これに対して冒頭からの事情を聞いた後、次のような回答をした。


回答者 ゲン


『実は近所のSスーパーという所が倒産してしまって、景品にしていたその店の商品券が使えなくなってお客様と揉めています』というのは珍しい事案やな。

この件については、あんたの所の社長が、『法律的にそうする必要はない』と言うのは、そのとおりやとワシも思う。

その客の拠(よ)りどころは、契約の条件である商品券が使えなくなったことによる、契約の「不完全履行」に該当するという点にあるのやろうと考える。

サービスで渡された商品券が本来の商品券としての価値がなくなったということでな。

ただ、新聞購読契約の場合の「不完全履行」に該当するのは、「まだ景品を届けてない」、「約束の景品の量と質が違う」というケースが大半で、約束どおりの物が引き渡された以降には適用されない可能性の方が高いと思う。

なぜなら、今回のケースは「不可抗力の抗弁」が認められると考えられるからや。

つまり、販売店としては仕方なかったという主張、言い訳が通るということになる。

債務不履行が不可抗力によって生じた場合、もしくは債務者が無過失である場合には損害賠償責任は発生せんというのが法律の決まりやさかいな。

今回のケースは、そのSスーパーの倒産という事実を事前に知っていて、その商品券を渡したわけやなく、その予測すらしてなかったと考えられる事案や。

何人(なんびと)も責任のないことで罪に問われたり、不利益を被ったりすることはあってはならんという法の精神の下では、「不可抗力」やったと判断される可能性が高いということや。

その場合は、その契約者が、契約時にその商品券の価値を認めて受け取った以上、自ら「購入した」のと同じような状況になると考えられる。

一般的に、倒産した商店の商品券を買った消費者は、それが無効になった場合、返金の見込みはほとんどないという。

ただ、例外もある。

自店のみで使う「自家型商品券」は1000万円を超えると、経営破綻などに備え、残高の半分以上を法務局に供託しなければならないとされている。

これに違反した場合は罰則は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金となっている。

この法務局に供託している百貨店や商店などの商品券は、「前払式証票の規制等に関する法律」に基づき、所定の手続きを財務局で行えば、未使用分のおよそ半額程度は還付されるとある。

但し、財務局での還付手続きには、それぞれ指定の期限があるから、役所からの広報を見逃さんようにする必要がある。

短いのは3日間ほどで、長くても1ヶ月程度しかないという。その間に指定の手続き場所に出向く必要がある。

もっとも、その期間中であれば郵送での手続きに応じる場合もあるということやがな。

参考までに、商品券の名称に「全国百貨店共通商品券」とある場合、例え発行元の百貨店が倒産しても、他の百貨店で使えそうに思えるが、それはできん仕組みになっとるから、注意しとかなあかんと言うとく。

そう勘違いされる人は多いがな。

これらの商品券の裏面には、たいてい、これ以上はないというくらいの小さな字で「発行元に一定の事由が生じた場合等には、ご利用いただけないことがあります」と書かれていて、また商品券の利用約款にも、「破産などの場合には使えなくなります」という趣旨の記載がされとるのが普通や。

そうは言うても、ほとんどの人は、その商品券の購入時に利用約款など読むようなことはまずなく、その現実に直面してから慌てるわけやけどな。

ただ、「全国百貨店共通商品券」の多くは、先の「前払式証票の規制等に関する法律」に基づいて供託をしとるケースが多いから、その半分ほどは助かる可能性があるということや。

しかし、ハカセが調べたところによると、あんたの販売店で扱ったというSスーパーは、その供託をしてないということやから、その返金はないと思われる。

話によると、そのSスーパーでは、その法令があることすら知らんかったという。お粗末な話やが、そういう所は他にも多いと思う。

法律的には、以上のような経緯、理由から、あんたの所の社長の言うように、その商品券の差し替えや保障はする必要がないということになる。

結果として、その客は泣くしかないと。

ただ、問題はそれで事が収まるのかということや。

実際、『お客様は納得されず、集金を拒否して解約すると言って聞きません』ということのようやからな。

『こんな場合、どのようにお客様を説得すればいいのでしょうか』ということやが、そこまで意固地になった客をなだめるのは難しいと言うしかない。

あんたの立場では仕方のない対応やったとは思うが、結果して、その客を怒らせてしもうた後では、どんな説得も無駄やと思う。

その客の望むとおりの話を持ちかけるのでもない限り、おそらく聞く耳を持たん状態やろうからな。

いくらワシでも聞く耳を持たん相手を説得する方法をアドバイスすることはできん。

その前に、あんたの所の社長を説得することを勧める。その方が、店のためにもなってええと思うがな。

そういう客がどの程度、これから増えるのかにもよるやろうが、確かに損得を考えた場合、その保障なんかしたくないという経営者の気持ちは分かる。

しかし、ものは考えようや。

このケースをチャンスに変えられる絶交の機会やと捉えたら、また違うと思う。

上手く持って行けば、あんたの店の評判が上がる可能性はかなり高くなる。評判が上がればそれだけ顧客を獲得できる機会も増える。

どういうことか。

こういった商店が倒産した場合、先の説明のとおり、多くの商品券は使い物にならんようになるのが普通や。

例えその補填(ほてん)がされたとしても、せいぜい半分がええとこやさかいな。

それを敢えて、その客の希望どおり他の商品券と交換する、あるいは、あんたの所の最初の条件の一つでもある、2ヶ月の無料サービスに変更すると持ちかけるわけや。

そして、そのことを、新聞の折り込みチラシなどで広く知らせる。

「当店で扱っていた契約時のサービスの商品券は、Sスーパーの倒産により使えなくなり、まことに多くの方にご迷惑をおかけしております。しかし、ながら当店では、お客様にご迷惑をおかけするわけには行きませんので、当店が契約時にお渡ししたSスーパーの商品券をお持ち頂ければ、他のサービスと換えさせて頂きます」と。

これは必ず評判になる。こんなことを広言する販売店は少ないさかいな。

こうすることで、あんたの所の販売店は、例え倒産によって使えなくなった商品券でも、まったくの紙クズにはしないとアピールすることができるわけや。

それだけ誠実で真摯な販売店やと。

もちろん、それはあんたの一存でできることやないから、社長に、「そうすることで、販売店の評判を高めるようにした方が得策ですよ」と、説得するわけや。

それで、社長が理解を示してくれたら、そのトラブルも自然に解消されて一石二鳥になると思う。

ただ、それを言うても「あかん」と言う経営者なら、あきらめるしかないがな。

経営者に対する提言、忠言はなるべく一度にしとくことや。しつこく言わん方がええ。

忠告してこれを善導し、不可なれば則(すなわ)ち止む。

というのが論語の教えにある。

相手に良かれと思う忠告はするべきやが、それを受け入れて貰えん場合は、それ以上は止めとく方が賢い。

この後に、「自ら辱めらるるなかれ」と続くように、その忠告をすることが、くどいと感じられたら、言うた人間の立場がまずくなるという戒(いまし)めがある。

いくらええアドバイス、忠言でも、それを聞く人間次第では、いらんお節介になるということや。

要するに、上の立場の人間に対する忠言は、ほどほどにしといた方がええということやな。

その客を説得できる可能性が残っているとすれば、「その商品券をお金を出して買われた人ですら、紙クズにしかならないのですから、今回のことは不運だと思ってあきらめてください」と言うて、納得して貰えるくらいなものやと思う。

まあ、それで分かって貰えるような人間なら、初めからそこまで強気で言うてくることもないやろうから、それを望むのは無理やわな。

あんたに残された道は、その客との争いしかないが、それも適当にして、なるべくなら、その社長の指示、判断を仰いで行動するしかないやろうと思う。

まあ、そうなるとあまりええ結果にはならんやろうという気はするが、それは仕方ない。

あんたには、あんたのできる範囲で対処することや。なるべく無理はせん方がええ。


この回答を送って、しばらくしてからヤマザキから再度、メールが届いた。


早速のご回答ありがとうございました。

何度も読み直し、考えましたが社長に「他の商品券に換える」ということや「無料紙サービスに変更した方がいい」というようなことは、とても言い出せませんので、お客様には「申し訳ありませんが、当店には責任のないことなのであきらめてください」と言うつもりにしています。

それで集金ができなくなって解約されても仕方ありません。

ハカセさんにお願いがあるのですが、せっかく素晴らしい回答をしていただいて本当に申し訳ないですが、この件はしばらくの間、HPには載せないでいただけませんか。

もし、社長がこれを読んだら、相談したのが私だとすぐわかると思いますので、勝手なお願いですが宜しくお願いします。


ということやったので、サイトのQ&Aへの掲載は止めることにした。

非公開を希望されるというケースは今までにも多い。たいていは、そのケースは自分だけにしかない特殊なものと考えられて、そう言われる。

ワシらから見れば、どこにでもあるような話が大半なのやが、そう思い込まれると、どうしようもないわけや。

勧誘員とのやり取りを気にされてという場合、勧誘員にとってその客は大勢の中の一人なんやが、その客にとっては、その勧誘員は特殊な人間で、滅多にないことのように考える。

勧誘員の多くは、たいてい同じような勧誘方法しかせんから、そこでの客とのやり取りなど覚えとるケースはほとんどない。

そんなことで相談者が特定されるわけなどないと思うのやが、そう心配される方にとっては、そうは思えんわけや。

ただ、今回のヤマザキのケースは特殊やから、調べる気になれば、そのSスーパーというのが、どこの地域にある、どの店のことかくらいはすぐ分かる。

その地域が分かれば、そのSスーパーの商品券を扱いそうな近隣の新聞販売店がどこかという特定、もしくはその範囲を絞り込むのは比較的簡単やろうと思う。

そうなると相談者が特定される危険、危惧は高い。

おそらく、ワシらがその危険性が高いと感じた初めてのケースやないかと思う。

残念やが、そういうことなら仕方ないと「お蔵入り」を決めるしかなかった。

しかし、その1ヶ月後、またそのヤマザキからメールがあったことで、その希望もあり、一転してこの話をメルマガ誌上ですることにしたわけや。


以前、相談しておきながら非公開を希望したヤマザキと言います。

例の話ですが、もう公開していただいて結構です。私はもうこの業界が嫌になったので辞めることにしましたから。

先ほど「退職届け」を社長に出しました。

実は……。


以下が、そのヤマザキから聞いた話や。

ヤマザキは、そのタニガワ以外にも、その苦情を言うて来る客が増えるのやないかと考えたが、結局それはなかった。

それには、この地域にも去年から、全国的な『正常化の流れ』で、原則、商品券などの金券を拡材に使用することが禁じられていたということもあり、オオトリ販売店でも主として「1年で2ヶ月分の無料サービス」を客に勧めていたということが大きかったからやという。

加えて、幸か不幸か、その商品券の使用は去年の12月で終わっていたということもある。

本当は、もっと早くに終わってなあかんかったのやが、商品券の使用禁止の通達前に、安いということもあって、そのSスーパーの商品券をかなり大量に買うてたわけや。

それを捌(は)かすのに、12月までかかったという事情があった。

そのSスーパーは、今年1月10日になって突然営業を停止し、店頭に「商品券は使えません」という趣旨の張り紙を出し、今月19日に地裁に自己破産を申請したという。

事実上の倒産や。

つまり、オオトリ販売店の勧誘時の契約で渡した商品券の多くが、すでに使われた可能性が高いということや。

それには、年末年始が絡んでいたということも大きかったのやろうと思う。

不幸中の幸い。ラッキーやったということになる。

ただ、その中でもタニガワのように使いそびれたケースがあったわけや。

それが今回のトラブルということになる。

他に、そのタニガワのようなケースはないのか。

ワシは、あると考える。

ただ、そのタニガワのように文句を言えんだけやないのかと。

世の中には、損をしたから、不利益を被ったからと言うて、すぐ苦情や文句を言い立てる人間ばかりやない。

中には泣き寝入りしたり、あきらめたりする者も結構多い。

今回のケースは、その商品券を買ったということやなく、新聞の景品サービスとして貰ったものや。

それで文句を言うのも気が引けると考える人もおられるやろうし、そのSスーパーの倒産に新聞販売店の責任がないということくらいは誰にでも分かるから、その面でも言い辛いというのもあるはずや。

その新聞販売店も被害者なのやと理解を示して。責めても仕方ないと。

そういう人も相当数おられるのやないかと思う。

ヤマザキは、その後、何度かタニガワに「集金をお願いします」と言いには行ったが、その意志は固く一向に応じる気配がなかったという。

普通は、そういう状態になった客は「仕方ない」とあきらめるケースが多いが、社長のオオトリは「何としても集金しろ。集金できんかったらお前の給料から差し引くぞ」と、ヤマザキを責め立て罵声を浴びせた。

以前のヤマザキなら、そのオオトリの言うことに逆らうこともなく、命令どおりにしていたかも知れんが、ワシらのサイトを良く見るようになってその考えを変えつつあったという。

客に無理矢理、押しつけるようなことはするべきやないと。客とは揉めるべきやないと。

以前から、社長のオオトリに対しては、それほど尊敬のできる人間とは思うてなかったが、今回のことで、その器量の狭さを知り、さらに嫌気が差したという。

ワシがアドバイスした『その客の希望どおり他の商品券と交換する、あるいは、あんたの所の最初の条件の一つでもある、2ヶ月の無料サービスに変更すると持ちかけて、そのことを、新聞の折り込みチラシなどで広く知らせる』という方法が一番ええと、ヤマザキも考えた。

ただ、そのことをオオトリには言えんかった。言える雰囲気の人間ではない。言うても一蹴されるだけやと。

ヤマザキは、その後、そのタニガワの件は、ほっといた。

ただ、オオトリの意向もあるので、新聞の投函だけは続けていたがな。

給料日。まさかという事態が起こった。

そのタニガワの新聞代金分として、ヤマザキの給料から本当に、その額が差し引かれていた。

「何ですか、これ」と、さすがのヤマザキも怒りを覚え興奮気味に、オオトリに詰め寄った。

「集金できんかったら、お前の給料から差し引くて言うてたやろ」と、そのオオトリがうそぶく。

「いい加減にしてくださいよ。こんなことは認めませんからね!!」と、思わずヤマザキも大声を出した。

今まで、堪えに堪えたものが一気に爆発した。我慢の限界を超えた。

そんな感じやった。

その伏線はありすぎるほどあった。

ここ1、2年、部数の減少が続いていたこともあり、事ある毎に、その責任がヤマザキにあると詰(なじ)られ続けてきた。

それも他の従業員のいる面前で。

店の方針を任されているというのなら、それも仕方ないと思うが、すべての事を決めるのは、社長のオオトリや。

ヤマザキは、その命令どおり動く、ただの中間管理職や。もっと言えば、お飾りの店長にすぎん。

「何を偉そうに言うとんねん。嫌やったら辞めろ。お前のような、ボンクラの代わりはナンボでもいとるんや!!」

逆に、オオトリにそう喚かれた。

「分かりました。辞めます」

売り言葉に、買い言葉やったが、それであっさり辞めることにした。

後悔は一切してないという。却ってサバサバした気分になれたくらいやと話す。

ヤマザキは、その後、運良く知り合いの運送会社に雇って貰い、働き始めたということや。

この業界の人間としては、また一人去る者が現れたというのは寂しい限りやが、それぞれの人生はそれぞれが選択して生きていくしかないわけやから、その是非は誰にも問えるものやないと考える。

ただ、どこに行こうと、何をしようと頑張ってほしいと願うだけや。

そして、いつの日にか落ち着いたときでええから、新聞販売店時代の話を聞かせてくれたらと思う。


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