拡張の手口

手口その5 リピート客を確保せよ


どんな営業にもリピート客は必要や。これを多く確保しとる者がトップ営業マンとなる。新聞の勧誘でも同じなんやが、そのリピート客の確保は他の物売りの営業と比べると格段に難しいと思う。

拡張員が嫌われとるということも大きいが、それ以外にも、日本人の国民性のようなものが影響しとる。新聞読者で一番多いのは、慣れた新聞を代えたくないという人間や。読む読まんは別にしてな。愛着やな。

確かな数字は分からんが、ワシの手元にあるデータから推察すると、7割前後程度は、そうやと思う。この手の人間はこれからもあまり大きな変化はないやろ。

もっとも、長引く不況で新聞の購読を止めたり、代えると拡材が貰えるということに魅力を感じ始めた主婦層を中心に、少しづつ、前出のような人間が減少はしとるがな。

後者を交代読者と言う。ワシらが客にするのは、主にこの連中や。拡材の餌で釣れる人間は楽や。うまく持っていけばええリピート客になるし、場合によったら、ワシの代わりに営業もしてくれる場合かてあるしな。

拡張員の中には、こんな簡単な道理が分からん奴がけっこう多い。後で説明するが、喝勧というて脅して勧誘する輩なんかその最たる者や。一度きりやとしか思えんから、こんな真似をするんや。

確かにワシら拡張員は勧誘する新聞の現読(現在読者の略)はカードにはならんということがある。せやから、一度契約したらその瞬間から客ではないと考える奴もおるわけや。特に、短いサイクルでしか物事を考えられん奴はそうや。

ワシは違う。利により動く客は大事にする。そんな客でも最初はかなり強烈な抵抗感を示す。その段階で諦める拡張員は多いが、根良う説得すれば必ず落ちる。

初めは、3ヶ月だけやからと持ちかける。現在、購読しとる新聞のサービスがほとんどないような場合は、そうすることによって、その新聞のサービスも良くなると説く。実際、そうなることが多い。客を取られて、手をこまねいとる新聞販売店はおらんはずや。

ここで、押さえとかんとあかんのは、その販売所が次に契約しようとする時は間違いなく、1年以上の長期契約を持ちかけるということを教えておくことや。それに、乗ったらあかんことも。

利によって動いた人間に損得勘定の説明をするのは簡単や。新聞の購読は3ヶ月契約の方が、1年契約の方より率としたらサービスはええということを教える。

一般的な拡材は、ビール券で3ヶ月3枚、6ヶ月5枚、1年8枚、プラス洗剤が3ヶ月2箱、6ヶ月3箱、1年5箱というところや。

つまり、2社の新聞を3ヶ月交代で1年購読すると、ビール券12枚洗剤8箱になり、1社のみの場合のビール券8枚洗剤5箱と比べると格段の違いになる。

加えて、購読者を奪われたと思った販売所は奪い返すために無理をしてでも拡材のサービスを上げ、新規で獲得した販売所も負けじとそれに対抗するから、実質はもっとええサービスを得られることが多い。

ワシはこういう客を確保出来たら、こまめに出向き、別のサービスを加える。この客層の大半は主婦や。彼女たちの好きそうな演劇や歌手のコンサートのチケットを用意するんや。映画の好きな者にはそのチケットもある。

因みに、この場合は金のかかるようなものやなく、ただで手に入る物を持っていくんや。拡張員なら誰でもこういうことが出来るというわけやない。ある程度以上、仕事の出来る人間には、新聞社や団、販売所も優先的に便宜を計って貰えるんや。

こうして、リピート客が出来上がる。中には、それに味を占めた人間が友人を紹介してくれることがある。紹介した人間には当然のようにリベートを渡す。また増えるという図式や。

もっとも、そんなええことばかりやない。もともと、利で動いた人間は、他で美味しそうな話を聞くとそっちに行くことがある。こういう人間は、そういうもんやと思うて付き合うしかない。

結局、最後は人間関係ということになる。あんたでないと駄目やと言われるようにならなあかん。利プラス安心感という奴やな。それが出来て初めて本当のリピート客になるんや。


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