新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集

第4話 オードブルは、てんぷらで

掲載日 2004.8.29


その角田と名乗る男が入団して来たのは、去年の9月やった。

歳は35やと言う。

なかなか恰幅のええ男や。

何の先入観もなしに、その男を見たら、どこかの会社のえらいさんに見える。それも、やり手と言われる部長クラスのな。
スーツの着こなしも文句ない。

角田は、入団してからワシの住どるアパートの隣の部屋に入った。

如才のない奴やった。

車のセールスマンをしてたと言うだけあって、営業トークの要点は良う知ってた。

営業トークというのは、何も客に対してだけ有効なもんやない。

上司や先輩の能力があると思うた人間から、そのノウハウを聞き出すのも、営業員としたら必要な能力や。そのための、営業トークというものがある。

角田はそれが巧い。

「○○さん。班長からお聞きしたのですけど、この団で一番、経験豊富で何でも知っておられるそうで、仕事のことを訊くのなら、あなたに限ると教えて頂きましもので……」

そう言うて、まず、相手を持ち上げる。

ワシも、そんなことは百も承知やが、誰でも持ち上げられて悪い気はせん。

もっとも、この場合は、班長の山本の逃げによる押しつけも感じられんではなかったがな。

「ゲンでええ。皆そう呼んどる」

「分かりました。それでは、お言葉に甘えまして、ゲンさんと呼ばさせて頂きます。僕は以前、車のセールスマンをしていましたけど、この新聞の営業は良く分からないので、教えて頂けませんか?」

「教えろと言うても、あんたはまだ仕事してへんやろ。それに、新人研修の指導員がおるはずやから、まず、そいつが教えるはずや」

「班長が、それがゲンさんやと……」

「何やて?」
そんな話、誰からも聞いてない。

第一、 そんなことを言われても、ワシは断る。

ワシは指導員にはならんことにしとる。

ワシが今まで指導員として教えた奴で残ってる者は2,3人しかおらん。

ワシはそいつが拡張員に向いてないと思うたら、その場で辞めた方がええと言う。そいつが苦しむだけで、そいつのためにならんと思うからや。

それに、素質や意欲のない奴を教えるのは疲れる。

中には、教えて貰うことが当たり前のように考えとる若い奴がおる。

何か初めから勘違いしとる。

ワシはそんな奴には、必要最小限度のことしか教えん。

辞めろというのは、そんな奴らにや。

実際、それで辞めた人間は多い。

団長は、いらんことを言わんといてくれとワシに言う。

それやったら、ワシはこれから二度と教えんと言うて、へそを曲げる。

団長も、班長もそれは良う知っとるはずや。

それでも、ワシを指導員にしようというのはどういうことか。

この角田という男は、どうでもええと思うたのか。

違うやろ。

この男を見れば、誰でも、ものになると思うはずや。

金か。借金で縛っとるから、簡単には辞められん事情がある。

せやから、ワシに何を言われようと辞めることはない。

そんなところやろな。




ワシは仕方なく角田の指導員をした。というても、手取り足取り教えるわけやない。

まずは、自由にさせる。

車のセールスをしてたというくらいやから、飛び込み営業には慣れとるはずや。

自由にさせてカードが上がれば、それでええ。

しかし、やはり、というか、角田は2日ほどパンクやった。

パンクというのは坊主、契約ゼロのことや。

ワシも昔はそうやったから、良う分かるけど、なまじ営業の経験があると最初は巧く行かん。

正規の営業はどうしても、客主体に考え、客に悪い印象は持たれないようにするもんやと思うてしまう。

ところが、新聞営業はそれ自体が悪印象の権化のようなもんや。嫌われとることでは他の比やない。

ほとんどの営業マンは、営業セールス自体が、一般から歓迎されとらんということは常識的に知っとるから、嫌われるのは特別なこととは考えん。

ドアホンキックなんかもどんな営業セールスでもある。

しかし、その質が全く違う。

その質が違うことに気が付くのは、やはり2,3日かかる。

気が付いた時、辞める者と続ける者がはっきり分かれる。

角田は続ける口やった。

それに、角田は良う仕事のことを訊いて来た。

ワシも訊かれれば教える。反対に訊かん者には何も教えん。

「ゲンさん、他の皆さんが、てんぷらと良く言うてますが、何のことですか」

「てんぷらか……」

こんなことは、拡張員を続けとれば、誰でもすぐに分かることや。

てんぷらについて、一通り説明した。

「てんぷら言うのは架空契約やから、よほどのことでもない限りしたらあかん。特に今は昔と違うて、ばれたら厳しいペナルティがあるから尚更や。バンクによったら、一発で出入り禁止や」

そうは、言うても背に腹は代えられんこともある。

「どうしても、せんと、めしが食えんちゅう時は、せめて6ヶ月くらい先のカードにしとくことや」

「6ヶ月先ですか」

「せや、そうしといて、そのてんぷらを上げたバンクで正規のカードと差し替えるんや。6ヶ月もあれば、そのバンクにも10回以上は入ることになるやろうから、何とかなるもんや」

「皆さん、どんな方法で……」

「いろいろや。まあ、一番多いのが、空き部屋を使うやつやな。仲間の携帯電話をカードに書いて誤魔化す。監査の電話を受けるのは仲間や。せやけど、こういうことをやるには販売所を良う知っとかんとあかん。中には、空き部屋チェックと言うて、こまめに調べとるところもあるからな」

「大変なんですね。他には、何か面白い話は……」

この角田という男は、人の話を聞き出すのが本当に巧い。

ワシも、つい調子に乗って喋った。

「これは、半分、ワシの思いつきなんやが……」

半分は、ヤスという昔の拡張員仲間から訊いたネタが下地や。

ヤスというのは、自称、元一流詐欺師という男や。

もう2,3年前ほどになるかな。

はっきり覚えとらんが、ヤスと一緒の時のことやった。

ある公衆電話の近くに来ると、ヤスはおもむろに携帯電話を取り出して言うた。

「ゲンさん、面白いもん見せたろか?」

「何や?」

ヤスは携帯電話の発信ボタンを押した。

すると、そのすぐ近くの公衆電話の呼び出しベルが鳴った。

「何や、これ、お前か?」

「せや」ヤスは得意げに言う。

「どないなっとんねん」

「簡単なことや。あの公衆電話の番号を知ってただけや」

「公衆電話の番号て分かるのか?」

「ああ、簡単や」

ヤスは、テレホンカードを使うて調べる方法やとか、携帯電話を利用するやり方なんかをワシに説明してたけど、あいにくワシは機械音痴やから、何ぼ、上手いこと説明されても良う分からんかった。

せやけど、公衆電話の番号はその気になれば、すぐに調べられるということは分かった。

「それに、裏の情報屋には、公衆電話番号を売買しとるところもあるしな」

「せやけど、お前、そんなもの分かってどないするんや」

「ゲンさん、オレを誰や思うとんねん」

「……」

忘れとった。こいつは詐欺師やった。

普通の者やと思うて喋ったワシが悪かった。

今は、詐欺師の足を洗うたとか言うてるけど、こんなことを得意がっとるようやと、一生止められんな。

しかし、ワシは、この時、これを、てんぷらカードで使うたら面白いなと漠然と考えた。

もちろん、思うただけや。

それに、やろうにも、やり方はよう分からん。このことを、調子に乗って角田に話した。




角田は真面目な男やった。

真面目過ぎるくらいやと言うてもええかも知れん。

喫茶店やら、パチンコ、競輪場なんかの拡張員が良う行く場所には現れたことがない。

誰もそんなところで角田を見た者はおらんと言う。

本人に訊くと、仕事に自信がないので、休んだりする余裕はないから、ずっと叩き詰めやと言う。

もちろん、それを確かめた者もおらん。というより、確かめられる奴がおらんと言うた方がええやろ。

成績は中よりやや上という程度やった。

ワシは、正直、期待外れの男やと思うた。

角田という男は、もっと出来るはずの男やと考えてたからや。

しかし、ワシの見込みには狂いはなかった。

角田は別の意味で出来過ぎるくらい出来る男やった。




角田が入団して6ヶ月後の3月に、忽然とその姿が消えた。と言うても、透明人間になったわけやない。

「角田が飛んだ」と一時、団内が騒然となった。これも、スーパーマンやないから、本当に飛ぶわけはない。

逃げることを飛ぶと言う。

別にこの業界独特の言い方でもない。

良う使われる表現や。

団内が騒然となったのは、誰もが、まさかと思うたからやった。

第一報を聞いた時は、ワシも自分の耳を疑った。

角田の普段の様子からは、そんなことをする男には見えなんだ。

逃げた直接の理由は、団からの借金を踏み倒すためやと言う噂が流れた。

そのことに団長は堅く口を閉じとるから、真偽のほどは分からんが、逆に否定せんところを見たらそうなんやろと思うた。

その数日後、ある販売所から角田の不良カードが廻って来た。

販売所は契約日が来たから新聞を入れ始めた。

すると、契約者が身に覚えがないと、販売所に文句を言うて来た。

それが、角田のカードでてんぷらやったと発覚した。

その後も、続けて他の販売所から、角田の不良カードが出た。

すべて、てんぷらやった。

団長、部長、班長の山本の3人で、角田のカードをすべて調べた。

その結果、200本以上がてんぷらカードやと分かった。

6ヶ月弱で200本のてんぷらカードというは、おそらく前代未聞のことやないやろか。少なくとも、ワシは聞いたことはなかった。

しかも、その間、1本のカードも発覚していなかった。

発覚せえへんかったのは、それなりの理由があった。

角田はてんぷらを上げる客を良う調べていたようや。

ほとんどが独り者で、帰宅が極端に遅い人間ばかりやった。

販売所の人間は朝が、午前2時から3時起床と早いから、夜は遅くとも午後9時頃までには仕事を終わる。

拡張員の終了時刻も午後8時というバンクが多い。

監査の時間がいるからや。監査はほとんど電話でする。

独り者で帰宅が午後9時以降より遅い人間は、その日の監査が出来ん。

電話が通じても不在で出ないところは、後日確認となるが、その日は一応、カードとなる。

しかし、後日確認というても電話だけや。

よほど、おかしいか変やと思わん限り、直接出向いて調べるような販売所は少ない。

例え行ったとしても、そういうところは会える確率が低い。

電話確認が出来なくても、その内、忘れる。

後日、てんぷらなんかの不良カードが発覚したら、拡張員が責任取れんでも、団が責任取る。

せやから、販売所も、それほど心配もしてへんから、そうなり易い。

事実、その後、団長は必死になってそのカードの回収作業をやったようや。

回収作業というのは、その不良カードを買うことや。

カードを買うというのはいろいろある。

団でその分の新聞を購読することもあるし、違約金を払う場合もある。

いずれにしても、全部を買うには、かなり金を使うてるはずや。

せやけど、このことが本社に知れられるよりましや。金の問題では済まんことになる。

団は詐欺横領罪で角田を訴えた。

表向きは、団の金の持ち逃げや。

しかし、そう簡単に捕まるとは誰も思うとらん。

不細工なことに、角田の履歴書には写真がなかった。

団は、不景気になってから、ここ数年、慰安旅行にも行っとらんから、団員の写真もない。

名前も調べたら偽名やった。

完全に幽霊になっとる。

ただでさえ、警察は拡張団からの被害届けなんか、よほどのことでもない限り本気で調べたりせんのに、これではどうにもならん。

後は、顔を知っとるワシらが出会うくらいやが、そんなもん砂漠で一粒の米を見つけるようなもんや。

団も、そんなことは百も承知やが、他の団員の手前、訴えとかんと示しがつかん。




ワシは不安に思うことがあった。

200件ものてんぷらカードの監査がことごとく通ったというのは異常や。

いくら帰宅の遅い家や言うても、全部が全部、不在や言うのも不自然や。

ワシはあることを確認するために、てんぷらカードの家の電話番号を控えた。

そして、誰にも内緒で調べた。

公衆電話の電話番号かも知れんと思うたんや。

販売所も馬鹿やないから、電話番号がちょっとでもおかしかったら気が付く。

電話番号の市外局番から下の3ケタの番号は地域の住所で大体決まっている。

地域の住所以外の番号やったら、誰でも変やと気づく。

それが気づかんということは、そのてんぷらカードを上げた家の近くの公衆電話の番号ということになる。

ワシが調べた販売所では、12枚の不良カードがあった。

200枚というと何かとんでもない数字に思えるが、不良カードが上がった店が23店ほどや。

1店10枚弱になる。6ヶ月でそれや。1ヶ月やと2枚ない計算になる。

1枚づつは目立ちにくい状態になっとったわけや。

ワシらの団だけで50名の団員がおる。

他も合わせると、一つの販売所に100名近い拡張員が入れ替わり立ち替わり入っとることになる。

100名が2度づつ入れば1ヶ月で約300本以上のカードが上がる。

その内の2,3割が何らかのトラブルを抱えとることが多い。

販売所の人間は、その苦情や処理に忙殺される。

それに、角田はワシの言いつけを忠実に守って、すべて契約日より6ヶ月以上先の契約にしとるから、その時が来るまで誰にも分からんかったわけや。

当然やけど、12枚のカードに同じ電話番号はない。ということは、このバンクには最低12カ所の公衆電話があるはずや。

それも、目立ちにくいところで。目立ち易いところだと、物好きな通行人が出るかも知れんからな。

ワシは、ある公衆電話に目をつけた。

住宅街の小さな公園にある電話ボックスや。

今は夜の10時。誰もおらん。

ワシは順番に携帯電話から、リストの番号にかけた。
案の定と言うべきか、3件目で、その公園の公衆電話が鳴った。

音は思うたよりも小さい。これなら、気づきにくい。

それに、誰もおらん夜の公園の電話ボックスで電話が鳴っとるというのは、あまり気持ちのええもんやない。

よほどの物好き以外、例え、その場にいたとしても、電話に出るのは誰でもためらうやろ。

ワシは念のため、後、2カ所で同じように調べたが、結果は一緒やった。

間違いない、角田は、ワシの話をパクッて実行に移した。

ワシは心配になった。

ワシが言うたことで、角田が法律を犯した。

言うたワシは罪にはならんのかと思うたんや。

心配になって、ハカセに相談した。

ハカセは法律のことには詳しい。

ちょっと何かを聞けば、すぐいろんな法律の条文が出てその解説をする。

ハカセは心配いらんと言う。

ワシに、悪意や教唆があれば罪になるかも知れんが、その程度やったら問題にならんと言う。

それに、実際は、公衆電話番号を知る方法さえ満足に知らんし、角田にも教えておらん。




しかし、その心配も杞憂に終わった。

2週間後、団長から角田の件は、決着ついたという話があった。

角田本人から、電話があり、団の借金や不良カードの始末金プラス迷惑金が、団長の口座に振り込まれたと言う。

本人も反省しとるというので、被害届けは取り下げたというのが団長の説明やった。

かなりな金額が団長のところに入ったことになる。

せやなかったら、あの団長がそう簡単に納得するわけはない。

一件落着というわけや。

これで、ワシは何も心配することはのうなった。

心配はのうなったが、どうもすっきりせん。

普通、角田のような立場で逃げた者が、そう簡単に金まで工面して詫びを入れるやろうか。

こういう世界で生きとるワシらには考え辛い。

こんなケースやったら誰でも逃げ得やと思うはずや。

テレビか何かで指名手配され報道でもされとるというのなら、あるいは観念してということもあるが、この場合はそれとも違う。

拡張団も、ヤクザと似たところがあって仲間の拡張団には回状のようなものを回すが、それも単なるポーズの場合が多い。

この世界は、そんな輩がごろごろおるから、回状を回すくらいでは特定して見つけ出すのは難しい。

名前が偽名で、顔写真もないとなれば話にもならん。

ワシは、このアイデアの元凶に電話した。

ヤスや。ヤスにはあらましは説明した。

「ゲンさん、そいつは詐欺師やな」

「そうか……」

ワシも、そうやとは思うた。

せやけど、その詐欺師が、上手くいった詐欺を諦め、得た以上の金を吐き出すことなんかあるのかと考えると腑に落ちん。

その説明はヤスがした。

この場合、二つのことが考えられると言う。

一つは、角田が情報屋やった場合や。

情報屋の中には、公衆電話番号を売買しとる者がおると、前に言うたが、そのケースや。

どこか依頼人が別にいて、その地域の公衆電話番号を調べてくれと依頼された場合やが、これは、今回のケースでは可能性としたら少ない。

情報の売買には相場があって、200件程度の公衆電話番号では、団にけじめ金を出せるほど儲からん。

考えられるとしたら、もう一つのケースやと言う。

角田には仲間がおる。

グループで詐欺の計画をしとったはずやと言う。

通常は3人一組の場合が多い。

それぞれ役割分担がある。

ツッコミ、タテ、ウケというのがある。

ツッコミというのは、目とも呼ばれ、罠を仕掛けたり、情報収集が主や。

タテというのは、実際に詐欺にかける相手と接触する奴のことや。

ウケは、猿とか口とも呼ばれ、リーダー的存在の詐欺師や。

角田はツッコミかウケやと言う。

何や、漫才師みたいやなとヤスに言うと、それくらい息の合う人間同士やないとあかんという答えが返って来た。

ツッコミかウケなら、情報を収集するとき、収集しやすい職業に成りきる。

場合によったら、ターゲットに安心させるために、ある期間だけ、本当にその仕事に勤める場合がある。

そして、奴らは実際にいろんな仕事に精通しとる奴が多い。

特に、情報収集はセールスマンが有利やから、化けることも多く、その営業テクニックは一流と言うてええやろと言うことや。

いくら、情報収集が目的やからというても、長期間かかる仕事やったら、そこそこ仕事をこなさんと拙いし、ターゲットも信用させられんと言う。

今回、角田のケースは、拡張員にならなあかんケースか、新聞関係者に化けた方が都合が良かったんやろと思う。

しかし、ここで角田にちょっとした誤算があった。

拡張員の仕事は、他で慣れてても、所変われば品変わるで、その場所毎に難しい面がある。片手間に簡単にカードを上げられるもんやない。

それで、ワシから聞いたことをヒントに、公衆電話番号のトリックを思いついた。

真剣に拡張をやっとんたんでは、自分の時間が取れんからな。

ヤスの話を聞けば頷ける点は多い。

角田は特にワシには、仕事のことを良う訊いて来た。

ほとんどの拡張員は、人に教えを請うという姿勢の奴はおらん。

自分の自慢話は良う喋るがな。

その意味では、角田は珍しいタイプの男や。

せやから、ワシもつい口がすべっていらんことを喋ってしもうたんや。

社交的な奴というのなら、そういうこともあるやろうけど、角田はワシ以外とはあまり喋っとらんかった。

仲間とほとんど一緒におることがなかったからな。

せっせと、自分の仕事に励んでいたんやろ。

ヤスもここまでは推測出来るが、角田が誰を狙いどんな仕掛けを考えて実行したのかは分からんと言う。

まあ、当たり前やわな。

ワシらにばれるようじゃ、仕事も成功しとらんやろし、今時分、捕まっとるはずや。

仕事は成功した。それもかなりの大金をせしめた。

せやなかったら、団に迷惑金なんか払うわけがない。団への迷惑金は、角田にしたら、保険のようなもんやろと思う。

どの世界もそうやが、広いようで狭いというは世の中の通説や。

また、同じような詐欺仕事を働くために拡張員を選んだ場合を考え、偶然にしろ知っとる人間に見つかり足下を掬われるのを予防しておこうというところやろ。

しかし、これはどこまで考えても推測の域を超えることはない。

せやから、ワシは何も言うつもりはない。

公衆電話番号のことも誰も知らん。

誰にも知らせるつもりもない。

一件落着なんやから、それでええやろ。




せやけど、この世界には、今更ながら、いろんな奴が舞い込んで来るもんやと思う。

てんぷらカードも立派な詐欺なんやけど、角田のような男からすると、その内にも入らんのと違うかな。

良うて、メンンディッシュ前のオードブルちゅうところやろ。

オードブルは、てんぷらで……か。

つまらん、洒落や。

                                     了


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