メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第401回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2016. 2.12


■新聞販売店物語 その20 新聞販売店の店員は犬以下なのか?


ある月の30日の午後9時頃。

ヤマモト新聞販売店の専業員、リョウヘイは、その日最後の集金先であるセキという顧客が住んでいるマンションの部屋に行き、インターホンを押した。

するとすぐに、「どちら様ですか」と主婦の声がしたので「夜分遅くに済みません。ヤマモト新聞販売店の者で集金にお伺いしました」と言った。

ドアが開き、リョウヘイが部屋の中に入ると、「あなた、こんな時間に集金に来るなんて非常識よ」と文句を言われた。

リョウヘイは、このくらいの時間に行くと怒る客も希にいるので「どうも済みません。次回からは気をつけますので、お願いします」と一応謝っておいた。

実際、一度でも文句を言われた顧客には、次からもっと早めの時間に集金するように心がけていた。

リョウヘイは1ヶ月700軒以上の集金をしている。業界としては多い方の部類になる。

その分、時間的な制約を受けると厳しいが仕方ない。客の要望の方が優先する世界だからだ。

一般的に新聞販売店の集金は月末25日から翌月5日までに終わらせることになっていて、そのうち8割くらいは月末30日までに集金しろと店から厳命されていた。

700軒の8割というと560軒になる。それを6日間でするとなると1日平均90軒以上集金しなくてはならない。

夕刊の配達や店の雑用、あるいは勧誘もしなければいけないから、それがどれだけ大変なことかは新聞販売店で仕事をした人間でなければ分からない。

どんなに頑張っても、どこかの家は必ず午後9時くらいにはなる。顧客の在宅の有無次第では午後10時、11時頃になることさえある。その時間にならないと帰宅していない独身者もいるからだ。

普段は午後9時以降は、翌日の早朝午前2時まで就寝している。しかし、この集金の期間中だけは、その就寝の時間を削らなければいない。寝る間も惜しんで仕事をしているわけだ。

それなのに「あなた、こんな時間に集金に来るなんて非常識よ」と言われるのは辛い。

もっとも、それでもリョウヘイには「そんなことを言われても困ります」とは言えない。顧客が、その時間に集金に来るなと言えば、それに従うしかないからや。

「仕方ないわね。ちょっと待ってて」

主婦が、そう言いながら奥の部屋に向かった。

リョウヘイは集金が貰えるものと考え集金鞄から、その顧客の領収証を取り出そうと探していた。

その時だった。

「あっ、ダメよ、メリーちゃん!」と、主婦の慌てた声が聞こえた。

次の瞬間、リョウヘイは右足に強烈な痛みを覚えた。その部屋の飼い犬が、いきなり噛みついてきたのである。

小型犬のミニチュアダックスフントだったが、完全に牙がリョウヘイの足首に食い込んでいた。

リョウヘイは反射的に噛みつかれた足を持ち上げ、ミニチュアダックスフントを振り払った。ミニチュアダックスフントは、廊下の壁にぶつかり「キャン」と鳴いた。

「あなた、何をするのよ!」と、その主婦は自身の飼い犬が人に噛みついたことを謝りもせずリョウヘイに文句を言ってきた。愛犬が壁に叩きつけられたことを怒っているのである。

カチンときたリョウヘイは、「何をて、これを見てくださいよ」と言って噛みつかれた足を見せた。

リョウヘイの足首に犬の噛み傷がしっかり残っていた。噛まれた個所が血で滲んでいる。

「こんな時間に集金に来た、あなたが悪いんでしょ。自業自得よ」

リョウヘイは信じられない暴言を吐いた、その顧客にキレた。

「何やと! それが怪我をさせた側の人間の言う言葉か!」

リョウヘイは思わず怒鳴ってしまった。

新聞販売店に勤める人間が、こんな物言いをしたらあかんことくらいリョウヘイも分かっている。普段なら絶対、こんなことは言わない。

しかし、主婦の暴言には我慢できなかった。

「ごめんなさいね」の一言も言えない人間は最低だ。しかも怪我をした相手より飼い犬の方を心配している。リョウヘイは、それが許せなかった。

「きゃーっ! あなた助けて!」

リョウヘイの怒鳴り声に怯えた主婦が、そう叫んだ。

その声を聞いて、奥から旦那が出てきた。

「何や? どうした?」

「この新聞屋が、メリーちゃんを足蹴にした上、怒鳴ったのよ!」

「何やと? どういうこっちゃ?」

その旦那は、そう言ってリョウヘイを睨みつけてきた。

「どうも、こうもないですよ。お宅の犬がいきなり噛みついてきたので、振り払っただけです。これを見てくださいよ。奥さんは、このことを謝りもせず、僕の自業自得だと言ったんですよ。いくらお客さんでも怒りたくもなりますよ」

 リョウヘイは、その旦那に犬に噛まれた足首を見せて、そう説明した。

「あなたが、こんな時間に集金になんか来るからでしょ」

「ええから、お前は奥へ行っとけ。話は俺がつけるから」

その旦那が、そう言うと主婦は犬を抱えて奥の部屋に渋々引き下がった。

「あんたに怪我させたのは、こっちの落ち度や。謝る。病院代は、うちで持つから請求してくれ。うちには子供がおらんから、あいつは、あのメリーを自分の子供のように可愛がっとるんや。分かってやってくれ」

その旦那は主婦より、はるかに物分かりが良かった。最初に謝罪の一言があれば、リョウヘイも言葉を荒げることはなかった。

「いえ、こちらこそ、済みませんでした。言い過ぎました。それで集金の方は?」

「今日のところは帰って後日にしてくれ」

「分かりました」

リョウヘイは、仕方なくそう言って部屋を出た。

その足で夜ということもあり、診察して貰える近所の救急病院に向かった。痛みが引かなかったからや。

病院での診察時、傷口の出血は止まっていたが、その周辺が赤黒く腫れ上がっていた。

犬に噛まれた傷口は、小さくても深い場合が多い。リョウヘイの場合、噛まれた傷口の周りが変色しているから感染症の疑いがあると担当した医師が言う。

ただ救急では十分な検査はできないので、明日出直してくれということやった。

医師からは、犬に噛まれた場合の感染症は甘く見ない方が良いと言われた。酷い場合は破傷風による壊死の進行を阻止するために足の切断もあると。

犬に噛まれた際の感染症には狂犬病や破傷風、ブドウ球菌、パスツレラ菌などによるものが大半を占める。そのいずれに冒されていても重傷化する場合がある。

もっとも、そのうちの狂犬病は国内で50年以上発生していないので、あまり心配はないということやったが。

痛み止めの薬は貰って飲んでいたものの、あまり効かなかった。依然として痛みが残ったままだ。

そのため3、4時間後の朝刊の配達は辛かった。

その頃になると、足がさらに腫れて靴も満足に履けなくなっていた。とはいえ、バイクに乗るには靴を履くしかないからスニーカーの靴ひもを目一杯緩め、無理矢理、足を突っ込んだ。

配達の間中、まるで右足に新しい心臓ができたかのように激しい鼓動が痛みと共に襲ってきた。走ることは疎か、階段の上り下りも満足にできない状態だった。

その分、アパートやマンションでの配達時間が大幅に遅れてしまった。客から苦情が出るほどではなかったが。

普段、朝刊を配達した後は4時間ほど仮眠を取るのやが、その日は痛みで眠られず、翌朝9時前、再度救急病院に行った。

検査と治療をして貰ってから午前11時頃、販売店に出社した。

すると、店長のオオタが「リョウヘイ、お前、昨日の夜、セキさんとこで揉めたそうやな。奥さんが怒って、うちの新聞を止めるとか言うとったが、どないなっとんねん」と言って詰め寄って来た。

「どうって、昨日、セキさん家に集金に行ったら、そこの犬に噛まれたんですわ。今朝、病院に行って来たところです」

リョウヘイは、そう言って包帯が巻かれた右足首を店長のオオタに見せた。

「タカが小犬に噛まれた程度で大袈裟やな」

「大袈裟なことなんかないですよ。病院では破傷風の恐れがあり、治療が遅れたら足を切断しなければいけなかったと言われました。今検査中で、はっきりしたことはまだ分かりませんけど、救急病院に行ったのは正解だったと思っています」

「だとしてもや。お前、セキさんの奥さんに対して怒鳴ったそうやな。それはあかんぞ」

「その点については、ご主人に謝りました。言い過ぎたと思っています。でも、僕の怪我より犬の方の心配をして、自業自得とまで言われたんですよ。怒りたくもなりますよ」

「いずれにしても客を怒らせて契約を解除されるのは店としては避けたい。お前、今からセキさんの奥さんに会って何とか解約だけはしないでくれと言って、もう一度、謝って来い」

「それは構いませんけど、病院の治療費くらいはセキさんに払って貰いますよ」

「アホ、そんなことを言うたら、よけい怒らせてしまうだけやないか。それは言わず謝って、何とか解約だけは止めてくれと頼んで来い」

「それでしたら、治療費は店が出してくれるんですか?」

「それはできん。自分で何とかしろ」

「そんなの嫌ですよ。何で怪我をさせられた僕が泣き寝入りせんとあかんのです? おかしいでしょ」

「とにかく、こんな問題を起こしたのは、お前にも責任のあることやからセキさんとこの解約だけは何としても食い止めて来い」

店長のオオタに、そう言われ、リョウヘイは納得できないまま渋々、セキのマンションに行った。インターホンを押すと主婦が出て来た。

「昨夜は言い過ぎまして、どうも済みませんでした」

リョウヘイは、一応そう言って謝った。

「今更何よ。でも同じ謝るのなら、うちのメリーちゃんにも謝ってよ」

「犬にですか?」

「嫌なの? あなたが謝らないのなら店長さんに言ったように、もう新聞を取るのは止めるわよ」

「嫌ですよ。何で犬なんかに謝らんとあかんのです? バカにしないでください。第一、僕は、お宅の犬に噛まれて、こんな怪我をしたんですよ。当分、病院に通わなくちゃいけませんから、治療費を払ってください。それと新聞の契約は、まだ残っていますから、解約なんかできないですよ」

「もういいわ。帰ってちょうだい。誰があなたの治療費なんか払うものですか。こっちこそ、メリーちゃんをぶつけられた慰謝料を貰いたいくらいだわ」

「そうですか。それでしたら、こちらは警察と保健所に報告するしかありませんね」

そこまで言うつもりはなかったが、主婦がリョウヘイのことを犬以下だと考えていることが腹立たしかった。こうでも言わないと主婦は分からないだろうと思ったということもある。

「警察と保健所?」

「ええ、怪我をさせられているから、これは立派な傷害事件になりますし、保健所へは人を噛んだ犬が、ここにいると報告させて貰います」

「脅すつもり?」

「脅しなんかではありません。僕もここまで言ったからには引っ込みがつきませんので本当にそうするつもりです。治療費と相当の慰謝料を頂ければ考え直してもいいですが。もちろん解約の話もなしです」

「話にならないわ。もう帰ってちょうだい」

「分かりました。警察と保健所へは病院の検査結果が出次第、通報します。もう1、2日はかかると思いますので、それまでに考え直されたら連絡してください。僕としても、なるべくなら、そんなことはしたくありませんし。はっきりとは言えませんが、人に噛みついた犬は場合によれば殺処分されることもあるそうですよ」

「殺処分?」

「それでは、それまでの間、よく考えておいてください」

リョウヘイは、そう言い残して帰った。

その日の夕方、ペット保険会社を名乗る男がリョウヘイを尋ねた来た。

「ペット保険会社?」

リョウヘイは、男が差し出した名刺を見ながらそう言った。名前はカドタとなっている。

「ええ、セキ様から依頼がありまして、怪我をされた保障の件で、ご相談に上がりました」

セキの犬はペット保険の損害賠償特約に入っているから、それでリョウヘイの治療費と慰謝料を支払いたいと言う。

どうやら、あの後、リョウヘイが帰ってから急いで保険会社に連絡したようだ。脅しのつもりで言ったわけやないが「殺処分」という言葉に反応したのだろうと思った。

「具体的には、治療費全額と慰謝料5万円ということで、いかがでしょうか?」

「それはセキさんもご存知なのですね」

「もちろんです」

「分かりました。ですが、まだ病院の検査結果と全治見込みの期間が分かっていませんので、診断書も貰っていませんし、詳しい話は、それからということで良いですか?」

「それで結構です」

「それと、セキさんは新聞を止めると言われていますが、それはしないということも条件に入ると伝えて貰えませんか」

「申し訳ありませんが、それはできかねます。その件は当社とは関わり合いのないことですので」

保険会社のカドタという男は、それだけを言って引き上げて行った。

確かにそう言われれば、そうだ。ただ、セキが弱気になっているのなら、解約を思い止まらせることができるかも知れない。そうリョウヘイは考えたと言う。

その後、リョウヘイは、ワシらにメールで相談してきた。

保険会社と交渉を進めても良いのかと。解約をしない条件を出しても良いのかと。そして、これと似た事例を知っているかと。

似たような事例なら3年以上前、サイトのQ&A(注1.巻末参考ページ参照)にある。もっとも、それは今回とは逆で、怪我をさせた購読者側からの相談やったがな。

ただ、その時の回答がリョウヘイの参考になると思い、そのページを知らせた。


NO.1172 どうしても相手が慰謝料を受け取ることに納得ができない

投稿者 Bさん  投稿日時 2012.9.30 AM 3:08 


夜分遅くすみません。悔しくてさ眠れません。

新聞集金の方とトラブってます。

夜に集金に来るときは電話してから来てください〓とお願いしているのにもかかわらず 突然インターホンを押してやってきた。20:30頃に。

たまたま4歳の姪っ子が泊まりに来ていて、やっと寝付いた矢先にインターホンが鳴って驚いて大泣き。

集金の方に再度注意をしていたら、びっくりした愛犬が噛んでしまった。

慌てて病院に連れていき1週間も付き添って病院通いしました。

原因は向こうにあるが、痛い思いをさせてしまったことは事実なので治療費全額と一万のお見舞金と菓子オリを出しました。

ペット保険から示談書が送られ、上記の金額(治療費全額と一万のお見舞金)で相手にサインをと思ったが納得しない。

保険会社に相談したら、あと6万くらいは慰謝料として出せますとの事。

んっ〓 なぜこちらが慰謝料をだすのだ〓 原因は向こうで治療費とお見舞金と菓子オリはこちらで負担しようと言っているのに。

新聞店の店長に話をきいてもらったが、保険会社の金額でよろしいのでは言ってくる。

支払いは保険会社が負担するから、こちらの支払いはゼロだが、なぜ向こうが慰謝料を受け取るのか〓 納得いかない。

原因を作った従業員も店長からも謝罪はない。

支払うべきですか。


回答者 ゲン


『支払うべきですか』ということやが、結論から言うと、そうするしかないやろうと思う。

『夜に集金に来るときは電話してから来てください〓とお願いしているのにもかかわらず 突然インターホンを押してやってきた。20:30頃に』というのは、その販売店、および集金人が悪い。

『たまたま4歳の姪っ子が泊まりに来ていて、やっと寝付いた矢先にインターホンが鳴って驚いて大泣き』となったことで、怒ったあんたが『集金の方に再度注意をしていた』というのも当然で良く分かる。

ここまでは、まったくあんたに非はない。

しかし、『びっくりした愛犬が噛んでしまった』というのは、それだから仕方ないとは言えん。それに関しては、あんたの落ち度が大きいと言うしかない。

犬猫などのペットは法律上、「物」として扱われる。どんなに飼い主が愛情を注いでいようが、家族同然やと思っていようが、日本の法律は生き物としての独自性や権利を認めていない。

したがって、飼っているペットが他人に噛みついてケガをさせたというのは、その飼主が自分の所有物によって他人にケガをさせたのと同じと解される。そのため飼主は被害者に対して損害賠償の責任を負うものと法律で決められている。

しかも、その場合、理由の如何を問わず無条件にである。

民法718条(動物の占有者等の責任)というのがある。


動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。


というのが、それや。

今回の場合、どのような状況で、どんな犬種が噛みついたのかが良う分からんが、結果として、ペットの犬が噛んだことで『1週間の病院通い』をするほどのケガをさせたということからすると、除外条文の『動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をした』とはとても言えないと判断される可能性が高いと思う。

つまり、あんたは、ペットを飼った段階で、そのペットを制御する義務があったわけやが、それができずに相手にケガをさせれば、それだけであんたの不法行為が無条件で成立してしまうということや。

きついようやが、『原因は向こうにある』と言われる前に、そういった状態で愛犬を飼っておられた、あんたにこそ、もともとの原因があると法律は言うてるわけや。

一般的な不法行為を定めた民法第709条では、不法行為の成立要件として加害者に故意または過失があったことを被害者が証明しなければならないとされている。

しかし、動物の場合は特則として民法718条(動物の占有者等の責任)で、故意または過失のあるなしにかかわらず、単純に、占有者は動物が他人に与えた損害を賠償する責任を負うものとなっているわけや。

そもそもペット保険がなぜ存在するのかというのも、そこに理由がある。

ペットが「物」である限り、その「物」が勝手にしたことやとは所有者には言えず、ほぼ無条件に相手への損害賠償をせなあかんことになるから、そのために保険が必要になるという考え方やな。

あんたは『治療費全額と一万のお見舞金と菓子オリを出しました』として、その損害賠償としては十分やと考えておられるのかも知れんが、それは少し違う。

そのケガが完治するまで、そのゲガにより仕事や生活に支障をきたすであろう点、またいきなり犬に襲われたことによる恐怖を感じた事などについての精神的な慰謝料も、その損害賠償の範疇であると法律で決められているさかいな。

『なぜこちらが慰謝料をだすのだ』という、あんたの疑問の答えなら、そういうことや。

今回の場合、『あと6万くらいは慰謝料として出せますとの事』というのが最も妥当な線と保険会社が判断したと言える。

『保険会社の金額でよろしいのでは』と、販売店の店長が言うたのは、それ以上、話を大きくしたくないということで、その集金人にも、それで我慢させるという意図も見えるさかい、それで手を打てるのなら打っておいた方がええと思うがな。

『原因を作った従業員も店長からも謝罪はない』という気持ちは分かるが、それは今言うべきことやない。

確かに感心した話やないが、一般的にはケガをさせた相手が悪いと考えるのが普通やさかい、そういう態度に出られるのも、ある程度、仕方ないと理解しておくことやと思う。

心の中で「常識のない販売店の人間や」と、あんたが考えられるのは自由やがな。

あんたが、変に『 原因は向こうで』ということに固執しすぎると、肝心のケガをした集金人を硬化させることになるかも知れん。

『夜に集金に来るときは電話してから来てください〓とお願いしているのにもかかわらず突然インターホンを押してやってきた。20:30頃に』というのはその集金人に非があると言えるが、それが『1週間の病院通い』をするほどのケガをさせられてまで、我慢せなあんことなのかとなるさかいな。

おそらく、『相手にサインをと思ったが納得しない』というのは、そういう気持ちがあるからやないのかな。あんたがそれに拘る限りは、この先、とことん揉めるやろうと思う。

ワシらは、ペット愛好家で組織された市民団体の代表の方とも懇意にさせて頂いとるが、その方の話に、あんたと同じようなケースがあったというのを思い出した。

あるペット愛好家の愛犬が人に噛みついてケガをさせ、そのペット愛好家が被害者にも責任があると言って揉めた末、被害者が保健所に通報したことがあった。

その際、その犬に噛み癖があったということが分かり、結局、その犬を処分せなあかんようになったという話を聞いたことがある。

それが、あんたの愛犬の場合に当て嵌まるかどうかは分からんが、『支払いは保険会社が負担するから、こちらの支払いはゼロ』ということなら、この場は穏便にしておいた方が、その愛犬のためにもええと言うとく。

確かに集金人にも非はあるが、あんたの愛犬が噛みついてケガを負わせたという事実は、それ以上に大きな過ちやったと自覚されることや。

ペットを飼うということは、そういうことやと。

この場合、どうすることが一番良かったのか。

それは、『集金の方に再度注意』する前に、犬が近くにいるのなら、その犬を遠ざける。または「犬がいるから近寄らないでください」といった警告を発しておくべきやった。

実質的に、その集金人に愛犬が噛みつけない状態で対応していれば、今回のようなことにはならんかったはずや。それをしていなかったことが、ペットを飼っていたあんたの落ち度と理解して欲しい。

そう冷静に考えれば、原因は向こうとばかりは言えんと思う。

噛みつけない状態にしておけば、愛犬も集金人に噛みつくこともなかったわけやさかいな。

そして、あんたは相手が夜に集金に来たことを責めて、次回からは、そんなことのないようにと強く言うことができたはずや。

また、夜の時間に集金に来られるのが嫌なら、銀行の自動引き落とし、あるいはコンビニ払いにするという手もあるので、それを検討されたらどうかと思う。

結果論と言えば言えるかも知れんが、事前に打てる手は打っておく方が賢いと言うとく。同じ事が二度と起きないためにも。

『悔しくてさ眠れません』というのは、その直後で興奮されていたからやと思うが、今は少し落ち着かれておられるはずなので、ワシの言うことは分かって頂けるのやないかと思う。


と。

この中に、今回のリョウヘイの問題も集約されとると思う。

『保険会社と交渉を進めても良いのか』というのは、相手が保険に加入していて、その交渉代理人が出て来ている以上、そうすることが一番ええやろうと思う。

言えば、自動車保険の事故処理みたいなもんやな。

『解約をしない条件を出しても良いのか』については、リョウヘイの場合、保険会社の人間が『申し訳ありませんが、それはできかねます。その件は当社とは関わり合いのないことですので』と言うてるから、その条件を出すのなら、セキ夫婦と直接交渉する必要がある。

ペット保険の場合、犬に噛まれたという診断書と両者の証言があれば、ほぼ確実に治療費と慰謝料分の金額は下りる。

事、金銭面での損得で言えば、セキ夫婦はペット保険に加入している段階で負担はないから、『解約しない』ことに対するメリットがない。

ただ、契約期間が残っている場合は、今回のことを理由に途中解約をするのであれば、それなりのペナルティ、一般的には相応の「解約違約金」を支払って、契約時のサービス分を返還するということになる。

その損得如何で契約者が、どうするかという問題になる。

警察や保健所に通報しない代わりに「解約しないで欲しい」と言うのは勝手やが、事件化、問題化するかどうかは警察や保健所の判断次第で決まる。

一般的に、警察では治療費と慰謝料を支払っていれば示談が成立したとして傷害罪は見送られるやろうし、保健所も犬の噛む行為が常態化して他にも被害者がいるのでなければ飼い主への厳重注意で終わる公算の方が大や。

つまり、現況で警察や保健所に通報しても、あまり影響はないということやな。

もっとも、飼い主が、そうされることで危機感や負担に感じて解約を思い止まるという効果は期待できるかも知れんがな。

ただ、契約者側には脅されてそうしたという思いが残るから、例えその場は応じたとしても次回の契約更改は難しいやろうと思う。

結局は、その客を失うことになるさかい、そういった脅し紛いの交換条件は意味がないと考える。

それなら、どうすれば良かったのか。

リョウヘイの場合やったら、店が治療費の負担をしないと言う以上、加害者側のセキにペット保険から治療費と慰謝料を支払って貰い、脅し紛いの交換条件など持ち出さず、解約されても仕方ないと考えるしかないのやないかな。

店側が、それで怒っても、あんたは当然の要求をしたまでで責任など負えないと突っぱねればええ。

そもそも業務中の怪我に対して『店が治療費の負担をしない』と言うのは、おかしな話やしな。まあ、今回の場合は明確な加害者がいて保障すると言うてるのやから、それで済ますしかない。

はっきり言うて、ここまで拗れてしもうたら双方の感情の修復は不可能やろうと思う。

加害者側は飼い犬可愛さのあまり被害者の痛みが分かっていないし、被害者の方も「俺は犬以下か」という思いが強く、ペット愛好家が飼い犬を家族同然に思う気持ちなど理解していないさかいな。

お互いに相手の気持ちに寄り添うことができなければ、こういった問題は永遠に平行線のまま続くやろうと思う。



参考ページ

注1.NO.1172 どうしても相手が慰謝料を受け取ることに納得ができない
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage10-1172.html


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