メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第439回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2016.11. 4


■新聞販売店物語 その22 あこぎな拡張員の入店を拒否できない?


スズキ新聞販売店の専業員、リョータが週に一度の居残り電話当番をしていた午後7時頃、事務所に一本の電話がかかってきた。

その電話を取ると、「おい、お前ところの店は暴力団やったんか?」と、○○町一丁目のタナカという昔からの顧客が、いきなり、そう捲(まく)し立ててきた。

「いえ、そんなことはありません。うちは普通の新聞販売店ですが……」

「こっちも今までは、そう思うて付き合いしてきたけど近所に住んでいる息子が、お前ところの勧誘員に脅されて無理矢理、新聞の契約をされられたと言うとんねん。そっちの返答次第では、これから警察に行くつもりやけど、それでええねんな」

「ちょっと待ってください。一体、どういうことなんでしょうか?」

「どうも、こうもあるか。ホンマにふざけ腐って……」

タナカが、怒りに震えた声で経緯(いきさつ)の一部始終を語り始めた。

ホンの1時間ほど前、同じ町内のアパートに住んでいる大学生の息子、アキラのもとに「スズキ新聞販売店の者ですが」と名乗る勧誘員がやって来た。

アキラ自身、新聞は購読していないが、昔から実家でタナカ新聞販売店の新聞を取っていたこともあり、何の抵抗もなく玄関ドアを開けた。

すると、そこにはプロレスラー顔負けの大男が立っていた。顔つきも凶悪そのものやったという。

その大男が、いきなりアキラの胸ぐらを掴み、「兄ちゃん、何ヶ月取ってくれるんや?」と酒臭い息を吐きかけながら迫ってきた。

アキラは、恐怖で固まりながらも、「何の話です?」と訊いた。

「何の話て、新聞やがな。新聞。それくらい分かるやろ?」

「スズキ販売店の新聞なら、もう取ってますけど……」

「おかしいな。兄ちゃんとこは白になっとるで」

大男の言う「白」とは未契約者のことを指す。

新聞販売店の多くで、その日、入店した拡張員には地域の住宅詳細地図をコピーしたものを渡す。

それには一戸建てはむろんの事、アパートやマンションの入居者の住人大半の名前が書かれている。

新聞販売店では、現読(現購読者)や約入り(購読予約契約者)客への勧誘を避けるため、それらの家、もしくは部屋を色分けした住宅詳細地図コピーを拡張員に持たせる場合が多い。

要するに、その色分けしている家、部屋に住む客には勧誘に行くなという印やな。それ以外の家は何も塗っていなくて「白」になっている。

それらを叩け(勧誘訪問)ということや。これを業界で「白叩き」と呼んでいる。

アキラの部屋は、その「白」になっているため、大男が「おかしいな」と言うてるわけや。

「同じ町内にある実家の方で取っているんです」と、アキラ。

「何や、そうかいな。それやったら問題ない。兄ちゃんとこでは取ってないんやろ?」

「でも実家が、すぐ近くなので帰ったら読むことができますので、新聞はいりません」

アキラは怖かったが、勇気を振り絞って、そう言って断った。

それには、近くに父親がいるということが大きかった。父親に頼めば何とかなるだろうと考えたからだ。

抵抗する姿勢を見せたアキラに対して、その大男は急に猫なで声で「そんなこと言わんと、頼むわ。ワシ困ってんねん」と語気を緩めて話し出した。

「そう言われても勝手に同じ新聞を取ったら親に怒られますので無理だと思います」

「それやったら、お前んとこの親に後で話をつけたるから心配するな。実を言うとな、ワシ昨日、別荘(刑務所)から出て来たばかりなんや」

そう言いながら、その大男は腕を捲り上げ「入れ墨」を、これ見よがしに見せつけた。

その「入れ墨」を見せられたのと、風体からしても大男が暴力団員に間違いないと思い込んで怖くなったところへ「そうか、そうか、6ヶ月取ってくれるんか。ほな、ここにサインしてんか」言われたことで、大男の言いなりになって契約書にサインさせられてしまった。

アキラから、そのことを聞かされたタナカが怒って電話をしてきたというのが事の顛末やった。

その話を聞いたリョータは、大男がS団のオオサキだとすぐに分かった。

オオサキとは以前、案内で一緒に仕事をしたことがある。

案内というのは新聞販売店の専業が拡張員に勧誘先を指示して回る拡張方法のことや。

色分けした住宅詳細地図のコピーを持たせてない時とか、要注意人物の拡張員、あるいは店では難しいと判断した客を勧誘させる目的で、案内拡張するケースが多い。

その折り、オオサキはしきりに「学生が多いのは、どの辺や?」と訊いていたのを思い出した。

後に知ったことやったが、オオサキは喝勧(恫喝勧誘)専門の男やった。

喝勧は主に学生や若い独身者を狙う。脅せば比較的簡単にカード(契約書)にサインするからだということで。

業界で俗に「急ぎ働き」と呼ばれているもので、手っ取り早く契約をあげられるやり方だと嘯く者が多い。

オオサキが、そうやった。

ある時、タナカの言っているとおりのことを目の前で目撃したことがあった。

その日、オオサキはガクアパ(学生の多いアパート)のインターホンを押し「宅急便です」と言ってドアを開けさせた。

ドアが開くと同時に、オオサキは、いきなり出て来た学生の胸ぐらを掴み「よし、捕まえた」と言ってそのまま片手で吊し上げた。

「お前わかってるやろ? 何ヶ月取る?」と言い、そのままヘッドロックでもするような格好で耳元で囁くと、学生は恐怖で震え上がり大人しく契約した。

その時は、さすがに、そんなやり方は拙いと思ったリョータは、オオサキに「こんなことをして警察にでも垂れ込まれたら大変ですよ」と言って釘を刺した。

すると、オオサキは「なあに、心配あらへん。中途半端に脅すさかいサツ(警察)に垂れ込むんや。こんな具合に徹底的に脅かしたら、そんなことをする者なんかおらんわい」と平気な顔で、そう答えた。

「それでも契約せんという奴には、俺、別荘(刑務所)から出て来たばかりなんだけどよ。何で入ってたと思う? 俺から新聞取った野郎が警察にチクり(密告)やがったから、その野郎を半殺しにしてやったんやとでも言えば、いちころで言うとおりにするわい」と言っていたが、どうも、そのとおりのことをやったようや。

「それは、どうも申し訳ありませんでした。今すぐ、そちらに謝罪に寄せて頂きますので警察の方には何とぞ穏便に……」

「それやったら、息子の契約はナシでええんやな」

「それは、もちろん」

リョータは、そう答えるしかなかった。

結果、リョータが懸命になって、そう頼み込んだことでタナカも矛を収めてくれたようやった。

リョータは、すぐに店長のサイトウに連絡した。

「……というわけなんですけど、どうしましょ?」
 
「本当やったら、不始末をしでかした人間に謝罪させるのが筋なんやろうが、あのオオサキに行かせるわけにはいかんしな。リョータ悪いが、お前、タナカさんちに行って謝っておいてくれんか」

「分かりました。例の方法でですね」

「そういうことや」

「それにしても、オオサキさんは酷すぎませんか。どうして、店長や所長はオオサキさんを出入り禁止にしないんですか?」

「そうしたいのは、やまやまなんやけどS団には本社のヤマモト部長がついとるさかい、どうにもならんのや」

表向き、拡張団への勧誘依頼は新聞販売店がすることになってはいるが、実際は違う。

新聞社の販売部が、どこの販売店にどの拡張団の人間を行かせるかといった差配のすべてを取り仕切っている場合が多い。

新聞販売店にとって新聞本社の販売部の指示、命令は絶対や。その販売部の部長がヤマモトやった。

1年前、ドウジマ新聞販売店の店主、ドウジマが、あまりにも評判の悪いS団の拡張員たちに嫌気が差し「S団の連中を入店拒否にしたい」とヤマモト部長に進言したことがあった。

しかし、それは認められず却下された。そして、それが元でドウジマ新聞販売店は廃業に追い込まれている。

それがあるため、所長のスズキもS団の連中を入店拒否にはできんと考えとるわけや。

基本的に新聞本社、取り分け販売部は部数さえ増えれば良いという風潮に支配されがちである。

その意味で言えばS団は業界の中でも契約数を多くあげるということで評価されていた。

通常、販売店が拡張員に対して入店拒否できるのは、明らかな「てんぷら(架空契約)」や「爆」と呼ばれる規定以上のサービス品を客に渡す、あるいは購読料を無料にするといった新聞本社が禁止している行為が発覚した時くらいのものや。

それであれば、販売店も大損したという理由で堂々と特定の拡張員、または拡張団の入店を拒否することができる。

ただ、喝勧やそれに類する客とのトラブルを理由に入店拒否に持ち込むのは難しいという。特にスズキやドウジマが所属する新聞社系列の販売店に、それが言えた。

昔から、その手のことは勧誘員の仕事熱心さの表れやさかい大目に見ようという風潮が業界に蔓延していた。

現在では、表向き「喝勧」は禁止行為やと言うてる新聞社が大半を占めているが、契約をあげれば少々何をしても構わないという体質に変わりはない。

要するに、その程度では「入店禁止」にするには弱いということや。

加えて、S団の団長、オキタとヤマモトの関係がズブズブで相当な賄賂、裏金が動いて、お互い切っても切れない関係にあると言われていたから、尚更やないかとリョータは見ていた。

その後、ヤマモト部長に入店拒否を迫ったと知ったS団は、ドウジマ新聞販売店に入店する度に、以前にも増して喝勧や嫌がらせ的な行為が多くなり、客に悪態をつくといったトラブルを平気で繰り返すようになったという。

当然のように、それで揉めた末、警察を呼ばれることも多かったと。

ただ、それは悪質な拡張員にとっては狙いの一つでもあった。揉めた末、警察を呼ばせることで、逆に客を追い込み契約をあげる手段として用いていたわけや。

それについての参考事例として『第137回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■警察の民事不介入の是非について Part2 不良拡張員の場合』(注1.巻末参考ページ参照)で話した部分があるので、ここで抜粋して紹介しとく。


「お宅、宅配便だと言ったでしょ?」

ショータは少しムキになってそう言うた。

騙されたという思いと幾つも歳が違わんような、その若い男に「兄ちゃん」と、上から見下されたような物言いに少し腹が立ったからや。

「いいや、オレは、届け物やと言うただけやで」と、平然とその若い男は言う。

その言葉にショータは「いや、確かに宅配便やて言うてた」と、思わず強気で、そう言い返した。

「何やと!!このガキ、その口の利き方は? 舐めとったら承知せんで、こらっ!!」と、その金髪のスーパーサイヤ人が、血相を変えて恫喝してきた。

「いえ、そんなつもりじゃ……、とにかく、新聞は必要ないんでいりませんから」

「何やと、それで通ると思うとんのかい。人を嘘つき呼ばわりしやがって」

これは、古典的な喝勧の手法である。

わざと、客の気分を害することとか、突っ込みを入れたくなるようなことを言うて、反論させる。

反論させたら、その揚げ足を取って責める。この場合は「口の利き方が悪い」、「嘘をついた」という言いかがりをつけたのが、それになる。

こういう拡張員にとって、ベストな争いは、言うた言わんの水掛論に持ち込むことや。

この後、揉めれば揉めるほど、それをする拡張員は有利になると考えるわけや。また、そういう風に持って行く。

「脅す気ですか。警察を呼びますよ」

すぐ、こう言い出す人間が多い。警察と言えば、それですべて解決する、相手が怯むと思うんやな。

しかし、こういうことをする輩は、それもすべて計算の上や。織り込み済みと
いうことになる。

「呼ぶなら、呼ばんかい。こっちは、正当な営業活動しとるだけや。警察なんか怖いことあるかい」

ショータは、怖さも手伝い、本当に警察に通報した。

「警察ですか。○○マンションの203号室のイイダ、ショータと言います。今、新聞勧誘の人が来て脅迫されて困っています。助けてください」

それを聞いていた、その若い男は、動揺するでもなく、ニャっと口元に笑みを浮かべ、携帯電話を取り出し、どこかへかけていた。

「アニキ、ノボルです。ここのガキが警察に通報しよりましたんで、応援たのんますわ」

警察が来る少し前に、そのノボルのアニキ分やという中年の男が現れた。

貫禄たっぷりの極道タイプの男やった。

その男は、来るとすぐ、そのノボルと話し込んだ。どうやら、何かの打ち合わせをしているようや。

ショータは、この男を見て、警察に電話したのは正解やと思うた。

間もなく、1台のパトカーが到着して、警官が二人やって来た。

「この人が、変な言いがかりをつけて、脅すんです」

ショータはすがりつくように警察官に、そう訴えた。

「お客さん、変なことを言わないでくださいよ。僕は、ちゃんとした営業をしてただけですよ」

ノボルは、その警察官には、ショータに対しての口調とは、まったく違う話し方をした。

「嘘です」

「まあ、まあ、事情を聞きましょう」と、そう警察官がなだめる。

シヨータは、すべて正直に話した。

「お客さん、どうもうちの人間がご迷惑を、おかけしたようですみませんね」

後から来た、極道タイプの男が、そう言いながら割って入った。ノボルの上司やという。

「しかし、お客さんは、なぜ、そこまで怒りはるんですか。私らみたいな勧誘員とは、日頃から会わんように気をつけていたからですか」

「そのとおりです」と、シヨータは、思わずそう即答した。

この極道タイプの男は、ショータからその言葉を引き出すために誘いをかけたわけや。それに見事に嵌った格好になった。

もちろん、ショータにそれが分かるはずもなかったんやがな。

「そういうことなんですよ、旦那。私ら新聞のセールスマンはロクでもない人間やと見られることが多いんですわ。偏見ですな。せやさかい、何もしとらんでも、私らが来たというだけで、警察を呼ばれるんで、ほんまに弱ってますんや」

「そんな、でたらめや。確かに、この男が脅したんや!!」

ショータは、急に、その警察官が、丸め込まれるのやないかと心配になった。

「話は分かった。とりあえず、あんたらも、今日のところは引き上げてくれんか」

やってきた警察官は、その極道拡張員にそう言った。警察官は、これで打ち切ろうとしているのが見え見えやった。

「そんな、後から来た人はともかく、そっちの若い方の人は、脅迫罪で調べてくださいよ」

そう言われて、「何を!!」と言いながら身を乗り出そうとするノボルを押さえて、その極道拡張員が諭すような口調でショータに向かって言った。

「お客さん、警察の方にそんな無茶を言うもんやおまへんで。よろしいですか、新聞の契約をするとか、せんということは、契約事やから、民事ということになるんですよ。私らは、具体的にあなたに危害を加えたということではないでしょう?」

「……」

確かに、そう言われてしまえば返す言葉はない。ショータの寄り所は、脅されて危険を感じたからという一点に尽きる。

「警察は、刑事事件に関係したことだけを調べるのが仕事ですから、こういう民事については、私ら同士で話し合うしかありませんのや。そうでっしゃろ、旦那?」

この拡張員は、暗に「警察には民事不介入の原則があるから手を引け」と言うてるわけや。

そして、それは多くの場合、効果的な方法である。はっきりそれと分かる脅迫や暴力でもない限り、警察は関知しないことの方が多い。

ただ、「警察の民事不介入の原則」というのは、警察が必ずしも民事に介入したらあかんというものでもないがな。

金の貸し借り、恋愛のもつれなどによるトラブルがエスカレートして、暴力沙汰にまでおよぶ場合が往々にして起こる。珍しいことやない。

警察官が、その危惧ありと認めれば、注意、勧告することは何の問題もない。また、そうすべきや。それで、未然に防がれる犯罪も多いはずやさかいな。

ところが、警察には、事件が確定せな動けんという不文律のようなものがあるのも確かや。予想や想像で動くケースは少ない。というか動きにくい。

それには、日々、多くの事件が発生しとる現実にあって、これ以上、厄介事を抱えたくないという警察官の意識が働くからや。

「警察の民事不介入の原則」というのは、その厄介事を断るための口実として存在するものやという。そう話す現場の警察官もいとる。

また、警察の組織としても、民事に介入することを嫌う体質もあるから、それに首を突っ込んでも、警察官にとっては何の益もないし、それで未然に事件が防がれたとしても評価はされん。

というより、未然に防がれたということ自体、表面化するわけやないから、誰にも知られることもないしな。

骨折り損のくたびれ儲けということになる。それに、ヘタにその事に関わりすぎると上から叱責されるおそれすらある。

リスクだけを背負うことになり、間尺に合わんわけや。

勢い、「取りあえず、今日のところは帰ってもらえんか」ということで事を収める場合が多い。

「分かりました。今日のところは旦那の顔を立てて帰りますよってに」と言って、その極道拡張員と金髪の若い拡張員が、その場から消えた。

しかし、警察が引き上げて、ものの10分もしないうちに、すぐに舞い戻って来た。

インターフォンが鳴った。

「どちら?」

「先ほどの、○○新聞の者ですけど」

あの極道タイプの拡張員の声だと、すぐに分かった。

「もう、あれで終わったはずですから帰ってください。新聞はいりませんから」

「そのことで、もう一度、ちゃんと謝罪したいので、出て来て頂けませんか」

「いえ、もう結構ですから帰ってください」

「そういうわけにはいかないんですよ。こういうことは、きっちりしとかんとワシらも困るんですわ」

「あまりしつこいと、また警察に電話しますよ」

「どうぞ、何度、警察に通報されても同じことの繰り返しですよ。これは民事で、警察には、民事不介入の原則というものがあるから、さっきのように帰るしかありませんよ。それに、ワシは謝りたいと言うてるだけやから、警察を呼ばれても別に構いまへんで」

「……。本当にそれだけですか」

ショータは、その言葉を信用したわけやないが、このまま押し問答をしていても引き上げそうになかったし、あまり逆らうのも得策やないと判断して、ドアを開けた。

「お兄ちゃん、さっきはほんまに済まんかったね。これ、余分にサービスしとくさかい」と、その極道拡張員は、笑みを浮かべながら商品券とおぼしきものと一緒に、「購読契約書」を差し出した。

「な、何ですか、これは?」

「頼むさかい、それにサインしてくれんか。ワシも、このままやと帰るに帰れんし、格好つかんねや」

有無を言わせない迫力があった。

結局、ショータは恐ろしくなり、その契約書にサインした。

それに、また警察を呼んでも、この極道拡張員の言うとおり、同じ結果にしかならんような気がしたのも事実やったと。あてにできんと。

しかし、それでも、ショータは、どうにも納得がいかず、ネットでワシらのサイトのQ&Aを見つけ、メールしてきた。


はじめまして、ショータと言います。これから相談することは、Q&Aには載せないで下さい。お願いします。

実は今日こんなことがあったのですが……。

中略。

僕は、どうしても納得いかないので、クーリング・オフをしようと思うんですが、それをすると何か仕返しをされたりするということはあるのでしょうか?

それが心配で、どうしたらいいのか分かりません。教えてください。


というものやった。

この相談者の要望どおり、Q&Aへの掲載は取り止めた。

この手の相談をする人は、自分のケースは希で、簡単に特定されてバレるのやないかと危惧する人が圧倒的に多い。

ワシらにとっては、ありふれたことなんやが、相談者にとっては唯一無二の出来事やと思うてしまうんやな。

一応、そんな心配はないとは説明するんやが、絶対にバレんとも言えんから、その意志は尊重せなしゃあない。

ただ、こういう相談が、それで埋もれてしまうのも、どうかと思うさかい、折りをみてという条件でメルマガの題材として使うことくらいは了解して頂いとるがな。

こういうケースで回答する場合は「クーリング・オフしたらええ。それほど心配する必要はない。そうしたからというて、仕返しなんかされることは少ない」と常に言うてる。

事実、それに間違いはない。

「特定商取引に関する法律」というのがある。これの第9条に「訪問販売における契約の申込みの撤回等」というあるのが、クーリング・オフの規定や。

その「特定商取引に関する法律」第6条第3項に『販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約を締結させ、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない』というのがある。

分かりやすく言えば、契約した客がクーリングオフを申し出ているのに、それを防ぐため脅したり威圧して困らせたりするような行為の禁止ということや。

これが適用されると罰則規定は、2年以下の懲役または300万以下の罰金ということになっとる。

軽い罪やない。そして、実際、これで逮捕された勧誘員もおる。

つまり、クーリング・オフ後に契約者と接触すれば、それだけで事件として成立するさかい、「民事不介入」というのは通用せんことになる。

せやから、よほどでないと、そんな危険を冒してまで、クーリング・オフ後の仕返しなどというアホな真似をする者はおらんはずや。


といった例を挙げて説明したことでリョータも納得したようやった。

話を戻す。

リョータは、その後、タナカの家に簡単な手みやげを持って行き謝罪した。

その時、「こちらの方で、これを出しておきますので、申し訳ありませんが、この個所に息子さんのお名前を書いて頂けませんか?」と言いながら、一枚のハガキを手渡した。

「これは?」

「クーリング・オフの通知書です」

クーリング・オフは文書での通知やないとその効力がないと法律で決められている。

具体的には、新聞契約の場合、契約書を受け取った日から8日間以内に、日本郵便(JP)の窓口で、容証明郵便や配達証明付きハガキ、簡易書留ハガキを該当する新聞販売店宛てに送付することになっている。

それをリョータ、および店が代わって手続きしようと言うてるわけや。

これがリョータが店長のサイトウに『例の方法』と言うたものや。

「何で、そんなことまでするんや? お宅の店が解約すると言えば、それで終わりやないのか?」

「それは、そうなんですが、それだと後々、タナカさんに迷惑が及ぶかも知れませんので」

リョータは、簡単にオオサキとの経緯を話した上で、「うちとしては彼らに入店して欲しくないんですが、システム上、そういうわけにもいきませんので、こんな場合は、お客さんにクーリング・オフの通知を出して貰うようにお願いしているんです」

これは、新聞本社の苦情係に連絡しても「契約書を受け取った日から8日間以内でしたらクーリング・オフができますので、そうしてください」と言われるだけや。

クーリング・オフさえ、出しておけば、それを翻意させるために来訪することができんというのは業界の常識やから、オオサキがタナカの息子、アキラの家に行くことは、まずない。

万が一、そんなことがあれば刑事事件として扱われるケースがあるさかい、立派な「入店拒否」の理由になる。

そのためにも形としてクーリング・オフの通知ハガキを受け取ったという事実が必要なのやと説いた。そのために、店がその代行をするのやとも。

「何か知らんが、あんたのとこも大変なんやな」

そう言ってタナカは理解を示してくれた。

公に入店拒否ができないのなら、こうするしかないと考えスズキ新聞販売店では、クーリング・オフの通知ハガキを客に代わって出しているのやと言う。

このやり方には賛否両論あるやろうが、今のところ、これしか方法がないと言う。

ただ、タナカのように揉めた客に対しては、色分けをして、そんな拡張員を行かせないことはできる。

そうして、少しずつ、連中の稼働域を狭めることしか販売店側に取れる手段はないと。

結局のところ、S団のオオサキのような連中は、自分で自分の首を絞めているだけなんやが、哀しいかな奴らには、それが分からんのやろうな。



参考ページ

注1.第137回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■警察の民事不介入の是非について Part2 不良拡張員の場合』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-137.html


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