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第444回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2016.12. 9


■新聞販売店の副業 その2 宅配サービス事業について


『第442回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店の副業 その1 基本的な考え方と心得について』(注1.巻末参考ページ参照)で言うたように、今回から新聞販売店の副業の種類について個別に検証してみたいと思う。

新聞販売店の副業には『宅配サービス』系のものが多いようやから、まず今回はそれからやな。

新聞配達そのものが、『宅配サービス』やから手をつけやすいのやろうが、どんな仕事でも新たに参入するとなると、それなりに難しいものがあるというのは最初に言うておく。

それでは始めさせて頂く。


新聞販売店のできる副業としての宅配サービス事業について


1.既存の宅配便業者との提携について

一般的に『宅配サービス』と言えば、荷主からの依頼で届け先の住所まで、配達する『宅急便』が有名や。扱う商品は食料品から日用雑貨、書籍、CD、DVDなど実に多岐に渡る。

それらを地域の新聞販売店に持ち込み、地域を熟知している配達員が配れば可能なことのように一見思える。

しかし、現時点で新聞販売店が今から、その事業に参入するのは、かなり難しいやろうと思う。あまりにも遅すぎたと。

今から20数年前の初期の頃、一部の宅急便業者が新聞販売店の宅配網を利用したくて新聞社に話を持ちかけたこともあったと聞くが、その頃は今とは違い、新聞業界は新聞販売だけで十分やれたさかい、検討すらすることなく断っている。

具体的には、全国2万店舗以上に及ぶ新聞販売店を中継所として使えば、離島や僻地を含む、ほぼすべての地域を網羅できるということで、その話を幾つかの新聞社、新聞販売店に持ちかけたとのことや。

もともと新聞社は、新聞販売店の副業は禁止というスタンスやったし、新聞販売店にしても新聞社に睨まれてまで、やるほどの価値を見い出せてなかったのやろうと思う。

タラレバの話になるが、もし、新聞販売店が初期のうちに宅配便業界に参画していれば今とは違う形態になっていたはずや。宅配便業界、新聞業界ともに潤っていた可能性が高い。

宅配便業者の多くは運送会社が始めたものが多い。

運送会社は、都市から都市、町から町へといった特定の場所からの大量運搬は得意やが、個人宅への宅配ということになると、JP(日本郵便)に比べ、いろいろな面で劣っていた。

JP(日本郵便)の配達員の総数は約40万人と推定されている。その一人一人が、住所を一瞥するだけで簡単に目的の場所に辿り着け郵便物を配達することができる。

もっと言えば、何々町の誰某(だれそれ)と名前を書いているだけでも郵便物を届けられるほど、それぞれの地域に密着している配達員が多いと言われている。

実際、差出人の名前の住所が違っていた場合、正しい住所を書き換える郵便局の担当者もいるくらいやさかいな。それで目的の人物に郵便物が配達されることも珍しくない。

それと匹敵できる配達員を確保できなければ、当然やが、JP(日本郵便)に個別配達で太刀打ちできない。

その点、新聞販売店なら、検討されていた時期には全国に約45万人ほどの配達員がいたし、地域に密着している度合いもJP(日本郵便)の配達員に匹敵、もしくは凌駕していたくらいやから申し分ない。

もし、初期の段階で運送会社と新聞社が手を結んでいれば、今よりも、もっと早い段階で宅配事業は格段の進化を遂げていたやろうと思う。

運送会社は、宅配のノウハウに加え、中継地点の確保に困ることもなかったさかいな。

それは、ちょうど、戦後間もない頃、新聞各社は極度の経営難に陥っていて、新聞を普及させるための営業員を大勢雇うことができず、暴力団組織を利用して拡張団を結成させたのと、よく似た構図やったと思う。

それが良い事か悪い事かに関係なく、自らに力がなければ、力のあるものを利用すれば良いという発想や。

必要に迫られた故の知恵を振り絞った結果という側面もあったやろうが、昔の新聞社には、それができた。

しかし、新聞社は同じ苦境にあった運送会社との提携を拒んだ。

まあ、その20数年後に、現在のような衰退の危機に新聞業界が陥る日が迫って来ようとは夢にも考えてなかったからやろうがな。

新聞の隆盛がいつまでも続くと思うていたんやろうな。何でもそうやが、ええことも悪いことも長続きするもんやない。

盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)。隆盛を誇ったものは必ず衰退していく。それが世の常という意味の昔から言い伝えられてきた故事成語や。

問題は、その隆盛時に将来衰退することを予想して如何に、その時に備えられることができるかなんやが、哀しいかな、新聞業界には、そう考えることのできる人間がいなかった。

もっとも、そんな先見の明を持った人間は、新聞業界に限らず世間一般にも少ないがな。

たいていは、現在の状態が、この先も永遠に続くものと信じて生きている。確実に衰退しているとは知らずに。

そして、それと気づいた時には、時すでに遅しとなっているわけや。今の新聞業界のように。

つまり、何が言いたいのかというと、事ここに至っては、現在の大手宅配業者と手を結ぶのは難しいさかい、その線での副業は除外せざるを得ないということや。

その後、宅配業者は運転手の増員に成功し確固たる地位を築いた。その実力は、最早、新聞販売店やJP(日本郵便)を凌駕するに至っていると言うても過言やないと思う。

つい、数年前には、新聞配達業務にまで手を出そうとしていた宅配業者がいたくらいやさかいな。

まあ、さすがに、それは実現せんかったが、それくらい現在の宅配業界は実力を持っているということや。

今更、新聞販売店の宅配網には、さほどの興味はないと考えられる。

新聞販売店にしても、過当競争とも言える宅配便業界に参入しても大して収益を挙げられるとは考えられず、配達員の負担ばかりが増して、結局は更に人材離れが進行するだけにしかならんやろうと思う。

また、新聞配達員はバイクでの配達が主体やから、運べる荷物に限りもあるし、それを補うために新たに車を何台も購入せなあかんとなると、その費用もバカにならんわな。

結果、新聞販売店にとって、既存の宅配便業者と提携するメリットは殆どないということになる。


2.食材宅配サービスについて

これについては、『第442回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店の副業 その1 基本的な考え方と心得について』(注1.巻末参考ページ参照)の中でも話した『東京都内9区、160の企業へ新鮮野菜を配達する健康支援サービス「OFFICE DE YASAI」との業務提携』というのがある。

「OFFICE DE YASAI」というのは、「株式会社 KOMPEITO」がやっている顧客企業への野菜や果物の配送を行っているサービスのことで、これを朝刊配達と夕刊配達の間の空き時間を利用し、商品の配達と回収、注文をA新聞系販売店各社に委託しようという意図で始められた試みや。

食材配送サービスというのは、共働きの家庭や高齢者世帯、独身者などから結構需要が多いと聞く。そのため、類似した業者が近年、増加傾向にあるようや。

これには、必要な食材をカタログやネットで注文するだけで自宅にまで宅配され、わざわざスーパーなどに行かなくても済むというメリットがある。

また、届けられる食材にはメニュー別に仕分けられたものがあり、調理直前までの下ごしらえが終わっているケースも多く、料理時間がかなり短縮できるので、時間の取れない人からすれば有り難いサービスということになる。

加えて、料理の苦手な人、初心者向けに簡単にできる調理レシピもついているという。しかも、それぞれのメニューには栄養バランスやカロリーなど考えられていると。

宅配方法は手渡し以外に、留守の場合は保冷ボックスが用意されていて、その中に入れておくシステムになっている。

もちろん、良いことばかりではなく、デメリットもある。

運営会社によっては、入会金や配達料が必要になる場合が少なくない。食材自体もスーパーなどに比べて割高になることが多い。

食材は事前に注文が必要で物によれば取り寄せに時間がかかる場合がある。当日のキャンセルは基本的にできない仕組みになっているため、急に不必要となっても購入しなければいけない。

カタログを見ての注文になるので、実際に届けられた物が思っていたものとは違うというケースも起こり得る。

あるいは、注文時には食べたいと思っていた食材が、時間が経って届けられた時には、それほどでもないと感じることもあるやろう。

そのため、それらのことが原因で顧客とトラブルになり、揉めることも考えられる。

また、食品を扱うため食品衛生法上の資格と届け出が必要やさかい、それらがクリアされていて、トラブルの対処に長けた運営会社のフランチャイズ店として参加した方が無難やろうな。

その点、「OFFICE DE YASAI」は、どうなのかと言われると、正直、それに参画しているという人からの情報がないさかい、ワシの口からは何とも言えん。

「OFFICE DE YASAI」については、ネットで紹介(注2.巻末参考ページ参照)されているので、参画を希望する新聞社、または新聞販売店から直接、「OFFICE DE YASAI」に問い合わせて欲しいと思う。

ただ、「OFFICE DE YASAI」が責任を持って対応するということであっても、客は目の前の配達員に文句を言うものと相場が決まっているので、新聞販売店の配達員としては、それなりのトラブル対処法をマスターしとく必要があるとは思うがな。


3.弁当の宅配サービスについて

弁当の宅配サービス業者は昔から多い。近年では、特に高齢者への需要が増しているようや。

現在、新聞販売店の顧客の7割以上が高齢者と言われているさかい、客層という点では魅力のある業種と言える。客の確保、開拓に、それほど力を入れんでもええさかいな。

『第117回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店による高齢者見守りサービスへの取り組みと、その問題点』(注3.巻末参考ページ参照)で取り上げたサービスの延長という風に捉えることもできる。

高齢者見守りサービスに力を入れている販売店ならメリットが高そうや。

他にもメリットとして、配達時間が、ほぼ一定している。専用のボックスを取り付ければバイクでも配達は可能。顧客さえ確保できれば立地は関係ない。少ないスペースでもできる。

弁当の宅配サービスについても食品衛生法上の資格と届け出が必要やさかい、それらをクリアした業者のフランチャイズ店、中継店として参加する方が経費も安く済み、賢いと個人的には思う。

業者の中には『「0円開業ができる宅配フランチャイズ』と謳ったものが結構多いから、そういうのを利用すれば初期費用は抑えられる。

ただ、弁当の宅配サービスには大きな懸念がある。

「OFFICE DE YASAI」のように調理前の食材については、それほど心配することはないやろうが、弁当となると食中毒の問題が発生する可能性が否定できんというのが、それや。

食中毒が発生した場合、いくらフランチャイズ店、中継店であっても法律的な面はともかく、道義的な責任を逃れることは難しいやろうし、それによる信用失墜ということも考えに入れておかなあかんわな。

そうなると、本職の新聞販売業務そのものも危うくなるかも知れんさかい、やるのなら、その覚悟も必要になる。


4.代行買い出しサービス

これも高齢者相手の副業で、地方や僻地では重宝されとるサービスや。新聞販売店関係者で、これはどうかと考えられる人も多いと聞く。

確かに、これも弁当の宅配サービスと同じで上手くやれば高齢者の顧客を確保することができるやろうと思う。

ただ、これについては、最近ではスーパーや生協などでも電話やネットで1回の依頼につき(95円〜200円)、あるいは介護保険の使える高齢者であればヘルパーに頼めば1回198円という低価格で配達をしてくれるというサービスがある。

シルバー人材センターに頼めば、1回500円でやってくれるとのことや。

これに新聞販売店の副業として参入するのは不可能やないかも知れんが、従業員のコンセンサス(同意・受容)を得て、採算ベースに乗せるのは難しいやろうと思う。

当然のことながら、新聞販売店として利益を出そうと思えば、実際に買い出し代行をすることになる従業員への報酬を抑えなあかん。

また、買い出し代行サービスを依頼する利用者の方も1回の依頼でなるべく多くの品物を注文しようとするやろうから、顧客の確保やそれにかかる時間や経費を考えても割に合う仕事とは言えんのやないかと思う。

さらに言えば、高齢者をターゲットにした場合、聞き違いや勘違い、記憶違いでのトラブルが増えそうや。

顧客の中に、認知症、あるいは、その予備軍といった人たちがいることを考えれば、トラブルはさらに広がる気がする。

新聞販売店が、これをするのはリスクが高すぎると個人的には考える。

あくまでも顧客確保の無料サービスにしといた方が無難やないのかなと。


現在、考えられる新聞販売店の副業としての宅配サービスは、こんなところやが、それぞれで解説したように一長一短があるさかい、慎重に検討するべきやろうな。



参考ページ

注1.第442回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店の副業 その1 基本的な考え方と心得について
http://melma.com/backnumber_174785_6452943/

注2.オフィス向け置き野菜サービスの「OFFICE DE YASAI」
http://thebridge.jp/2016/04/office-de-yasai-asahi-shimbun-asa-partnership

注3.第117回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店による高齢者見守りサービスへの取り組みと、その問題点
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-117.html


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