ゲンさんの勧誘・拡張営業講座
第1章 新聞営業の基本的な考え方
法律・規則編
その6 特定商取引に関する法律・クーリングオフについての考え方
特定商取引に関する法律。何か聞き慣れん法律やが、これは、訪問販売法の改正されたもんや。2004年6月1日から施行されとる、新しい法律や。
ワシら拡張員が、一番、気をつけなあかんのは、この法律の第9条、訪問販売における契約の申込みの撤回等というやつや。
クーリングオフと言えばすぐ分かるやろ。クーリングオフとは頭を冷やして考え直すという意味がある。
一定の期間内やったら、理由の有無を問わず、またその理由を知らせることもなく消費者側から一方的に契約の解除が出来るという法律や。水戸黄門の印籠みたいなもんや。これが目に入らぬか、で終わりやからな。
新聞契約の場合、契約日から8日間がその一定期間内ということになる。これは、文書での通知やないとその効力がないとされとる。内容証明郵便か、配達証明郵便でということや。この方法はインターネットで検索すれば、すぐ分かる。
この一定期間内の8日間というのは、この間に相手側の業者、新聞販売所に届くまでの期間ということやない。郵便局に配達依頼をした日が8日間の間やったらええということや。
但し、これは、客が販売所に出向いて購読契約をするとか、電話で勧誘員を呼び寄せて契約をするというような積極的な契約の申し込みの場合は除外される。まあ、こんな場合、ほとんどの客からはそんなことは言わんやろけどな。
ただ、この規定がないと、悪意のある客のやりたい放題になる。何かの理由で恨みに思う者が嫌がらせのつもりで、その販売所か拡張員を呼び寄せ、契約をしてクーリングオフするということも考えられるからな。
民法の原則では、消費者が商品を使用したり、サービスを受けとれば、その分の利益を得とるわけやから、それを金銭に換算して返還せんとあかんことになっとる。
しかし、この法律のクーリングオフでは、消費者が商品を使用したり、サービスを受けたことにより利益を得たという場合でも、業者はその利益の返還を請求することが出来んとされとる。
これを盾に、クーリングオフで契約の解除をした場合、勧誘時に貰うたビール券や洗剤は返さんでもええと解釈する人間がおる。インターネットの法律サイトの一部でも、そのように判断して教えとる所もある。
事実、それを真に受けたかどうかは知らんが、貰うたもんなんか返せるか、と言い出した客を一人やけど知っとる。当然、販売所や拡張員は文句を言うて揉めとる。
こういうことが、『法律・規則編 その1 法律・規則についての考え方』の所で説明した法律の解釈の違いになると言うことや。
しかし、ワシが拡張員やから言うというわけでもないけど、その考えはどう見てもおかしいと思う。
拡材の景品は、ほとんどの場合、新聞購読をすることの条件なわけやからな。クーリングオフは消費者の権利やから行使するのはええ。せやけど、それで貰うたもんは返さなあかんと思うがな。
それに、本当にその法律が拡材の返還をせんでもええと認めるのなら、同じ条文に、消費者が商品等を受け取っている場合には、その返還に要する費用は業者が負担することになっているとあるのはどう説明するんやろ。
返す必要のない物の返還費用なんか規定することもないやろと思う。まあ、これも、最終的には裁判所の裁判官が判断することになるんやろけどな。ワシみたいな、ただの拡張員が何を言うても、それほど説得力もないしな。
ワシから一言、言わせて貰えれば、このクーリングオフ制度は新聞業界でも浸透しとるから、ほとんどの新聞販売店でも、電話1本でそのことを告げたら、それで終わるはずや。販売店が何ぼ頑張っても仕方がないのは良う知っとるからな。
Q&A NO.24 の人の相談でもあったが、間違って貰うた洗剤の一つを使ったらしい。このことも、正直に販売所に言えば、ほとんどのの所は、そんなものは良いですよ、と対応するはずやとアドバイスした。
せやけど、中には対応の悪い販売所があるかも知れんから、その時は、内容証明を出すなりして対応しても遅うないとも言うた。
何でもそうやけど、穏便に済むのならそうした方がええ。争うのはいつでも出来るからな。
拡張員も、この制度は皆知っとるやろうけど、こういうこともあると常に考えとらんとあかん。その時は、気持ちよく契約してくれたと思うてても、クリーリングオフやと言われることはある。
何でや、と思うてもしゃあない。この法律ではその理由さえ、明かさんでもええんやからな。気にいらん。考えが変わった。これだけの理由で十分なんや。
理不尽なと思うかも知れんけど、そう思うて相手の客に問い詰めに行ってもあかん。下手に問い詰めると脅迫ということになる。こういう行為に及ぶ客はまず翻意することはないから諦めなしゃあない。
こういう場合の客は、何とかその場を凌ぐために契約したというのが多い。拡張員に面と向かって断れんのや。拡張員がしつこい、怖いという理由でな。
このクーリングオフの制度は、そういう消費者を救済するために出来た法律なんや。海千山千の拡張員に無理矢理契約させられる客も確かにおるからな。その救済に、一方的に契約解除出来ることになっとるというわけや。
言えば、行き過ぎた営業がこの法律を生んだということや。強引なことをすれば、これからもこういう法律は増え、自分で自分の首を絞める結果になるということを知ってた方がええ。
もう、耳にタコやろうけど、客に嫌な思いをさせへんかったら、すべて丸く収まるということや。
補足
特定商取法 第6条第3項に、契約した客がクーリングオフを申し出ているのに、それを防ぐため脅したり威圧して困らせるような行為の禁止というのがある。
これで、逮捕ということになった販売店の店員がいとる。(Q&A NO.108参照)
これが適用されると罰則規定は2年以下の懲役・300万以下の罰金ということになる。
本件だけの初犯なら量刑なんて大したことはない。不起訴処分かせいぜい執行猶予付きで実刑で懲役になる可能性は少ない。
よほど、悪質か前科でもなければな。ただ、今は、社会全体がこういうことには厳しくなっとるから、安心はせん方がええ。
法律は一般法より特別法が優先する。あいまいな刑法を適用するより具体的に訪問販売の禁止行為を定めた特定商取法を適用するのは当局としてはもっともなことということになる。根拠がハッキリしないと逮捕状も出づらいということのようやからな。
以上のことは、当サイトの法律顧問 今村英治先生 からの助言や。