ゲンさんの勧誘・拡張営業講座
第1章 新聞営業の基本的な考え方
人間関係構築編
その1 特定少数に自分を売り込め
新聞営業は訪問販売になる。訪問により、特定の新聞の勧誘をする。
その際、拡材と呼ばれる景品やサービスで、新たな新聞の購読および乗り替えを依頼する。
口で言うのは簡単やが、それが難しい。営業という枠の中で他と比較しても、最も難しい部類に属すると思う。
売り込むものは、1ヶ月3000円〜4000円程度の訪問販売にすれば安い商品やが、客の大半は、すでにどこかの新聞を購読しとる場合が多く、インターネットの台頭などにより、ニーズや必要性に乏しく新規開拓が極めて困難な営業やと言える。
拡張員と呼ばれる営業勧誘員の風評が最悪なのも、その要因の一つとして挙げられる。拡張員が来たというだけで、毛嫌いされることも多いさかいな。
世間はレッテルでその人間を評価する。ゲンが拡張員をしてるというのやなしに、拡張員のゲンなわけや。つまり、今、何を生業としているかによってその人間の評価が決まる。
拡張員は世間から嫌われ蔑まされとるということを、まず認識しとかんとあかん。それは、この仕事をどんな事情からにせよ自ら選んだ以上、仕方のないことやと。
いくら、ワシは何も悪いことなんかしてへんでと言うても、現実にえぐいことをする拡張員がいてるのは事実なんやからな。世間は悪い拡張員もいてるとはなかなか思わん。拡張員が悪いと考えるのが普通なんや。
それでも、拡張員が職業として成り立つのは、例え100人中99人に嫌われたとしても、残り1人が聞く耳を持って契約してくれれば、それで拡張員は生きていけるからや。
拡張員は1日に最低1本のカード(契約)さえ上げられれば、メシだけは食うていける。ワシの言う、メシの意味はそのままで、普通のまともな生活が送れるという意味やない。
新聞営業は不特定多数を考えるよりも特定少数の客だけを相手に仕事するように心がける方が結果的に上手くいきやすい。その心がけ次第で、メシの種となる客が現れる。
もの欲しそうな人間がそうやが、そう言うと語弊がありそうやから、損をしたない人間と言い換える。得をしたいという人間に置き換えてもええ。
せやけど、こういう人間は特定少数と言うには、かなり多く存在しとると思う。ここ数年の不景気続きで、少しでも得をしたいという人間は確実に増えとる。潜在的な者も含めるとかなりいてるはずや。
拡張員にさえ、問題がなければ、そうしたいという人間は多いと思う。拡張員を毛嫌いする人間がいてる一方で、拡張員でなければ受けられんサービスに期待する人間もかなりな数存在するさかいな。
ワシらの勧誘に気持ち良く応じてくれるのは、ほとんどが、こういうタイプの人間や。中には、洗剤なんか一切買わずに、拡張員の拡材で賄う者もおるくらいやという。新聞の銘柄にさえ拘らんかったら、かなりおいしい思いが出来るということを知っとる。
この手の客を上手く確保するように心がけることが肝心や。そうは言うても、慣れん内はなかなか、この客を確保するのは難しいがな。
相手を見抜くには、相当の経験がいるし、例え見抜いても、必ず落とせるとは限らんからな。
相性の問題が浮上する。ワシらも客もお互いに人間同士やから、好き嫌い、気が合う合わんということが起きる。
ナンボ、ええ商品やと思えるような物を売り込みに来ても、気にいらんセールスマンからは買いたくないいうのと同じや。
せやから、相性のことも考慮せんとあかん。ということは、相手の性格を知ることが重要になる。相手の性格を知れば、自分と合うかどうか見当つくし、相手に合わせる方法も考えることが出来るさかいな。
経験が必要やと言うたが、ただ長くやればええというもんでもない。常にいろんなことを意識する必要がある。
例えば、同じ断られるにしても、その人間の人相風体、ちょっとした仕草、ドアホンキックなら言葉遣いや年齢の見当、住まいの状態など、どんな些細なことであろうと、あらゆることを観察しとくことや。
それが、経験とともに生きてくる。不思議なもので、その経験、場数を踏むと、客と僅かな接触をするだけで、この客はいけるか、あかんかという判断がつく。
そして、ワシは自慢するわけやないが、その家の前に立つだけで、その家の住人が客になるかどうかがほぼ分かる。
それは、経験の積み重ねによる勘やと言うてしまえば、それまでのことかも知れんが、ワシは少なくとも、客を知るということを常に心がけて来たからやと思うてる。
どんなことでもそうやけど、知りたいと強く願えば知りたい情報が必ず見えてくるもんなんや。ただ、仕事をこなすだけではあかん。
それと、自分を知るということが大切や。自分のタイプやキャラクターを客観的に見ることや。自分で、客観的に見ることが難しければ他人に聞けばええ。
よいしょする奴はあかんで。ええことしか言わんからな。なるべく立場が上の者か、年上の人間に聞く方がええ。何を言われても腹の立たん相手やな。
そうすることで、自分がどういう営業に向いているのかが分かる。
何ぼええ営業法があっても、自分に向かなんだら大した成果は期待出来ん。人が成功したからというて、同じやり方で自分が成功するとは限らん。
当たり前のことやけど、成功した人間と自分とは違うからな。
新聞営業の場合、売り込む新聞自体にそれほどの違いはない。大きなニュースとか話題のニュースはどの新聞にも載るさかいな。
厳密に言えば、新聞各社でそのニュースの扱いは微妙に違うんやが、一般にはそれは良う分からんし、関心もそれほど持たん。差別化が出来てないのが現状やと思う。
新聞の良さを売り込んでも、残念なことやが、ただ徒労なだけや。ほとんどの人間が聞く耳を持たんさかいな。
それに、新聞営業のプロである拡張員が、新聞の良さを訴えても、どこか嘘臭く聞こえるから不思議や。
新聞勧誘は新聞を売り込むな。それよりも、自分を売り込め。これが、ワシの考えや。ワシの究極の目標は「あんたに頼まれたらしゃあないな」と客に思わせることや。断るまでもないが、脅かしてそう思わせたらあかんで。