ゲンさんの勧誘・拡張営業講座
第2章 新聞営業の実践についての考え方
拡張トーク編
その2 お世辞トークについての考え方
お世辞というと日本人には何となく、ええ印象が少ない。
しかし、営業の世界ではこれを抜きには語れんというほど重要なもんなんや。お世辞の一つも言えんというのでは営業は難しい。
例えそれが、歯の浮くようなお世辞であろうと、明らかによいしょで持ち上げられとると分かるようなことであろうとも、人間、言われて悪い気はせんもんや。それは、相手がそれを言うことの裏には、喜ばせようという気持ちが感じられるからやと思う。
もっとも、あまり行き過ぎるお世辞は、相手を警戒させ、気分を害するおそれもあるがな。それでも、何も言わんよりかはましやと思う。
営業でこの心理を利用せん手はない。というより営業的な考えから、お世辞は生まれたとも言える。
営業は自分を売り込むことが肝心やというのが、ワシの持論や。売り込むためには、その相手に気に入られたいと願う。その思いがお世辞となって口から出る。それは、おそらく人間の社会が確立した太古の昔から存在したことやと思う。
自分を売り込むことが営業。そう思えば誰でも自然にその売り込む相手にお世辞の一つも出るはずや。また、そのお世辞というのは、自分の身を守るためにも有効やという側面もある。
営業の考え方は、客に向けてだけやなく、上司、とりわけ拡張員の場合やと班長や団長、販売所の所長なんかに向けても自分の立場を有利にすることにも役立つ。その方法はきわめて簡単や。たいていはお世辞の一つも言えばそうなることが多い。
せやから、昔からお世辞は処世術としても重要やったわけや。時の権力者を怒らせたら命の保証もなかったわけやからな。自分の身を守るためには、お世辞を言わなあかん場面もあるということや。
まあ、そこまで切羽詰まった考え方をせんでもええけど、少なくてもお世辞を言うことに対して卑下する必要はないし、恥ずかしがる必要はないと思う。
営業手段の一つで、そうすることで利益を得られるものと割り切ることや。
そんなことは、当たり前のことやと言う人は、この項目は合格や。そう言う人は、ワシが、一々細かく言わんでも、すでにそれを実践しているはずやしな。改めて説明するまでもないやろと思う。
ここから先は、お世辞を言うのは苦手やと言う人に見て欲しい。特に、お世辞の使い方が分からんというタイプの人にな。
何でもそうやけど、難しく考えると何でもそうなる。実直な人間にこういうのが多い。もちろん、これはこれで悪いことやない。実直な人間を好む者も世の中には多いからな。そのキャラクターは大事にした方がええと思う。
実直な人間は「奥さんみたいな美しい人には会ったことがない」とか「ご主人はただ者じゃありませんね、何をなさっているんですか」と言うような、取ってつけたようなお世辞は良う言えんやろと思う。
そんな人は、さりげなく誉めるということを考えたらええ。その気になったら誉めることはいくらでも見つかるはずや。
玄関に入ったら「いい匂いですね」とさりげなく言う。大抵の家は、玄関口とトイレの臭いには気を使っている所が多いから、このトークは結構生きる。相手が主婦なら尚更や。
「それ○○なんですよ」と消臭剤のメーカーを言うとすると、すかさず「この臭い、私は好きなんですよ」と間髪入れずに言う。
実直そうなタイプやったら、かなりの好印象を与えられると思う。少なくとも、後の話がしやすい雰囲気にはなる。
お世辞というのは、何もその相手を直接おだてる必要はない。この場合のように玄関口だけでも他に、下駄箱の上の花瓶やその中の花、置物、壁掛けの絵などのように、その対象はいくらでもある。
玄関口は、その家の顔で大抵の人間は気を使う場所や。そこにあるものを、さりげなく誉めるという癖をつけといて損はない。これなら、お世辞が下手やと思うてる人間でも出来るやろ。
ワシの経験でも、何気なく誉めた花が、実はその家の人にとっては思い出深いもんやということがあった。
そんな場合、その人はその話をしたがってる場合が多いから、こちらは黙ってその客の話を聞くようにしたらええ。話すばかりが営業やない。客の話を聞くのも立派な営業や。
その他にも、壁の絵がその家の家人の作やったり、有名人から貰ったものやったり、そこそこ高価なものやという場合も結構ある。置物のような飾り物にしてもそうや。
そういう場合、それをさりげなく誉められたら誰でも悪い気はせんはずや。それだけで、話もしやすくなると思う。
もう、分かったと思うが、お世辞を言おうと思うたら、何事も注意深く観察せんとあかんということや。そのお世辞に相手が反応するようになったら、一歩前進や。
それに、そういうことを繰り返してたら、自然といろいろなものに対して造詣も深まる。ちょっとした物知りやな。そうなればまたお世辞トークにも磨きがかかってくると思う。
せやから、何度も言うように、無理にお世辞を言おうと構えんでもええ。そんなことをすれば慣れてない実直な人間やと、かえってぎこちなくなるからマイナスや。
さりげなくということを心がけといたらええ。慣れれば、自分でも不思議やなと思えるくらい、お世辞が言えてるもんや。