ゲンさんの勧誘・拡張営業講座

第2章 新聞営業の実践についての考え方

拡張トーク編 


その5 拡材トークについての考え方


これは、今更、説明せんでも、拡張員を始めた者は、その日からでも、このトークを使うてるはずや。

拡張の仕事を教える方も、これを教えておけばてっとり早いと言うんで大抵はこれだけ教える。

しかし、そのてっとり早いということが、多くの拡張員に、これに頼り切った勧誘に陥らせる原因ともなっとる。しかも、心得違いのトークをな。

新聞の勧誘は、拡材を示すことやと思い込んどる。それしか、教えて貰うてないから無理もないんやがな。拡材が多いほど成約しやすいと考える。

しかし、このコーナーをここまで、読み続けてきた人は、そんなことはないというのは良う分かったと思うけどな。

確かに、新聞勧誘において拡材の存在は大きい。それは否定せん。しかし、それだけが勧誘やないのも事実や。拡材による勧誘の営業も一つの手段やという風に捉えといてほしい。

拡材に関しては、人それぞれ、オリジナルなトークがあると思う。それらをすべて解説してたら大変やから、ここでは、ワシの拡材についてのオリジナルトークの一つを説明する。

今までは、客との接し方のようなものやったが、契約の決めはやはり、この拡材というものが左右する場合が多い。

例えば「あんたは気に入ったんやが、他社は、もうちょっと、拡材を出す言うてるんやけど……」と言うような客の場合、拡材の提示がやはり決め手になる。

しかし、この対応も相手によって違ってくる。客も駆け引きで言うてる場合がある。特に他店が余分に出すと言う客からの話の場合、その話はあてにはならんと思うてた方がええ。

ちょっと、考えたら分かることやけど、本当に、その拡材を多く出すという他店の人間が勧誘に来てるのやったら、その時点で、その勧誘員と契約していることの方が多いと思う。

自分にその立場を置き換えたら簡単に分かる。そんな客を前にして「それでは、後日」などと言って引き下がる勧誘員がどれだけおるやろか。大抵は、その場で、少々無理してでも決めてしまおうと考えるはずや。

引っ越して来て間もない場合なんかで、その地域のことがまだ良う分からんと言うのなら、他の販売店、新聞勧誘の話を聞きたいという心理は分からんでもないが、そうではなく、長いことそこに住んどれば大抵の情報は、その客も知ってるはずや。

特に、そういうことを言い出す人間はな。もちろん、それが、駆け引きやと分かっても、客に「あんた、それ、駆け引きで言うてんねやろ」とは言わん方がええ。

その場合は、駆け引きには、駆け引きで応じる。交渉事のイロハや。営業の第一義は、いかに有利な条件で、そのものを売り込むかやからな。

利益を得るために営業はするもんや。損をする商売は、それ自体、商売とは言えん。それが、良う分かっとらん勧誘員がおるから、客に多くの拡材を渡そうとする。

販売所から提示された拡材の上限はあくまでも上限なわけや。許された範囲内やけど、それをすべて使えという販売所は、おそらくどこにもないはずや。

むしろ、それ以下で押さえた方が圧倒的に、販売所からは喜ばれる。客にしても、貰ったものが最高のサービスやとは誰も考えん。

しかも、客の要望を聞くために、自腹を切ってまでサービスしたとしても、それは、拡張員の自己負担でのサービスやとは誰も考えん。もっと、儲けとるはずやから、もっと、寄越せとなる。

それが、極、たまにあることなら仕方ない場合も考えられるが、そういうことをする人間は、総てでそうしてる場合が多い。

はっきり言うけど、こんなことをしても何のメリットもない。勧誘員が自腹を切って損をして誰が喜ぶと思う?

拡材を多く寄越せと言う客は、相手の拡張員は誰でもええわけや。拡材さえ余分に貰えたらな。こういう客に、必要以上のサービスをしても何も生まん。

拡材を多く貰えるのは当たり前やと考えるくらいならまだええが、そういう人間は、その得したことを必ず他で吹聴する。「あそこの新聞店の勧誘員は拡材を要求したら何ぼでも寄越すで」とな。

つまり、他の所でも何度も言うたが、拡材をやり過ぎることでいらんトラブルを招く畏れがあるということや。ろくなことにならん。

度が過ぎると、販売所によれば出入り禁止を宣告されるし、そうでなくても、ええようには見てくれん。得する事は何もない。

ワシは、拡材の提示はまず低めに設定して交渉を始める。もっとも、それまでに客は、こっちのペースに引き込んどる必要があるがな。

例として、1年契約でビール券10枚、洗剤5箱、または、無代紙サービスが3ヶ月というのが、その販売所の拡材の上限やとして、その交渉を説明する。

ターゲットは主婦ということにする。

「仕方ないわね、もし、契約したとしたら、何を貰えますの?」

客がこういうことを言い出したら成約率が高いというのは誰でも分かる。しかし、この時、喜び勇んで拡材の奮発をすると、向こうのペースになる。

「契約期間にもよりますけど、6ヶ月ですと、ビール券3枚と洗剤2箱ですね。それか、1ヶ月の購読料無料のどちらかですね。1年ですと、ビール券6枚と洗剤4箱、それとも、2ヶ月分の無料サービスが決まりになってます」

「えっ、それだけしかないの?他はもっと、くれるて言うてましたよ」

これで、怯んだらあかん。この言葉を引き出すために、わざと控えめに提示したんやからな。

「奥さん、ご存知でしょうけど、この新聞業界も勧誘の取り締まりが厳しくなってまして……」

このとき、ポイントなのは、客に「知らないでしょう」とか「ご存じないかも知れませんが」という言葉はあまり使わん方がええということや。人によると馬鹿にされた気分になる者もいとる。例え、それが、本当に知らんことやとしてもな。

「ご存知でしょうけど」という言い回しは、相手の自尊心をくすぐることになる。それで「いえ、知りませんけど」と言う客も出て来るが、その場合は、こちらから言うた言葉やないから、気分を害することはまずない。

「新聞の勧誘には、ご存知のように『景品表示法』という法律で、6ヶ月分の購読料の8%相当の金額までの景品分しか、お客さんに対して、お渡しすることは出来ないんですよ」

これは、事実のとおり言う。本来、この法律は拡張員にとっては足かせとなるもんやが、ワシは、いつも、これを逆手に取るようにしとる。それに、事実を告げた上での交渉やから、引け目を感じずに済む。

「新聞代は、この辺りは統合版になりますから、1ヶ月、3007円になります。ですから、この場合ですと、6ヶ月、1年のいずれの契約でも、1443円分の景品しか、お渡し出来ない決まりになってますんで、先ほど、提示した景品分が精一杯なんですよ」

「そうなの?でも、それだと、1ヶ月分の無料サービスというのは、違反にならない?」

こういう、突っ込みを入れてくる客はすでに、こちらのペースに入っとる。読み通りというやつや。

「奥さん、鋭いですね。実はね、この無料サービスに関しては、この法律では大丈夫なのですよ」

これも事実や。無料サービスのみの場合は、法律的には「値引き」扱いになる。値引きに関しては、景品表示法には引っ掛からん。

その辺の詳しいことは『第1章 新聞営業の基本的な考え方 法律・規則編 その5 景品表示法についての考え方』で説明してるから見てくれたらええ。

「もっとも、新聞社は嫌がりますけどね。新聞社の建前は、値引きはなしですから」

「そうなの?だったら、無料サービスの方が得というわけ?」

これで、納得する客やったら、拡材なしの無料サービスで契約したらええ。販売所のほとんどが喜ぶはずや。

「でも、隣の奥さん、ビール券とか洗剤をたくさん貰ったと言ってたわよ」

こう、切り返してくる客は、拡材に未練がある。拡材を増やせば、ほぼ確実に成約となるが、すぐそれに応じては今までの話が、事実でも、事実のように思わん畏れがある。

そこで、その拡材を余分に貰ったと言う、その隣の奥さんという人の話を聞き出す。どこの店で貰ったのかが分かれば、そこのサービスがどの程度かは、ワシには良う分かる。

その拡張員が、規定以上の拡材を渡しているようやと、ちょっと、釘を刺すトークを使う。

「そうなんですか。それは、ちょっと、拙いですね。ひょっとすると、そのお店が手入れされるようなことにでもなったら、その奥さんにも、迷惑なことになるかも知れませんよ」

これも、事実や。公正取引委員会から手入れがあった場合、当然やが、その証拠固めのためにも、多めに拡材を貰ったという客に事情を聞く。

来るのは、役人なんやが、仕事の性格上、刑事か検事のような雰囲気の人間が多い。普通の主婦が、こういう人間と対面すると、自分が何か悪いことをしたのかと思い動揺する。

本当は、ただの事情聴取で大したことはないんやが、こんなことに慣れとる人間は少ないから怖いと思う。せやから、大抵は素直に全部喋る。

「あら、嫌だ。そうなの?」

「ええ、景品を必要以上に貰うと、そういう鬱陶(うっとう)しいことになる畏れはありますよ」

それも事実やが、せやからというて拡材を余分に貰うた人間が何かの罪になるかというと、何の罪にもならん。ただ、そうは言うても、気分的にはええもんやないわな。

「ですから、私はそんな危険なことは出来ませんけど、もうちょっとだけなら、差し障りのない範囲でサービスしますけど」

そう、持ち掛け、僅かに拡材の提示を上げるだけで、その客は安心して、契約に応じることになる確率が高くなる。客にして見れば、そういう話を聞かされた後だけに、かなり得した気分にもなる。

これで、分かったと思うが、他が拡材を出しているからとそれに合わせて、同じように競争するような真似をする必要はないということや。

もって行き方によれば、少ない拡材であっても、客は安心して契約することがある。それに、本当にそこで公正委員会の手入れがあったとしても、そのことに、注意した拡材の提示に気をつけていたら安全やからな。

余談やけど、客の中には、その公正委員会のモニターというのが、全国に1000名ほど紛れとる。

そういう所に、間違って行った場合、調子に乗って拡材を奮発してたら、きっちりと、そのことを報告される。

それで、その出入りの販売所が摘発されるようなことにでもなれば、当然やけど、その拡張員もただでは済まん。

拡材を渡しすぎた拡張員が、この法律で捕まることはないが、それよりも、この世界の仕組みの方が面倒になると思う。少なくとも、仕事は続けられんやろうと思う。

それに、ワシのように常に、そういうことを意識して拡張しとれば、安全やし、販売所や団からの受けも良うなる。そうすると、何かと便宜をも図って貰えるから、いろんな面で有利や。

拡材は、ただ渡せばええというもんやない、その渡し方がポイントや。基本的には、その販売所の指定しとる景品の上限以内で押さえることや。

万が一、それで、摘発を受けても、ワシらには預かり知らんことやと言えるしな。拡材のやりすぎは、ろくなことがないということを知っといた方がええと思う。


ご感想・ご意見・質問・相談・知りたい事等はこちら から


ゲンさんの勧誘・拡張営業講座 目次へ                        ホームへ