ゲンさんの勧誘・拡張営業講座
第2章 新聞営業の実践についての考え方
拡張トーク編
その6 脅しトークの考え方
勘違いせんといてほしいが、これは喝勧のそれとは違うからな。
『その5拡材トークの考え方』の所でも、ちょっと触れたけど、景品の渡し過ぎ、貰い過ぎは法律違反になるから、面倒なことになる畏れがありますよと言うのも、この脅しトークのうちに入る。
それは、重複するので、ここでは、それ以外の脅しトークについて説明する。もっとも、もう一度、この脅しトークという観点から見直すのもええかも知れんがな。
ここでの脅しトークは、客に「そうすると損をしますよ」と言う場合に使うと思うてたらええ。
例えば、長期購読者からの断りに対して使うような場合や。
「こんにちは。Y新聞です」
「ああ、うちは、A新聞を長いこと取ってるから、変えるつもりはないで」
「そう、なんですか。よほど、サービスがよろしいんでしょうね」
「うちは、サービスなんかで取ってるんやない」
こう言う客は、販売店からほとんど何も貰うてない所が多い。もっとも、ワシも最初からそうやと踏んだ所へそう言うて来てる。このトークのターゲットは、古くからの長期購読者なんやからな。
「またまた、うちは、A新聞さんには、かないませんよ。お客の取り合いになったら、いつも負けてばっかりで……。とにかく、ここらのA新聞さんのサービスはいいですからね」
「……」
当然やけど、客は、こんな話を聞かされて、ええ気はせん。特に何も実際に貰っとらん客はな。黙っとるのが、そのええ証拠や。その客が、話に乗って来るまで、その実例の話を、いくつかする。
ワシは、いつも、客には嫌な思いをさせたらあかんと常々言うとるけど、このケースだけは例外や。一端、嫌な気分にさせるのも、このトークの手や。
もっとも、嫌な気分と言うても、ワシ個人に対してやないけどな。
「例えば、どんな?」
すぐに、こう聞いて話に乗って来る客は、ほぼ落とせる。しかし、何度も言うが焦ったらあかん。
実際のサービスを言いながら、反応を見る。それで、こちらの言うことを、即座に信用する客は苦もなく乗り換えるということになるが、そういう客は少ない。
大抵は、その購読新聞に未練がある。読み慣れたというか、親しんだというものを簡単に代えることの出来んのが普通や。そのことを理解してなあかん。
「一度、販売所に、おっしゃってみてはどうですか?『近所の○○さんの所は、こんなサービスをしとるらしいけど、うちにはないのか』と」
「そんなことは、出来ん」
これも、ほぼお決まりの反応や。長期購読者というのは、確かに惰性という面もあるが、それ以上に、プライドも強い人間が多い。
「それなら、そうしてみるか」と言う客は、ほとんどおらん。そう言う客なら、ワシらにこんなことを言われんでも、とうにそうしとる。
「それでは、こうされては、どうです?一端、3ヶ月くらいの短期間、休止すると伝えるんです。それだけで、その後は、黙っていても、サービスをしてくれますよ」
「どういうことや?」
こうなれば、話は簡単や。「その3ヶ月、休止する間、こちらの新聞を取ってください」と言う。
どんな新聞販売店でも、客を取られて、ええ気はせん。この長期読者に対しては、拡材のサービスをしとらん販売店が多い。
それで、逃げられたと思う。当然、その販売店は、その客を取り返すためには、それ相当の拡材のサービスを提示するということや。
それに、これは単に「サービスが少ないから何か寄越せ」と交渉するよりも効果的や。
ここまで、説明すれば、納得する客が多い。しかし、この場合は、なるべくこちらも欲を出さんことや。話通り3ヶ月の契約でがまんする。
この時点では、まだ、客は購読中の新聞に対する思い入れが強い。それを、ぶち壊しにするようなトークはあかん。
「そんな、あたりまえのサービスもせんような新聞、止めときなはれ」という言い方をすると、大抵は「こっちの勝手や。放っといてくれ」となる。
あくまでも「お客さんの得になる話ですよ」ということを強調しとくことや。そうすることで、客の受けは確実良うなる。
新聞には未練は残っても、こちらの営業員としての人間性を買ってくれることもある。せやから、その3ヶ月の間に、勧誘する新聞がそれほど悪いとは思わんかったら、再度、その客から連絡が来ることがある。
「あんたとこの新聞に乗り換えることにする」と。しかし、こう言われても、ワシら拡張員にはそれほど有り難いことやない。
その客は、すでに現読なわけや。現読拡張禁止がワシらの大原則やからな。そのままやと、販売所の客になっても、この時点では、ワシらの客にはならん。過去の客でしかない。
その客にしても、ワシやからということで、そう言うてくれとるわけや。せやから、その客の所へ行き、正直にそのことを説明する。その後で、こちらの要望を伝える。
「以前の新聞店さんには、確か休止と言われてたはずですよね。だったら、約束通り、そうされたらどうですか。その方が、私の方もメリットがあるんですが……」
今度は、元の販売店と3ヶ月だけの契約を勧める。そして、その後、ワシの勧誘する新聞を3ヶ月取って貰うように話をする。
ワシのことを気に入って新聞を変えるという客は、ほとんどが納得してくれる。これから先、ずっと会うことも可能やからな。これで、交代読者が出来上がることになる。
一見、難攻不落そうに見える長期購読者が、ワシにとっては交代読者になりやすい客になる。実際に割合的にも多い。
こういう客の多くは損得でそう言うわけやないが、実は、新聞購読は、この3ヶ月周期での交代が一番、有利になり得する。
これは、長期購読の販売所からしたら、とんでもないことかも知れんが、今まで、拡材なしで何もしてないというのも、どうかと思う。長期購読者は店にとっては、本来、一番大事にせなあかん客のはずや。
ワシには、ある程度、そう出来ん事情というのは分かるが、客には理解出来ん。知れば、何でやと思う客も当然おる。
そうならんように、少しくらいは、やはり、サービスしといた方が、そういう客をくい止められるのやないかと思う。
これで、この脅しトークの意味が、大体、分かったと思うが、客の不信感を引き出し、不安を煽るような手法や。あまり誉められたやり方やないと思う者もおるかも知れん。
しかし、ルール違反ということでもない。ワシは、客さえ納得させられれば、無法なやり方以外は許されると思う。
ただ、確実性があるかというのは、その拡張員次第やから何とも言えん。今回の例で言えば、長期購読者が対象となるんやからな。
拡張員なら、誰でも知ってることやが、この長期購読者を翻意させるというのは、そう簡単なことやない。
したがって、ワシのこの手法が、良さそうやからと言うて、こればかりに固執して、カードが上がらんかったとしても、ワシは知らんからな。その可能性も十分にある。
ここでの、ワシのアドバイスやが、これは、その時の流れの中で、使えそうやったらそうしたらええというくらいに考えとくことや。
何でもそうやけど一つのことばかりに、こだわったら視野が狭くなる。この拡張トークでは便宜的に分類しとるだけで、実践の場ではそれは必要ないし、関係ない。
拡張の仕事は臨機応変を心がけることや。特にトークはな。