ゲンさんの勧誘・拡張営業講座

第2章 新聞営業の実践についての考え方

拡張トーク編 

その8 標的トークの考え方


標的トークというのは、ある特定の客層を狙った勧誘で使うトークのことや。客層のタイプ別の営業法は、また別の項目で説明するつもりやが、これは、それとは少しニュアンスが違う。

ピンポイントで狙うと思うてたらええ。ある地域のある日、ある特定の少数の客がその標的になる。いつでも可能な方法やない場合が多い。

分かりやすい例は『拡張員の1日』の中で、子供をターゲットにして映画の鑑賞券を拡材に勧誘することを紹介しとるが、それと同じようなものやと思うてくれたらええ。

そうは言うても、断っとくが、今は子供をターゲットにするようなことはせん方がええで。周知の通り、子供を狙った事件が多発しとることで、世間は警戒しとるからな。

何ほ、純粋に営業のためやと言うても、下手をすると不審者扱いで通報されかねん。「ワシは拡張員で勧誘目的や」と正直にそんなことを言うたら、それこそ、やぶ蛇や。

やっぱり不審者やちゅうなもんや。拡張員は、普通に勧誘しとるだけでも胡散臭く思われとるんやから、わざわざこんな時期にそうすることはないやろ。

「李下に冠を正さず」や。人に疑われるようなことはせん方がええ。それに、良う考えれば、狙う相手はどこにでもおるもんやからな。

これは、ワシが過去にしたことで効果のあった方法やが、今回は特別にその方法を教えよう。その方法をそのまま真似してもそこそこ効果はあるやろけど、肝心なのはその考え方を知ることやと言うことが分かってなあかん。

ワシが常に言うとる考え方を知ることで、自分で創意工夫することが、その人間の実になる。真似は所詮、真似でしかない。自分で頭を働かさな何も会得は出来ん。

ワシは、その日、ある住宅街で叩いとった。どこにでもある普通の住宅街や。そこで、妙なことに気づいた。

庭や軒先、ガレージの中なんかに古新聞や古雑誌を異常に溜め込んどる家が多い。1軒やそこらなら、たまたまそういうこともあるやろうが、そこら一帯の家を観察しとると、ほとんどがそうやった。

ワシはピンと来た。ここらは、古紙の回収に来とらんということがな。ワシは、昔、京都で古紙回収のちり紙交換のテツという男と組んで仕事をしたことがある。せやから、古紙のことには少しは詳しい。

何かの理由で、この辺り一帯の古紙回収が行われてない。ワシは、その理由を探るために、叩いた家にその事情を聞いた。

そして、分かった。この辺りは、ある個人業者が定期的に必ず回収に来てるということやった。

ところが、その回収をしとるという個人業者が、交通事故を起こして入院しとるということが分かった。その男は、その辺りの主な家に、必ず行くからそれまで待っていて欲しいと連絡を入れとるということやった。

地域の古紙回収も一応はしとるが、回収車の都合でこの辺りは一軒当たりの古紙を出す量を制限されとるらしい。その上、チラシの混入やら新聞のくくり方やらで、いろいろうるさく言われるから、その個人業者に出しとる家庭が多いということやった。

その個人業者は、ここらでは人気があるから、皆、文句も言わんと待っとるということやった。中には、1年でも待つという家もあったくらいや。

ワシは、これはいけると思うた。と言うても、いきなり、溜まった古新聞や古雑誌を処分するから新聞の契約をして下さいと言うてもあかん。

この標的トークで成功させようと思うたら、それなりの仕込みが必要や。

ワシは、ある客からその個人業者の連絡先を聞いてそこに電話した。すると、その業者はすでに退院していて、現在はリハビリ中やと言う。ワシは、その業者の自宅に行って、その業者と交渉した。

ワシは以前、古紙回収の経験がある。あんたの客の荷物を無償で回収したいと申し入れた。古紙回収業者間では回収物は荷物と言う。

トラックを借りるのとガソリンはその業者に入れて貰うが、集めた荷物は指定の古紙問屋に持って行く。問屋と回収業者は大抵、1ヶ月単位の伝票精算をしとるから、ワシが問屋から金を貰うことはない。業者のトラックを使うから、それは出来んということや。

業者のトラックを使うのは、ワシの方でもメリットはある。客を信用させられる。その業者の代理で回収すると触れ回るんやからな。

業者にすれば、あまりにも話が旨すぎると思う。ワシの申し出は、その業者の仕事をただ働きしようというのやからな。しかし、ワシの方でも儲けはあると伝える。そして、そのために少し協力もして欲しいと頼む。

ワシが行くから新聞を取ってくれとかと言うて頼むようなことやない。素人にそんなことを頼んでもうまく行かん。客にワシが行くことを伝えて貰うだけでええ。

「知り合いの新聞屋が行くのでよろしく」と言うて貰う。後はワシが客と話しして、客になると思うた人間を勧誘する。大抵の客は、ワシがそうすることを喜ぶから、通常のドアフォンキックなんかはない。

その時のトークのバリエーションはいろいろや。

「○○さんには、いつも、私共のお客さんの古紙を回収して頂いてお世話になってますので、こんな時くらいお返しせんとバチが当たります」

という具合や。善良な新聞店員を演じる。実際、善良やけどな。まあ、厳密に言うたら、騙しかも知れへんけど、ワシは、客に損をさせるとか嫌な思いをさせるのやなく、その客のためにもなることやったら、基本的に何を言うても許されるやろと思う。

客がどう受け取るかということに尽きるからな。ワシを善良な人間と思うてくれたら、話に乗って新聞の契約をしてくれることもある。

また、新聞を変える気のない人間でも、良う使う手やが、一時休止を依頼する。客が、ワシの人間性を評価してくれたら、大抵は、それを承知する。もちろん、無理強いはせんがな。

しかし、新聞が溜まってうっとうしいと思う人間は今回だけならしゃあない゜と考えやすいし、人助けをしとる姿を見ると人間はどうしても心が動きやすくなるもんや。ワシの場合は、実際にポーズだけやなしに、人助けにもなっとるしな。

加えて、拡材を貰えるということもプラスに作用する。二の足を踏む長期読者は、大抵、大したサービスは受けとらんから、こういう状況での勧誘には転びやすいということがある。

もう、分かったと思うが、これは、見せかけなわけやけど本当の人助けにもなっとるというわけや。

勧誘は、相手が転びやすい状況を作ってからすると効果的や。転びやすいという表現が嫌やったら、納得しやすい状況と考えたらええ。

相手のことを考えるという具体的なことがないとうまく行かん。利用しよう思う業者には、はっきりとした利を与え、客には利プラス満足感を与えることになる。

満足感は人助けの一端を担ったという思いがそれや。理想は、関わるすべて人間が笑顔になるということやな。

営業のヒントというのは、どんな所にもある。それに気付くかどうかで違いが出る。あるいは、その持って行き方次第でも、また違うことになる。

もっとも、どんな営業法でもそうやが、それをする人間が不安や疑問に思うようやったらせん方がええ。そういう気持ちが入るとまず失敗するからな。

ただ、こういう方法は、その場、その時だけの場合が多いということも認識しといた方がええ。冒頭で言うたように、ある地域のある日、ある特定の少数の客がその標的になるということや。逆に言えば、タイミングがずれたら成功はおぼつかんということもある。

しかし、狙いをつけた標的トークが嵌れば、そこそこの成果は期待出来る。そのためには、常に情報の網を張り巡らし、どんなことでも見逃さん癖を常日頃から身につけとくことが重要になる。


ご感想・ご意見・質問・相談・知りたい事等はこちら から


ゲンさんの勧誘・拡張営業講座 目次へ                         ホームへ