ゲンさんの勧誘・拡張営業講座
第2章 新聞営業の実践についての考え方
拡張トーク編
その10 呼び出しトークの考え方
これを一番、知りたがっとる営業員が多いが、玄関口に呼び出すことばかり考えてもあかん。下手な呼び出しは、相手によればトラブルになる。特に悪辣拡張員の手口と言われとる、嘘や騙しの呼び出しなんかがその最たるもんや。
そんな綺麗事を言うても、実際、ドアホンキックばっかりで客と会えなんだらどうもならんやないかという声が聞こえて来そうや。
確かに、地域により普通に「こんにちは。ごめん下さい。○○新聞です」と言うだけでは、全くと言うてええほど、相手にして貰えんということがある。
そういう地域に限って、嘘や騙しの呼び出しが横行しとるから尚更なんやけどな。せやから仕方ないとか、しゃあないと諦めとったら、仕事にならんわな。
こういう状況であっても考えればいくらでも方法はある。
何故、セールスの訪問で客は応対に出て来んのやろ。まず、それを考える。それを考える場合は、必ず、その客の立場に身を置く必要がある。
セールスそのものは無視するという人間がやはり圧倒的に多い。そういう人間がおるということを理解せなあかん。
理由は、過去にその勧誘員にえらい目に遭うたとか、気分を害したという直接的な理由を持っとるということが考えられる。
あるいは、忙しいから手が離せんという物理的な問題もある。出るに出られん状態というのも生活しとると誰にでも起きることや。
主婦なら、掃除、洗濯、食事支度などの家事をしとる時。また、親しい友人との長電話中。何かの趣味か娯楽、テレビやゲームのようなものに熱中しとる場合。パソコンをしとる時も出にくいわな。
また、浮気の真っ最中。入浴中やトイレで気張ってるような場合も、出るに出られんわな。
夜勤で寝とるか昼寝の真っ最中ということもある。人により単に面倒くさいということもあるし、いろいろや。
勧誘員が仕事で一軒づつ訪問しとると同じように、そこの住人も何かはしとる。せやから、客が断る、あるいは出て来んというのも別に特別なことでもないわけや。
しかし、多くの勧誘員はそれが理解出来ん。せっかく仕事で回っとんやから、話くらい聞けよという姿勢の人間が多い。そういう人間が、嘘や騙しの呼び出しを考える。
「お届け物です」「近所の者です」「古紙回収に来ました」等々、と言う。そのつもりで出たら、そこに、にやけた勧誘員がおる。
そういう状況を逆の立場で考えたら、誰でも腹が立つはずやというのは分かるやろ。腹の立てとる客に営業をかけて上手いこと行くことはほとんどない。
それを無理にでも、仕事にしようとするからトラブルことになる。一度でもそういうことを経験するとその客は勧誘員に対して最悪のイメージを抱く。それで評判が悪くなる。
評判が悪いと誰も相手をしたがらん。すると、そういう勧誘員は新たな呼び出しの手口を考える。また、客を怒らせる。悪循環や。その地域ではどうしようもなくなる。
何でそうなるのかというと、自分の手前勝手な立場しか考えん上に、すべてを客にしようと思うから、そういう無理な呼び出しをかけ、強引な勧誘をすることになるんや。
客にもいろいろおるし、その時の事情もそれぞれやと考えれば、応対に出て来る人間は少ないということが、理解出来るはずや。
その少ない客だけに誠意を込めて営業したらええ。その方が、嫌がる客を手当たり次第に勧誘するよりも、よほど効果的や。
営業は相手があって初めて成立する。その事が理解出来る者にしか、これから教える効果的な呼び出しトークに気付き実践するのは無理やろと思う。
「奥さん、雨が降って来ましたよ。洗濯物が濡れますよ」「お宅の洗濯物が風で飛んでましたよ」などという具合に、本当にそういう状況を知らせるというトークなら、客は嫌がることもなく礼を言う場合が多い。当然、営業もしやすい。
これは、それだけを狙っとってもあかん。何かないかという見方で探しててもそう簡単に見つかることやない。やはり、根底に、本当の親切心と相手を思いやる気持ちがないとな。
そういう気持ちを常に持ってるだけで、そういう状況は見逃さんし、客にもその勧誘員の人なり雰囲気なりが自然に伝わる。好印象に映るわけや。
誠意ある態度というのは、何も相手と相対しとる時にだけ必要というものやない。むしろ、誰も見てないような所でさりげない心遣いが出来る人間が、本当の誠意というのを身につけることが出来ると思う。それが、無形の雰囲気という形で人に伝わる。
人の嫌がることをせんというのが、初級の心構えなら、人に喜んで貰えることをするというのが中級の心構えになる。
そして、最上は人のためにということやが、営業でなかなかその境地は難しい。どうしても、営業というのは自分の仕事であり、利益を追求するものやからな。ただ、気持ちはそうあるべきやとは思う。