ゲンさんの勧誘・拡張営業講座
第1章 新聞営業の基本的な考え方
拡材編 その2 拡材に金をかけるな
普通に仕事をしとれば、拡張員は拡材に金をかける必要はない。拡材は販売所が用意するものやからや。拡張員は、販売所の指示により、決められた拡材の上限までの使用を許される。
良く客に渡す拡材の程度はと聞かれるが、新聞各社、各販売所、各地域によって違うし、同じ販売所であっても、その日によって変わる場合もある。客によっても違う。もっと言えば、拡張員によっても違う。
せやから、一概には言えん。拡材の景品の種類もまちまちやしな。
その客がどうしても欲しいと思えば、販売所はある程度の拡材は奮発する。こういうのは、他新聞と張り合うた時やな。
販売所にとって、ええ拡張員と悪い拡張員が当然おる。ええ拡張員というのは、不良カードがなく、カードを良う上げ、拡材を押さえ、客受けのええ者なんかやな。
悪いのは今更、説明するまでもないやろ。不良カードを頻発して客とのトラブルの多い奴や。てんぷらなんか上げる拡張員は販売所にとっては最悪な奴や。客だけやなしに販売所も平気で騙すからな。
当然、販売所はええ拡張員を大事にする。情報もええのを知らせる、拡材も特別なものを渡すこともある。拡張員にとって、客だけやなく、販売所の人間、特にトップに気に入られるようにした方が何かと得や。
拡張員の中で、一番勘違いが多いのが、拡張は拡材でするものやと思うてることや。せやから、どうしても拡張の時には拡材の話が中心になる。多く拡材を渡せば、契約が取れると思うとる。
確かに、拡材の多寡で左右される客もおる。ここが肝心で「左右される客もおる」という捉え方をしとかんとあかん。裏を返せば、影響されん客もおるということや。
それが、分からん人間は誰に対しても同じアプローチをかける。拡材に影響されん客は、いくら拡材を奮発しようが、なかなか乗って来ん。
その拡張員は、それが分からんから、拡材に不満があると思い仕方なく、拡材の提示を上げる。上限の拡材分を越えることもある。販売所にお伺いを立てても、まず却下されるから自分でその分を負担するようになる。
たまには、それで契約が取れることがある。せやから、その手法を改めようとはせん。契約が上がるんやからな。
せやけど、それは、その拡張員自身の首を絞めることになるんや。一度、そういう手法で癖のついた者は、なかなか低い拡材を渡すことが出来んようになる。
自己負担が当たり前のような感覚になるんや。これでは、儲かるわけがない。下手したら赤字になる。
笑い話みたいやけど、その自己負担分をするために団に借金する奴がおる。団もそんな事情を知っていても知らん顔をする。団にとっては、どんな形であれカードを上げればええんやからな。誰が損をしようと関係ない。
そして、こういう人間は、早いか遅いかの違いだけでいずれパンクする。当たり前やわな。仕事はそこそこ利益を出さな仕事にはならん。
拡張員がボランティアしても誰も喜ばん。サービスして貰うたはずの客にしても、まだ、儲かってるはずやと考える。儲かりもせんのにこれだけ拡材を奮発するわけがないと思う。
このことが、販売所に知れれば、販売所は怒る。勝手なことをしたというだけやなしに、店の信用を落としたと考える経営者も当然おる。しかも、ことはそれだけでは済まん。
過度の景品が、公正取引委員会に発覚したら、摘発されるのは販売所や。
「新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」に違反があると認定されれば景品表示法に基づく法的措置を講じられることもある。
まあ、実際は、ほとんどそんな話は聞かんがな。ワシが、知っとるのは和歌山県で摘発された販売所くらいなもんや。
この法律で摘発されるのは販売所だけや。拡張員が景品のやりすぎで摘発されたり捕まったちゅう話は聞かん。販売所にしたら、とんでもないことや。指示もしてないことで摘発の恐れがあるんやからな。
せやから、このことを重大に考える販売所は、この過度に景品を客に渡す拡張員は出入り禁止という所もある。
もっとも、厳密に言うたら、販売所で提示しとる拡材の上限は、この法律にはほとんど抵触しとるんやけどな。ただ、どことも、ぎりぎり言い逃れ出来る範囲で上限を決めとるということや。
因みに、言い逃れのトップは他のすべての店でもやっとるやないか、と言うのが一番多い。何や交通違反した奴が良う言う台詞やが、公正委員会あたりやと、こんな言い訳でも結構効き目がある。
公正委員会や言うても、多寡の知れてる組織や。人数はそんなにおらん。そういう指摘があれば、その地域の他の販売所も調べなあかん。しかし、実質的に無理や。一軒の店を摘発するのでさえ、その証拠固めに膨大な日数と労力を要するからな。
せやから、実際に摘発される所はよっぽど目立つことをしとる所か、内部告発で証拠の揃うた所くらいのもんや。というて、安心しとっても、ワシは知らんで。
拡張員が摘発されんちゅうても、それなりの制裁は覚悟せなあかん。業界はそれほど甘うはないからな。
客への過度のサービスはいろんな意味で自分自身の首を絞めるということを、拡張員は肝に銘じとかんとあかんということやな。
ここで、やっと、表題の「拡材に金を使うな」の説明が出来る。与えられた拡材の上限内で営業するのが、一番ええが、客によりそうも言えん場合もある。
拡材を多めに渡しても、金をかけんで済む方法がある。これは、ビール券や商品券などの金券はちょっと難しい。その他の景品しか、この方法は適用出来んがな。
地域の激安店を把握する。バッタ商品なんかあったらええ。バッタ商品ちゅうのは、倒産とか売れ残りで困った商品のことや。物によったら、定価の1,2割で買える物も珍しいない。
客にしても、貰える物の出所なんかそれほど気にせんからな。定価が高ければ高いほどええ。10000円の物でも1000円で買えることもある。客に渡す時は、10000円もするもんなんですよ、と言う。元はそうやから、嘘とは違う。
しかし、これを知っとる人間は少ない。理由はいろいろあるが、一番は、景品なんか適当な物を渡せばええくらいにしか考えとらん者が多いからや。貰う方のことなんか考えん。
もう一歩、上を目差そうと思うたら、それではあかん。人間がいろいろおるということは、客もいろいろやということや。好みや欲しい物も人によって当然違う。
拡材で釣れる人間にしてもいろいろおる。ビール券や洗剤なんか見向きもせん客も多い。せやから言うて何も欲しいないのかというたら違う。欲しい物は必ず何かある。
それを見つけることを考える。見つけることが出来れば、ワシが常に言うてる意味が分かるはずや。
拡材は欲しい人間に欲しい物を欲しい時に用意しとくもんや、ということがな。
それも、金をかけたらあかん。これまでの説明で十分かって貰えたと思うが、そういう店を探すいうのもすぐには無理かも知れん。そこで誰でも可能な、てっとり早い方法を教える。
100円ショップを利用するんや。100円ショップという所は単に安物だけを集めて売ってるだけやない。結構、徹底した市場調査と購買客を調べた上で商品を並べとる。
つまり、客の好みを熟知しとる業種や。それも、同じ系列の店舗でも地域により並ぶ商品は違うという徹底ぶりや。これを利用する。
断るまでもないやろと思うけど、客の近所の100円ショップで適当に見つけた物を持って行っても、全く効果ないとは言わんけど、バレる恐れはあるで。この拡張員、100円ショップで売ってる物を持って来よったてな。
せやから、せめてそんな不細工なことをなくすためにも、他の地域で、ターゲットの客の住む100円ショップで売ってないような物を揃えた方がええやろな。
そして、こういうことをする場合は必ず、オリジナルティをアピールすることや。こんなサービスは私にしか出来ませんよ、というふうにな。
何にしても、創意工夫を忘れたらあかん。それを常に考えてれば、客の言動にも注意を払うようになるから、自然に情報も入るようになる。断られた客からでも、そういう情報を知ることが出来る。
営業の仕事は、どんなことでも無駄なことはないとワシは常に思うとる。