メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第394回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2015.12.25
■報道の危機……その2 新聞の軽減税率適用は自らの首を絞める?
ある読者から、
メルマガ、いつも楽しく拝見して勉強させていただいてます。
先日、「与党、軽減税率導入を盛り込んだ2016年度税制改正大綱を正式決定」というテレビニュースを見ましたが、対象品目の中には、「日々または週2日以上発行される新聞」とありました。
何日かにかけて自民党と公明党の間で、食品に関する軽減税率導入ばかりが報道されていたので、いきなりこんな話が出ていて、びっくりしています。
確か何年か前、メルマガで新聞の軽減税率導入について話しておられたことがありましたね。
そこで、質問なのですが、この報道についてゲンさんとハカセさんは、どのように思われますか?
ネット上のコメントを見ると新聞に対するバッシングのようなものばかり目につきます。
新聞の軽減税率導入は、新聞業界の働きかけによるもののようですが、批判が大きくなれば自らの首を絞める結果にはなりませんか?
いつでもよろしいので、ご意見を聞かせていただけたらと思っています。
という質問が寄せられた。
この方の言われる「与党、軽減税率導入を盛り込んだ2016年度税制改正大綱を正式決定」についての報道というのは、
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00311395.html より引用
与党、軽減税率導入を盛り込んだ2016年度税制改正大綱を正式決定
自民党は16日、消費税の軽減税率導入を盛り込んだ、2016年度の税制改正大綱を了承し、その後、自民・公明両党は、大綱を正式決定した。
自民党は16日、党内で了承をはかる、臨時総務会を開いた。
一部議員から批判も上がったが、税制改正大綱は、全会一致で了承した。
自民党の村上衆院議員は「こんなことをやっていったらさ、財政も金融もね、党も崩壊していくよ」と述べた。
自民党の二階総務会長は「腹の中では、何を考えているか、そんなのわかりませんよ。しかし、私は、このことで党内一致して決着した、こう理解をしておりますし、その通りだと思っています」と述べた。
自公両党はこのあと、与党政策責任者会議を開き、大綱を正式に決定した。
対象品目は、外食・酒類を除く食料品全般と、「日々または週2日以上発行される新聞」で、財源の規模は1兆円となる。
「書籍」、「出版物」の扱いは、引き続き検討するとしている。
一方、自民党の宮沢税調会長は、「外食の線引きは、大変難しい作業」としていて、あいまいな部分が残っていることを認めた。
自民党の宮沢税調会長は「細部を詰める作業というのを、これから国会に提出するまで、1カ月ちょっとの間でやらなければいけないので、非常に難しい作業だと思います」と述べた。
自公両党は、財源確保の見通しや、あいまいな対象品目の線引きについて、2016年1月中旬までに明確にする方針。
民主党の枝野幹事長は「決定的な問題がいくつもあると、指摘をせざるを得ません。最大の問題は、1兆円という巨額の財源について、全く示さずに、軽減税率の導入を決めたということであります」と述べた。
一方、民主党の枝野幹事長は、1月からの通常国会で、財源問題など徹底追及する考えを示した。
のことやと思う。
また『確か何年か前、メルマガで新聞の軽減税率導入について話しておられたことがありましたね』というのは、2013年2月1日発行の『第243回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞の実像その7……日本新聞協会の軽減税率を求める声明の矛盾とは』、
2013年11月1日発行の『第282回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞の実情 その8……愚かなる消費税増税対策について』(注1.巻末参考ページ参照)のいずれか、または両方のことやろうと思う。
これらの中に、2013年1月15日に発表された「日本新聞協会の軽減税率を求める声明」について触れた部分がある。
軽減税率を求める声明
2013年1月15日
http://www.pressnet.or.jp/statement/130116_2234.html より引用
日本新聞協会は、新聞、書籍、雑誌には消費税の軽減税率を適用するよう求める。
知識への課税強化は国の力を衰退させかねないほか、欧州では民主主義を支える公共財として新聞などの活字媒体には課税しないという共通認識がある。
民主主義社会の健全な発展と国民生活に寄与する新聞を、全国どこでも容易に購読できる環境を維持することが重要である。
付加価値税の標準税率が二桁を超える欧州でも、新聞に対する税率は、英国、ベルギー、デンマーク、ノルウェーはゼロ税率となっているほか、フランス2.1%、スペイン・イタリア4%、ドイツ7%など、主要国では一桁に抑えられている。
新聞協会が昨年11月に実施した調査でも、8割を超える国民が軽減税率の導入を求め、そのうち4分の3が新聞や書籍にも軽減税率を適用するよう望んでいる。
また、国民に知識、教養を普及する役割を果たしている書籍、雑誌、電子媒体にも同様の措置をとることが望ましい。
というものや。
これについて当時、
この記事にあるとおり欧州では『新聞などの活字媒体には課税しないという共通認識がある』というのは確かやが、せやからと言うて、今回の消費税増税時には新聞、書籍、雑誌については軽減税率として現状のまま据え置いてくれと日本新聞協会が主張するのは、少しおかしいと思う。
いかにも虫が良すぎる。
なぜなら、日本新聞協会は、消費税が初めて導入された1989年(税率3%)時はおろか、増税されて税率が5%に引き上げられた1997年でさえ、今回のような主張はせず、他の商品と同じように新聞1部について、しっかりと税金分が付加されて販売されていたからや。
それは宅配分についても同じで、税込み価格として上乗せされて消費税分を購読者から徴収していた。
『欧州では民主主義を支える公共財として新聞などの活字媒体には課税しないという共通認識がある』と言うのであれば、消費税導入時の段階で、そう言うべきやなかったのかと思う。
しかし、日本新聞協会は結果として大きな反対もせず、消費税導入を受け入れていたのが実情や。
それが、今回に限って『軽減税率を求める声明』とやらを発表しとる。
新聞代が上がると、『知識への課税強化』になり、新聞の購読者が減って『国の力を衰退させかねない』からやという理屈らしい。
消費税導入時、および税率が5%に増税された時には声明を発してまでの反対はせず、今回に限って新聞だけは欧州などの各国がそうやから同じように「税率を据え置いて軽減税率にしくれ」というのは明らかに矛盾しとるのやないかと思う。
まあ、それがなぜかというのは分からんでもないがな。
消費税が初めて導入された1989年当時、また増税されて税率が5%に引き上げられた1997年頃は、まだ新聞の購読部数は高水準で維持されており、消費税分の値上げがあったところで部数に、さほどの影響はないやろうと見ていたからやと思われる。
また実際にも直接的な影響は少なく見えた。その時に極端な部数減は起きていなかったさかいな。
ところが現在は、すべての新聞社で年を追う毎に購読部数の減少が顕著になっている。
そんな時に、これまでのように消費増税分の上乗せをすれば、例えその額が僅かではあっても、さらに部数の減少は避けられん状況にあると、新聞各社は考えたのやろうと思う。
と苦言を呈した。
その後、新聞紙面での大々的な「新聞の軽減税率を求める」ためのキャンペーンを行い、日本新聞協会は200名以上にも上る自民党与党の国会議員に働きかけて賛同を得、政府関係者、および地方議員に至るまで、その訴えを徹底させた。
さらに全国の新聞販売店主らにも、そうするよう檄を飛ばして、実際にも全国各地で決起集会なるものが行われた。
その代表的なものが、2013年7月30日に東京都千代田区にある『如水会館』で開かれた日本新聞販売協会の『第62回通常総会』やと思う。
その集会には全国の販売店店主約350人が参加したという。
その「総会スローガン」の一つに『文字・活字文化の中軸である新聞に消費税5%の軽減税率を!』というのを掲げていた。
その折りの日本新聞販売協会の会長が訓辞で、新聞の消費税の軽減税率適用に向けた活動について、
いよいよ決戦の時が近づいている。日販協(日本新聞販売協会)は自民党・公明党の新聞販売懇話会と共に2年間に渡り活動を展開してきた。
8月早々、軽減税率を求める国会議員の署名が提出される。議員の力を得て、何としても5%の軽減税率実現に取り組む。
と述べている。
過去、日本新聞協会、および日本新聞販売協会は、『新聞特殊指定の見直し問題』や『特定商取引に関する法律の改正法問題』といった危機的な状況にあった時でさえ、ここまでの働きかけはしてなかった。
それくらい力を入れたことやったが、周知のように軽減税率そのものが見送られ8%の消費税増税が実施されたことにより新聞代も8%になって、すべては水泡に帰してしまった。
そう思われたが、そうではなかった。
今回『対象品目は、外食・酒類を除く食料品全般と、「日々または週2日以上発行される新聞」』といった具合に、軽減税率への衆目が食料品に集まっていた最中、いつの間にか何の注目も浴びてなかった『新聞』が、どさくさ紛れにちゃっかりと軽減税率の対象品目になっていたさかいな。
それについては、過去の働きかけが功を奏したからやと考えられる。無駄ではなかったと。
ただ、この読者が『何日かにかけて自民党と公明党の間で、食品に関する軽減税率導入に関係することばかり報道していたので、いきなりこんな話が出ていて、びっくりしています』と言われているのが多くの人たちの偽らざる気持ちやないかと思う。
当然のようにネット上では、このことに対する批判が沸騰しとる。
12月18日の任期満了で政界引退を表明した大阪市の橋下徹市長などは自身のツイッターで、
こんなところで宅配率の高い新聞だけが軽減税率の適用。そんなバカな!と多くの国民は感じていると思うが、これが政治の現実。読売新聞の完勝だね。
読売新聞は徹底して政権を支えてきた。その見返りで軽減税率を勝ち取った。
と言うておられる。
残念ながら、その見立ては正しいと言うしかない。
他にもネット上には、
「公共性を言うのなら水道料金や電気代については議論すらされないまま税率10%になるのに、新聞についてだけ軽減税率が適用されたことに対して強い違和感を覚える」
「新聞だけ軽減税率が適用されれば、新聞は政府側にならざるを得ない。軽減税率がプレッシャーをかける道具になりかねない」
「民主主義や活字文化など、新聞がいくらもっともらしい理屈を付けても、結局は政治の駆け引きに使われ、経営優先だと思われてしまう。公器と言いつつ『新聞ありき』に誘導していいのか」
「新聞は必需品じゃないのに軽減税率を適用するのはおかしい」
「知らぬ間に『新聞』も軽減税率の対象にする自公と、敢えて記事に書かない新聞各社。それがあるために、わざと食品関係の線引きだけをクローズアップさせて混乱してるように見せかけたのだろう」
「新聞がありなら衣食住に関するすべてのものも軽減税率にすべき」
と批判が尽きない。
また、新聞やマスコミが、この件にあまり触れていないことについて、
「軽減税率は低所得者層のためと言うが、低所得者層はとっくに新聞の購読は止めているから関係ない」
「テレビのコメンテーターは、当たり障りないコメントに終始して、新聞の軽減税率適用について触れようともしていない」
「メディアはどこも都合のいい情報しか流さない。不利になることには触れたくないのだろう」
「安倍政権とマスコミ癒着の成果が軽減税率」
といった感じのものばかりが続く。
まあ、それらについても反論できんくらい的を射ているものが多いがな。
本来なら、この読者が『新聞の軽減税率導入は、新聞業界の働きかけによるもののようですが、批判が大きくなれば自らの首を絞める結果にはなりませんか?』と言われておられるようなことになりかねんし、購読客も減るで、と言いたいところやが、今の状況は少し違うように思う。
ネットを重視している新聞に批判的な人たち、新聞に見切りを付けている人たちで新聞に嫌気が差している人たちで本当に新聞を必要としていないケースでは、とっくに新聞の購読を止めている。
その上に、今尚、新聞を購読している人たちが、これらのネット上の批判コメントを見て購読を止めるかとなると、その可能性はゼロではないやろうが、極端に少ないと考える。
それは、その人たちの多くは高齢者の方が多く、ネット上の新聞批判コメントなど見ないからや。
ネットはテレビやラジオと違い、見なければ、そこにアクセスしなければ分からない。勝手に耳目に入ってくるということはない。分からなければ、ないのと同じという理屈や。
そして、どんなに批判しようと、それでも新聞を購読する必要のある人たちも世の中には多い。企業人、知識人、文化人と呼ばれる人たちが、そうや。
新聞には、あらゆる情報が集約している。そのため、仕事や勉強には絶対に欠かせないものとして捉えられ信じている人が多いわけや。
ハカセなども、そうで、新聞について書くことが多いさかい、新聞から離れることなどできんわけや。まあ、そのつもりもないらしいが。
また、新聞記事の内容をせっせと批判する人たちも新聞を読まないわけにはいかないというジレンマがある。いくら嫌いでも読まずに批判するわけにはいかんさかいな。
そういう人に限って新聞記事を隅から隅まで読んでいるわけや。新聞を批判している人たちが、実は一番熱心な新聞読者やという矛盾を抱えている。
ハカセ曰く、「そういう人たちにとって購読する新聞代が僅かでも安く抑えられるのなら、それだけ有り難いと考えるのではないでしょうか」ということや。
一般論としては、反対、あるいは批判していても新聞を買うとなれば、少しでも安い方が良いと考えるのは仕方のないことやと思う。
よって、今回いくら批判されようと、今まで散々批判され尽くしてきて実際に部数も減り切った状態では、今後に関して言えば、今までとあまり変わりはないのやないかというのがワシの意見や。
このことで、さらなる部数減に陥ることは考え辛いと。
もちろん、政府と癒着して軽減税率を獲得するような姑息なことをせず、新聞本来の使命に立ち返り、権力者たちを監視するという姿勢に徹すれば、今より新聞の購読部数が増える、回復するやろうとは思うが、残念ながら、今の新聞各社のトップには、そこまでの意気はなさそうや。
それからすると、今の新聞経営者陣たちは政府と癒着しつつ、また利用されつつ存続する道を選び続けるのやろうと思う。本当に新聞が必要でないと言われるような時代になるまで。
それでは新聞の未来ということに関しては何の希望も持てんわな。
歴史上、こういった閉塞状態になった時には革命をを起こす人物が現れるけーすが多いもんやが、今の状態で、それを望んでも詮ないと思う。
どんな状況であれ、現状をしっかり認識して把握する以外にはない。
せやから、これからの新聞購読者は、新聞記事の内容を鵜呑みにするのやなく、その裏に隠された事情、理由を読み解く力が求められるということやな。
難しく面倒臭い時代になったと言えなくもないが、その分、購読者たちが賢くなれるのであれば、それはそれで新聞も反面教師として役に立つのやないかとは考えるがな。
こういう話はいくらしても尽きないが、今後とも何かある毎に、また読者からの疑問や質問がある毎に話したいと思う。
今年は、これが最後のメルマガということもあり、それぞれの方にとって来年こそは、良い年でありますようにと祈願して終わらせて頂く。
参考ページ
注1.第243回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞の実像その7……日本新聞協会の軽減税率を求める声明の矛盾とは
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-243.html
第282回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞の実情 その8……愚かなる消費税増税対策について
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-282.html
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