拡張員になる者
更新2013. 1.19
昔はスポーツ新聞などの求人欄に応募すれば比較的簡単に拡張員になれた。しかし、今は殆ど、新聞紙面での拡張員の求人広告などは出ていない。出ても稀や。
現在、最も多いのがネット上の求人サイトや。それでも業界全体に拡張員の募集が減少傾向にあるさかい、かなりの狭き門になりつつある。
犯罪歴のある者、他団で不義理、多くは金の持ち逃げ、借金の踏み倒しをした者などは調べれば、すぐにそれと分かるシステムが出来上がっているさかい、それらが発覚すればまず雇うことはない。
ワシが拡張員を始めた20年ほど前は、誰でも雇っていたという印象が強かったがな。
行き場に困って食い詰めた者も、雇う段には住民票や保証人の提示を求められるのが普通で、また応募者も求人難のご時世ということもあり、昔に比べて多くなり倍率も高いというから、そう簡単には雇って貰えなくなったと考えてた方がええ。
これは拡張員を雇うと、「新聞セールス・インフォメーション・センター(旧、新聞セールス近代化センター)」への登録が義務づけられているためやと思う。
身元の不確かな者を雇って問題を起こすと、その拡張団はまずい立場になるということで、より慎重になっていると。
極端な例では、ある新聞社の子会社系列の新聞拡張団などは大学の新卒者を中心に募集しとるというケースまである。それも結構難しい入社試験があり、かなりの倍率になっていると聞く。
昔を知る業界関係者からすれば、まさに隔世の感があると言える。
もちろん、中には昔ながらの形態を維持している拡張団も存在している。数は少なくなったがな。
他の団で弾かれた、辞めた拡張員を雇っている新聞拡張団もあるが、それらは個人的なツテ、コネといったケースが多く、一般の求人広告には殆ど載らないという。
そういう新聞拡張団には昔ながらの悪質な拡張員が集まっている場合が多い。
もっとも、そのやり方を変えない限り、近い将来、そういう新聞拡張団は淘汰されていくと思うがな。
ちなみに拡張員には、フルコミ制と固定給プラス歩合給制がある。
フルコミ制というのは獲得した契約数に応じた報奨金が支払われる制度で、身分的にはその新聞拡張団から業務委託された「自営業者」という立場になる。
このシステムを採用している拡張団は今は少ない。
現在は、固定給プラス歩合給制が主体で、こちらは拡張団との社員契約となり、一般の会社員と待遇面では殆ど変わらない。現在は、こちらが主流になっている。
更新2005.9.30
最近、それも、この1年ほどの間に、拡張員になろうとする人間に変化が見えるようになった。別に、生活に困ってとか行き場がなくてなる者ばかりやなくなってきとる。
そういう兆候は、長引く不況ということもあり、以前から多少はあった。確かに、職探しは深刻になってきとる。それでも、この仕事を選ぶのに、仕事がなかなか見つからんという理由だけでなる者は少なかった。
そういう意味で、この業界は、まだまだ特殊な部類とされとったんやが、最近は、普通のサラリーマンからの転身組というのが目立つようになった。
以前までは、住む場所すらない者が大半を占めとったが、そういうサラリーマンからの転身組は、普通に自宅から通って団に出社しとる。
そういうことも、このサイトに寄せられる多くの拡張員の人たちからのメールで分かった。団によれば、その大半が自宅からの通勤ということもあるという。
昔から、この世界にどっぷり浸かっとるワシらにしたら、ちょっと、考えられんことや。ワシらの所では、まだ、団の社宅住まいというのが圧倒的に多いがな。
ただ、継続性というのは、やはり難しいようや。すぐ辞める者が多いという。大抵は、まさか、こんなきつい仕事やとは思うてなかったと嘆く。
単なる営業会社の一つと思うて来る者もおる。団の雰囲気も、昔とは様変わりしとる所が多いから、面接などで一度来たくらいでは分からんかも知れんからな。
今は、スーツにネクタイ姿の人間の方が多いくらいやし、団によれば、それを義務づけとる所すらある。普通のオフィスに見える所もざらにある。
因みに、販売店にしても、スーツとネクタイ着用をしてなかったら、拡張員の入店を拒否する所すらある。変われば変わるもんやと思う。
もっとも、これは、イメージという面では、ええことや。この状態が続けば、ワシの願う普通の仕事の一つとして認知される日も、そう遠い話やないかも知れへんからな。
ただ、これも、このサイトを続けとって分かったことやが、一部のある地域では、未だに昔ながらの悪質な拡張員が幅を利かしとるということも事実のようや。
そこでは、旧態依然とした拡張形態か、もしくは、昔よりひどくすらなったような所もあると聞く。
このサイトへの苦情相談も、その地域からのものが圧倒的に多い。関東地域の一部とだけ言うておこう。
インターネット上での拡張員に対する苦情も、その地域が圧倒的に多いはずや。その地域に住む人にとってみれば、当然やが、他の地域のことは分からん。
その地域にいとる拡張員が、業界全体のように思い込む。そういう悪質な拡張員と関われば、苦情が増えるのは無理のないことやと思う。
当然、そういう人からのインターネット上での発信も過激になり、それに終始する。不幸なことやと思う。そういう人たちに、いくら他では、真面目な拡張員がいとるんやでと、強調しても信じられることやないやろからな。
そうかと言うて、ワシらにそういう拡張員の存在をどうにかするというようなことはできん。そんな、力もないしな。そういう連中に対抗するアドバイスをするくらいが精一杯や。
しかし、いずれという表現しかできんが、そういう拡張員の存在が長続きはせんということだけは確かやと思うけどな。
since.2004.7 3
圧倒的に多いのがスポーツ新聞の求人欄に応募して来る者や。ワシも昔、これでこの道に入った。大抵は数行の小さな広告や。
『新聞営業社員募集。年齢経験不問。月収50万以上可能。日払い可。衣食住完備。○○新聞○○企画』
まあ、だいたいこんな感じや。こんな求人広告に釣られて来る者は、切羽詰まってという場合が多い。職がなかなか見つからんくらいでは、こういう、募集広告には普通の人間が飛びつくというのは少ない。
もっとも、新聞営業というのがどんなものか良う知らん者も中にはおるから、営業社員という響きだけで応募してくる人間も実際にいとるけどな。
しかし、いずれにしても一番多いのが、借金で夜逃げ寸前か、住む所を追い出され後はホームレスしかしゃあないなという一文無しや。最後の頼みの綱や思うて電話する。
すると、応対に出た人間は思いの外、親切というか親身なんや。金はあるのか、なければ当面の生活費は都合するし、個室のマンションもあり、家具や家電などの設備もあると言う。これで、ほとんどの人間が「お世話になります」となる。
こういう連中は、ルーズで甘いのが多いが、総じて真面目や。土壇場まで頑張って借金を何とかしようと、あがくからそうなってしまう。
借金みたいなもん、自己破産したらええやないかと思うやろけど、自己破産するのにも何十万円とかかる。そんな金があれば急場しのぎの返済に回すんや。
ワシもそうやったから、よう分かるけど、借金に追い立てられとる内は、目の前に迫った返済の期日しか眼中にない。パンクするまで、止まらん。
冷静に考えれば、自分の能力でどの程度の借金になったらあかんか見当はつくはずやけど、こういう時は悲しいかなそれが出来んのや。
銀行やサラ金程度の借金なら、確かに自己破産もええやろ。せやけど、街金や闇金に手を出したら終わりや。特に、闇金はもともと法律外のところで生きとる。
自己破産した奴から金を回収するのは当たり前やと思うとるから、法律なんか糞食らえの連中や。取り立ては尋常やない。
そんな連中から逃げて来る者も多い。団はどんな事情があろうとかまわん。むしろ、団はわけありの奴の方がええようや。せやから、本当にいろんな奴がおる。
拡張員は元ヤクザ、前科者、犯罪者というのがイメージとして浮かぶやろけど、こういう奴は意外に思うかも知れんが、いても少ない。
ヤクザは、はっきり言うて拡張員をカスやと思うとるから、よほどのことでもない限りなる奴はおらん。特にワシの知ってる関西ではな。
ヤクザ者もどきというのは多い。どこそこの大組織の組長と知り合いやとか、兄弟分の仲やとか言うて吹聴する輩や。
そんな奴が、100人おったら99人までほら吹きや。はったりかましてんとやっていけん気弱な連中や。まあ、例えそうやとしても、相手にせん方が普通は無難やと思うけどな。
前科者はおる。ワシが知っとるのは、殺人で刑務所に入った奴とか、詐欺、横領、窃盗の前歴者や。
奴らは確かにどうしようもない悪もおるが、ちょっとしたはずみでそうなっただけの普通の人間もおる。ただ、世間はそんな人間を受け入れるほど懐が深くはないっちゅうことや。
現在進行形の犯罪者。とりわけ指名手配の出とるような奴は少ないと思う。拡張の仕事は不特定地域で不特定多数の人間と出会う仕事や。そういう奴からすれば、危険は大き過ぎるやろ。
この仕事をしとると、普通に人生を歩くというのがいかに難しいかが良う分かる。これを興味本位で見とる、あんたに言うが、現在が普通の人生やと思えるんやったら、その現在を大事にせなあかんで。
ひょっとすると、あんたが普通やと感じとる瞬間が、あんたの人生で最高の時かも知れへんのやから。
もっとも、最近は、こういうことがすべて当て嵌まるとは言えんようにはなって来たがな。それが、ええか、悪いかというのは人それぞれやろうけど、拡張員もサラリーマン化して来た。
やってる人間自体もアウトロー的な考えや気分の者も少なくなった。昔は、どうせワシらは拡張員やと開き直っとったもんやがな。
新聞の拡張団は新聞の勧誘をして収入を得るだけと思うやろけど、それだけやない。誰でも雇うのはそれだけの理由がある。
分かり易く言うと、団にとっては拡張員そのものが客になるちゅうことや。団はマンションやアパートを用意しとる言うたが、何もただで住まわせるわけやない。しっかり、金は取る。
団によって格差はあるが、だいたい家賃、光熱費の実費の倍くらいが相場やろと思う。物件を持たずに大家になっとるようなもんや。
団はリスクも考えに入れとる。夜逃げして来たような奴らやから、銭にならんと思うたらすぐ他へ行こうと考えるかも知れん。
事実、1,2日で逃げ出す奴も結構おる。そのままやったら赤字や。前貸ししてたら踏み倒されることになる。
それを防ぐためにほとんどの団には班長制がある。新人を教育という名目でその班長に預けて責任をもたす。逃げ出せば、その新人の負債は班長が被る。
1日でも1ヶ月分の家賃と光熱費をその班長から取る。当然、班長は新人には気をつける。逃げられたら事や。
余分な話やけど班長にもメリットはある。部下が上げたカード(契約)料の5〜10パーセントくらいのマージンが貰える。それがええか悪いかはその班長の力次第や。
1ヶ月もこの仕事をするとだいたい、その人間の力や向き不向きが分かる。慣れて朱に交わって来るのもこの頃や。
人間、ええことには染まりにくいが、悪い方にはすぐ染まる。そこそこの仕事が出来るのは、この悪い方に染まる方や。仕事に即効性を求める人間は特にそうなりやすい。
ワシの言う、そこそこ仕事が出来るいうのは、赤字を出さん程度にカード料を上げるということや。この仕事で赤字を出さんいうのも結構、難しいんや。
儲けてるのもおるけど、そんな奴でも借金の返済で手元には金のない奴が多い。拡張員で金を持っとるのは、一部の幹部か団長くらいのもんや。
ここで団は人間の選別にかかる。赤字を出さん奴は拡張員として戦力になるから大事に扱う。団は新聞社からの1ヶ月の契約ノルマを守らんとやっていけんから必死や。
そこで団は戦力になる思うた奴は早い時期に借金させるなりして取り込もうとする。
これはあくまでも噂と思うて聞いて欲しいんやが、この1ヶ月過ぎ頃になると、そこそこ出来る奴のところに闇金なんかの借金取りが現れることがある。
逃げられんと思うたその団員は団長に泣きつく。闇金も暴力団みたいなややこしいのが多いが、拡張団の団長も暴力団組織とつながりがある者も多い。
面白いことに、ややこしい奴とややこしい奴の話は簡単につくんや。借金も全額やのうてそこそこの金額に落ち着くようや。結果、団長が借金の肩代わりをして一件落着や。
もう、分かったと思うが、団長が闇金を呼び寄せとる場合があるんや。この世界に飛び込む素人は、普通、履歴書に本名を書く。
以前の名前と住所、生年月日が分かれば、その人間の借金履歴なんか簡単に分かる。闇金の世界もネットワークは強力や。夜逃げして行きそうな業界とも当然、つながっとる。
何も知らん、この団員は団長に感謝する。借金が闇金から団に替わっただけなんやが、本人にとっては気分が天と地ほども違う。
団は貴重な戦力と収入源を得たことになる。因みに、借金もほとんどが減額しとるが、そんなことは教えん。団員は元の借金のままや。
もっとも、もうこれ以後の利息はなくなっとるし、追い込みもないがな。もう一度言うが、あくまでも噂やけどな。
サラ金の借金なんかは、ほとんど心配いらん。住民票を移さん限り居所が知れることはない。
せやけど、中には前の郵便局で住所移転転送届けを出しとる者がおる。身内と連絡取りたいちゅうことらしいけど、これは簡単に居場所がバレる。
しかし、団にとってはこんなもの屁でもない。団は、踏み倒し方を教える。5年もすれば、時効になるとか言うてな。
団が守ったるから安心せえ、と言えばその気になる。実際、法律に縛られる金融屋は弱い。銭のない奴からは何も取れんからや。
給料の差し押さえにしたかて、拡張員の給料を差し押さえたいう話は聞いたことない。金融屋もアホやない。相手が拡張員になったと知ればあきらめよる。
それでも中には、しつこい所もあると聞く。それに負けてその借金の返済をしとる者もおる。最終的には、拡張員に限らずその人間次第ということになるんやがな。払わん奴は何を言うても払わん。
まあ、形式的に請求書の送付や裁判の脅しくらいはするやろうけど、そんな奴は借金が払えんで刑務所に行くことはないから、どうということはないと平気な顔や。
仕事の出来ん奴はどうなるか。拡張員で仕事の出来んというのは、真面目な奴が多い。なかなか、染まらんのや。
どんな仕事でもそうやが、慣れんとしんどい。特に拡張員には何でもやるという気概がないと務まらん。
団は、こういう人間は商品として扱う。売り飛ばす。人身売買やなんて穏やかやないなと思うやろけど、本人にとってはこの方が救いになる。売り飛ばし先は、新聞の販売所や。
金のない小さな販売所ほど、団から従業員の斡旋をしてもらっとる。販売所にすれば、わけありの人間は安く使えるから有り難いんや。求人募集の費用も浮くしな。
それに加えて、仕事の出来ん奴は必ず団に赤字を出しとるから、その赤字の肩代わりを販売所にさせる。詳しい金額は人によって違うが、団とすれば人間ひとりしばらく使えばそこそこの金になるということや。
団は、こいつは使い物にならんと思うたら、金なんか貸さん。仕事が出来んと日銭も入らんから、食うにも困る。
そんな生活が1ヶ月以上続いて、あんたのために言うんやけど、という言葉に助かったと思うてその話に飛びつくという仕組みや。
例え、給料は安うても、一度でも拡張員の生活を味おうた比較的真面目な人間は、めしが食えると言うだけでも喜んで仕事をする。
それに、こういう人間は例え、闇金に借金があると知れても団は教えたりはせん。その闇金から問い合わせがあったとしても知らん顔や。下手に乗り込まれたら金にならんからな。
団に見込まれるのと売り飛ばされるのと、どっちがええかちゅうのは、よう分からんけど、ワシの知る限り、売り飛ばされて這い上がった人間はおる。今は立派な会社の社長や。
反対に、団に見込まれた奴で大成したいうのは知らん。もっとも、団長になったというのが、大成というのなら、そういうのはおる。それ以外で拡張員で有名になった奴いうのはろくな者やない。
これ以外で、拡張員になるのは、団の縁故関係で来る人間や。ほとんどが、極道者か拡張員のベテランが多い。どっちにしてもあまり程度ええ連中やない。まあ、中にはましな奴もおるけど少ないわな。
この縁故関係というのを、ちょっと説明しとく。多くは、団長の人脈ということやが、その中には金銭トレードというのも結構ある。
何やプロ野球みたいやなと思うかも知れんが、拡張のフルコミッションという給料形態は、ある意味、そのプロ野球選手と似たようなもんや。成績を上げな金にならんし、馘首になる。他の球団にトレードということもある。
拡張員の場合も似たことがある。能力のある人間を団同士で売り買いすることがある。トレードや。しかし、野球と違い不要な人間やと思うても簡単に馘首に出来んという場合がある。
その拡張員に借金があるような場合や。そういう奴もトレードの対象になる。むしろ、こういう奴の方が多い。団内でトラブルを起こしたか、不良カードの多発でその地域におられんようになったというケースや。
ワシがろくでもないと言うのはそんな奴がいとるからや。もちろん、何度も言うがすべてやないで。中には、こんな奴が拡張員しとるのかと思うほどの凄い人間もおるからな。
いずれにしても、拡張員のほとんどが、自ら招いたとはいえ、過去に辛い経験や傷を持っとる者が多いというのは確かや。元は普通の人間が大半なんや。
くどいようやが、人間、ちょっと踏み外したらいろんな所へ転がるということを知っておいて欲しい。もっとも、そこで踏み止まって這い上がるかどうかは、その人間次第やけどな。
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